はらきり!
マスター名:安藤らしさ 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/14 20:43



■オープニング本文

 ジルベリアの動乱が治まって数ヶ月の時がすぎようとしていた。
 天儀との交流に積極的でなかったジルベリアの人間も、これをきっかけにより深く関わろうとしている。
 当然外の国の物資を取り入れることは商人にとっても喜ばしきことなのだが‥‥。



「オーウ、ここが天儀なのデスネー! ワタクシ感動のあまり涙がとまりまセーン!」
 やけに派手なジルベリア人が滂沱の涙を流しながら天儀の港に立っていた。
 名はピエール・シャーセティ四世。
 赤や金をたっぷり使った服を着ているが、近くから見ればかなり上等な布を使っているのがわかる。
「えっと、翻訳の方はいらないみたいですね」
 相手にしているのは天儀で貿易を商っている輝平という男だ。その名のとおり頭の方がちょっと輝いている。
 ピエール四世はジルベリアの貴族だ。
 片手間にアクセサリ商などをやっているが、本来ならばわざわざ天儀を訪れなくとも十分に生活できる身分だ。
 その彼がわざわざ天儀に赴いた理由は一つ。
「ワタクシ天儀にずっと憧れてマシター! 精霊と共に暮らす神の国、天儀! その文化はジルベリアにはないすばらしいものデース!」
 アハハアハハとピエールは輝平の手を握りしめて上下にぶんぶんと振った。輝平は頭にうっすらと冷や汗をかきながら苦笑いするしかなかった。



「あ、靴の方は」
「ハイわかってマスヨー! 靴は玄関で脱いでから入るんですヨネ!」
 玄関で靴を脱ぎ、綺麗にそろえるピエール。
 輝平は自分の店へとピエールを案内しながら、ほっと息を吐いた。
 変なジルベリア人のようではあるが、悪い人間ではなさそうだ。
 商売柄これよりもひねくれた性格の持ち主と商談しなければならないときはもちろんある。それを思えば素直に好意を示してくれるピエールの方がずっとありがたい。
 喜んでもらうために開拓者に天儀案内を頼んだ。
 店の中に留まり続ける店主よりも天儀中を文字どおり飛び回る開拓者の方がずっと詳しいだろうと思ってのことだ。
 部屋に案内するとピエールは畳に興奮しながらも座布団の上に正座してくれた。
 これならば案内も楽だろう。開拓者に頼まなくてもよかったかもしれんな、と輝平は考えた。
「ピエールさんの案内は開拓者の方に頼もうと思っているのですよ」
「オーウ、開拓者デスカー! この前の騒乱のときはお世話になりマシター! 私、ジルベリア貴族としてもお礼を言いたいと思いマース! ‥‥ですが困りましたネー」
「どうかされました?」
「開拓者の皆さんは挨拶にハラキリするんデスヨネー。ワタシ痛いのは苦手デース。ですが見事に臓物チラリしてみせますヨー!」
 あ、ダメかもしんない。
 なんとなくそう思ってしまった。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
白拍子青楼(ia0730
19歳・女・巫
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
アレン・シュタイナー(ib0038
20歳・男・騎
白藤(ib2527
22歳・女・弓
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
剣橋深卯(ib3470
22歳・女・巫


