白梅の里の理穴旅日記
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/01 19:50



■オープニング本文

 神楽の都のギルドを、物珍しそうに見渡す影がある。
「花梨姉ちゃん、ここがギルド?」
「はい。私たち開拓者が、依頼を受ける場所です」
 キョロキョロと忙しい少年に、説明するサムライ娘。
「おや、花梨さん、こんにちは」
「あ、喜多さん。こんにちは」
「また依頼ですか?」
「違いますよ! 今日は、ギルドの見学に来ました」
「それは失礼しました」
 見知った顔を見つけ、受付の新人ギルド員は声をかけた。ちょっと頬をふくらませながら、サムライ娘は答える。新人ギルド員は謝り、頭を下げた。

「花梨姉ちゃん。ギルドの人と知り合いなの?」
「そうですよ、良助君。何たって、開拓者ですから」
「わぁ、すごいな!」
 少年はサムライ娘の服を引っ張り、不思議そうに問いかける。胸を張り、誇らしげにサムライ娘は答えた。少年の尊敬の眼差し。
「ギルドの兄ちゃん」
「はい、なんですか?」
「ギルドって、困ってる事を解決してくれる場所だよね?」
「そうですよ」
 キラキラした視線のまま、少年は見上げる。にっこり笑って、新人ギルド員は答えた。

「僕、困ってる事があるんだけど‥‥」
「どんな事ですか?」
「花梨姉ちゃんの隣の国に‥‥」
「良助君! 理穴は危険だからダメって、言いましたよね?」
「だって‥‥」
「だってじゃないです。理穴の東は、魔の森があるんですよ!」
 少年の言葉を、サムライ娘がさえぎった。強い視線が睨む。
 何か言いかけて、少年は止めた。唇をかんで、うつむいてしまう。

「ずいぶん騒がしいな」
「先輩」
 サムライ娘の大きな声は、奥まで届いた。ベテランギルド員が出てくる。
「どうした、坊ちゃん」
「‥‥兄ちゃんは『うち掛け』って知ってる?」
「うち掛け? そうか、理穴の染め付けの反物が欲しいんだな。姉さんの婚礼でも、近いのか?」
「兄ちゃん、すごい! 全部当てちゃった‥‥」
「俺は、ギルド員だからな。理穴に行きたいのか?」
「うん。でも花梨姉ちゃんは、アヤカシが出るからダメだって」
「おい、おい。理穴の全てに、居るわけじゃないぞ」
「‥‥本当?」
「ああ。俺は理穴で生まれ育ったんだから、間違いない」
 少年と目線を合わせながら、ベテランギルド員は話しかける。まくし立てる少年。
 笑いながら、ベテランギルド員は語った。
「弥次さん!」
「娘さん、偏見は目を曇らせる。それに開拓者なら『アヤカシは退治するから大丈夫』くらい、言ったらどうだ?」
「‥‥すみません」
 異議を唱えかけたサムライ娘を、元開拓者のベテランギルド員は一喝。
 咎められたサムライ娘は、口をつぐむ。下を向く視線は、いじけていた。

「そうだな‥‥、喜多。昨日、頼んだ依頼を持ってきてくれるか? 奏生へ行くやつだ」
「はい!」
 少し悩んだベテランギルド員の言葉。喜んで新人ギルド員は、返事をする。
「理穴の知り合いなんだが、呉服問屋でな‥‥」
「先輩、持ってきましたよ!」
「おお、ありがとう。武天の反物を運ぶ依頼を、頼まれたんだ」
「兄ちゃん、それって‥‥?」
「娘さん、受けてみる気はないか? 希望するなら、同行人の護衛も書き加えてやるぞ」
「こんな機会めったにないですよ!」
「花梨姉ちゃん、お願い!」
「‥‥分かりました。でも、父の意見を聞いてからです!」
「明日には返事をくれ、待っているぞ」
「はい。今日は失礼します」
 複雑な顔のサムライ娘。少年を引き連れ、ギルドを出る。心配そうな新人ギルド員。
 二人を送り出した後で、ベテランギルド員は腕組みをした。


