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■オープニング本文 ●年貢の納めどき 朱藩の田舎も、稲刈りの季節。稲穂をついばむ雀と格闘しながら、刈り入れをする。 白梅の里で生まれ育った少年は、両親の言葉に驚いた。 「えっ、僕もお父さんと、行っていいの!?」 「遊びに行くんじゃない。良助(りょうすけ)も、来年は元服だ。そろそろ、家の仕事を覚えて貰わないと困る」 「良助は、うちの跡取りよ。分かるわね?」 「‥‥うん」 今年の六月、少年の姉は村の幼なじみの青年の家に嫁いでいった。二人しかいない姉弟の家は、人手が少なくなる。 後継ぎの少年に、両親が期待をかけるのも、仕方ない。 翌朝。少年は姉に、昨夜の両親とのやりとりを話した。新婚の姉夫婦は、縁側で話しを聞く。 「僕‥‥清兄ちゃんみたいに、年貢を納めに行けるかな?」 「大丈夫さ、俺が親父と行ったのは十二のときだ」 「良助、気をつけて行くのよ。私の分まで、お父さんたちの事、お願いね」 「うん、姉ちゃん。僕、跡取りだもん、頑張るよ」 新妻となった姉の呼びかけに、少年は大きく頷く。義理の兄となった青年が、初めて年貢を納めたのは、少年よりも一つ年下のとき。少年は自信を持つ。 「‥‥良助、帰ってきたら少し旅に出るか? 誕生日祝いだ、海産祭(かいさんまつり)に連れて行ってやる」 「それって、安州の?」 「ああ! うちの両親と、良助の両親も一緒にな。おりん、たまには親孝行したいだろ?」 「まあ‥‥ありがとう、清君♪」 「花梨姉ちゃんは、来ないの?」 「花梨か? まあ、親戚の親睦を深めるためなら、親父も反対しないだろう」 二年間、朱藩中を旅した青年は、国内の事情にも詳しい。首都、安州で行われる市の名を口にした。 十月二十四日は、少年の誕生日。農作業を終えた人々は、祭はやしに心を踊らせる。 ●猫族一家は魚が好き 「ぜひとも、朱藩の海産物をお願いします!」 折れ猫耳の新人ギルド員は、ギルドの受付から身を乗り出す。虎猫しっぽが、激しく振られた。 「あ、取り乱して、すみません。いつもは、旅泰の皆さんが朱藩で買い付けた魚を、旅泰市で手に入れていたのですが‥‥値段が高いんです。僕の家は育ち盛りの子供が、三人‥‥いや四人も居ますから」 受付で体勢を直した四人兄妹の長兄は、遠くを見やる。三人の弟妹に加えて、飼っている子猫又を思い浮かべた。 猫族一家は、去年までは泰の帝都の旅泰市で、朱藩の海の幸を手に入れていた。海の幸は朱藩の方が質がよく、新人ギルド員の実家のある泰国からも、旅泰が買い付けにくる。 二つの国を経由しただけあり、美味しいが高級となる品々。予算が限られた中では、成長期の子供たちがお腹いっぱい食べられない。 「‥‥たまには、贅沢をさせてやりたいんです。現地なら、たくさん買えると思いますから」 さんまを初めとする魚介類は、猫族一家の好物。全員が大喜びするのは、間違いない。 「まだ、家族には内緒です。現地へ連れて行ったら、鉄砲玉になりますよ!」 もし海産祭に行けば、山ほどの好物を前に、猫族一家が大人しいはずがない。子供たちは、確実に迷子になる。だから、新人ギルド員は、わざわざ依頼にしたのだ。 「お金の糸目はつけません。皆さんが良いと思ったものを、買ってきて下さい」 新人ギルド員は故郷の両親にも、世話になっているベテランギルド員にも、海産物を贈るつもりだった。弟妹全員が開拓になった今年は、家計に余裕ができた。親孝行や恩返しがしたい。 「あ、さんまは十六貫(約60kg)お願いします。実家の分もあわせて、冬の保存食にするんです」 精霊門を通れば、神楽の都と朱藩の首都は隣町。とにかく安州のギルドまで運べば、生物の魚介類も新鮮なままで届けられるはず。 新人ギルド員から財布を預かり、開拓者は旅立つ。目指すは、朱藩の首都の安州、海産祭へ。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