■リプレイ本文

 ――そしてピエール待つ貿易商の座敷へと開拓者達は案内された。
「え、えっと話したとおり、こちらが案内してもらいたいピエールさんで‥‥」
 冷や汗を垂らしながら輝平がピエールの方を見ると、なんと彼はナイフを持って目を輝かせていた。
「わー! あんたどこからそんなもん出したのー!?」
「ちゃんと持ってきましたデスヨー!」
「あ、危ないです!」
 剣橋深卯(ib3470)がすかさず走りより、ピエールのナイフを持つ手首をぎゅっと握った。
「いいですか、腹切りと言うのはサムライさんと志士さんの専売特許なんです。軽々に真似をしたらダメですよ」
「ソナノデスカー」
 懇々と諭す深卯にピエールは大人しくナイフを荷物の中へと収めた。
「そうなのか‥‥泰拳士でよかったぜ」
 ぼそっと勘違いしたまま呟く恵皇(ia0150)は泰国出身だ。彼は今回の依頼で天儀観光を共に楽しむつもりでもある。
「そうやで! 介錯願い奉るなんてな!」
 斉藤晃(ia3071)がその場にどーんとあぐらをかき、小刀を取り出した。ぎょっと輝平が驚愕に目を開く。その小刀がまっすぐに斉藤の腹へと向かい、赤いものが畳の上へと散らばった。
「アワワ、ナンチューコト!」
「ふふ、よく見てください」
 慌てるピエールに三笠 三四郎(ia0163)は斉藤の方を指差した。血かと思ったものは丸くて小さい林檎飴だ。腹を切る、と見せかけて斉藤は腹に忍ばせていた飴の袋を破っただけだ。
「そもそもハラキリは、挨拶あれへんで!」
 紙を何重にも重ねた武器、ハリセンで斉藤はピエールの頭を軽く叩いた。
「オーウ、間違ってたコト、叩かれるほど悪いことデシタカー‥‥」
「コレが天儀名物ぼけたものに使う覇璃扇や!」
「ソーナノデスカー! ところでボケってなんデスカー?」
「ええっとボケというのはですね‥‥」
 ピエールが気を悪くしないようにと白藤(ib2527)ができるだけ丁寧に説明した。
「ナルホド! ボケとツッコミ! これも天儀のすばらしい文化デスネー!」
 天儀の文化に触れて喜ぶピエールのもとに一人のジルベリア人が歩み寄ってきた。
「俺もあなたと同じジルベリア人だ。今回は一緒に天儀案内を楽しもうと思う。よろしく」
「あの‥‥よろしくお願いしますわ」
 アレン・シュタイナー(ib0038)がピエールに握手を求め、その背後に隠れながらも白拍子青楼(ia0730)がぺこりんと頭を下げた。
「なーなー、あんまりぐずぐずしてると全部回りきれなくなるぜ? さっさと行こーぜ!」
 虎耳少年、羽喰 琥珀(ib3263)が両手をぶんぶん振り回しながら皆に言った。
「それもソーデスネ! では案内頼みマシタヨー!」
 こうしてピエールと開拓者達は天儀観光へと出発した。より薄くなりそうな頭をなでながら、輝平はうまくいくことだけを願った。



