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■オープニング本文 神楽の都の開拓者ギルド。ご機嫌うるわしく、虎猫しっぽが踊っていた。 「喜多(きた)。今日はずいぶん、しっぽが動いているな」 「えっ?」 「何かあったのか?」 「いえ、これからです。明日、伽羅(きゃら)と、遊ぶ約束をしていて‥‥」 「なるほど、楽しみなわけだ」 「はい、ちょうど天儀の七夕ですよね。その飾りつけをするんですよ♪」 「妹さん、喜びそうだな! 後片付けは置いといて、もう帰れ。俺がやっておこう」 「えっ、でも‥‥」 「ほら、妹さんと嬢ちゃんが、迎えにきているぞ」 「あ‥‥すみません」 入り口から、猫又を抱えた、猫娘が覗きこんでいる。ベテランギルド員は、新人ギルド員の背中を押した。 「弥次(やじ)先輩、ありがとうございます」 「またな、気をつけて帰れよ」 礼を述べる、新人ギルド員。猫娘と仲良く手を繋ぎ、ギルドを出て行く。後を追い、猫又のしっぽも外に消えた。 「‥‥そう言えば、喜多のやつ。天儀の七夕がどんなものか、知っているのか?」 兄妹を見送った、ベテランギルド員の眉が動いた。腕組みをして、難しい顔になる。 新人ギルド員は、笹に飾りつける事すら、知らないかもしれない。笹くらいは、ベテランギルド員の家から、わけてやれるが。 「ちょっと、すまん。明日の予定は、決まっているのか? もし暇なら、頼みがあるんだ」 ベテランギルド員は、居合わせた開拓者に、声をかける。泰出身の猫族たちの、七夕の様子を、見てきてくれるように。 「兄上、帰りにお買い物するです?」 「そうだね、どこかに寄ろうか」 「七夕の飾りも、買うんやろ?」 「いっぱい、いっぱい、魚を飾りたいのです!」 「伽羅。お魚だったら、干物にしないと腐っちゃうよ」 「にゃ?」 「荷物が、ぎょうさんになりそうやな」 「じゃあ、買い出しは、明日にしようか。朝ご飯を食べたら、出かけようね」 「昼から、お家を飾るのです!」 「玄関も、一緒に飾ろうで♪」 のんきに、七夕の会話をする猫たち。ベテランギルド員の悪い予感は、的中しそうだった。 「この先のお店で、飾るための、太い糸を発見したのです。買ってほしいのです!」 「すみません、このキュウリを‥‥」 「兄上、兄上! 伽羅のお話、聞いてるです?」 奥様たちに混ざり、野菜を吟味する新人ギルド員。幼い妹は、兄の服を引っ張り、気をひこうとする。 「ごめんね、兄上は手が離せないんだ。おかずを買わないと、今日の晩ご飯がないんだよ?」 「うにゃ‥‥」 猫娘の折れ曲がった猫耳が、ぺたんこになった。虎猫しっぽも、悲しそうに揺れる。 晩御飯抜きは、嫌だ。でも、お話も聞いて欲しい。泣き出しそうになる妹に、兄は慌てた。 「そうだ。藤(ふじ)と一緒に、買ってきてくれるかな。お使い、できるよね?」 「はいです! 藤しゃん、行くのです♪」 「行こ、行こ♪ えらい太い糸やったから、きっと切れへんで」 猫娘と猫又は、嬉しそうに、はしゃぐ。代金を貰うと、意気揚々と八百屋を出た。 「この束が、欲しいのです」 「おや、お嬢ちゃん、お使いかい?」 「そうです!」 「えらいね」 「ありがとうです♪」 お店の女将さんに、包んでもらった大きな紙包み。大事に、大事に、猫娘は抱えこむ。 「伽羅はん。おつりは、大丈夫なんか?」 「にゃ‥‥大丈夫です♪」 「ほな、帰ろう♪」 猫又の一言に立ち止まり、お金を数える猫娘。猫又を肩に乗せ、帰路を急ぐ。 太い糸の束を見て、兄は喜ぶだろう。‥‥今夜のご飯は、そうめんだと。 |
■参加者一覧
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
言ノ葉 薺(ib3225)
