穴掘り屋、求む
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/20 19:51



■オープニング本文

●秋は実りの季節。
 泰の南部の山里も、秋の訪れを示していた。日が落ちるのが早く、風を少し肌寒く感じる。
 庭の木の葉っぱも、少しずつ落ち葉に変化していた。せせらぎの聞こえる小川も冷たい。
 新しい小屋が建つ畑のあぜ道で唸る中年男が一人。腕組みをして考え込んでいたが、呟きをもらした。
「‥‥掘り返しきれん、助っ人を呼ぶか」
 二つの畑には、一面のサツマイモが実る。豊作は間違いない。
 春の農機具を置く小屋の解体時に、開拓者が作ってくれた肥やしの効果は抜群だった。


「泰の山里で、イモ掘りの手伝いをお願いします。春先に小屋の解体作業を頼んできた依頼人でして、また開拓者の力を借りたいそうです」
 開拓者ギルド本部の受付で、新人ギルド員から説明を受ける。折れ猫耳は、どこか羨ましそうな視線で見ていた。
「すべてのイモ掘りの収穫を二日以内に終われば、後日、御飯をご馳走して貰えるそうです。なんと旅泰市(りょたいいち)の食材を、使ってくれるんだそうですよ!」
 旅泰市。泰国の帝都、朱春で秋の九月二十日から十一月十日の間だけ開かれる市場。
 野菜類、肉を問わず、山の乾物が多く扱われている。人がごった返す様子は、祭りに近い。
「えっ、旅泰市を知らないんですか!? 栗の屋台が有名なんですけど‥‥僕はこれから美味しくなる朽葉蟹(上海蟹)が一番食べたいですね」
 泰生まれの猫族の新人ギルド員、虎猫しっぽを振りかざして教えてくれた。握り拳つきの演説である。
 一応、ご馳走の内容を尋ねてみる。
「えーと、これから旬を迎える朽葉蟹(上海蟹の事)の入った中華スープ、名物の栗屋台で仕入れた栗入りの栗ご飯。
それから天儀にあわせた秋刀魚の塩焼き、マツタケなど入ったキノコの蒸し焼き。デザートは飲茶と焼き芋とのことですね」
 依頼人はイモ掘りが早く終われば、この旅泰市でイモを売りさばく算段。イモが売れれば、お土産に食材を買うから、ついでにご馳走してくれるようだ。
「‥‥いわゆる出来高制ですね。イモ掘りを急ぐのも大切ですけど、傷つけないようにしないと、商品としての価値が下がりますから。頑張ってください!」
 カニが食べたい新人ギルド員の激励を受けつつ、神楽の都から泰に向かうのだった。



■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
からす(ia6525
13歳・女・弓
玄間 北斗(ib0342
25歳・男・シ
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
狸寝入りの平五郎(ib6026
42歳・男・志


■リプレイ本文

●れっつ穴掘り
「やっほー!おイモを掘りに来たよ! 楽しくいっぱい掘ろうね! ‥‥きゅーきょくのくわ?」
「せや、究極の鍬。かつて伝説の百姓と呼ばれた耕作が、使っていたといわれている一品なんやで」
 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は小首を傾げる。鍬を肩に担いだ天津疾也(ia0019)は説明しつつ、にやりと笑った。
「それにうまい料理もつくとなれば、俄然やる気出るわな」
 イモが地面に埋まっているので、うっかり踏んづけたりしないように。疾也は慎重に見定め、鍬で掘り進めだした。
「農業は重労働だ、倒れないように気を付けよう」
 どこぞの田舎のおばあちゃんと見間違う、からす(ia6525)の姿。もんぺに手袋と麦わら帽子を被る。農具を借りて、準備万端。
 一日で終わる範囲を予測し、イモの葉を鎌で刈り始める。
「秋の収穫のお手伝いなのだぁ〜」
 玄間 北斗(ib0342)は大きく背伸びをして、畑の隅に茣蓙(ござ)を敷く。石清水に、甘味のキャンディボックス、塩気と疲れ予防の梅干を置いて休憩所も完備された。
「いてて‥‥前の依頼でちょい無茶しちまって、腰が少し痛えぜ。重傷になる程じゃなかったが」
 眉をしかめつつ、狸寝入りの平五郎(ib6026)は腰をさする。イモ掘りに来た、ただのおっさん開拓者には、なかなか厳しい依頼になる予感。
「そうですか、あの時の肥しが役に立ったのですね。美味しい秋の味覚を作り出す元になったのであれば、喜ばしい事です」
 依頼人との再会に、Kyrie(ib5916)は会話の花を咲かせていた。畑の隅の小屋は真新しく、風雨に耐えられる作り。
 お礼を言う中年親父の、新しい願いを叶えるため、作業用ツナギ姿のKyrieは尽力することを誓う。


