【武炎】真実を手に
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/15 23:09



■オープニング本文

●花ノ山城
 魔の森の近くには、どこの国でも、アヤカシを食い止める砦がある。
 伊織の里や高橋の里も例外ではない。
「敵襲ーっ!!」
 がんがんと櫓の鐘が鳴り響く。眼下を見れば、「花ノ山城」へ向かって、凡そ荷車ほどの大きさはあろうかと言う化け甲虫が、まるで鋼鉄のアーマー部隊の様に整列して迫っていた。
 どうやってかはわからないが、各地の砦近くに、甲虫達が、忽然と姿を現したのだ。
 そんな甲虫達の群れを見下ろすのは、それらの中でも、さらに大きな個体。
「さぁおいき、可愛い子供達。たっぷりとね」
 その上部には、会話を交わせるほどの形となった、美しい女性の姿が埋まっていた‥‥。

●戦うべきもの
「なんでこう、面倒くさい事態になるんだ!」
 神楽の都の開拓者ギルドで、ベテランギルド員は、机を叩いた。
「先輩、落ち着いてください」
「わかってる!」
 新人ギルド員の猫しっぽが、不安そうに揺れていた。腕組みしながら、ベテランギルド員は唸る。
「がう。弥次しゃん、こんにちはです」
「にゃ。こんにちはなのです」
「おっ、ちょうど良い所にきた。早急に、頼まれてくれ!」
 入口で元気な双子の声がした。新人ギルド員の猫族一家、猫の手も借りたい。ベテランギルド員は、吟遊詩人の虎少年と、泰拳士の猫娘に声をかける。
「先輩、いくらなんでも、やめてください! 双子たちには、無理です!」
「兄上、どうしたの?」
「えらい、怖い顔やな」
「なら、陰陽師の上の妹さんならいいだろう!?」
「そういう問題じゃ、ないです!」
 長兄は慌てて手を広げ、弟妹の前に立ちふさがる。不思議がる虎娘と、新人ギルド員の飼い猫又。
「緊迫している伊織の里に、カブトムシ型のアヤカシの群れが現れて、救援を要請してきているんだ。行ってくれないか?」
「‥‥武天ね。最近、真田さんの道場でも、話題になっていたわ」
「正確には伊織の里の東南、高橋の里を守る、山砦の花ノ山城になる」
 新人ギルド員を押しのけようとしながら、ベテランギルド員は続ける。首をかしげる虎娘。
 花ノ山城は、飛行系アヤカシや山岳戦を得意とするアヤカシの迂回や移動を監視、迎撃する目的で建てられた城。
「どうも、今までの化甲虫と違うらしい。鎧をとかす酸を吐くという話は、聞いていたんだが‥‥。
クモのような粘着質の糸を吐いたとか、炎を飛ばしてきたとか。変な情報も混じってきて、現場が混乱しつつあるんだ。
 化甲虫は、頑丈な皮甲を持つアヤカシ。こちらの生半可な攻撃は、軽く弾き返してくる。戦法はしごく単純で、強力な顎や爪を活かした、ごり押しだ。
「真実を確かめて、花ノ山城へ伝えて欲しい。情報入手が一番の目的、アヤカシ退治は二の次だ」
 一体でも、なかなか苦戦する化甲虫だが、群れと化したときの方が脅威は大きい。花ノ山城にアヤカシが辿りつく前に、化甲虫の正確な情報を伝えなければ。
 アヤカシに加え、時間との戦いが始まった。


■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
九条 炮(ib5409
12歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔


