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■オープニング本文 ●ツメアト 「笑う」表情を覚える前に、「悲しみ」の表情を覚えた。 「楽しい」感情を知ったばかりだったのに、今は「怒り」の感情が上回る。 嬢ちゃまが、どこにも居ない。私の嬢ちゃま、小さな主。 アヤカシが連れて行った。許さない! 理穴の東部には、魔の森が広がる。大アヤカシを倒し、焼き払いを待つ魔の森が。 「六つの子供が、魔の森に連れさらわれた。早く救出しないと、命が危うくなる」 魔の森との境界線。とある一角で、小難しい顔をしたギルド員が居た。 「それから、暴走したからくりも追ってくれないか? 魔の森に、単独で乗り込んだらしい。 起動して、五日くらいだと。戦闘能力はおろか、知識と判断力だって、備わっちゃいない」 説明するのは、栃面 弥次(とんめ やじ:iz0263)。 腕組みしたまま、言葉を紡ぐ。 「この近くの良家のご主人が、お子さんの護衛役として、手に入れたようだ。…少し前まで、理穴は大荒れだったからな」 ギルド員も、二児の父親。良家の主人の心配が、手に取るように分かった。 「ご主人が命ずる前に、からくりは飛びだした。武器として持ちだしたのは、お子さんから貰った一枚の布だと。 からくりの使える主はお子さんだから、仕方ないだろうが…行動は無謀すぎる」 理穴は、染め物の技術に優れている。からくりが貰ったのは、そんな一枚の戦布だった。 「話を聞くにアヤカシは、玻璃小石(はりこいし)と蘇屍鬼(そしき)と思われる。 玻璃小石だけじゃ、人は運べん。知識を持った蘇屍鬼が、里に入り込んでいたようだ。 おそらく本能のまま、動いているんだろう。人を食らうと言う、本能のままに」 瘴気渦巻く、魔の森。大アヤカシ無き今も、下級アヤカシは減っていなかった。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
无(ib1198)
18歳・男・陰
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
愛染 有人(ib8593)
15歳・男・砲
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●からくり 「へぇ…」 无(ib1198)は、首を傾げる。金髪からくりの行動に、図書館で見かけた資料記述と、相違を感じた。 懐から顔を出していたナイも、首を傾げる。ナイの頭の上で、輝石のティアラが傾いた。 宝狐禅は、小さく鳴きながら、无に訴える。人間の言葉を発するのは、苦手であった。 「主を思う、その心。種族は違えど、やはり絆は生まれるものですな」 うんうんと頷く、秋桜(ia2482)。足元で、忍犬の恋が行儀よく、お座りする。 「この心意気、応えるしかありますまい。必ず二人とも無事に……」 秋桜の声音が、変わった。恋の白い犬耳が、ピクっと動く。 「探索において、忍犬の右に出るものはおりますまい。頼りにさせて頂きますよ、恋」 大きく鳴いて返事をする。しっぽを振って、準備万端。 「琴音も心配じゃが…暴走したからくりも心配じゃのう…」 椿鬼 蜜鈴(ib6311)の眉が、優美に動いた。気にかかることがある。 「…皆は琴音の捜索に行く様じゃて、わらわはからくりの捜索に向かおうかのう」 「迷子のからくりなのです? きぃも主様と一緒に探すのですー♪」 蜜鈴の隣で、からくりの吉祥が尋ねた。深緋の瞳は、心配げな色を宿して。 