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■オープニング本文 ●砂漠の戦士たち 神託は正しかったな―― 調度品の整えられた白い部屋の中、男は逞しい腕を組み、居並ぶ戦士たちを前に問いかける。男が多いが、女性も少なくは無い。 「さて、神託の続きはかの者らと共に道を歩めということだが‥‥」 皆が顔を見合わせてざわつく。俺は構わないぜと誰かが言ったかと思えば、例え神託と言えども――と否定的な態度を見せる者も居た。お互いに意見を述べ合ううち、議論は加速する。諍いとは言わないが、各々プライドがあるのか納得する素振りが見えない。 と、ここで先ほどの男が手を叩く。 「よし。皆の意見は解った。要は、彼らが信頼に足る戦士たちかどうか。そういうことだな?」 一度反対した者はそう簡単には引かない、彼らも彼らなりに考えがあってのこと。であれば。 「ならば、信頼に足る証を見せれば良い‥‥そうだろう?」 だったら話は早いと言わんばかり、戦士たちは口々に賛意を示した。男はそれを受けて立ち上がり、剣の鞘を取り上げて合議終了を宣言する。男の名はメヒ・ジェフゥティ。砂漠に生きる戦士たちの頭目だ。 ●砂漠の決意 オアシスを遠くから眺めるアヤカシの群れ。意気揚々と、一匹のアヤカシのしっぽが揺れる。そして去っていった。 先日、隣の集落が襲われたとあり、警備の強化はされていた。しかし、アヤカシの群れの前には無力。 壊れた家から一人の者が、命からがら這い出てきた。腕を押さえつつ、よろよろと立ち上がる。 ‥‥忘れない。剣の生えた狼っぽい、五匹のアヤカシの群れ。最近、周辺を荒らしているアヤカシの群れの一つだろう。 ぎりぎりと口元をかみしめる。サンドシップを操る技術はあれど、自分には戦う力がないのが悔しい。 狐しっぽを揺らしつつ、痛めた腕で無事だったサンドシップの一つに乗り込む。隣の集落に警戒と、自分の集落の惨劇を伝えるために。 「‥‥天義?」 聞きなれない言葉に、見慣れない服装。偶然、隣の集落に滞在していた旅人たちは、新しい儀から来たという。 不思議な動作で、あっという間に痛めた腕を治してしまった。その上、この集落も襲われそうになったが、追い返したと言うではないか。 狐耳娘は決心する。口から発せられた言葉。 「私達と一緒に、アヤカシを退治しては貰えませんか? サンドシップは、私が運転します」 天義の開拓者なるもの達の力を借りたいと。これ以上、自分の集落のような悲劇を生まないために。 |
■参加者一覧
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
針野(ib3728)
21歳・女・弓
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂
ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)
13歳・女・砂 |
