【泰動】城塞都市の僵屍
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 30人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/11/13 20:42



■オープニング本文

「開拓者の皆さんの中に、博打が好きな人って居ます? 曾頭全から町を取り戻す、危険な賭けですけど」
 虎猫獣人の目が、細められていた。虎猫しっぽが膨らみ、滅茶苦茶に振られる。


●密かな動き
 とある地方の農村にて――
「我々は曾頭全である」
 左右に数名の兵士を従えた、官吏風の男が厳かに告げる。
 広場に集められた農民たちの間にどよめきが起こった。彼らは、訪れた者たちをてっきり太守からの使者か役人であると思い、命ぜられるままに村人を集合させたのである。しかし、男の口から出た名は、近年宮廷打倒を唱えて勢力を拡大させている組織ではないか。
 慌てた村長が、前に進み出た。
「わ、私どもの村に、いったいどのようなご用件でしょう?」
「うむ、それは他でもない。実はな……」
 男は小さく頷くと、声も低く語り始めた。


●大っぴらな動き
 泰国の朱春のギルドに、白虎獣人の少年が駆け込んだ。
「兄上、兄上! 大変です!」
 ギルド員の一人に、虎少年はしがみつく。泣きながら、助けられた事を説明した。
「弟を助けて頂き、ありがとうございます」
 開拓者に頭を下げる、虎猫獣人のギルド員。喜多(きた)は弟を抱きとめ、事情を聞いた。
 聞いて行くうちに、ギルド員の表情が険しくなる。
「曾頭全が、アヤカシを引き連れて町に入ってきたの? 大守さまの家に押し入ったんだね?」
「がう、曾頭全、突然来たです。町中に聞こえるように、大守さまの降伏宣言したです」
「…大守さまが降参しても仕方ないか。町中にアヤカシが居たら、住民の安全を考えるよね」
 泰国の町と言うのは、基本的に城壁に守られた城壁都市だ。城壁の入口を敵に抑えられると弱い。
 都市を治める者は、大守と呼ばれる。ギルド員の町では、大守は町の中央の館に住んでいた。
 曾頭全が館に来たと言う事は…城壁の入口は突破され、アヤカシが町中を闊歩する状態と推測される。
「でも、なんでうちの料亭にも、曾頭全が来たの? おじい様と藤(ふじ)が連れていかれたんだよね?」
「がう。入ってくるなり『開拓者の料亭』か聞いたです。後ろにアヤカシ見えたです。
『虎猫の料理人、料理作れ。町が大事なら、すぐ来い。変なこと考えるな』脅したです」
「ああ、なるほど。たぶん、曾頭全は、おじい様と父上を間違えたんだ」
 料亭の虎猫の若旦那は、元開拓者の泰拳士。地元のアヤカシ事件は、拳一つで解決していた。
 もちろん、連れて行かれた虎猫の大旦那に、志体は無い。子猫又の藤も、檻に入れられて人質にされた。
「父上たちは手を出さなかったの?」
「がるる…伽羅(きゃら)しゃんと一緒に、しばらく海行ってるです」
 間が悪かった。料亭の若旦那の璋(しょう)は、泰拳士の娘を連れて、長期の買い出し中。
「でも勇喜だけで、よく町から逃げだせたね。町の中も、入口も、見張られてたんでしょ?」
「勇喜、夜の子守唄したです。いっぱい、いっぱいしたです
でも町の中も外も、アヤカシだらけです。勇喜の練力、ほとんど無くなったです」
 夜の子守唄は、問答無用で周囲を眠らせる、吟遊詩人の技法。隙をついて、虎少年は逃走を図った。
 一人ぼっちで逃げ出した虎少年。城壁の外へ出て、父に知らせようとする。
 走って、走って、野良アヤカシに追いつかれた所を、通りかかった開拓者に保護された。
「兄上、姉上どこです? すぐ助けて貰うです!」
「あのね、姉上は天帝宮の中だよ。調べ物中だから、すぐには帰ってこれないんだ」
「がるる…姉上、居ないです」
 肩を落とす虎少年。姉の司空 亜祈(しくう あき:iz0234)は、天帝宮の地下遺跡の調査中だった。
「司空さん、風信器で通信が入っていますよ。町から至急の要件らしいです」
「あ、はい。すぐに行きます」
 取り込み中の兄弟に、別のギルド員が声をかける。怪訝な顔をして、虎猫ギルド員は席を外した。


 待つことしばし。
「がう? 町の曾頭全とアヤカシです?」
 開拓者に尋ねられた虎少年。悲しげに白虎しっぽを揺らす。
「町に来た曾頭全、泰拳士が五人、巫女とシノビが一人です。アヤカシは瞞(バン)と鬼道験者だったです」
 瞞は、猿のような姿をした幽霊型のアヤカシ。変化能力を持ち、最近目にした人物に変身する。
 なによりも恐ろしいのは、洗脳能力。町の住人が曾頭全に味方するように仕向けた。
 鬼道験者は、外法を極めながら死んだ修験者の慣れの果て。短距離の瞬間移動の能力を持つ、幽霊。
 超念力で四肢を折ったり、骨や内臓を破壊させることが出来る。館の衛兵は、この能力で戦闘不能にされた。
「でも…曾頭全、酷いです! 殺された皆様、僵屍(キョンシー)なったです」
 僵屍は、泰国の代表的なアヤカシとも言える。青白い肌と鋭い牙を持ち、飛びはねる死体。
 殺された衛兵は、瘴気の影響を受けて僵屍となった。曾頭全の新たな手下に。
 と、虎猫ギルド員が戻ってきた。吐き捨てるように言う。
「…曾頭全から、ギルドに通信が入りました。僕を名指しで、命令しましたよ。
『新しき大守就任の祝いを行う。式典に使う料理を作るために、町に戻って来い』って。
僕の実家は、料亭なんです。長男の僕が開拓者ギルドに勤めていることも、地元じゃ有名ですし」
「がう? 曾頭全、なんで兄上呼んだです!?」
「そりゃ、策略の一環だと思うよ。『開拓者ギルドは、我らに従う事を選んだ』って、言い振らせるからね。
僕が開拓者に助力を求める事も、計算の上で呼んだと思うよ」
 つまり、ギルド員の地元に居座る曾頭全は、強い自信を持って、開拓者を待ち受けている。
「開拓者の皆さんの中に、博打が好きな人って居ます? 曾頭全から町を取り戻す、危険な賭けですけど」
 虎猫のギルド員は、開拓者を見る。故郷の命運を賭けて。