天河 ふしぎ(ia1037)も、お守り「希望の翼」を握りしめた。憂いを帯びた、緑の瞳。 「その女の子、きっと凄く怖い思いしてる。それに一人飛び出していった、その忠実なからくりの事も心配だから」 ふしぎの言葉に、からくりのHA・TE・NA−17が反応した。 「飛び出していったからくりの気持ち、ハテナにも分かる気がいたしまする。 …ハテナもマイキャプテンに、もしもの事があれば、きっと」 ふしぎによって、天に浮かぶ小島の遺跡で発見された、からくりの少女。 「ハテナ、アヤカシに浚われた女の子とからくりを助け出すよ!」 ふしぎの呼びかけに、からくりは頷く。愛称の『ハテナ』で、報告書に記録されることに。 「弓と馬が揃った私に恐る物は何もない、子供を食らうアヤカシどもめ…皆殺しにしてくれる!」 篠崎早矢(ic0072)は、相棒と一緒に寝るほどの馬術の家柄…もとい馬フェチ。 早矢にとって、感覚的にはいつでも人馬一体。なのに、夜空の出撃許可が出ず、不満をつのらせていた。 手にした相棒用軍配で、采配を振るうからくり。皇 りょう(ia1673)の相棒、武蔵 小次郎。 「起動して間もないながら、主の危機に立ち上がったその忠義、実に天晴れ! 叶うならば、拙者の養子にしたいくらい可愛い娘では御座らんか」 小次郎は片手で、長いあごひげを撫でる。小次郎の主は、そう思っていないようだが。 「しかしながら、無謀でしかないその行動は、褒められたものではありませんがね」 「おや。姫様にしてはお手厳しい」 くるりと振り返り、皇家現当主に意見を述べる小次郎。 「仮に姫様がかのからくりと同じ立場であったならば、同じ行動を取ったと拙者は思うのですが?」 自称・皇家一が忠臣は、りょうを『姫』と呼び続ける。女性ゆえに、正統な当主とは考えていない。 「……だから、です。先の言は自分への戒めを含めて、ですよ」 当主は苦笑を浮かべ、家臣を見やる。老いた姿そのままに、古い思想の持ち主。 「成程成程。――それはさて置き、我等主従はどう致しましょうかな?」 軍配を収めた小次郎は、再び長いあごひげを撫でた。 「さぁ、急ぎましょう!」 速さ勝負になりそうと、愛染 有人(ib8593)は直観した。相棒の走龍、辻を待たせ、集落に急ぐ。 「何か手がかりでも見つかればいいんですけど…」 保護対象の子供と、からくりの名前や外見的特徴を聞かなければ。 でも、面会した子供の両親は、憔悴している。 「僕達が絶対助け出してくるから、心配しなくても大丈夫なんだぞ」 ふしぎは胸を張って、約束する。大空に夢見がちな冒険少年だが、頼もしく頷いた。 子供の両親に向かって、杉野 九寿重(ib3226)は一礼する。 「連れ去れた子供とからくりの容姿について、お聞きしたいですね」 母より嗜みとして、礼儀作法を習っている。九寿重の犬耳は、父から譲り受けたものだけれど。 「小さい子とその世話をしてたからくりの保護、それから襲い掛かるアヤカシ退治を引き受けるんだねっ」 九寿重に抱っこされていた、上級人妖は口達者だった。朱雀は状況把握に長けている。 主のしっぽをもふもふしたいけど、我慢の子。 「子供の名は琴音(ことね)栗毛おかっぱに、朝顔の浴衣。からくりは金髪金眼。 それから、蘇屍鬼は深緑の野良着を着た、黒髪男か」 无は尋ねた特徴を、記憶に刻みこむ。残念ながら、魔の森の地図は、無かったが。 「しかし、その場で暴れずに子供を浚ったという点が気になりますね」 「態々(わざわざ)攫うねぇ…宿主にするか贄か」 りょうの考えに、无も考え込む。 「そうだ。