【初夢】相棒と南国雪景色
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 19人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/12 01:01



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●初夢
 すぐ隣にあるかも知れない、舵天照にとてもよく似た、平行世界。
 どこかで見たことある風景と、どこかで見たことある人々。なぜか地名も、人物も、舵天照の世界と全く同じ。
 一つだけ違うとすれば、「相棒たちは全て意思を持ち、擬人化できる技法を持つ」こと。擬人化の技法は、年齢も外見も自由自在。
 開拓者と出会って朋友となった日から、グライダーさえも擬人化して、絵を描ける。
 練力切れで宝珠に引っ込む管狐も、擬人化すれば勝手に動き、お買い物を楽しめる。
 言葉をはなさない鬼火玉も、擬人化すれば自由に人語を操れ、開拓者と歌い踊れる。
 食べることができないアーマーも、擬人化すれば、美食家に変身することもある。
 不自由があるとすれば、翼をもつ者や、空中に浮く人妖などは、空を飛べなくなること。
 でも開拓者と一緒に過ごす日常は楽しくて、不満は浮かばない。
 これは舵天照に似た、不思議な世界の物語。開拓者と相棒たちの、日常の一幕。


●南国育ちの猫族さん
 泰国の南部は、温暖な気候。一年中、半そでで過ごせる土地柄だ。
 猫族(にゃん)と呼ばれる、泰国の獣人。白虎娘の司空 亜祈(しくう あき:iz0234)の実家も、南部にある。
 実家の料亭で虎娘の父親と、ベテランギルド員の栃面 弥次(とんめ やじ:iz0263)は、会話をしていた。
「ついに結婚か、めでたい話だ♪」
「ようやく、覚悟を決めたようだよ。私も一安心だね」
 二人の視線の先に居るのは、料亭の跡取り息子の喜多(きた)。開拓使者ギルドの受付係でもある。
「今回の騒ぎは、各地に大きく影響を及ぼしたからね。息子も、いろいろ考えたようだよ」
 先日起こった、泰国の動乱。その騒ぎが落ち着くと共に、跡取り息子の心をざわめかしたようだ。
「あの真っ白な虎の娘さんだろう? 二年前、喜多が神楽の都に連れてきたことがある」
 花月(かげつ)と呼ばれる、旅泰の家の令嬢。生まれつき心臓が弱く、黒縞模様を持っていない白虎。
 料亭の跡取り息子と、深窓の令嬢は本当に紆余曲折したものだ。
 約三年前、恋人だった二人はケンカ別れした。跡取り息子が、ギルド員として天儀に渡ったから。
 約二年前、ようやくまともに会話した。真っ白な虎は、開拓者のお陰で、生まれて初めて街の外の世界を知った。
 今年のバレンタイン。開拓者の後押しで、二人は天儀・泰国間で文通を開始した。
「祝言はいつだ?」
「正月だよ、君も来るかね?」
「…すまんが、俺は参加できん。招待されていないんだ、喜多から案内状を貰っていないからな」
「案内状? なぜそんな物が必要なのかね?」
 ベテランギルド員の声が沈み込む。結婚式をする報告は受けたが、参加の案内は受けなかった。
 料亭の若旦那は、息子と同じ虎猫しっぽを揺らした。軽く考え込む。
「…ああ、君は天儀の人だったね。私の町では、誰でも儀式に参加できるのだよ。
旅人が、結婚式に混じって祝い膳を食べるなど、ごく当たり前の景色だね。
逆に葬式があれば、通りすがりの人に、弔いの花向けを願う事もあるからね」
「変わっているな。親戚や友人だけで充分だろう? 俺の故郷は、それで間に合っているぞ」
「そうかね? 友人知人だけの儀式など、私は寂しいと思うがね」
 泰国も広く、地域に寄って風習が違う。この辺りは、幸せも悲しみも、皆で分け合うようだ。


「ゆ…き…ですの?」
「そう、雪よ! 花月は、雪を見たことないでしょう?」
 真っ白な白虎しっぽを揺らし、深窓の令嬢は尋ね返す。虎娘は、意気込んでいた。
「普通は、寒い所でないと見られないんですって。でも、うちの町に雪が降ったのよ!」
 虎娘の故郷に住む人々は、冬を知らない。どうしたことか、今年は雪が降って、町中が大騒ぎだ。
 原因は、通りすがりの冬の羽妖精の悪戯。雪を知らぬ人々は、精霊の贈り物と喜んだ。
「花月、雪を見にきてちょうだい。真っ白で綺麗なのよ♪」
 虎娘は、隣町に住む又従姉妹を、料亭に連れて行こうとしていた。
「でも、寒…い…と言うのでしたら無理ですわ」
「おう。『この温度なら、薄着でも大丈夫』って、うちに来ているギルド員が言ったぜ」
 ダークエルフの青年が、会話に口を挟んだ。虎娘の相棒、甲龍の金(きん)が擬人化した姿だ。
「南の海では、雪が降っていないから海水浴もできるわよ。いつも通り、魚も釣れるらしいね」
「まぁ、お魚ですの!?」
「そうよ。朽葉カニも、獲れるかもしれないわ」
 朽葉カニは、泰国を代表する秋の味覚として名高い。
「カニ炒飯が食べられますわね♪」
「たくさん獲れたら、うちに持って帰ろうぜ。カニと一緒に、サメも獲れたら嬉しいな」
「だったら、エビも狙いましょう! 兄上と花月と結婚式の祝い膳にするわよ」
「まぁ…ぜひ、お願いしますわ♪」
 期待に胸が躍る。フカヒレスープに、エビチリやエビシュウマイ。
 …基本的に、猫族は魚が大好きであった。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 相川・勝一(ia0675) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 汐見橋千里(ia9650) / 玄間 北斗(ib0342) / 明王院 千覚(ib0351) / ネネ(ib0892) / ワイズ・ナルター(ib0991) / 无(ib1198) / 海神 雪音(ib1498) / 劉 星晶(ib3478) / 神座真紀(ib6579) / 神座早紀(ib6735) / 神座亜紀(ib6736) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 宮坂義乃(ib9942