水月(ia2566)
10歳・女・吟
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
フェンリエッタ(ib0018)
18歳・女・シ
真名(ib1222)
17歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フィアールカ(ib7742)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●ギルドにて 「‥‥よ、良かった。人数集まって、本当に良かった‥‥」 礼野 真夢紀(ia1144)は、胸元に手を当てて、目を閉じる。 「人数集まらないと依頼達成出来ないもの‥‥」 真夢紀の言い分はもっともで、新人ギルド員は平謝り。 「秋刀魚十六貫を始めとする海産物の買い付けですか、それはまたすごい量で‥‥」 人を疑うことが苦手で、物事の裏を読むことも不得意。菊池 志郎(ia5584)は、依頼内容を何度も確認しなおす。 「大好物が山程おうちに届いたら‥‥ふふっ、皆の大喜びの様子が目に浮かびますね♪」 「ずいぶんと数多いけど‥‥この季節の秋刀魚は脂のってて美味しいのよね♪」 フェンリエッタ(ib0018)は張り切って、拳を握る。真名(ib1222)も思い浮かべて。猫族一家の子供たちの為にも、良い物を買い付けて来なくては。 「猫族ご一家、本当に魚が好きなのですね」 赤い髪紐を揺らしながら、しみじみと呟く志郎。とある依頼で、家族の誕生日はネギトロでお祝いしたと聞いた。 「今回は大荷物になりそうですので、荷車は借りられませんか?」 「あ、荷車だけじゃ駄目です、魚と氷を入れる箱も用意しないと」 利穏(ia9760)は新人ギルド員に掛け合う。黒髪が揺れ、あまよみした真夢紀は小首を傾げつつ、口を開いた。 横で聞いていたベテランギルド員が、一式貸してくれることになった。木箱の中には、おがくずや、わらも敷き詰められる。 「任せといて! いいお魚、たくさん買い付けてくるからね!」 元気で勝気で強気。リィムナ・ピサレット(ib5201)は腕を回し、やる気満々。 「お祭りも楽しみだなー! ジルべリア生まれのあたしには、初めて見る品もいっぱいあるんじゃないかな!」 両親を早くに亡くした四人姉妹の次女は、家族を幸せにしたい一心で、一人で天儀へ渡ってきた。 「秋は美味しいお祭りが多くて、とても嬉しいの♪」 水月(ia2566)も頷く。いつもこんな依頼ばかりだったら、幸せなのに。 「海の、お祭。海のお魚、沢山? 真名は何のお魚が好き?」 フィアールカ(ib7742)は小首を傾げる。 「せっかくなんだし、自分で使う分も秋刀魚や香辛料を仕入れておきたいわ」 おっとり瞬きするフィアールに、真名は片目を閉じてみせる。 「これでも大所帯の寮で副調理長を担う身よ。五行朱雀寮の陰陽師、真名。腕の見せどころよね」 陰陽寮朱雀の寮生が作った、紅符「図南ノ翼」を見せた。 「保存食は糠秋刀魚の事で良いんですかね? なら同じ海から作った塩が良いでしょうから、お塩購入ですね♪」 物語を読むのが大好きな、真夢紀。依頼を受けてない時は、勉強を兼ね、図書館に行く事も多い。 他国の料理にも関心が高かった。さらりと、泰の猫族の習慣を言ってみせる。 「荷車が無くならない様に交代で見ておけば良いかな? そのまま待ち合わせ場所になると、思う」 しっぽを振るフィアールカの隣で、水月は安州のギルド員を無言で見上げる。「荷車は必要になるまで、ギルドで預かって」と、母親譲りの翠瞳は訴えていた。 