【神乱】死の鎌に誘われ
マスター名:安藤らしさ 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/24 02:24



■オープニング本文

 ジルベリアへと向かう空の上、怒声と悲鳴が飛空船の中で飛び交っていた。
「おいどうした、高度が下がっているぞ!」
「ダメです、駆動機関が反応しません!」
「敵影を確認! 数を捕捉できません!」
「なんだと!? そんなもの自分の目で確認しやがれッ!」
 船員の悲観な叫びを怒鳴りつけ、船長が甲板へと躍り出た。アヤカシだろうが俺の船を傷つける奴は全員ぶっ殺してやる、とサーベルを鞘から抜きながら。
 きょろきょろと周りを窺う船長。目の前には連なる岩の天儀の崖。どこにも怪しい姿はない。
 だがそれは一瞬程前の話。
 船底から浮かび上がるかのように、黒い影が忽然と姿を現した。
「キシャシャシャシャ!!」
 嘲笑いの声が船長の堪忍袋の尾を切ってしまう。
「このやろぉ、アヤカシ風情が人間様をなめるんじゃねぇぞ!!」
 船長のサーベルが黒い影を薙いだ。だが手ごたえはない。おかしい、確かに刃は黒い影を切断したはずなのに。
「キシャシャシャシャ!!」
 狼狽する船長を嘲笑うかのように黒い影は鳴いた。ボロ布を纏い黒い鎌を振り上げるその骸骨の姿は、まるで下手な怪談に出てくるあれの姿ではないか――。
「し、死神だぁ‥‥ッ!」
 船長の叫びと同時に冷たく黒い刃が振り下ろされた。船長の命はここで無残に狩られる。



 レナ皇女が帰還される。
 何者かによってその情報は周知の事となってしまった。ならば木を隠すための林を作ればいいだけの事、数多くの船がレナ皇女を乗せてジルベリアへと向かった。無論、殆どは囮である。そしてその数だけ空路は必要とされる。
 今しがたのことだ、先行していた小型飛空船がアヤカシの刃によって堕とされた。運良く崖の出っ張った岩に引っ掛かり、何人かの船員と傷ついた飛空船を救出することは出来た。その幸運な船員が言うには死神に襲われたという。死体を媒体とするアヤカシは存在する。その類だろうかと最初は思われた。
 だが、小型飛空船の中の貴重な宝珠を取り出すために職人が船体を調べたところ、中に小さな、親指程の大きさのアヤカシがいたという。形も羽虫そのものだったため、普通の虫だと思った職人の指が食われてわかった。
 考えるに、死神というのは小さな羽虫型のアヤカシの集合体ではないだろうか。だから刃物で切っても群の中の数匹が死ぬだけで意味がない。笑い声に聞こえるものは羽音だろう。
 レナ皇女が帰還するための船は大型のものもある。小回りの効かない船では厄介な相手だ。
 そこでギルドに依頼が出される。
 死神と呼ばれるアヤカシを先行して滅せよ。


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
八重・桜(ia0656
21歳・女・巫
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
セドリック・ナルセス(ia9155
29歳・男・陰
夏 麗華(ia9430
27歳・女・泰