■リプレイ本文

●真実を手に
「あ、伽羅ちゃんだ〜♪」
 双子の片割れに、ぎゅむぎゅむ抱きつく、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。背がちょっと低い事を気にしなくてすむ、貴重な相手。
 プレシアの相棒は、管狐の玖耀。
「子猫ちゃん、久しぶりだね」
 幼い少女が大好きな、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)も、伽羅を抱きしめた。
 フランヴェルの相棒は、甲龍のLO。
「姉上と藤しゃんは、どこです?」
「ちょっと用事があって、まだ花ノ山城に留まっているんです」
 家族を探す双子に、他人の面倒を見る方を優先する杉野 九寿重(ib3226)は声をかける。言葉を選びながら、報告した。
 九寿重の相棒は、鷲獅鳥の白虎。
「ねっ、鷲獅鳥って見たことある?」
 左右のバランスが取れた両利きの手は、双子の手を等しく握った。気を反らせようと覗きこむ九条 炮(ib5409)の言葉に、双子は首をふる。
 炮の相棒は、鷲獅鳥のレイダー。
「鷲獅鳥は私に似て、血気盛んかもしれませんよ♪」
 アーシャ・エルダー(ib0054)は、お転婆だった自分と重なる部分があるのか、イタズラな笑みを浮かべた。
 アーシャの相棒は、鷲獅鳥のセルム。
「鷲獅鳥は、身軽ですよ。目を回しても責任はとれませんね」
 どこか飄々とした言動で、興味をあおる劉 星晶(ib3478)。双子の目が輝きを増す。
 星晶の相棒は、鷲獅鳥の翔星。
「よーし、港に行って、見て来い!」
 今楽しい方がいいと考える、刹那的な思考のアルバルク(ib6635)。双子の頭をかきまぜ、外に送り出した。
 アルバルクの相棒は霊騎、まだ名前は無い。
「‥‥藤ちゃん、大丈夫かな」
 膝まで届く少し癖のあるロングヘアを、悲しそうに揺らす、神座亜紀(ib6736)。足元の石ころを蹴飛ばした。
 亜紀の相棒は、駿龍のはやて。


 アヤカシの集団との戦いで、猫又は重傷を負った。命の危機は去ったが、まだ自力で動けない。
 だが亜祈の治癒符で、少しずつ回復してきている。数日うちには、二人とも神楽の都に戻ってくるだろう。
 今でも鮮明に思い出される、撤退前の光景。
 亜祈は悲鳴をあげ、血まみれの猫又を抱き寄せる。意識を失う直前、ひと言だけ、藤はしゃべった。
『‥‥霧は毒や』
 開拓者の報告に、新人ギルド員は無言で深々と頭を下げた。


「虫ですから、あまり知能がありそうには見えないのですよ。何か原始的な手段で、統制されているのだと思います」
「残念ながら、統制方法は分からなかったぜ。虫なら煙に弱いかもという推測は、外れたわけだ」
 報告書を覗き込むアーシャの台詞に重なり、アルバルクはやれやれと両手をあげる。
「気になったのは、アヤカシは魔の森の方からくるのですが、ある一点から急に行動が変わるのです。まるで命令を受けとったように!」
「あの遠くに居た、大きいやつですよね? よくわかりませんでしたが、人が乗っている感じでした。他のアヤカシの三倍はありましたよ。たぶん、親玉ですね」
 九寿重の報告に、一緒に空で戦った星晶は口を挟む。親玉の情報はありがたい、人影とやらが気になるが。
「ボクは敵の外骨格の強度を確かめるために、斬り込んできたよ。外皮の強度に違いがあることが分かった、つまりアヤカシは大きく二種類にわかれるね」
「外皮に守られていない腹の裏側や、飛んでいるときの羽の下の柔らかい部分を狙ったほうが良いですね。脚を狙うより、効果的でした」
 フランヴェルは二本の指を立てる。砲撃の手ごたえに、炮も頷いた。
「敵の能力は、噂以上だったんだ。鎧を溶かす酸、燃やす炎の塊に加えて、凍える氷の塊を吐いたよ。糸は粘着弾の副産物で、毒霧もあったんだ」
 手帳に書きとめた情報を、亜紀は読み上げる。粘着弾と糸は、『納豆と納豆の糸の関係』に近いらしい。藤は、噂に無かった毒霧の餌食になった。
「あとね、角で突撃してくるんだ〜。飛んだり、走ってきたり、危ないんだよ〜。そうそう、アヤカシは全体的に、知覚攻撃に弱かったよ〜♪」
 プレシアは、狐しっぽを揺らす。知覚攻撃に弱い情報は、大きな効果をもたらすだろう。


 アヤカシの情報をまとめた報告書を、ベテランギルド員は貼りだす。
『化甲虫
・吐くのは、強力な酸。開拓者の防御力を低下させる。
・外皮は化鎧虫より、柔らかい。

化鎧虫
・吐くのは、炎弾と氷弾、毒霧。また、動きを阻害する粘着弾と副産物の糸。(個体により、吐く種類は決まっている様子)
・外皮は化甲虫より、硬い。

共通の攻撃能力
・角を使った、強力な突撃攻撃(歩行中も、飛行中も確認。歩行中の方が、威力が高い)
・短時間の飛行(飛行時間は不明。飛行中も、酸や炎を吐く攻撃をしてくる)

