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■オープニング本文 梅雨入りまで、あと何日だろう。梅の木の芽摘みは終わった、あとは実が熟すのを待つのみ。その間に、田植えの準備が始まる。 威勢のいい父親に、へっぴり腰と怒鳴られている青年。クワを持つ姿が、板についていない。 通りすがりのおじさんは、二人に声をかけた。 「よう、おやっさん。清坊、仕事に励んでるか?」 「おう。こいつは二年間も、ほっつき歩いてたんだ。仕事ができるわけないさ」 「親父、一応、俺も努力しているんだから‥‥」 「うるせい! 口を動かす暇があったら、手を動かせ。田んぼもろくに作れないようじゃ、おりんに愛想つかされるぞ!」 「ううっ‥‥」 「ははっ、清坊、がんばれよ」 おじさんは笑みを浮かべ、ひらひらと手を振る。最近の村の話題は、十八歳の青年のこと。 白梅が咲くころ、ひょっこり帰ってきた放蕩息子。帰ってすぐに、山で行方不明になる騒ぎまで起こした。 それでも村人は、青年を嫌いにならない。生まれたころから、よく知っている。男の子は、わんぱくなもの。 おじさんは、自分の田んぼに向かう途中で、村娘に出会った。 「おりん、お使いかい?」 「はい、お弁当を届けに」 「清坊なら、おやっさんと西の田んぼに居たよ」 「まあ、ありがとうございます」 村娘はおっとりとほほ笑んだ。御礼を告げると、田んぼへ足を向ける。父親にしごかれている青年の所へ。白梅の飾りのついた簪が、軽やかに揺れていた。 「‥‥おりんは、気立てのよい子だ。やんちゃな清坊には、ちょうど良いだろう」 村娘を見送りつつ、おじさんは独りごちた。朱藩の村の、いつもの田んぼ風景。いつもと違うのは、村人の陽気な心。 青年と同い年の村娘、二人はもうすぐ祝言を挙げる。 その前日、花嫁の家では、問題が上がっていた。 「僕が行くよ。反物を受け取ってくるだけでしょ?」 「良助、子供は黙っていなさい」 「やだ。僕も清兄ちゃんみたいに、旅がしたいよ!」 父親の怒鳴り声と、少年の泣き声。わがままを言うのは、村娘の弟だった。 「お父さん。私も行くから、良助を許してあげてくれない?」 「りん、口出しするんじゃない」 「あなた、心配いらないわ。清太郎君の親戚の、開拓者の娘さんも同行するのよ」 村娘は困り顔で、父親に提案をする。見かねた母親が、助け船を出した。渋る父親も、開拓者の言葉に心が揺れる。 野良仕事を休み、弁当を広げる。 「おりんと良助が行くのか?」 「‥‥迷惑じゃないかしら」 「清太郎、お前も俺の代わりに行って来い」 「親父!?」 「いいな、連絡しとくぞ」 大事な婚礼衣装の準備に、心配顔の村娘と青年。昼飯をつつきながら、あっさり青年の父親は承諾。 その日のうちに、訪問先に連絡が送られた。 翌日、深刻な顔をした者が、神楽の都のギルドに現れた。 「すみません、護衛の依頼をしたいのですが」 受付の新人ギルド員の前に、サムライ娘が立つ。開拓者が護衛の依頼とは、奇妙な話だ。 「朱藩の従兄が、婚礼衣装の準備に反物を取りに来るのです」 「婚礼ですか!」 「修行も兼ねて、私が迎えに行くのですが‥‥」 「なにか問題でも?」 婚礼準備とはめでたいはずなのに、サムライ娘の口調はさえない。新人ギルド員は首を傾げて、続きを促す。 「花嫁さんのご家族も同行されると‥‥。私、皆に何かあったら、どうしようかと思って」 「なるほど。念のため、応援を頼みたいのですね」 「はい。父は私の思うようにしろと、言ってくれました」 「分かりました、依頼を出しておきますよ」 思わぬ大役に、サムライ娘は気落ちしているようだ。新人ギルド員は、愛想良く受け付ける。 数日後、花婿の家に、訪問を歓迎するとの返事が届く。 「護衛人?」 「うむ、十三歳の良助が一緒だからな。花梨だけには荷が重いと、思ったんだろう」 「いつもより、賑やかな旅になりそうだな」 「婚前旅行、楽しんでこいよ」 「親父!」 「帰ったら、田植えだからな」 「‥‥親父」 嬉しい旅のはずなのに、田植えの言葉がのしかかる。少し落ち込む青年の背に、父親の豪快な笑い声が響いた。 |
