白梅の里と梅の花
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/02/28 22:25



■オープニング本文

●羅浮仙(らふせん)
 遠い異国、どこかの言い伝え。いわく、そこは美しい梅の花が咲く山。
 薄衣をまとった、美しい女人が住むと言う。年老いることのない女人は、梅の精霊だと。


 白梅の里は、朱藩の山里。梅を特産品とする、小さな里だった。
 現在、白梅が咲き誇る季節を迎えている。里の入口も、裏山の頂上も、満開だった。
 白梅の里に従兄がいるサムライ娘、真野 花梨(まの かりん)は、開拓者ギルド本部で悩んでいた。
 サムライ娘は、従兄夫婦の幼子が大好きだった。小梅(こうめ)と名づけられた、従兄の一人娘。
 清太郎(せいたろう)とりんの間に生まれた、可愛らしい子。りんの弟の良助(りょうすけ)が、可愛がる子。
「二才に満たない子の山登りは、難しいでしょうか?」
 山里の裏山にある、白梅の木。とくに山頂にあるのは見事で、山から見下ろす里の風景も美しい。
 サムライ娘は、幼子に裏山の梅の花を見せたくてたまらない。従兄夫婦は、まだ小さいから無理と諦めていた。
「そうだな…、さすがに背負うか、抱っこしないと、難しいと思うぞ。空を飛んで運ぶのはどうだ?」
「私には竜の相棒がいませんから」
 二児の父親であるギルド員は、考え込む。サムライ娘は、しょんぼりと返答した。
「じゃあ、他の開拓者の力を借りるか? 竜を持つ者なら、ごまんといるはずだ。
相棒をつれての梅の花見なら、一緒に行く者もいるだろう。少し手伝いをしてもらえばいい」
 サムライ娘が頷くのを確認し、ギルド員は筆を走らせる。ほどなくして、ギルドに一枚の依頼書が張り出された。

『梅の花見の協力者募集。相棒を連れて来ることが、参加の条件。
場所は、朱藩にある、白梅の里近くの山の山頂。山里に住む住民が、山頂行きを希望している。
山頂に行くのは、一歳の子供一人と、その家族と親戚の大人七人。登山方法は、開拓者に任せる。
花見の始まりから終りまで、住民を守ること。とくに一歳児の安全確保は、最優先事項とする』


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ


■リプレイ本文

●白梅の里
 清太郎の家の庭から、裏山を見上げるリィムナ・ピサレット(ib5201)。相棒に山の梅を指差して見せる。
「…もしかしたら、梅の精霊さんが住んでるかもね♪」
「羅浮仙…だったか?」
「うん、そうだよっ!」
 庭の隅で荷物をまとめていた清太郎が、問い掛ける。リィムナは大きく頷いた。
「良く知ってるねっ!」
「前に来た、泰国からの客も、そんなことを言っていた」
 清太郎とリィムナの会話に、首を傾げるチェンタウロ。悩む相棒にリィムナは詳しく説明する。
 羅浮山の羅浮仙伝承。泰大学在学中で、泰の伝説には詳しいリィムナの知識。
「持って行くのは、これでいいか?」
「戦闘時じゃないから、チェン太に2人乗りしても大丈夫♪ あたし軽いし♪」
 荷物の一部を抱えた清太郎に、リィムナは相棒を指し示す。お水にお弁当も忘れずにと、念押しして。
「そうね、二人乗りで一気に移動出来るし…」
 少し考え込む、礼野 真夢紀(ia1144)。嵐龍の鈴麗は、「大丈夫」と高らかに鳴く。
「小梅ちゃんはおりんさんにおんぶしてもらってから。龍に二人乗りしてもらおか。
色んな龍がおるから、小梅ちゃんの気に行った子に乗って…」
 神座真紀(ib6579)が相談を仕掛ける間に、ほむらが鳴いた。同時に一歩踏み出す、龍の足。
「…乗せるのは一般人やから、運ぶ時はゆっくり慎重にいかなあかんよ?
開拓者側の人数の都合上二回に分けないかんから、先に行った人は梅見の準備をしてもらっとこかな」
 相棒を見上げながら、苦笑いする真紀。轟龍は力強く鳴いた。
「あ、空の移動は寒いから、セーターとオーバーと防寒胴衣と毛布持って来ました」
 荷物の包みを解いてみせる、真夢紀。虹色もふらセーターは、良助に。フリルリボンオーバーは、おりんが着る事になった。
 羽喰 琥珀(ib3263)の相棒は、一足先に良助と荷物を乗せて空に飛び立つ。
 つやつやした輝きを宿した、淡青色の鱗が太陽の光を浴びる。菫青石のような色をしている、嵐龍の鱗。
「ほら、あそこだよ」
「こりゃすげーきれーだなー。来て良かったな、菫青!」
 良助の指差す先、山の頂上にある白い花の群れ。琥珀は身を乗り出して、山頂を眺める。
「あ、風で花が散らないよう気をつけないとな」
 琥珀の呼びかけに、小さく羽ばたく菫青。獣の皮鎧を軽く鳴らしながら、降下を始めた。
「なぁなぁ、小型天幕を張ろうぜ」
「分かった」
 山頂に居残りする男たち。資材を手にした琥珀は、清太郎を誘う。小梅の着替えやおしめを交換する場所だ。
「そっちは花見の準備を頼んだ。花見をする場所の雪を片付けたり、茣蓙を敷いてくれよ」
「うん、任せて」
 菫青の背中の茣蓙を指差しながら、良助の方に顔を向ける琥珀。頷く相手に、ニカッと笑い返した。
「椅子代わりになる木なんかも、拾っといて。後で並べるからっ! 直に地面に座ると寒いからね〜」
 リィムナは龍の背中から叫ぶ。琥珀が片手を上げて答えるのを見届け、残りの人々を迎えに飛び立った。