 翌日。サムライ娘はギルドにやってきた。同行人達を連れて。
「良助。気持ちは嬉しいが、花梨やギルドの人に迷惑をかけるなよ」
「‥‥ごめん、清兄ちゃん」
「まぁまぁ。めでたいことですから」
 青年に怒られる少年。間に新人ギルド員が割って入る。
「弥次さん、よろしくお願いします」
「分かった。反物と一緒に、客も行くと伝えておくぞ。護衛はどこまでだ?」
「朱藩の従兄弟の家まで、お願いします。これが護衛の報酬です」
「預かっておこう。理穴経由で、お客を朱藩まで送ってくれと‥‥。これでよし」
「あの‥‥本当に良いのでしょうか?」
「ああ、心配はいらないさ。良い婚礼衣装がみつかるといいな」
「はい。ありがとうございます」
 諦め顔のサムライ娘は、ベテランギルド員に告げた。ほっとした表情の村娘。ベテランギルド員に、深々とお辞儀をする。
「清兄ちゃん、理穴って、どんなところ?」
「俺も初めての場所だ。行けばわかるさ」
「そうだね♪」
「すみません、花梨さん。弟が無理を言ってしまって‥‥」
「いえ、気にしないで下さい。美しい反物には、私も興味ありますから」
 新しい旅に心が踊る。賑やかに、四人はギルドを後にした。
「喜多、ちょっと任せたぞ」
「理穴への連絡ですね」
「ああ」
 笑顔で見送る新人ギルド員。ひらひらと手を振り、ベテランギルド員は席を外した。




■参加者一覧
純之江 椋菓(ia0823
17歳・女・武
空(ia1704
33歳・男・砂
涼月 怜那(ia5849
20歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
沖田 嵐(ib5196
17歳・女・サ
オルカ・スパイホップ(ib5783
15歳・女・泰
山奈 康平(ib6047
25歳・男・巫


■リプレイ本文


 染付前の反物は、光沢を持っていた。絹の反物を眺める、ウサギ耳。
 後ろ姿に見覚えがある。沖田 嵐(ib5196)は、前に周り込んだ。
「オルカじゃないか!」
「はろはろ〜♪ え、えっと〜、とりあえず〜なんでココにいるんだっけ?」
「あたしは反物を、無事に届ける手伝いだ」
「わわ、一緒だねぇ〜♪ 僕もだよ〜」
「今回は、よろしくな」
 嬉しさで、ぴこぴこ動くウサギ耳。持ち主は、オルカ・スパイホップ(ib5783)。
 同じ「日の輪小隊」仲間の、嵐とオルカは手を打つ。
「さて‥‥、行程は理穴に寄ってから、朱藩だったな」
「はい」
「ある程度は、予定を立てておいた方が良いだろう」
 反物を前に、琥龍 蒼羅(ib0214)は、見知った花梨に確認を取る。顎に手をやり、思案顔に。
「神楽の都から理穴にイくならオススメは、石鏡を抜けて、陰殻通ッて‥‥東からだ」
「どうして?」
「丁度シノビの里やら、‥‥の森があるから、中々にエキサイティングな旅路になるぜェ」
「じゃあ、東に行こうよ!」
 途中の言葉が、良く聞き取れない。にやりと笑う空(ia1704)。シノビの里に、良助は引き付けられた。
「西を行くべきですよ!」
 純之江 椋菓(ia0823)が、待ったをかける。石鏡の出身、三位湖のほとりに居を構える家の生まれ。
「陰殻なんて、次にどこに行くか、分かっていますか?」
「どこなんだ?」
「‥‥冥越です」
「冥‥‥!」
 椋菓は眉を寄せ、重苦しい答えを吐く。清太郎も、花梨も、言葉を失った。
「冥越?」
「魔の森に覆われ、『無かった』ことになっている国です」
 世間知らずのりんは、小首を傾げる。答える杉野 九寿重(ib3226)は、腰の名刀「ソメイヨシノ」へ視線を反らせた。
「魔の森に近づくのは、感心しません。ましてや、護衛依頼ですよ?」
 九寿重の犬耳が立ち、口調が険しくなった。遠く離れた北面、縁戚のある地にも魔の森は迫る。
「さすがに警戒しないわけには、いかないよね。アヤカシだけじゃなくって、山賊とかが出るかもしれないしさ」
 涼月 怜那(ia5849)も同意。日照宗の神社の娘は、安全祈願と平和がこめられた、藍晶石のお守りを弾いた。
「その為に雇われてるんだし、お仕事はきっちりしないとね」
「海沿いに行くのが、良さそうだな」
 ムードメーカの怜那は、おどけたように笑う。その言葉を受けて、傍観していた山奈 康平(ib6047)も、口を開いた。
「旅の後半なのだな? 疲れは、ないか?」
「大丈夫♪」
「そうか」
 康平は屈みこみ、一行のなかで一番幼い良助に声をかけた。くるりと回ってみせる良助に、頷く。



