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■オープニング本文 ●紅い鳥 猫族兄妹の長兄の飼い子猫又は、二番目の虎娘と一緒に、神楽の都の港に来ていた。港には、虎娘の司空 亜祈(iz0234)の朋友の甲龍がいる。 「藤(ふじ)、空の旅は楽しかったかしら?」 「亜祈(あき)はん、最高や! 金(きん)はん、乗せてくれて、おおきに♪」 『あいよ、お安いご用だぜ。それより、時間は良いのかよ?』 虎娘にしっかり抱えられ、猫又の三毛猫しっぽは興奮で踊り狂う。龍は人語を話さない、龍語で告げる。 芸達者な甲龍は、身振りも付けた。虎娘と猫又は野生の勘を頼りに、会話の成立に挑む。 「ご飯を食べる仕草やな? 今夜は、亜祈はんの料理当番やったで」 「そうね、晩ご飯を買って帰らないといけないわ。金、また来るわね」 「金はん、またな」 『おう。俺っちはここに居るから、いつでも来いよ。皆に、よろしくな』 夕飯を買うために港を離れる、白虎しっぽと三毛猫しっぽ。甲龍は翡翠色の翼を振り、桜色の瞳で見送った。 虎娘の趣味の一つは裁縫である。 「まあ、この柄は綺麗ね‥‥紅い鳥だわ♪」 「はよ行かんと、夕方になるで?」 「‥‥分かっているわ」 とある店先で、虎娘は反物に目を奪われる。猫又に促され、渋々、店先から離れた。 「亜祈はん、さっきの反物が欲しかったん?」 「いいえ、あの鳥の刺繍を真似してみたいと思ったのよ」 泰育ちの猫族は、天儀の文化に興味津々。五寸(15cm)ほどの、空舞う鳥が気に入った。 「うちは色が濃すぎると思うで。深紅なんて見つめとったら、目が変になるわ」 猫又は金の目を細め、嫌そうに答えた。 天ぷらを買い、虎娘と猫又は帰路につく。 「助けて、アヤカシだ!」 「アヤカシやって!?」 悲鳴が聞こえた猫又は、全力で駆けだした。少し遅れて、買い物袋をさげた虎娘も続く。 「藤、あそこよ!」 橋の上で、一丈(約3メートル)ほどの蛇のような深紅のアヤカシに、親子が襲われている。 虎娘の斬撃符が放たれ、子供を縛り上げるアヤカシに攻撃した。猫又は爪を振り上げ、アヤカシと子供を切り離す。 遅れてきた虎娘は、子供を背に隠し、アヤカシの前に立ちはだかった。 「なんや、こいつ?」 欄干の上から、アヤカシを威嚇する猫又。ムチのようにうねる、アヤカシのしっぽを避けた。 空中でアヤカシのしっぽは変化する。人の手のようになり、支柱ごと欄干を薙ぎ払った。 衝撃で小さな猫又は吹き飛ばされ、欄干ごと川に落ちた。派手な水柱がたち、橋の上に居た者たちは水しぶきを浴びる。 虎娘と子供は、思わず目を閉じた。アヤカシはゆっくり縮み、橋の向こう側に下がるそぶりを見せる。 白虎しっぽを逆立てた虎娘の手の平で、ツバメが羽ばたいた。人魂は、逃げ去るアヤカシを追う。 「大丈夫ね?」 「うん、急に川からアヤカシが来たんだ」 「分かったわ、早く逃げてね」 子供は無事だ。親子を橋の反対側に逃がし、虎娘は人魂の後を追う。アヤカシは、道を左側に曲がった。人魂も数瞬遅れて、左側に。 焦る。角を曲がった人魂の視界に、アヤカシの姿を見つけられない。虎娘自身も、急いで人魂に続く。 「そんな‥‥嘘でしょう!?」 呆然とする虎娘。道の先は民家が立ち並び、一本道が続くのみ。人も居ないが、アヤカシも居なかった。 「‥‥しかたないわね」 虎娘の人魂は、小さな蚊を形作る。行儀が悪いが、民家の庭先から家の中まで覗き見た。 道の両脇を端々まで走り、すべての家を確かめる。割烹着を着込み、ナスを漬物にする奥様。色鮮やかな着物を纏う孫と、一緒に遊ぶ御隠居もいた。 でも、アヤカシはおらず、人々が襲われている気配もない。平穏そのもの。 『ありゃ、溺れているじゃあねえか!』 