■参加者一覧
美空(ia0225)
13歳・女・砂
純之江 椋菓(ia0823)
17歳・女・武
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
アルーシュ・リトナ(ib0119)
19歳・女・吟
ティエル・ウェンライト(ib0499)
16歳・女・騎
春吹 桜花(ib5775)
17歳・女・志
オルカ・スパイホップ(ib5783)
15歳・女・泰
ピアナ・スパイト(ib6608)
14歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ● 村の入口で、白梅の木が出迎える。花は過ぎ、梅の実が揺れていた。約束の時間まで、もう少し。 「武天に行くのは初めてなので、美空はわくわくなのであります♪」 「たまの息抜きには、悪くない‥‥かな」 新世界への船出に、心踊る美空(ia0225)。スカーレットクロークを翻し、何度も行き来する。 ぼんやりと木に持たれていた、雪斗(ia5470)。星読みをしなくても、良き日になると。 「見事な畑ですね!」 「こっちは田植え前かな〜?」 待ちくたびれたティエル・ウェンライト(ib0499)は、青葉を伸ばす作物に目がいく。最近は、農作業に興味津々だ。 考え込み、ぴょこぴょこ動くウサギ耳。オルカ・スパイホップ(ib5783)は、顔を傾ける。ジルべリア育ちには、天儀の田舎風景が珍しい。 「ねねっ、大地が乾いてないよ!」 砂の大地、アル=カマル育ちのピアナ・スパイト(ib6608)。真ん丸な目で、しっとりと水を含む土を手に取った。 「旅っていうのは故郷に居た時は違う、新しい発見というものがあるでやんすよ」 楽しそうな三人に、春吹 桜花(ib5775)の声がかかる。依頼の開始前から、旅は始まっていた。 「あ、アルーシュ姉ちゃん!?」 「清太郎さん、おりんさん、良助さん。お久しぶりですね」 「まぁ、本当にお久しぶりです」 「‥‥あのときは、世話になった。感謝している」 一番に到着した良助は、ほほ笑むアルーシュ・リトナ(ib0119)に驚いた。嬉しそうなりんの隣で、清太郎は頬をかく。 清太郎とりんの二年越しの想いの花を、咲かせてくれた恩人の一人だ。 「花梨さん、お久しぶりですね」 「先日は、ありがとうございました」 「あの後の調子は、いかがでしょう?」 「諦めずに立ち上がり続ければ、いつか目指した場所へたどり着けますよね」 純之江 椋菓(ia0823)は、見知った花梨に話しかける。縁があって手伝った、修行の成果を尋ねてみた。 花梨の返事に、椋菓は大きく頷く。 「皆さん、今日は、ありがとうございます。よろしくお願いします」 「お願いします」 りんは良助の頭を押さえ、一緒にお辞儀をさせた。二人の杖は初々しい。 「俺は旅慣れているんだが、おりんと良助は初めての旅なんだ」 愛用の三度笠を手に、清太郎が補足を入れる。 「僕も、ただの旅って言うのは初めてかも〜! 楽しみ〜!!」 「道中では、本人も知らない意外な一面が、分かったりするでやんす。面白いでやんすよ〜」 大好きなお空を見上げて、思いをはせるオルカ。桜花もお茶目に、相槌を打つ。 「りんさんや良助さん達をしっかり護衛しつつ、旅行を楽しめたらいいなぁ‥‥」 「はっ! 護衛を忘れているわけでは、ないのであります!」 しみじみとした、ティエルの言葉。はしゃいでいた実空は、聞かれもしないのに力説する。 