共通の弱点らしき部分
・外皮のない腹、飛行中の羽の下。両方とも柔らかい(物理攻撃が外皮に比べてかなり有効)
・脚は狙っても、効果が薄い。(歩行中の突撃攻撃の威力低下には、貢献すると考えられる)
・全体的に、物理に比べて、知覚攻撃に一定の効果があった。

注意
・司令塔の親玉がいると思われる(未確認だが、アヤカシに乗った人影や、巨大なアヤカシの情報あり)』


「分析した結果で、少しでも戦いやすくなるなら、嬉しい限り」
「決して落城してはいけませんので、まずは敵戦力把握こそ重要ですね」
 腕組みしながら、星晶は報告書を見下ろす。九寿重の兜「香車」は、戦における不退転の決意を表していた。
「化け甲虫か‥‥鬼カブトと呼ばれるアヤカシは、術攻撃が弱点と聞いたことあったけどね」
「敵を知り己を知れば、百戦何とやらですね。相手の実態が解れば、打てる手は無数に増えますし」
 唸るフランヴェルに鍛えている身体を見せつけつつ、炮は一段落したことを口にする。
「しかし、虫って奴は色々いるんだなあ‥‥同じような見た目なのにな。とんだ観察日記だぜ」
 アルバルクは、愛用の短銃「ピースメーカー」を撫でながらぼやいた。
「次は絶対、不思議を解明するよ! 藤ちゃんのためにもね」
亜紀は見上げ、栄光の手で報告書をつつく。倒れた猫又の無事を祈りながら。
「ふぅ‥‥、お腹すきました。セルムもお疲れ様で、待っているでしょうし」
「少しあげるよ〜♪ ボクもく〜ちゃんの所、行こうっと〜」
 お腹を押さえるアーシャに、プレシアはお稲荷さんのお裾わけ。開拓者は揃って、港に向かいだした。


●どんどこ、しっぽ機動隊。びゅーん、つばさ滑空。
「わーい! 藤ちゃんだ!」
 亜紀は、藤をぎゅぎゅっと抱きしめ、頬ずりする。
「藤さん、にゃあにゃあにゃあ〜☆ 今回は、くーちゃんも一緒なんだよ〜」
「ふむ‥‥そなたが藤というのか。以前、我が主が世話になったようだな‥‥」
「こっちこそ、ほんまに世話になったで♪」
 プレシアは、相棒をご紹介。藤も嬉しそうに、三毛猫しっぽを揺らす。
「揃って『どんどこ』と、『びゅーん』やな!」
「どのような意味ですか?」
「どんどこは、『元気よく前に進め』ね」
 天儀の北面育ちの九寿重は、眉を寄せて考え込む。苦笑しつつ亜祈は説明。
「びゅーんって、もしかして『空をひとっ飛び』?」
 身に纏う雰囲気や仕種は年齢相の炮は、ピースする。泰の子猫語の解読に成功。
「泰でも、生きていけるかもしれませんよ」
 拍手する星晶は、黒猫耳を立てて感心している。同じ猫族でも、解読は困難を極めた。
「なかなか住処を変えるのは、大変だぜ?」
 ジルべリアの軍人から、アル=カマルの砂迅騎と流れに流れた。アルバルクの言葉の意味は深い。
「次はボクも当てるからね」
「私も負けませんよ♪」
 フランヴェルの手には、大きく反った刀身の金剛刀。アーシャは、向こう側が透けて見える水晶の盾を持っている。武器の手入れ中だった二人は、出遅れた。
「班に分かれて、そろそろ行動しましょうか」
「はいはい、ボクはしっぽ機動隊〜♪」
 白虎の背中に乗る九寿重の促し。玖耀をつれたプレシアは、右手をあげて宣言する。
「空は、つばさ滑空隊だよね?」
「えー、絶対、びゅーんですよ!」
 藤を亜祈に返し、はやてに乗りかけた亜紀の台詞に、炮はレイダーの背から異議申し立て。
「私もどんどこが、分かりやすいです♪」
 セルムと飛び立つ準備中のアーシャは、漢字が苦手。天然ボケを炸裂させる。
「『どんどこ、しっぽ機動隊』と『びゅーん、つばさ滑空隊』で、良いじゃないですか!」
 穏和で物静かだが、好奇心は強く、面白いモノ好きな星晶。スピリットローブをはためかせ、力説する。
 争いの場からは、満場一致の拍手が響いた。満ち足りた様子の主に、ため息のような翔星の鳴き声。
「手抜きじゃないよ。キミは黒曜石の様な光沢のある、黒く滑らかな鱗を持つからさ」
 ジルベリアの貴族は、相棒に必死で説明している。LOは、Lucent Obsidian(光る黒曜石)の頭文字だと。
「‥‥なあ、お前の名前は、よーく考えてやるから。もうちょい、待てるよな?」
 様子を黙って見ていた不良中年は、霊騎に尋ねる。「本当に、きちんとした名前を考えてよ」と、荒い鼻息の返事。