■リプレイ本文

●泰国的海
 「新娘」は、泰国で花嫁を指す言葉。噂を聞きつけた開拓者達、料亭のある町に赴く。
 汐見橋千里(ia9650)も、その一人。人妖の和登にせがまれた。
『ねえ千里、似合う? 似合う?』
 お洒落が大好きな和登。新しい振り袖に大はしゃぎだった。
「ああ似合うよ」
『この帯、おきにいりなの♪』
 帯「水鏡」を見せびらかす、相棒。透明感のある特別な青は、南国の空の色。
 生真面目な千里は、淡々と答える。ただ表情に乏しく、思っていることが表面に出にくいだけ。
『ふじちゃのごしゅじんたまのけっこんしき?』
 舌足らずの声がした。小雪の青い瞳が丸くなる。真っ白な子猫又は、大きく息を吸い込んだ。
『こゆきいくのっ!!』
 主である礼野 真夢紀(ia1144)が、びっくりするほどの音量であった。
「結婚式の祝い膳か…」
 少し後ろを歩く羅喉丸(ia0347)は、考え込む。上級人妖の蓮華は、肩の指定席から飛び降りた。
『お主は何がしたいのじゃ?』
 緩く結んだ、茶色の髪が大きく動きを放つ。擬人化した蓮華は、羅喉丸を見上げた。
 ほんの少し染まった頬。愛用の瓢箪とっくり、紫金紅葫蘆が腰もとで揺れている。
 弟子たる羅喉丸に問う声。軽く含みを持った、妙齢の女性の笑み。
「俺も、二人には喜んで欲しいからな」
『頑張るのじゃぞ、羅喉丸。妾はここからお主を見守っておろう』
 上着を脱ぎながら、羅喉丸は答える。懐で御守「あすか」が軽く跳ねた。
 お守りの意味する所は、明日への希望。義侠心に厚い弟子に、蓮華は満足そうに頷く。
「ほしみと一緒に、お祝いの魚と木の実を取るよ!」
 緑の瞳も、頼もしかった。お守り「希望の翼」を揺らしながら、天河 ふしぎ(ia1037)は振り返る。
 相棒の滑空艇改・星海竜騎兵に語りかけた。大紋旗を飾り付けた、通称『ほしみ』が機体を震わせる。
『マスター、私に任せてくれ』
 薄紫の瞳が、ふしぎを見つめた。ダークエルフの女性は、スラリとした生足を披露。
「わわわわ、みっ、水着、少なくとも何か着なくちゃ駄目なんだぞっ!」
 美少女にしかみえない、ふしぎは大慌て。相棒は、自分に似た容姿で擬人化してくれる。
 ほしみは、スタイルが良すぎる二十四才。真面目だが人間世界の常識に疎い。
 真っ赤になりながら、ふしぎは相棒の身体を隠した。真っ赤になる者が、もう一人。
「うーん、ちょっと大胆すぎたかなあ…や、やっぱ、かえろっか?」
 少しばかり、頬が染まっていた。エルレーン(ib7455)は、砂浜への一歩が踏み出せない。
 ちょっと大胆なビキニ姿になったけれど。ハイレグは敷居が高かった。
 恥じらう乙女の左手は、胸元のタオルを押さえている。右手は、腰のあたりを気にしつつ。
『誰も、えるれんのえぐれ胸には興味ないから、気にすることないもふ』
 ふわふわの毛並みが、エルレーンの足元を通った。棒読みの台詞を残して。
 相棒のすごいもふら、もふもふは主を見もしない。ふわふわの毛並みを揺らし、海へ。
『でも、えるれんの太もも、丸見えもふ』
「み、見ないで!」
 相棒のフォローに、エルレーンは真っ赤になる。大きな涙型をした紅玉の首飾りと共に、しゃがみこんだ。


