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■オープニング本文 ギルドは今日も賑わっていた。合間を縫って、昼休みの時間。 「長期休暇ですか?」 「おう、端午の節句が近いからな。故郷のじい様に、ひ孫の顔見せぐらいしてやらないと」 愛妻弁当のおにぎりをぺろり。ベテランギルド員は答える。 「そういえば尚武君、節句生まれでしたね!」 「もうすぐ三歳、早いもんだ。今年は遂に七五三だぞ」 「実家で、どんなことをするんですか?」 「柏餅食って寝るだけだ」 「えっ? 鎧かぶとを着せるとか、弓矢や刀を飾るとか‥‥」 「ない。実家も、鯉のぼりだけしか用意してないぞ」 「将来は弓術士じゃないんですか!? 弓矢の準備もしてないなんて‥‥」 「職業なんて、子供次第だからな。まぁ、先祖代々の弓の技術を、じい様や、親父は受け継いで貰いたいようだが‥‥」 新人ギルド員は驚きの連続。対してベテランギルド員は破顔一笑。弾む会話に、いつもの厳しさなど欠けらもない。 「どれぐらい、休む予定ですか?」 「九日は俺も誕生日だし、五月一日から十日間だな。俺が留守にする間、ちゃんとギルドの仕事やれよ?」 「はい、任せてください!」 ベテランギルド員の発破に、新人ギルド員は胸を叩いた。 「‥‥息子さんの誕生日、お祝いしてあげしたいな。弥次先輩には、お世話になってばかりだし」 ベテランギルド員が旅立った後、新人ギルド員は呟く。決意して端午の節句の日に、一日だけ休暇を取った。 取った後で、ハタっと気づく。何をすれば、喜んでもらえるのだろう。 ベテランギルド員は元開拓者で、理穴出身の弓術士の家柄。ならば息子さんに弓矢を贈れば‥‥、いや、安直過ぎる。 新人ギルド員は悩んだ挙句、ギルドに依頼を貼りだした。 『いつもお世話になっている人に、恩返しをしたいです。息子さんの誕生日、端午の節句のお祝いを手伝ってください。恩人の居場所は理穴です。 注意:恩人には、当日まで秘密にしておくつもりです』 世界を駆け巡る開拓者ならば、妙案を持つに違いない。期待に胸が弾む。 思いこんだら、突っ走る性格は健在。依頼人の喜多、再来す。 |
■参加者一覧
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
草壁 鞍馬(ib3373)
19歳・男・志
沖田 嵐(ib5196)
17歳・女・サ
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
サガラ・ディヤーナ(ib6644)
14歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 「こんにちは、お邪魔します」 昼下がりの玄関先で、聞き覚えのある声。弥次が出向けば、新人ギルド員と開拓者の集団が居る。 仕事場で見慣れた姿に、緊張が走った。 「喜多、なにかあったのか!?」 「あ、弥次先輩」 「こんにちは。今日は、依頼できました」 のんきな喜多の隣で、九法 慧介(ia2194)が真剣に会話を引き継ぐ。 「近くにアヤカシが出たのか?」 「もっと大切な依頼だ」 神妙な面持ちの草壁 鞍馬(ib3373)は、不安をあおる。 「これを見て貰えますか?」 開拓者が二手に分かれた。しゃがんでいたKyrie(ib5916)が飛び出す。 「おいらは鶏 鶏男 ジルベリア生まれのジルベリア育ち はるばる来たぜ お祝いに イェア イェア コケー!」 