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■オープニング本文 ●開拓者ギルド念のためもう一度開拓者ギルド 「ねえ〜ちちうえー。この物置が開拓者ギルドなの?」 「はははそうだよ小金丸。うちのポチの小屋より小さいね」 開拓者ギルドに入ってそうそう、むかつく会話を繰り広げているのは派手な着物を着た親子だった。両方とも丸々と肥え太り、飢えという言葉を知らなさそうであった。 「あそこの貧弱そうなのが開拓者なのかな?」 「はははそうだよ小金丸。うちの門番の方が強そうだね」 通りすがりの開拓者その一が「どうせ俺は失敗ばかりの貧弱開拓者だよおおお!」と泣きながらギルドから出て行った。 「あ、あのご用件は何か?」 受付が営業的な笑顔で親子に声をかけた。仕事というものは辛いものである。 「ねえーおねーちゃん」 「何かな、僕?」 相手は依頼者。しかも子供である。にっこり微笑めばどうにかなるだろう。数々の開拓者や依頼者の心を和ませてきたこの笑顔を見よ! 「彼氏いるの?」 「え、今はいないわよ」 いきなり何を聞いてくるのだろう。このおガキ様は。 「ふーん。やっぱりね」 ぴきっ 割れるはずのない空気が裂けた音が聞こえた。 「用事がないなら帰ってくれないかなぁねえ僕ぅ?」 それでも彼女は本職の受付であった。口元がひきつりつつも彼女は立派に微笑んだ。その魂を我々記録者も見習いたい。 「ちちうえーこのおねぇちゃんがこわいようぅ」 「はははあまり大人の人をからかっちゃだめだよ小金丸。私達は依頼をしにきたのだからね」 「では、依頼のほうをお聞かせ願いますが」 そして早く帰れ! と受付は心の中で親子を罵倒した。 「実は小金丸が開拓者になりたいと言ってきてね」 「それはそれは‥‥」 お前さっき開拓者のこと貧弱とか言っただろうが、と思いつつも口に出すようなことはしない。 「ここには開拓者の皆様が揃っておられる。だから小金丸を開拓者見習いとしてつれてってほしいのだよ。ははは。ちょうど町外れで猪のようなケモノを見たというものがいる。小金丸に開拓者としての心構えを教えてほしいのだよ」 君は小金丸を開拓者として教育してもいいし、しなくてもいい。 |
■参加者一覧
南風原 薫(ia0258)
17歳・男・泰
阿留那(ia1082)
18歳・女・志
クロウ(ia1278)
15歳・男・陰
鈴 (ia2835)
13歳・男・志
太刀花(ia6079)
25歳・男・サ
鶯実(ia6377)
17歳・男・シ
九条 乙女(ia6990)
12歳・男・志
宗久(ia8011)
32歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ■最悪の初対面 そこならばわかりやすかろうという依頼者の申し出により開拓者ギルド前での待ち合わせだった、が。 「遅い」 腕を組み指で肘を定期的に叩きながら九条 乙女(ia6990)がぽつりと漏らした。可愛らしい顔だというのにその眉間には深い皺が刻み込まれている。程度の差はあれ、他の開拓者達も似たような表情だ。 実際遅かった。朝食を食べて腹がこなれたころの約束であったが、今は昼飯が恋しくなるような時間になろうとしていた。 依頼者の家を訪ねてみようかと思ったとき、道の向こうからもふらの牽く車が走ってきた。そして開拓者達の前で急停止すると、中からでっぷり肥えた少年が出てきた。身に着けている装備を万商店で見たことはない、恐らく特注なのだろう。まあ、特注しかその体格に合うものがなさそうではあるが。 その少年はじろじろと開拓者達を睨むと「あんたたちが開拓者?」と失礼な一言を投げてきた。どうやらこの少年が小金丸のようだ。 「あ〜、君が小金丸かい? 貧弱開拓者その一、南風原 薫ってぇ名の泰拳士だ。宜しく頼む」 南風原 薫(ia0258)が進み出て挨拶をした。続いてクロウ(ia1278)も握手を求めながら小金丸に向かいにっこり微笑む。 「おまえが小金丸か? 俺はクロウっていうんだ、よろしくなー!」 しかしそんな二人の挨拶に、小金丸は「はじめまして」とも「遅れてごめんね」とも言葉にはしなかった。 「そんな貧弱な体で開拓者なの? 僕の足手まといにはならないでね」 見習いの癖にどの口がそんなことを言う! 