海まで流された猫又を、港の甲龍は見つける。翼を広げ、一気に飛び立った。 どんな存在でも、水の中では動きが鈍る。沈みかける猫又を、空に引き上げた。 「‥‥うち、助かったんか? 金はんは、命の恩人や!」 『おう、何があった?』 「えらいことになったんや! 開拓者ギルドに、連れて行ってくれへん?」 『あいよ、俺っちに任せな!』 猫又の訴えに、甲龍は街中のギルドを目指す。 「金はん、待ってや。あそこに降りてくれん?」 『‥‥亜祈殿、晩飯を落としたのかよ』 甲龍は戦いの痕跡の残る、橋の側に降り立つ。猫又は買い物袋をくわえて、引っ張った。 『衣服を捨てるなんざ、無粋な野郎がいたもんだぜ』 川の中で待っていた甲龍は、橋げたに引っかかる着物を見つける。右手を額にやり、大袈裟に悲しむ仕草。 無事に夕食を確保した猫又は、甲龍の背中に飛び乗る。甲龍はかん高く鳴くと、猫又を乗せてギルドに向かって飛び立った。 急ぐ猫又は気付かなかった。流される着物の柄が、さっき見た店先の反物と同じだったことに。そして、紅い鳥が居なかったことに。 ●後手 「兄上、大変よ!」 「がう、姉上です♪」 「あれ? 亜祈も、迎えに来てくれたんだ」 開拓者ギルド本部に、虎娘は駆け込む。のんきに振り返った、新人ギルド員。 ギルド員の長兄の仕事じまいを、双子はしっぽを揺らして待っていた。 『おう、着いたぜ』 「にゃ? 藤しゃん、ずぶぬれなのです」 「喜多はん、アヤカシや!」 甲龍に連れられた猫又も、入口から飛びこむ。虎娘と猫又の報告に、猫族一家の悲鳴がとどろいた。 「至急、アヤカシの出現した現場に向かって下さい」 背筋を伸ばした新人ギルド員の説明を受ける。 「実は最近、府に落ちない行方不明事件が起こっていました」 「藤しゃん、大丈夫です?」 「僕らも何度か、捜索していたのですが、原因不明で‥‥いつも荷物や着物は残されていたんですよね」 「兄上、藤しゃんが寒そうです!」 「でもアヤカシと判明したからには、手を打つ必要があります」 「兄上、兄上!」 「ああ、もう! 藤は毛皮があるから、風邪なんて大丈夫! 第一、濡れた身体に服を着せても、水の冷たさで藤が飛び上がるんだからね」 虎娘の腕からは、ぬれて震える猫又が顔を出す。双子は兄に文句の嵐。腰に手を当てて、新人ギルド員は双子を見下した。 「‥‥賑やかで、ごめんなさいね」 口喧嘩を繰り広げる、猫族兄妹。我が道を行く虎娘でも、ため息が出るほど恥ずかしい。 「アヤカシが逃げ出したから、すぐに私の人魂で追ったのだけど‥‥道を曲がった所で見失ったの。消えた場所は、川沿いの通りを一本入った民家が並ぶ道よ。藤が流された海まで、半町(約500メートル)くらいしかないの」 人々が暮らす家の通りに、アヤカシは消えた。話している間にも、人命が脅かされているかもしれない。「きっと、まだ近くにいるわ。神楽の都の人々の為にも、アヤカシを見つけましょう!」 姿を消すアヤカシ相手では、ギルドの情報を待って居られない。新人ギルド員が頑張っても、情報が何もなかったのだ。白虎しっぽを揺らし、虎娘はやる気満々だった。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●思い出は闇色? 「村雨さん、先だっての依頼ではお互い大変な目に遭いましたねぇ」 「ッアーーーーっ!!! 忌まわしき記憶がああああ〜〜〜‥‥ネギはもう食えないYO」 真剣白葱取り。の巫女は、ドリームストーンを光らせながら、艶然と微笑みを浮かべる。Kyrie(ib5916)の言葉に、村雨 紫狼(ia9073)の意識は、少し遠のいた。 『マスター? どうしたのです?』 『‥‥理解不能』 不思議そうに土偶ゴーレムのミーアは、紫狼に尋ねる。