端午の節句を祝おう
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/16 23:37



■オープニング本文

 ギルドは今日も賑わっていた。合間を縫って、昼休みの時間。
「長期休暇ですか?」
「おう、端午の節句が近いからな。故郷のじい様に、ひ孫の顔見せぐらいしてやらないと」
 愛妻弁当のおにぎりをぺろり。ベテランギルド員は答える。
「そういえば尚武君、節句生まれでしたね!」
「もうすぐ三歳、早いもんだ。今年は遂に七五三だぞ」
「実家で、どんなことをするんですか?」
「柏餅食って寝るだけだ」
「えっ? 鎧かぶとを着せるとか、弓矢や刀を飾るとか‥‥」
「ない。実家も、鯉のぼりだけしか用意してないぞ」
「将来は弓術士じゃないんですか!? 弓矢の準備もしてないなんて‥‥」
「職業なんて、子供次第だからな。まぁ、先祖代々の弓の技術を、じい様や、親父は受け継いで貰いたいようだが‥‥」
 新人ギルド員は驚きの連続。対してベテランギルド員は破顔一笑。弾む会話に、いつもの厳しさなど欠けらもない。
「どれぐらい、休む予定ですか?」
「九日は俺も誕生日だし、五月一日から十日間だな。俺が留守にする間、ちゃんとギルドの仕事やれよ?」
「はい、任せてください!」
 ベテランギルド員の発破に、新人ギルド員は胸を叩いた。


「‥‥息子さんの誕生日、お祝いしてあげしたいな。弥次先輩には、お世話になってばかりだし」
 ベテランギルド員が旅立った後、新人ギルド員は呟く。決意して端午の節句の日に、一日だけ休暇を取った。
 取った後で、ハタっと気づく。何をすれば、喜んでもらえるのだろう。
 ベテランギルド員は元開拓者で、理穴出身の弓術士の家柄。ならば息子さんに弓矢を贈れば‥‥、いや、安直過ぎる。


 新人ギルド員は悩んだ挙句、ギルドに依頼を貼りだした。
『いつもお世話になっている人に、恩返しをしたいです。息子さんの誕生日、端午の節句のお祝いを手伝ってください。恩人の居場所は理穴です。
注意:恩人には、当日まで秘密にしておくつもりです』
 世界を駆け巡る開拓者ならば、妙案を持つに違いない。期待に胸が弾む。
 思いこんだら、突っ走る性格は健在。依頼人の喜多、再来す。


■参加者一覧
九法 慧介(ia2194
20歳・男・シ
草壁 鞍馬(ib3373
19歳・男・志
沖田 嵐(ib5196
17歳・女・サ
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
サガラ・ディヤーナ(ib6644
14歳・女・ジ


■リプレイ本文


「こんにちは、お邪魔します」
 昼下がりの玄関先で、聞き覚えのある声。弥次が出向けば、新人ギルド員と開拓者の集団が居る。
 仕事場で見慣れた姿に、緊張が走った。
「喜多、なにかあったのか!?」
「あ、弥次先輩」
「こんにちは。今日は、依頼できました」
 のんきな喜多の隣で、九法 慧介(ia2194)が真剣に会話を引き継ぐ。
「近くにアヤカシが出たのか?」
「もっと大切な依頼だ」
 神妙な面持ちの草壁 鞍馬(ib3373)は、不安をあおる。
「これを見て貰えますか?」
 開拓者が二手に分かれた。しゃがんでいたKyrie(ib5916)が飛び出す。
「おいらは鶏 鶏男
ジルベリア生まれのジルベリア育ち
はるばる来たぜ お祝いに
イェア イェア コケー!」
「‥‥!?」
「とりしゃん!」
 まるごとこっこの上は、赤くした髪を逆立て、くちばしに日の丸ほっぺのKyrieの顔。
 弥次の時間が止まった。トコトコ出てきた尚武の歓声。
「やったー、驚いて喜んでくれたね♪」
「端午の節句、息子の誕生日なんだろう? せっかくの祝いだ、いいものにしたいじゃないか」
 手を打ち合わせる、アムルタート(ib6632)。いたずらな笑みを浮かべて、沖田 嵐(ib5196)は種明かし。
「キミが尚武クン?」
「あい!」
 サガラ・ディヤーナ(ib6644)は、子供に話しかける。元気な答えが返った。