「いいか? 蔓や葉を鎌で切る時は、後で引っ張りやすい様に充分に蔓に余裕を残して切るんだぞ」
 平五郎の号令のもと、からすがツルを切っていく。後をKyrieが歩き、切った葉やツルをカゴに入れた。
「掘りだす時も、力任せに引っ張ったんじゃ折角のイモが折れちまうかもしれねえ、イモの脇を掘っておいてから引っ張ればすっぽり抜けるからな、面倒でもそうした方がいいんだ」
 北斗の声を守りつつ。茎だけになったイモを疾也の鍬が追いかけ、掘り起こす。
「取れたイモは、他の依頼で考えた、矢盾橇に載せてびゅーんと運ぶよ!」
 気合一番、矢盾に荒縄を結び付けて地面に置いた。そりを思いつくのは「雪の妖精」を意味する名前、ルゥミ。
 畑に入って、はしゃいで走り回りたいけど我慢する。泥遊びしにきたんじゃないと言い聞かせて。
「分担、分担なのだ〜」
 簡易ソリにカゴを乗せ、イモを丁寧に北斗が詰め込んでいく。
「ザジ、イモは特に丁寧に扱いなさい、いいですね?」
 Kyrieの声に土偶ゴーレムの†Za≠ZiE†は、おおように頷くしぐさ。おっかなびっくり動く手は、コツをつかむと早い早い。疲れ知らずな身体は、倉庫や売り場へ行く大八車に選別したイモを準備していく。
 湿気はイモの大敵、腐るもと。イモを確認し、湿っているものは天日干しに回す。乾いたものを指定された倉庫に送る。
 刈り取ったイモつるは、北斗の提案で物干し竿につられた。良く干せば、保存食の下準になるはず。


 少しずつ休憩をして、交代で体力回復に努めていた。でも、お昼ごはんは皆で食べたほうが美味いだろうと、依頼人が呼び集める。
「疲れた体には心地いいでしょうし」
 Kyrieは氷霊結で作った氷を少しずつ砕く、冷たい飲み物を飲んで欲しい。からすが事前に作り置きした、水だし緑茶「陽香」に添えられた。
「お昼は、おにぎりが良いだろう。如何かな?」
 春の陽光を受けたお茶の匂いが立ち上る。匂いを楽しみながら、からすは食べ応えばっちりの殿様おにぎりを差し出した。
「ガキん頃を思い出していけねえ」
 最高級鮭を使った大きなおにぎりを、平五郎は平らげて親指の米粒をなめた。
「終わったら美味い飯を鱈腹食いてえし、気張っていくぜ!」
「最低、手袋は必要。土落としが楽になるよ」
 からすの視線は、薄手の皮手袋をはめかけた平五郎から、相棒のもふらに向かう。
「頼むよ」
『了解でありますー』
 お腹一杯のもふらは、目を瞬かせつつ返事をした。取れたイモは土を落して、もふらにも畑の外へ運んでもらっていた。
「早く丁寧に進めていこうなのだぁ〜」
「うん、イモ掘りは頑張るよ!」
 畑にいたカエルと戯れていたルゥミは、虫を止めて観察していた。手拭「竹林」を鉢巻きにした北斗は、早くも畑から呼んでいる。汗で体が冷えないように、着替えも済んでいた。
「しかしイモ掘りか‥‥ガキの時分、お袋の手伝いでよく野良仕事したのを思い出すぜ。あのまま百姓続けてたら、また違った人生になったんだろうがな‥‥」
 ルゥミを見ながら平五郎は呟く。過去も迷いも、全て断ち切るために開拓者の道を選んだ。後悔はしていないが、つい空を仰いでしまった。
「最低でも、一日で畑の半分は終わるように進めていくで。二日で全部終わらせるんや」
 川の水で顔を洗っていた疾也は仲間の方を向き、次いで依頼人に声をかけた。
「無事二日で収穫し終えたら、旅泰市での販売も手伝うで。実家は商家や、俺に任しとき」
 商家の三男坊の青い瞳は、不敵に輝く。幼い頃から実家の商売を目にして生きてきた、生粋の商売人。金にがめつく、利を求めるのはお手の物。