隣で同じく土偶ゴーレムの†Za≠ZiE†(ザジ)は、大げさに首を傾けた。 「亜祈、あき‥‥あー、思い出した。あたしが宿屋に泊っていた時に、暴れてた子かー‥‥」 三門屋つねきちのいる管狐の宝珠をいじりながら、記憶を探っていた鴇ノ宮 風葉(ia0799)。別の事を思い出した。大捕物の時、ほとんど絡まなかったが見知った顔がある。 「私は暴れていません。ちょっと、お灸を据えただけですね」 風葉と視線の合った杉野 九寿重(ib3226)は、しれっと答える。悪党に、素早い峰打ちをしただけだと。 「ここ神楽では蝮の件に引き続いて、何やら不穏に蠢くのが居るみたいですね。この蛇もそうみたいなのですから」 「消えるアヤカシ‥‥つまりミステリーだね!」 九寿重の台詞に、アムルタート(ib6632)は目を輝かせる。妙に期待が込められた口調で。 二人の鷲獅鳥の白虎とイウサールは、港で留守番中。 「神出鬼没のアヤカシか、退治しないとな。先祖代々、受け継がれてきた『焔龍』の名を汚さぬ戦いを!」 かん高く鳴く迅鷹の頭を、焔 龍牙(ia0904)はなでる。汪牙はアヤカシに対する敵対心が、人一倍強い。 「真紅のアヤカシか‥‥、出現すれば目立つだろうし、どこに消えるのか」 被害は出ている、これ以上の犠牲を増やさないことが開拓者の仕事。 「状況はギルドのキタキタマンから聞いてるぜ! ‥‥って嫌がんな、喜多っちよ〜」 紫狼の台詞に、新人ギルド員の喜多の頭を疑問符が占める。嫌がる前に理解に苦しんでいた。 「偶然なのか、何者かの意志が介在しているのか‥‥何れにせよ、これ以上被害者を増やさない為にも、迅速に解決しなくては」 『ケ セラ セラ』 左手は顎に添え、うつむきかげんで、Kyrieは考え込む。肩を大丈夫と†Za≠Zie†は叩いた。 「手が空いてる子が居たら、護衛役で付き合ってくれると助かるんだけど。何せ、あたしはか弱い術士サンですから」 「か弱いとかねーよなあ〜〜。ずっと前んときなんか、俺一人でモンスターの群れに一人で行かせたじゃんかよ〜」 「アヤカシの群れに一人で?」 「まーあん時、俺ってば武器持ってなかったし!」 「‥‥やばい、全っ然記憶にない」 大笑いして昔の依頼を語る紫狼に、風葉は背中を向ける。呟きと表情をごまかした。 「亜祈さん、藤さん、アヤカシ遭遇時の状況を教えて貰えますか? 特徴とか」 Kyrieの質問に、亜祈と藤は記憶を探る。「逃げるときは、太さも長さも攻撃を受けたときの半分以下だった」という二人の証言を合わせると、アヤカシは伸縮自在の様子。 「被害者の親子にも、出現時の状況を、聞いた方がいいか」 龍牙の言葉に、亜祈は表情を曇らせる。アヤカシからの救助は、偶然に過ぎない。居場所は分からなかった。 「じゃあ行くぜ、ミーア子! 俺たちも襲われた親子へ、再度の聞き込みだっ」 『ミーアは覗き趣味の家政婦じゃないのですー!』 なんだかんだと仲がいい、紫狼とミーアは足で稼ぐ。捜査の基本は現場、コレ常識。 親子を探しながら、アヤカシの手掛かりを追うことになった。 「もしかしたら人に化ける可能性も有りますので、適時心眼用います」 九寿重の耳がピンとたった。風葉は、相棒を呼び出す。 隣で大きくあくびをし、三門屋つねきちは住処に引っ込む。会話も、召喚されるのも面倒くさい。 『姿を消すアヤカシとは、どがぁすんね』 再び、風葉は呼び出す。第一声は、顔をなでながら発せられた。事情を聞いた管狐は、風葉の周りを回った。 「とにかく虱潰しね。つねきちも一緒に‥‥あによ?」 『こんな老体使わんと、若ぇ内は地力で何とかするもんじゃきぃ。ほれ、わしは昼寝で忙しいんじゃ』 管狐の召喚による練力切れは、瘴気回収で錬力回復できる風葉には起こりにくい。