■リプレイ本文 ●熱い太陽にも負けない! 人の、アヌビスの、エルフの活気があった。 数日前、アヤカシを退治したからこそ有る、復興の光景。 「わしの肌の色、アル=カマルの人に近いんよ。不思議さー」 傾奇羽織の袖をまくりあげた針野(ib3728)、集落の人と自分を見比べる。 「そういや、天義の神威人や泰の猫族は、あるかまるから渡来してきたアヌビスの子孫だっけ?」 「その説、僕も聞いたことあるよ」 色々と勉強中のモユラ(ib1999)。難しい顔で、思い出そうと試みる。 街で非常勤教師を務めていた緋炎 龍牙(ia0190)も、穏やかに口添えた。 「今の話は本当か? 私達と、天義とやらの血は同じなんじゃな!?」 「ジルべリアと言う場所では、どうですか?」 獅子耳が小刻みに動く、ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)。全力で話に参加してきた。 ルルの背中で、忙しく振られる狐しっぽ。アヌビスたちは興味津々だ。 「残念ながら、土着の獣人はいません。アル=カマルと違って、とても寒い国ですよ」 「寒い?」 「雪が降るのです。この白い砂が冷たくて、ふかふかな感じでしょうか。‥‥想像できませんよね」 アーシャ・エルダー(ib0054)は、足元の砂をすくった。目を丸くした、アヌビスの二人に笑う。 「はいはい、アル=カマルの風習や、風土を教えて下さい」 「俺は、地元民って訳じゃねえ。基本的なことしか、話せないからな」 秋霜夜(ia0979)は、年長者を見上げた。純粋な期待に、気まずそうに濁すアルバルク(ib6635)。 「あれ、どこへ行くんだい?」 「縁があれば、また会うこともあろう‥‥」 人込みに消えかける、彷徨い人の篠田 紅雪(ia0704)。見咎めた龍牙が、声をかけた。 「今夜は復興祝いの宴、兄ぃも参加じゃ!」 「参加さー!」 問答無用で、紅雪におぶさるヘルゥ。真似した針野も、飛びついた。 「ベドウィンは、仲間意識の強い連中なんだぜ」 腹を抱えて笑う、アルバルク。砂漠では珍しい、青い珊瑚で作られた守護の首飾りも楽しそう。 「なるほど! おぶさるのが、アル=カマルの信頼の証なのですね!」 「ジルべリアとは、ずいぶん違いますね」 「天義にもない風習だよ」 泰拳士である霜夜と、帝国騎士のアーシャの関心の声。青龍寮生の陰陽師、モユラも頷いた。 友人同士、集まった三人娘は話し込み始める。 「あの、そういう訳では」 ちょぴり伏せられた狐耳。ルルの訂正の声も、届かない世界へ。 「‥‥重い」 ぽつりとつぶやいた紅雪は、立ち去ることを諦める。 今宵の宴には、全員、参加決定。会話の内容は、武勇伝に尽きる。 ●逢う魔が時 砂色の大きな布が何枚か被せられた、迷彩サンドシップ。 「アヤカシは、サンドシップを見て逃げますか? それとも餌ですか?」 「餌でしょうね」 「いざとなれば、体当たりすれば大丈夫ですよ」 アーシャの質問に、操舵席を点検するルルは答えた。霜夜は、あっけらかんと笑う。 「嬢ちゃんたち、先に言っとくが、これは快速小型船だからな」 「快速‥‥?」 「速さだけを追求した船なのじゃ。壊れやすいのが難点でのう」 「そういうこった、無茶すんなよ」 「襲撃を知らせるのが、目的でしたから。オリジナルのサンドシップなら、壊れることもないのでしょうけど」 アルバルクは二人に声をかけ、後ろでヘルゥも説明。ルルの言葉に、龍牙が反応を示した。 「君、オリジナルとは?」 「昔から砂の中に埋まっている、巨大なサンドシップがあるのです」 「凄まじい戦力を発揮したという伝説を、聞いたことあるのじゃ♪」 「今ある船は、全部、真似して作られたらしいぜ」 「天儀風に訳せば、神砂船‥‥かな?」 