「小梅ちゃん、随分大きゅうなったね」
 弁当が出来る間、退屈そうな小梅。真紀とお手玉を投げ合って遊ぶ。桜のアヤカシにさらわれても泣かなかった、強い子だ。

「完成したよ、でかけよっかっ!」
 リィムナの元気な呼び声がする。出発前に、小梅のおしめ交換だ。幼子の頬をつんつんしながら、真紀がかって出る。
「妹達が小さい頃はあたしが変えてたんやけど、懐かしいな」
 母が早世したため、妹二人の母親代わりをしてきた真紀。お湯に浸した布でおしりを拭いてやりながら、しみじみ。
「あたしも一番下の妹のおしめ替えた事あるよっ♪」
 小梅のおしめ替えを、懐かしそうに眺めるリィムナ。四人姉妹の二番目だ。
「…まあ、あたしは今でも、おしめ穿いて寝る事あるんだけどね。お泊りする時とか…やっちゃうとまずいからね…」
 ちょっとうつむき、赤面するリィムナ。聞こえない様にごにょごにょ呟やく。
(早くおねしょ治らないかなぁ…)
 おねしょの隠ぺい工作を図っては、一番上の姉に見つかり、お尻を叩かれていた。
「冬は寒いから、おしめ変えるのを嫌がるんです」
「特に夜はぐずって、また寝かしつけるんが大変なんよね。それでも、下の妹もこれくらいの時は可愛かったのになぁ」
「今はどうなんですか?」
「ああ言えばこう言いよるよ」
 おりんと子育ての苦労話に花が咲く。苦笑を混ぜつつ。愛情たっぷりの真紀の笑顔。
 と、外でほむらがひときわ高く鳴いた。真紀に声をかけるように。
「…考えたら、あたし、まだ結婚もしとらんやん」
 ふっと、現実に戻る真紀。所帯じみてきている自分に気付く。再びほむらが鳴いた。今度は低く。
「なぐさめてくれとるん? おおきに、ほむら」
 真紀の事を、共に育った兄弟同然に想っている轟龍。心を通わせあう相棒は、真紀の悩みに気付いていた。
「あーあ?」
 ほむらの声に反応する小梅。おしめ交換が終わった真紀は、縁側へ続く障子をあけて見せた。
「龍やで、ほむらや」
 庭のでっかい龍に、小梅は真ん丸の目をする。笑いながら、自分の荷物を探す真紀。
「小梅ちゃん、龍にのる記念や」
 見つけ出したりゅうのぬいぐるみを、小梅に贈る。ぬいぐるみごと幼子を抱き上げ、縁側に移動した。
「蒸籠? それも準備するん?」
「はい、泰国の秘密を教わってきました!」
 花梨に請われるまま、おりんが準備した、でっかい鍋と蒸籠。真紀は蒸籠の中を、怪訝そうに覗きこむ。
「ああ、桃の節句をする気なんやね?」
「今年は小梅ちゃんも食べられますから」
「きっと喜ぶで♪」
 胸を張る花梨に、真紀は納得。蒸籠の中には、花梨の手作り、泰国の桃まんじゅうが入っている。
 一年前、白梅の里に、泰国からお客が来た。真紀や真夢紀も同行した、桃の宴。
 お客が作った桃包(タオバオ)は、花梨のお気に入りの甘味。小梅のために、作り方を習ってきたらしい。
「その鍋、借りても良いですか?」
 真夢紀が寄ってきた。持ってきた桶の中身を、鍋の中に移す。氷霊結で作った、氷まじりの冷たい水。
 その中には、ハマグリも入っていた。桃の節句用に、ハマグリのお吸い物にする予定。
「鈴麗のお花見弁当は蜜柑でしょ、文旦でしょ、でこぽんに…」
 真夢紀は、相棒にかんきつ類を見せる。果物が大好きな鈴麗。翼を広げ、嬉しそうに鳴いた。