つねきちはため息をつく、こき使われることは間違いなかった。 「やはり、出現元から勘案して‥‥水辺から調べるのが常道でしょうかね」 主に索敵行動であると心得た九寿重は、練力消耗に留意しつつ歩く。必要以上に突出せず、無理しないように。 「ここから、件の長屋への道筋を辿るべきですかね」 集合場所のアヤカシの出た橋。壊された欄干を眺めながら、九寿重は空を見上げる。羽ばたく白虎が、待機中。 「あれ、こんなのがあったよ?」 橋に引っかかている濡れた布を、アムルタートは見つけた。イウサールの背中から、器用に拾い上げる。 隣で金に乗っていた亜祈は、驚きの声をあげた。店先で見た反物にそっくりである。 「亜祈の見た反物って、これ?」 アムルタートが指差す品に、亜祈が大きく頷く。でも、着物を見た亜祈は、違うと顔を振った。「紅い鳥」が居ないと。 「蛇が現れるのは水辺ですから、調査起点よりそこへ至る道筋‥‥と思いましたが」 「‥‥すまないが、呉服問屋に行ってくれないか?」 注牙が騒ぎ立てた。龍牙の勘は、呉服問屋も妖しいと告げる。Kyrieと紫狼とアムルタートは頷き、川東に向かった。 ●紅い鳥の行方 三門屋つねきちの持つ夢幻鏡が光ったかに見えた。管狐の全身が、一瞬煙と光に包まれる。 「お嬢、辰巳の方角(東南)に、気配を感じるのう」 風葉が視線を動かすと、長屋が立ち並んでいた。無言で管狐を見る。煙管で煙をふかしながら、つねきちも見返していた。 「ありえない場所の気配を探しなさいよ」 「人のいる場所では、無理な相談じゃ。瘴索結界で瘴気の気配を探る方が、良いじゃけん」 「‥‥心眼も、狐の早耳とおなじだぞ?」 面倒くさそうに、答える管狐。風葉は龍牙を無言で見るが、困惑した返事があるのみ。 風葉の身体が、微かな光を発した。民家の中で、瘴索結界に反応するものがある。 合図を受けた亜祈は、人魂をとばして確認。お昼寝する幼子が、ご隠居に見守られていた。亜祈が深紅を見失った通りの、一般人の住む家屋。 「‥‥三つの気配ですか」 念のため九寿重は家屋の中を、塀からのぞき見して探る。亜祈の人魂の情報と食い違った、本来なら気配は孫とご隠居の二つのはず。 この家の中にアヤカシが居るのは、間違いないだろう。亜祈は仲間に伝令を飛ばすために、大空に翔けあがった。 「‥‥これが妖しいな」 深紅のものに注意していた龍牙は、鮮やかな孫の衣装に注目。深紅の鳥が宿る。ご隠居は赤ではなく白い鶴がいたはずだと、首をひねった。 精霊の力を借り、生み出された清浄なる炎。風葉の手から、空中に放り投げた神衣「黄泉」に燃え移る。天儀の神職の最高位の衣服を、業火は焼き尽くすかに見えた。 炎は衣服をなめまわし、消え失せる。神衣は投げた姿のまま、床に落ちた。 「『劫火絢爛』の二つ名は、伊達じゃないのよっ!」 「お嬢、それ自称じゃったろうに‥‥」 胸をはる風葉に、つねきちは突っ込む。焼けた気配のない着物を、不思議そうに手に取るご隠居。どうやら、アヤカシに有効だが、衣類は安全だということを、いぶかしむ相手に証明できたようだ。 孫の着物に業火が灯された。燃え盛る紅い鳥が飛び立ち、全力で身ぶるいする。深紅のアヤカシが現れた。 深紅はしっぽを金づちにして、叩きつけてくる。風葉の首元になびく光が現れ、深紅を避ける。 「つねきち、深遠の知恵よ」 霊杖「カドゥケウス」に、つねきちは宿る。風葉は強化された焔を宿す杖を、深紅に叩き込み、焼き払おうとした。 深紅は細く短くなり、塀の下から道へ移動する。逃げられた! 「汪牙! 上から監視してくれ、何かあれば知らせてくれ!」 「白虎、退路をふさいで下さい」 言われるまでもなく、汪牙は塀を飛び越え上空へ。とげとげ首輪を着けた白虎は威嚇 しながら、深紅の前に立ちはだかった。 