■参加者一覧
/ 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 胡蝶(ia1199) / 羅轟(ia1687) / 九竜・鋼介(ia2192) / 鈴木 透子(ia5664) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 和奏(ia8807) / 玄間 北斗(ib0342) / 明王院 千覚(ib0351) / ティア・ユスティース(ib0353) / ミーファ(ib0355) / 春原・歩(ib0850) / フィン・ファルスト(ib0979) / 无(ib1198) / 海神 雪音(ib1498) / レイス(ib1763) / 晴雨萌楽(ib1999) / 劉 星晶(ib3478) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / フランヴェル・ギーベリ(ib5897) / 神座真紀(ib6579) / 雨傘 伝質郎(ib7543) / 宮坂義乃(ib9942) / 宮坂 陽次郎(ic0197) / 久郎丸(ic0368) / 迅脚(ic0399) / 雪柳(ic1318) / 武 飛奉(ic1337


■リプレイ本文

●町中攻防戦
「泰の町が…早く何とかしないと」
 この一声が、宮坂 玄人(ib9942)の師匠の運命を変えた。
「アヤカシを使って民を利用する行為、許しちゃおけない!」
 落ち込んだ師匠は勇喜に任せ、玄人は城門の方へ向かう。
「…問答無用で暴れれば良いのです?」
 和奏(ia8807)は、ぼんやりした性格も相まって、思考錯誤が苦手だ。もう一度、尋ね返す。
「手加減は無用だよ。むろん、アヤカシに限ってだがね」
「それなら出来そうです」
 答える璋の虎猫しっぽは、不機嫌そうだった。和奏は軽く頷き、腰の刀「鬼神丸」に手をかけた。
「私にも……僵屍用の道士の符を下さい」
 璋が配る符に、海神 雪音(ib1498)も手を伸ばす。貰った符を矢の一本、一本に突き刺した。
「にゃ?」
 道士の符を受け取りに来た玄間 北斗(ib0342)を、伽羅は不思議そうに眺めた。
 頭に付けた獣耳カチューシャ。その耳は、たぬき。
「たれたぬ忍者の玄ちゃんこと、玄間北斗なのだぁ〜〜」
 のほほ〜んとした優しい微笑を浮かべ、北斗は笑う。外見に反し、尋ねる内容は硬派。
「城壁の中で、比較的身を隠して越えられる場所を教えて欲しいのだ」
 雰囲気を感じ取ったのだろう、伽羅も真剣モードになる。
「にゃ、ここ登れるです」
 迅脚(ic0399)の目の前には、伽羅が指差す城壁。ダチョウの神威人は、不敵に笑う。
 ヒマな時間ができると走り込み、ジャンプ、スクワット、馬歩などをしているのだ。
 迅脚は城壁の出っ張りを利用し、軽やかに上に。伽羅も続き…落っこちた。
「怪力乱神を、ひけらかし、国を治めると、宣うか。悪賊め…笑わせるな」
 青白い不気味な肌を持った、大柄の青年の声。久郎丸(ic0368)が発したもの。天狗駆で乗り越え、町中へ。
「常に真剣に…そしてお気楽にだ」
「にゃ」
 伽羅に諭す、九竜・鋼介(ia2192)。伽羅は怒りでガチガチになっていた。
 鋼介が見上げる先で、虎猫しっぽが頂上に達した。嬉しそうに手を振り、伽羅は町中へ消える。
 雪音は、猟弓「紅蓮」を抱える。竪琴のごとく、弦をはじいた。
 共鳴し、反響し、感じる違和感。喜怒哀楽といった感情は、僅かにしか顔と言葉に出ないが。
「アヤカシの反応は……ありません」
 淡々した口調で話す雪音。でも、城門の向こうには、多くの人の気配を感じる。
 つまり、人垣の奥に、アヤカシが居る。人々を盾にしていると推測された。
 黒曜石の様に青黒く輝く、黒髪が印象的だった。ティア・ユスティース(ib0353)はじっと前を見る。
 金の瞳は、仲間たちを見る。ティアが信頼の筆頭にあげるのは、千覚の事だけれど。
 楽聖のメダイユを握り込んだ。深呼吸を行い、心を落ちつける。
 古い時代に音楽において名を成した者が得たといわれる、金色のメダル。
 ティアは城門へ視線を移す。住民たちの心は、未だ閉ざされたまま。アヤカシの言いなり。
「頑張りましょう」
 ティアの金の瞳はメダルの楽聖の加護を得たかのように、希望の光を灯していた。