『私が水に近寄らないのは、単に毛皮が濡れて張り付くからなのよ!』
 三毛猫しっぽを揺らし、優雅に宣言する二十才の女性。名前は、うるると言う。
 おっとりと小首を傾げる、ネネ(ib0892)の猫又が擬人化した姿。
「人間ならOK、と」
『お風呂もばっちこいに決まってるじゃない』
「耳としっぽは、どうするのですか?」
 ネネの指摘。無言で人間に変身し直す、三毛猫獣人の姿があった。
 ちょっと離れた場所では、うさぎのぬいぐるみがお留守番。
 ラグナ・グラウシード(ib8459)は、駿龍の相棒を見上げる。
「レギよ、さっそく行こうではないか…希望に向けて!」
 龍が大きく咆哮した。次に発したのは、人間の言葉。
『もとよりだ、主よ…いざ、我らが夢のために!』
 黒髪を掻きあげる、長身の青年。ロングヘアをなびかせ、片手を腰にやる。
 意気揚々とビーチへ向かう、青年二人。
 目的?そんなの決まっている。

 ナ ン パ だ ! !


「蓮華、そっちにサメが行った」
 水面上に顔を出した羅喉丸は、叫ぶ。擬人化を解いた相棒は、背中に漆黒の翼を生やした。
『どれ、妾が手伝ってやろう』
 サメの背びれが見えた。蓮華は躊躇なく、何かを叫んだ。
 呪いの声が、サメを直撃。腹部を水面にして、ぷかぷかと浮く。
 海上では、ふしぎを乗せたほしみが滞空中。サメを仕留めたと見るや、ふしぎは声を張り上げた。
「ほしみ、速度上げて!」
 輝く水面めがけ、滑空艇は海へ突撃を。ふしぎは滑空艇を蹴って、宙に飛びだす。
 ほしみは着水の直前に、擬人化する。網を持ったふしぎと共に、ダイビング。
 盛大に上がる水しぶき。左右に広げた網で、サメを囲い込んだ。
『他の獲物はどうじゃ?』
 真下の弟子に向かって、蓮華は尋ねる。羅喉丸は潜り漁の成果、カニとエビを意気揚々と掲げた。
「ネネ、海よ、海!」
 キラキラ輝く水面、キラキラ輝くうるるの瞳。普段苦手な水の中を、人間ならば堪能できる。
 ネネとうるるは、宝珠のついた竹筒を、口にくわえる。水中呼吸器を貸して貰った。
 海の中へ、二人で繰り出す。せっかくなので、海中散歩♪
 水面近くを泳いだり、海底を歩いたり、うるるは自由に動ける。宝珠「水蛇」を着けてきたかいが合った。
『ほら、今晩のごはんよ』
「…えーと、あれ、でも獲れたら、ですよ…」
 底の方を泳いでいる立派な魚。うるるは指差し、近づいて行く。好物は鰹節だが。
 おっとりと笑いながら、ネネは相棒を見守る。
 二人が海を堪能している頃、事件の足音が近づいてきていた。
 風にあおられる、无(ib1198)。吹き飛ばされないように必死。
「飛ばしすぎだろう…」
 高速飛行とウィンドチャージ併用で、海に急ぐ空龍。風天の背中でぼやいた。
「分かった。あっちで、釣りをしてくる」
 身ぶりで急かされ、无は砂浜に移動する。あきれた眼差しで、相棒を見送った。
 海の上で、龍獣人に擬人化する風天。ダイバースーツを身にまとっていた。
『これなら溺れても問題ない!』
 叫びながら、海へ落下して行く。盛大な水しぶきが上がった。
 空からの来訪者に、ネネとうるるはビックリ。海の中で立ち止る。
 目の前で、うるるが見つけた魚を、風天はつかみどり。そして、果敢にもがき、沈んでいく。
 …世の中には、カナヅチという人種がいる。誰か風天に、泳ぎを教えてあげて欲しい。
 同じころ、凛と佇む姿があった。ほしみは、砂浜の木を見上げる。
『マスター、あれを見て欲しい』
 指差す先には、南国の果物。美味しそうな木の実がなっている。ライチだ。
「採取しようか」
 言うが否や、ふしぎは、ほしみを肩車した。
『いつもはマスターが上に乗って居るのに、逆というのも新鮮なものだな』
「そう言えばそうだね…」
 木を見上げつつ、ふしぎは軽く返事を。ふっと、視線を感じた。
 側で釣りをしていた无が、無言で視線を寄こしている。
「…へっ、変な意味じゃ無いんだからなっ」
『マスター、危ないから動くな! 落ちたらどうするんだ!』
 ふしぎの頬に、紅が差す。ほしみに怒鳴られ、ふしぎはわたわたと。


