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■オープニング本文 ●伊織の里 その名を出されて、高橋甲斐は険しい表情を見せた。 彼に対する上座に座る少年、立花伊織は、慌てて頷き、書状を開いた。 「はい、朝廷と和議の成った修羅について‥‥」 「御館様」 丁寧な少年の言葉を、初老の甲斐は、やんわりと、しかし厳しい口調で遮った。びくりと肩を震わせた少年が、小さく咳払いをして、きちんと居住まいを正す。 「うむ。巨勢王よりも書状が参った。酒天を伊織の里で相まみえて見極めんとの仰せだ」 目下の者に対する言葉遣いに、甲斐は小さく頷いた。伊織もまた、安心したように肩の力を抜くと、書状を畳んで祐筆に下げ、ゆっくりと時間を掛けて下座に向き直った。 「して甲斐。朝廷の意向であればともかく、これは巨勢王の決定である故、異論は許されぬと思う。差配は任せるが良いか」 「はっ。開拓者ギルドにも遣いを出し、万全の体制を整えまする」 ●不思議な依頼 「‥‥先輩、この依頼って変わってますね」 「‥‥お前もそう思うか。実は、俺もなんだ」 神楽の都の、ギルド員たちを悩ます依頼。 お上からの指示と言われ、ベテランギルド員が引き受けた。新人ギルド員も覗きこみ、不思議な顔。 「要するに仮装ですよね、修羅って言う種族の」 「いや、変装だと思うが」 「僕は、あまり見たこと無いんですけど‥‥確か、角がありましたよね。しっぽは、あるんですか?」 猫族の新人ギルド員は、虎猫しっぽを揺らして見せる。 「‥‥多分、ないだろう。ついでにお前みたいな、獣の耳もなかったように思うぞ」 腕組みをして、しばらく唸ったベテランギルド員。新人ギルド員の、垂れた猫耳も指差した。 「修羅の一族に成り済まし、敵の目をあざむく依頼だ。要するに囮役に引き付けて、本物は別経路を行く。 目的地は武天の伊織の里、武天から神楽の都へ至る、街道筋近くに広がる町だ。今回は武天からと、朱藩から行く、二つの道筋が考えられる」 依頼書を手に、ベテランギルド員は説明していく。伊織の里の朱藩方面には、魔の森があり、アヤカシもいると付け加えられた。 「敵は、アヤカシになると思うが。迷惑な山賊とかも居たら、ついでに捕まえてくれ。修羅の名を、良い方向に向ける機会だからな」 お上からの依頼には、注意書きがあった。修羅の一族と天儀の民が、良好な関係を築けるようにと。 「修羅になる者と、護衛役の開拓者が必要だ。あ、そこの猫族みたいに、人間と掛け離れた外見の者には、修羅役は難しいかもしれんな」 猫獣人の新人ギルド員を引き合いに出しながら、ベテランギルド員は説明する。 「まあ、修羅の一族も長旅は初めてだろうし。本心から、旅を楽しんでも良いんじゃないか? おのぼりさんに見える方が、あざむきやすいかもしれんぞ♪ だまし上手、だまされ上手ってな」 どこか楽しげな口調の、ベテランギルド員。ほぼ丸投げ状態で、開拓者に依頼が任されるのだった。 |
■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
及川至楽(ia0998)
23歳・男・志
劉 厳靖(ia2423)
33歳・男・志
鈴木 透子(ia5664)
13歳・女・陰
将門(ib1770)
25歳・男・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
ミル・エクレール(ib6630)
13歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●修羅さまが行く 「変装前提の依頼で、変装の準備がないとか、無いよね? 念の為、自分で作ったの持って来たけど‥‥出来れば専門のが良いしね」 ミル・エクレール(ib6630)は、上目使いに尋ねた。 「心配するな」 ベテランギルド員は、獣耳カチューシャを取り出した。 「これなに?」 「ジルベリア製の角だ。一角と、牛の、耳なし版だな」 「‥‥ばれない?」 「種明かししなければ、分からんだろう?」 無茶苦茶な理論だ。黙ってミルは、牛角を選らんだ。エルフ耳を隠すために、耳ごと手ぬぐいを巻く。手ぬぐいの間から、二本の角が覗いていた。 「イメージアップ戦略って、大事よね」 葛切 カズラ(ia0725)は、カチューシャを手にとり、角の先っぽを突いた。 「たまには、こういうノリも面白いわね〜〜♪」 額にとりつけ、ミルをマネして手ぬぐいを巻く。カズラも、一本角完成。 「なるべく身なりも、似せたほうが良いと思います」 白拍子風の服装を差し出す、鈴木 透子(ia5664)。特例で修羅の服装を、本人から借りてきた。 茨木の友は、昔、都で迷子になっていた茨木童子を保護。酒天童子が心配していると伝えた事がある。 「お心使い、感謝いたします」 ノリとテンションは最高潮。古風な陰陽狩衣に身を包んだまま、うやうやしく一礼する。カズラ修羅さまは、クールな御方らしい。 「皆より一日早く、出発しようと思います」 一行の進路を先回りして進み、下調べする予定の透子は旅支度も済んでいる。渡りの陰陽師は、真面目な性格だった。 「お願いしまーす!」 アル=シャムスの雇われガイドだった、ミル。ウキウキと、透子を送りだした。 「これだけ仕掛けをこらすという事は、先々それなりの苦難が生じるのが、目に見えている‥‥という事でしょうか?」 「神威も、修羅も、人も、エルフも、全部違う姿形なんだし。‥‥彼らだけ怖いって感覚は、分からないけどさ」 不思議がる犬耳の杉野 九寿重(ib3226)と同様に、アルマ・ムリフェイン(ib3629)も狐しっぽを揺らした。 「とにかく、何かしらの一歩には繋がるのには、間違いないのですから」 「さてさて、まあ、依頼主の狙い通りの効果があるかはわからねぇが‥‥」 「でも外見が違うから余計に、修羅個々の中身を感じて貰いたいし、ね!」 九寿重に答えつつ、会話に割り込んできた相手を、アルマは見上げた。劉 厳靖(ia2423)である。 「そんな難しく無さそうだしな、ゆるーくやらせてもらうとしようかね」 「うん。頑張ろうね、劉ちゃん」 「アルマなら修羅でも、似合ってたんじゃねぇーか? あー、その耳やらが邪魔か」 拳を握るアルマを、厳靖は狐耳ごとなでて、からかう。 「耳はダメ! 絶対ダメー!」 「‥‥私の耳も駄目ですよ!」 「二人揃って、逃げんでもいいだろう。はっはっは」 アルマの悲鳴まじりの声に、九寿重も土の指輪をはめた手で犬耳を押さえて、後ずさる。大笑いしながら、厳靖は面白そうに眺めた。 「しゅらさまの、お成ーりぃー!」 及川至楽(ia0998)が片膝をつき、両手をひらひらさせる練習。 「演技は続けながらも、わりと普通に旅楽しんじゃっていいかしらねえ?」 「武天の伊織の里は、神楽の都からも近いし、大丈夫か」 白練の虹彩に黒点状の瞳孔の至楽は、将門(ib1770)を振り返る。遭都の名家の桓武家の嫡男は、黒い髪をかいた。 「やー、俺、あんま出歩かんから、こういうの新鮮でいいわー♪」 長いまつげが、しばたいた。背伸びをしつつ、バンザイする至楽。おのぼりさん気分、全開。戦略の将は、のんきな背中に語りかける。 「朱藩方面の旅路か。俺は、前方に位置して、不測の事態に備えるが?」 