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■オープニング本文 ■秘湯連続隠蔽事件、湯煙に消えた褌〜開拓者は見ていた〜 季節は秋。夏には緑だった葉っぱも紅く色づくこの時期、少し冷えはじめた体を温めるために温泉に行くものが多い。もちろん紅葉の中で入る露天風呂は最高だ。 一度に五十人入ってもだいじょうぶという巨大露天風呂を持つ温泉旅館「もふらの湯」はこの時期大賑わいだ。そこ、広いからといって泳がないように。 まぁ、普段の疲れを癒すためにいろんな人間が集まっているのだが―― 「な、ない!」 悲痛な叫び声が響いた。 「ない、俺のものだ!」 次々に訴えられる悲劇の幕開け。 そう、事件が起こってしまった。 「褌が、ない」 男性更衣室から褌が消えていた。 売り文句にそうように着物を置いておく棚も五十人以上ある。そのすべての棚から褌だけが消えていた。もちろんぱんつを履いていたものもいたがそれも消え失せていた。 「ちくしょう、どこの変態がもっていきやがった!」 「いや、それより大切なことがある‥‥」 よみがえるあの日の思い出。寺子屋の行水でうっかり着替え用の褌を忘れて、濡れたままの褌をはくか、風通りのいい下半身を晒したまま一日を過ごすか選ばなければいけなかったとき‥‥ 「ぱんつがないから恥ずかしくないもん!」 「いや、恥ずかしいだろ!」 ‥‥開拓者の皆さん、事件ですよ? ■彼氏がいない温泉受付 ちょ、ちょっと! なんで私に聞くわけ? 男に飢えてるからって褌なんかとらないわよ! いや、確かにかっこいー人の褌なら欲しいかなーなんて‥‥ちょ、冗談じゃない、そんな目で見ないでよ! なんで哀れんでるのよ! 事件のときは和室でお茶してたわ。休憩中だったのよ。だから一人だったわ。 ■便所を求めて全力疾走してた青年(同性愛好家の疑惑あり) うー便所便所って僕はやってませんよ。そりゃあいい男がいたらほいほいついていきたいけど、褌なんてただの布じゃないですか。とにかく僕はやってません。事件のとき? 便所に行ってましたよ。今腹を下してるんです。急いでいるんでこれくらいでいいですか? ■匂い愛好家 はすはすはすはす。え、褌? 漢の汗がたっぷり染み込んでてとてもすえた臭いがしそうね‥‥(うっとり) あらだからといって人の物は盗らないわよ。失礼しちゃうわ。事件のときは旅館の裏庭にいたわ。花の匂いが素敵だったのよ。それよりあなたいい臭い。温泉なんか入っちゃだめよ、絶対。 |
■参加者一覧
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
伏見 笙善(ib1365)
22歳・男・志
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ◆ テーレー♪ 例のアイキャッチが鳴ったり鳴らなかったり‥‥(記録者は権利上の問題によりZAPされました) とにかくここに五人の探偵もとい開拓者が事件解決のために集められた。 「こういうのって普通、女の子の下着じゃないですか〜?」 アーニャ・ベルマン(ia5465)が正直な疑問を口にした。たしかに女性の下着ならば常日頃から狙われる存在だが、男性の下着となると。 「紅葉がきれいだーって聞いたんで、温泉に来たんだケド‥‥ていうか、盗んだのは殿方の下着ダケ?‥‥も、モノ好きだねェ」 モユラ(ib1999)が周囲からも、そして現実からも若干目をそらしながら呟いた。こうなってしまう気持ちもわかるが、戦うんだ! 「犯人の意図がわかりません。きっと何か深い理由が‥‥」 菊池 志郎(ia5584)は今回の事件について深く考えてみた。使用前なら売却するためとも考えられるが他人が使った後の物を盗む理由なんて想像がつかない。 「きっと湯煙に秘められた悲しい秘密があるはず‥‥」 しかし半分以上はそうであってほしいからと願う志郎だった。君も現実と戦おう。 「褌を盗むとは言語道断っ! 白き正義褌戦士の名においてっ!」 平野 譲治(ia5226)ががんばるなりーっ! と気合を入れている。だがほとんど遊びに来たようなものらしい。しかし今回の依頼、そっちの方がいいのかもしれない。 