 非モテ騎士。なんの事か分かるだろうか?
 エルレーンは知っている。「りあじゅう」に対しての怨嗟の情を持つ、兄弟子のこと。
 何故か恋人が出来ないことを内心相当気に病んでいる、ラグナの二つ名。
 高らかに空を舞う、ラグナの身体。前方で髪を掻きあげる、蓮華の姿。
『古来より可愛い子には旅をさせよと言うじゃろう』
 …酔八仙拳の達人から、本場の泰拳を味わった。砂まみれのラグナを見下ろす、相棒のレギ。
『主、我の勝ちぞ。まだ、十五連敗だからな』
 …さっき、ネネとうるるを口説こうとして、惨敗したのは誰だっけ?
 刺身を手に、アタック。雪花紋の指輪をはめたネネは、天然で優しそうだ。
『私、魚は香ばしくてジューシーなのがいいの』
 猫獣人に戻ったうるる。主を背中に隠し、三毛猫しっぽを膨らませた。
 うるるの全身から立ち昇る、強気と威嚇。レギはすごすごと退散する。
「黙れ、私はたったの二十連敗だ!」
 ラグナは拳を握り、立ちあがる。後ろから笑い声が聞こえた。
「そいつにかかわったら、非モテがうつっちゃうよ?」
 ラグナの宿敵、妹弟子がやってきた。エルレーンはラグナを指差し、レギに忠告。
「ぐ…う、う、うるさい、このえぐれ貧乳娘ッ!」
 ラグナの渾身の一言。エルレーン手元から、タオルが離れる。護身用の剣を握った。
「…何か言った? よく聞こえなかったんだけど」
 黒い宝珠が、暗黒の光をまとった。俯いたエルレーンは、抜き身の黒鳥剣を手にする。
「何も言っていないぞ、何も!」
「…そう。私、耳には自信あるんだけど?」
 一歩踏み出る、エルレーン。後ずさりしつつ、ラグナは息をのんだ。
『…主、我は用事を思い出した』
『同じく、用事を思い出したもふ』
 レギは龍に戻ると、海原に向かって飛び立つ。主を見捨てて。
 もふもふも、エルレーンにお尻を向けた。一目散に逃げていく。
 …夕暮れ頃、波間に浮いているラグナを、羅喉丸が保護したらしい。


●泰国的烹調
 真夢紀に手を引かれた、5分袖の薄桃色ワンピース。料亭の中に入ろうか迷い、後ずさり。
 目標人物を見つけた。てこてこ歩く、三毛猫の三才児を。
「ほら、小雪。言う事があるんでしょう?」
 真夢紀は、恥ずかしそうな相棒に促す。肩甲骨までのまっすぐな黒髪を揺らし、小雪は叫んだ。
『ふじちゃ、ごしゅじんたまがおめでとうなの!』
『小雪はんも、来てくれたん!? ほんま、おおきに♪』
 びっくりした三才児、次いで三毛猫しっぽが舞い踊る。擬人化した藤(ふじ)は、喜多の飼い子猫又。
「まゆは料理作成助っ人に来ました」
 見守っていた真夢紀は、精霊のおたまを見せて笑いかけた。
「折角の祝いの席ですもの…多くの方に、少しでも楽しんで貰いたいですものね」
 お隣で明王院 千覚(ib0351)も、料亭のお手伝い。隣でお行儀よく、六才の芝犬獣人が立っている。
 相棒の忍犬・ぽちが擬人化した姿。真夢紀の所の小雪とよく似た、一メートルに満たない身長。
『僕も千覚姉さまとがんばります。料亭のおじちゃん・おばちゃん、よろしくお願いします』
 くりくりの黒目が料亭の大旦那と、大女将を見上げた。柴犬らしい明るい茶髪をゆらし、ちょこんとお辞儀。


「やっぱ鯛は外せんかな。目玉にも塩を振って塩焼きに。目玉は椀物の具にするね」
 神座真紀(ib6579)は庭に陣取っていた。調理場が狭すぎる。雪解けのはずだが、南部の気候でもう乾いていた。
『これどうするんだ?』
 砂浜から魚介類を運んできた、風天。十六才ながらも小柄な身体は、重そうに木箱を置く。
「こっち手伝いますよ」
 无は、木箱を覗きこむ。魚介類の仕分にかかる。魚介類の種類は知るが、相棒の性別を知らない。
 …たぶん男?結婚式で、ガッツリ食べる気らしいし。无は、命の水というぐらい酒好きだが。
「喜多さんと花月さんの為に、精一お椀料理させてもらうで!」
 きらりんと輝く、真紀の包丁。手早く野菜を切り、魚をさばいて行く。
 作るのは、少し小さ目の手毬寿司。茗荷をマグロに、蕪をイカに。
 焼き茄子の皮剥いだものは、アナゴに見立てた。食が細そうな花月のための食事。
「後は紅白の素麺やな。早紀に氷作ってもろて、それでしゃきっと冷たい器作るね」
 上の妹を呼びつけ、氷霊結を願った。それから、料亭の人々に、器の概要を説明する。
「…泰国の田舎の結婚式って、お椀で全部食べるん!?」
 驚きの事実。飲み物も、食べ物も、お椀一つで済ますらしい。参加人数を考えると当然か。
 食事もセルフサービス。自分の箸とレンゲを使い、卓の上の料理を取り分ける。
 悩んだ末の真紀の結論。お椀の上に、氷の容器を乗せて渡すことにした。