●感謝の心
「神に感謝しないとね」
 からすは依頼人に断ると、家に上がり込む。神棚に収穫したイモを、酒「もふ殺し」と共に捧げた。
「土地神様、秋神様、豊穣神様、数多の精霊様。今回沢山の命の糧が実りました事をご報告致します。
願わくは次もこの地が豊穣に恵まれます事を。かしこみかしこみ申し上げます」
「かしこみかしこみまおす」
 からすの祝詞と共に、巫女のKyrieも頭をたれる。自然はヒトではどうしようもない事がある、感謝の気持ちが大事。


 その翌朝、神様はお願いを受け入れてくれたようだ。畑のイモが減っている。丁寧に倉庫に敷き詰められたイモと、干されたツルが増えていた。
「精霊さんでも、お手伝いしてくれたのかなぁ〜なのだ」
『知らないであります』
『ケ セラ セラ』
 日暮れや明け方の薄暗い時間帯も、そっと作業を進めていた北斗。とぼける精霊、もふらの足は泥まみれ。首を傾ける土偶ゴーレムの服にも、乾ききっていない泥がついていた。
「本当に神様かもしれねえな」
 眠そうな目をこする依頼人に、平五郎は声をかける。義侠心ある面倒見のいい男は、苦労を微塵も見せない若者の背中に向かって笑った。
「この分やったら、一日かからんと終りそうやで」
「旅泰市、行けるかな? 行けるよね♪」
 額に手をあてて、畑を見渡す疾也はにやりと笑う。ルゥミは期待と喜びで、飛びはねた。


●旅泰市場の攻防戦
「そこの兄ちゃん! どや、このイモ」
 銭の風吹く屋台。疾也は商売人らしく、威勢のいい声でお客を呼び込む。
「今は芋がうまい時期やからなあ。ほっくほくの湯気が出る焼き芋は、甘くてたまらんで」
「ほくほくぽっこり、笑顔がほころぶ美味しいお芋なのだぁ〜」
 口八丁手八丁、疾也はイモの魅力を語って、どんどん売りさばく。たれたぬきの着ぐるみ姿の北斗も、客寄せパンダならぬ客寄せたぬきも、面白おかしくお芋を紹介。
「農家の方々の、ホクホクにこにこ笑顔を沢山見れる一番の時期なのだ」
 人々の幸せを願い、のほほ〜んとした優しい微笑を浮かべた北斗は、積極的にスキンシップを図る。
 イモを手渡し、注意を惹くたれたぬきは、子供達が大好きであった。むろん綺麗な女性も。
「料理の品数を増やすために、先に買い出しにいきますね」
『こう、ご期待♪』
 Kyrieは一足先に屋台をはなれ、旅泰市場へ足を向ける。イモ入りカゴを背負った†Za≠ZiE†は、始めてしゃべった。
 土偶ゴーレムの道化服に負けず、踊るような足取りで、二人は消えて行く。泰でも、巨大な市場ならば、二人の求める食材も売っているはずだ。


 からすとルゥミを伴い、イモ入りのカゴを背負った平五郎も旅泰市場へ繰り出す。屋台のカニを前に、ルゥミは立ち止まった。
「朽葉蟹って食べた事ないから、どんな味なんだろうね?」
「イモを売るのが先だ。銭が無いと買えないぞ、ほれカニは後回しだ」
「‥‥きっと美味しいんだろうな」
 平五郎が促すも、ルゥミは屋台の前に座り込んでしまった。ひたすら、足を動かすカニを見つめる。
「浮舟の分のイモは、できるだけ私たちが売っておくよ」
 落ち着き払ったからすは見上げる。後をついてきたもふらの背中のカゴには、まだイモが半分残っていた。
「しゃーないか、カニは高いから見るだけだぞ?」
「うん。夕方までに、集合場所に戻っていれば良いよね」
「これが買う食材? 海産物はこの近辺に集まっているから、下見をしておこう」
 大袈裟にため息を付いた平五郎は、しゃがんでルゥミと視線を合わせる。料理を手伝う予定のからすは、平五郎の覚え書きをのぞいた。
 二人を残して、平五郎は市場の奥に消える。ルゥミとからすを待つもふらは、あくびをした。
 イモ一束の値段を書いた紙を、からすはもふらのカゴに張り付ける。ルゥミの提案で、反対側に買う予定の食材一覧も。
 これで売り物の値段や、下見する食材を忘れまい。安心したルゥミは、食材の底値を調べるからすと、カニを売る屋台に視線を戻した。