 城壁の向こうに気付いた住民が、城門に集まってくる。転機は、久郎丸だった。
「羯諦、羯諦、波羅羯諦…波羅僧羯諦…菩提、薩婆訶…」
 数珠「紅蓮連環」を腕にはめ、道の真ん中に立った。泰国でも聞いたことある、天輪教の経文を口にする。
 怪訝そうな目で、住民が集まってきた。町中を警戒する僵屍が近づく。
「南無阿弥陀仏。悪鬼羅刹…滅ぶべし」
 言うが早いか、雷槌「ミョルニル」を振った。手近な僵屍を打ち倒す。
「落ち着け。お前達に、害は…加えん」
 ざわめく住民たち。久郎丸は一喝した。僵屍が怖れ、飛びずさる。
 町の注意は、久郎丸に向いた。その隙に、人目を避け北斗が走る。
 目標の城門が見えた。三角跳びで人の群れの前に、躍り出る。
「反撃開始なのだ〜」
 北斗は城門の前に陣取る。一気にかんぬきを抜き去った。用事を済ませると、城壁を駆けあがる。
「門があきました」
 明王院 千覚(ib0351)の声は、明るくなかった。城門を開けた北斗が心配。
 母の小隊に所属する人だし、なにより親類縁者だし。怪我をしていないか、気にかかる。
 千覚の目で見ても分かるくらい、北斗は無理していた。大変な役目を自分に課している。
「怪我をした時には、治してあげないと…」
 大量の止血剤を抱え込み、千覚は仲間の後を行く。
 と、まとう瘴索結界に反応があった。早すぎて対処できない。焦る千覚に、救世主の声。
「僵屍は任せるのだ〜」
 道士の符を刺した匕首を手に取り、意気揚々。北斗は素早く正確な狙いで投げつける。
 もちろん、百発百中で、僵屍の額に。ぼんやりしていた千覚を、横から襲うとした相手。
「お任せします」
 隠神刑部の外套を揺らし、千覚は手を振る。大丈夫、心配はいらなかった。


「曾頭全……ヴァイツァウの乱……食い止めた身には……受け入れる等……到底……不可能」
 常人離れした巨躯が動いた。羅轟(ia1687)は斬竜刀「天墜」を握りこむ。
「似てる……やり方が、ヴァイツァウの時と」
 懐中時計「ド・マリニー」を見ながら、フィン・ファルスト(ib0979)は呟いた。
 重なる記憶と怒り。ヴァイツァウの乱で、故郷が酷い被害を受けた。
 ヴァイツァウの乱。それは天儀歴1010年にジルベリア帝国で起こった反乱を指す。
 国家打倒。アヤカシを味方につけ、帝国を妨害。そして、人心の離れた政治。
 そこかしこが、今の泰国の争乱と似ている。
 羅轟は一歩前に出る。役目は、囮。それ以上の成果があったが。
「……斬り捨てる」
 伝わるのは気迫。否、『鬼迫』と言い変えよう。酒天の鬼面頬の間から、黒い瞳が睨みつけている。
 目の前には、人波があった。アヤカシに操られ、盾とされる住民達。
「……退け」
 問答無用で、剣気を使った。重厚な威圧感が、住民を襲う。怖れを成し、人波が少し崩れた。
「城壁入口…強行突破で、いいのかな…」
 割れた人波。そこに向かって、和奏は走る。
 後方の鬼道験者が見えた。逃げられる前に、瞬風波を巻き起こす。
「…道が開けると良いのですけど」
 渦巻く風が和奏の味方だ。僵屍も近付けない。
 走りながら、平正眼の構えを取った。足は、大地を蹴る。
 和奏の額から、風読のゴーグルが吹き飛んだ。超念力が襲ってくる。
「負けません」
 神速の踏込。三連撃を生み出す、体さばき。
 綺麗なお人形のような外見と裏腹に、荒ぶる太刀筋で斬り伏せる。
「アンタの相手は俺だ」
 僵屍を見つけ、玄人は前に躍り出る。混戦の中で、心眼は役に立たなくなった。
 変化する瞞の探索は、仲間にまかせ、見える所からぶっ飛ばす。
 緋色が走った。野太刀「緋色暁」の刀身。
 フェイントで、気を引き付ける。名字をくれた師匠譲りの動き。
 牽制し、隙をつき。道士の符を、額に張り付けてやった。
 広がりゆく瘴索結界「念」。柚乃(ia0638)の身体が、微かな光を発する。
「右後ろの三人、アヤカシです」
 柚乃は、凛とした声を上げる。十一月五日に、十六才を迎えたばかり。
 祝いの宴は、勝利後の宴会と一緒にやる。そう決めた。
「瞞とか、鬼道験者とか、巫女を狙うの…」
 雪柳(ic1318)は、猟弓「紅蓮」を構える。紫水晶の右眼と翡翠の左眼。
 見定め放たれた矢は、一瞬炎をまとった。化けた瞞を射抜く。


 城門近くで奮闘する迅脚。素早さ、足技、細かい手業を重視する、泰国の南方の拳法を見せつける。
「見えてますよ、後ろっ!」
 軽やかに宙返りした。途中で僵屍の額に道士の符を貼り、着地する。
「連・環・腿!! ホアチャァ!!」
 帯鉤「翡翠守」が激しく動く。右隣の僵屍の顎を蹴り飛ばした。勢いで足元の小石も宙を舞う。
「アチョオー! ホアタア!!」
 蹴りあげ、天高く伸ばされたつま先。落ちる反動を利用して、二撃目を見舞う。
「洗脳への対処は、ティアに任せますね」
 手早く相談をまとめる、千覚。医薬品を収めた胴乱を携え、ティアへ視線を送った。
 お互い、アルボル救護小隊(正式名はアルボルビタエらしい)の仲間。
 治療に関する連携は日常通り。心と体の治療を互いに補う癒し手。
「優しい祈りが天を支える大樹の様に…大きく育ち人々を包み込みますように」
 千覚のセイレーンネックレスが揺れた。精霊の唄で、人々の身体を癒していく。
「祈りを歌声に乗せて…楽の音を癒しの風に代えて」
 河乙女の竪琴が弾かれた。澄んで透き通って響く、ティアの音。
 安らぎの子守唄は、アヤカシに捕らわれた心を解き放つ。