「今回は安全な道を選んで行きますから、大きな危険はないでしょう」 「旅慣れないお二人が、ご一緒ですもの。こまめに休憩を取りましょうね」 きちんと説明する椋菓に、アルーシュの口添えも。りんと良助は、安堵の表情を浮かべる。 「いやー、初めてのお仕事が、のどかな所へ行くのでよかったー♪ いや、油断はしないけどね」 「‥‥万が一でも、あったら困るしね」 手の土を払いつつ、安堵する者がもう一人。見聞と、勉強と、好奇心を満たすために参加したピアナ。 双子星の耳飾りを揺らしつつ、木陰から出てきた雪斗は呟く。 「さあ、行きましょう♪」 「旅立ちであります!」 「うん!」 「これが村から出る『記念すべき第一歩』に、なるでやんすな!」 先導するティエルと美空に、元気よくついて行く良助。清太郎に手を取られ、りんも続く。桜花の掛け声が、三人を後押しした。 「そこのお姉さん、なんか動きがぎこちないよー。手と足が、一緒に出てる」 「わっ!」 「大丈夫か?」 ピアナの視線の先には、緊張した花梨。盛大にこける。慌てて雪斗が、手を差し伸べた。助けられて、花梨は立ちあがる。 「大丈夫ですね。折角の旅のお供ですから、道中一緒に楽しみながら行きましょう?」 「私達もいますから、あまり自分が‥‥と気負う必要はありませんよ」 しゃがみこみ、無事を確認するアルーシュ。漆黒の髪紐を揺らし、心配そうに椋菓も覗きこんだ。花梨は、無言で顔を赤らめる。 「そうだ。人を三人飲み込むと、緊張取れるよ!」 ピアナは得意げに発言、猫の獣耳カチューシャも誇らしげだ。 「そうなのですか!?」 「すごい風習ですね‥‥」 「ところ変われば、変わるであります」 学業を疎かにしていたティエルと、いわゆる天然の椋菓は関心。旅から旅を重ねる「歩き巫女」の美空も、初耳らしい。三人は、すんなり説明を受け入れる。 「‥‥アル=カマルは、恐ろしい所だな」 「僕はシャチが好きなウサギの獣人だから、大丈夫だね」 思考に時間を取られた雪斗は、少し遅れて奇異のまなざしに。両手でウサギ耳を触り、ほっとするオルカ。 「天儀で聞いたよ?」 「‥‥たぶん、人と言う字を三回書いて飲み込むの、間違いでやんす」 「びっくりしましたね」 きょとんとするピアナを前に、冷静に分析する桜花。手を組んだアルーシュは、穏やかに笑った。 ● 宿に泊まりつつ、歩くこと数日。ようやく武天との境目が近づく。 ホオジロが街道に降りてきて、食事をしていた。 「今更だけど、行くまであと何日かかるの〜??」 「‥‥りんさんと、良助さん次第でしょうか」 のんきな鳥を見ながら、オルカは疑問をぶつける。軽い沈黙のあとに、答える花梨。 「念のため、野営の準備はしていますよ!」 「野宿‥‥旅慣れしている人はともかく、二人は少し心配かも〜」 「花梨の嬢ちゃん。あっしらもいるから、大丈夫でやんすよ♪」 持ってきた天幕と寝袋を、椋菓は見せる。心配そうに垂れ下がるウサギ耳。花梨の表情も曇った。 威勢よく、オルカと花梨の背中が叩かれる。風来坊の『桜来嬢』。呼び名に相応しく、髪に枝垂桜の簪を挿さした桜花が笑っていた。 「何事も、余裕を持つことが大事。通り過ぎる景色など、楽しみながら行きたいですね」 「旅は良いでやんすよ〜。あっしも、この為に生きていると言っても、過言じゃないでやんす!」 緊張をほぐそうとする、椋菓と桜花。オルカと花梨に少し笑みが浮かぶ、楽しそうな先頭集団を見た。 「旅の団子味、もとい醍醐味と言えば、まずはお土産物屋さんであります♪」 「‥‥」 「良助君、大丈夫でありますか?」 「どうしたの?」 楽しそうに話していた美空。急に無口になった良助を心配する。ピアナも声をかけた。旅の疲れか。 「もしかして、お腹がすいてます?」 「うん‥‥」 異変を察し、ティエルが寄ってきた。