「‥‥!?」 「とりしゃん!」 まるごとこっこの上は、赤くした髪を逆立て、くちばしに日の丸ほっぺのKyrieの顔。 弥次の時間が止まった。トコトコ出てきた尚武の歓声。 「やったー、驚いて喜んでくれたね♪」 「端午の節句、息子の誕生日なんだろう? せっかくの祝いだ、いいものにしたいじゃないか」 手を打ち合わせる、アムルタート(ib6632)。いたずらな笑みを浮かべて、沖田 嵐(ib5196)は種明かし。 「キミが尚武クン?」 「あい!」 サガラ・ディヤーナ(ib6644)は、子供に話しかける。元気な答えが返った。 ● ギルドの一角で、話込む人影。 「いいか。『感謝をしている』『恩返しをしたい』という気持ちを伝える。これを第一に考えろ」 「どうすれば、いいんでしょうか!?」 「伝え方は、色々あると思うが‥‥」 鞍馬は喜多をみやる。恩返しの手伝い募集を出すあたり、器用な方じゃなさそうだ。 「弥次には酒とツマミでも買って、持っていけばいいんじゃないか」 「どんなのが好きなの?」 「えーと、僕の故郷、泰のお酒は喜びましたね♪」 「‥‥泰?」 アムルタートは眉根を寄せる。アル=カルマから来たばかりで、地理には疎い。 「天儀とは、別の儀です。他にも、ジルベリアと言う儀もあります。それぞれ独特の文化を持っていますよ。」 「へー、そうなんだ」 「ついでに泰は猫族といって、ネコ科の獣人が多いんだよ。ほら猫しっぽ」 「本当だ♪」 ジルベリアの育ちで、吟遊詩人となり各地を周っていたKyrieの説明。補足する嵐の手には、隠していた喜多の虎猫しっぽがあった。 「わー、止めてください!」 「天儀の獣人は、神威人と言うんだけど。同じように耳やしっぽを触れられるの、嫌いますよ」 「覚えておかないと、大変だね」 「‥‥お願いします」 天儀の北面育ちの慧介も、苦笑を浮かべて説明する。猫しっぽを隠しつつ、涙目の喜多。 「遅れちゃった! えーと、依頼人はここですか?」 息を弾ませ、サガラが飛び込んでくる。勢いに押され、コクコクと頷く面々。 「サガラです。よろしくね♪」 くるりと回り、バラージドレスの裾を持ち上げた。にっこり笑って、ご挨拶。 「これで請負人は全員?」 「はい」 「じゃ、酒の準備はあたしたちに任せな」 「分かりました」 嵐は軽く胸を叩き、笑った。喜多の、喜びの返事。 「あー、そうだ! 布に言葉を書いて、贈るのはどう?」 「どうせなら、寄せ書きはいかがですか?」 「弥次さんに世話になった人や、知り合いにも経緯を話しをして。皆に書いて貰うんだ!」 「皆で恩返しなんて、情に篤いんですね♪ ボク、そういうの好きだな」 アムルタートの提案に、Kyrieが乗った。見ていたサガラもほほ笑むが、すぐに悩みの表情に変わる。 「‥‥天儀では当たり前、なのかなぁ?」 「そのうち分かってきますよ」 うーんと唸るサガラに、慧介は笑顔で声をかける。天儀の文化を知る、良い機会にもなるだろう。 「尚武君の贈り物は、どうしたら良いでしょうか?」 「坊主には大勢でわいわい遊べるような、玩具がいいんじゃないかな」 「玩具ですか‥‥」 「高価じゃなくていいから」 肝心なことで、唸り始める喜多。鞍馬は、言葉を選びながら助言する。 「墨と筆で、良いでしょうか? 皆で文字の練習をして、遊べますよ!」 「‥‥まあ、気持ちが大事だからな」 突拍子もない答え。鞍馬は、なんとか声を絞り出した。 ● 「まあ、せっかく来たんだ。