 神楽の都から出て少し。先頭を行く集団。
「花梨、開拓者生活はどうだ?」
「私は誰かを助ける為に、開拓者になる事を望みましたから」
「ふむ、上手くやれているか。正直、少し気になってはいた」
「もう大丈夫ですね?」
「小さな失敗から気付き、学び、また踏み出せる様に頑張っています」
「どうやら、無用な心配だったようだな」
 滅多に感情を表に出さず、落ち着き払っている蒼羅。強い花梨の決意を聞く。めずらしく、目を細めた。
「今度は一緒に、依頼に参加しましょう。約束ですね」
「はい!」
 腰までの漆黒の髪を揺らす九寿重と、花梨は約束を交わす。にっこり笑った。
 開拓者を続ける事を、迷っていた花梨。修行を手伝った者達の言葉は、心の剣の支えになっている。


「理穴なァ‥‥確かに魔の森があッたが‥‥」
「かの大アヤカシを倒したのは‥‥一昨年でしたね」
「あのオーサマが魔の森を後退させたな。頑張ッたのは、開拓者だがァよ」
「儀弐王ですよ」
 懐に手をいれ、最後尾を行く空は思い出す。椋菓が話に乗ってきた、律儀に訂正を入れる。
「あれから、訪れていませんが。西も東も、以前より、穏やかになっていることでしょう」
「理穴は、前の合戦の時に行ったけど。さすがにゆっくりとは、出来なかったよね」
 懐かしそうに、緑茂鉢巻を取り出す椋菓。ひょっこりと、怜那が覗きこむ。
 記憶に残るのは、ゆっくりと晴れていく空。緑茂の里は、どうなっているだろう。
「‥‥もう一度訪ねたいですね」
 きっと良い所になっている。時間があれば、椋菓は皆を案内したかった。
「緑茂の里ねェ‥‥アレに近づかにャァ、ソコ等と大して変わらんと思うがなァ、俺は。ま、朱藩に戻るナラ、西からの道の方が楽かね」
 あくびをする、あまのじゃく空。「魔の森通りたくないなら、海岸線沿いに西からイけ」と、素直に言えない。
「今回は、ちょっと楽しみなんだよね。掘り出し物の弓とか、無いかなぁ‥‥」
 理穴は弓使いの国。弓術士として、怜那は弓の方が気になる。足取りは、神楽舞を踊るように軽い。


「旅には慣れた〜? 楽しみ方は覚えたかな〜? 今回はその復習だよ〜♪」
「楽しみって、緑の多い所の青くさい匂い?」
「やっぱり食べ物! そしてくーき! あとは自然と触れ合う、これ重要!」
「僕は食べ物かな」
「そう、特に食べ物重要だよ!」
「確かに、理穴の甘味処や名物料理は外せないな。武天や朱藩と比べてみるのも面白そうだな」
「オルカは、食べてばっかりだな」
「く、食いしん坊なわけじゃないからね〜??」
 元気いっぱいのオルカと良助。会話と一緒に、心も弾んでいた。
 康平と嵐がからかい、会話に割り込む。オルカは慌てて弁解するが、身も蓋もない。
「いっぱい食べないと、姉ちゃんたちみたいに、小さいままだよね」
「そうそう、世界が小さいままだよ〜」
「‥‥小さい? 今、小さいって言ったのは、この口か、この耳か!?」
「ごえんなひゃい!」
「暴力反対〜」
「こら、やめるんだ!」
 なにげない言葉に、背が低いことを気にする嵐は反応した。炎の世界に住む、不動明王のお守りが乱雑に揺れる。
 ほっぺをつねられた良助と、ウサギ耳を掴まれたオルカの泣き声。康平が割り込み、なんとか止めた。
「手のかかる弟妹は、いらないぞ‥‥」
 どたばた騒ぎに、頭を抱える康平。年の離れた二人の妹に、もしも弟がいれば、こんなに賑やかだったのか。



