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■オープニング本文 「うわあぁあああああ!!!」 子供が数人、肩や脚を押さえながら転がっていた。傍らには何事もないかのように剣玉を弄んでいる少年がいる。異変を感じ取った大人達が少年達のもとへ駆け寄った。 「どうした、喧嘩でもしたのか?」 「おじさん、玩具が壊れちゃった。つまんないよ」 「玩具って‥‥ちょ、高穂! 何処いくんだ!」 高穂と呼ばれた少年は、引き止める大人の声に脚も止めずに、裏の山の方角へと歩いていった。 「うえええん、高穂のやつがあぁ」 「どうした、怪我の一つや二つで泣いてちゃ男が‥‥ってこれは‥‥!」 泣きじゃくる子供達を宥めようとして彼は絶句した。全ての少年の腕と脚があらぬ方向に曲がっている。中にはぴくりとも動かない子供までいるじゃないか。 「た、高穂の奴‥‥!」 あまりの光景に愕然としつつも、いつかこうなるということを村人は知っていた。 その村はアヤカシの脅威とは程遠いところにあった。近くに魔の森は存在しないし、何より大きな街まで半日もかからない場所にあった。ケモノが時々現れることがあるが、村人の中には今までアヤカシの姿を見たことがない者もいる。 そんな村に一人の少年が生まれた。名は高穂。普通の夫妻の子供として生まれたはずなのに、その力は幼い頃から大人以上のものを持っていた。 だが最も厄介なのは心根の方だった。生まれ持った力のせいか、人を人として見ていない。いや、全ての存在は自分を楽しませるためだけに存在していると考えているようだ。 成長すればどうにかなるだろうと楽観していた村人も含め、村長の家で会議が開かれることになった。中心では高穂の父母が身を縮ませて謝罪していた。 「すいません、うちの高穂が‥‥」 「いや、あんたら何度か高穂に骨を折られているんだろ。子供が親の骨を折るなんて‥‥」 「だがどうする? 言葉で注意しても奴は聞きやしない。殴り飛ばしてもこっちがやられるだけだ」 「ここらにアヤカシもいねぇし、せめてあの力を活用することが出来れば‥‥そうだ、街に行けば開拓者を育てるところもあるんだろ? そこに高穂を預ければ‥‥!」 村人の間に同意の声があがる。こうして高穂を他所に預けるということが決定された。 「高穂、こんな村つまんないだろ? だから大きな街に行って思いっきり‥‥」 子供の機嫌を損ねないように、夫妻は穏やかに話を持ちかけてみた。 「俺を捨てるんだね?」 「い、いや、そういうわけじゃ‥‥」 「ふーん。ま、どうでもいいけど‥‥いいよ、この村から出ていってやる。そっちの方が楽しそうだしね」 拒絶して暴れられないかと怯えていた夫妻はそっと胸を撫で下ろした。 そして高穂は村を出た。あらかじめ街の道場には手紙を出していたし、快い返事ももらっていた。 ――だが一ヵ月後。 道場から文が送られてくる。約束の少年が訪れる兆がないが、どうしたのかと。 村を出た高穂の行方がわからなくなって十年後。 アヤカシを退治にいった開拓者達の前に一人の男が現れた。その場にいたアヤカシも、開拓者も全て薙ぎ払われた。染まるは血の赤の一色。 「あははは! つまんないなぁ、もっと強い玩具はないのかなぁ!」 それは成長した高穂だった。血に血を求め、戦いに闘いを求めた彼は、誰かに師事するなどつまらないと思った。だから彼は平穏な地を離れ――魔の森のある場所に居を構え続けた。 十年。それは彼がアヤカシと共に生き、そして殺し続けた年月でもある。 |
■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043)
23歳・男・陰
