珍味と戦って!
マスター名:安藤らしさ 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/25 20:48



■オープニング本文

 そこは天儀のとある海岸。穏やかな天気に穏やかな海、平穏の象徴のようだ。家族と共に休養を楽しむものや、ちょっと早い海水浴を楽しむものもいる。無論、開拓者の保養地としてもそれなりに人気がある。――だが。
「うわー! でっかい蛸が現れたぞー!!」
「逃げろー!!」
 わあわあと先程まで潮干狩りに勤しんでいた人々が逃げ惑っていた。海底の餌がなくなってしまったのだろうか、びたあんびたあんと脚を振り上げながら獲物を掴もうとしている大蛸がいた。
 逃げる人々の中でただ一人、蛸に立ち向かおうとしている者がいた。それは開拓者――ではなく。
「あの食材は私がいただくアルよ!」
 くるんと珍妙な髭を生やした料理人だった。



 巨大な脚をうねらせ、大蛸は果敢にも挑んできた料理人を敵と見なした。
 ビシャアアアアッッッ!!!!
 一本の脚が海面に叩きつけられた。水しぶきが白い津波を巻き起こす。哀れ料理人は海の藻屑となったかと思いきや。
「ほああああああああああ!!!!」
 叩きつけられた脚の上を軽やかに走る料理人の姿があった。
 シュタタタタ!!!!
 右手に包丁を振り上げながら走る料理人。迫りくる他の脚を切り払う! 薙ぎ払う! 叩き落す!
 華麗な剣捌き、いや包丁捌きに人々は逃げることも忘れて見惚れてしまった。
 だが背後に迫ったもう一本の脚に料理人は気付かなかった。
 シュバッッ!! 
「!! しまったアル!!」
 しゅるりと絡まった脚がぎゅうぎゅうと料理人の小太りの体を締め上げた。
「ぐっ‥‥! だが私はこんなとこで負けるわけにはいかないアル!」
 彼は吠えた。死ぬわけにはいかない、何故なら――
「絶対にお前を私の店の新メニューにするアルよ!」


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
喪越(ia1670
33歳・男・陰
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
アルネイス(ia6104
15歳・女・陰
月野 魅琴(ib1851
23歳・男・泰
ヤマメ(ib2340
22歳・女・弓