狼煙銃について…」 「わらわも、同じ事を考えておった」 思いついた无が言いだすと、蜜鈴も便乗。手早く相談がまとまる。 「子供を見つけた時、からくりを見つけた時、件のアヤカシに遭遇した時で煙の色を使い分けては?」 有人も提案を。狼煙銃は、赤、白、青の三色を撃てる。 子供がさらわれたという目撃場所も調べる。ハテナが不信な足跡を見つけた。 「マイキャプテン、ご覧あり」 …ハテナは時々、語尾がおかしくなる。たぶん、ふしぎに足跡を見てほしかったのだろう。 いつの間にか、ふしぎの隣に早矢がいた。怒り顔と言うか、仏頂面というか。 「…私も一緒に行く。仕事の邪魔には、ならない」 ふしぎが、好き。ものすごく好き。でも、早矢の一方通行。 過去には、同じ拠点に居たときがあったりもした。本当に、乙女心は難しい。 「場所は魔の森の中。時間はあまりかけられません」 秋桜は、子供の帯を借りる。恋に匂いをかがせた。 匂いの探索なら、忍犬に並ぶ者などいない。 恋は一声鳴く。しっぽを天に向けると、軽く駆け出した。 「そう言えば、合戦以外で魔の森に入るのって初めてだな…」 有人は手綱を握り締める。不安が伝わったのか、辻が鳴いた。 大きく翼を広げ、有人を勇気づけようとする。広げた個所に、ブラドゥドの翼が見えた。 半透明な羽毛型の飾り、神々しい翼の形。しゃべれない辻が、有人に伝えたいこと。 非常に獰猛なはずの、走龍の気遣い。有人は何かを察し、相棒の首筋を撫でる。 探索系技法を持たない、有人。飛べない龍の辻。 「ボクの場合は、足を使った捜索が主になるでしょうね」 有人は、地道に探す決意を固める。大丈夫。道は、辻が歩んでくれるから。 「子供とからくりが同じ場所に居てくれると楽なんですが」 肩をすくめる余裕が出てきた。辻も、有人に同意して鳴く。 「常に二人以上で行動して、孤立しないようにしたい所です」 一角獣の有人の角は、前を見る。仲間と共に。相棒と共に。 ナイも元気が無い。魔の森の奥に行くにつれて、瘴気感知は役立たずになって行く。 頼りは人魂。恋の嗅覚が示す方向へ、无とナイの人魂が飛ぶ。 无は直感を働かせるとき、眼鏡を取る癖がある。眼鏡「邪眼」を、手元でいじっていた。 「瘴気感染後の方が体は馴染む、濃い方に蘇屍鬼は向かうはず」 恋の方向は、砂の大アヤカシの居た方向。无も戦った相手だから、間違いない。 アヤカシ達は、まっすぐに道を進んでいる。…大アヤカシが滅んだことを、知らないのかも。 「そこ、隠れても無駄ですね」 九寿重は呼びかけながら、走りだす。仲間に、別の存在を知らせた。 首魁格のアヤカシは、魔の森にもう居ないはず。ならば、鮮屍鬼を呼んだのは、誰か。 「ワンコ、右なのさっ」 朱雀の視界に捕らえたのは、もう一人の鮮屍鬼。それから、金髪のからくり。 「殲滅遂行を促して、以降の憂いを無くすですね」 野太刀「緋色暁」を構える九寿重。無骨な野太刀は、「斬る」よりは「潰す」が似合う。 紅い燐光を散らせながら、野太刀が横に振られた。邪魔する細めの木が、真っ二つになる。 怒った九寿重に近付けない、朱雀も近付かない。人妖浴衣「涼」ごと潰されるのは嫌。 でも、金髪からくりは、鮮屍鬼に飛びかかる。戦法も滅茶苦茶。 金髪を掴まれ、九寿重に向かって投げつけられた。とっさに九寿重は避ける。 からくりは勢いのまま、巨木に激突。折れた木は、朱雀の方に倒れてきた。慌てて逃げる。 薙刀を持った鮮屍鬼と、野太刀の九寿重。あちこちの木を切り飛ばし、森の地形を変えて行く。 轟音と、砂埃が舞い上がった。咳こみながら、朱雀は九寿重を探す。 「からくり、どうするのさっ!?」 