上がれよ」 「お邪魔します」 少々面食らいながらも、弥次は皆にすすめた。合唱をして、家にあがらせて貰う。 「くちゅー、だみぇ」 「尚武が、靴を脱いでと言ってるよ」 「えーと、こうですね?」 「面白い文化だね」 真面目にブーツを揃える嵐を真似する、サガラとアムルタート。 「おっと、危ないコケ!」 玄関の途中でわざとこけるKyrieに、またまた尚武の歓声。 「すっかり、気に入られたようですね」 「坊主には、ちょうど良かったな」 まるで少年が、そのまま大きくなったかのような慧介。笑いをこらえるのに、必死だった。こける瞬間を目撃した鞍馬も、破顔一笑。 通された先は、広い座敷。 「来るのが分かっていたら、色々準備したんだが」 「心配無用♪」 頭をかき、弥次はぼやく。嵐は、隠し持っていた酒を差し出した。 「おお、気が利くじゃないか! ノシとカスミ草?」 「ノシは感謝の証でしょ? こっちの礼儀みたいな物だって、聞いたから」 「カスミ草は、なんだ?」 「感謝、親切の花言葉なんだって」 「おお、ありがとな!」 弥次の頭に浮かぶ疑問符。鞍馬が代弁して尋ねた。あっけらかんとアムルタートの答え。 「主役を忘れているコケ」 Kyrieは白い卵状に包装してある、プレゼントを差し出した。受け取った卵を、不思議そうに尚武はひっくり返す。慧介も、荷物包みをひも解いた。 「三歳おめでとう、尚武くん。健やかに育って、お父さん達のように素敵な大人になりますように」 「天儀世界地図コケ。地名を書いてあるから、将来の為に勉強するコケ♪」 「はい、冒険のお供に望遠鏡です。それと将来何になるか、まだ分からないけど‥‥武芸の練習用に猫弓を。それから‥‥」 「まだあるのか?」 「友達と遊べるように球、昼寝に抱き枕。いやー、どうしても1つに決められなかったので、全部持ってきました」 目を丸くする弥次。尚武の目の前に、どんどん摘みかねられる贈り物。慧介は照れ笑いを浮かべる。 「尚武、ありがとうは?」 「あーがとー」 尚武は舌足らず口調で、にこにことお礼を言った。たくさんの贈り物にご満悦。 「弓といえば、弥次さんは弓術士なんだよね」 「そうだが」 ふっと思い出し、嵐は尋ねてみる。 「あたし、流鏑馬を見たい」 「流鏑馬ってなんですか?」 「馬に乗って、矢を打つ技術だな」 「あたしは馬に乗ったり、弓をもったりはできると思うが。ちゃんとやれるかといったら、難しいと思う」 サガラは聞き慣れない言葉に、首をひねる。鞍馬が簡単に説明をした。 嵐は難しい顔で、祖父にしっかり教わるんだったと後悔。 「ボクも流鏑馬、みたいです♪」 「おお、良いぞ。準備している間、尚武を頼む。喜多、手伝ってくれ」 「はい」 サガラも、元気よくおねだり。二つ返事で弥次は、喜多を引き連れ外へ。 弥次の家族総出で、座敷で歓迎の準備をする。 「端午の節句か‥‥小さい頃は、よく玩具の弓や刀を振り回してたっけ‥‥」 手伝おうとした慧介は、尚武の方へ押し出された。茶菓子に出された柏餅を見て、思い出に浸る。三人兄弟の末っ子は、兄とチャンバラごっこをしていた。 「刀‥‥か」 腰の刀に触りながら、独り呟く鞍馬。石鏡の商家に生まれ、ゆくゆくは巫女として育てられるはずだった。幼なじみを守るために、志士の道を歩み始めたのは七つのとき。 「『精霊占術』で、簡単なこと占ったげる〜♪ 本格的だよ♪ 信じる、信じないは、お任せだけどね〜」 カードをくるくる回しながら、アムルタートは宣言。自分の前に、カードを並べた。結果にかかわらず、はしゃぎまくる尚武。 