龍牙の持つ太刀「阿修羅」には、仏師羅剛が加工した宝珠が埋め込まれている。炎魂 縛武により、紅い炎に包まれた。 「隠れても無駄だ!」 龍牙は低く踏み込むと、深紅のしっぽを叩き斬った。 「上に逃げたぞ、汪牙! お前の力を見せてやれ!」 敵わないと見たか、深紅の鳥は飛び出した。かん高く鳴き、汪牙は羽ばたく。鋭い風が巻き起こり、深紅を切り裂いた。 「諦めるんですね、逃がしませんよ」 深紅が落ちたのは、横踏で避けた九寿重の目の前。北面・仁生における実力有る剣士を輩出する道場宗主の縁戚は、隙を狙い、巻き打ちを使う。黒い刀身の 名刀「ソメイヨシノ」刀で斬りつけてた。 「焔龍 炎縛白梅!」 龍牙の切り札。梅の香りを漂わせながら、炎を纏う太刀はアヤカシを霧散させた。 ●黒い刺繍 「大変だったね〜。私達が退治するから、大丈夫!だから、そのためにちょっと色々教えてくれる?」 アムルタートは、イウサールから飛び降り、親子に話しかける。ヴィヌ・イシュタルは、相手の心を無意識に察して、反応できるようになるスキルだ。 「行方不明事件の起こった地点と、今回の亜祈たんの遭遇した事件か」 行方不明になっている人達の家々を、一軒一軒回るKyrieと紫狼。傍らには、護衛役の†Za≠Zie†もいる。人々が居なくなる直前の行動を、聞いて回った。 「暗躍するったってデカい神楽の街だぜ、‥‥なんで、川の東に偏ってるんだ?」 「あの子、着物が流れてきて、川を覗きこんだらアヤカシが飛び出したって、言ってたよ」 「共通点は、着物‥‥でしょうか。新しい着物を買って喜んでいた、とも言っていましたね」 行方不明者の数と分布を書き込んだ、神楽の都の地図に紫狼は唸る。アムルタートが手を振りつつ戻ってきた。 KYRIEは、ギルドで見せて貰った遺留品を思い出す。行方不明のうち、三人は着物を買っていたらしい。被害者に染物職人もいる。 「着物? すぐに逃げられて、街中にあっても違和感のないモンに擬態してる‥‥例えば紐や‥‥布とかな!」 「アヤカシが布っぽいんだね。上空から赤い模様の服着た人探し、近づいて警戒呼びかけるよ」 羽ばたくイウサールと共に、アムルタートは遠くなる。 『着物、着物、怪しい』 『マスター、ミーアと店を回ってみるのです!』 「私は瘴索結界を怪しい場所で使います」 †Za≠Zie†とミーアは主張する。Kyrieと紫狼は頷き、川東の商店街に足を向けた。 「怪しい場所を、巫女に探ってもらおうぜ☆」 「さんせー♪ がんばって」 「人妖や陰陽師の式にも反応してしまうので、効果は分かりませんよ」 アムルタートと紫狼の応援をうけながら、Kyrieは店先から紅い鳥の消えた呉服問屋の前で瘴索結界を使う。奥から反応があった、アヤカシがいる! 「店の奥に反応があります!」 『†Za≠Zie†、行く』 「ミーア、避難誘導を頼んだぜ!」 『はいなのです』 土偶ゴーレムと共に、Kyrieと紫狼は乗り込む。一般市民を守るために、手短に説明し、アムルタートは空から避難経路を指示した。 獣爪「氷裂」を構え、踊るように†Za≠Zie†は奥の着物に近づく。袖に、紅い鳥が居た。 Kyrieは断言する、アヤカシだと。殲刀「朱天」を携えた紫狼は、咆哮を使った。深紅の鳥が飛び立つ。 †Za≠Zie†は力をため、空飛ぶ深紅を斬った、紫狼も続く。アヤカシは外へ逃げ出した。 空から、ぶちまけられた墨汁。アムルタートの機転で、深紅だったアヤカシは、黒く染まった。 アヤカシは縮こまり、ゆっくりと逃げ出す。濡れた身体は重くなり、動きが鈍くなった。 手近の布に逃げ込み、化けようとするが上手く行かない。紅い鳥になるはずが、どす黒いミミズの刺繍に終わる。 アヤカシの逃げた場所は、川で待機するイウサールの囁きのリボン。鷲獅鳥は、リボンを外そうと川の中でもがいた。 