「料理、意外と面白くなってきました」
 にこやかに笑う、劉 星晶(ib3478)。ニンジンの皮むきを手伝いながら、楽しげだ。
 隣で、黙々と皿を洗う寡黙な鷲獣人は、視線をあげる。相棒の上級鷲獅鳥・翔星は問うた。
『星晶、本気で言っているのか?』
「亜祈(あき)に任せるより、俺が練習したほうが早いですから。あの味は、生命に直結します」
 小刻みに震える、星晶の黒猫耳。恋人足る亜祈は、喜多の妹。よく塩と砂糖を間違う。
『…消し炭の塩味クッキー。地獄風味の唐辛子ピザだったな』
 長身の翔星は、視線を遠くへ。星晶が味わった…否、死にかけた料理の数々。
『ん? あっちで作ると良い』
 苺を収穫した子供達が、戻ってきた。子供に優しい翔星は、調理場の一角を指差し教える。
 聖鈴の首飾りを揺らし、柚乃(ia0638)は鼻歌を歌う。小鳥の囀りを。
 甘味好きな柚乃の側で、先が淡い黒色をした柴犬耳が動いている。相棒の白房は、柚乃の手元を見つめていた。
 子供達は、押し合いへしあい。キラキラした目付きで、作業観察する。
『んーとね、柚乃姉ちゃ、「苺みるくぷりん」作ってるんだよね』
「みんなで作るのって楽しいですよ♪」
 白房は小首を傾げる。苺タルトに、苺ショートケーキはもう完成していた。
「まだ混ぜるです?」
 混ぜるのに飽きた、料亭の双子。勇喜(ゆうき)と伽羅(きゃら)は、遊びたくてたまらない。
『混ぜてる間だけ、僕の秘密道具、お見せしますよ♪』
 気配り上手のぽち。頭の上で可愛い犬のお耳をピコピコ。
 うさぎの縫いぐるみ型リュックを、お手伝い中の子供達に見せる。
 中身の忍犬苦無「閃牙」は、秘密のポッケに隠してあったけど。
「最後のお仕事です☆」
 柚乃は、ニコニコ。子供達に、苺の果肉入りクッキーの味見を手伝ってもらった。
『食べたら、後でみんなで雪遊びしようよ?』
 クッキーをかじりながら、白房は可愛いおねだりをした。


●泰国的雪
「泰で雪が降るのは珍しいんですね」
 神座早紀(ib6735)は、肩上で切り揃えた髪を揺らす。
 雪を前に転ぶ人の多いこと。神風恩寵で治療をかけどおしだ。
「月詠。集まった皆さんに、雪だるまやかまくらの作り方を教えてあげてください」
『へっ、俺に任しとけ』
 寒そうなへそ出し衣装も、関係ない。金色の髪を揺らす女性型からくりは、悠然と雪中へ。
「月詠だけで、大丈夫なん?」
 眠っている春の妖精を抱っこしながら、真紀が声をかける。相棒の春音は、冬眠したのかも。
「はい、姉さん。あの子は、こういう遊び系の方が真面目にやりますし」
 相棒を見送りながら、早紀はほほ笑む。世界の誰よりも愛する姉、真紀に。
『某も行きますから、ご安心を』
 腰まで伸びる白い髪を揺らし、男性からくりが月詠を追いかける。神座亜紀(ib6736)の相棒だ。
『げっ、兄貴!』
 雪那を見た月詠は、表情が引きつった。長男として作られたからくりに、小言をくらう。
 二番目として作られたからくりは、妹らしくしょんぼり。大人しく作業を開始する。
「…からくりも、うちらと変わらんな」
 しみじみもらす真紀は、神座家の長女。妹二人の母親代わりとして、怒ることもあった。
「花月さんは、ボクのお姉ちゃん達に会った事ないよね?」
 後ろから、神座家の三女の弾む声がした。亜紀は自慢の黒髪を揺らす。
「真紀ちゃんと早紀ちゃんだよ」
 振り返った姉達の前に、亜紀から贈られた、振袖「都染」を着た花月がいた。
 扇子『月敬い』も借りて、天儀の作法を教えて貰ったらしい。


 料亭の中の攻防戦。
『雪遊びとは面白そうではないか。勝一、行くのじゃ』
 人妖の桔梗は擬人化した。ふかふかの帽子をかぶり直し、やる気満々。
「え、ちょ、寒いじゃないですか」
 相川・勝一(ia0675)の悲鳴がもれる。勝一と同じ大きさになった相棒に、首根っこひっつかまれた。
『ええい、わしの言う事を聞けい!』
「あー!?」
 長い黒髪の女性は、主を睨む。問答無用で、外につれだした。
 後頭部に一本角を持つ、修羅の娘。宮坂 玄人(ib9942)も、容赦なく相棒の本を取り上げた。
「十束、戦闘と読書以外にも楽しい事はあるんだぞ」
 羽妖精の十束は、蝙蝠のような翼を動かし見上げる。妖精の黒外套が、不機嫌そうに動いた。
 相棒の無言の抗議に、ゴーグル「クリアクリスタル」を装着する玄人。
「いいか、子供達と雪合戦だ!」
『玄人殿。休養も必要…そう言う事か?』
 玄人の目の前には、銀髪の青年が立っていた。左目の片眼鏡を押し上げる。
 細身の男は、赤い瞳を主に向ける。玄人と同じ身長のエルフは、十束の擬人化した姿。
「そういう解釈でもいいから、楽しむぞ」
 玄人は十束の背中を押す。趣味は読書と言う、物静かな相棒を。
 離れた所で、海神 雪音(ib1498)は、頭を下げる。知りあいを発見したから。
「…弥次さん、お初さん、こんにちは。…仁(じん)と尚武(なおたけ)は?」
「おお、雪音か。元気だったか?」
「こんにちは。息子たちは、外です」
 笑いながら、弥次夫婦が答える。雪音は弥次が名前を呼ぶ、数少ない開拓者の一人だった。
「そっちの兄さんは誰だ?」
「…え、隣の青年? あぁこの姿は初めてでしたね。疾風ですよ」
『この姿では初めまして、ご主人の相棒の疾風っすよ〜』
 軽い口調で、にこやかに笑う青年。空龍の擬人化した姿だ。
「そうか、そうか。いつもでかい龍の姿だから、分からなかったぞ!」
『そんなに叩いたら、痛いすっよ〜』
 弥次は豪快に笑いながら、疾風の背中を叩く。やや高めの背の青年は、困った顔で洗礼を受けた。