「褌を狙った泥棒とはまた物珍しいですねぇ。聞くところによるとお客さんも殺気立っている様子、ここは用心して女装して‥‥わくわく☆」 伏見 笙善(ib1365)がそそくさと従業員室へと向かう。従業員のフリをすれば探しにくい場所もどうどうと探せるだろうと考えてのことだ。女装すれば褌を狙われる心配もない、かもしれない。たぶん。 「あ、従業員のフリをするのなら私も〜」 アーニャと志郎もその後を移動した。 ちなみに男性従業員は動きやすい作務衣であるが、女子従業員は浴衣にジルベリア風の前掛けをつけたものだ。 「ジルベリアから一人旅の旅費を稼いでます〜。がんばりますね!」 にっこりと営業スマイルでくるりと回るアーニャ。ジルベリア人だから目立つがそれでも開拓者には見えない。 「ミーもがんばりますよ〜」 その隣で前掛けを両手で広げながら微笑む笙善。長身だから目立つがそれでも男性には見えない。 「俺もそちらを着た方が‥‥いやいやしかし」 一人考え込む志郎であった。 ◆ 大広間には褌は戻ってきてないが、脱衣所や浴場に居座るわけにもいかず着物だけ着て戻ってきた被害者達がいた。つまり全員はいてない。そんな事実を考えないようにしながらアーニャは気を沈めたままの被害者達に聞いてみた。 「えっと、盗まれた褌は使用済みでしたか〜? それとも洗いたてですか〜?」 「‥‥使用済みさ。どんなことに使われてるのかと思うと、うぅっ」 「で、できるだけ早く見つけますから!」 あまり心の傷に触れないようにアーニャは慌てて男から離れた。あまりつついて下着を奪われる真似にはなりたくない。 「それにしても男性用下着を盗るなんて、やっぱりそっち系の人でしょうか??」 うーん、と頬に指を当てながらアーニャは考え込んだ。 「変な人みなかったなりっ!? 褌一杯に抱えた人とかっ!」 同じ大広間の中では、ちょうど風呂からあがったばかりの女性二人に直接的すぎる質問をしている譲治がいた。子供だから微笑ましい光景ですんでいるが、大きいお友達はやってはいけないことだ。 「変な人は見てないけど、洗濯物いっぱいに抱えた人なら見たわよ?」 「そ、それはどんな人なりか!?」 「ここの従業員さんよ。でもあれ褌じゃなくて手ぬぐいだったわ」 「そうなりか〜‥‥」 譲治はしょぼんとうなだれた。有力情報なら即座に向かうつもりだったのだが、洗濯物を運ぶ光景なんてここでは日常茶飯事だろう。 「んん? でももしその手ぬぐいの中に褌を隠していたのなら‥‥怪しまれずに運ぶことができるかもしれませんね〜」 まずはその運んでいたものを調べるためにも、とアーニャは洗濯物が運ばれる部屋へと向かってみた。 ◆ 「お湯加減はどうですかぁ〜? 手拭いここに置いておきますね♪」 きゃいきゃいと(女)従業員姿の笙善が浴場の客に声をかけていく。 「あ、ああ。ありがと」 浴衣姿の笙善を見て客達はそそくさと手ぬぐいや桶で股間を隠した。 「ふふふ。ミーのことすっかり女性だと思っている様子ですね〜。それにしても手がかりになりそうなものはっと」 きょろきょろと笙善は周囲を見渡す。そんな彼の耳に怒鳴り声が届いてきた。 「てめぇこれは俺の褌なんだぞ!」 「おやおや、犯人さんですかねぇ」 急いで脱衣所へと向かう笙善。彼の目に入ったのは一枚の布を両端から引っ張りあう男二人というシュールな姿だった。 「俺は今日着物しか着てないんだ! お前は袴があるだろう、ゆずってくれたのむ!!」 「そういわれてもなー、つーか譲れるかっ裸で帰れ!」 このままでは殺してでもうばいとる事態が発生しそうだ。笙善は二人に気付かれないようにすすっと静かに歩み寄った。 ヒュッ! 二人の項に手刀が落とされた。褌に気をとられていたので容易いことだ。開拓者なら尚のことだ。気を失った二人に笙善は微笑んだ。 「喧嘩両成敗、ですよ」 おー、あの従業員のねーちゃんすげーや、と事の成り行きを見守っていた客達から歓声と拍手がわき起こった。 「ねーちゃんじゃなくてにーちゃんなんですけどね」 誰にも聞こえないように笙善は呟いた。 ◆ 「喧嘩が起きたようですが‥‥どうやら治まったようですね」 超越聴覚で耳を鋭くしていた志郎がぽつりと呟いた。