「んじゃ、俺は愛想良く、そして羽振り良く、好印象を残しましょ」 「貧乏だけれど」と、至楽は笑う。将門の心は、「目も死んでいるが、愛想いいのか」と呟いた。 ●修羅さま、大いに喜ぶ 「あれって、美味しい?」 「団子にございます」 皿を差し出す至楽。棒読みの台詞も、もの珍しがるミルを伴えば、立派な演技に早変わり。 「修羅サマ、かき氷です」 「冷たくて、おいしいね♪」 ミルは市女笠の薄布を持ち上げ、アルマと一緒にご賞味。美味しさに、ほっぺが落ちそうだ。 「勤勉なのはよろしいのですが、目的を忘れてはいけませんよ」 九寿重は、犬耳を伏せながら忠告する。不自然な行為をして、偽物と分かればすべて終わりだ。 「はっは、ほれ、あんまし気を張ってばかりじゃ、疲れちまうぞ?」 厳靖の腰には、いつも通り、酒の入った瓢箪がある。一呑みし、片手で口をぬぐった。 「日が暮れてしまいます」 見咎めたカズラは、目深に被った笠の下から、声を出す。修羅になりきった眼元が、細められた。 「この先に、天幕が張れる広場があるようだ」 お地蔵さまを参りに行った、将門。手に小さな紙を握り、戻ってくる。先行く、透子からの手紙だった。 半日前。 「アヤカシ?」 渡りの陰陽師は、片方の眉を動かす。集落の近くの森に、アヤカシが出ているらしい。 「私一人で倒すのは、無理です。しかし、修羅さまなれば、あるいは‥‥」 ものうげに、左手が頬に当てられる。伏せ目がちの瞳は、考え込んだ。 「もうすぐ、修羅の一行がやってくるので、その方々に頼むのが最も良いでしょう」 「しゅら?」 「貴重な時間を御身ではなく、民のために費やされることを、選んだ方々でございます。修羅さまが、自由を得ることを許されたのは、本当にわずかな間のみ」 聞き慣れぬ言葉に、口を開けたままの民を見送る。 「情報、もう少し集めましょうか」 進行方向を変えた透子は、集落に向かい始めた。 「‥‥蚊取り豚は、置いても良いかな?」 「超歓迎。蚊に食われるのやーだもんなぁ」 真剣な眼差しで、アルマは背中を向ける相手にに尋ねる。至楽は、楽しげに天幕を張りながら答えた。 「これ、何?」 「線香花火だな。ほれ、こうやって火をつけるんだ」 「まあ、綺麗ですね♪」 アルマの持ち込んだ花火を、厳靖は勝手に拝借する。天儀文化に触れる、修羅さまたち。笠を被ったまま、ミルとカズラははしゃぐ。 「修羅について聞かれたら『外見は俺達と違うが、中身は変わらん。むしろ会った修羅は、善人ばかりだな』で良いか?」 「そうですね。立派な存在である事を、周知するべきだと思います」 修羅さまを眺めつつ、将門と九寿重は話し込む。仲間との意志疎通は大事だ、不測の事態に備える事も。 ●修羅さま、人助けをする 突然ミルが駆けだした。びっくりしたアルマと、九寿重が追い掛ける。 大八車が道端で休んでいた。座り込む若者は、足をくじいたらしい。聞けば、この先の村まで運ぶ途中。 「アルマ、足を治してあげて」 「はいっ」 ミルが呼びかける。アルマが手をかざすと、さわやかな風が吹き抜けた。若者の、足首の痛みが消える。 「大変な荷物だね、運ぶのを手伝うよ」 言うが早いか、大八車の前に周り、引こうとするミル。 「修羅さま、何をなさるのですか?」 「運ぶ手伝い」 慌てる九寿重に、不思議そうにミルは言う。 「おやめください! そのような、か弱き腕では、無茶でございます」 「多少なりとも、お役に立てればと思ったのだけど」 「なんと修羅さまは、慈悲深き方でしょう」 「ボクも手伝います」 腕まくりをしたミルと一緒に、狩衣「雪兎」を衣擦れさせながら、アルマも大八車を引っ張る。