 ギルドの一角で、話込む人影。
「いいか。『感謝をしている』『恩返しをしたい』という気持ちを伝える。これを第一に考えろ」
「どうすれば、いいんでしょうか!?」
「伝え方は、色々あると思うが‥‥」
 鞍馬は喜多をみやる。恩返しの手伝い募集を出すあたり、器用な方じゃなさそうだ。
「弥次には酒とツマミでも買って、持っていけばいいんじゃないか」
「どんなのが好きなの?」
「えーと、僕の故郷、泰のお酒は喜びましたね♪」
「‥‥泰?」
 アムルタートは眉根を寄せる。アル=カルマから来たばかりで、地理には疎い。
「天儀とは、別の儀です。他にも、ジルベリアと言う儀もあります。それぞれ独特の文化を持っていますよ。」
「へー、そうなんだ」
「ついでに泰は猫族といって、ネコ科の獣人が多いんだよ。ほら猫しっぽ」
「本当だ♪」
 ジルベリアの育ちで、吟遊詩人となり各地を周っていたKyrieの説明。補足する嵐の手には、隠していた喜多の虎猫しっぽがあった。
「わー、止めてください!」
「天儀の獣人は、神威人と言うんだけど。同じように耳やしっぽを触れられるの、嫌いますよ」
「覚えておかないと、大変だね」
「‥‥お願いします」
 天儀の北面育ちの慧介も、苦笑を浮かべて説明する。猫しっぽを隠しつつ、涙目の喜多。
「遅れちゃった! えーと、依頼人はここですか?」
 息を弾ませ、サガラが飛び込んでくる。勢いに押され、コクコクと頷く面々。
「サガラです。よろしくね♪」
 くるりと回り、バラージドレスの裾を持ち上げた。にっこり笑って、ご挨拶。
「これで請負人は全員?」
「はい」
「じゃ、酒の準備はあたしたちに任せな」
「分かりました」
 嵐は軽く胸を叩き、笑った。喜多の、喜びの返事。
「あー、そうだ! 布に言葉を書いて、贈るのはどう?」
「どうせなら、寄せ書きはいかがですか?」
「弥次さんに世話になった人や、知り合いにも経緯を話しをして。皆に書いて貰うんだ!」
「皆で恩返しなんて、情に篤いんですね♪ ボク、そういうの好きだな」
 アムルタートの提案に、Kyrieが乗った。見ていたサガラもほほ笑むが、すぐに悩みの表情に変わる。
「‥‥天儀では当たり前、なのかなぁ?」
「そのうち分かってきますよ」
 うーんと唸るサガラに、慧介は笑顔で声をかける。天儀の文化を知る、良い機会にもなるだろう。
「尚武君の贈り物は、どうしたら良いでしょうか?」
「坊主には大勢でわいわい遊べるような、玩具がいいんじゃないかな」
「玩具ですか‥‥」
「高価じゃなくていいから」
 肝心なことで、唸り始める喜多。鞍馬は、言葉を選びながら助言する。
「墨と筆で、良いでしょうか? 皆で文字の練習をして、遊べますよ!」
「‥‥まあ、気持ちが大事だからな」
 突拍子もない答え。鞍馬は、なんとか声を絞り出した。



「まあ、せっかく来たんだ。上がれよ」
「お邪魔します」
 少々面食らいながらも、弥次は皆にすすめた。合唱をして、家にあがらせて貰う。
「くちゅー、だみぇ」
「尚武が、靴を脱いでと言ってるよ」
「えーと、こうですね?」
「面白い文化だね」
 真面目にブーツを揃える嵐を真似する、サガラとアムルタート。
「おっと、危ないコケ!」
 玄関の途中でわざとこけるKyrieに、またまた尚武の歓声。
「すっかり、気に入られたようですね」
「坊主には、ちょうど良かったな」
 まるで少年が、そのまま大きくなったかのような慧介。笑いをこらえるのに、必死だった。こける瞬間を目撃した鞍馬も、破顔一笑。