開拓者達の心は一つになったが、口に出すものはいなかった。鈴(ia2835)が「が、我慢‥‥我慢‥‥」と呟き、クロウが「そんなことは言わないほうがいいぞー」と笑ってたしなめるだけだった。大人である。 「おまえは開拓者ではないんだからな、勝手な行動をしないように」 「わかってるよ、うるさいなあ」 鶯実(ia6377)の言葉にも小金丸は生意気な言葉を返すだけだ。 「わかっていない。時間に遅れて困るのは俺達じゃない、依頼主です。ましてそこが戦場だとしたら人の生死にも関わってくること」 あまり口を出すつもりでもなかった太刀花(ia6079)が苦言を呈してくる。乙女が後ろでうんうんと頷き同意していた。続いて鶯実も疑問を口にした。 「貴方はなぜ開拓者になろうと?」 「だって‥‥かっこいいから」 もじもじと小声で呟く様はやはり子供らしい。 「ならば我々の言うことをちゃんと聞かねばなりませんよ」 そう言って乙女はその薄い胸をえへんと張った。そしてその胸に小金丸が触れた、こう、ぺたりと。 「女かと思ったけど男かぁ」 九条 乙女、年の頃十二歳。男ではない。成長期の少女である。そんな可能性溢れる彼女の顔が旬の林檎のように赤く染まっていき‥‥。 「こ、この俗物がぁ! この場で叩き斬ってくれるっ!」 とその手に持っている刀を抜き放った。が、阿留那(ia1082)がその両肩を抑えたので依頼主を殺害などという悲劇は起こらずに澄んだ。しかしもしもこのときの相手が阿留那の方であったのなら、小金丸は今頃別世界、通称あの世へ旅立っていっただろう。 宗久(ia8011)がハハハ今時居るんだねこんな子供もと笑い飛ばしていたが、正直、笑い飛ばすしかなかった。 ■被害にあう名物芋 その村は芋の名産地だ。煮てよし焼いてよしのその芋は、口に入れれば仄かな甘みと共にほろっと崩れ、庶民に大人気だった。 しかし突如現れたケモノがその畑の芋を獲物と定めた。種芋として使う芋も、使い道のある芋の蔓もその鋭い牙と爪で千切り喰われていた。畑もあちこち掘り返され、元のように整地するには大層な労力が必要なのではないかと窺い知れた。 「ケモノが畑に現れるというのなら落とし穴を掘ってみてはいかがでしょう」 「それは良い考えです。さっそく掘る道具を村人から借りてきましょう」 乙女も太刀花の意見に同意し、阿留那もこくこくと頷いた。いや、ただ一人、開拓者見習いの小金丸が口を尖らせた。 「落とし穴なんてだっせぇ。すぐ倒しにいけばいいじゃん」 「そっかー、でも我慢しようなー」 クロウはあくまで優しく、しかし組んだその肩を離さないように小金丸を密かに強引に畑へと連行していった。その背中に「よくやった!」と親指を立てる動作で褒め称える開拓者達であった。 そして幾許かの時間がたった。 「どうでもいいけど小金丸君って今までに共同作業したことあるかい」 芋蔓に囲まれた畑のど真ん中、土を掘る鍬を杖にしながら宗久が話しかけるも、小金丸はぷいと顔を背けたままだった。 ケモノを倒すために落とし穴を掘り始めた開拓者達であったが、その間何度も小金丸は逃走を計ろうとした。そのたびにクロウが宥めたり、乙女がその首筋に刃を皮膚が触れるか触れないかの位置に治め、脅したりしたものだ。 「あれだんまりってことはもしかして俺嫌われちゃったかな」 よって嫌われているだろうと思われるのは宗久だけではない。 「別に誰に嫌われようがいいんだけど、案外俺って小心者だから間違えて背中を撃ち抜かないようにしないとね」 小金丸の肩がびくりと震え、十能を振るっていた腕の動きが止まった。さすがに太刀花が宗久に「やりすぎ」と耳打ちする。今のは冗談だよと笑い飛ばすが、微妙な空気までは拭い取れなかった。 やがて落とし穴が出来上がる頃、情報を集めに行っていた阿留那が戻ってきた。 「もともと住んでいた森で餌がとれなくなったのでしょう。ケモノならばこうして餌を求め移動してくることもある」 全ての生き物と仲良くなるという目的を掲げている阿留那だからこその説明だ。 この近くの森に住んでいるのは間違いない。しかし相手は腹が減ったときにしか畑に現れないそうだ。しかしいつになるかわからない。偵察に行った南風原、鈴、鶯実はそのまま森の中へと踏み込んでいった。 「では彼らが戻ってくるまで休憩しましょうか」 「つかれたぁ〜!」 