 町中の混乱の中、武 飛奉(ic1337)は館に行く途中だった。ふっと、足を止める。
 一方的にやっつけられる人物がいる。軽口を投げかけてみた。
「あんた、頑張るね」
「…俺の、仕事は…あくまで、壁、だ」
 雨絲煙柳で耐える、久郎丸の姿。住民には手が出せない。
「瞞や、鬼道験者への、攻撃は…味方を、信じ、預けよう」
「ふーん、そう言うの嫌いじゃねえよ」
 面「龍王」の下で、飛奉の顔は不敵に笑う。久郎丸が味方と理解した。
「民の、保護、だが…、洗脳、されている、らしい…」
「住民? アヤカシでも無く卑怯者でもない雑魚は失せていろ!」
 尊大な態度で飛奉は睨みつける。背から襲う住民に、軽く回し蹴り。
「手加減くらいはしてやる…お?」
 吹き飛ぶ先で、住民が猿になった。正確には、化けた瞞。
「曾頭全にこのアヤカシ…実に小賢しいじゃないか。虫唾が走る」
 飛奉の黒い瞳が、ギラついた光を宿す。自身が卑怯と感じた事は、味方の行動であっても嫌いだ。
「ギルドが動く事など承知の上なら、この上なく小賢しい用意でもしているのだろう」
 飛奉の目の前の光景が、まさにその通り。…ぶっ飛ばす!
「もう練力が…」
 ティアの力は、尽きつつあった。何度も奏でられた、天使の影絵踏み。
 名剣「デル」に手が伸びる。竪琴を剣に持ち替えた。アヤカシがやってくる。
 ティアの母親はジルベリア帝国の騎士。母のように、人々を守る。そんな決意
「今日のあたしはキレてるぞぉ!」
 声が弾けた。危機を見つけたフィンが、ティアの前に立ちふさがる。
「曾頭全……アヤカシで国を壊そうとしてる下衆野郎共!」
 雷槌「ミョルニル」を勇ましく担いでいた。緑の宝珠が光を放つ。
 盾にもなる腕輪を顔面に構え、姿勢を低くした。雷槌の先を下に下げ、一気に突貫する。
 飛び込んだ。鬼道験者と住民の間に、腕輪ごと右腕をねじ込む。
 下からスイングし、天上を目指す、雷槌の先。したたかに鬼道験者の顎を捕らえる。
 猪突猛進を地で行く、突撃娘のフィン。許せぬ相手を叩きのめす事に、迷いは無い。
 鬼道験者は屋根の高さまで吹き飛ばされる。飛ばされる間も、身体が崩れ霧散。空で消えうせた。


 ベイル「アヴァロン」を構えながら、鋼介は前進する。向こうには、多くの人の気配。
 間には、鬼道験者が入り乱れて邪魔だった。
 聖鈴の首飾りが一鳴り。小さな銀製の鈴が、もう一鳴り。
 柚乃は眼を細めた。大きく息を吸い込む。
「…魂よ原初へ還れ」
 心静かに広がりゆく、柚乃の歌声。鈴の音が、響く。
 響き、響き。広がり、広がり。
 鬼道験者たちが苦しみ出した。頭を押さえ、膝をつく。
 雄叫びをあげると、瘴気になった。霧散して行く。
 怨念に捕らわれた魂も、原初へ還ったのだろうか。柚乃にも、分からない。
 隙間を僵屍が迫ってきた。つま先が地面に触れた瞬間を、柚乃は見逃さない。
「僅かな隙を逃さず、危機を好機にするべくです」
 魔法の蔦が伸びる。アイヴィーバインドで動きを抑えつけた。
 毒を受ける前に接近を阻止する。回復手の負担軽減も、大事な仕事。
「外道に……遠慮……必要……無し」
 羅轟は体躯に似合わず、素早かった。瞬脚で一気に迫る。
 次いで、箭疾歩を繰り出す。 先手必勝、一撃必殺を心掛けた剣技。
 道士の符を、僵屍の額に貼りつける。泰拳士の技と速度、練気法を取り入れた攻撃。
 飛奉は、すぐ隣で突き出された両手を掻い潜る。伸びあがりざま、拳を打ちこんだ。
 戦袍「子考」がはためいた。戦士としての風格を引き立てる、威風堂々とした戦袍。
「僵屍か。毒などと言う、女々しい特性を持っている奴だったな」
 暗勁掌を食らった僵屍は、飛ばされ住民の上に落ちる。反動で瞞は正体をあらわした。
 鋼介の茶色い瞳は、瞞を見おろす。眼前に居たのは助けを請う人のふりをした、アヤカシだった。
 無言で、盾を投げ捨てた。太刀「鬼丸」と刀「長曽禰虎徹」を構える。
 怒りだった。茶色い瞳は、怒りを宿していた。
「…一番やったらいけない事をしたな」
 鋼介は、日々修練に励んでいる。アヤカシから人々を守るため、強くなりたいから。
 守るべき人々に化け、瞞はあざ笑った。鋼介たちに住民をけし掛けた。
 二本の刃に、炎が纏わりつく。鋼介の怒りを具現化したかのように。
 振りあげられる、刀。袈裟がけに走る太刀。
 炎は瞞を焼き、切り裂く。灰になるまえに、アヤカシは霧散した。