 通された先は、広い座敷。
「来るのが分かっていたら、色々準備したんだが」
「心配無用♪」
 頭をかき、弥次はぼやく。嵐は、隠し持っていた酒を差し出した。
「おお、気が利くじゃないか! ノシとカスミ草?」
「ノシは感謝の証でしょ? こっちの礼儀みたいな物だって、聞いたから」
「カスミ草は、なんだ?」
「感謝、親切の花言葉なんだって」
「おお、ありがとな!」
 弥次の頭に浮かぶ疑問符。鞍馬が代弁して尋ねた。あっけらかんとアムルタートの答え。
「主役を忘れているコケ」
 Kyrieは白い卵状に包装してある、プレゼントを差し出した。受け取った卵を、不思議そうに尚武はひっくり返す。慧介も、荷物包みをひも解いた。
「三歳おめでとう、尚武くん。健やかに育って、お父さん達のように素敵な大人になりますように」
「天儀世界地図コケ。地名を書いてあるから、将来の為に勉強するコケ♪」
「はい、冒険のお供に望遠鏡です。それと将来何になるか、まだ分からないけど‥‥武芸の練習用に猫弓を。それから‥‥」
「まだあるのか?」
「友達と遊べるように球、昼寝に抱き枕。いやー、どうしても1つに決められなかったので、全部持ってきました」
 目を丸くする弥次。尚武の目の前に、どんどん摘みかねられる贈り物。慧介は照れ笑いを浮かべる。
「尚武、ありがとうは?」
「あーがとー」
 尚武は舌足らず口調で、にこにことお礼を言った。たくさんの贈り物にご満悦。
「弓といえば、弥次さんは弓術士なんだよね」
「そうだが」
 ふっと思い出し、嵐は尋ねてみる。
「あたし、流鏑馬を見たい」
「流鏑馬ってなんですか?」
「馬に乗って、矢を打つ技術だな」
「あたしは馬に乗ったり、弓をもったりはできると思うが。ちゃんとやれるかといったら、難しいと思う」
 サガラは聞き慣れない言葉に、首をひねる。鞍馬が簡単に説明をした。
 嵐は難しい顔で、祖父にしっかり教わるんだったと後悔。
「ボクも流鏑馬、みたいです♪」
「おお、良いぞ。準備している間、尚武を頼む。喜多、手伝ってくれ」
「はい」
 サガラも、元気よくおねだり。二つ返事で弥次は、喜多を引き連れ外へ。