■リプレイ本文

 青い空、白い雲! 日差しがまだ春の暖かさというのが惜しいところだが、それでも絶好の行楽日和ということには変わりない。だがそんな穏やかな海も先程までに一変、今は大蛸が脚をうねらせ暴れ続ける阿鼻叫喚の場となっていた。
 ――だが蛸に立ち向かおうとするものは料理人だけじゃなかった!
「やれやれ、依頼の帰りなのだが‥‥。見て見ぬふりをするわけにもいくまい」
 羅喉丸(ia0347)は依頼の帰りにこの海岸の近くの空を朋友の頑鉄の背に乗り飛んでいた。手綱を握り締め急いで浜辺へと向かった。
 そしてその浜辺では。
「行くぞ、輝桜!」
 開拓者名物(?)焼ネギ屋台、春の行楽海岸出張版を営業していた輝夜(ia1150)が海岸の異変を感じ取った。すぐさま隣でうたたねをしていた朋友、輝龍夜桜をたたき起こし背中に飛び乗った。輝桜は二、三度周囲を見渡すと、すぐに蛸の暴れる沖へと飛んだ。寝ぼけていてもさすがは駿龍といったところか。
 だが輝夜の両手に握られているのは刀や槍などではなく、串焼き用の長串と緑と白の色が食欲を刺激してくれる瑞々しい長ネギだった。
『ふしぎ兄、ふしぎ兄! ネギで戦おうとしてるものがいるぞ!』
 人妖のひみつが主人である天河 ふしぎ(ia1037)の裾をくいくいとひっぱりながら飛び出した輝夜を指差した。
「感心してる場合じゃないよ。行こうひみつ、早く助けてあげなくちゃ!」
『むぅ、ふしぎ兄が言うのなら仕方ないのぅ』
 ぷくーと頬を膨らませながら、ひみつはふしぎと共に蛸の暴れる浜辺へと急いだ。
「むむ〜、せっかくいいデートスポットを探しにきたのに〜! でもあの料理人さんは助けなきゃですよ!」
 アルネイス(ia6104)はむんと気合をいれ、皆が向かう場所へと急いだ。
 そしてそこより少し離れた場所では。
『ワタクシのバカンスを邪魔しようとは不届き千万!! モコス、やっておしまい!』
「仕方ねぇなぁ。金になりそうだし首を突っ込むか」
 すっかり主人と朋友という関係が逆転してしまっている喪越(ia1670)とジュリエットがいた。喪越が先程まで眼福を楽しんでいた薄着の女性達はもちろん逃げたあとだ。ジュリエットの土偶パンチ(ただの攻撃)を受けながら喪越は蛸の暴れる浜へと急いだ。
「あんなに大きな蛸も、それに一人で立ち向かってしまう人も初めて見ます。天儀ってやっぱり広いですね」
 のんびりと蛸の方を眺めながら菊池 志郎(ia5584)が感想をぼやいた。隣で翼を広げて出撃の命令を待っていた隠逸がそんなことしてる場合じゃないとでも言わんばかりにがぶりと志郎の頭を噛んだ。
「いた、いたたっ! わかりましたよ、急いで行きましょう先生」
 更に上空では。
「んー、わさびはお腹減ってる? 私は別にいらないや」
 料理人の新めにゅううううという叫びを聞きながらヤマメ(ib2340)は朋友のわさびに問いかけた。
「あ、でももう開拓者になったんだよね、じゃあ働かないと‥‥」
 先程までののほほんとした目つきが一転、ヤマメの目つきが鋭いものになる。これより半刻の間、ヤマメは人獣一体となり朋友と共に空を駆ける。
「あんな大きな蛸がいるとは、自然というものも興味深いものです」
 そしてそんな蛸に立ち向かおうとするものがいる事も月野 魅琴(ib1851)には面白く思えた。料理人だけではない、この場にいたと思われる開拓者達が次々と巨大な存在に立ち向かおうとしている。
「さて、依頼帰りでスーサも連れているとこですし。あの蛸を翻弄させるくらいはいいですよね」
 答えるように駿龍はぎゅうと鳴いた。