「美味しいコケ」 「面白い食べ物です」 甘党のKyrie、柏餅に舌包みをうつ。好物のシナモンをつけて焼いた果物ではないが、今は十分だ。 一つの事に没頭し始めると、他の事に気が回らなくなるサガラ。一緒に柏餅に夢中だった。 「ほーら、尚武もこいのぼりだ」 子供の興味はすぐに移る。庭のこいのぼりを見ていた尚武を、嵐は後ろから抱えた。 ぐるぐるぐると回ると、遠心力で足が外に向く。尚武、大歓声。 「ちょっと、休憩」 「あしょぼー」 目が回って、座り込んでしまった嵐。尚武は服を引ってくる。 「私と踊ろうか!」 アムルタートは、尚武と踊る。抱えてくるくると、全力で回った。再び尚武の歓声。 「友達ってのは、年齢で決まるもんでもない。仲間、友達っていう存在は、大切だからな」 「外見でも決まらないコケ」 柏餅を手に、鞍馬は二人の様子に感想をもらす。ビシッと決めたKyrie、ものすごく説得力があった。 「もうダメ」 「はーい、任せて下さい♪」 嵐と同じく、目を回したアムルタートはバトンタッチ。故郷では近所の子供たちと遊んでいたサガラ、ちっちゃい子供と遊ぶのは嫌いじゃない。尚武を抱えあげ、縁側に移った。 「何して遊ぼうか」 「手品でも見ますか?」 慧介は、悩むサガラに声をかけた。サガラと、膝の上の尚武が見上げる。 陣羽織を脱ぐと、ひっくり返し何もないこと見せる。尚武の手の上に乗せた。 「一、ニ、三。はい、お金が貯まるように貯金箱の贈り物ですよ」 掛け声とともに、陣羽織を外す。尚武の手の上には、陶磁器でできた豚の貯金箱。サガラと尚武の、驚きの悲鳴が上がった。 「待たせたな」 「尚武クン、お父さんですよ♪」 「おとーしゃん?」 馬を連れて、弥次登場。サガラは指をさした、いつもと違う服装に、尚武は目をパチクリ。 「流鏑馬、行くぞ」 「待ってました♪」 弥次の掛け声に、どやどやと全員が縁側に集まる。 「坊主、『お父さん、頑張れって』言うんだぞ」 「おとーしゃん、がーばりぇー」 鞍馬は、拳を振り上げつつ教えてやる。尚武も真似して、手をブンブン。 「はっ!」 掛け声とともに、馬を走らせる。緊張の一瞬。弥次の手から、矢が放たれた。風切り音とともに、的の真ん中へ。 さらに、馬は旋回して戻ってくる。反対方向からの一撃。これも真ん中に突き刺さった。 「すごい!」 「しゅごーい、しゅごーい♪」 嵐の一声、湧き上がる拍手。尚武も真似して、一生懸命手を叩く。 錆びついてない腕前に、得意げな弥次。矢を外すと、馬を戻しに行った。 「準備良い?」 「大丈夫です」 「任せるコケ」 縁側の片隅で、ひそひそしている。アムルタート、慧介、Kyrie。戻ってきた弥次を確認。 「せーの」 「弥次さんも、もうすぐお誕生日おめでとう!」 「皆からの贈り物コケ」 三人の手には、広げられた大きな布。なにやら寄せ書きが、書かれている。 『おめでと〜! 感謝してるんだ、受け取れ〜!』 ど真ん中にデカデカと書かれた文字は、誰のものだろう。 「おお!?」 「これは、ジルべリアの葡萄酒コケ」 「僕からも、墨と筆を。尚武君と一緒に、文字の練習にどうぞ」 「おお! すまんな」 Kyrieは、もう一つの卵包みを差し出した。慌てて喜多も。弥次の素っ頓狂な声。驚きのまなこで贈り物を受け取る。 「坊主、どうした?」 「ありぇー!」 「どうしたの?」 サガラの膝の上で、もぞもぞしだす尚武。鞍馬は声をかけた。サガラは手を離す。トコトコ歩き、尚武が手にしたのは贈り物の猫弓。 