白梅の里の夏絵巻
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/20 22:37



■オープニング本文

 久しぶりの郷里、朱藩の田舎の白梅の里。家で出迎えたのは、青年の父親。神楽の都から帰ってくる息子たちを、待ち構えていた。
「親父、今戻った」
「お義父さん、ただいま」
「たりゃいまー♪」
「清太郎(せいたろう)。この間、おりんと祝言をあげたと思ったら‥‥いつの間に」
 青年の抱えた幼子が、舌足らずの口調でマネする。今年の六月に婚礼をあげた新婚夫婦の子供にしては、ずいぶん大きい。
「俺の子じゃない!」
「知り合いのギルド員さんの息子さんです」
「里の話をしたら、『行きたい』って、泣かれた」
 誤解を解くべく青年は声を張り上げた、新妻がおっとりと口を添える。神楽の都で生まれ育った幼子は、山での虫取りや川泳ぎに心ひかれた。
 預かる約束した日の事を思い出し、青年はげんなり。子供のわがままは苦手だ。
「この間まで、お前も泣きわめく子供だったんだぞ。子供は泣くのが仕事、元気な泣き声をあげる孫はまだか?」
「親父、孫の話は関係ないだろう!」
 幼子を見つめていた青年の父親は、ぼそりと本音を漏らす。二年間も音信不通だった放蕩息子は、ようやく嫁を貰った。
 親としての仕事が終われば、次は祖父としての仕事がしたい。気が早い父親に、青年はわめいた。


「こんにちは、おじさん。尚武君いる?」
「あい♪」
「良助(りょうすけ)、もう出かけるのか?」
「うん、尚武君と山で虫とりをするんだ♪」
 一緒に帰ってきた新妻の弟の少年が顔を覗かせる、嬉しそうに答えた。
「良助。山は危ないから、子供だけで行くのは止めなさい!」
「えー! 姉ちゃん、川なら良い?」
「もっとダメよ!」
 姉は弟をしかる。遊び盛りの少年は、つまらなそうに口をとがらせる。
「そうだ‥‥尚武君、ちょっと待っていて」
「あい、まってうー」
 閃いた少年は駆け出した。里から、神楽の都に戻りかける一団がいるはず。必死で、開拓者の姿を追い掛ける。


 青年の開拓者の従妹は、預かった幼子の父親と一緒に武州に行っている。武天と神楽の都の情勢が緊迫しつつある中、他のアヤカシの動きが活発になるとも限らない。
 帰郷する白梅の里の人々の身を案じた、青年の従妹のサムライ娘。武州に出かける間際に、ギルド員である幼子の父親に、旅路の護衛の依頼を出していたのだ。
「開拓者の兄ちゃんと姉ちゃん、待って!」
 遠くなる後ろ姿に、少年は叫んだ。里の入口の白梅の木の下で、開拓者たちは振り返る。
「二、三日、僕の家に泊らない? 送ってくれたお礼がしたいんだ!」
 少年は開拓者に提案する。幼子と遊ぶ時の保護者になって欲しいとも、付け加えて。
 もし滞在してくれたら、自分の秘密基地の裏山の岩場や、眺めのよい山の頂上に案内したい。そして母の漬けた美味しい梅干しや、父の自慢の梅酒をご馳走したかった。
 少年なりの感謝の気持ち。開拓者たちは、笑顔で快諾した。



■参加者一覧
水月(ia2566
10歳・女・吟
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
利穏(ia9760
14歳・男・陰
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
ミリート・ティナーファ(ib3308
15歳・女・砲
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔


■リプレイ本文

●白梅の里
「梅が香り、緑に囲まれたこの土地なら、良き様に過ごせるかと思います」
 利穏(ia9760)は、山里を見渡す。たまにはのんびり‥‥優游不迫に。
「山があって、川があって。俺が育った里はもう少し、その‥‥生活は厳しいですけれど、自然に囲まれているところは一緒です」
 菊池 志郎(ia5584)は陰穀の貧しい農家の頃の記憶が重なる。
「良助さん、本当にありがとうございます。のんびり滞在出来るのが嬉しくて。グリム、本当に良い所なんですよ」
「ふーん。夏休みねぇ‥‥面白そうだな。ここんとこバタバタしてるし、この辺で休みを貰っとくのも悪くねぇか」
 アルーシュ・リトナ(ib0119)はご機嫌で、グリムバルド(ib0608)に話しかける。さっき別れたばかりの里の人々との再会。
「がお〜☆ ミリートだよ。よろしくね♪」
 ミリート・ティナーファ(ib3308)は、尚武にもふらの面を被せて笑う。
「空気の美味しいところだねー! よーし遊ぶぞー!」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)は張り切り、水月(ia2566)は嬉しそうに歩きだす。
「やはり武州の凄惨な現場に滞在したままですと、心がとげとげしいままに落ち着かなくなってしまいます」
 杉野 九寿重(ib3226)のピンと立った犬耳が伏せられている。武州はやっと、明日への道を踏み出す事ができた。
 穏やかで優しい人々が住まう、長閑な里で、今は静養をしよう。


「‥‥明日の夜は雨なの」
 目を閉じていた水月は、ぽつりとつぶやいた。あまよみで見た景色は、天気が崩れると告げている。
「まだ残暑が有るこの時期、昼間の川遊びは涼しそうで良いですね」
「川の中を見れば、餌のザザ虫も取れるでしょ。探すのも、楽しみの一つかな?」
 利穏の一言で、本日の川遊びが決定。ミリートは背伸びをする。釣り具の餌は現地調達。釣れるかどうかは運次第。
「よし。山でも、川でも、子供たちの行きたいところに付き合うぜ!」
 照り付ける太陽、まとわり付く湿気。夏の日差しの中、まるごとわんこは荷物の中から見上げていた。
 グリムバルドは、危険な状況や強敵に出会うと笑みを毀す戦士。気合いと共に、背水心を発動させる。つまり覚悟完了。
「‥‥甘わふだが、何か?」
 黒わんこは、愛くるしくキャンディボックスを差し出す。目論み通り、子供たちに大ウケ。
「流石に夏は駄目だったかー」
 半刻後、黒わふは家の中にいた。


●川遊び
「風邪をひくかもしれませんので、手ぬぐい。また、寒くなってきた時の為に外套も」
「ほう、準備がいいな」
 グリムバルドに、利穏は従者の外套を見せる。
「あと、万が一の擦り傷などの為に、止血剤とかも」
 次々と取り出される品、利穏は心配性らしい。
「だれか怪我しちゃったらお手当て、するの」
 水月は一生懸命手をあげる。白霊癒は任せて欲しい。


 水遊びの間、尚武は終始抱っこされていた。大人の優しさを演出する、ホルタービキニ「フラフティ」を着たアルーシュと一緒に行動中。
 抱いたまま泳ぐ様に動かしたり、ぎゅっと抱き寄せられる。興奮した尚武の手は、山ほど水しぶきを作った。
 丸太に捕まり、川面に浮かぶ水月は、川のせせらぎを聞いている。相変わらず、何かを積極的にしようとする素振りは見せ無い。
 尚武を抱きかかえたアルーシュが寄ってきた。尚武は小さな手で丸太を叩く。水月も叩き返して、お話が成立。
 二人の丸太の太鼓の音色が、楽しそうに響いた。


 鞠を投げて遊ぶ、リィムナと利穏と良助。
「川の水は意外に冷たいですからね。一度、休ませましょうか?」
「水遊び‥‥は程々に、しないとな」
 気を配っていた志郎とグリムバルドの会話。保護するべき子供は増えている。
「そろそろ、おやつ食べますか?」
 気を利かせた九寿重は、携帯汁粉を取り出す。おやつの言葉に、子供たちは大はしゃぎ。盛大に水しぶきを上げて、河原に戻ってきた。
 涼しげな柄の手拭「竹林」を水月の頭に乗せ、志郎は水気を切るように促す。
 魚を焼いていたミリートは、川から戻った良助に、水帝の外套を羽織らせた。虹色の糸を紡いだ布地は、水面のように輝く。
 グリムバルドにも、ずっと昔は兄弟が居た。仲間たちを見ながら、懐かしそうに、眼帯の下の目を閉じた。