 弥次の家族総出で、座敷で歓迎の準備をする。
「端午の節句か‥‥小さい頃は、よく玩具の弓や刀を振り回してたっけ‥‥」
 手伝おうとした慧介は、尚武の方へ押し出された。茶菓子に出された柏餅を見て、思い出に浸る。三人兄弟の末っ子は、兄とチャンバラごっこをしていた。
「刀‥‥か」
 腰の刀に触りながら、独り呟く鞍馬。石鏡の商家に生まれ、ゆくゆくは巫女として育てられるはずだった。幼なじみを守るために、志士の道を歩み始めたのは七つのとき。
「『精霊占術』で、簡単なこと占ったげる〜♪ 本格的だよ♪ 信じる、信じないは、お任せだけどね〜」
 カードをくるくる回しながら、アムルタートは宣言。自分の前に、カードを並べた。結果にかかわらず、はしゃぎまくる尚武。
「美味しいコケ」
「面白い食べ物です」
 甘党のKyrie、柏餅に舌包みをうつ。好物のシナモンをつけて焼いた果物ではないが、今は十分だ。
 一つの事に没頭し始めると、他の事に気が回らなくなるサガラ。一緒に柏餅に夢中だった。
「ほーら、尚武もこいのぼりだ」
 子供の興味はすぐに移る。庭のこいのぼりを見ていた尚武を、嵐は後ろから抱えた。
 ぐるぐるぐると回ると、遠心力で足が外に向く。尚武、大歓声。
「ちょっと、休憩」
「あしょぼー」
 目が回って、座り込んでしまった嵐。尚武は服を引ってくる。
「私と踊ろうか!」
 アムルタートは、尚武と踊る。抱えてくるくると、全力で回った。再び尚武の歓声。
「友達ってのは、年齢で決まるもんでもない。仲間、友達っていう存在は、大切だからな」
「外見でも決まらないコケ」
 柏餅を手に、鞍馬は二人の様子に感想をもらす。ビシッと決めたKyrie、ものすごく説得力があった。
「もうダメ」
「はーい、任せて下さい♪」
 嵐と同じく、目を回したアムルタートはバトンタッチ。故郷では近所の子供たちと遊んでいたサガラ、ちっちゃい子供と遊ぶのは嫌いじゃない。尚武を抱えあげ、縁側に移った。
「何して遊ぼうか」
「手品でも見ますか?」
 慧介は、悩むサガラに声をかけた。サガラと、膝の上の尚武が見上げる。
 陣羽織を脱ぐと、ひっくり返し何もないこと見せる。尚武の手の上に乗せた。
「一、ニ、三。はい、お金が貯まるように貯金箱の贈り物ですよ」
 掛け声とともに、陣羽織を外す。尚武の手の上には、陶磁器でできた豚の貯金箱。サガラと尚武の、驚きの悲鳴が上がった。


「待たせたな」
「尚武クン、お父さんですよ♪」
「おとーしゃん?」
 馬を連れて、弥次登場。サガラは指をさした、いつもと違う服装に、尚武は目をパチクリ。
「流鏑馬、行くぞ」
「待ってました♪」
 弥次の掛け声に、どやどやと全員が縁側に集まる。
「坊主、『お父さん、頑張れって』言うんだぞ」
「おとーしゃん、がーばりぇー」
 鞍馬は、拳を振り上げつつ教えてやる。尚武も真似して、手をブンブン。
「はっ!」
 掛け声とともに、馬を走らせる。緊張の一瞬。弥次の手から、矢が放たれた。風切り音とともに、的の真ん中へ。
 さらに、馬は旋回して戻ってくる。反対方向からの一撃。これも真ん中に突き刺さった。
「すごい!」
「しゅごーい、しゅごーい♪」
 嵐の一声、湧き上がる拍手。尚武も真似して、一生懸命手を叩く。
 錆びついてない腕前に、得意げな弥次。矢を外すと、馬を戻しに行った。
「準備良い?」
「大丈夫です」
「任せるコケ」
 縁側の片隅で、ひそひそしている。アムルタート、慧介、Kyrie。戻ってきた弥次を確認。
「せーの」
「弥次さんも、もうすぐお誕生日おめでとう!」
「皆からの贈り物コケ」
 三人の手には、広げられた大きな布。なにやら寄せ書きが、書かれている。
『おめでと〜! 感謝してるんだ、受け取れ〜!』
 ど真ん中にデカデカと書かれた文字は、誰のものだろう。
「おお!?」
「これは、ジルべリアの葡萄酒コケ」
「僕からも、墨と筆を。尚武君と一緒に、文字の練習にどうぞ」
「おお! すまんな」
 Kyrieは、もう一つの卵包みを差し出した。慌てて喜多も。弥次の素っ頓狂な声。驚きのまなこで贈り物を受け取る。
「坊主、どうした?」
「ありぇー!」
「どうしたの?」
 サガラの膝の上で、もぞもぞしだす尚武。鞍馬は声をかけた。サガラは手を離す。トコトコ歩き、尚武が手にしたのは贈り物の猫弓。
「本物の弓矢を、いきなり持たせるのは危ないからな」
 嵐は弓の代わりに、贈り物の球を持たせる。よいしょと尚武を抱えあげると、庭へ。
「ほーら、これでお馬さんだ」
「頑張って、投げてみますか?」
 大好きな肩車に、大はしゃぎの尚武。肩車をしたまま、庭を走る。的の後ろに陣取る慧介。尚武の投げた球を、拾っては返す。