●桃の節句
「点火は任せて下さい」
 真夢紀の近くで、精霊の力が渦巻く。火種を作る術で、火を起こした。持ってきた七輪の内部で、温かな光を放つ。
 昼まで少し時間がある。先に蒸籠の中身を蒸し、軽く小腹を満たしすことにした。
「飲み物は、こっちで温めますね」
 琥珀の七輪には、水を張った小鍋を乗せた。真夢紀が持ってきた、とっくり入りの甘酒と大人用の梅酒だ。
 思わぬおやつ。桃まんじゅうの甘い味に、小梅は大喜びだ。幼子サイズの桃まんじゅうを食べきる。
「じき桃の節句ですし」
 からっぽの蒸籠を取り外し、お玉を手にする真夢紀。手早く、菜の花を茹であげる。次いで、しょう油で味を調えた。
 白き羽毛の宝珠を揺らしながら、鈴麗が鍋を覗きこむ。漂う匂いにしっぽを振りながら、鳴き声を上げた。
「手際良いね!?」
 良助はビックリ。お椀にハマグリをよそおい、菜の花を飾り付ければ、すぐに食べられるだろう。
「貝殻はこっちにいれるんだぜ」
 袋を差し出し、小梅に入れるように教える琥珀。ゴミは散らかさず、全て持って帰るのだ。


 腹ごなしに小梅の側で、雪をかき集め始める琥珀。汚れていない真っ白な雪を、慎重に選びながら。
 肩で切り揃えた髪を、揺らし小梅が寄ってくる。琥珀の手を眺めていた。
「雪だぜ、雪」
「うーい?」
「ゆーき、ってわぁ!」
 唐突に、雪山へ頭を突っ込む小梅。幼子の行動は読めない。琥珀は、小梅を引っ張り出した。
 真っ白になった小梅。当の本人は泣きもせず、おおはしゃぎだが。
「風邪ひいたらあかんから、こっちおいで!」
「毛布でくるんであげてください」
 遠巻きに目撃した、真紀は大慌て。幼子を受け取り、天幕の中の七輪の側に連れて来る。
 小さな足音を立てながら、真夢紀が小走りで毛布を持ってきてくれた。小梅の頭からかぶせる。
「はい、湯たんぽっ」
 準備のよいリィムナ。火傷しないように注意し、小梅に持たせる。
「寒かったやろ?」
「あううっあお?」
「大丈夫そうだな」
 小さな手に息を吹きかけてやりながら、真紀は尋ねる。小梅はのんきに、真紀の口真似を。安堵の息をもらす、琥珀。
「飲んで温まるといいよっ!」
「サンキュー♪」
 気を利かせたリィムナは、温かい緑茶と甘酒を差し出す。少し迷う琥珀。
 湯気の上がる、甘酒を受け取った。お礼の返事は、リィムナの故郷のジルベリア風に。
「じゃあ、俺、行ってくるから。良い子で待ってろよ」
 甘酒を一気飲み。小梅の頭を撫でると、鼻歌交じりで雪集めに戻って行った。