 理穴の首都、奏生。貿易の都市でもあり、様々な品物があふれていた。
 真っ先に、呉服問屋に向かう一行。
「次は肝心の衣装選びです、きっとよい品が見つかることでしょう」
「どういうの探しているの? やっぱり柄入り?」
 一段落した椋菓は向き直り、婚礼衣装選びを促した。興味津々のオルカの目の前で、店員が色鮮やかな反物の数々を持ってくる。
「それが目的の反物か。すげーな」
「私は目利きがないので、詳しい事を教えてくれると嬉しいです」
 思わず口を開けて、うち掛けにするという反物をしげしげとみる嵐。黒地に刺しゅうされた、桜や牡丹の花が舞い踊る。
 手に持たせて貰い、九寿重も真剣に見入った。赤地に白い鶴がおり、紅白がめでたさを引き立てる。
「いいなぁ‥‥。花嫁衣装かぁ‥‥。私もいつか着られるのかなぁ」
 奥の畳敷きに飾られた白無垢。眺める怜那も、お年頃。
 娘たちは、恋愛や花嫁と言った言葉に、興味は尽きない。
恋人の様子を聞くのは、野暮というもの。


「新郎への期待や、新婦への思いを込めて、祝言の準備をする気持ちはどんなだろうか?」
 娘たちに混じり、反物を観察する康平。依頼で稼いだ報酬は、母達の生活費と、妹達の嫁入り資金。
 いつか妹たちが嫁ぐ日には、華やかなことを。
「俺に聞かれても、婚礼衣裳なんぞ分からんからな。未婚だし。聞くなら別の奴に聞け」
 康平の問いかけに、空は不機嫌になる。未婚と言うのは、半分嘘。
「‥‥だからと言って、俺に振らないでくれ」
 康平の緑の瞳は、蒼羅に向いた。答えに窮し、背をそむける蒼羅。
 入口で黙っている、清太郎と目が合う。
「行かなくて、いいのか?」
「‥‥女物は、よく分からない。おりんが良いと思うものが、一番だろう」
「‥‥そうだな」
 清太郎に尋ねれば、困った顔つきの返事。蒼羅は一言だけ述べ、沈黙した。
「あァあァ、お熱いね。ま、決めたンなら、手で囲えるぐらいはしっかり守っておけ。‥‥残すのも、残されるのも案外キツイぞ。コレ、俺論な」
 一瞬、空の表情が影を落とす。笑わぬ目の奥にあるのは、古い思い出。
『反魂香じゃ、喋れない、触れない! 何でだ、どうして!』
そう叫んだのは、いつだったか。
「良助は、何かしたいことがあるか? 折角来たのだからな」
「みんなに、お土産を買いたいな」
「よし、待ってる間に行くか?」
「うん!」
 うるさい親もいない旅なんて、なかなかできるものじゃない。康平は、良助を連れ出した。
 外へ足を向けようとして、待ちぼうけを食らう男たちに問う。
「そっちは、どうするんだ?」
「理穴には依頼で何度か来た事はあるが、街を見て回ったことは無かったからな。丁度良い機会だ、俺も色々と見ておくとしよう」
「兄ちゃんは、どこ行くの?」
「楽器を売っている店に、少し興味がある」
 音楽を好み、一通りの楽器を演奏する技術を持っている蒼羅。携えていた、藍色のセレナードリュートが、服の裾から見え隠れした。
「土産ねェ。貴石の装飾品は武天で売ッてたか。男物なら武天でもあるが、高ェからなァ」
「えー、髪飾りつけるの? 変なの」
「うッせー、やるわけねェだろ! それ以上言ったら、本気で斧を投げるぞ!」
 子供は正直だ。大人げなく、狩猟斧を構える空。冷静さは、どこへやら。
「俺は、食いにイく!」
「また後でな」
 ご立腹の空は、表へ消えた。蒼羅も続き、人込みの中へ。
「食べ物もいいな」
「良助、氷の食べ物を見たことあるか?」
「氷? 知らないよ」
「無いのだな」
 康平は、理穴の蜜を買い求めるために動く。帰り道に氷霊結で氷を作って、色々見せてやろうと。