「‥‥なら、サンドシップは砂上船か」 アル=カマルの住人たちの言葉に、龍牙は思案顔。黙りを決め込んでいた紅雪。空中に文字を書いて、独り納得。 「兄ぃ、なんのまじないじゃ?」 不思議な動きに、ヘルゥが覗き込んだ。砂漠にないものが一杯、獅子耳は好奇心旺盛。 「これは文字の一つ、漢字だ」 「あたいの名前はこうだよ」 「すごいのじゃ!」 紅雪は煙管を懐にしまうと、自分の名前を書いてみせた。笑いながら、モユラも『萌楽』と。 ヘルゥ、見聞を広めてきなさいとの、母の言葉を実行中。 「あいさー、わしの名前はこうさー」 「僕は糸という字に‥‥」 風の指輪をはめた指が、針野とつづる。子供に読み書きを教える龍牙は、親切丁寧だ。 「あたしも書けますよ♪」 「む、難しいですね」 大量の書物に、囲まれて育った霜夜。今日は得意科目。アーシャは漢字の勉強に必死。目を回しながら、筆跡を追う。 「おう、兄ちゃん、姉ちゃん、それぐらいにしとけ」 元ジルベリア軍にいたアルベルクも、漢字が苦手な一人かもしれない。妙に視線を反らしつつ、声をかける。 「他の儀との交流。父や皆が生きていれば、きっと喜んだでしょうね‥‥」 寂しそうな狐耳。ルルは、切なく呟いた。 「儀が違ったって、大切な人がいなくなる。悲しい気持ちは一緒なんよね」 針野は幼い頃、アヤカシのまき散らした毒で両親を亡くしている。ルルの気持ちが、痛いほど身に染みた。 「どこ行ったって、アヤカシなんてのは居るもんだ」 「もう二度と、同じ犠牲が出ないように退治するよ」 「儀は違えど、アヤカシの被害は一緒。困ってる人は、助けるのが開拓者!」 面白くなさそうに呟くアルベルクに、護身羽織を腕まくるモユラ。霜夜は、力強く宣言した。 「助ける‥‥」 「いけるな?」 「もちろんじゃ!」 ヘルゥは初の開拓者活動、不安を隠せない。星の砂を触り、気持ちをほぐそうとする。 紅雪は短く告げ、元気な頭をなでた。ついでに獅子耳も堪能。 「準備できました」 梅干しに、皮の水筒。皆の荷物を載せ、ルルは準備完了。 「さぁ、行こうか」 忍び装束に狂気を隠し、龍牙は皆に促した。緋炎流闘撃法の腕が鳴る。 「アヤカシは、どこかね?」 「見渡す限りの砂、こんな景色、今まで見たこともありません。あの砂の向こうは、何があるのでしょうね〜」 左右の舷に陣取り、アヤカシの群れを捜索。モユラは首を傾げる。アメトリンの望遠鏡を覗きつつ、どこか呑気なアーシャ。 「こっちに、気配があるのさー」 「まだ無事な、オアシスの方向じゃ!」 「掴まっていてください」 弓を弾いていた針野、東を指差した。ヘルゥの獅子耳が天を向き、ルルの狐しっぽが緊張を帯びる。 「アヤカシに追いつける‥‥か?」 「大丈夫です!」 危機感に、龍牙の目が細められた。御守「魂椿」を握りしめる霜夜の自信。 「犬ころ発見ってかぁ? 出番だぜ、センセー」 「‥‥そろそろ、か」 夕陽を背に目を凝らせば、悠々と歩くアヤカシが見えた。アルベルクの報告に、薙刀「巴御前」を持った紅雪が動く。 「おい、行けるか?」 アルベルクの問いかけ。サンドシップは速度を緩めない。上下に軽く揺れ、流れる風景。 移動しつつ、射る。求められるのは、高度な技術。龍に乗るときと、同じ感覚でやれば‥‥。 「あいさー!」 矢が翔け、一匹のアヤカシの腰に突き刺さる。 「フッ‥‥獣が獲物に牙を剥く事に、理由は不要だろう? ‥‥さぁ、かかって来たまえ」 龍牙の咆哮に、アヤカシたちの背中の剣がざわめいた。