 琥珀は白梅の木から、花と蕾を拝借する。咲く前の赤茶色の衣をまとった蕾は、雪うさぎの瞳にちょうどいい。
 男雛と女雛の形をした雪うさぎ。耳には白梅の花びらをあしらう。
 雪うさぎの前に盆を置き、菱餅と雛あられを添えた。甘酒も一緒に飾り、小梅をお迎えに。
「ちょいと早いけど、節句祝い。気に入ったか?」
 毛布ごと小梅を抱きかかえ、天幕の外へ。白梅の根元に作った、雪うさぎの前に連れて来る。
「雪うさぎって言うんだぜ」
「うーうあい、うーうあい♪」
 両手を叩き、大喜びの小雪。舌足らずで、雪うさぎと上手く言えぬ。その様子に、琥珀はニカッと笑った。


●羅浮仙
「さぁ、梅見やで♪」
 真紀は茣蓙の上に毛布を敷き、小梅を座らせる。それから重箱を取りだした。
「お弁当作って来たから、よかったらあたしのも食べてな」
「弁当!? いただきます!」
 元気良く名乗りを上げる良助。小皿とはしを持ち、重箱の中身を物色する。
 黄身を解したのを乗せた手毬寿司の周りを、五つの手毬寿司がぐるりと囲む。赤貝を半分に切ったのを乗せた手毬寿司だ。
「梅の花みたいやろ?」
「これ、海の貝だよね? いただきます♪」
 真紀の台詞に、素直に頷く良助。山里暮らしには、海の赤貝は珍しいごちそうだ。
「小梅ちゃんにはこれや、喜んでくれるかな? お姫さんが作ったジャムなんやで」
 真紀は、ワッフルを見せた。上に綾苺のジャムで、梅の花を描いてある。
 とっておきのジャム。花梨の実家のある、武天の姫様が作ったものらしい。
「こっちは梅蜜をまぜこんであるんや」
「梅蜜、食べてみたいなぁ♪」
 別のワッフルを勧める真紀。砂糖の代わりに、白梅の里の梅蜜を使ったらしい。リィムナの青い瞳が輝く。
「この梅使った料理絶品だなー。こりゃいくらでも食えるっ」
 リィムナが選ぶ前に、琥珀が両手でかっさらう。あっと言う間にたいらげてしまった。
「あたしのっ!」
「…まゆも食べたいです」
 美味しそうに食べる相手に、リィムナの眉毛が中央に寄った。食いしん坊の真夢紀も本音がポロリ。
「ケンカはあかんで。水筒の梅シロップも飲んでな」
 苦笑しつつ、宥める真紀。年下の育ちざかりたちに、残りのワッフルを手渡してやった。
「まゆのお弁当もどうぞ」
 真夢紀の重箱の中には、定番の鳥の唐揚。それから、春らしいワカメとヨモギと早生のフキを天麩羅にしたもの。
「これ、何? 不思議な食べ物だね?」
「茹でたじゃが芋を潰して、茹でた人参と水にさらした玉葱のみじん切りを合わせて、あえて作ったものです」
 見慣れない食べ物に、良助は興味を示す。真夢紀は、長い黒髪を揺らしながら説明した。
 ジルベリアの「まよねーず」なる調味料を使った、珍しい料理。他国の料理にも関心が高い、真夢紀ならでは。
「あたしの用意したお弁当は、片栗粉をたっぷりまぶしてカリッカリに揚げたフライドポテト♪
こうすると冷めてもカリカリサクサクして美味しいんだよ♪ 皆さんどうぞ♪」
 負けじと、リィムナも重箱を開く。ジルベリアの出身らしい、本場の異国料理だ。
「どっちも美味しいね」
 ジャガイモ料理を食べ比べ、幸せな顔になる良助。ほっぺが落ちてしまいそうである。
「おりん、今度作ってくれ」
「あ…皆さん、家に戻ったら、作り方を教えてくれませんか?」
「まゆのやり方でよかったら」
「うん、教えたげるっ!」
 簡単そうに言う、清太郎。困った顔をしながら請うおりんに、二人は快諾した。
 琥珀は満面の笑顔で、おにぎりをほおばる。自分で作った、梅の握り飯だ。
「何度か来てたけど、一番基本な握り飯は食ったことなかったんだよなー。うん、やっぱ美味い」
 白梅の木を見上げ、感慨深そうな琥珀。初めて白梅の里に来た時、良助と清太郎はケンカをしていた。
 二回目に来た時は、清太郎とおりんの結婚式。白梅の花の紙吹雪で二人の門出を祝った。
「菫青もどーだ? 美味いぞ」
 欲しがる嵐龍、身を低くし、長く長く鳴いた。空を舞う梅干し握り、菫青のお腹へ消えて行く。
 残念ながら、ハマグリのお吸い物は分けてもらえなかったが。こっちは琥珀のお腹へ消えた。
 お吸い物の鍋をどけ、七輪の上に網を乗せた真夢紀。荷物から、笹の葉に包んだおにぎりを取りだす。
「変わった色のおにぎりですね?」
「里の梅干しを分けて貰ったんです。焼きおにぎりにしましょ♪」
 じぃと、おにぎりを見つめる花梨。真夢紀は、にこやかに七輪を指差す。
 焼きおにぎりの時間だ。真夢紀特製の梅味噌。もう一つは、葱味噌を塗ったおにぎり。
「こっちも美味いぞ」
 一個食べた琥珀は、相棒に焼きおにぎりを投げる。びっくりした顔の菫青、慌てて口で受け取った。
 おにぎりを噛みしめ、飲み込む。満足そうな鳴き声を、葱味噌味は美味しいらしい。
「ほら、いくぜ」
 琥珀は別の焼きおにぎりも投げる。菫青は器用に口で受け止めた。嬉しそうに咀嚼し…顔つきが変わっていく。
「美味いだろ?」
 琥珀は笑顔で、相棒を見ている。答えずに目を閉じ、空に飛び立つ嵐龍。
 梅味噌味は、酸っぱかったらしい。菫青は、滅茶苦茶な飛び方をしていた。