太刀花の宣言を聞いた瞬間、小金丸はその場に腰を降ろした。働いた量は然程でもないが、睨みの中で黙々と十能を振る経験など今までなかったのだろう。 「成せばなる、成さねばならぬ何事も。良くできましたな小金丸殿」 小金丸の横に腰を降ろし、にっこりと微笑む乙女。今まで怒鳴られ脅されていたのもあり、小金丸はきょとんとその笑顔を受け止めた。そして。 「へへ、ありがと」と子供らしく笑った。 いつの間にか阿留那が茶と菓子を持ってきていた。太刀花と宗久が遠くで村人と歓談しているのを見ると、村人が拵えてくれたのだろう。 「小金丸殿、お聞きしたいことがあります。あなたはケモノに対してどう考えていますか?」 「どうって‥‥ケモノがいなければ落とし穴なんて掘らなくてすむし、芋だって喰われないよ。いない方がいいさ」 うんざりとした表情で小金丸はぼやいた。余程土堀が堪えたのだろう。 「ではケモノにとって人はどうでしょう」 「ケモノにとって‥‥?」 それは今まで一度も考えたことのない疑問だったのだろう。ケモノが人と同じだなんて。 「たとえケモノであろうと、我々と同じ命を持ち生きる者。生の重みを軽んじるな」 穏やかな表情から一変、真剣な阿留那の瞳が小金丸の心底を貫いた。 「さて、休憩はこの辺にしておきましょう」 隣の乙女がすくっと立ち上がり、その手に刀を構えた。 「え、だってまだ‥‥」 「捜索に出た方々が戻ってくるにはまだ時間がかかりましょう。それまで私が貴公に剣の型を教えます」 「剣の型!? 必殺技とか教えてくれんの?」 瞳をキラキラと輝かせる小金丸であったが、必殺技などまだ早い。 「それを知るには基本からです、さあ行きますよ!」 さて、想像もつくとは思うが、それからも小金丸の悲鳴は続いた。その度に乙女の「ここに父上は居ませぬぞ、サムライを目指す男児が弱音を吐いてはいけません」「言葉で解らぬ時は、体で知る。それが人間です。解りましたか?」という叱咤激励が飛び交っていた――‥‥。 ■獣を捜し求め その森は季節になれば様々な木の実を村人に落としてくれるという。その季節は一月程前に過ぎたが、今年はその恵みを受け取ることは出来なかった。ケモノが棲み付いたからだ。 先程偵察した際にまだ柔らかいケモノの糞を見つけた。恐らくその辺りにいるのだろう。しかし相手は人間よりも感覚に優れたケモノ。おいそれと出てくるものでもない。 南風原の手の上で焙烙玉が軽快に弾んだ。 「ぽんぽんぽーん、と」 最後にわしと思い切り掴み、ぽんと森の開ける空へと放り投げた。炸裂する光と音。けして自然では起こらない爆発が開拓者達の頭上で破裂した。 「玉屋〜、なんつって、な」 周辺に響いたであろう音はそいつの敵意を間違いなく刺激した。相手はケモノ。知性も知識もないが、長く生き永らえた自尊心だけはある。己を挑発したものは誰であれその牙で貫いてきた。 そしてそのケモノは今、開拓者達の前に姿を現した。猛る牙が敵を討とうと開拓者達に向かってきた。 「来ましたね」 鶯実の顔に笑みが浮かぶ。 彼らが今回すべきことはこの場でケモノを討つことではない。開拓者達はケモノに背を向け、一斉に村へと走り出した。 ■獣が向かった先 落とし穴の前には小金丸が立っていた。 さて、何故このような場所にいるのかというと、時間は少し遡る。 「決してここから動かないで下さい、あなたがここに居る事で囮は落とし穴の位置を知ります、あなたがここを動く事で作戦の全てが台無しになります」 太刀花が小金丸の耳にこんこんと言い聞かせながらその肩を両手で掴んで、畑の、落とし穴の真前に立たせた。 「こんなとこいたらケモノに喰われちゃうよ!」 「はは、怪我したら治すから大丈夫だって!」 笑い飛ばすクロウを小金丸はじと目で睨みつけた。 「小金丸君はしっかり最終的追い込みの役割を忘れちゃ駄目だよ? いいかい? しっかり皆の言うことを聞かないと色々大変なことになるからね」 「色々って‥‥?」 横から口を出してきた宗久に恐る恐る問いかけてみる小金丸。今まで宗久には散々脅されてばかりだ。その度に太刀花が助け舟を出してくれたものの、本意ではなさそうであまり頼りにはならない。開拓者とはかくも厳しいものである。 「色々って何って? そりゃあ色々だよ?」 「‥‥‥‥っ!」 