●山登り
 アルーシュの提案に、仲間たちは大賛成。
「がお〜☆ 朝は早起きで、しっかり山で遊ぶよ!」
 ミリートは、遊ぶ準備をする。危なっかしい子供たちを、見守る使命も忘れずに。
 手作りの虫かごに、虫除け用のバジルのポプリも完備。昆虫は好きだが、蚊に喰われるのは勘弁。
 朝からお弁当作りに精を出す志郎は、梅干とじゃこの混ぜご飯のおにぎりを握る。
 アルーシュも初挑戦。持参していた焼き鮭を、ほぐして中身にする。梅が苦手な水月は、大いに喜んだ。
「これが梅シロップなんだ」
 リィムナ、故郷のジルベリアの言葉が口をついた。梅に氷砂糖を入れて作られた梅蜜とお茶を、もふらの水袋に入れて貰う。


「山を登るのは、二回目ですね。良助も、遭難しかけたですしね」
「やだな、九寿重姉ちゃん」
 じと目で見る九寿重に、良助は乾いた笑い声を上げる。初めて白梅の里を訪れたきっかけは、山での行方不明者の捜索依頼だった。
「自然の中って大好き。歩いてるだけでも楽しいや♪」
 ミリートは自然と歌が好き。山や海を散策をしては様々な場所の生き物達と戯れ、歌っている。
「尚武ちゃんは、肩車が好き? では、あの大きなお兄さんにして貰いましょう」
 尚武を抱っこして、歌を聞かせていたアルーシュ。グリムバルドに、にっこり笑いかける。
 父親よりも高い肩車に、尚武は大歓声。次はグリムバルドの右顔面を覆う黒い眼帯を不思議がる。隙をついて、頭の上から奪い去った。
「みぇー!」
「はいはい、目はあるぞ」
 グリムバルドの眼帯は修行の一環、ちゃんと両目はある。
「グリム、尚武ちゃんに負けましたね♪」
「‥‥ルゥ、笑いすぎ」
 茶目っ気がそれなりにあるアルーシュは、鈴の音のように笑う。グリムバルド、足りない技量は気合と膂力(りょりょく)で何とかするが、尚武の好奇心には勝てなかった。
「尚武くん、俺が肩車をしましょうか」
 しばらく歩いたころ、志郎が申しでた。
「何が見えますか?」
「とんおー!」
 目の高さが変わると、景色が新鮮に映る。志郎に肩車された尚武は、目の前を過ぎるトンボを指差した。
「捕まえた!」
 ミリートの持つ棒の先には、トリモチがついている。トンボを手にとり、大きな目をする尚武に見せる。
「そう言えば、僕はあまり自然の事をよく知らなかったな‥‥」
 つられた利穏も空を見上げる、色々な発見ができそうだ。
「尚武さん、肩車しますね」
 替わりばんこで、開拓者たちは尚武を肩車してくれる。
「はっぴゃー」
「頑張ってみますっ」
 尚武はくぬぎの葉に手を伸ばす、利穏も背伸びした。声が震えた理由は、ちょっと低めの身長だから。
 犬耳のミリートは、くぬぎの木を揺さぶった、黒いものが落ちてくる。
「はやぁ〜、見っけ♪」
 捕まえたカブト虫を頭に乗せて、ミリートはご機嫌。肩車された尚武にも、カブト虫の贈り物。


 山の頂上でお弁当を広げる。良助のお勧めの場所は、里を一望できた。
「こう言う所で頂くお弁当は尚美味しくて、梅干の味に疲れも飛んで行きそう」
 前回は、ゆっくりできなかったが、今日は違う。尚武に小さなおにぎりを食べさせながら、アルーシュは景色を楽しんだ。
「春は梅の花で、真っ白になるのでしょうか。見てみたいです」
 季節の移ろいには敏感な志郎、高いところから四季折々の景色を楽しむのが好き。白く綺麗な石飾りの首飾「白憐」も、山頂の眺めに満足そうだ。