犯人探しよりも褌探し、と志郎は客室を中心に押入れや戸棚を確認していた。しかし二十の客室の棚をすべて確認するのは骨が折れる作業だ。いくつか鍵のついた棚があったのでシノビの技を駆使してこじ開けた。 「少し良心が咎めますね。こんな時忍犬がいれば便利なのですが‥‥」 志郎は家で留守番している愛犬のことを思い浮かべた。忍犬がいれば物の探索は確実に楽になるだろう。だが同時に他人の褌の匂いを嗅がされ、嫌な表情を浮かべる愛犬の姿を想像してしまった。 「いえ、連れてこなくて正解だったかもしれません」 こんなことで朋友との大切な絆にヒビを入れたくない。 「たりっまりっさーるんっ♪ むぃそぃらーぬぃ♪」 譲治の意味不明な擬音が廊下から響いてきた。現在彼は褌泥棒の犯人を釣るために褌一丁でうろうろ歩いている。だがさっき聞こえた喧嘩から考えるに、犯人を釣るよりも‥‥ 「そ、その褌を俺によこせぇー!!」 案の定、褌に狂った男が譲治に飛び掛ってきた。倒れこんだ男の手が運よく譲治の褌を掴み取った。 「なん、だと‥‥!?」 「残念なのだ! 下にもう一枚履いているなり!」 驚愕の顔の男の前に譲治は下に身につけていた白褌を見せつけた。 「つまり、もう一枚盗れるってことだな‥‥?」 別の事実に気付いた被害者達がじわりと譲治に詰め寄り始めた。一般人とはいえ鬼気迫る男達に「な、なりっ」と怯んでしまう。 「いけません、危ない!」 志郎が懐から取り出したもの、何枚もの褌が譲治と男達の間に舞った。 「うぉおおお褌だーッ! 褌祭りじゃ――ッ!!」 褌はひらひらと廊下のあちこちに散らばり、男達はそれを掴むために騒ぎ慌てふためいた。危なかった。記録者の存在が検閲されるところだった。規制的意味で。 「さ、逃げましょうか」 志郎と譲治がその場から逃げ出そうとしたときだ。 「ちょ、寄るなっ! きゃ――――ッッ!!」 聞き覚えのある悲鳴が研ぎ澄まされた志郎の耳に届いた。志郎は早駆で急ぎ、譲治もその後を急ぎ追った。 ◆ 悲鳴が聞こえたときよりも少し前のことである。 「食堂や厨房にはなかったからね〜。ここは怪しい人たちの行動を監視してみましょか」 ス、とモユラは一枚の符を取り出し練力を込めた。符は淡く光ったかと思うと細く長い小さな赤蜻蛉へと姿を変えた。紅葉の季節、澄んだ水のある場所ならどこででも見ることができる生き物だ。 「出歯亀っぽくてちょい気がひけるケド‥‥」 蜻蛉はふわと浮かび上がり、一人の女性のそばを飛んだ。女性は庭に生えている金木犀の匂いを「はすはす」と嗅いでいる。例の匂い愛好家だ。 「匂いの強い花は本当にあったみたいだね。気になってた人に教えてあげないと」 何人かの仲間の顔を思い浮かべながらモユラは尾行を続けた。突然、女は周囲をきょろきょろと確認し始めた。まるで人目を憚っているかのような‥‥。 ガササッ! 女が庭の茂みに隠した何かを取り出した。 「それはなんですかね! ちょっと見せてもらいますよ」 モユラは女の背後から十手を突きつけた。「うぅっ!」とうめいた女の前には大きな布に包まれた何枚もの褌があった。 「イロイロ持て余し過ぎでしょっ! 殿方の、それも下着だけ盗むのはどうかとっ!」 「つまり‥‥女性のものも盗んでいいのね?」 モユラの言葉に女はゆらりと立ち上がった。わきわきと両手の指が妖しく蠢いている。 「ちょ、寄るなっ! きゃ――――ッッ!!」 大龍符を使うべきかな、でももし怯まなかったらどうしようなどとモユラが考えている間に別の声が聞こえた。 「女性に手を出すなんて男の風上にも‥‥えぇっと女性?」 志郎だ。男性被害者に襲われているのだろうと思って大広間の窓から直接降り立った。遅れて譲治も姿を見せる。 「ち! 多勢に無勢ね!」 すかさず女は庭の奥へと逃げようとするが 「逃さないなりよっ! 褌戦士を冠する身としてっ!」 譲治の放った小さな式が女の体や脚に絡みついた。まだ逃げようとする女の肩に全力で駆けた志郎の手が乗り、女はすべてを諦めた顔になった。 「あ、ありましたよぉー」 モユラは布の塊を指差しながら視線をそらした。年頃の乙女的に直視はできないものだ。 ‥‥だが。 「いちまーい、にまーい‥‥えーと、二十枚足りないなりー!」 