 体半分、砂浜にあがったような場所で蛸は暴れていた。そのまま何事もなければ逃げる一般人民を追いかけただろう。だがその場に新たな敵、開拓者達が現れたことによって蛸は足止めされる。いや、うねうね動いてはいるけど。
「まずはその人を放してもらいましょうか」
 志郎が目を閉じ力を込めた。海面に浮かんでいる志郎と隠逸の影が不自然に伸び、料理人を縛り上げている脚に絡みついた。見るからに脚の動きが鈍ったのがわかる。
「助かる! 行くぞッ!」
 羅喉丸は志郎に短く礼を述べると、料理人を捕まえる脚の根元へと頑鉄を急がせた。
「骨法起承拳ッッ!!」
 ズザッッ!!
 先端よりも根元を狙った攻撃は堪えたらしい、しゅるりと料理人の拘束は解かれた。どぼん、と料理人が海の中に落ちていく。
「志体を持っているようだとは聞いてますが大丈夫でしょう、か‥‥」
 心配そうに海面を見ていた志郎の前に水柱が巻き起こった。
「新めにゅううううううう!!!!!!」
 水柱の中から出てきた料理人がまだ志郎の影縛りに動きを制限されている脚の上を渡り、蛸の頭へと斬りかかっていった。包丁で。
「先生、あれはアヤカシじゃありません。齧っちゃ駄目です」
 真面目に隠逸に語りかける志郎。心外だ、とばかりに隠逸はぐるると唸った。
「セイッ!!」
 続いて輝夜が鋭い一撃を放つ。ネギの。羅喉丸の強い一撃が効いたのもあるだろう、ずんばらりと青ネギによって蛸足が斬られた。ところで記録者はネギたこが好きだ。
「おー、どうやら料理人とやらは解放されたようだな。これ以上男の触手プレイはノーサンキューなんだぜ!」
 さて俺もがんばるかねと喪越が符を取り出す。符は小さな毒虫へと姿を変え蛸の脚にぷすりと針を刺した。
「脚が相手じゃ感じているかどうかもいまいちわかりづらいなー」
 どこかやーらしく聞こえることを喪越が呟くが、確かにうねうね動き続ける蛸の脚の変化はわかりづらい。
「ここは、私にまかせるです! あの大蛸に一発ブチかますのでその間に皆さんは移動を!」
 アルネイスの自信満々の言葉に周囲で固唾を呑んで見守っていた一般人達がおぉっと注目の視線を投げかけてきた。
「必殺〜大・龍・符です〜!」
 忽然と海岸に大きな龍が姿を現した。大蛸VS大龍、けた外れの戦いが始まろうとしている。その予感に人々はごくりと唾を飲んだ。
 しかし何も起こらなかった!
「けろっ☆」
 ポーズを決めて誤魔化すアルネイスに周囲の人々の冷たい視線が突き刺さる。慌ててアルネイスは符を取り出しジライヤのムロンを呼び出した。
『まったく、アルネイスは何をしてるのだ情けない、かわりにムロンがやってやるのだ! 必殺〜蝦・蟇・見・栄なのだ〜!』
 ムロンはくぁっと目を見開き大蛸を睨み付けた。
 しかし何も起こらなかった!
 起こっているのかもしれないが蛸が相手ではやはりわかりにくい。
『けろっ☆』
 ムロンはアルネイスと同じようにポーズをとり誤魔化した。周囲の人々は見なかったことにした!
「その料理人を離せ!」
 ザッ!!
 浜へと伸びてきた足がふしぎによって切り裂かれる。先程の術が効いたのかはわからないが、大太刀の柄を通じて伝わってくる手ごたえはかなりのものだ。
 だが仕留めそこなった脚が前から、そして密かに近づいていたもう一本がふしぎを絡め取ろうと襲い掛かってきた。
 シュタッ
「僕まで捕まえようたってそうはいかないんだからねッ!」
 そして海側では脚を奪った輝夜を叩き落そうと蛸が躍起になっていた。
「くっ!」
 咄嗟に手綱をひいた輝夜だったが、わずかに蛸の脚が輝桜の体をかすめた。くらりと輝桜の翼が揺らめく。だがすぐに体勢を立て直した。
 浜辺より中空、蛸の胴体を睨み付ける魅琴がいた。蛸の目を潰せば戦闘は有利になるだろう。その役目は偶然この場に居合わせたヤマメが引き受けると短い相談の中で決めた。だが一人では難しい、相手の気をひきつける囮が必要だ。
 魅琴はその危険な任務を負うことを決めた。
 ぎゅうぎゅうと主人を案じるようにスーサが鳴いた。
「何か言いたいことがあるみたいですね、スーサ」
 怖がっているのだろう、と尋ねたいところだがどうせ言葉が通じたとしてもこの意地っ張りな主人には誤魔化されるだけだ。スーサはふーっとまるで人間のような溜息を吐くと主人と同じように蛸を睨み付けた。蛸がどんな攻撃をしてこようとも回避する心構えは出来ている。
「ヤマメさんが眼をつぶしてくれさえすれば、他の方の的になるよう足を陽動するだけです。キミには足一本噛みちぎれば上々ってところですよ」
 無茶を言う主人だとは思う。だが魅琴は最後にこう付け加えた。
「だから‥‥気をつけて、死なないで」