「本物の弓矢を、いきなり持たせるのは危ないからな」 嵐は弓の代わりに、贈り物の球を持たせる。よいしょと尚武を抱えあげると、庭へ。 「ほーら、これでお馬さんだ」 「頑張って、投げてみますか?」 大好きな肩車に、大はしゃぎの尚武。肩車をしたまま、庭を走る。的の後ろに陣取る慧介。尚武の投げた球を、拾っては返す。 ● 尚武がはしゃぎ疲れたのを見計らい、嵐と慧介が戻ってくる。縁側で見ていた皆の所へ。 「坊主、疲れたのならお手玉でもするか?」 「お手玉ですか?」 「笑うなよ? 幼なじみがお手玉好きで、オレも散々付き合わされたんだ」 きょとんとする慧介。鞍馬は、軽く頬を膨らませた。 「お手玉歌は歌えないんだ。オレ、あんまり歌は上手くねーんだよな」 「歌ですか? ボクも上手くないけど、歌うのは好きです。天儀の歌は知らないけど」 「お教えしましょうか?」 歌う事が趣味のサガラが興味を示した。尚武の母が声をかけ、縁側に寄ってくる。 鞍馬の差し出すお手玉を受けとると、優しい口調が響いた。 「わーい、覚えましたよ」 サガラが母親のあとについて歌う。歌声に合わせて、鞍馬のお手玉八つと言う、驚異的な腕前が披露された。 「お手玉って面白そう、私もやりたい」 「こうやるのさ」 「目指せ三つ!」 手先が器用で、両手利きの嵐。サガラの歌に合わせて、教えてやる。 凄まじく高い直感を持つアムルタート。あっという間にお手玉のコツをマスター。 「難しいですね‥‥」 「‥‥歌なら負けないコケ」 喜多とKyrieは、しょんぼり。ボトボト落ちていくお手玉。 「どんな歌ですか?」 「尚武君のために準備したコケ!」 元気を取り戻すKyrie。聞き咎めた面々は、お手玉中断。リュートを手にしたKyrieに注目が集まる。 「おいらの鳴き声知ってるかい?」 「こえこっこー!」 「イエス、正解コケコッコー! 天儀じゃ 俺たちコケコッコー じゃあ他の儀では何て鳴く? OK OK 教えちゃう♪ ジルべリアではクカレキー」 耳を澄ますKyrieに、元気いっぱい答える尚武。 「泰国では」 「ウーウーです」 「アル=カマルでは」 「クワウクワッ!」 「同じ鶏 でもこんなに違いがあるんだぜ」 ノリノリで故郷の儀の鳴き声を言う、喜多、アムルタート、サガラ。 「世界にゃ不思議がいっぱいさ 尚武 君もいつかは 世界に羽ばたく時が来る 少年大志を抱こうぜ 世界は君を待ってるぜ」 じゃらんと決めたKyrieに拍手の嵐。 「喜多さんもこないだ、お誕生日だったんですよね?」 「はい」 「じゃあボク、おめでとうと、お疲れ様で歌いますね!」 「私はお守りのムーンメダリオンあげる。これには自由な魂が宿ってるんだよ」 「いいんですか!?」 「自分がしたいと思ったことなら、きっと力になってくれるよ!」 「ボクの村で良いコトがあった時に歌う、お祝いの歌。気に入ってもらえると良いな♪」 「ありがとうございます!」 サガラとアムルターからの思わぬ贈り物。喜多、感涙。 「はい、弥次さん。どうぞ」 「お前さんも、もう一杯」 お手玉から離れて、慧介は弥次と呑み交わしていた。 「しかし、尚武は幸せ者だな」 「‥‥弥次さんの、賜物ですよ」 「なにか言ったか?」 「いえ、今日は良い日になりましたね」 「ああ、本当に。ありがとうな」 盃をあおる慧介は呟く。問いかける弥次に、柔和な笑み。 賑やかな縁側をみやる弥次。わが子の嬉しそうな声に、目を細めた。 大空にこいのぼりが泳ぐ。外は、見事な五月晴れだった。 |