■リプレイ本文

 ジルベリア近くの空の上。空路確保のための飛空船は遥か後方である。だが幾許かの時間がたてば、龍の翼も追い越していくだろう。その前にアヤカシを殲滅しなければならない。
 風は天儀本島よりも冷たく、肌に容赦なく突き刺さってくる。高い空の上となれば尚更だ。
「はう、こんなことならもっと厚い外套を借りてくればよかったです‥‥」
 相棒の染井吉野の背にしがみつきながら、八重・桜(ia0656)は寒さに耐えていた。
「でも今回の敵は厄介そうだからね。あんまり厚着して重石になったら、いい的だよ」
 その隣をレッドキャップで赤マント(ia3521)が滑空している。彼女は速さに憧れを持ち、速さを極めようとしている。
「死神ね‥‥蟲といえどアヤカシ。人間の恐怖が理解できているのかしらね」
 設楽 万理(ia5443)はギルドから聞いたアヤカシの情報を思い起こしていた。
 死神というのは人の命を刈り取る神だ。天儀では御伽噺の中だけでなく、実際に存在すると考える者もいる。それに死体を媒体として顕現するアヤカシも存在する。だが、今回の敵はそのどちらでもなく、蟲のアヤカシが群となり死神を模っているだけのようだ。
「偶然か、アヤカシの意思かはわかりませんがね」
 セドリック・ナルセス(ia9155)は今回が初めての空の戦いだ。緊張のために、相棒ポチの手綱を引く手にも力がこもる。それがわかるのか、ポチは小さく「きゅう」と主人を案じるように鳴いた。
「群体の割には、死神なんて形をとろうとするってのも変り種だが‥‥まあいいか。要はぶったおせばいいってことだろ?」
 酒々井 統真(ia0893)はまるで散歩にでもいくかのようにさらりと言ってのけた。
「確かにその通りだねっ! 早く倒してレナ皇女の空路を確保するんだ!」
 赤マントの発奮と共にレッドキャップも一声鳴いた。
「万理さん。作戦の要、お願いします」
「できるだけの事はするわ」
 セドリックの言葉に万理が頷いた。
「空の平和を守るのは『天翔ける巫女』の私の役目です。一緒にやろう、染井吉野!」
 冷たさに震えながらも、桜は染井吉野を激励した。



 そんな彼らよりもやや前方、囮として先行する者達がいた。
「死神かいな。やれやれ、あいにく三途の川の渡し守に払う六文銭はまだ使う予定はないんやで」
 相棒、疾風の背の上で、天津疾也(ia0019)は肩をすくめながら苦笑した。
「私にもありません。それにまだやり残したことはたくさんありますからね」
 くすりと夏 麗華(ia9430)が笑う。
「死神‥‥大仰な名前ですが、実態がアヤカシでは‥‥天に唾吐くその行為、けして許されるものではありません」
 神聖なる巫女として、朝比奈 空(ia0086)は静かに怒気を燃やしていた。死神と云えど神、模倣する行為など赦し難いのだろう。
「そういえばこの空路はレナ皇女が利用しなはるんやったなぁ」
「本物かどうかはわかりませんが‥‥ジルベリアの方も大変と聞きます」
 疾風が思い出したかのように呟き、空は自分とは別の国の人間を案じた。
 現在ジルベリアでは反乱軍が台頭し、尚且つアヤカシの勢力も急激に増え始めたらしい。
「レナ皇女の命‥‥けして刈らせるわけにはいきません」
 麗華は誓いの言葉と共に手綱をぎゅっと握り締めた。相棒の飛嵐がそれに答えるように小さく鳴いた。



「アヤカシがどこから来ても見つけてやるです!」
 瘴索結界を使うために、桜は染井吉野の背にしがみついていた身を起こした。だが吹き抜ける一陣の寒風が桜の集中力を奪っていく。
「うぅ、死神より強い敵がいます、この寒さです‥‥」
 主人のために速度を落とすべきか悩む染井吉野だったが、とりあえず主人の意思のままに他の仲間達と同じ速さで飛ぶことにした。
 セドリックはそんな桜を横目で案じながらも警戒のために集中した。
(もしかしたら、獲物に近づくまでは散開しているのかもしれない)
 轟々と煩く吹き抜ける風。氷刀に触れているかのような冷たさ。精神力を奪うものはいくらでもある。だが微かに、だが確かにセドリックの耳にそれが聞こえた。
「!! 皆さん、敵です、前方にいます!」
 セドリックの叫びと同時に開拓者達は龍の手綱を振るった。
 全ての龍がその場から離れたとき、現れたのは黒い刃を構える死神二つ。
「話が正しければあれは蟲の群なんだよな」
 多くの蟲が蠢く様を想像してしまったのか、統真の背中を冷えた汗が垂れていった。
 ピ――――!!
 凍てつく空気を裂くように、高い笛の音が前方より響いた。囮として向かった方にも敵が出没したのだろう。
「赤であるこの僕達が黒の浸食を食い止める! ね、レッドキャップ!」
 赤マントに答えるようにレッドキャップも一声鳴いた。