 先に潜入していた北斗から、高い位置を教えてもらう。雪音は城壁の階段を駆け上った。
 弦を弾きながら、振り返る。弓矢を構えて、戸惑いなく住民を射た。
 悲鳴が起きる。射ぬかれた住民は心毒翔を受けて、本性を現した。苦しみながら、瘴気に還る。
「瞞、嫌な会相手ですね……さてと……」
 今度は僵屍が迫っていた。符付きの矢をつがえる。その間も城壁の上まで来ていた。
 雪柳はダガー「ブラッドキラー」を手にした。相手の体を精密に細かく切り刻む短刀。
 噛みつこうとする僵屍を何度も刺す。何度も、何度も。
「雪柳さん危ない!」
 迅脚は瞬歩で急接近し、道士の符を貼った。それでも、雪柳は僵屍を刺し続ける。
 僵屍は反動で倒れた。動かない事を認め、ようやく雪柳は手を止める。
「だって、早く殺さないとユキのあるじ君がケガしちゃうかもでしょ? もう殺させない」
 雪柳は地面に座り込んだ。武僧服「虚空」が地面に広がる。胸を焦がす郷愁の念。
「…もう? もうって何? ユキのあるじ君は生きてるのに…変なの…」
 混乱したかのように、うわごとを言うからくり。覚醒に至ったときの記憶が無い。
「大丈夫?」
 迅脚は、雪柳を覗きこむ。人生経験も深くないので、駆け引きや演技もできそうにない。
 まとった龍袍「江湖」も、衣擦れを響かせる。江湖とは、権勢を省みず義侠を尊ぶ者。
「大丈夫。後は…璋君と伽羅君がケガしないように…援護するの…。」
 雪柳の髪飾りをいじりながら、雪柳はけなげに笑った。雪柳の花言葉の一つは、殊勝、静かな思い。
「帰ったら、あるじ君に褒めて貰わなきゃ…あるじ君は…まもる…」
 主と死に別れている事を覚えていない、からくり。雪柳は静かに想いを馳せた。


 全てが終わった頃。ジト目になる、修羅の娘。行き倒れた所を救ってくれた師匠を睨む。
「よく頑張りましたね」
「アンタの事だから、弟子の出来が悪くてとか、言ったんだろう」
「そんことは、一言も…」
 玄人に胸倉を掴まれ、ガクガクされる師匠。日々、愚痴の手紙しか送ってない結果がコレ。
「私の話も聞いてください!」
 玄人の師匠は、食材運びの話を始める。


●隠密作戦展開中
「泰国に来るのは初めてですから、満喫しようと思っていたのに…」
 宮坂 陽次郎(ic0197)の背中は、黄昏模様。生真面目さんは、泰拳袍「獣夜」の袖に手を通す。
 泰服を着込んだ、羅喉丸(ia0347)。衣服をじっと観察する。
 全身をすっぽりと包む、ゆったりとした服で、天儀の一般的な服にも似ていた。
「これが、泰国の普通に見える服装か」
 羅喉丸は泰拳士ながらも、天儀の片田舎出身。純粋な泰国の服は珍しい。
 既に神布「武林」は、服の布地の中に縫いこんである。隠して持ち込めるだろう。
「あっしらは楽師でやすから、戦いは他のお強い皆さんに…へへへっ。」
 ギョロリとした三白眼が、開拓者達を品定めする。雨傘 伝質郎(ib7543)は独特な笑い声を出した。
「お任せいたしやして、楽させていただきやす」
 伝質郎は外見に反して、意外に人当たりが良い。お隣さんは苦笑し、黒猫耳を伏せた。
「うん? …どうして此処まで来たかですか?」
 黒猫耳を伏せる劉 星晶(ib3478)を、不思議そうに見上げる勇喜。
「亜祈さん、『家に陰陽符を忘れた』って大騒ぎさね」
 モユラ(ib1999)は、ころころ笑った。天帝宮地下遺跡に潜って、すぐの出来事。
「がるる…姉上、大雑把です」
 勇喜の視線が遠くなる。姉は家を知る星晶と元陰陽師のモユラに、『取ってきて!』と頼んだらしい。
「…曾頭全。今やどこにでも湧いて出ますね」
 口罩「猫冬」を首元に巻く、星晶。事情を聞いた。
「太守様もですが、何よりお祖父さんや藤達が心配です。安全かつ素早く助け出させるよう、全力を尽くしますよ」
 勇喜に笑いかける星晶。神出鬼没の行動力の持ち主は、断言した。
 常におっとり、ぽややん。のんびり屋さんの春原・歩(ib0850)は笑みを絶やさない。
「巫女の春原歩だよ。よろしくね。」
 歩が笑いかけるも、勇喜は悲しげに眉毛を寄せるばかり。
「厄介そうな状況だねー。…辛くても、今は頑張るんだよ」
 春風の羽を揺らし、歩は静かに告げる。勇喜は精いっぱい、頷き返した。
「正統だろうがなんだろが、対話より先に力に訴える人達に政(まつりごと)はまかせらんないねェ。
ただ励むは、我が為に。ただ尽くすは、世の為に。やってやろうじゃないっ」
「のるかそるか…面白い」
 モユラと无(ib1198)。二人の黒い瞳が物騒な光を帯びる。
「てわけで、ちょいと横槍いれさせてもらうよっ!」
 モユラは、五行の青龍寮に陰陽師として籍を置く身。だが、実地見聞を好むバリバリの活動派だ。
「賭けて、合わせて、勝負、それで助けて帰って来ましょう。なぁに切り札は仕込めばなんとかなるでしょうし」
 隣で頷く无も、司書調査員の草鞋を履く青龍寮生。外勤調査の時は、必ず地酒を呑む無類の酒好き。
 と、无の懐の宝珠から、尾無狐が顔を出す。主の雰囲気に驚き、顔を引っ込めてしまった。
「しばらく凌げる所に逃げだせれば良いと思います」
 いつもボーっとしており、愚鈍に取られがちな鈴木 透子(ia5664)も青龍寮生。主張はしないけど、何気にプロ意識は高い。
「曾頭全が人質を連れ出す前に、こっちが確保するのよ。急ぎましょう」
 胡蝶(ia1199)は、人の窮地を放っておけない性質。天の邪鬼で、無愛想で冷静な態度を見せるが。
 青龍寮には、独特なこだわりや考え方を持つ者が多く集まる。龍花を持つ者たちは、個性の代表格だった。