 大丈夫だと言わんばかりにスーサは一声鳴いた。
 魅琴を背に乗せながらスーサは大きく旋回し、すぐに挑発するように大蛸の視界を右へ左へと飛び回った。大きな蛸には鬱陶しい虫のように思えただろう。
 ビュッと魅琴を狙い済ました墨汁が飛んできた。警戒していたスーサは即座に上空へと舞い上がった。魅琴を捕らえられなかった汁が砂浜にぼたぼたと落ちて黒い染みを作った。
「わさび‥‥ちょっとでいい、頭下げてまっすぐ飛んで」
 ヤマメはわさびに回避に集中するように命令した。命中したら確実に視界を奪われるだろう。
「あっちの目さえ潰せば命中率はもっと落ちるはず‥‥」
 わさびの上からヤマメが矢を放った。だが頭部に命中しても眼を貫くことは出来なかった。
「だったら何度でもやってやるんだから」
 ヤマメは体勢を立て直して再挑戦の機会を狙い始めた。
 海側では羅喉丸が身近な蛸足を薙ぎ払おうとしていた。
 ズザッ!!
 本体を近くで狙うためには長い脚は厄介すぎる。輝夜も続いて同じ脚にネギを振るった。耐え切れなくなった脚がぴくりとも動かなくなった。
「こっちのお手伝いをしますね!」
 隠逸の全力移動で浜にまで移動した志郎が先程と同じ術、影縛りをまだ暴れ続ける脚に放った。ぎゅうっと縛り付けられることで複雑な動きが阻まれる。
「サンキュー、アミーゴ!」
 喪越の霊魂砲、そしてふしぎの斬撃が蛸の脚に直撃した。ふしぎを追い払おうとした脚が逆に浜辺にぼたりと斬られて落ちた。
「今です、チャンスなのです!」
「わかったのだ!」
 アルネイスと共に名誉挽回するためにムロンは影縛りを受けている脚をじだじだと踏み躙った。
「さぁ見せてください、キミのあがきを!」
 魅琴は挑発するように蛸の眼前で宙返りを行った。蛸の脚が三本魅琴に狙いをすましてくる。だが主人を守ると決めたスーサがただの一本も触れさせることを許さなかった。
「いつまでも危ない目にあわせるわけにはいかない」
 視線に練力を湛えたヤマメが蛸の目に狙いをつけた。
 ヒュンッ
 風の音と共に矢が飛ぶ。グチャ、と二度目の矢撃が蛸の右目を潰した。怒りに火のついた蛸が周囲を踏み躙ろうと脚を振り回した。
「いたいのだっ!」
 脚の一本が近くにいたムロンの鼻先をぴしりと打った。
「一般人の避難はうまくいってるのかねー」
 喪越がちらりとジュリエットの様子を窺ってみる。
『下々の民を守るのも上流階級の義務ですわね。――さあ、ワタクシの指揮に従って速やかに避難するのです!!』
 様子を知らずに海にやってきた人々や今だ物見気分でいた群衆を、誘導したり追い払ったり時には尻を蹴飛ばしたりして危険な戦闘区域に立ち寄らないようにしていた。
「どれだけ上から目線なんだ、おい」
 喪越が突っ込みをいれるがこの距離ではさすがに聞こえないようだ。
「人間は敵に回すよりも味方につけておいたほうが得じゃぞ? ‥‥といってももう怒りで我を忘れているか」
 逃げるなら見逃すつもりだったが、と輝夜は蛸を倒す決意を改めて固めた。
 倒した脚の数は海側で二本、浜側で一本。もう一本もかなりの打撃を受けているが、先程の蛸の回転によりどの脚なのかわからなくなってしまった。
 にょろと移動してきた脚がひみつの足元へと迫った。
『妾に触れて良いのはふしぎ兄だけじゃ、この不埒もの!』
 ひみつが大蟹鋏で迎撃しようとするがするりとかわされてしまう。
「将を射んと欲すればまず馬を射よか」
 せっかく道が開けたと思ったのに別の脚が羅喉丸の道を塞いだ。移動して頭を狙いにいくべきか――
「否、また邪魔されるかもしれん。ならば小細工は不要!」
 羅喉丸が刀を振りかざした。輝夜と共にもう一本の脚を葬る。
 同じことを考えていた浜の開拓者達も集中して蛸の機動力を削った。
「今です、スーサ!」
 魅琴の命にスーサが一本の脚に噛み付いたと同時に、「これで、どうかな?」淡々と呟くヤマメがもう片方残っていた蛸の眼を潰した。
「桜姫招来‥‥焔・桜・剣、桜舞烈風斬!」
 桜色の燐光がふしぎの剣に宿る。
「ハァァッッ!!」
 紡ぎ出されたカマイタチはまるで桜吹雪のようだ。
「突っ込め頑鉄、これで止めだ‥‥!」
 頑鉄の背の上で羅喉丸はギンと蛸を睨み付けた。この一撃に全てをかけて薙ぎ払う――!
「玄亀鉄山靠ッッ!!」
 ズガァッッッッ!!!!!
 ふしぎのカマイタチ、そして羅喉丸の己の重みも気力も全てぶつけた一撃、それらを受けて生きていられるほど自然界の脅威は強くなかった――。
「――――――ッッ」
 大蛸は大きく一度震えると、その後は残った脚を海面に投げ出し二度と動き出すことはなかった。