 それよりほんの少し時間は遡り、囮として先行している者達はというと。
 アヤカシが出没したのはジルベリアに程近い崖らしい。岩が迫る崖近くを三頭の龍が滑空していた。味方の動きを妨げる程に近くなく、かといって襲われたときに孤立しない程には遠くない。そんな距離を常に保ち続けていた。
 突如、一定の速さで飛行していた三頭が同時にその場から離脱した。
 一瞬前まではそこには見えなかった姿が、獲物を仕留め損なった刃を持て余していた。件の死神だ。姿の数は二つ、ギルドの話よりも二つ程少ない。
「攻撃の直前まで散っとるとはな‥‥音にきぃつけとって正解やわ」
 疾也がアヤカシの次の動きを警戒しながら呟いた。直前になるまでは小さな羽音が風の音に紛れていた。よく注意するか、熟練の開拓者でなければ回避は不可能だった。
「キシャシャシャシャ!!」
 獲物を逃したというのに死神は大きな声で笑った。
「‥‥羽音と言うには随分と煩わしい音ですね」
「所詮低級のアヤカシ。感情の機敏を表すなどできないのでしょう」
 音に眉をしかめる空に、麗華が言葉を続けた。普段は温厚な麗華らしくない厳しい言葉だ。
「それじゃ、作戦開始や!」
 疾也は懐から呼子笛を取り出し、思い切り吹いた。


「鬼さんこちら、ここまでおいで!」
 疾也が死神に向かって挑発をした。それを好機と取ったのか、死神が疾也に鎌を振り上げた。
「疾風、きばってみせ!」
「きゅいッ!」
 主人の激励に、疾風は自分の名に相応しい速さで鎌から逃れてみせた。鎌が宙を薙ぎった、死神は変わらず同じ声で笑っていた。
「むかつくやろうやなぁ」
 その鎌に向かって疾也が矢を放った。命中はしたのだが、数匹の黒い蟲が弾けとんだだけだった。すぐに別の蟲が補う形でそこに入る。
「うーん、やっぱそんな効いてへんな」
 一方、空は禍火の背にしがみつきながら、天儀の崖近くを急降下していた。鎌の餌食になったわけではない。下降と上昇を繰り返すことでアヤカシを一箇所に惹きつけようとしているのだ。
 だが死神の速さは空の予想よりも早く、その鎌が彼女の背中を狙いすました。
「くっ‥‥!」
 回避は不可能。そう判断した空が次にくるだろう衝撃に身を硬くした。
「そうはさせません」
 ヒュッ!
 炎を纏った鏃が死神を空の間に割って入った。麗華が放った矢だ。本能が恐れるのか、死神の動きがそこで止まり、禍火は主人の空を守るために早々と脱した。
「ありがとうございます、助かりました」
 合流の後に空は飛嵐の隣に並んで飛んだ。
「仲間ですから」
 助けるのは当然です、と麗華は微笑んだ。
「さて、早く合流するで!」
 疾也が仲間達に向かって叫んだ。
「ええ。では、禍火‥‥行きましょうか」
 相棒の手綱を改めて力強く握り締め、空は呟いた。



「どうしたどうした! 笑ってるだけじゃ当たらねぇぞ!」
 死神の一つを惹き寄せながら、統真が挑発した。先程呼子笛の音が聞こえたということは、囮として向かった開拓者達もこちらに来ているはず。ならば惹きつけながら合流すればいい。何発かためしに攻撃をしたが、話に聞いたとおりあまり意味がないようだ。
 だが予想以上に早い死神の鎌が統真の乗る鎗真の翼を切り裂こうとした。
「鎗真、避けろ!」
 統真の命令と共に鎗真がひゅっと加速した。獲物を捕らえきれなかった死神に追撃の様子はない。そこまで速くないか早々に諦めたかはわからない。
「八極門するほどでもないみたいだが‥‥とりあえず、上手く纏めてふっとばさねぇとキリがないっぽいから、集めにいかせてもらうぜ」
 自らを餌とし、統真はアヤカシを集めることにした。
「染井吉野、炎ですー!」
 主人、桜の声に染井吉野は、がぁっと炎の息を吐いた。ジルベリアのアヤカシだからか、それとも蟲の形をしているからか、どうやら炎には弱いようだ。バチバチと蟲達が瘴気に変わっていく。
「そこに力の歪みでも食らえです!」
 桜がアヤカシ周辺の空間に歪みを作り出す。数匹の蟲がひねて潰れて瘴気へと還った。
「うわ、気持ち悪いもの見ちゃったです‥‥ってこっちに来るなーです、あっちいけーです!」
 残った蟲達が桜を獲物と定めた。鎌を振り上げる様子もない、狙いは染井吉野の翼のようだ。
「仲間をやらせるわけにはいきません!」
 ザザッッ!!
 セドリックの放った符が真空の刃となって斬撃を起こす。死神を切り刻むことはなかったが、桜を追いかける余裕はなくなったようだ。
「ありがとうですよ〜」
「いえ、桜さんが距離をとって戦っていたのでなんとかなりました」
 桜の礼にセドリックが答える。
 蟲達の何匹かは確実に倒しているが、何分数が多すぎる。攻撃しても攻撃しても数が減った気がしない。
「笛が聞こえたってことはそろそろだと思うけど‥‥あっ」
 前方を窺う万理の視界に見知った姿達が現れた。だがその後ろに二つの死神の姿も見える。これでギルドに聞いた数とあう。
「ここが踏ん張りどこ、ぶっ倒れるまでいくとしようか!」
 統真が右の拳を左の掌に打ちつけ、ぱぁんと小気味いい音を鳴らした。