「逸れた場合や、自由時間後の集合場所を決めておいた方が良さそうね」 フェンリエッタの提案で、広場入口の焼きそば屋台が選ばれた。 「天儀の海の幸を、こんなにたくさん見るのは初めて! 知識を増やすのも楽しみの一つ!」 新鮮な魚介類も勿論美味しくて好きだけど‥‥乾物類にも興味深々。我慢しきれず、リィムナは祭会場に向かって、駆け出した。 「お魚は好きだけど、森で食べるのは川や泉のお魚だから。海のお魚がこんなに沢山有るのは不思議」 「ね、フィアちゃん。ちょっと買い物していこうか?」 イカを不思議そうにじぃっと見るフィアールカを引っ張り、真名は連れだって歩いていく。迷子にならない様に、手を繋いだ。 ●縁日de出会い 「贈り物ならお相手のご家族の人数に合った量のある物、普段手に入り難い物、酒の肴・‥を併せてとか?」 フェンリエッタの台詞に、さっそく行動開始。志郎と利穏は、屋台の前で立ち止まった。 「フェンリエッタさんが『サケやイクラも良い時期』だと教えてくれましたし、目移りしてしまいます」 しゃがみこみ、色々な魚を前にうなる志郎。値段を筆記用具でメモに取る利穏と一緒に、店員にいろいろ相談する。 「乾物は、塩の他に昆布、ワカメ、カツオ節、干し桜エビ辺りでしょうか‥‥いくつかお店を見比べておきましょう」 「‥‥さんま以外のお店も見ている? い、いえ、これは市場全体の視察の一環なのですっ!」 お祭慣れしていない志郎は、物珍しく辺りを眺める。屋台に目移りする利穏は、聞かれもしないのに大慌てで説明。 「おや、良助さんも、このお祭りにいらっしゃったのですか」 「白梅の里の皆さん? 夏の終わりには、お世話になりました」 志郎の後ろに、見覚えのある顔を見つけた。利穏と志郎の声かけに相手が振り返る。里の一行から、驚きの声が発せられた。 「あっ! 良ちゃんたちだ! お久しぶり!」 大きく手を振るリィムナも、利穏や志郎と一緒にいる里の人々を見つけた。 「尚武君や、一家の方々もお元気ですか?」 「尚武君、元気?」 「‥‥尚ちゃんは、ギルド員さんの息子だよね?」 利穏と良助の質問が重なり、首を傾げる面々。リィムナは眉を寄せて考え込む。 「そうです。荷車の上で飛びはねていて、怒られていましたよ」 出発前に荷車を貸りに行った志郎の報告に、里の人々とリィムナは笑いこけた。不安の裏返しか他人と接する時、矢鱈と畏まった態度をとるはずの利穏も。 「皆様相変わらずで、何だか安心しました」 「よければ、ご一緒に舞台見物でも行きませんか?」 利穏は涙をぬぐいながら、変わらぬ里の人に安堵する。志郎の提案で、一行は歩き始めた。 旅は道連れ、祭りも道連れ。真名とフィアールカも一行と出会い、会話に花が咲く。 「‥‥良助さんは誕生日なのですか、おめでとうございます」 白梅の里の近況を聞いていた志郎は、「何か良いものを差し上げられれば」と考えたが、思いつかない。 「‥‥と、とりあえず屋台の美味しいもの食べましょうか」 「‥そっか、良ちゃん誕生日なんだね。おめでとう! 今日はお互い、いっぱい楽しもうね!」 志郎から渡された焼きそばを、リィムナと良助は頬張る。 「わたしの大好きな人、アルーシュ、お祝いを言たかったけど‥‥どうしても来られないから、かわりに」 フィアールカの引き摺りそうな程大きなドルイドケープは、「とってもだいじな、大すきな人のもの」。 「良助さん、お誕生日おめでとう。梅の花が咲くのを、とっても楽しみにしているから」 フィアールカが差し出した贈り物は、琥珀の勾玉。おまもりの、代わりに。 「簪とかで、花の可愛いのがあれば、おそろいを二人分買って、一つはフィアちゃんにあげたいな」 屋台で悩む真名の言葉に「朱藩は、真珠と珊瑚の装飾品が人気」と、新婚夫婦は言う。新妻の頭には、真珠をあしらった白梅の簪が揺れていた。 