『雪遊びか。ならば雪合戦をするのじゃ! 雪遊びといえばこれじゃろうて♪』
 偉そうに腕組みをする、桔梗。雪を知らぬ子供達の前で、講演会をしていた。
『よいか、二手に分かれ雪球をぶつけ合う、格闘技じゃ』
『格闘技か…面白い』
 なぜか、講演会に混ざっていた十束。きらりんと片眼鏡が光る!
『己が一番の敵と悟れ。雪魂を投げられなくなったときが、勝負に負けたときじゃ!』
 桔梗の締めくくりに、子供達は尊敬のまなざし。雪球は、いつの間にか雪魂にすり替わっていた。
「ええと…無理はしないようにしてくださいねー。温かい服と飲み物用意しておかないと」
 勝一の額に、一筋の汗が。女の子のような顔立ちは、心配を浮かべる。
 無理していそうな子には温かい服を着せたり、温かい飲み物を飲ませたり…勝一の出番は多そうだ。
『玄ちゃん、玄ちゃん、雪遊びしよ!』
 しっぽのない犬獣人が、玄間 北斗(ib0342)の従者の外套を引っ張った。
 北斗の相棒、コーギー忍犬の黒曜が擬人化した姿だ。
『僕ね、僕ね、かまくら作りたいんだ! あとは雪合戦♪』
 小柄な男の子は、懸命に犬耳を動かした。十才に満たない外見は、優しく穏やかな雰囲気をまとう。
「そのままじゃ、風邪をひくのだ〜」
 黒曜は、黒紺色の忍犬装束のまま。北斗は幼い相棒に、ブーツに手袋をはかせる。
 ピコピコ動く犬耳は、毛糸の帽子で隠してやった。
「…そうですね。雪だるまとか、かまくらを作ってみましょうか」
 フェザーピアスを揺らしながら、雪音は考え込む。雪にはしゃぐ尚武を、抱っこしていた。
「…大きめのかまくらを作って、中で温かい物を用意して休むのも良いかと」
 淡々した口調で話す雪音は、表情も分かりにくい。でも、茶色の瞳は、穏やかな光を讃えていた。
『ご主人、男なら雪合戦っすね〜。俺は断然、雪合戦っすよ〜』
 疾風は尚武を預かり、雪の上に降ろした。丁寧に雪球の作り方を教える。
 ノリは軽いが、根は真面目。白房や、黒曜も呼び集めた。犬獣人の子供達は、大喜びで駆けてくる。
「ほら、雪を触ると冷えるから、厚着をするんだぞ」
 天儀の北、冥越の隠れ里出身の玄人は寒さに強いらしい。南国育ちの子供達に、長袖を着る事を教える。
『玄人殿、雪合戦はまだか?』
 ジルベリア貴族の衣装が、雪の中で陣取っていた。十束は嬉々として、開戦を待っている。
「…一般の人には手加減するように」
 雪玉を作っている相棒に、玄人はジト目を。
 忘れていた。二十六才の十束は優しいが、戦闘狂である。


 おそるおそる、雪を触る花月。
「亜紀の話では、花月さんは体が弱いとの事。念の為火種で火を起こして、いつでもあたれるようにしておきますね」
 様子を見守る早紀は、白鳥羽織を着こみ、たき火の番人をしていた。穏やかな場面のすぐ隣は、戦場。
『幼子とて、容赦せんぞ』
 桔梗はノリノリだった。雪球乱舞、乱れ投げ。
『逃げろ〜』
 雪合戦の的にされた、黒曜。ほんわか笑顔で逃げ惑う。
 今は、お勤めから離れた姿。冷静・勇猛な一人の忍に徹する主人似の気性は、身を潜めている。
『わー!』
「黒曜、危ないのだ」
 かまくらのなかで、七輪に火を起こしていた北斗。外の様子に、眉を寄せる。
『大丈夫?』
『てへへっ、転んじゃったっ』
 同い年くらいの柚乃の白房に、助け起こして貰った黒曜。照れながら、お礼を言う。
「…桔梗、やりすぎです。覚悟はよろしいでしょうね?」
 虎の面を付けた勝一に、笑みが浮かんだ。…仮面を付けると性格が変わるらしい。
『おっ、やる気か』
 桔梗も、負けるつもりは無い。雪球を握りこむ。
「こっちに来て、温まると良いのだ〜」
 北斗は、子供達に手招き。勝一と桔梗の雪合戦観客席へ、ご招待。
「…白熱して、ケガしない程度にやってもらえば」
 北斗の隣で、子供達の着替えを準備しながら、雪音は呟く。風邪を引かないのが一番だ。
「たれたぬき特製餅入り汁粉もあるのだ♪」
 お汁粉の登場に、子供達の歓声があがった。