 お弁当を平らげた後は、冒険開始。
「里には、どんな虫が居るのですか?」
「うーん、セミは少なくなって、鈴虫が増えたよ」
 秘密基地の岩場で遊ぶ、少年たちの会話。
 保護者役という建て前から離れ、子供っぽさが垣間見える。岩の上に乗る利穏の疑問に、見上げる良助は答える。
 水月は風通しの良い日陰で、ぽや〜とうたた寝中。
 梢を渡る風の音、山中にいる沢山の鳥の歌声。耳に留まる自然の贈り物は、心の中で喜びの歌を紡いでいく。
「いちゃ!」
「尚ちゃん、かくれんぼの天才♪」
 水月が潜り込んだ岩影を、尚武は見つけた。覗きこんだリィムナも、一緒に叫ぶ。大きな声が、超越聴覚を使った耳元でこだました。
 水月は母親譲りの翠瞳を見開き、大慌て。陰陽狩衣の袖も驚いたように揺れた。


 帰り道。
「子供たちは、爆発力は有りますが落ち着かなくて、集中力が途切れるのが通例ですし」
「荷物が増えましたね」
「あれだけ遊んだからな」
 五人姉妹弟の筆頭の九寿重の心配は的中。眠り込む水月とリィムナを、志郎とグリムバルドは背負っていた。
「‥‥私も心当たりが有りますが、無視してください」
「お互い、無茶をしましたね」
「だう〜、無謀だったのだ」
 視線を反らす九寿重も、目をこすった。帰り道は下り坂だと油断していた利穏やミリートも、夢うつつで歩く。
「気をつけて帰りましょうね」
 尚武を抱っこしながら、アルーシュは声をかけた。


●雨上がりの村
「婚礼の際は、顔出しできませんでしたが‥‥。その後、お元気で居るでしょうかね」
「大丈夫ですよ、きっと」
 清太郎の家に向かいながら、九寿重とアルーシュは話し込む。旅路では色々と聞いたが、清太郎とりんの新婚生活は気になった。


 涼しい朝のうちに、畑へ繰り出す。
「俺は農作業には慣れているし、体力もあるので何でも言ってくださいね」
 収穫用のカゴを隣に置いた志郎は、胸を叩く。
「この季節は雑草が生え変わるのが早くて、取っても取っても、追いつかないですし。父様の田舎で手伝わされた際に、そう思い知りましたね」
 腰までの長い黒髪を、まとめ上げながら、九寿重は言う。草抜きは重労働、苦労は身に染みている。
「掘り起こした後は、きちんと両端に分けて土を置いてください。こうやるんです」
「歩く為の溝をつけなくて、どうするのですか? 種まきに、水やり‥‥使うべき部分は、たくさんですね」
 雨上がりの土は柔らかく、耕し易い。へっぴり腰でクワを振るう清太郎に、師匠たちは厳しかった。
 志郎はクワを奪いとり、耕し方の手本を見せる。九寿重の犬耳は天を突き、叱咤した。
「‥‥ただ遊ぶのもなんだから、何か手伝いもするかねぇ」
 畑作業を見ていたグリムバルドは、斧を預かり、まき割りを開始する。鬼腕は日暮れまでに、一冬を越せる量の燃料を作り上げた。


「とれたての野菜は、そのまま食べてもおいしいです。胡瓜なんかは、そのままおやつになりますね」
 寄ってきた尚武にキュウリを握らせ、志郎と一緒に収穫体験。水月やリィムナも、手を伸ばす。
「人参がありますね」
 作物を薙ぎ倒さないように、九寿重は告げる。足元に注意すれば、芽吹く葉っぱがみえた。
 新鮮なキュウリはみずみずしさと、歯ごたえを持つ。リィムナのお勧め、塩をかけて食べるのも美味しい。