「そう言えば、ニクスとユリアって言う友達から、会うことがあれば『おめでとう』って伝えて欲しいと言われているわ」 真名の友人も、フィアールカの友人も、二年越しの恋の花を咲かせてくれた恩人たち。懐かしみ、嬉しそうに新婚夫婦は見つめ合う。 「‥‥仲が良すぎて、夏みたいだったと、二人に言っておくわね♪」 真名はこっそり?恋愛真っ只中。冷やかし混じりの言葉に、新婚夫婦は頬を赤らめる。 「馴れ初めなんかも聞いてみたいところよ」 何気ない真名の言葉。山で行方不明になって助けられた清太郎は、顔が上げられない。 りんの「あの一件には、とても感謝しています」と、幸せそうな笑みが印象的だった。 ●舞台ショッキング ホタテの塩焼き、焼きそば、べっ甲飴。水月は目に付いた食べ物を、次々とほおばって行く。 祭りの人出が多い。フェンリエッタは壁になったり、見失わないよう注意していた。 「新鮮なのは黒目がくっきりして、体に艶があり、腹部が張ってるもので‥‥」 貝や、珊瑚や、真珠で彩られた色鮮やかな水姫の髪飾りは、海産祭に良く似合う。屋台の前で、真夢紀はさんまを指差した。 地元は主産業こそ農業だが、海に囲まれた島。水揚げされたばかりの海産物を、目にする機会は多い。 「口先や尾の付け根が黄色いものは、脂が良い‥‥のね?」 フェンリエッタの復唱に、水月は商品を凝視する。祭りを楽しみながら、同時に品揃えや質、お値段の下見中。 「買い付けに付いて来てるの〜」 水月が告げると、試食用の焼きスルメをご馳走になる。じっくりと噛みしめ、飲み込んだ。 食いしん坊で舌が肥えている娘と、見た目とは裏腹にかなりの大食娘は、大きな花丸を空に描く。御満足の印。 腹八分目になったころ。三人は拍手の降る舞台の前に辿りついた。 「あれ、どこかギルドで見た事がある顔の様な‥‥?」 「舞台に飛び入り参加されるようですね」 伊達眼鏡を押し上げ、利穏は首をひねる。志郎も目を凝らし、ようやく正体が判明した。 「私も、お歌を披露するの」 嬉しそうに舞台に駆け上がったのは、不言実行がモットーのちび‥‥もとい、可愛らしい女の子の水月。紡ぎだされる言葉は、広場を渡る秋風に乗った。 屋台めぐりを思い浮かべながら、美味しいお魚を題材にした即興曲。水月の歌を聞いていた真夢紀はマネして、繰り返し部分を口ずさむ。明るい歌声が観客の中に広がっていった。 「舞台からお歌が聞こえてくると、ちょっと胸がきゅぅっと痛くなるの」 「大丈夫だよ、フィアちゃん」 フィアールカは優しい真名の手を、ぎゅっと握った。歌い終わり、水月はちょこんと頭を下げる。 フィアールカの一番ききたい歌は聞こえないけど、綺麗な歌や音楽は龍しっぽを振って、拍手。急に舞台の上が恥ずかしくなったのか、水月は右手の精霊札「フラワーシャワー」を掲げた。 舞台の裏の木々がざわめき、紅葉が舞い散る。木葉隠は、水月の姿を覆い隠した。 水月の紅葉が消えた頃、舞台の人物は入れ替わっていた。広げた扇子「紅葉」で、顔を半分隠したフェンリエッタ。 「しばし、お付き合いくださいね」 親愛と信頼を語る翠の瞳は、観客を一望する。一歩踏み出したかと思うと、紅蓮紅葉を纏わせた扇子を振るった。 紅い燐光を纏い、紅葉のような燐光が散り乱れる。ときに軽快に、ときにたおやかに。控え目でいて、大胆奔放。 フェンリエッタ・クロエ・アジュールの舞いは、天儀の人々を魅了した。 「其の一芸、見事の一言に尽きますね。惜しみ無い称賛と拍手を送りたいです」 立て続けの舞台に利穏は、盛んに拍手する。 「これもご縁なので、一緒に楽しみましょう♪」 舞台から降りて来たフェンリエッタは、仲間を見つけていた。一緒にいた白梅の里の人々から拍手を受け、照れながら挨拶を交わす。 「おお、あれが飛び入りOKの舞台かー! よーし‥‥レッツ飛び入りっ!」 皆の舞台を見ていると、心が騒ぐ。