剣狼の怒れる音。 「霜夜ちゃん、用意はいい? 行くよ!」 符「幻影」が、うごめいた。モユラの合図と共に、蜂の群れが現れる。 返事は聞こえない。脚絆「瞬風」を装着した霜夜は、風のごとく翔けていく。 「あの狼、天儀にも、そっくりなのがいますよ。戦ったことあります。すばしこいです」 「興味深いのじゃ」 踏み込む足が砂に埋もれ、動きにくい。身構えるアーシャの注意に、どこか無邪気なヘルゥの答え。 「いざ、参る」 霜夜の後を追い、紅雪はなぎなたを振り下ろした。剣狼の群れが、散り散りになる。 外側のニ匹が、逃走の気配を見せた。 「逃がしゃしねえぜ‥‥脇につけるぞ。姉ちゃん、周りこめ!」 アルベルクは、操舵席に注文をつける。船体が速度を上げ、大きく傾いた。 甲板から、針野の矢が放たれる。剣狼の脇腹に命中。果敢に飛びかかろうとした一匹も、アルベルクの弾丸に阻まれた。 サンドシップは剣狼を、降下組の方に追い込む。 「砂の上なら、好きにできると思ったかい? そうはさせないよ!」 腰に矢の刺さった剣狼を、クモの糸がからめ捕った。龍牙の後ろに控えるモユラ、後ろの様子に気づいていない。 「うおっ!?」 「…おっと、残念だが、行かせる訳にはいかないね」 追い立てられた剣狼が、モユラに。焦る針野の叫び、龍牙が動く。狙っていた剣狼の剣を、がっちり受け止めた。 「そのままでいるんよ!」 素早く針野は、後頭部を射った。剣狼の頭がそり返る。 「フフフ…愉しいねぇ。思わず力が入ってしまうよッ! 散れ―‥‥月光閃」 龍牙の口元が笑う、鋭利な三日月の目。剣狼の後ろに抜ける。忍者刀「闇喪」が、胴体を捉えていた。 一連の出来事に、微動だにできないモユラ。 「ぼさっとすんな、もう一匹いるぞ!」 銃声が響き、アルベルクが怒鳴った。剣狼は跳躍、龍牙の上を飛び越える。 「毒蟲‥‥いや、呪縛符だよ」 モユラは瞬時、迷う。間合いを測りかねた。伸びるクモの糸。間に合わない。 剣狼は降り立つ、モユラの背後に。弾を受けた足で、さらに跳躍を重ねた。 逃げたと悟るのに、数秒。 「砂漠の掟も碌に守れぬ、けったいな狼のアヤカシどもめ。思い知らせてくれようっ!」 ヘルゥの獅子耳が天を向く。狼の小楯が、剣狼の攻撃を受けとめた。威勢はいいが、おされぎみ。 気付いたアーシャの鞭が波打った、剣狼を弾き飛ばす。 「むむぅ‥‥、アル=カマルの戦士こそが、勇者と信じておったが。天儀の戦士も、劣らぬの」 「私は天儀の戦士じゃないですよ?」 アーシャの実家は、帝国の名門貴族プレーヴェ家。エルダー家に嫁いだ今も、騎士に変わりない。 「むっ‥‥逃げるつもりか」 異変に気付いたのは、紅雪。目の前の一匹が突然、距離を取り始める。引き際とみたか。 「お待ちなさい」 果敢に立ちふさがるアーシャ、攻撃を受け止めた。剣狼の剣が押し寄せてくる。 「上です!」 「心得た」 アーシャを助けようと走る霜夜の、頭上を横切る影。見上げれば、弾を受けた剣狼が跳んでいた。 間髪おかず、紅雪の真空刃が切り裂く。隙をつき、一匹が疾走開始。 「あっ、待つのじゃ!」 ヘルゥの気がそれた。好機。対峙していた剣狼は、体当たりを仕掛ける。 鮮血が宙に舞った。 ●砂漠の黎明 サンドシップは、月明かりの砂漠を急ぐ。逃げた剣狼を、見つけ出さなければ。 「大丈夫。コレくらいなら、あたいでも治せる‥‥ハズ」 「ありがとうございます」 「不覚じゃった‥‥!」 