10歳・男・志
東鬼 護刃(ib3264)
29歳・女・シ
フェムト・パダッツ(ib5633)
21歳・男・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
神爪 沙輝(ib7047)
14歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●目利き、味利き 出かけようとした猫族は、玄関で立ち止まった。 「伽羅も、喜多も、久しぶり〜♪」 大きく手を振る人影に、見覚えがある。伽羅の命の恩人の一人、アムルタート(ib6632)だった。 「七夕ってやつ、やるんだって? 一緒に混ぜて♪」 弥次から預かった笹を、運んできた。飾る為の糸役の木の葉っぱ、シュロも忘れていない。 「兄妹で七夕を、かぁ‥‥駄目駄目っ。ちゃんと、楽しむ手伝いをしないとっ」 神爪 沙輝(ib7047)も、笹の影から顔をのぞかせる。家族を失ってから、初の七夕は、賑やかに過ごせるだろうか。 「でも、羨ましいな‥‥」 仮初を使用した顔は、笑顔のまま。足元の小石を、蹴飛ばした。 「七夕ねぇ。こっちの夏の風物詩、楽しんでもらいたいねぇ」 流しそうめん用の竹を担いだ、不破 颯(ib0495)。理穴の武家の長男は、口元に笑みを浮かべる。 「参加してみたものの、実は七夕を知らないんだよね」 黒豹耳をかいてごまかす、フェムト・パダッツ(ib5633)。手首の琥珀珠の勾玉が、さわやかに輝く。 「天儀の七夕は、織り姫と彦星の七夕伝説とかぁ。短冊には願い事書くと、織り姫と彦星が叶えてくれるとかぁ」 「楽しみだ♪」 颯の話に、黒豹しっぽは興味津々。 「ちゃらららん、陰穀西瓜〜。冷やしておいて、おやつに食べよう!」 颯の後ろから、白猫のお面が顔をだした。お土産のスイカを差し出す。 「藤ちゃん、また会えたね!」 お面の下の素顔は、神座亜紀(ib6736)。膝まで届く、少し癖のある自慢のロングヘアをなびかせる。 「‥‥そうだ、お芝居をやらないかい? 織姫と彦星が、一年に一度だけ、会う事を許された日の」 「私、先約があるの。藤ちゃんと花火するから」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)の呼びかけに、少し考えるそぶり。亜紀は藤を指差し、真顔で答えた。 誘いを断るのは、照れ隠し。フランヴェルは、都合よく脳内変換。 「じゃあ、ボクが彦星、伽羅ちゃんが織姫さ! きっと楽しいよ!」 「にゃ♪」 次は伽羅の肩に手を。嬉しそうに猫しっぽが揺れた。 「さて、皆様が買い物に出ている間に、私達は料理のほうを準備しておきましょうか」 「そうめんがある事じゃし、天の川に見立ててみるかのう」 灼狼の垂れた狼耳が動く。古龍の角も、材料を点検中。言ノ葉 薺(ib3225)と東鬼 護刃(ib3264)は、台所にいた。 「折角の七夕ですし、やはりそれらしい料理がいいですよね。断面が星に見えるオクラや、ニンジンを星型に切ったサラダを用意してみましょうか?」 「後は、ちらし寿司辺りかえ。薺には下拵えや、飾り付けでも頼むとするかの」 「料理の細かい部分や調理は護刃に任せて‥‥っと、私が飾り付けを?」 神無武平簪を揺らす護刃から、皿を渡され、戸惑う薺。 「飾り付けに、頭悩ませるのも楽しかろう?」 「えぇっと、こういうのはやったことが無いのですが」 ふところで、白鞘に納められた守刀「護刃」も、手伝えと言っている。薺は気合を入れた。 「伽羅さん、暑いから帽子を被らないとだめだよ」 「ありがとです」 亜紀の蜻蛉帽子を貸してもらい、ご機嫌な猫しっぽ。 「なに買うの?」 「飾り付けの材料に、ボクは折紙かな」 「いろいろ飾りつくれるね」 アムルタートの質問に、亜紀は答える。