「色々な梅料理を味わいたい所。特に、梅の寒天とは、僕も聞いた事がありませんね」
 りんの料理教室が開幕。薄めた梅蜜に寒天を加え、秘蔵の甘梅干しを刻み混ぜる。
「後は冷やすだけなんですね」
 作り方を学んでいた利穏、井戸水で木枠を冷やしにいく。
「おりんさん、新婚生活、如何です?」
「お義父さんも、お義母も優しいですよ」
「清太郎さんとは?」
「ええ、それはもう♪」
「はやぁ〜、熱すぎるよ!」
 男の子が居ない間に、娘たちの女子会話。アルーシュの質問に、りんは俯きながら答える。恋愛事に興味を抱いているミリートも、つられて真っ赤になった。


「これくらいで良いですかね?」
 屈んでると変に身体が固まって、痛みが発生しかねない。柔軟体操をしながら、九寿重は畑を確認する。
「白菜も、大根も植えました。これで、冬も大丈夫でしょう」
 まいた種に水をかけながら、志郎は答える。昼前に種まきが終わって良かった。


●終わりの夜
「線香花火持ってきたから、やろうぜ!」
 グリムバルドは、たくさんの線香花火を見せる。リィムナの持参した物を合わせて、小さな花火大会が開幕。
 夜の団欒には吟遊詩人アルーシュのメローハープの甘い音色。グリムバルドの軽やかなバイオリン「サンクトペトロ」も重なる。水月に教えながら、アルーシュは歌う。
「長閑なるかな白梅の里
過ぎ行く夏に想いを残し
花咲く頃に訪れん‥‥♪」
 機織師は、子供達の為に新しい歌や物語を求めるうちに兼業開拓者となった。


「梅のジャムって知ってる?」
 ミリート提案でアルーシュと共同作業。梅酒の梅を使った梅ジャムとパンケーキは、天儀育ちの人々を喜ばせた。
自然の恵みに感謝しつつ、「いただきます」の合唱。
「‥‥普段はあまり飲まないのですが、梅酒、楽しみです」
 白梅の里の梅は絶品だと、胸を張る良助の説明に志郎は笑って答えた。盃にくまれた梅酒を、少しずつ味わう。
「梅干し食べますか?」
 利穏の勧めに、水月は一生懸命、首を横に振る。顔色や雰囲気の変化は分かりやすく、隠し事は苦手なタイプ。
 普段なら、食事は一番の楽しみだが、今回は遠慮したかった。特に梅干は苦手な食べ物、どうしても食べられない。
「はっはっは、南瓜仮面参上! 野菜は好き嫌いなく食べないと駄目だぞ! 私との約束だ!」
 鮮やかな橙色のカボチャを模した、南瓜の被り物姿。南瓜仮面のリィムナのお説教。
「こっちは甘酸っぱいよ?」
 ミリートから、梅蜜が差し出された。水月は困った表情で、竹筒を受け取る。
 薄い黄色の液体を、一口だけ飲み込み、瞬きした。梅の味もするが、砂糖の味もする不思議な味わい。
「夜は水分取るのは控え目にしてるの。何故って、それはその‥‥南瓜仮面との約束だからさ!」
 梅蜜を九寿重が渡そうとすると、リィムナは断りを述べる。お泊り中にやらかすのは、避けたい。
その晩、尚武の泣き声が、耳をつんざく。布団には、見事な天儀地図のおねしょ。
「あたしが片づけてあげる」
 リィムナは後始末を買ってでる、洗濯と布団干しはお手のもの。長年やっている隠蔽工作のたまものだ。


「どうも、お邪魔しました。また、何かの折に来たいです!」
「‥‥白梅の里は、穏やかでとてもきれいですね」
 頭を下げる利穏の隣で、志郎は感想を述べる。
「オクラの醤油和えと、梅干し入りオニギリだね」
「お弁当、ありがとうなの」
 帰路で食べるお弁当を手伝ったリィムナと水月は、嬉しそうに言った。
「今度は胡桃や栗が見つかるかな?」
「秋に来たらありそうですよね」
 犬耳が揺れる。ミリートの疑問に、九寿重が答えた。
「グリム、梅花の季節に、また来たいものです。‥‥ね?」
「‥‥そうだな、ルゥ」
 グリムバルドは白梅の木を見上げる。隣に居るアルーシュは‥‥大切な人。
 目を細めるグリムバルドに、アルーシュは口許をほころばせた。