 尚武がはしゃぎ疲れたのを見計らい、嵐と慧介が戻ってくる。縁側で見ていた皆の所へ。
「坊主、疲れたのならお手玉でもするか?」
「お手玉ですか?」
「笑うなよ? 幼なじみがお手玉好きで、オレも散々付き合わされたんだ」
 きょとんとする慧介。鞍馬は、軽く頬を膨らませた。
「お手玉歌は歌えないんだ。オレ、あんまり歌は上手くねーんだよな」
「歌ですか? ボクも上手くないけど、歌うのは好きです。天儀の歌は知らないけど」
「お教えしましょうか?」
 歌う事が趣味のサガラが興味を示した。尚武の母が声をかけ、縁側に寄ってくる。
 鞍馬の差し出すお手玉を受けとると、優しい口調が響いた。
「わーい、覚えましたよ」
 サガラが母親のあとについて歌う。歌声に合わせて、鞍馬のお手玉八つと言う、驚異的な腕前が披露された。
「お手玉って面白そう、私もやりたい」
「こうやるのさ」
「目指せ三つ!」
 手先が器用で、両手利きの嵐。サガラの歌に合わせて、教えてやる。
 凄まじく高い直感を持つアムルタート。あっという間にお手玉のコツをマスター。
「難しいですね‥‥」
「‥‥歌なら負けないコケ」
 喜多とKyrieは、しょんぼり。ボトボト落ちていくお手玉。
「どんな歌ですか?」
「尚武君のために準備したコケ!」
 元気を取り戻すKyrie。聞き咎めた面々は、お手玉中断。リュートを手にしたKyrieに注目が集まる。
「おいらの鳴き声知ってるかい?」
「こえこっこー!」
「イエス、正解コケコッコー!
天儀じゃ 俺たちコケコッコー
じゃあ他の儀では何て鳴く?
OK OK 教えちゃう♪
ジルべリアではクカレキー」
 耳を澄ますKyrieに、元気いっぱい答える尚武。
「泰国では」
「ウーウーです」
「アル=カマルでは」
「クワウクワッ!」
「同じ鶏 でもこんなに違いがあるんだぜ」
 ノリノリで故郷の儀の鳴き声を言う、喜多、アムルタート、サガラ。
「世界にゃ不思議がいっぱいさ
尚武 君もいつかは
世界に羽ばたく時が来る
少年大志を抱こうぜ
世界は君を待ってるぜ」
 じゃらんと決めたKyrieに拍手の嵐。
「喜多さんもこないだ、お誕生日だったんですよね?」
「はい」
「じゃあボク、おめでとうと、お疲れ様で歌いますね!」
「私はお守りのムーンメダリオンあげる。これには自由な魂が宿ってるんだよ」
「いいんですか!?」
「自分がしたいと思ったことなら、きっと力になってくれるよ!」
「ボクの村で良いコトがあった時に歌う、お祝いの歌。気に入ってもらえると良いな♪」
「ありがとうございます!」
 サガラとアムルターからの思わぬ贈り物。喜多、感涙。


「はい、弥次さん。どうぞ」
「お前さんも、もう一杯」
 お手玉から離れて、慧介は弥次と呑み交わしていた。
「しかし、尚武は幸せ者だな」
「‥‥弥次さんの、賜物ですよ」
「なにか言ったか?」
「いえ、今日は良い日になりましたね」
「ああ、本当に。ありがとうな」
 盃をあおる慧介は呟く。問いかける弥次に、柔和な笑み。
 賑やかな縁側をみやる弥次。わが子の嬉しそうな声に、目を細めた。
 大空にこいのぼりが泳ぐ。外は、見事な五月晴れだった。