「値切ったんかい、ようやったな!」
「大漁なのだ〜」
「えっへん、あたい毎日練習してるんだから!」
 ルゥミは胸をはって、疾也と北斗を出迎える。何を練習しているのか、今日は聞くまい。
「一、二‥‥朽葉蟹は六で。さんまも二十か、ガキ共やるじゃないか」
「屋台を覗いていたら、いつの間にかこうなったのだよ」
 平五郎は、戻ってきたもふらの背中のカゴを覗きこんだ。万屋湯呑のお茶を飲みながら、からすは妙に落ち着いて答えた。
 元一家を構える親分だった平五郎と対等に話せるのも、からすが子供の容姿とは不釣り合いな雰囲気を持つからかもしれない。
「私はサツマイモを蒸したものを潰し、コロッケを作りましょう。甘くて美味しんですよ?」
 貴族然とした端正な容貌のジルべリア人青年は、調理場に向かう。小麦粉、パン粉など、ジルべリアの揚げ物料理に必要な物を持ってきた。
 用意した材料を使いサツマイモカラッと油で揚げる。Kyrieの説明に、皆の顔がほころんだ。


●料理人、とぶ?
 依頼人の畑は豊作。もふらだけでは間に合わず、後で依頼人の要望で他の朋友の力も借りて市場へ運んでいった。
 協力してくれた朋友たちにも、素晴らしき旬の食材のフルコースが振る舞われる。
 いつもの厚司織に着替えたルゥミの頭からは、石鹸の匂いがする。トントゥの背中から会場を見下ろし、慌てた。
「あー、もうはじまっちゃっているよ!」
 地面に降りると、駆けて行くルゥミの背中。長風呂しすぎと、甲龍は低く鳴いた。
 舌鼓をうって食べる疾也。料理の数々を口にすると、駿龍の背に飛び乗った。疾風にも味見をさせると、興奮でスカイダイブらしきものを披露する。
「うーまーいーぞー!!」
 一緒に飛ぶ疾也の口からも、言葉が形となって目に見えそうな雰囲気。音速を超えた吼える声が、大空に広がる。
 からすはお手伝いして、料理を作った。市場までイモ運びを手伝った浮舟は、漂う匂いに期待をかける。
「うむ」
『美味しいでありますー』
 予想よりも多くなった食材は、食べきれない程のご馳走に。からす少しずつ浮舟にも分け与え、一緒に食べる。もふらはご機嫌で、からすを見上げた。
 たれたぬ忍者の差し出した焼きイモを、月影は喜んだ。ご馳走して貰えるものは、喜んでごちそうになる。
「食べすぎなのだ〜」
 半分わけのつもりだったが、駿龍の大きな口は丸かじり。北斗の悲しげな声に、申し訳なさそうに月影は頭を下げた。
「俺の素人料理なんぞ提供するよりは、食う事に専念した方がよさそうだ」
「皆さんで食べるご馳走は美味しいでしょう♪ まだありますよ」
 Kyrieのあげるコロッケをみながら、平五郎は島暮らしを思い出す。流された島じゃ、ろくな飯が食えなかった。
 †Za≠ZiE†の運ぶ、あげたてコロッケを平五郎は二つ手にする。名無しの駿龍にむかった、放り投げられた。
 みごとに口で受け取る駿龍、食べるとイモの甘みが広がっていく。翼をばたつかせ、大喜び。
 平五郎と駿龍の「ありがてえことだぜ!」という言葉に、Kyrieはほほ笑む。土偶ゴーレムも、軽やかに周り、嬉しそうに態度で示していた。