「よっしゃ、見えてきたで‥‥ってうわわ、あかんって!」
 疾也が慌てた声をあげる。仲間の殿、つまり死神に最も近いところを飛んでいた疾風の翼に、死神が鎌を振り上げていた。
「白梅香! ぜーいん吹き飛べや!」
 精霊の力を鏃に宿らせ、疾也は死神の中心を狙った。
 ヒュンッ!
 風切り音を鳴らして、矢が死神を貫いた。浄化された蟲は少なかったが、聖なる力は苦手なのか、分散した蟲達は少し離れた場所でまた死神の形になった。
「きゃほーい☆ みんな燃えちゃえー!」
 赤マントの焙烙玉が死神に向かって弧を描いた。勿論その際に赤マントが自身を覚醒させ、命中の精度をあげている。命中した焙烙玉が赤い火花をあげて破裂する。爆発に耐えられない一部の蟲達がぎぃぎぃと苦悶の声をあげて散らばった。
 だが残った蟲達は反撃とばかりにレッドキャップの翼に纏わりつこうとした。
「わわっレッドキャップ、避けて!」
 赤マントの声と同時にレッドキャップが体を急回転させた。翼で起きた突風に蟲達は動きを封じられる。突然の行動に統制がとれないようだ。
「レッドキャップ、反撃だ!」
 轟っとレッドキャップの口に炎の塊が生まれた。吐き出された炎が群から逸れた蟲達を焼き尽くした。
 開拓者達の龍が右往左往と動いている。ただ逃げ回っているように見えて彼らの目的は一つ。
 一箇所に集める。
「今は援護しか出来ないけど‥‥!」
 他の開拓者達よりも死神から距離をとりながら万理が呟いた。通常の矢を放っても死神達は全く動じていない。死神に通常の攻撃は役に立たない。広範囲による一網打尽の攻撃が要諦になるだろう。
「‥‥火が苦手だというのなら」
 何を思ったのか、空はヴォトカを取り出し赤マントが先程攻撃した死神に投げつけた。無機物に反応するアヤカシではなかったので、瓶の中身がアヤカシ全体に降りかかる。
「禍火‥‥やりなさい」
 空の声と共に禍火が息を吐いた。度数の高い酒は燃料になる。轟っと紅の炎に死神が燃え上がった。だがそれだけでは終わらない。
「精霊よ、穢れを焼き尽くす炎をここに‥‥」
 巫女として空が精霊に語りかける。生み出された炎が残った蟲達を微塵も残らず塵へと化した。
 ようやく群を一つ滅することができた。
 残された群の数は三つ。
「もしかしたら羽ばたきで押し返せるかもしんねぇな」
 先程の赤マントの戦いを見ていた統真が呟いた。
「よし、鎗真! お前の翼の力を見せてみろ!」
 元気よく鳴いた鎗真が死神の近くで猛烈に羽ばたいた。だが蟲達は結束を固めて散らばろうとしない。もう一押しの力があれば。
 統真が鎗真の背を蹴った。
「吹きとんじまいなッッ!!」
 統真の脚が見事な旋風を描いた。巻き起こる勢いに蟲達が弾け跳んだ。
「ポチ、お願いします!」
 ぎゅっとセドリックが相棒の背中にしがみ付いた。死神の鎌がセドリックとポチに振り上げられたが、風のような動きに翻弄されるだけだった。
 統真が弾け跳ばした死神、そしてセドリックに攻撃をしかけた死神が隣に並んだ。
 無論、偶然ではない。
「こちらです、このままうまくひきつければッ!」
 その間を縫うように飛嵐に騎乗した麗華が間を通り抜けた。追いすがろうとする死神が二つの死神と並ぶ。麗華に攻撃をするつもりはない――否、攻撃の準備は既に出来ている――!
 三つならぶアヤカシの群に弓引く一人の人物がいた。常に皆の背後にいた万理だ。彼女は援護のためだけではない、この好機を逃さないための準備をしていた。
 両手は弓を射るために、両足は相棒の宵闇と力を合わせるために。
 ぎり、と万理の指に気力が込められた。狙いは外せない。外さない。鏃の狙う先には死神達が一直線に並んでいた。
「衝撃波なら郡体でも避けようがない‥‥はず!」
 ヒュオッ!!
 弓から鏃が跳んだ。気力、精神力、そして何よりも強い闘志が衝撃波となる。
 ザザザッッ!!!
 風と共に死神達が貫かれた。後には瘴気に還るだけの塵だけが残った。緊張の糸が切れたのか、万理はそのまま宵闇の背にへたりこんだ。
「よっしゃ! 俺達の勝ちや!」
「これ以上厄介な能力がなければよいのだけどね」
 疾也がすれ違い様に万理の肩を叩いていった。
「どうやら飛空船が追いついてきたようです」
 後方を見ながら麗華が告げる。確かに重量を伴った物が風の中を進む音が近くなっていた。
「よぉし、あと一踏ん張りがんばろー‥‥あれ?」
 赤マントがきょろきょろと周囲を見渡している。どうやら探し物をしているようだ。
「どうかしたの? 何か落し物?」
 怪訝に思った万理が赤マントの隣に並んで飛んだ。
「えっと、死神の鎌があるなら拾っとこうかなーと思って‥‥」
「あれも蟲やったで。攻撃したら弾けとったから間違いないわ」
「えー‥‥蟲ならいらない‥‥」
 疾也の言葉に赤マントが意気消沈する。それを見た開拓者達の間に笑みが広がった。だがまだ依頼が完了したわけではない。気を引き締めて護衛の任にあたることにした。
「弱くても、あつまりゃ力になる。見るべきとこはあったが‥‥それでも、刈らせるわけにゃいかねぇな」
 統真は後ろに見え始めた飛空船を見守るように呟いた。