 こうして開拓者達の活躍によって突如海に現れた大蛸は退治された。
『妾は別に、おぬしが怪我をしてようが関係ないのじゃが‥‥ふしぎ兄に頼まれたから、仕方なくなんじゃからなっ!』
 体のあちこちに打撲傷をつけた料理人に、ひみつが照れ隠しをしながら神風恩寵を使った。
「大漁だな、食べないというのも勿体ないな」
 浜辺に打ち捨てられたままの蛸を見ながら羅喉丸が呟く。三丈三尺、脚まで測ったらそれ以上の寸法になりそうな蛸は脚を抱えるのでさえ一苦労だった。今は運びやすいように料理人が切り分けている。志郎もその手伝いに荒縄で蛸肉を縛り付けている。
 ぎりぎりまで見物に勤しんでいた祭好きの一般人が鉄板などを運んできた。蛸肉だけでは偏ると思ったのか、魚や野菜まで持ち込まれた。
「はぁ、動いたらお腹減った‥‥なにか狩って帰ろうか、わさびはなに食べたい?」
「そういうことなら私にまかせるアルよ!」
 ヤマメのわさびへの問いかけを聞いた料理人がシュタタタと目の前に積まれた蛸肉を捌き始めた。あっという間にたこ刺しやたこ焼きなどの料理が出来ていく。
「新メニューとは言っていましたが作り方は普通なんですねー」
 解体作業を横で手伝う志郎が出来た料理を見ながら呟いた。
「うちは珍しい食材を扱うのが売りアルよ!」
「なるほどー。しかしここまで大きいと大味で身も固くなっているんじゃないでしょうか」
「そこをどうにかするのが料理人として腕ネ! さあ蛸を仕留めるのを手伝ってくれた御礼をするアルよ。存分に召し上がるがいいアル!」
「べっ、別に僕は」「妾は」「蛸料理に釣られて戦ったわけじゃ、ないんだからなっ!」「ないんじゃからなっ」
 ふしぎとひみつが所々同じ言葉を重ねながらツンと照れ隠しを見せてくれた。
「ムロンちゃん、食べ過ぎたらダメですよ」
 アルネイスが振り返りながらムロンに注意するが。
「なんのことなのふぁ、ふぁふぇふひふぁんふぇ」
「ってもう食べてるしー!?」
 と慌ててムロンを押さえつける羽目になってしまった。



「さて輝桜よ、水浴びでもしてから帰るとするかの」
 屋台の片づけを終えた輝夜が輝桜の背を撫でながら優しく話しかけた。だが返事をしたのは
「水浴びか‥‥楽しみだな。さぁ行こうか、ハニー」
 喪越だった。しかしその背後には拳を構える土偶ゴーレム、ジュリエットの姿が――‥‥。