●泰国的祝詞
 結婚式など知らずに、街に来た開拓者も居る。ワイズ・ナルター(ib0991)とか。
 町の一角が騒がしいので、好奇心で覗いた。誘われるまま、料亭に足を踏み入れる。
 遠慮しながら、料理に手を伸ばす。隣でじっと見つめてくる、小柄な少女の視線が痛い。
『マスターは、おっちょこちょいですから心配です』
 軽くため息をつく、しっかりした口調の十才児。ワイズの相棒、甲龍・プファイルの擬人化した姿だ。
「プファイル、せっかくだから食べませんか?」
 なぜか敬語で接してしまう、ワイズ。故郷、ジルベリアの食べ物を見つけた。
 苺クッキーを手に身をかがめ、プファイルの目の前に差し出す。相棒は困った表情を。
『勝手に食べたら怒られますよ。お代はどうするのですか?』
 肩で切り揃えた、苔色の髪が揺れた。お揃いの色のエプロンドレスは、不安げに辺りを見渡す。
 プファイルには、心配症の一面があった。料亭の食べ物なんて、高いに決まっている。
『遠慮するなって、全部、善意の贈り物さ』
 上から声が降ってきた。遊び好きな風天は、无を連れて放浪中。
『こっちは僕が潜って、獲ってきたやつ。ほら、冷めないうちに食べなよ』
 風天の龍角は誇らしげ。エビシュウマイを指差し、プファイルに笑いかける。
『まだ花嫁さんは来てないからさ。皆、待ってるんだ』
『では、頂きます。…飲み物もありますか?』
『ジャスミン茶で良いよね』
『はい、ありがとうございます』
 風天のペースに巻き込まれ、プファイルも少し馴染みを見せた。ワイズは、笑みを浮かべて見守る。
『ご主人のも、貰ってきたっす〜』
「…ありがとうございます」
 二十歳の疾風の手には、二つの酒が。天儀風の着流しと羽織を、風流に着こなす動作。
 お椀を受け取る雪音、頬が赤い。きっと、相棒への感謝のせいだろう。


 和登の目の前を、「花車」が通った。飾り付けられた、泰国の花嫁の乗り物が料亭の前で止まる。
 「喜娘」が出迎えの歌をことほぐ。喜娘は花嫁に付き添い、面倒をみる女性の事。
 今回は料亭の若女将の役目だ。旅一座の歌姫だった若女将は、花車のすだれを上げ、花嫁を手引きした。
 顔を隠した花嫁が、花車から降りてくる。「紅蓋頭」と呼ばれる、花嫁が頭にかぶる赤い布が印象的。
『…和登も、あんな花嫁さんになりたいなあ』
「花嫁さん?」
『和登は千里の子供じゃないもん。お嫁さんになるの!』
 想像上の花婿は千里。だが、擬人化した年齢が幼すぎた。
 誘われるまま、二人も料亭へ。でも迷子にならぬように手を繋ぐ姿は、まるで親子そのものである。