沙輝も思案顔。 「楽しみにしておくよ」 少女たちの保護者をかってでた、フランヴェル。今回は皆で楽しい時間を過ごす事に、専念中。 「むぅ、これでいいんでしょうか?」。 酢飯を作るのは大変。うちわで扇ぎながら、手早く混ぜる薺。 「ただいまぁ、材料だよぉ」 買い出し組が戻って来た。颯はトマト、オクラ、トウモロコシ、キュウリにニンジンをみせる。 なぜか梅干し、辛いシシトウや、サクランボ。塩辛や漬け物も。 「おぬしたちを、待っておったのじゃ!」 護刃から、喜多に押し付けられた、かっぽう着。猫の手も借りたい。 「料理、はっきり言って鉄板焼きくらいしか作れないから、俺に期待するなよ?」 かっぽう着が似合う、フェムト。卵焼き係、やる気満々である。 ●笹も、木だよね 「これなら、天の川っぽいよね!」 アムルタートが持ってきたのは、左右に飾りの宝珠がついたジプシークロース。 「それは後だね」 『世界からアヤカシも争いも無くなりますように』 自分の短冊を飾ろうとしたフランヴェルは、意見を述べる。 「できたよ、か・ざ・り♪」 違う、ひな人形と言うやつだ。フェムトは黒豹しっぽを揺らし、てっぺんに取りつける。 「はい、折り紙の飾り‥‥って、あれ?」 隣室から、たくさんの飾りを手に出てきた、沙輝の動きが止まる。 「これ、何?」 「彦星と織り姫」 『たくさん不思議に出会えますように』 短冊に願いを書いた亜紀も、輪飾りを持ったまま、笹を凝視。お内裏さまとお雛様は、すまし顔で鎮座している。 「‥‥え、人形吊るんじゃないのか? いいじゃん可愛いから、吊っちゃえ☆」 フェムトは、泰南方の少数部族出身。向こうの風習だろうと、都合よく解釈された。 「雨降ったら二人が会えないからなぁ。そのための個人的な願掛け、みたいなもんだぁ」 『三食団子が食べたい! 四つの儀巡り世界一周の旅!』 颯も短冊と一緒に、てるてる坊主をつるす。あらぬ方向へ転がっていた飾り付けは、加速。 「伽羅〜、短冊書こ〜♪ なに書こうかな〜?」 猫しっぽを揺らす伽羅の前で、アムルタートは短冊をかく。 『楽しい人生! 色んな踊りもっと見たい! それから‥‥』 「踊りたいって事に関しては、特にないかな。だってそれは、頼む事じゃないもん! 私次第だし♪」 短冊は、どんどん継ぎ足されていく。 紫電一閃。 「とぅっ!」 沙輝の死鼠の短刀は、糸束を叩き切る。半分ずつにして、二つの吹き流しの完成。 「すごい、すごい」 手を叩き、喜ぶフェムト。白い虎しっぽが、自慢げに揺れた。台所から近づく、二つの影。 「そうめんが無いと思ったら。何をしとるんじゃ!」 「ああ、なんてことを‥‥」 軽く怒り、護刃は糸束を没収する。短くなったそうめんを前に、薺は頭を抱えた。 「食べ物で、遊んだらダメじゃよ」 「このそうめんは流さず、器に盛り付けましょう」 「ずいぶん堅い糸と思ったら、そうめんかぁ。ごめんなさい」 龍の角を揺らし、護刃は言い聞かせる。狼耳を伏せ、ため息をつく薺。しょんぼりして、沙輝は謝った。 「あれ、食べ物なんだ」 「糸を食べる文化って、不思議だね」 「砂漠でも、糸は食べた記憶ないよ!」 泰のフェムトの隣で、ジルベリアのフランヴェルは感心。アル=カマルのアムルタートも、驚きの声。 間違った天儀の文化を学習中。 外に運び出し、布をかけた笹を立てらせる。沙輝とフェムトと颯が屋根の上から、荒縄で引っ張り上げた。 「甘酒が、冷えましたよ」 「はよう飲むのじゃ」 「三時のおやつさ」 料理が一段落した、薺と護刃が声をかけた。フランヴェルは、縁側で甘酒を、竹筒に汲み分けている。 「甘酒?」 「美味しいから♪」 アムルタートが聞き返した。亜紀の目が輝き、共に家に入るように促す。 「甘酒だって♪」 「美味しそうだね」 沙輝も、嬉しそうに続く。