どこかの幽霊のようなことを譲治は叫んだ。 「これだけなんですか? それにしてもどうして褌なんかを盗んだりしたんです。誰かに脅されたりしたんですか?」と志郎。もしかしてやむを得ない事情があるのかもしれない、彼はまだ現実から目を背けていた。 「これだけよ。理由? だって嗅いでみたかったんだもの。でももう満足したから返すわね」 「聞くんじゃなかったです‥‥」 匂い愛好家から褌を受け取りながら志郎は遠い目で呟いた。 ◆ さて、洗濯物が運ばれる部屋を探したアーニャであったが。 「手ぬぐいや敷布ばかりでしたね〜‥‥。推理が間違っていたのでしょうか?」 思わぬ寄り道に少し肩を落としながら、アーニャは青年が使っていたという便所へとやってきた。男子トイレに入るということで入り口には掃除中の札をかけて。 「動機が見えてくれば、当たりを付けられるのですが〜」 などと呟きながらアーニャは掃除用具入れの扉を開けた。 ‥‥とすん。軽い音をたてながら一つの塊が目の前に降ってきた。布に包まれた謎の物体。棚の上に置いていたものが扉を開けた拍子に落ちてきたわけだ。 「ん、これはなんでしょうか〜?」 アーニャはいそいそと包みを開き、頬を染めてしまった。褌だった。 「‥‥ってことは犯人は」 「そ、それは‥‥!」 悲痛な声にアーニャは振り向いた。そこには決定的な証拠を見られ膝をつきうな垂れる青年の姿が。 「こうして僕の初めての盗難は‥‥」 「はいはい、反省はこんなとこでやらないでくださいね〜」 いくら掃除中の札をかけているとはいえ誰かに見られては青年も困るだろう。というかいつまでも男性用のトイレなんかにいたくないですしね〜、とアーニャは厳重注意をするためにも男性を別の部屋に連れて行くことにした。 ◆ さて、ここは従業員室。本来なら客の立ち入りは禁止されている。 こそこそと人気を気にしながら、笙善は従業員の私物入れを調べていた。男性の私物入れはもう探した。残りは女性のものだけだ。 「さ、さすがに女性の私物入れは‥‥い、一瞬だけならいいですよね!?」 躊躇しながらも一瞬だけ開けて中を確認、その後慌てて閉めるを繰り返す笙善。 途中から譲治も合流して同じように私物入れの中を覗き込んだ。 「んゆ。あんまり物入れないなりよね?」 もしかして何もないのではないだろうか、そう思ったときだ。 「あ!」と笙善。 「あ?」と譲治。 「あーッ!?」 そしてこれはちょうど部屋に戻ってきた温泉受付の声。そう、ちょうど笙善が彼女の私物入れを開けたときでもあった。 私物入れの中には手ぬぐいに包まれた褌があった。 「だって、だってぱんつだけでも欲しかったんだもの〜!」 犯人のお約束と言うべきか、動機を吐きながら受付はさめざめとその場に崩れ落ちた。 「えっと、呼子笛の必要はありませんよね‥‥?」 犯人が逃げ出したら笛を吹こうと笙善は思っていたがどうやらその必要はなさそうだ。 ◆ というわけですべての褌は無事(?)持ち主のもとへと返っていった。捜索途中、譲治や志郎の撒いた褌も必要なくなったということで返ってきたわけだが。 「‥‥一枚足りませんね」 志郎がぽつりと呟いた。返ってきたものは未使用であることは確認されたが、つまりなくなった一枚は。 「‥‥深く考えないほうがいいかもしれません」 一方その頃、大浴場。 「んーっ、ごくらく〜っ♪」 やはり当初の目的は達せられるべきだ、というわけでモユラは巨大露天風呂を堪能することに決めた。 事件の後だからかあまり人はおらず、紅葉がひらひらと湯船に舞い落ちてくる。その紅葉を掴みながらモユラは呟いた。 「ま、あんなことの後だからちょっと不安だケド」 さすがに一日に二度事件は起こらないだろうと考えていたが。 もう片方、男性浴場の方では。 「〜〜♪」 鼻歌交じりに脱衣所まで来た笙善。化粧を落とすついでに風呂でも、と考えていたが。 おもむろに浴衣を脱ごうとした笙善を見て男客達はざわめきはじめた。 「う、うわーッ! へ、変態だ――ッ!!」 「あ! ちょっ、ミーは本当は男!! 話を聞いて‥‥ぎゃー!!」 ‥‥事件は温泉で起きてるんだ!? 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