 開拓者達はしばらく飛空船の周囲を警戒して飛んだ。特に赤マントは機関部に注意していた。
 だが開拓者達を襲った四つの死神以外に襲撃はなかった。今回の依頼で見つからなかったか、それとも最初からそれだけしかいなかったかはわからない。だが厄介な敵が排除されたのは確実だ。
 やがてジルベリア方面から大型の飛空船が姿を現した。帝国軍の迎えだ。開拓者達の依頼はそこで終了し、朋友達の翼を休めるためにも飛空船の甲板に皆呼ばれた。
「礼を言う、開拓者の諸君。君達のおかげでレナ皇女の安全は確保された。これは我々帝国だけでなくやがて天儀本島との関係を‥‥」
 長々と騎士の代表とやらが謝辞を述べている。
「‥‥お礼なんて『ありがとう』だけでいいです、長いのは嫌いなのです」
「しっ! そういうことは黙っておくのよ」
 ぼそっと毒舌を吐く桜に、万理が小声で注意を促した。
 疲労のためにセドリックはポチの背中にもたれ掛りながら騎士の言葉を聴いていた。何故か騎士の言葉が子守唄のように聞こえてくる。
「ポチ、よくやりました。初めての依頼でしたけど、がんばり、ましたね‥‥帰ったら‥‥」
 ふぁとセドリックは小さく欠伸をした。
「おいしいものを、たくさん‥‥‥‥すぅ」
 まもなく騎士の儀礼ばった感謝の言葉が終わり、開拓者達がそれぞれ伸びをした頃、麗華は深い眠りに入っているセドリックの顔を見て、くすと優しく微笑んだ。