どんな存在でも、水の中では動きが鈍くなる。濡れた身体に、冷たく濡れた布が重なると飛び上がりたくなる。 「アムルタートたん」 苦手な水の責め苦に、アヤカシは擬態をとき、川から避難しようとした。どす黒いヒモが宙を舞う。 「逃がさないよ♪」 アムルタートは、ラティゴパルマを使った、鞭「フレイムビート」が踊り、炎が渦巻いているかのようにアヤカシをからめ捕る。 鞭がら器用に抜けだし、落下した元深紅。前方の、Kyrieに襲いかかった。 「当たっては困ります」 前進するかのような歩き方で後退し、Kyrieは敵の攻撃を回避する。 「どりゃー!」 紫狼の雄叫びに呼応するように†Za≠Zie†も動く。二人はどす黒くなったアヤカシを霧散させた。 ●蒼い服と紅い服 紅い鳥が消えてから、数日後。すっかり遅くなった、双子の誕生祝い。 勇喜は蒼色、伽羅は紅色。新しい泰服に身をつつみ、嬉しそうにお披露目した。 「ふーん、反物見ていたのって、二人の為なんだ」 風葉は、虎しっぽを揺らす後輩と話し込む。二人分の服を一度に、手作りで用意するのは大変そうだ。 「亜祈、私が教えますから、今度は着物を作ってみませんか?」 「着物ね‥‥、作ったら私にも着せて〜♪」 九寿重は、亜祈にお誘いをかける。泰育ちならば、珍しい天儀の服はやりがいがあるはず。 返事の前に、別の声が反応した。新たな儀への興味から開拓者になり、ちょくちょくギルドへ顔を出すようになったアムルタートだ。 「妹は、竹細工も得意なんですよ。料理は僕の方が上手ですけど」 勘違いした喜多が、受付から混ざろうとする。的はずれな会話だったが。 「起用なら、彫金もやってみたらどうだ? 大成するには、時間がかかるけどな」 龍牙もさり気なく、仲間を増やそうとした。手先が器用で彫金師を生業とし、装備品には必ず繊細な彫金を施している。 「時間だから、遊びに行ってくるのです♪」 双子は子猫又を伴いギルドの外へ、移動を始める。二人の腕には兄から贈られた、お揃いの瑠璃の腕輪が輝いた。 「おっと、危ないな。気をつけないとダメだZE?」 ギルドの入口で紫狼はたたらを踏む、飛び出してきた双子とぶつかりそうになった。元気に謝り、しっぽたちは駆けていく。 「近頃、神楽の都でアヤカシの活動が、活発になっているようですが‥‥子供たちも活発ですね」 先に見つけた双子が、大きく手を振っていた。手を振り返と、元気すぎる双子にKyrieは苦笑を浮かべる。 風葉の鶴の一声、「今日は、奢ってあげましょー」で開拓者たちは店に出向く。調査のついで目を付けていた店で、事件の解決祝いだ。 「お嬢、わしのは?」 「無いわよ、つねきちはいらないでしょ」 草食主義の風葉はよもぎ団子を食べつつ、管狐の訴えを聞いた。最後の一個を飲み込み、不思議そうに答える。 『マスター、ミーアのも無いのです?』 「えーと、その手はナニかな、ミーアたん!?」 形式番号:MBD−01、(MBDはメイン・バトル・ドグーの略)のドリル大好きっ娘は、アーマーの手先を紫狼に向ける。練力を燃料に高速で回転するドリルは、敵を粉砕する構えを見せた。 『‥‥メメント・モリ』 「†Za≠ZiE†は悲しみを持って、あなたに警告していますね」 甘党のKyrieは、餡団子に舌づつみ打ちながら言葉を訳す。大仰なジェスチャーで意思疎通を図る土偶ゴーレムは、両手を広げて横に顔を振った。 †Za≠ZiE†の言った言葉は、「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」と言う警告の意味を持つ。三色団子を手にした紫狼に伝えたかったのだが、伝わらなかった。 今の紫狼は無駄口も多い上に、アレな言動で実に残念な存在。