 生き残った衛兵も、洗脳されていた。食材を運んできた一行は、一挙一動を見張られている。
「これですか、手拭ですよ。弟子から貰った、天儀土産でしてね」
 杖をつき、汗を拭っていた陽次郎は、衛兵に尋ねられた。事実、修羅の弟子が一人居る。
 異国の布切れを見せられ、衛兵はそちらに興味を持つ。仕込み杖には、気付いていない。
「なぁーんも持ってないよ、ほら、ほらっ」
 訝しがる衛兵に、モユラはご機嫌斜め。一回転して、武装が無いことを見せつける。
 苛立つ足元、靴先が石畳を蹴っていた。それ、无も履いていたけど…暗器靴「紅薇」だよね?
「あら、私の扇?」
 胡蝶は優雅に夜幻扇を広げた。幻想的な輝きを持つが、武器らしくない呪術武器だ。
 本命の符「幻影」は、束ねて内股に隠してある。
 もちろん、衛兵は扇を武装と思わない。胡蝶は堂々と持ち込んだ。
「こいつぁどうも、御丁寧に」
 一応、食材も確認。伝質郎の背負った竹かごの中は、重そうな野菜がたくさん。
 気を利かせた衛兵が、運搬を手伝ってくれる。食糧庫まで案内を頼んだ。


 手を振る衛兵は、務めに戻った。見送る陽次郎の目が細められる。
 衛兵は洗脳されている。でも、人として大切な部分までは、浸食されていない。
 伝質郎は呼子笛を懐から取り出した。ニッと笑う。凶相ながら、愛敬があった。
「へへへっ、太守をお助けしやして、お近づきになりやしょう」
「…早く終わらせたいところですね」
 頷く、陽次郎。手拭を見て、『良いお弟子さんですね』と、褒めてくれた衛兵の為にも。
「どれか一個くらいは通るって思ったけど…」
 モユラは逆に不安になる。武器になるモンは、全部隠し通せた。
「…警備が節穴ですね」
 透子も同感。戦争を知らない、泰国の衛兵たち。相手を警戒しても、身体検査もロクにできない始末。
「気にしない事ね」
 胡蝶は割り切る。今は、人質保護のために、天が味方したと思いたい。
 時期が来るまで、食糧庫を片づけるふりをする。
「開拓者が来ると分かっているなら、罠が仕掛けてあるか」
 人参を手に、羅喉丸はヒソヒソ声。
「牢屋の中の人質が瞞が化けた偽物とか、瞞の能力で洗脳されていたりするかもしれない」
「そうだね」
 歩は、こくんと頷いた。すんなりと館に入れたもの。


 先行するモユラは、猫足を使い開拓者一行を導いた。手堅く安全確保。
 透子と无の人魂で周囲を探る。曲がり角の衛兵が邪魔だ。
 と、ざわめきが、西の館に押し寄せる。町が騒がしい、東の館が騒がしい。
 雰囲気にのまれ、右往左往する衛兵たち。一人が持ち場を離れた。
 牢屋へ向かう。人質の点呼だろう。透子は冷静だった。ものまねも上手かった。
「危ない! 火事!」
「ど、どこだ!?」
 平常心を保てず、衛兵は慌てる。その隙にモユラは、ナハトミラージュで透明化する。
 後ろから近づき、首の後ろを殴打した。大の男を、一息に倒す。
 ついでに、透子は天儀人形「菊」を隣の僵屍に見せた。そのまま呪縛符を放つ。
 動きが鈍った相手に近づき、額に道士の符をペタリ。
 ついに牢屋付近にきた。无は片眼鏡「五芒」の下から、勇喜に指示を出す。夜の子守唄が鳴り響いた。
 それから、対滅の共鳴。牢屋周囲から、全ての音が無くなる。
(俺に任せて下さい)
 星晶は身ぶり手ぶりで、牢屋の鍵穴を示した。人差指を牢屋の鍵に当てる。
 中に居た大守が寄ってきた。牢屋の鉄格子を掴み、開拓者たちに何かを訴える。
 冷静な透子は、じっと観察した。真なる水晶の瞳を用いて。
 この片眼鏡は、精霊と瘴気の力の流れを感じることができるとされる。
(偽物です)
 透子は首を横に振る。瞞の化けた偽物だ。星晶は下を向き、落胆した様子を見せた。
 偽大守は、何か訴える仕草をする。その途中で、首が飛んだ。転がり、胴体共々瘴気に戻る。
 星晶は不意打ちで影縫を使っていた。下を向いたのは、何も気取らせないため。
 鋼線「墨風」は、音もなく近寄る。墨で描かれた風のように空を切り裂くのだ。
 本物を見つけた。星晶は、人差指を牢屋の鍵に当てる。鍵の精霊を使役し、開錠した。
(待たせた)
 無音の中、羅喉丸が戻ってきた。神布「武林」を巻いた腕の中で、毛玉が動く。
(勇喜はん、怖かったで!)
 子猫又の顔は、涙だらけ。声は聞こえないけど。逆立った毛並みが、恐怖を物語る。
 藤を抱きしめる勇喜。音が戻ってきた。伝質郎は慌てる勇喜を手招きする。
「お強いお仲間が太守を助けだしてからが、あっしの仕事でやす」
 勇喜が、伝質郎を注目している。口調に興味を持ったらしい。
「敵はどうして人を上手く操っちまうみてェでやす。おっかねえ話だァ」
 視線を感じ、伝質郎は大げさに肩をすくめてみせる。
「しかし心配はいりやせん。あっしの安らぎの子守唄で、すっきり目覚めさせてさし上げやすぜ」
 ニッと笑う。食材の間に隠してあった傾奇羽織を見せつけた。
「こちとら、たけェ銭払ってならったんでい。ちゃーんと効き目がねえと、修練場に怒鳴り込んでやりやすぜ!」
 羽織を勇ましく、腕まくり。伝質郎は啖呵を切る。
「…冗談でごぜえやす」
 まんまるになる、勇喜の目。伝質郎は、ニッと、愛敬のある笑顔を浮かべた。