九寿重も押すが、動かない。 「将門さん、これを預かってください」 「はい?」 カズラは、将門に荷物を押し付ける。 「私も手伝います」 大八車の前に、カズラも陣取りかけた。 「おやめください!」 「何を言います。この方々の手伝いをするだけです」 「ですが‥‥!」 「心配には及びません」 「修羅さまは、なんと深いお言葉か!」 修羅さまのカズラの、主張。言い返せず、荷物持ちの将門はいいよどむ。腕を掴んで引き止める至楽は、感動。 「しかたないねぇ。修羅さま、俺が引っ張りますよ」 ため息をつきながら、厳靖は動き出した。 「あの怠け癖のある劉の方が、自ら、奉仕を申し出るとは!? 一体、なにが‥‥」 「修羅さまの清きお心が、うつったのでございましょう!」 目の前の出来事に、仰天する将門の隣で、至楽は感涙の解説をする。なにげに、ひどいことを言っている、二人。 「ほれほれ、おまえたちも、手伝いだ」 厳靖は、笑顔を浮かべた。腹の中では冷静に物事を把握し、冷徹な判断を下す。 「頭を引っ張らないでくれ!」 「ちょっと、首しまってる!」 「良いから、来い、来い♪」 将門の鬼咲の鉢金の裾と、至楽の護身羽織のえりくびを、厳靖は掴んだ。力いっぱい、引きずり倒し、大八車へ向かう。二人の悲鳴が響いた。 透子は迷う。 「私が、探しに行きます」 くだした結論。仲間を待つには、時間が少ない。 悪戯っ子は、親の言いつけを守らず、森に遊びに行った。アヤカシが居るとも知らずに。 「退治は、別ですが‥‥」 すまなそうに告げる。倒せなくても、逃げ切ることはできるはずだ。 ●修羅さまの世直し旅 「アヤカシ退治? 俺は護衛だから、雇い主次第だな」 ちらっと将門は、後ろのカズラとミルに視線を流す。 「困った人は、助けないと!」 「人助けこそ、我が願いです」 笠を被った二人の頭が、大きく揺れ動く。拳を握るミルに、カズラは頷いた。 「だ、そうだが?」 「ったく、まあ、修羅さまに言われちゃ働かねぇ訳にはいかねぇな」 将門は視線を移す。頭をかきあげ、厳靖はやれやれと手を挙げた。 「劉ちゃんが頑張ってくれ‥‥頑張ってもらうからっ!」 「ほれ、アルマ、頑張れ!」 「うっ‥‥サボるなんて聞こえないよっ!」 とぼける厳靖に、アルマの狐しっぽが垂れ下がる。 「さすが修羅さま、さあ、参りましょう!」 「あの、道が違いますね」 「おりょ?」 極度の方向音痴ぶりを発揮する、至楽。九寿重の犬耳が、困ったように動いた。 「悲鳴? あっちですね」 透子の耳に届いたのは、子供の叫び声だった。近い。木々の間を走り出す。 「悲鳴だ!」 「修羅サマ、待って」 ミルは森の奥に。後方にいたアルマも、追い掛けだした。 「おいっ! ‥‥邪魔だ!」 「ちゃっちゃと終らせて、先に進もうぜ」 二人に気づいた将門が呼びかけるも、剣狼に阻まれる。厳靖は面倒くさげに言い放ち、眼前に刃を構えた。 厳靖は剣狼の背をいなし、大鎧「双頭龍」が残りを受け止める。肩の龍は、背の刃をくわえて離さない。 将門の足元で、小石が跳ねた。地を離れた右足は、一気に踏み込む。いくえにも分かれた切っ先、刀は剣狼を切り裂いた。 「うひゃ‥‥危ない、危ない」 たたらを踏みつつ、至楽は剣狼の攻撃を避ける。左足を軸足にして回り、退いた。 隙をつき苻を空に投げると、雷鳴がとどろく。苻から稲光が走り、刀に宿った。そのまま、切り付ける。 「行くわよ!」 カズラが、走ってくる。両手で握り込んだのは、背丈より大きい砕魚符のマンボウ。 両踵を揃えて、見事なフルスイングをお見舞いした。耐え切れず、霧散する剣狼。 拍手する至楽に向かい、カズラは額の汗を拭った。 