泣き声だか弱音だか判らない声をあげながら小金丸がその場に直立した。 それが先程の出来事というわけである。 ケモノは開拓者達を追い、何時の間にか森の外へと来ていた。追いつこうとしたときもあったのだが、南風原が空気撃をその鼻っ面にお見舞いしたので間一髪のところで無事であった。その後ケモノがより怒り狂ったのは災難だったが。 クロウと同じように貧弱と馬鹿にされた鈴が軽やかにケモノの攻撃を右に左に避けていく。見た目は確かに頼りないが、開拓者としての経験は確固たるものだ。 そして三人の開拓者が一直線、小金丸の立つ箇所へと駆け抜けていく。 「行くよ!」 軽い掛け声と共に鈴が右に、鶯実が左。そして南風原がとんと地面を蹴り、ひょいと小金丸を跳び越えた。 轟々と唸り声をあげるケモノが小金丸へと驀進。 「う、うわああぁっ!」 身構える小金丸は己の体が木っ端微塵になる様をありありと思い浮かべてしまった。 ケモノの体が沈んだ。必死にその前脚で駆け上ろうとするものの、巨体がその重しとなってしまい足掻くだけだ。ケモノが怒りのあまり頭を体を穴の壁に打ち付ける。 「よっしゃ!」 脇の畑の芋蔓の中に身を潜めていたクロウが踊り飛び出てきた。続いて太刀花も「今です!」とその身を現す。知ってはいたものの、自分を見捨てたわけではないと改めて小金丸は喜びを噛締めた。 「は、ははは、や、やーい! よくも驚かしやがって!」 調子にのった小金丸がケモノの鼻っ面を蹴飛ばした。 「ふごおおおおお!!!」 ケモノの怒りが最頂点になる。 こんなちっぽけな生き物の子供に馬鹿にされるなど、と。一撃を喰らわせねばこのまま死ねぬと。 もがき抗ううちに穴の一部が壊れようとしていた。元々畑に使うような柔らかい土だったからだ。 「危ない!」 刀を防護に構えた乙女がその前に出た。 小金丸を貫かんとした牙がその刀に食い込む。乙女の軽い体が吹き飛ばされるかと思いきや、その両足で踏み込み耐え抜いた。続いて他の開拓者達もケモノに一撃を与えた。 「あ、あわわ‥‥」 腰を抜かした小金丸の前にケモノが傷付いていく。自分の命を脅かそうとしていたものが息絶える安堵か、それとも何だかんだで優しく接してくれた開拓者達がケモノの返り血で赤く染まっていくのが恐ろしいのかはわからない。恐らくその両方だろう。 「ふう、こんなもんか‥‥よし小金丸、ドスッと止めを一発!」 クロウが笑顔のまま小金丸の刀を握らせた。ふるふると首を振り拒絶を示す小金丸だったが。 「開拓者になりたいんだろ? じゃあやるんだ」 優しいはずのクロウが無表情にそれを告げてきた。 「だ、だって命は同じって‥‥僕と同じって」 今度は阿留那に救いを求める視線を投げかけた。だが、彼女は無言のままだ。 やらなければならない。そう小金丸は理解した。 震える手で刀を握り、そして。 ケモノの命を奪った。 「よく頑張りましたね、小金丸」 今まで「坊ちゃん」としか呼んでくれなかった太刀花が小金丸の名を呼び、その頭を大きく撫でた。 ■働いたあとはご飯がおいしい その退治までが開拓者達の依頼された仕事であったが、彼らは畑の修繕までを申し出てきた。村人達としても断る理由はない。小金丸もそれには反対の声をあげることはなかった。最初に出会ったときの彼であれば既に鍬も投げ出していたことだろうが、何らかの経験を得ることが出来たのだろう。 ただ時間が時間であったので一晩村に泊まることになった。村には小さいが温泉があると言われ「いい汗かきましたね。このまま露天風呂にいって汗流したいです」と呟いていた鶯実を喜ばせた。 「大変だけど仕事の終わった後のご飯って凄く美味しいんですよ?」 隣で小金丸に指示を出しながら鈴がにっこり微笑んだ。 「あ、あの」 「何ですか?」 こて、と鈴が首を傾げた。 「貧弱とか言ってごめん。お前、見た目によらず強いんだな」 「あはは、気にしてませんよ」 思わず破顔した二人に声をかける人影がいた。太刀花だ。 「鈴さん、小金丸。牡丹鍋が出来ましたよ〜」 宗久の申し出で今ケモノは捌かれ、鍋の肉となった。 「やった、鍋だ!」 鍬をその場に放り出そうとする小金丸にまた叱咤の声が飛んだ。 彼が開拓者になるにはまだまだ学ばなければならないことが多いようだ。 しかし、この日の出来事が彼に大きな影響を与えたことは言うまでもない。 |