問いかけに、こくんと頷く良助。 「なんか、うまいもの食べたいね」 「同感であります」 ピアナと美空も、お腹を押さえる。子供たちの胃袋は、空腹の合唱。 「重大な問題が、発生しました。お昼の時間です!」 後ろを振り返った、ティエル。ピシッと、お天道様を指し示す。伊達眼鏡が、輝いていた。 「あの‥‥今、ジルべリアの雪原が、見えた気がするのですが」 「‥‥気のせいだ。絶対」 立ち止る、大人たち。聖歌の冠を傾け、少し困った顔のアルーシュ。雪斗は生真面目に否定する。自分に言い聞かせるように。 「おにぎりなら‥‥」 「この先の峠に茶屋がある」 「まぁ、いいですね♪ 峠のお茶屋さん、気持ち良いと思いますよ。私も中々立ち寄る機会が無くて、楽しみです」 清太郎は、大事な弁当を出そうとするりんを制した。アルーシュは、おっとりと手を打ち合わせる。 「茶屋か‥‥」 甘い物が苦手な雪斗、少し引きつった表情を浮かべた。 木陰にある茶屋で、一息つく。峠の下には池があった、吹きつける風が心地よい。 「清の兄さんが、二年も旅していた気持ちも、分かるでやんすなぁ」 「良い所だろう。あっちが武天、こっちが朱藩だ」 天ぷら片手に桜花が見渡せば、両国を一望できる絶景。朱藩中を旅していた清太郎は、穴場を知っていた。 「ふっふふーん♪ 旅の醍醐味〜・・・それは!!食べ歩きと、自然とのふれあい〜!」 オルカは、年少組を引率する。暑くても、闘士鉢金は取らない。 「あれ、どんな食べ物?」 「団子だよ」 「これ、何?」 「せんべいであります」 店のお品書きを指差すピアナに、良助は教える。美空が手にしたお菓子にも、興味津々。 結局、食べきれないほどのおやつを、皆で両手に抱え込んだ。 「綺麗な物を見つつ、おいしい物を食べる。最高でしたね」 「そばがあって、助かった‥‥」 食後の一杯。ティエルは甘酒をすすり、ご満悦。口のはたに着いた、天かすを払う雪斗。 屋台でないのは残念だが、通りすがりの店の名物。これも旅の醍醐味。 「そう、祝言を‥‥六月の花嫁になられるのですね。本当におめでとうございます。素敵な、婚前旅行になると良いですね」 「婚礼、おめでとうございます。今回の旅が、お二人の楽しい思い出になるよう、努めさせていただきますよ。ね、花梨さん」 「はい!」 「ありがとうございます、皆さんとご一緒できて良かった‥‥」 年ごろの娘が集まれば、気になるのは恋話。嬉しい知らせに、アルーシュは心からほほ笑む。子供達の為に歌う、新しい物語もできそうだ。 今の椋菓にとって、『守るべき誰か』は、りんと清太郎。花梨も同じ気持ちだった。 祝辞の数々に、りんの頬は薄紅に染まる。 おやつ片手に、子供達は相談会。 「ちょっとその辺、散策ついでに散歩してきたいな‥‥」 「だったら、空気の違いを知って欲しいかな、これ重要! 緑の多いトコだったら、青くさい匂いするもんね!」 緑の深い場所は、見たことない景色。ピアナの台詞に、自然大好きっ子のオルカは誘う。 「あ、僕も行きたい」 「皆で行くのであります♪」 手をあげる良助。美空は妙案を出した。拍手で迎えられる。 「旅は道連れと、あっしもお供いたしやしょう」 「だったら、少し向こうの方を偵察してきますね!」 利き咎めた桜花が、腰を上げた。ティエルも席を立つ。 「時間があるか‥‥少し風に当たってくる」 延びそうな出発時間。雪斗の姿は、店の外へ。 「お茶のお代わり頂いて来ますね。花梨さんも、ご一緒に」 「行きましょう!」 「あ、はい」 お茶と言いながら、アルーシュは奥へ。椋菓に背を押され、花梨も退場。 「なんだ、皆、外か?」 「ええ、良助も旅が楽しいみたい」 話し相手を失い、清太郎は一人残されたりんの側へ。 「はぁ。楽しい旅から帰ったら、田植えか‥‥」 「やっぱり、村の暮らしは嫌?」 「‥‥おりん!」 