鮮屍鬼を追って、九寿重の背は遠くなっていた。たぶん、朱雀の声は聞こえていない。 魔の森の一部は、広大な砂地だった。 「道中の主様の護衛は、きぃにお任せなのです」 漆黒の髪を揺らし、吉祥は言い張る。蜜鈴は苦笑を浮かべる。相棒の本音を見抜いていた。 「頼りにしておるぞ。…偶には、吉祥も遊ばせてやらねばならぬしのう」 「立派にお護りして、帰ったら『兄様』に褒めてもらうのですー♪」 吉祥の言う、兄様。蜜鈴の空龍の事である。 ふしぎの放った人魂の小鳥は、アヤカシの痕跡を探す。 「この足跡…! 急がなくちゃ」 砂地に残された足跡は、集落で見つけたものとそっくり。からくりの足跡だ。 ふしぎは、木によじ登る。瘴気をまとった木は、異質に変形し、登りにくい。 なんとか、てっぺん近くに着いた。バダトサイトで周囲を見回す。 「…あれかな?」 南西方向に、変形した木が倒れていた。金色の塊が、下敷きになって。 「あの狼煙は…」 狼煙銃の合図を見つけた早矢。思わず、木の上のふしぎと視線を合わす。 ふしぎの緑と、早矢の黒。瞳が一瞬で会話する。 「夜空、まず子供を確保する。憑依ゾンビはそうでもないが、小石おばけの遠隔攻撃に注意を」 早矢は、夜空の手綱を握った。戦馬は空へ駆けあがる。りょうと小次郎も、同行を申し出た。 「からくりは、そちらに任せた」 早矢は叫ぶ。ふしぎの返事は、半分しか聞こえない。 ●形人 恋は頭を低くし、唸り声をあげる。子供を運ぶアヤカシを発見し、威嚇していた。 里の、ある意味英雄の忍犬の子。幼いながら、英才教育を受けてきた子犬。 アヤカシに臆しはしない。淡い光が体を包んだ、風を切って疾走を始める。 「見つけましたよ。その子を返して貰います」 後ろにいた秋桜は、長巻直し「松家興重」を構えた。足元から、煙が湧きあがる。 煙遁は、アヤカシたちを包みこんだ。鮮屍鬼が、何か叫ぶ。 倒れる音、低い唸り声。硝子が砕ける音、子供の泣き声。 煙が晴れたとき、恋が鮮屍鬼の喉元に噛みついていた。秋桜の腕には、泣きじゃくる子供。 黒い壁が、破砕弾から秋桜を守っていた。无の結界呪符「黒」だ。 无の手元から、鋼線が伸び、蘇屍鬼の足を束縛する。出現した魂喰の式は、足を食らった。 「打ちます」 空に向かって、无は狼煙銃を討ちあげる。秋桜の煙を突き抜け、空で光が巻き起こった。 「大丈夫、必ず連れて帰りますから」 泣き続ける子供を、地面に降ろす。軽く頭を撫でた。子供を背中にかばい、アヤカシと対峙する。 義を自らの命よりも重んじ、尽くす事を本懐とする秋桜。今は、力無き者の為にその力を振るう。 特異な形状を持つ大太刀を、構えなおした。切っ先から、白梅の匂いが漂い始める。 梅の匂いを嗅いだ恋は、白い犬耳を立てた。鮮屍鬼の喉元をかみちぎると、秋桜の元へ戻る。 「恋は伝達に。私が抑えておきます」 秋桜の姿が消えた、声だけが残る。子供が瞬きし終わったとき、鮮屍鬼の眼前に秋桜が居た。 大太刀を前方に繰り出し、鬼を貫く。更に秋桜は姿を消し、恋の後ろへ。 「恋!」 秋桜の声は、再び命ずる。足元の玻璃小石を砕きながら。 恋は鼻をひくつかせる。風の中の匂いを捕らえると、走り出した。 金髪のからくりは、木の下でもがいていた。敵意がむき出し。感情の制御が、まだできない。 途方に暮れた朱雀は、からくりに回復術をかける。 「神風恩寵でもって、回復助力するよっ」 金髪からくりは、木が倒れる時、朱雀をかばってくれた。 「どうして、アタシを助けたのさっ?」 「嬢ちゃまから、人形は大事にするよう言われております」 世間知らずのからくり。人妖を、動く人形と思ったようだ。 