朱璃阿(ia0464)
24歳・女・陰
真田空也(ia0777)
18歳・男・泰
斎 朧(ia3446)
18歳・女・巫
御凪 祥(ia5285)
23歳・男・志
西中島 導仁(ia9595)
25歳・男・サ
奈良柴 ミレイ(ia9601)
17歳・女・サ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ |
■リプレイ本文 ■ギルド 闘いにおいて最も重要なのは情報だ。まして魔の森近くに出向くとなればある程度の知識は必要となる。 「それでアヤカシの出やすい場所ってわかる?」 朱璃阿(ia0464)がギルドの机に身を乗り出しながら職員に尋ねた。意図していないが豊満な胸を強調する姿勢になってしまい、共に情報収集に来ていた御凪 祥(ia5285)が咳払いをしながら視線を逸らせた。感情の起伏があまりない祥の珍しい姿だ。 ギルド職員は「うーん」と眉間に皺を寄せながらぱらぱらと書類を捲っていた。 「えっと、アヤカシの出やすい場所ですか‥‥魔の森の近くですしね。全部、としか言いようが」 それでも地形の効果でアヤカシが寄りにくい場所を教えてもらうことが出来た。朱璃阿が手帳に書き込んでいる間、今度は祥が職員に尋ねた。 「開拓者達がどんな風に殺されたかわかるか? 生き残りがいるのなら話を聞きたい」 「生き残っている方はいますけど、死に掛けたせいでしょうね、心の痛手で話を聞ける状態じゃありません。‥‥あ、でも少しは聞き出しているんですよ」 何でも大振りの刀を振り回し、一度に大勢の人間を斬り殺したらしい。 「‥‥となると、彼はサムライなのかもしれませんね」 少し後ろに控えていた斎 朧(ia3446)が考察を口にした。 「ところで他の方々はどうなされたのですか?」 「えっと確か‥‥」 職員の疑問に朱璃阿が口を開いた。 開拓者ギルドの裏、様々な訓練や有事に使われる開けた場所がある。そこには長槍を構えながら何度も突きを繰り返している奈良柴 ミレイ(ia9601)がいた。突きの一つ一つは単純であったが、それ故に狂いも迷いも微塵も見当たらなかった。 「おうおう、若いのによくやるねぇ」 通り掛かった嵐山 虎彦(ib0213)が軽く声をかけてきた。 「命の惜しい者が8人でかかっても1人の死に物狂いには敵わない‥‥今度の依頼、本気でいかせてもらう」 ミレイが己の覚悟を呟いた。言葉を発したというのに穂先の一寸の乱れもない。基本というものはいつ如何なる時であっても重要、そういうことなのだろう。 「ま、力に溺れて、行き場を失うってぇのは救えねぇな。これ以上無駄に血を流させねぇように、ここで仕舞いにしようじゃねぇか」 虎彦は重い空気を吹き飛ばすように、豪快に笑った。 そしてそこにも開拓者達はいた。話に聞いた通りそこは穏やかな村だった。 だが檄征 令琳(ia0043)は先程の事を思い出しながら渋い顔を見せていた。 「そんな怖い顔しなさんな」 共に歩いていた真田空也(ia0777)が令琳に声をかける。同じようにギルドへの帰途についていた西中島 導仁(ia9595)は同意のつもりか何も言葉にしなかった。 「私は、あの夫婦を軽蔑します」 令琳の脳裏に村で出会った熟年の夫婦の姿が思い出される。痩せ細った夫婦は訪れた開拓者相手に、身を縮ませて頭を下げたままであった。結局高穂の性格については空也が他の村人から聞き出した。気の短い性格かと予想したが、言葉尻に乗るのも乗らないのも気分次第だったという。 「あれは謝罪をしているのではありません、自分達が攻撃されないように身を守っているだけです。恐らく子供に対してもそうだったのでしょう」 「高穂とやらも‥‥可哀相な存在なのだな」 ぽつりと導仁が呟いた。