「どこいくの?」
「お土産を買うんだよ」
「お土産って、何を〜?」
「理穴の名物でしょ?」
「そうだよね。私もお土産、買ってこようかな」
「‥‥理穴の名物! いってらっしゃい〜♪」
 出かけようとする康平たちを、目ざとく見つけた怜那。有り触れた会話を交わす。
 隣で意味ありげに揺れる、オルカのウサギ耳。爽快に、二人を送り出した。
「清太郎様。りん様の衣装を、見て差し上げてくれませんか?」
「惚れ直すこと、間違いないですよ♪」
「主役が来なくて、どうするんだ!」
「あ、ああ‥‥」
 入口で突っ立ている清太郎に、九寿重と椋菓は呼び掛ける。見兼ねた嵐は、りんと花梨のいる奥座敷に追い立てた。
 三人を待つ間、広々とした店内を見回る娘たち。仕立てられた、美しい着物を眺める。
「ふえー、他にも綺麗な着物がいっぱいだ」
「うーん、私にはこんな豪奢な服、似合わないよねぇ‥‥」
「そんなこと、ないですよ!」
 関心して、着物を触る嵐。軽くため息をつく怜那を、椋菓は勇気付ける。
「この足袋、くださいな〜」
「オルカ、足袋なんか買のか?」
「それ、理穴の足袋ですよね」
「正解〜♪」
 疑問を抱く嵐に、ピッと犬耳が反応した。九寿重が素早く答える。
 足袋を抱え、嬉しそうなオルカ。天儀の婚礼衣装に、足袋は必須。新郎新婦と小さなお客さんへの、お祝いの品だ。
「あっ、この髪飾り、凄い可愛いかも‥‥」
「挑戦あるのみですよ!」
「‥‥これ一つ、ちょうだい!」
 目標に向かい一直線な椋菓は鼓舞。可愛い小物には目がない怜那は、拳を握った。


「ンだよ、まだ選んでるのかァ?」
「あっ! 反物が汚れたら、どうするの?」
「はい、没収だよ〜」
 果物片手に、のれんをくぐる空。見付けた怜那は、非難する。奪われた果物は、問答無用でオルカのお腹に。
「待たせたな、宿を確保していた」
「朱藩に戻るときの、美味い弁当も頼んだんだが‥‥」
 外で一緒になった蒼羅と、康平たちも戻る。
「遅くなって、すまない」
「ご好意で、衣装を仕立ててくれると‥‥」
「良かったじゃないか!」
 報告する清太郎とりんに、嵐の明るい声が重なった。
「清太郎さんとおりんさんのご結婚祝いに、私がご馳走しますよっ♪」
「やったー! ねぇ、冒険話を聞かせてよ」
「そうですね‥‥。初依頼で、いわば同胞である獣人姉妹を救い出したことや、遠くジルベリアまで足を伸ばした話で良いですか?」
「うん♪」
「代わりに、良助の悪戯模様を聞かせて下さいね」
「えっ!?」
 椋菓の言葉に喜ぶ良助を、九寿重は微笑を浮かべてからかう。一同は笑いながら、呉服問屋の外へ。
「はァ‥‥」
「‥‥どうした?」
「食べに行かないのか?」
 足取りの重い空を、不思議がる蒼羅と康平。空は急に、二人の肩を掴んだ。
「俺は悟ッた。男は黙ッて耐える必要がある!」
「はっ!?」
「‥‥何があったんだ?」
 唐突に言われ、反応できない蒼羅。怪訝そうに、康平が尋ねる。
哀愁漂う、空の背。合掌。


 村の入口は、白梅の木が目印。
「あそこだよ♪」
「ふーん、あの山の上にも白梅の木があるんだ。花が咲いたら、綺麗そうだね。もうすぐ実が出来る頃かなぁ‥‥」
「梅酒の方が、美味いなァ。今度来るとは、絶対呑ませろよ」
 良助の一番の遊び場を、教えて貰った怜那は、山を見た。乱暴に良助の頭を掻き回しながら、空は口約束をする。
「もう足は大丈夫だ。楽しい旅が、悪い思い出になる所だったな」
「今度から、疲れたら早めに言えよ。あたしみたいな、開拓者と違うんだから」
「‥‥はい」
 無理をして、捻ったりんの足。治療した康平は、手拭「竹林」で額の汗を拭う。心配した嵐は、きっちり釘をさした。
「朱藩から理穴まで、天儀を縦断する旅になりましたね。今後のお二人のご多幸を、お祈りしていますっ」
「はい、旅の証〜。みんな元気に、これからもずっと一緒にやっていけたらいいね〜」
「ああ、本当にありがとう」
 三人の長旅に同行していた椋菓は、清太郎と握手を交わす。土産を押し付け、オルカもご満悦。
「でも、お二方と花梨が、こういう縁になっていたとはびっくりしましたね」
「世間は、広くて狭いですね」
「‥‥これで依頼は完了、か。偶には、こう言った依頼も悪くは無いな」
 以前、村を訪れたことのある九寿重は、花梨と驚きあう。村を離れる間際、蒼羅は振り返り、呟いた。
 開拓者たちは、神楽の都に帰る。清太郎とりんの、幸福を願いながら。