「…ありがとうだよっ」 朱雀は、からくりの前で大人しくなる。人妖の体では、倒れた木はどうにもできない。 後ろに気配を感じた。ふしぎが霊剣を構えている。剣の刃にオーラが宿る。 からくりを押しつぶす木を、切り飛ばした。その隙にハテナが、暴れからくりを引っ張り出す。 「ふむ…陽光の様な人形とは、よう言うたものじゃて。おんしが琴音のからくりかえ?」 蜜鈴の言葉に威嚇する、金髪からくり。 「おんしの主人を助けに行こうて、着いておいで?」 蜜鈴は投扇刀で手招きした。いつも肌身離さず持ち歩いている、父母の形見。 「一人で先走っても、琴音さんは取り返せ無いのです。皆で力を合わせて助けるのです。大丈夫なのです」 吉祥は金髪からくりに片手を差し出す。挨拶の握手のつもり。 「からくりさんは、お名前あるんです? きぃは、吉祥なのです」 天真爛漫な吉祥に、金髪からくりは少し警戒を解く。同族の勘が働いたようだ。 「無いのなら、それは不安にもなるのです。帰って琴音さんに付けてもらうと良いのですー」 金髪からくりは、まだ名無し。吉祥の眉毛が、器用に寄せられた。 「目的は同じ、協力しよ」 ふしぎは剣から右手を離した。金髪からくりに握手を求める。 「僕達の船出だっ!」 おずおずと握られる右手。ふしぎは、にこっと笑いかけた。 恋は、まず走龍を連れてきた。 「目的を果たしたなら、長居は無用なのです!」 有人の声が近づいて来る。手にした爆連銃が火を吹いた。 シュベリアジュウと、読むらしい。朱藩とジルベリアが協力して開発された銃。 仲間や相棒と、共に行く有人。人獣一体の技法、騎射を使う。 揺れる走龍の背からでも、的を外しはしない。目に見える範囲で、玻璃小石を撃っていく。 辻は跳躍した、恋を飛び越える。走龍の体躯は、秋桜の近くに着地した。 「少しでも早い魔の森からの脱出を」 有人の声に、秋桜は子供を抱き上げる。辻の背中に乗せた。子供は、瘴気感染を起こしかけている。 伸び広がる、玻璃小石。有人は迷わず、手を伸ばし銃身をくっつける。 「零距離、獲った!」 炎が上がると同時に、走龍は、再び跳躍する。砕ける破片を眼下に収めた。 遅れてりょう達も、やってきた。足を止める。目の前の景色に、違和感が生じた。 「待って下さい」 魔の森には違いないが、何かがおかしい。何とまでは、断言できないのだが。 心眼「集」で気配を探った。反応が無い。 「…気のせいでしょうか?」 りょうのぬぐえぬ違和感。澄ます耳には、音が聞えていた。 ガラスがひび割れる音。あり得ぬ音がする。 りょうは横に飛ぶ、白銀の髪が広がった。同時に豪刀「清音」を、鞘から抜きさる。 刀身が独自の輝きを放っていた。銀色の太刀筋が走り、透明な何かを切り裂く。 無機質に擬態する玻璃小石。少々見つけにくかった。 「姫様!」 「心配いりません。私達は、戦こそが真骨頂なのですから。囮上等です」 「ハハッ、然り然り。剣を振るうと同時に心が踊りますわい。修羅道の宿命ですかな」 小次郎は出遅れながらも、双刀を手にしていた。二刀流の剣豪からくり。 「我等に武神の加護やあらん!」 りょうの手元に、夕陽が宿った。暮れなずむ夕陽、斜陽。凛とした声。 小次郎も踏み込む。目が細められた。古兵(ふるつわもの)は、どこか嬉々としている。 「見つけた!」 夜空の背で弓を引き絞っていた早矢の声が降ってきた。りょうたちに追いつく。 「人馬一体、我々は二人で一つ!」 空も飛べる馬、戦馬。蹄鉄「アルスヴィズ」を響かせ、夜空は翔ける。 夜空は、山野小型種体型だった。元は不格好で外見がダサいので、売れ残っていた霊騎。 