しかし次に導仁の口から出たのは許しの言葉ではなかった。 「だが‥‥罪を憎んで人を憎まずと言うが、今回は度が過ぎるな。速やかに止めねばならん」 「私にも戸惑いはありません」 アヤカシでなく、人の命を奪うこと。金をもらっている以上それは仕事だと、令琳は思った。 そして現在、開拓者達は魔の森近辺に到った。木々や苔が鬱蒼と生茂っている。道はあることにはあるが、それは人間のためのものじゃない。魔の森から生まれた何十、何百体ものアヤカシが踏み躙ったために出来たものだ。 朱璃阿が手帳に記した地図を確認しながら進む。 「もうちょっと詳しく教えてもらいたかったんだけどねぇ」 「仕方あるまい、ほとんど未開の地のようなものだ」 朱璃阿の愚痴を祥が宥めた。 開拓者達が目指しているのはギルドで教えられた地形上有利な場所だ。そこに誘い込み四方を囲んで戦うことを朱璃阿は提案した。特に異論が出ることもなかったので彼らはそこに向かっている。 そして彼らはその場所に辿りついた。 朧が気を集中して結界を張った。 「アヤカシは近くにいないようです‥‥今のところは、ですね」 言葉の通り、アヤカシの気配はない。それでも朧は首筋にちりちりとした何かを感じた。悪寒とでもいうべきだろうか。 「早々に決着をつける必要はあります。そのためにも、逃がすわけには」 令琳が懐から一枚の符を取り出した。練力で呼び出された式はその場に留まることなく、地の中へと潜り込んだ。 「ここに彼が踏み入れば、式が現れて虚をついてくれるでしょう」 「それじゃ俺が踏み入れたらどうなるんだい?」 「さぁ、どうなるんでしょうね。敵だったら発動するんですけど」 虎彦の茶化しに、にこりと笑いながら令琳が答えた。 「はは、おっかねぇな。嫌われねぇように頑張るか」と虎彦は肩をすくめた。 「では精霊の加護を‥‥」 朧が囮となる空也に技を使おうとしたが、「いや、いい」と言葉で押し戻した。 「効果があるうちに出会えるとも限らないしな」 「ならば俺が共に行こう」 同行を宣言したのは虎彦だった。 「別に俺一人でもよかったんだけどよ」 先行して僅かの時間の後、空也は小さく繰言をぼやいた。 「まぁそういいなさんな。俺は皆より技は劣るが、体を盾にするくらいの気合はある。それに罠を仕掛けている可能性もあるしな」 「俺がそんなつまらないことすると思ってるの?」 虎彦の言葉に第三者から声がかかった。気配を感じることはなかった。一瞬のうちに身構えた二人が斜め上を睨みつけると、太い樹枝に腰掛けながらにこにこと微笑んでいる青年がいた。どこか村で出会った夫婦に似ている。 「お前が高穂か」 空也が警戒しながらも声を投げてみた。 「あれ? 何で俺の名前知ってんの?」 「派手にやってくれたなぁ。お前を倒すようにギルドから依頼されてんだ」と虎彦も言葉を続けた。 「へぇ‥‥それで、名前は誰から聞いたんだい?」 「それは‥‥」 言っていいものかと虎彦が言葉に詰まった。 「教えてほしけりゃ俺を倒してみな!」 好機とばかりに空也が高穂に拳を突きつけた。気分屋という話であったが、うまく挑発にのってくれるだろうか。僅かばかりの不安が胸に去来した。 「わかった。死にたいんだね」 樹枝から高穂が飛び降りた。上げた顔には鮫のような笑みが浮かんでいる。 「さぁ、来やがれ小僧っ子! この鬼法師が遊び相手になってやらぁ!」 轟っと虎彦が吠えた。 そこにいた開拓者達の間に緊張が走った。そう遠くない場所で戦闘が始まった。剣戟と拳撃の響きが僅かに聞こえてくる。 「アヤカシの気配はまだありません‥‥!」 結界を張り続けている朧が仲間に告げた。 「つまり、依頼の修羅と云うわけか」 祥が続いて断言した。 