「ちょっと着替えて来るねっ!」
 宴も最高潮。一声かけて、リィムナは天幕の中に引っ込む。
 舞楽装束に用いられる絹と皮で作られた白い靴、絲鞋に履きかえる。
 暖かな薄黄色をした絹の千早「聖」、聖歌の冠を身に付けた。芭蕉扇と神楽鈴を持ち、天幕から出て来る。
「梅の精霊に捧げる巫女舞を舞うよっ」
 立ちあがった琥珀が、横笛を取りだした。リィムナの側に寄ってくる。
「鶯の代わりに春を告げる歌をご披露っ♪」
 旅一座にいた琥珀、歌舞音曲や雑技に長けていた。横笛から流れるは、春のような明るく楽しい曲。
 白梅を背景に、しずしずと歩み出すリィムナ。左手を斜め下に下げる。神楽鈴が鳴り響く、しゃららしゃららと。
 霞むように揺れる、千早の袖。刺繍された錦糸が陽光を返し、春の日の暖かな日差しを思わせる。
 チェンタウロが龍しっぽを振りながら、リィムナを見下ろす。竜門の御守りも、揺れた。
 かつて、一人で天儀に渡ってきたリィムナを見守ったときと同じ、優しい眼差しで。
 音楽に乗った真夢紀も、霊鈴「斜光」を振り始めた。精霊を呼び寄せる、清らかな音色が広がりゆく。
 空を見据えたリィムナ、ナディエを発動した。足の先が仄かに輝き、軽く地を蹴った。
 ふわりと空に舞い上がるかのように跳躍する。風光る中、天女の如く精霊の羽衣をなびかせた。
 見上げたほむらは、瞬きする。視界の隅を何かが、通り過ぎた。
 首を傾げるが、良く分からない。気がつくと、首元の友の御守りがひっくり返っている。
 リィムナが空から戻ってきた。直立不動で、扇を横薙ぎに震う。目を閉じ、頭を下げた。
 小さくなっていく鈴の音、真夢紀の鈴も音色を止める。琥珀の横笛は、長く長く、最後の一吹き。
 全ての音色が無くなり、白梅の枝をすり抜ける、風の音が神楽舞の終りを告げた。
 しばらくの空白。観客たちの拍手が空間を満たし始めた。リィムナに集中する視線。
 ただ一人、小梅だけは白梅の枝を見つめていた。笑い声を上げ、両手をたたき続ける。
 幼子は見つけたのかもしれない。白梅色の髪と紅梅色の瞳をした観客、恥ずかしがり屋の羅浮仙を。