 開拓者達が最初に訪れたのは細工物屋だ。木を使った細工品が主で、ここでは寄木細工も扱っている。
「あ! 装飾品のお店はここですね。髪飾りとかは良く買うんですよねー。気に入るのがあれば良いですね!」
 白藤はピエールの背中を押しながら店の中へと案内した。ピエールの荷物は三四郎が担いでいるので本人は身軽なものだ。
「オーウ、天儀の細工がビューティなのはこの塗装のおかげデスネー。これは何という塗装なんデスカ?」
「それは漆塗りと言ってですね‥‥」
 三四郎がメモを手にしながら答えていく。あらかじめ下見を兼ねて様々な情報を専門家に尋ねて書き上げたものだ。ピエールは満足そうにうんうんと頷きながら耳を傾けてくれた。
「細工物とかは、贈る相手とかいれば買ってもいいんだけどなぁ」
 かんざしの一つを手に取りながら呟く恵皇。あいにく金と女には無縁である。
「ピエールはジルベリアに土産に買って帰れば女にモテモテになるんじゃないか?」
 などと勝手な予想の話題を振ってみた。
「ノー、ワタシジルベリアに恋人がイマス。他の女性の気をひくのはイケマセン」
「へぇ、そうなのか」
 と言いつつも恵皇は首を傾げた。確か依頼の一部には芸者、和風の美女とお知り合いになることが含まれていたような。
「デスガお友達になることは構いマセンヨネー!」
 いつの間にかピエールは白藤の両手を握りしめてアハハアハハと笑っていた。
「ええっと」
 と困り顔をしながらも微笑んでみせる白藤。嫌われるよりかはいいよね、と心の中でぼやいてみた。
「装飾品一つにしても、ジルベリアとは違うのではないでしょうか」
 隣で寄木細工の小物入れを見ていた深卯が助け舟を出してみた。
「ソデスネ。ジルベリアのアクセサリは銀やジュエルを使ったものが多いデスネ」
「なあ、ピエール。青桜に似合いそうなアクセサリ‥‥首飾りでも指輪でもいいから持っていないか? 多少、値が張ってもかまわないが」
 隣で話を聞いていたアレンがピエールに尋ねた。その隣で可愛らしい梅の簪をつけてはしゃいでいた青楼が「お、お兄様」とアレンの袖を掴んで戸惑いの表情を見せる。
「オー、今回は観光がメインなのデスヨ。あまり高いものは持ってきてマセーン」
 そう言いながらもピエールは三四郎が担いだままの荷物を漁ってくれた。
「わわっ」と三四郎は少し足元を崩してしまうがその場に踏みとどまった。さすがはサムライ。やがてピエールは星型の胸飾りのようなものを差し出した。
「コレはどうデスカ? 『ラッキースター』幸運を司るスターのコインデス。デモ指輪の方がよかったデスカネー? 婚約指輪にできそうなものは今持ってないのデスヨー」
「婚約‥‥!」
 ぼっと火がついたくらいに青桜の顔が赤くなった。
「気にしなくていいよ、ピエール。青桜は妹分さね‥‥今の所は、ね」
 はう〜と顔を赤くしたままの青桜を横目で見ながらアレンは意味ありげに笑った。



 日が真上に昇った頃、開拓者達はうどん屋へとやってきた。
「ここではうどんの上に天ぷらを乗せることもできるんですよ」と三四郎が説明する。
「テンプラデスカー! それはうれしいデスネー!」
 にこにこと笑うピエールだが、おもむろに入り口で靴を脱ぎ始めた。間が悪いことに後ろにいた客に尻がぶつかってしまう。
「おい何ぐずぐずしてんだ!」
「すみません、この方は未だ、天儀に詳しく無いんです」
 ピエールを怒鳴りつけた男に深卯がぺこぺこと頭を下げた。一緒にうさぎ耳もふりふり揺れている。
「お、おう。ちゃんと天儀の文化を教えてやれよ」
 男は深卯のうさ耳をちらちらと見ながら店の中へと入っていった。このケモ耳マニアめ。
「ここでは靴脱がないデスカ?」
「床を見てください、土がむき出しになっているでしょう? ここは土間と言って土足で生活をする空間なんです。靴は奥の方で」
 さすがに専門家に聞くことではなかったが、三四郎は丁寧に説明した。
「オー、自然と共に生活すると言うわけデスネー。さすが精霊の国デス」
「ジルベリアではどんな家に住んでいるのですか?」
「ジルベリアではデスネー」
 更に三四郎は質問から話題をふくらませながらピエールを奥の座敷へと案内した。
「ああ、多分ピエールが言いたいのは‥‥」
 アレンがピエールの説明でわかりづらかったところを皆に説明した。おかげで男に怒鳴られたことはすっかり忘れたようだ。
「ところでこれはどうやって使えばいいんデスカネー」
 箸立ての中の箸をすべて掴み取りながらピエールは呟いた。
「えっと、箸は二本だけ使うんですよ」
「こうデスカ?」
 白藤の言葉にピエールは二本だけその手に握った。だがまるで幼い子供の持ち方だ。
「違う違う、箸はこう使うんだって‥‥泰国でも箸は使うが、ジルベリア人は箸を使うのは大変そうだな」
 隣から恵皇が持ち方を教えた。最初は苦労したが、さすがアクセサリを扱うだけあって手先は器用だ。麺がのびきってしまう前に掴むことができるようになった。
 結果的にうどん屋を選んだのは正解だったといえる。熱いうどんを食べて「熱いデス!!」と散々に騒いでくれたからだ。高級料亭だったら追い出されていただろう。
「それにしてもうどんだけでは少し足りない気がシマース」
 腹を押さえながらピエールが寂しそうに呟く。
「それならこれはどうや。天儀名物のたこ焼きや」
 いつの間にか買ってきたたこ焼きを斉藤が差し出す。ほかほかの皿がピエールだけでなく皆にも手渡された。
「ありがとうございます、ぱくっ♪ ‥‥あついですぅ〜‥‥」
 早速大きなたこ焼きを小さな口に放り込んだ深卯が赤くなった舌をぺろっと出した。
「熱いからきぃつけやって遅かったか」
「ワ、ワタシにもウォータープリーズ‥‥」
「ってそっちもかい!」
 と思わず突っ込みを入れてしまう斉藤だった。