のんきに追い掛ける、フェムトの姿も。 『大切な人達の幸せな人生を願う』 笹を引っ張り、こっそりとてっぺんに短冊をつるしていた颯。 「‥‥あれぇ?」 隣にいたはずの者たちが居ない。慌てて上から覗きこむと、白虎しっぽと黒豹しっぽが庭で揺れている。 完全に出遅れた。酒好きで、大の甘党の颯。どこか鬼気迫る表情で、はしごを降りる。 「大人用の、甘くない酒も無いのかなぁ?」 「お酒なら、台所にありましたよ。調味料に混ざっていました」 甘酒を手に持ち、皆に配っていた薺。颯の台詞を聞き、口を挟んだ。 「ああ、お土産に貰った、泰の古酒ですよ」 手を打つ、喜多。にへらと、颯が笑った。薺を引っ張り、台所に連れ出す。 「確かここに‥‥ほら、これです!」 「いい匂いだねぇ♪」 薺は、古びた酒瓶を見つけだした。少し匂いをかぎ、颯は蓋を元に戻す。楽しみは、夜にとっておこう。 「ほら、伽羅ちゃん、亜紀ちゃん」 おいでおいでと、フランヴェルは手招きする。藤も、しっぽを揺らし寄って来た。 「藤君も、飲むのかい?」 「‥‥藤ちゃん、これあげるよ」 亜紀は手の平に甘酒を少しとり、藤にみせる。 「うまいな♪」 「ふふっ、美味しい」 満足そうに顔を洗う藤。亜紀も一口飲んで、頬を緩ませる。冷たい甘酒は、喉越しが良い。 「亜紀ちゃんは、美味しいか。伽羅ちゃんは?」 返事の代わりに、猫しっぽが振られた。フランヴェルと幼女たちとの信頼関係は、一歩前進。 「七夕って、オリヒメとヒコボシが審査して、一番綺麗な笹の願いを叶えるって聞いたよ!」 「初耳じゃな。昔は針子の腕が向上するように、願うものだったらしいが‥‥さて」 甘酒を飲みながら、アムルタートは仕入れた知識を披露。酒に弱い護刃は、片付け係。 「短冊は、学問や芸事の上達祈願。吹流しは、織姫の織り糸や長寿祈願だよ」 「ほう、物知りじゃのう」 沙輝は、昔、兄に教わった知識を思い出す。護刃は興味を示した。 「一番上の紙衣は、神様に捧げた衣で、病気災害を除く身代わり人形と、裁縫の上達祈願の二つの意味とか」 「あれ、豊作と豊漁を願う投網って習った! 猟師の俺には、縁薄いけど」 甘酒を飲み干したフェムトは、指さす。網飾りの側には、猫族用飾りの干物とスルメも揺れる。 「私も覚えたよ。巾着は節約と貯蓄で、千羽鶴は家族の健康と長寿祈願!」 アムルタートの手の平には、教えて貰った折り紙の鞠。あとで、喜多と伽羅にあげる予定だ。 「あれは、なんじゃ?」 「くずかご、清潔と節約の心がけ♪」 「おぬし、主婦の鏡になれるのう。わしが保証するぞ」 護刃のお墨付きをもらい、沙輝の白い虎しっぽが笑った。 ●星に願いを 「おお、織姫。どうしてきみは、織姫なんだ」 「にゃ、彦星様。どうしてあなたは、彦星様なのです?」 烏帽子に狩衣「雪兎」、繍靴を身に付ける彦星役のフランヴェル。旗袍「白鳳」をまとう織姫の伽羅に、手を伸ばした。二人を隔てるのは、流しそうめんの川。 「なんて悲しい話‥‥」 目頭を抑える、アムルタート。その場のノリで、感情が突っ走る。 「泣くのはおよし、彦星やぁ」 陣羽織「白鳥」を着た、颯。はしを流しそうめんの上にかける。 橋とお箸。若干違うが、気にしたら負け。 流れてくるそうめんを、フランヴェルはすくおうとした。そうめんは引っかからず、すべてタライへ。 「ああ、そうめんよ。どうして逃げるんだい?」 「なんて、可哀相な彦星‥‥」 ジルベリアの貴族には、乗り越えるべき障害物が高かったらしい。大地に崩れ落ち、悲しみもあらわ。 もらい泣き。再び目頭を抑えるアムルタートも、悲嘆にくれる。 「織姫。さあ、今こそぉ」 「彦星様、一緒に食べるのです」 白鳥は織姫の手を引き、彦星の元へ誘導する。織姫は、そうめんの入ったお椀を差し出した。 「見てごらん。