リィムナはまるごとねこまたに着替え、ブレスレットベルを持つと舞台によじ登った。 「にゃにゃーん! あたしはねこまただにゃー! ねこまたはお魚大好きにゃ!」 舞台の上で鈴を鳴らし、最前列の真夢紀の料理用と実家に贈る物をのぞきこむ。ダメっと怒られ、悲しそうにうな垂れた。 可哀相になった真夢紀は、かつお節を差し出す。リィムナ猫又は、嬉しそうに鈴を鳴らして受けとった。 「海産祭最高にゃ! 嬉しくて踊っちゃうにゃー!」 かつお節片手にステップを踏み始める、リィムナ。満面の笑みで、手拍子の中を踊り抜いた。 ●勝利を手に 新人ギルド員の贈り先の人々は、野菜の豊富な理穴出身と泰南部の猫族の住人。 「私が気になっているのは、秋鮭とイクラ。ご飯のお供にぴったり、鮭とばも美味しいですよねえ」 「鮭は、川でとれるけど、海に旅に出るって‥‥知ってる」 「今の旬は、さんまの他にはサバや、イワシもおいしいですよね」 「新鮮なもの優先ならイクラ‥‥ハラコで買って、網で解して、醤油付けにする方が量確保出来ないですか?」 フェンリエッタとフィアールカと志郎と真夢紀は、お勉強も兼ねて、楽しくお話。 「なるほど、そう言う方法もあるのね。参考にさせていただくわ」 副調理委員長の真名は、料理好きだが大の辛党で作る料理は大抵紅く染まる。醤油付けのお土産は、危険な香りがしないでもない。 「保存は干魚、干しアワビとかね! ‥‥流石にアンチョビは無いかな? あたしは好きなんだけど」 「アンチョビ? ‥‥ああ、塩漬のカタクチイワシですね」 リィムナも自己主張を忘れない、利穏は手を打って答えた。 「‥‥大量購入で値引き交渉も、し易いかな?」 「沢山買ったら、何かおまけして貰えますかって聞いてみる」 目星をつけた屋台の前で、真夢紀は皆に相談する。龍しっぽを振り決意する、フィアールカ。龍翼もぱさりと。 「あの、ちょっとでもおまけして貰えると大助かりなのですが‥‥食べ盛りの子達が、美味しいお魚を楽しみにしてるんです!」 「あっちの店はこれくらいだったわよ?」 「双子だから、いっぱい食べるの!」 必死で値切り中のフェンリエッタの後ろで、真名も可愛く値切るよう努力。リィムナは、口裏を合わせたように即座に反応した。 水月は、交渉事が苦手。三人の後ろから、瞳をちょっと潤ませながら「お願いなの〜」視線を送る。 「出来ればお値打ち価格で且つ、活きの良いさんまを!」 利穏も一緒にお願い攻撃。開拓者たちの頭の中にあったのは、猫族一家の双子の弟妹。真実を告げているが、主語が不足していた。 「双子かい、若いのに大変だね。もうちょっと入れてやれ」 「え? あっ、私の子供じゃなくて‥‥!」 店主は、慌てるフェンリエッタの言葉を聞いていない。隣にいた妻に合図をする。 「ありがとう」 フィアールカは笑顔を一杯浮かべる。おまけして貰えるお呪い。 「おまけだよ、しっかり育ててあげな!」 「はあ‥‥、ありがとうございます」 若旦那と勘違いされた志郎は、悩みつつもにぼしの袋を受け取った。 白梅の里の人々と別れ、開拓者たちは神楽の都に帰還する。 「猫族ご一家、満足してくださると嬉しいのですが」 「フローズで氷を作って、お手伝いしたよ!」 「がんばったの〜」 志郎が引っ張ってきた荷車を、リィムナは指差した。真夢紀と共に、氷霊結を使った水月もご報告。 「ぬかさんまの件で御世話になりましたので、個人的にお土産を買ってきました」 「海産物に限定しない収穫祭だから♪」 貝柱や小魚の干物の詰め合わせを利穏は差し出した。フェンリエッタは、気に入ったべっ甲飴を。 「はい、カツオのタタキです」 猫族一家と拠点の皆へのお土産。真夢紀は、さっそく腕を振る舞う。 「えっと、良助‥‥に、おいわいを言えた」 「私も良いお土産話ができたわ」 フィアールカと真名は、にっこりと笑い合った。 |