「アヤカシの攻撃から守らなければ」
 陽次郎は殺気をまとい、前に出る。つられて動く、瞞。手を伸ばした。
「鍋の蓋がここで役に立つとは…」
 陽次郎の口元に、軽い笑みが浮かぶ。フェイントだった。瞞は蓋に視界を遮られる。
 瞞の懐に、陽次郎が入りこむ。一気に刀が伸びた。早い。
 篭手を払うようにして、先手を打ちこむ。瞞は瘴気となって、霧散した。
「あ、そこ地縛霊を設置してるよ」
「分かりました」
 モユラの声がする。返答一つで、透子は結界呪符「白」を展開した。
「私も使わせてもらうわよ」
 胡蝶は旗袍「蝶乱」を揺らし、同じ陰陽術を発動させる。陰陽術で作られた白い壁。
 通路をさえぎり、狭くした。狭い隙間に、アヤカシが押し寄せる。
「後は俺が」
 无は、碧符「嵐牙ノ空」を取り出す。符には、とぐろ巻き寝そべる青龍が描かれていた。
 幻影符を発動させる。その瞬間、符から蒼き燐光が輝いた。
 白い壁の隙間から、鎌首をもたげ、青き龍が覗きこむ。アヤカシに向けて、咆えた。
 警戒し、後ろに退くアヤカシの群れ。次々と地縛霊に引っ掛かり、霧散して行く。
「脱出時に時間稼げるように、ね」
 モユラは逃げながら、ころころ笑う。青龍寮生の連携は、バッチリだ。
「先を急ぎましょう」
 お守りの碧符を、无は大事にしまう。それは、五行国の架茂王が青龍寮の為に作った符だった。
「長期戦は不利だ、短期決戦を挑むぞ」
 千里の道も一歩から。日々鍛錬あるのみ。そんな信念の羅喉丸も、不安があった。
「僵屍は気を付けないとだねー」
 羅喉丸の後ろ姿を、歩と勇喜は応援中。のんきに歩は語る。
 閃癒での治療も、解毒で毒の解除も、歩にお任せ。裏を返せば、歩が治療の要。
「ちょっと待ってー。裏道も、瘴索結界で索敵しながら移動するから」
 歩は杖「榊」を握る。身体が微かな光を発した。
「勇喜、よろしく頼むわね。料亭まで避難して決着がつくまで匿うの」
「帰ったら料亭の食事をゆっくり頂きたいね」
 胡蝶と无が勇喜に声をかける。料亭の大旦那は、任せて欲しいと笑った。


●大味調理法
 師匠は経緯を話し、修羅の弟子から解放された。そっと虎猫料理人たちの方に、逃げてくる。
 料亭の跡取り息子から、司空家の叉焼包を渡された。柚乃の誕生祝いで、皆に渡した土産とか。
 跡取り息子いわく、調理場もなかなか…大味だったらしい。


「割烹着ですか? 天儀の調理服ですよ」
 曾頭全の巫女は、不思議そうに割烹着を眺める。質問された礼野 真夢紀(ia1144)は、真面目に答えた。
 袖口を解いて節分豆を縫い込んだり、ポケットにも節分豆を仕込んだ、特別仕様だけれど。
「もしかして、この辺りの流行を知らへんの!?」
 うろん気な視線のシノビに、メイド服を着た神座真紀(ib6579)は驚きを向ける。
「今は旅泰の持ってきた異国の服を着るのが、最先端のおしゃれです」
 真夢紀は各地の服について説明する。依頼を受けてない時は、勉強を兼ね図書館に行った成果だ。
「そう、ボクの服装が、ジルベリアの料理人の服だね」
 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)は背筋を伸ばし、真っ白なスーツ「シヴェルスク」を見せた。
 黙り込む、曾頭全の巫女とシノビ。年頃の女の子たちだ、異国の服が羨ましい。
「そこの猫、旅泰はどこ?」
「知り合いでしたら、ジルベリアに天儀、アル=カマルや希儀にも居ます」
 巫女は偉そうに、喜多を名指しにする。旅泰とは、世界を股にかける泰国の商人たちの総称。
「いつ来るの?」
「詳しいご希望があれば、いつでも連絡できますよ」
 シノビは瞳を輝かせる。喜多も料亭の跡取り、口八丁で曾頭全の二人を丸めこんだ。
 曾頭全の二人は見張りを配下のアヤカシに任せて、会話に花を咲かせる。
「ジルベリアの服かい?」
 聞かれたフランヴェルが答えかけた時、派手に陶器が割れる音がした。
「キミ、何やってるんだい?」
「はうう…ご主人様ごめんなさいれす…」
 ワンピース「スプリング」がしょんぼり。お皿を落としオロオロする、リィムナ・ピサレット(ib5201)の姿。
 曾頭全もアヤカシ達も、リィムナに注目する。密かに動いた者がいた。
 旗袍「紅雀」をまとった、ミーファ(ib0355)。ため息をつきながら、大根を切るマネ。
 さり気なく、愛用のフルートを回収し、調理用の前掛けの下に。油紙で包んでいたから、問題ない。
 あきれた表情を見せる真紀は、鍋の蓋を手にした。実はサブル・ボークと言う、盾武器。
 真夢紀は、鍋の前から離れない。精霊のおたまを手に、鍋の番人。周囲の様子に気を配る。
「まともにできないなら、ここに居る必要ないだろう」
 厳しい言葉の竜哉(ia8037)は、旗袍「白鳳」を揺らした。しゃがみこみ、割れた皿を拾う。
「失敗は誰にでもあります。怪我をしなくて、なによりですよ」
 小麦粉まみれのレイス(ib1763)が助け船を出した。龍袍「江湖」も、粉まみれなのはなぜだろう。