「ふむ‥‥付近を見てくるぞ」
 プレシアに言い残し、玖耀は梟に変身した。亜祈の鳩を伴い、人魂たちは飛んで行く。
「南西の方角、二百ほどでしょうか」
「そうね、魔の森からきているわ」
 相棒の背にのりながら、九寿重は心眼「集」を使う。偵察していた亜祈も頷いた。
「‥‥すごい群れだね。数が多いよ」
「俺は一人でもいいんだぜ。冗談、冗談。嬢ちゃんたちくらい、守ってやら」
 フランヴェルの戸惑う声に、片手をあげて笑う、頼もしいアルバルクの背中。
「騎士には、苦手すぎる相手ですね」
「今後の為にも、がんばって行きましょう」
「成長したのか改造でもされたのか、それとも別種の個体なのか‥‥面白いですね。」
 アーシャと炮と星晶は話しながら、地上から離れる。
「ボクは『あ』にイントネーションがあるよ、間違えないようにね」
「私は『き』ね」
 亜紀は空から叫ぶ。白虎しっぽを揺らし、亜祈も返事。


「狙い定めてSHOOT!!」
 レイダーの背から、炮は銃で狙う。射程ギリギリ。一番遠くからの弾丸は、外皮に阻まれて跳ね返された。
 アヤカシが睨んだ気がした。十匹が空に角を向ける。隊列を組んで、羽を広げた。
「飛んだ!?」
 驚く炮の前を、松明を手にしたアーシャが横切る。煙にアヤカシを巻き込み、下側から回り込んだ。物理攻撃が効かない相手は苦手分野。だからこそ、工夫する。
「セルム、初陣ですね、期待してますよ」
 鷲獅鳥のかぎ爪とアーシャの鞭は、腹を捉える、一匹の化甲虫を霧散させた。
「柔らかそうな所を、狙ってください」
 アーシャの声かけに、もう一度炮は銃を構える。狙うのは、羽の下。弾丸は、見事に貫いた。


「酸を吐きながら、駿龍のスピードについてくるんだ」
 ニ匹のアヤカシが、はやてと白虎を追いかける。しぶきで溶けた服を、亜紀は冷静に眺めた。
「振り切れますか?」
 九寿重の問いかけに、駿龍は翼を大きくはためかせ全力飛行。一気に上昇した。
 アヤカシは降下に移る、白虎についてきた。次々と地面でも角をもたげ、氷や炎が飛んでくる。
「‥‥奥になにか居ますね」
 集中する九寿重は気づいた。アヤカシは伝令のように、ある一定の方向から行動を変えている。
 よそ見をした一瞬に、飛ぶアヤカシが目の前に現れる。亜紀のサンダーが、アヤカシを傾かせた。魔法が全然効かなくても、それはそれで一つのデータ。
「弱い魔術も、効きが悪いね‥‥あれ?」
 亜紀は火球を放ちながら、むくれる。山火事を引き起こす前に、忘れずにフローズ。思わぬ効果、アヤカシの外皮にヒビが入った。
「貰いました!」
 一撃必中、星晶の苦無の投擲はヒビを正確に射抜く。どこからと思えば、翔星は逆さまになって、上空を飛んでいた。さすが、シノビの相棒。
 すれ違いざまに聞いた、九寿重の台詞を確かめるために、上昇を続ける。奥に一際大きな化甲虫が見えた。
「大きなアヤカシですね‥‥あれは人!?」
 雲海近くで、星晶は表情を曇らせる。遠くてよく見えないが、アヤカシの背に乗るのは、人間のようだった。