夜空の星々は皆、ボク達の再会を祝福して、瞬いているんだ!」 彦星は立ち上がった。お椀を受け取り、夜空の星を指し示す。見上げる織姫。 「こうして、二人はそうめんを仲良く食べるのでしたぁ」 「ついに出会えたよ、本当に良かったね♪」 劇は大縁談。まとめる白鳥の颯とアムルタートは、握手を交わす。 二人は火のついた線香花火を両手に、花火二刀流で祝福。影の立役者たちにも、盛大な拍手を。 短冊を握りしめ、笹の側から離れない、沙輝に呼びかける声。 「なにか、大切な願い事ですか」 「な、何が?」 後ろ手に隠した短冊には、叶うことなき願い事。 『兄様や、弟に会いたい』 沙輝は、喜多の顔色をうかがう。喜多は目を細めた。 「向こうで、花火をします。誰もいなくなりますから、今のうちですよ」 優しい眼差しは、どこの兄でも同じかもしれない。沙輝によぎる、思い。 「‥‥ありがとう」 きびすを返し、去っていく喜多の背に、つぶやくお礼。背伸びして、短冊を飾る。我慢できずに、仮初を解いた。 「兄様ぁ‥‥聖也ぁ‥‥逢いたいよぅ。‥‥沙輝を置いてかないで」 切なかった。沙輝を大切にしてれた兄や弟は、雲の上。笹に顔をうずめて、泣き声を殺す。流れ星がいくつも、頬から流れた。 「沙輝さん、ここに居たんだ。花火しよう?」 「あ、うん、行く」 亜紀は笹の側で座りこむ、沙輝を見つけた。沙輝は、笑顔で返事。とっさに心を守る仮面を被る。 「この花火、面白いんだよ」 「花火? 見たい、見たい!」 花火を取り出す、亜紀。喜ぶフェムトと、藤の目の前で、火をつけた。 「おおっ!? 追い掛けてくる!」 「なんや、これ!」 黒豹しっぽと三毛猫しっぽが、一気に膨らんだ。ヘビ玉花火の先っぽから逃げ惑う、藤。フェムトもスイカ片手に、黒豹君踊りを発表する。 「二人とも、この花火、苦手なんだ」 亜紀の隣で、首を傾げる沙輝の手には線香花火。大きな炎は苦手だが、花火は大丈夫らしい。 「亜紀はん、ひどいわ‥‥」 「ごめんね、そんなつもりは無かったんだ」 亜紀は、泣きじゃくる猫又を抱え上げる。謝り、頭をなでた。 「ヘビ玉は、伸びるんだよ」 「‥‥次は説明してから、点火してくれると嬉しいな」 沙輝の遅い説明に、フェムトは黒豹しっぽを膨らましたまま、お願いを口にした。 「天に流れる数多の星に隔たれ、ただ想い焦がれた逢瀬の時。何を想うんじゃろうなぁ‥‥」 屋根の上に、星を眺める護刃の姿。 「空が曇りましたね」 恋人を追い、はしごを登る薺。ただ一人の女性だけを愛すると、今は心に誓いを立てている。 「いや然し曇っておらんと、織姫も彦星も大変とは思わぬか? 折角の年に一度の逢瀬を、皆から見守られているんじゃからの」 「そうですね、しばらくは我慢しましょう」 護刃は、軽く笑みを浮かべる。薺は腰を降ろしながら、同意した。 「なんじゃ?」 屋根の上の織姫に、彦星は勇気を振り絞る。ぐっと手を握った。照れ臭くなり、顔は前をむいたままである。 予想外の出来事、織姫は彦星の鼻を突いた。固まる彦星に、織姫は無垢な笑みで答える。 「短冊、何を書いたのですか?」 照れ隠しの質問を、薺はぶつけた。 「おぬしこそ」 「『小さな幸せが、訪れますように』ですよ。果たし望むべき事は幾つもありますが、それは、私が自分で叶えますので」 「わしの事では、ないのか?」 「織姫と彦星に願うのは、酷というものでしょう。護刃は?」 悪戯っこの笑みで、薺は尋ねた。屋根の上の織姫は、彦星にささやく。 『月が翳らず、欠けず、満ちる事を』 想いを違わず、育てて行ける事。それが護刃の願い。今度は道を違わぬように、愛する者と共に、目指すべき道を歩むために。 寄り添う二人の上に、今宵流れる、星の川。空に掛かるは、心の橋。想いを謳い、祝福を‥‥。 願わくば、こうして笑みと幸せを。いつまでも。 |