開拓者達は武器を構えて茂みの奥へと潜んだ。やがて。 「どうした、腕に自信があるのだろう! まだ俺の胴体は別れてないぞ!」 挑発の叫びと共に空也が姿を見せた。軽い口ではあるが、空也の背には冷たい汗が流れていた。我流の技であるはずなのに、高穂の刀に狂いはなかった。先に現れた虎彦は右肩を押さえていた。指の間からは赤い液体が流れている。空也も酔拳の技を使わなければ同じ目にあっただろう。 「あっはは、ちょこまかと蝿みたいにさぁ! 面白いよ!」 ぶんぶんと刀を振り回しながら高穂が現れた。その表情はまるで子供だ。だがそんな高穂の前に突如人でないものが現れた。令琳の仕掛けた地縛霊だ。 「ッ!?」 見事な不意打ちが決まった。身を潜めていた開拓者達も姿を現す。誘い込まれたと気付いた高穂がどんな感情を見せたか――それは喜びだった。 「――やるね、面白い。久しぶりのいい玩具だよ」 にんまりと心底楽しそうに高穂は笑った。 「己が心の赴くまま、修羅への道を歩まれましたか。‥‥ご自身の望まれる道を見つけられたのならば、それは僥倖」 朧は微笑んだ。だがその目は笑っていない。 「『力愛不二』という言葉がある。力はその通りの強き力、愛とは即ち相手や弱者を思いやり助け合う健全な精神の事であり、どちらが欠けても不完全なものでしかない」 導仁が高穂に口上を述べ始めた。高穂がただ一言「だから?」と返す。 「力無き愛は無力、愛無き力は暴力という事だ。精神の成長の無い貴様はアヤカシと何ら変わらん! むしろ、人の体を成すだけにより悪辣だ!」 「そーゆー難しいことはいいんだよ。俺はさぁ――玩具で遊びたいだけなんだよね!」 その叫びと同時に高穂が刀を振り上げた。 「忌まわしき我が姿を持ちし式よ、私に更なる力を‥‥隷役!」 だが高穂が誰かを斬捨てる前に、朱璃阿は符を取り出し力を込めた。 「行きなさい、その身に毒を抱きながら!」 現れた式は何処か朱璃阿に似ていた。鮮やかな翅を身に纏っていたが、その燐粉が高穂に纏わりつくと、動きが見るからに鈍ってきた。 「毒、ね。それはつまらない行為だな‥‥!」 「精霊よ、風の加護を私の仲間に」 朧が軽やかな舞を踊り、精霊に助力を願った。神聖な力が自分に宿るのを空也は感じた。 「今度は本気でいかせてもらうぜ」 よろりと空也の足が千鳥を舞う。酒に酔ったかのような足取りは匙を投げたわけではない。不意をつくように空也が一撃を放った。直撃すれば高穂の身を崩すことが出来ただろう。だが薙ぎ払うように振るわれた刀の前に、僅かに腕を掠めるだけに終わった。 「いくら熟練の技であっても動きさえ止めれば、ね‥‥!」 令琳が二枚の符を放った。一枚は掻き消えたかと思うと高穂の周囲に小さな式となって出現した。だが動きを縫いとめる前に切払われた。しかしもう符はもう一枚残っている。真空の刃となった符は高穂の周囲で竜巻となった。だが傷を負っているはずなのにその表情は笑みを浮かべたままだ。 「確かに命中しているはずなんですけどね」 いまいち効果があった気がしない、令琳は苦笑を浮かべた。 「弱肉強食の獣達でも、楽しみで殺す事はしない。人として人を守らず、人を殺す事を躊躇わぬ者‥‥人それを『外道』という!」 二刀を振りかざしながら叫ぶ導仁。 ガギィイイン!!!! 刃と刃が撃ち合う音が響いた。導仁の放った二連の攻撃は高穂の一刀で全て受け止められていた。 「くっ!」 動けない。相手の隙を探す導仁だったが、同時にこちらも隙を見せた瞬間に切払われると判っていた。 「だからどうしたって言うんだい? 外道というが道は道さ。楽しんだ方が勝ちなんだよ!」 ギギギ‥‥ガギッッ!! 悪鬼の笑みを浮かべる高穂を打ち払うように、導仁が力任せに刀を払った。