「熱いものの次は甘いものだよな!」
 琥珀が先導しながら向かったのは和菓子屋だ。手に持っている地図は前日斉藤が中心となって作った観光マップだ。
「店の人に観光に来たって伝えてくるな!」と一足先に店の中に入った琥珀がくくっとほくそ笑みながら戻ってきた。
「知ってっか? 天儀だと花は甘くてうめーんだぞ」
 琥珀は道ばたの花を掴み取り、なんと花を口の中へと放り入れた。
「さすがは精霊の国デス! ではワタシもサッソク」
「わー、待ってください!」
 同じく花を掴み口の中に入れようとしたピエールを、白藤が慌てて止めた。
「アハハ、わりーわりー、本当に食べようとするとは思わなくってさ」
 琥珀は笑いながら懐から紙に包まれた何かを取り出した。紙の中にはさっき食べた花と同じ形の花が入っており、二つに割ると甘そうな白餡が姿を見せた。
「俺が食べたのはこれなんだー。本物みてーだろ?」
「ワンダホー、本物みたいデス」
「売ってる店にいかねーか? もっと沢山すげー菓子あるぜー。あと作ってみるのもいいと思うんだ!」
「クリエイトできますか! それは楽しみデース!」
 琥珀は喜ぶピエールの手をひっぱりながら店の中へと案内した。前日から店に頼んでいたからできる行為だ。
 そして開拓者達は自分達で作った和菓子や、店に並ぶあまーい和菓子にも舌鼓を打った。
「かわいいのに美味しいなんて少しもったいない気がします〜」
 もったいないと言いつつ、深卯の耳はぱたぱたと揺れて喜びを表現していた。
「アレンお兄様、どうぞ♪」
 さっきのお礼とばかりに、青楼は楊枝に刺した菓子をアレンの口元へと持っていった。「うん、甘くて美味いな。ほら、青桜も食べな?」
 同じようにアレンも楊枝の菓子を差し出す。頬をぽっと染めながら青楼は口に含んだ。
「普通に食べたほうが早そうなのにな」
 そんな様子を眺めながら呟く恵皇。作法など気にせずにそのまま手に持って豪快に食べていた。
「こんなことまでできるなんて、ワタシ感動の涙がとまりまセーン!」
「自分で作ったものってうめーだろ?」
 にっと琥珀は笑いながらその口に菓子を放り込んだ。