でも、早矢は喜んで選んでくれた。夜空に、長所を教えてくれた。 短足で太い脚は、骨折しにくい。太く骨太の体は、大鎧を着用した武者を余裕で運ぶ。 「いざ行かん、戦場へ!」 強弓「十人張」を勇ましく構え、早矢はアヤカシを射抜く。安息流騎射術こそ、我が武の道。 だから、夜空は早矢を背中に乗せる。笑顔でニンジンの美味しさも、教えてくれた早矢を。 「ワンコ、見っけ。前で皆、待ってるのさっ!」 朱雀は首魁を追う九寿重を、空から見つけた。平行飛行しながら、仲間の存在を伝える。 「術の出し惜しみはせぬぞ? 雷槌じゃ」 鮮屍鬼の進路に陣取った蜜鈴は、力ある言葉を紡ぐ。高く低く、呪歌を歌いながら。 「全力で行くのです」 吉祥の相棒双刀が、鮮屍鬼の動きを制限する。九寿重は薙刀を抑えた。 突壊攻で迫る吉祥の周りに、小さな閃光が生まれた。蜜鈴の雷が、敵を射る。 金髪からくりは、戦いを見ていた。真似をして、走る。 戦布が広がった。素早いステップで、相手の懐に飛び込こむ。 軽い連撃。拍手のように、こだまする。まるで踊っているようだった。 「命令を盲目的に聞いていたようです」 「格上のアヤカシの命を、受けておりましたか」 りょうの言葉に、小次郎は肩をすくめる。大アヤカシが滅んだと知らず、下級アヤカシ達は餌を集めていた。 「怪我をしてしまいました…恋、サラシを遊び道具にしないでください」 秋桜は包帯代わりに、腕にサラシを巻いていた。恋の瞳が輝き、サラシをくわえて引っ張る。 いつも通りの恋の光景。いつも通りの秋桜の小言。ありふれた日常。 「さすが、弓術師の国…」 一人感心する早矢。護送した子供は、夜空の騎乗にも怯えなかった。 近い将来、流鏑馬もできるかもしれない。志体持ちでないのが、残念だが。 乙女心は、視線を送る。ふしぎに褒めて欲しそうに。当のふしぎは、子供と会話していたが。 「琴音さん、無事で良かったのです♪ でも戦い方、きぃと違うのです」 「夕暮れは雲のはたてに物ぞ思ふ あまつそらなる人を恋ふとて、じゃ」 飛びはねていた吉祥。不思議蜜鈴の言葉に、小首を傾げた。 「倒せなくても、足止めして振り切る事が出来れば、とりあえずそれで良しな事もあります」 有人は考えながら、金髪からくりに説明する。撤退も、戦術の内。 「名は?」 无は金髪からくりの名を尋ねる。琴音は、悩んだ。 集落で、たくさん悩んだ。いっぱい、いっぱい考えた。 「あさひ、あさひお姉ちゃん!」 琴音は、あどけなく笑う。昇る太陽、夜明けのお日さま。 「あ…さ…ひ」 金髪からくりは、何度も繰り返す。小さな主のくれた、自分の名前。 「主を大事に思うその気持ち、そして今嬉しいと思ったその笑顔、これからも忘れないようにいたしませ」 ハテナはあさひの両手を取る。にこっと、笑って見せた。 「二人揃って、青龍寮に進学してみるか? 学べば役に立つかと」 青龍寮在籍の无は、勉学を進めてみる。あさひは、『相棒からくり』の域を越えつつあると感じた。 「私も、一流剣士へなる為に都で修行とでしたね」 「ワンコ。まだ一流じゃないよっ」 九寿重の言葉に、危険な目にあった朱雀は、文句をつける。浴衣についた砂埃を払いながら。 「からくりに陰陽術なんぞ、無理だろう?」 黙って報告を聞いていた、ギルド員。至極当然の反応をする、世間一般の反応。 「起動直後のからくりは強い自我はないと聞くが、想いだけで奔(はし)った」 无は、動じず返した。図書館で書物整理と調査を行う、司書調査員の見立て。 あさひは、後に『覚醒からくり』と呼ばれる。 想いを力に変えた、からくりの一人として。 |