 町の方が騒がしくなってきた。「城門が破られた」と、叫ぶ声が大守館に響く。
 曾頭全の二人が、入口に気を取られた。好機。
 竜哉は料理のレシピ帳に偽装した投文札を開く。しおりを取るマネをして、スローイングカード「キャッツアイ」を手に。
 不意に沸いた微かな殺気に、曾頭全のシノビが反応した。まず、手近に居た喜多を襲う。
「そこの三下! あたしが相手したる!」
 真紀が動いた。咆哮を放ち、シノビを喜多から引き離す。
「意味は違うが、『料理』と行こうか皆」
 竜哉は、キャッツアイを巫女の足元に投げつけた。民を救う力だけを望むもの。
 真名は、リューリャ・D・ドラッケン。民の生活と愛する者の笑顔を守る事を誓った、神教会に属するもの。
 レイスは、巫女に向かって小麦粉を投げつけた。目に入り、巫女は悲鳴を上げる。視界は潰した。
 腹のサラシの下から、己が武器を取りだす。ついでに道士の符を手に持ち、素早く僵屍の額に。
 真夢紀は、お玉片手に瘴索結界を発動させる。お玉が精霊武器だと、誰が考えるだろうか。
「瘴索結界の範囲は狭くても、瞞が化けた人の判別はできると思います」
 瘴気から敵を探るという性質を持つ技法。瞞からの不意打ちは、防げるはず。
 鍋の蓋のカバーを外すと、半円の刃が現れた。
「やっぱり刀やないから使いづらいかな?」
 そんな感想をもらしつつ、真紀は前進。回転切りで、目の前の鬼道験者を討つ。


 一般人を装う、リィムナとフランヴェル。廊下の隅で、怯えた真似。眼の前をアヤカシ達が通り過ぎる。
「ご主人様ぁ…怖いれす…」
「…とにかく、逃げよう」
 その後ろから、声が聞えた。二人の曾頭全が、衛兵とアヤカシ達を引き連れているようだ。
 うっすらと眼を閉じ、リィムナの左胸が光った。刀の柄が見える。
 フランヴェルは幼い肢体を支えた。殲刀「秋水清光」の柄に手をかけ、ゆっくりと引きぬく。
 真剣抜刀とでも名付けようか。フランヴェルは、信頼と心を預けていた。
 続いてリィムナは両手を軽く前に出す。胸元からフルート「ヒーリングミスト」を手の中へ。
 プレスティディヒターノと言う、道具を体内に隠す技法。
「先手必勝!」
 声が現れると、フランヴェルは曾頭全に斬りつけた。弱い。一撃で降す。
 その間に、リィムナが安らぎの子守唄を。衛兵たちを正気に戻す。
「アタシ達の後ろへ」
 正気に戻った衛兵は慌てた。リィムナが声を張り上げると、こちら側に逃げ出す。
「少し前の合戦で、自動命中無効の相手を難なく倒した技だよ!」
 人を食ったような笑顔。にんまり笑い、リィムナは演奏を始めた。
 魂よ原初に還れ。敵をまとめて、攻撃する。
「手強く、刀が効きそうな奴…キミだね」
 フランヴェルは腰を低く落とし、地面を踏みしめる。刀を最上段に掲げた。
 神経を研ぎ澄まして、泰拳士の隙を窺う。
 早かったのは、曾頭全。強かったのは、フランヴェル。
 分裂する切っ先に泰拳士は惑わされ、斬り伏せられる。柳生新陰流奥義・柳生無明剣。


「毒の治療と怪我の癒しは、任せて下さい」
 真夢紀は後ろから、こっそり閃癒をかける。回復役が真っ先に狙われないよう、曾頭全の視界から逃れようとしていた。
 前方を見ては、重力の爆音を使うミーファ。なぜか焦りが見える。
「一人で戦おうと思うな、周りを見ろ」
 戦陣「龍撃震」をかけながら、竜哉は凛とした声を上げた。聞こえた声に、ほっとした表情のミーファ。
 柔らかな笑みを浮かべ、フルート「フェアリーダンス」を奏で始める。精霊の狂想曲を。
 しばらく演奏し続ける必要がある、音楽。仲間に背中を預ける事が不安だった。
「希望の歌を紡ごう… 全ての人が、癒されるように…救われるように、祈りを込めて」
 ミーファは、昔、将来への不安と絶望に苦しんでいた。名も知れぬ旅の吟遊詩人と出会う。
 優しき楽の音と心揺さぶる言葉。絶望の淵から救いだしてくれたことが、思い出された。
「盛るなよ、偶さか力を得ただけの猿共が。来いよ、猿の親玉。殺しってもんを見せてやる」
 冷たい声だった。氷の瞳で、ナイフを構える竜哉。
 怒り狂った曾頭全の泰拳士の三人。技法を使い、瞬間的に懐に飛び込んでくる。
 瞬間的に邪魔される。ジルベリアにも、泰拳士は居る。おごれる曾頭全は、そんなことにも気付かなかった。
「さて……地獄に行く用意は良いですか? 曾頭全」
 神布「武林」を腕に巻いたレイスは、笑う。ジルベリアにおける暗殺者の部族に生まれた少年。
 両腕に炎が宿った。怒れる、精霊力。曾頭全の泰拳士は瞬時に技を悟り、回避しようとした。
 間に合わない。炎が鳳凰の羽ばたきのように広がり、けたたましい鳴き声を響き渡らせる。
 同時に狼の唸り声のような音。アル・ディバインを使った竜哉の前で、曾頭全は崩れ落ちる。
「甘さを捨て切れていませんか……反省です」
 竜哉の視線に、苦笑するレイス。命までは取らなかった。あとの怒りは現地の住民に任せた方が、面白いことになるだろう。
「あたしは今日を生きる人が明日を諦めん為に、この刀を振るうんや!」
 真紀は代々アヤカシ討伐を生業としてきた氏族。次期当主として、譲れないものがある。
 怒りの示現流剣術が、曾頭全の泰拳士の志を上回った。唐竹割で、おごれる頭をかち割ってやる。
「竜哉さんの言葉を借りるなら『料理完了』ですね?」
「せやせや、こう見えても料理は得意やからな!」
 真夢紀の言葉に、真紀は不敵に笑った。調理した食材も敵も、作戦が成功した後に、皆に食べてもらおう。