「おう、行くぜー!」
 アルバルクは、狼煙銃を群れの真ん中にぶち込む。煙に突撃しつつ、銃弾を放った。大地を蹴って、霊騎は全力で走る。人馬一体の動き。
「後衛さんを頼んだよ」
 フランヴェルの声に、LOの鎧が厚みを増す。フランヴェルの思惑を知らず、プレシアはひょっこり顔を出した。
「首輪付きで、燃え燃えきゅん♪ なんだよ〜!」
 炎をまとう、首輪のついた狼が現れた。プレシアの式は、アヤカシの群れの中を一直線に駆ける。
「嬢ちゃん、横だ」
「ほえ?」
 アルバルクが叫んだ。きょとんとするプレシアに、アヤカシが襲いかかる。一気に来る、突撃だ。
「くっ、当たれ!」
 フランヴェルは走り込み、外骨格の継ぎ目を狙う。気合と共に、刀を叩きつけた。アヤカシの脚が一本吹き飛ぶが、突撃速度がゆるくなっただけ。
「むっ!?」
 プレシアの危険を察知し玖耀は、光輝く。とっさに、服に巻き付ついた。
「どきやがれ!」
 アルバルクは素早く相手に接近し、すれ違いざまに斬りつける。霊騎のいななきが響く中、アヤカシは瘴気に帰った。
「ありがとうなんだよ〜」
「全く、我が主は無防備というか無頓着というか‥‥聞いておるのか!?」
 狐耳を伏せるプレシア。今度は金剛の鎧を解いた玖耀の説教が、襲いかかった。


●語らずとも
 神楽の港には、相棒が勢揃い。初めて見る鷲獅鳥たちが居並ぶさまは、圧巻だった。
 白虎は、胸を張ったようだった。背中の羽を動かし、クチバシを持ち上げる。
 真ん中で羽を動かされると、迷惑。両脇のレイダーとセルムも動く。
 レイダーは、広場を求めて前に出た。後ろに下がるのは嫌、自分が一番。
 「邪魔くさい」とか、なんとか言ったのだろう。セルムは頭を右隣に向けて、一声鳴く。
 セルムの左隣にいた翔星は、騒がしい右隣から歩いて離れる。龍達の側にやってきて、座り込んだ。目を閉じ、我関せずを発揮。
 最初に動いた白虎は、両脇の行動が気に入らない。威嚇の鳴き声をあげ、大きく羽を動かした。
 喧嘩を売っているのか、買っているのか。前にいるレイダーのしっぽを、わざわざくわえて引っ張る白虎。
 しっぽを引っ張られ、レイダーは羽を広げた。怒りの鳴き声をあげ、一気に振り返る。多分「何をするんじゃ!」と言ったのだろう。
 レイダーは振り返るついでに、後ろ足で白虎を蹴ろうとした。避けられる。運悪く、隣のセルムの顔面に直撃。
 セルムは羽を広げて飛びあがり、レイダーと白虎の頭を羽で叩きつけた。
 鷲獅鳥戦争、勃発。鷲獅鳥たちは舞台を空に移し、お互いに退かない。三つ巴で暴れ始める
 はやては首を捻りながら、空を見上げる。隣のLOに何事か鳴いた。「最近の若いもんは、気が短い」と思ったのかもしれない。
 LOは、地上に視線を移し、じっとしている翔星を見た。「うむ、あの若者は見所がある」と、頷く仕草を見せる。
 はやてとLOは鳴き合い、鷲獅鳥の噂話を開始した。