「清君!?」 「待ってろ。今年は、とびっきり上手い米を食わしてやる」 「本当? 約束よ」 「ああ」 ぼやく清太郎に、不安を隠せないりん。とても悲しそうだった。 泣かせたくない。清太郎は、思わず抱き寄せる。驚くりんの耳元で、囁く誓い。 二人の間で、指きりが交わされた。 「わっ‥‥むぐ」 声を出しかけたオルカ。問答無用で、桜花が口をふさぐ。しーと、口の前で人差指を立てる美空。「良かったね」 「うん♪」 こそこそと、笑い合うピアナと良助。ティエルは、二人にばれないかと冷や汗を流した。 やったなと親指を立て、店の奥へ合図を送る雪斗。椋菓は、親指と人差し指で丸印を返す。 店員と見守っていたアルーシュは、花梨と喜びの握手を交わした。 普段、見られない行動。これも旅の醍醐味かもしれない。 ● 武天の町中を歩く一行。もうすぐ花梨の家だ。 「武天は、貴石などを使った装飾品が有名ですね。花梨さんは、そういうお店をご存知ですか?」 「知ってますよ」 「装飾とか興味ある!! 村のお守り的なものって、すっごい綺麗なものあるもんね!」 「せっかくなので、お土産選びも張り切りませんか。ご親戚同士になるんですから」 「お土産探しと、しゃれこむのも良いでやんすな〜」 石鏡生まれの椋菓。ふっと、思い立ち訪ねてみた。花梨は愛想よく答える。オルカのウサギ耳が、ものすごく良い反応。 アルーシュはりんに提案した、ひょっこりと桜花も会話に加わる。 「ボクも、お土産欲しいな‥‥」 「露店商を冷やかしながら、奇石の装飾品を値切り倒すのであります!」 「できれば詳しい人と一緒に、回りたいですね」 羨ましそうにぽつりともらすピアナの隣で、意欲満々の美空は拳を振り上げる。ティエルも、装飾品を見てみたい。 「良助、はぐれたら行けないから‥‥」 「花梨姉ちゃんについて行くよ」 りんに促され、良助も行き先決定。 少し寄り道も、旅の醍醐味。 「まず、ここです」 「ほえほえー、綺麗な石っころでありますねー」 花梨の案内で、一店目に。視力が弱い美空、手にとって確かめた。 「それ、何だっけ?」 「翡翠でやんすよ♪」 見知らぬものを指差すピアナ。にかっと、笑い桜花は教える。 「花梨さんとおりんさんで、色違いの根付けとか‥‥」 「清太郎さんとおりんさんで、お揃いの物を買うのも良いですよ」 りんを前に、アルーシュと椋菓は延々と迷う。 「特別な物を、見つけれたらいいな〜」 「きっと見つかります!」 忙しく動く、オルカのウサギ耳。ティエルも絶好調で宣言する。 とにかく大はしゃぎ。乙女心に、故郷も、年齢も、関係なかった。 「良助、これはどう?」 「綺麗だね、姉ちゃん」 「ほら、お揃いよ」 「うん!」 りんは店の片隅で、自分と良助の腕に瑠璃の腕輪をはめる。すすめた皆は、嬉しそうに見守っていた。 「流石に、男の身で混ざるのは、気が引ける‥‥かな」 数歩離れて同行していた雪斗。店の外で躊躇する。 「行きたい所があれば、案内しようか?」 「書店とか‥‥」 「分かった」 清太郎も、町中には地の理がある。娘たちに一言告げると、二人は別行動をとった。 「話は聞いたよ‥‥先ずは、おめでと‥‥かな」 「ありがとう」 なぜか会話が続かない。妙な沈黙になり、二人の歩みは重くなる。 「あまり気の利いた言葉を掛けてあげれなくて、すまんね‥‥」 「俺も口下手だから、気にしないでくれ」 「ただ助言するなら、迷わないように‥‥」 「迷って、ようやくたどり着いた」 雪斗は、疎遠になっている恋人を思い浮かべた。清太郎も、同じ気持ちだったのか。 「そうか‥‥ならお幸せに、な」 「あんたも、お幸せに」 雪斗は右手をあげる。清太郎も右手で、雪斗の手の平を叩いた。 言葉なく笑う、男同士の会話。 もうすぐ、武天の旅は終着点。しかし心の旅は、これからも続いて行くだろう。 |