モユラの最後の呟きは、声なき声。お礼を述べるアーシャと、地団太踏んで悔しがるヘルゥ。傷は治ったが、切り裂かれた服が痛々しい。 「手負いの獣か。少しばかり、面倒になったね」 「‥‥我らは斬るのみ」 どこか楽しそうに呟く、龍牙。力の為ならば、修羅に堕ちる事も厭わない者。 紅雪は、神経を研ぎ澄ませつつある。静謐のうちに峻烈を納め、機に臨み刃と成す者。 「かなり近いんよ」 「二匹とも居ました!」 確かな手ごたえ、針野の指差す方向。霜夜が借りたアーシャの望遠鏡に、はっきりと見てとれた。 「さぁさ、お仕事の時間だぜー」 アルベルクの言葉はともかく、表情は真剣そのもの。 「皆の集、突撃さー!」 「あいよ、あたいに任せな」 逃げる剣狼の背に、矢が放たれた。針野の隣で、モユラは蜂の群れを放つ。 覚悟を決めたのか、剣狼たちは進路を変えて一直線に疾走してきた。 「‥‥来い! お前らの相手は、こちらだ‥‥!」 攻撃を掻い潜り、一匹がサンドシップに襲いかかった。紅雪の咆哮に、注意が向く。 「今度は逃さんのじゃ」 「大人しくやられたまえ」 砂漠に飛び出すヘルゥと龍牙、一気に詰め寄った。蜂に包まれた一匹の前足を、二本の刀が同時に叩く。 「行きます!」 気合一番。霜夜の旋風脚は、膝を折った剣狼の脳天を仕留めた。 「クライアントにいなくなられちゃ、困るんだよ」 サンドシップが旋回する間も、アルベルクの砲撃は止まない。短銃「ピースメーカー」が、火を吹く。 「襲われた人たちの痛みを、知りなさ〜い!!」 アーシャの掛け声。騎士剣「ウーズィ」から放たれたオーラショットが、撃たれた剣狼にぶつけられた。 「どうやら獣ではなく、獲物だったようだね」 「‥‥終ったか」 幕の降りた戦場。龍牙は黒髪が混ざった、赤い前髪をかきあげる。紅雪の呟きは、夜風に乗った。 「勝利しても、ルルさんの故郷の人は還ってきません‥‥」 「なくなったモンが、戻ってくるワケじゃない。切ないね‥‥」 「暗くなって、どうするのさー」 霜夜はうな垂れ、モユラは足元の砂を蹴飛ばす。重苦しい雰囲気を振り払おうと、針野は躍起。 「ルル姉ぇ、アヤカシなぞに負けてはおれん。集落を必ず、復興させようぞ!」 「そうです、まだこれからですよ」 「手を貸すぜ。友を、仲間を、助けるのに理由は要らねえよ」 ヘルゥはルルの手をとり、語りかける。アーシャも頷き、激励を送る。ふっと笑って、アルベルトは砂迅騎の絆を。 「復興、手伝います‥‥ううん、手伝わせて下さいっ。これからの、為に!」 「はいはい、あたしも手伝います!」 モユラは真っ直ぐに、ルルの目を見た。霜夜は一生懸命、手をあげて宣言。 「兄ちゃんたちは、強制だ。村には男手が残ってないんだぜ」 「‥‥引っ張らなくても、分かっている」 「やれやれ、仕方ないね」 アルベルトは問答無用で、紅雪の首根っこを捕まえた。静かに答える紅雪。笑う龍牙、狂気は影を潜めた。 「あ、朝ですよ。ずいぶん時間が過ぎたのですね」 アーシャの指差す先に、いつのまにか太陽が見え始めていた。 「さしずめ、希望の夜明けさー!」 「ほー、わしらは月を崇めるのじゃが。今日は、天儀風でもよいのじゃ♪」 針野が歓声を上げた。感心しながら、ヘルゥも太陽を見つめる。 「希望の‥‥」 ルルの言葉は続かない、嬉し涙がこぼれた。 砂漠の朝日は、皆を照らしだしす。アル=カマルの、新しい夜明けだった。 |