 日も暮れていい頃合になった頃、一同は温泉宿へとやってきた。温泉の近くとあって芸者を呼ぶことができる宿だ。
「それでは少しお暇をいただきますね」
 今まで案内をしていた白藤が宿の奥へと消え、琥珀も「ちょっと準備の手伝いしてくんな!」と慌しく走り去った。
「んじゃひとっぷろ浴びるか。どんな美人が来るのか楽しみだなぁ」
 と恵皇。風呂の一つを貸し切っているので他の客のことを気にせずにのんびりと入ることができる。つまり妙なジルベリア人が何かしでかそうとも本来混浴でない場所に女子が入ろうともオールクリアということだ。なおアレンの案により水着着用である。
「足元には気をつけてくださいね。それに湯船に浸かる前に体を洗ってください」
 三四郎が丁寧に風呂の入り方について説明する。
「セッケン踏むのはお約束じゃナインデスカ?」
「いや、お約束や! てめぇも天儀の文化についてわかってきたようやのう!」
 がははと斉藤が風呂中に響き渡る声で笑った。
 そして風呂場の片隅では
「お兄様、お背中流しますわ」
「なんだか、誰かに背中を流してもらうのは照れるな」
 アレンの細身だが均一的に筋肉のついた背中に湯が流れていく。青楼の頬が染まっているのはけして風呂の蒸気のせいではなかった。



「今日は一日お疲れ様でした。舞を見て楽しんでくださいね」
 部屋に戻ったピエール達を待っていたのは着物を着込んで深々とお辞儀をする白藤だった。蝶と桜の模様が色鮮やかだ。
 遅れて着替えた青楼もやってきた。こちらは雅で鮮やかな着物に頭の上で蝶々が揺れている。
「さーて、後は飲んで食って騒いで楽しもーぜーっ」
 どん、とその場に膳を置きながら琥珀は皆に笑いかけた。
 気持ちいい風呂のあとに美味しいご馳走と美人の女性。これで気持ちよくならないわけがない。琥珀による囃子も一役買っていた。二人の女性開拓者と経費で雇った芸者達が美しい舞を踏んだ。
「綺麗だな‥‥舞というのは」と愛しい青楼の姿を見ながらアレンが呟く。
「話も多少なりならできるようやが、手を触れると大変なことなるでぇ〜」
 酒が満たされた杯をすすりながら斉藤がピエールを脅かす。
「触れたらどうなるんデスカ?」
「‥‥ぼんっや」
「お、オマイガッ!」
「嘘教えないでくださいね。あ、良かったらお酌しましょうか?」
 舞を終えた白藤がすすっとピエールの前のお猪口に酒を注いだ。透明だが芳しい液体だ。
「シャク? シャクといいマスカ。ワタシもシャクしたいデス!」
 うろうろと徳利をもったままのピエールの手が深卯の前で止まった。
「私はお酒は飲めませんので、お気持ちだけ」
「ソデスカ。ではこれもシャクデス!」
 鍋から掴まれたままの野菜や魚が深卯の前に積まれていった。



「うぅ〜もう食べれません〜‥‥」
 酒は断ったがそのぶんたくさんの料理を食べさせられることになった深卯。むにゃむにゃと夢の中でも何かをすすめられているようだ。
「アレン、お兄様‥‥」
 青楼がアレンの肩に頭を預けながら愛しい兄の名を呟いていた。前日は衣装選びで遅くまで起きていたうえに今日も早起きだった。酒も入ってないのに眠くなるのは当然だろう。「しかし‥‥夜のことは知らないからと任せてみましたが、だいじょうぶでしょうか」
 眠る仲間に布団を被せながら三四郎は一抹の不安を覚えた。
 ‥‥一方その頃、夜の花街に消えた野郎どもはというと。
「遊ぶ時だって本気で遊ぶ。それが大人ってもんだろ」
「そう! これからは大人の時間やっ!」
 恵皇と斉藤が大人らしくなく騒ぎ、両側からピエールの肩を担ぎながら夜の街を闊歩していた。
「あ、あそこにちょっと化粧がハードデスケド美人な人がイマス!」
「よし、じゃあ俺が声をかけてこよう!」
 恵皇は和服の美人に向かって手を振った。
 ‥‥ええ、まさかそれが男だったなんて誰が気付きましょうか。
「ハラキリも勘弁だが、ゲイ者も勘弁だ」
 後の恵皇はそう語ったという。