 乗せてもらった霊騎の背で、空の戦いを眺める双子の猫族。
「実況は玖耀しゃん、解説は霊騎しゃんです♪」
 勝手な双子の決めつけ。霊騎は頭を下げるが、玖耀は動揺を見せた。
「じっ‥‥実況か!? 三選手とも、威嚇しておるな」
「く〜ちゃん、それじゃ観客席に伝わらないよ」
「観客席!?」
 ギルドの相談は終わったらしい。プレシアの横槍に、玖耀は振り返る。見渡すと、はやてとLO、そして片目を開いた翔星と目が合った。
「まあ、引き受けてもよかろうぞ」
 背中には「気」の一文字。気合の半纏をひるがえし、玖耀は器用に左前足で毛並みを整えた。
「はい、お土産だよ〜、美味しいものいっぱい食べようね〜♪」
 プレシアのくれたでっかいお稲荷さんを、双子は揃ってもきゅり。
「全く、我が主は喰う事ばかり‥‥」
 玖耀とプレシア出会いは、ちくわの縁。ちくわの軸として、依代の管を焼かれる寸前の玖耀を、プレシアが救出したことに遡る。
「おいおい、元気だな。けんかしてるのか?」
 アルバルクは、片手を額にあて、空を見上げる。相棒の霊騎は栗毛のしっぽで、隣のアルバルクを叩いた。
「痛、何すんだ! ‥‥てか、俺まだコイツに名前つけてなかったな」
 最近、手に入れた霊騎の名前を呼ぼうとして、アルバルクは考え込む。
「‥‥まっ、そのうち付けてやるよ」
 名前のない若い牡は、不機嫌になった。約束が違うと、何度もしっぽで叩きつける。
「はやて、あれを止めて」
 亜紀が指差すのは、爪を振り上げている鷲獅鳥たち。けんかを放っておくことはできない。
「早くしてよ!」
 子供のわがままに、はやては悩む仕草を見せる。駿龍は体を覆う鎧の生成量が少ない、無事に済むかどうか。
「ボクのLOは盾にはなれるけど、攻撃には向かないからね」
 困った表情で頭をかくフランヴェルの甲龍は、エルオーと呼ぶらしい。小さく眠たげな眼の相棒は、瞬きする。
「まぁ、いざとなったら翔星が何とかしますよ。ねぇ翔星?」
 何考えているかよく分からない、鷲獅鳥。星晶の声には微動だにしない。ひたすら瞑想の世界。
「‥‥あ、無視されました」
 仕事に関する事は言う事を聞くけど、それ以外の翔星は、無視を決め込む。背中に置かれた星晶の手を、わざわざ身を震わせて落とす徹底ぶり。
 大猪の毛皮をまとったLOと、大篭手「獣王」を装着したはやての相談する鳴き声。
「あの若者たち、どうする?」
「爪攻撃を受けたら、ひとたまりも無いよね」
 とか言っていたのかもしれない。肩を落として、ため息をつく仕草をした。
 両目を開いた翔星が、何事か鳴いた。龍達は色めき立つ。
「心配いらん。もうすぐあの者たちの、主が来るだろう。うちの星晶は、あの通りだが」
 翔星、周りには優しいくせに、主の星晶には冷たい。
「それが良いか。ちなみにうちのフランヴェルとは、共に雄々しく戦う仲だぞ」
 微笑んでいるかのように見えるLOは、温和な印象を与える。
「うちの亜紀のお嬢は、まだ子供だからな。わがままな要求も多くて、手を焼いている」
 ふだんは大人の対応をとるはやてだが、さすがにあまりに無茶な要求には反対の意思を見せる。
 相棒達は鳴き声が響くばかりで、人間には何を話しているか分からない。だからこそ、好き勝手言っているようだった。


「私たちは、相談をしていたんですよ。それなのに、白虎たちは何をしているのですか?」
「レイダー、降りてきてください!」
 仁王立ちの九寿重の、冷ややかな台詞が聞こえた。腰を手に当て見上げる炮の、軽い怒りの声が続く。
 鷲獅鳥たちは、一瞬、動作を止めた。主従関係は、畏怖と尊敬の念で結ばれている。
「いい加減にしてください! セルム」
 ちらりと見下ろしたセルムの背中は、語っていた。「戦いで俺は空で散ってもいいが、お前を巻き添えにはしたくない。止めるな」と。
「外野の待ったが、かかったぞ。解説はどう思うか?」
 律儀に、解説を求める玖耀。霊騎は残念そうに、首を横に振った。
「ふむ‥‥もう助からぬか、難儀すると申しておるようだな」
 気の毒そうに、管狐は呟いた。大きく頷く動作の霊騎。
「セルム!」
 アーシャの再度の呼びかけに、白銀の首飾りを揺らしながら、鷲獅鳥はしぶしぶ降りてきた。
「レイダー! それ以上したら、ご飯抜きですよ」
 朱雀の嘴で威嚇するレイダーの動きが、緩慢になった。本当に、晩ご飯が無くなるかもしれない。
「白虎、分かっていますね?」
 九寿重の氷のような呼びかけに、空でそっと鳴いてみる白虎。羽織るヤギベストの胸元の白と黒山羊のアップリケのように、かわいらしく努めようとする。
「三、ニ、一。試合終了ぞ」
 玖耀は手を叩きながら、数字を数える。威勢の良かった鷲獅鳥たちは、引き分けにて決着。
 霊騎は目を閉じ、頭を下げた。長くいななく。鷲獅鳥たちに、幸のあらんことを。