 新郎新婦により、客人たちへ飲み物が注がれていく。紅いチャイナドレスは、この辺りの伝統的花嫁衣装。
『マスターって毎年、沢山花嫁衣装注文するけど、いつ着る…ムグ』
「プファイル、静かに待ちましょう」
 何気ない相棒のツッコミに、ワイズは慌てる。問答無用で口をふさいだ。
 酒を受けとった十束は、赤い瞳を向けて一言。
『もし、貴公らの子供が育ち、強くなった時は私と一戦…ゴフッ!』
 みぞおちに一撃。
「さっきの言葉は気にするな。二人とも、幸せにな」
 にこやかに笑う、玄人。相棒には、時と場合をわきまえて欲しい。
 祝いは続く。羽妖精の春音が、幸運の光粉を振りまく。真紀は茶器「黄鳳飛翔」を取りだした。
『おめでとうですぅ』
「ほんま、おめでとう」
 お目出度い鳳凰があしらわれた茶器。真紀から喜多へ、祝いの品。
「花月さんに、カメオリング・シェルを。掘られた男の子と女の子がお二人みたいでしょ♪」
 月詠と並び立つ早紀は、花月へ贈り物。銀の指輪に白い貝殻が填められた装飾品だ。
「よかったね!」
 亜紀は花月に抱きつく。ぎゅっと、ぎゅっと。
 本当に嬉しい。花月の苦しみも、哀しみも、ずっと見てきたから。
「初めてお話伺った時から、ずっと心配しておりましたが。今日この日を迎えられた事、大変喜ばしく思います。
お幸せに。二人仲良く、笑顔溢れる日々でありますよう」
『どうかお幸せに』
 深々と頭を下げる、星晶と翔星。新郎新婦の晴れ姿に、心から祝福を。
「…ありがとうございます」
 涙声の花月にとって、亜紀や星晶は、初めてできた友達の一人だった。
 生まれてからずっと、屋敷の庭しか知らなかった花月に、青空の広さを教えてくれた友達。
「喜多さん、ちゃんと幸せにしないと駄目なんだからね!」
「はい、わかっています」
 亜紀は、キッと喜多を見上げる。神妙に頷く、喜多。
 後ろで雪那が咳払いをした。喜多だって、辛くて哀しかった事を、亜紀は知っている。
 でもココで、女性の一人として、甘い顔をするわけにはいかない。
「それにしても…結婚ですか。…求婚する時は格好良く出来たらいいな…」
 星晶は黒猫耳を伏せる。普段の飄々とした言動は、なりを潜めていた。
 泰拳袍「九紋竜」の裾が揺れた。星晶は青い目を細めて、亜祈を探す。
 嬉し涙で、顔を覆っているようだ。亜祈の相棒の金が、困るほどの号泣。
『ほら、星晶』
 物静かな翔星は、主の背中を押した。星晶は咳払いすると、亜祈へ近付いて行った。


「花嫁さんに渡しておいで」
 脱いだウィザードコートの下から、千里は小さな花束を取りだす。
『おめでとう。どうしたら、あなたみたいなすてきなお嫁さんになれるの?』
 和登は息をはずませつつ、花束を花月に渡し尋ねた。
「双子ちゃん、双子ちゃん。勇喜クン、伽羅ちゃん!」
 柚乃は両手で口を囲み、料亭の双子を呼んだ。しっぽを揺らし、双子が返事をする。
「尚武クンと仁クンも集合!」
 遊びに来ていた、ギルド員の息子たちも招集。子供達と一緒に、新郎新婦へのお祝いの品を贈る。
『柚乃姉ちゃ! 僕、頑張って良かったよ♪』
 芝犬しっぽが元気良く振られる。十才に満たない小柄な少年は、嬉しそうに主を見上げた。
「頑張りましたからね☆」
 良い子、良い子と頭をなでられた。白房は、橙色の瞳を細める。
 白銀色の一つに束ねた髪が、嬉しそうに空に舞った。サラサラと、光を反射しながら。
『はなよめさんへのおくりものぉ…』
 小雪は懸命に背伸びした。相棒友達のからくりが作ってくれた服は、結婚式のための特別製。
『はなことばが『おもいで』『とわのこーふく』『しゅくふく』なのぉ』
 福寿草の鉢植えを差し出す。元日草(がんじつそう)の別名を持つ花。
「ありがとうございます」
 そっと伸ばされる、花月の手。唱和する、喜多の声。贈られ、受け取られる心。
(実家が暖かい島で良かった)
 にっこり笑う、真夢紀。相棒と山を駆け回って探した。海に囲まれた、地元を。


「結婚式では、色んなお料理が食べられるんだよね♪」
『おう、そうだぞ。いっぱい食べようぜ!』
『場を弁えてくださいね』
 贈り物を渡し終えた亜紀と月詠は、意気投合。雪那の声に、しょんぼり。
 でも、心配無用だ。客人が食べきれないほどの料理を出すのが、泰国流。
 食べ残してはいけない天儀と、正反対の土地柄。説明を受けた亜紀は、お椀を握りしめた。
 大量のフカヒレスープが、目の前を通った。朱春ダックが遠くで招いている。
 いざ、出陣!
「料理の手があっても、給仕が間に合わないと困りますよね…」
 考え込む千覚。自身も小料理屋兼民宿『縁生樹』の若女将として、修業中の身。
 経理や営業、接客は任せて欲しい。縁生樹の看板わんこにお声かけ。
「ぽち、そちらのお客様に飲み物をお願いね」
『お兄ちゃん、「嬉酒」はいかがですか?』
 千覚にお願いされ、ぽちも給仕開始。幼子の差し出した酒に、千里は手を伸ばす。
 嬉酒をご馳走になった。泰国の結婚式で振る舞われる、祝い酒。
「乾杯!」
 後ろでワイズの声がした。プファイルは、マンゴージュース。
 新郎新婦の幸せを祈りながら、ゆっくりと飲み干している。
『ただいま』
『えっと、お姉ちゃん…?』
 ぽちの戸惑う声がした。視線を上げた千里は、戻ってきた和登の姿に驚く。
『どうしたの?』
 年頃の美しい娘が微笑んでいた。大きくなれば、花嫁になれると教えられた和登が。
「いや、何でもない」
 酒を飲み干し、お椀を返した千里。ぎこちなく和登と手を繋ぐ。どこか恋人同士のように。