「危ないですね」 身を盾にして、九寿重はカズラを守る。勢いで、身体は後ろに下がった。 両足で踏ん張るが、犬耳は伏せられたまま。押し切られそうだ。 カズラが後ろから、やって来る気配。もう一丁行ってみよう、マンボウ! 「修羅サマ!」 森の中で、一匹の剣狼が飛んだ。子供をかばうミルの笠が吹き飛ぶ。頭に生えた、二本の角があらわになった。 「大丈夫?」 子供に問いかけたミルの顔が、苦痛に歪む。背と頭に流れる、赤い筋。駆け寄ったアルマは、治癒をしようとする。 「ここはボクに任せて、早く逃げて!」 「わ、分かりました!」 アルマは、泣きじゃくる子供を抱え上げる。 「こ、これぐらいで、ボクは負けない。アヤカシには、負けない!」 薙刀を杖がわりに、ミルは立ち上がる。鬼気迫る表情。飛び掛かる剣狼の牙が、ミルの右肩を食い破った。 「修羅サマ!」 子供を庇いつつ、アルマは叫ぶ。 木の陰で、舞い散る桜が見えた。陰陽符「乱れ桜」から、呪縛符が放たれる。 「間に合って下さい」 透子の呪縛符は、地に足を着いた剣狼の動きを阻む。ミルは、痛む身体をひねった。 「消え失せろ!」 怒気をはらんだ声音と共に、薙刀「戦姫」が大きく振り下ろされる。黒百合の幻影は、剣狼を頭から真っ二つにした。 「修羅サマ、しっかりして下さい!」 力尽き、ミルは地面に倒れこむ。抱き起こし、必死で声をかけるアルマ。どこからか、スズメの鳴き声も聞こえる。 「傷は浅いです。すぐに治療しますから」 「あ‥あの子は?」 血まみれの手が、空をさ迷う。泣き声にミルが視線を動かすと、子供の顔が見えた。 「大丈夫です、修羅サマがお守りになったんです!」 「そう‥‥役に‥‥立てたんだ」 アルマの声が遠くなり、ミルは意識を手放す。 「修羅サマ!」 叫ぶアルマの頭上で、心配そうにスズメが旋回していた。 「ご迷惑をおかけしました」 「治療の場を提供して頂き、感謝の言葉もありません」 感情を表現する事が苦手というミルは、深々と頭を下げる。頭には手ぬぐいのかわりに、白い包帯が巻かれていた。 カズラの堂々とした挨拶。会釈する額には、一本の角が生えていた。「修羅さま」と呼ばれる者たちの頭に驚く者は、集落に居ない。 「しかし、まさかスズメが薬草を運んでくるとは‥‥身を呈した行動に、感服したのかもな」 読書家の将門は、顎に手をやり唸る。昔読んだ戯曲や物語の内容が、現実に起こったことが、一番の驚き。 「いやはー、さすが修羅の一族であらせられる! なんとすばらしいお方でしょう!!」 至楽のけだるげな声は、どうでもいい時もやる気がみなぎっている。棒読みで、やたら力強く言い放つ台詞も、今は説得力にあふれていた。 「よっ、さすがだねぇ! お前もそう思うだろ、アルマ。はっはっは!」 「劉ちゃん、上から押さえつけないで! あ、神威もよろしくね、彼ら‥‥修羅サマと同じで怖くないからっ」 適当オヤジと言って、はばからない厳靖。劉家の元当主は、豪放磊落な笑い声をあげる。隣の狐耳の頭を、かき混ぜた。 狐耳を伏せるアルマは、神威の里出身の神威人。乱暴な厳靖の手から、再び逃げ出した。その様子に、修羅も、神威も、人間と同じ笑顔を浮かべる。 「名残惜しいですが、そろそろ参りましょう。まだ道中は、残っております」 修羅さまの護衛の犬耳は、道を指差す。礼儀作法を会得している、九寿重の促しに、皆は頷いた。 「さて、旅立ったころでしょうか?」 影でこっそり、自分のしたいことをした透子。ひと足先に、伊織の里へ向かい始める。足に薬草を結わえていたスズメの正体は、透子の人魂。 一行の旅は、もうすぐ終着点。修羅さまの世直し旅のうわさが、街道に広まる日も近い。 |