一撃を喰らうことはなかったが与えることも出来なかった。 「なかなかやるねぇ、あの小僧は。俺の攻撃が効くとも思えねぇ、ならば後ろを守ってみせるさ」 痛む右肩に眉間を顰めながら、虎彦は後衛を主とする仲間達の前に立った。 「力に酔い、血に酔うか。明日は我が身なのかもしれん。例え生まれた時から彼の様に全てが玩具の様に見えていた訳でなくとも」 己の武器を見つめながら祥は呟いた。闘いに昂揚する心はないと云えば嘘になる。だが、高穂と自分には違うものがあるはず、そう思いながら祥は身を低く構えた。巌流の構えだ。 「ッハアァッッ!!」 鬼気迫る表情でミレイが槍を突く。依頼の前の修練のように穂先に迷いはない。だが速さは修練の時の比ではない。基本の技に熟練の業を載せてこそだ。 ズシッッ!! ミレイの槍が高穂の脇腹に一撃を加えた。赤い飛沫が舞う。 「なかなかやるね――でも迂闊だよ!」 高穂の刀が円を描いた。粗雑であるが力のある一撃だ。 「ッ!!」 導仁が二刀を構えるが、圧倒的な暴力を無理な姿勢で防いでしまった。指に走る鈍痛は骨のヒビかもしれない。更に空也、そして先程改心の一撃を放ったミレイは真っ向から高穂の一撃を受け止めることになった。 「くぁ‥‥!」 腹を中心にくの字に曲がったミレイが腹を押さえた。どくどくと血が流れ、着物に赤い染みを作る。 「癒しの光を――!」 仲間を死なせるわけにはいかない、朧を中心に優しい光が周囲を包み込んだ。血の気がひいていたミレイの頬に紅が戻った。他にも負傷していた仲間達の傷が癒えていく。 空也と令琳が先程と同じ攻撃をする。狙いは高穂の動きを止めること。だが傷を負っているはずの高穂に動きの乱れはなく、軽々と薙ぎ払われた。 「今まで殺めた人の事を思いながら朽ちなさい‥‥眼突鴉!」 朱璃阿の放った式が高穂の眼を狙う。頭を掠めて出来た傷から血が流れる。それを舐めとり彼はにやりと笑った。 「精霊よ、我が刃に力を与えよ‥‥!」 祥の持つ槍の穂先に聖なる力が宿った。 「――行かせてもらう!」 先程から好機を窺っていた祥が高穂に槍を向けた。同時にミレイの二度目の攻撃が重なる。――だが。ミレイの槍は刀で、そして祥の槍は己の左腕を犠牲にして防ぎきっていた。 「なんだ、これだけでかかってきて腕一本しかもっていけないのか。――やっぱりつまんないな」 玩具に飽きた子供のように高穂が言い捨てた。 それが強がりだとしてもこのまま囲んで攻撃し続ければ、いくら熟達の業の持ち主であっても倒せるはずだ。――確かに何事もなければ倒すことが出来たかもしれない。 「ッッ!!」 最も先に気付いたのは結界を張り続けている朧だった。 「アヤカシがこの場に向かってきています!」 「ならば辿りつくまでに仕留めればッ!」 朱璃阿が高穂を睨みながら符を取り出そうとした。 「!? だめです、囲まれているのは私達の方――ッッ!!」 朧の叫びと同時に空が黒くなった。一瞬にして夜が訪れたかと思うような――アヤカシの群だった。 轟ッッ!! 高穂も開拓者達も全て黒い霧、アヤカシの群に覆われた。 ――開拓者達全員生き残ったのは奇跡としか言いようがない。 有象無象のアヤカシに襲われた彼らは仲間を守りながらその場を脱した。その場に残って戦い続ける選択も確かにあった。だがそれは開拓者の中の何人かの命を犠牲にして出来ることだ。 朧が閃癒を使ったので傷を負ったままの者はいない。だが、心には何かのつかえが残ったままだ。 「奴は死んだのだろうか」 導仁の呟きに誰も答えなかった。 アヤカシの霧に呑まれたのは確かだ。だが自分達が生き残っている以上、彼だけが死んだと断じることは出来ない。 ――魔の森で高穂を見たという情報は途絶える。生死は判らず。 |