萌え土偶の主は、萌え知識を総動員して誕生した人型土偶に追いかけられる。 「まあ、鷲獅鳥も団子を食べるのね」 騒ぎはそっちのけで、亜祈は白虎とイウサールを見上げた。虎しっぽが、驚いたようにゆれている。 「食べるようですね、白虎は驚きで固まっていますが」 基本的に鷲獅鳥との主従関係は、畏怖と尊敬の念によって築かれている。今日は特別だと、九寿重が三色団子を差し出したところ、白虎の時間は止まってしまった。 「イウサールは、喜んでいるよ♪ 天儀の食べ物は面白いって」 アムルタートとイウサールは、それなりに良好関係らしい。アル=カマル出身のお気楽ジプシーと出会った鷲獅鳥は、新たな儀で友情や親愛の情を、少しずつ育んだ様子。 「汪牙もうまいか? おっ、くちばしについているぞ」 迅鷹のくちばしについた餡を、龍牙はぬぐってやる。首元の赤い紐で結ばれた小さな巻物、竜門の御守りを揺らし、汪牙はお礼の鳴き声をあげた。 開拓者たちは、食後の緑茶をすする。無事に団子を腹に入れ‥‥否、逃げる途中で地面に落した二人は、泣いていた。 「俺の、俺の団子たんがー!」 『ミーアの団子がないのです!』 セクシー美女への女装が特技の紫狼は、ローブデコルテ「白雪」を広げて羽織った。泣き崩れると、ミーアに演技指導してマネをさせる。 ミーアの羽織ったドレス「ブラウライネ」の、深く広い湖のような青色が哀愁を醸し出した。‥‥合掌。 「開拓者のお膝元足る、ここでの騒動‥‥もしかして、注意を惹きつけられてるのですかね?」 湯のみを置き、かくりと首を傾げる九寿重。薔薇の刺繍が施してある、シルクのストラが風にたなびいた。 マネをして、白虎も首をかくりとやる。その姿に、獰猛かつ攻撃的な鷲獅鳥の面影は見当たらない。 「‥‥狂風連に対して、『ギルドは後手に回っている』って、兄上たちは言っていたわ」 亜祈は答えかね、虎しっぽを垂らした。視線の先に、双子の弟妹と遊ぶ、子供たちの姿があった。 「あんたたち、籤が外れても愚痴らない、そういう生き方を教えてあげようか」 能面「風霊」を外した風葉は、にんまりと笑いつつ、子供たちの方に寄っていく。志半ばにして亡くなった「風堂小雪」の意思を引き継ぎ、先輩開拓者の分も人生を楽しむと誓った。 『お嬢の夢は、でっかく世界征服! その手先を育成‥‥おっと、わしは退散じゃな』 あくびをしながら、三門屋つねきちはからかう。「風世花団」の団長から文句を貰う前に、管狐は姿を消した。 『クォ・ヴァディス?』 「我奏でるは、腐り果てた寵姫の輪舞曲‥‥ですが、今日は未来のために、『美』を奏でましょう」 道化服を纏った土偶ゴーレムは、「どこに行くのか」と尋ねる。†Za≠ZiE†に向かって、Kyrieは携えたリュートを見せた。 『ケ セラ セラ♪』 「私も混ざる、一緒におどろー! 何事もノリと勢いでなんとかなるよ〜♪」 Kyrieの演奏に合わせて、†Za≠ZiE†は踊り始める。バラージドレス「サワード」をひるがえし、アムルタートもくるりと回った。 イウサールも身体を楽しそうに揺らし、前足でステップを。つられた子供たちも、飛びはねる。 「もし、ギルドの手に負えないことがあったら‥‥そのときは、手伝って欲しいの」 踊りの輪ができる様子に、亜祈はほほ笑みを浮かべた。子供たちの笑い声が、ずっと続くと良い。 「神楽の都に住まう人々のために‥‥いや、今を生きる人々のためにだな」 陣羽織「鷹虎」を羽織った龍牙の肩から、幼鳥から大切に育てた白フクロウは飛び立つ。おっとりした汪牙も、ふんわりと輪の中へ。 空からのお客に、子供たちは大喜び。歓声があがる様子に、龍牙も軽く笑う。 紅い鳥は水が苦手だった、雨を嫌ったのかもしれない。暗雲たちこめる神楽の都、それでも子供たちの太陽の笑顔が顔をのぞかせていた。 |