夜の蝶になれ
マスター名:安藤らしさ 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/17 20:39



■オープニング本文

 けして表に立つ仕事ではない。
 体を売るなど、世間様に顔向けの出来ない卑しい人間のすることだと蔑む輩もいる。
 それでも、いやだからこそ、彼女達は自分達のことをこう呼ぶ。
 夜の蝶、と。

 大きい街には必ずといっていいほど『女』を買える店が存在する。街の治安の程度によって店の大きさは変化するが、少なくともその街の店は大きい方だといえた。
「それそれ、今度は鬼ごっこか、それともワシと踊るか? あっはっは」
「もぉ〜、旦那様はすけべぇにござりまするぅ〜」
「何、すけべぇと言うのはこういうことを言うのだぞ‥‥おっと」
 ある遊郭の一室、男が接待をしていた遊女の尻を撫でようとしたが、するりと軽やかに避けられてしまった。
「お触りは厳禁にござりまするよ?」
 めっと鼻先をつつけば、避けられた不満もどこかに吹き飛んでしまう。男は「ははは、お前が可愛いのが悪いのだ、許せよ」と手にした酒を飲み干した。
 だがそれで誤魔化されない手合いもいる。
「きゃあッ!」
 女の悲鳴と畳に倒れ伏す音が響いた。続いて男の「なめとんのかこのアマ!」という怒声。
 二、三度平手が飛ぶ音がした後、遊女の長を務める沙良がその部屋のふすまを開いた。
「お客様、乱暴はおやめくださいまし。その娘が何か無礼を働いたのでしょうか?」
「なんだぁ、この店は客に失礼なことをしておきながら謝罪することもしないのか、ああん?」
「何をしたのか尋ねているのでございます。それを聞くまでは謝ることはできませぬ」
「この女はなぁ! 俺が服を脱げと言ったのにへらへら笑いながら逃げたのよ! だから教育してやったのよ、それだけのことだ!」
 剣傷のついた拳を振り上げながら男は主張した。
「お客様、うちの娘達には歌と踊りでお客様をもてなすように教えております。体を買いたいのなら別の店に行ってくださいまし」
「つまりお前が責任者ってことだよなぁ‥‥おい、お前、服を脱げ」
「ですからそれは」
 沙良は強く断ろうとしたが、男は畳に転がる娘の襟首を掴み上げ、懐にある匕首を彼女の首につきつけた。短く「ひっ」と悲鳴をあげた娘は小さく震えるしかなかった。
「‥‥わかりました」
 沙良は自らの帯に手をかけた。



「うぅ‥‥ごめんなさい、あたしが我慢してれば沙良さんがあんなことしなくてすんだのに」
「いいのよ、結局酒でつぶしたから何もなかったのだし‥‥それにしても困ったわね」
 泣きながら謝る娘をなだめながら沙良は呟いた。
 困ったというのは先程の客のことだけではない。最近あのように狼藉を働くものが増えてきた。
 アヤカシに脅かされる不安定な生活のせいだろうか、弱者を我が思うように扱うことによって鬱屈を晴らそうとしているのかもしれない。
「男を慰めるのはあたし達の仕事だけどさ‥‥殴られていうこと聞くほど馬鹿じゃないんだよね」
 何より夜の蝶としての誇りが許せない。
「開拓者でも雇って追い払ってもらうかねぇ」
「でも沙良さん、前に雇ったときに「あそこに男がいるのだから俺も雇ってくれ」って言い出す客に苦労したじゃないですか」
「じゃあ女の開拓者だけ雇えばいいんでないかい? 男の開拓者が来たら‥‥女になってもらうだけさ」


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
橘 琉璃(ia0472
25歳・男・巫
氷那(ia5383
22歳・女・シ
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
痕離(ia6954
26歳・女・シ
玖守 真音(ia7117
17歳・男・志
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓


■リプレイ本文

■準備
「ちょ、ちょっとこんなに縛り付ける必要はあるのかな!?」
「何言ってるカ、女の子は腰がポイントネ。男ってばれたくなかったらもっと縛るヨロシ」
 ぎゃーと悲痛な叫びが色街に響き渡った。
 どんなに客が泣いて叫んで土下座して頼んでも、絶対に入ることが出来ない女の聖域、遊女達の控え室。その真ん中で雪斗(ia5470)が梢・飛鈴(ia0034)にぎゅうぎゅうと帯で縛り上げられていた。場所が場所故にそういうご趣味ですかと尋ねたくなるが、断じてそういうわけではない。
 最近増えてきた乱暴な客を追い払ってほしい。だが、男を雇うと後々面倒なことになってしまう。だから表向きは女性だけを雇ったんだと誤魔化すために必要な事だ。
 そんな依頼がギルドの方に持ち込まれた。
 だから依頼を受けてしまった以上、これは彼らにとって義務であり、必要なことであり、けして自分から進んでやっているわけではない‥‥ないのだが。
「ねーねー、茜ヶ原の姉様、俺かわいい?」
 きゅるるんという音が出そうなくらい愛らしい女の子、に見える彼は玖守 真音(ia7117)、これでも一応妻帯者だ。可憐な仕草は妻を意識してのものらしい。
「えぇ、かわいいわよ‥‥本当に私よりかわいいんだから‥‥」
 茜ヶ原 ほとり(ia9204)はうぅっとその場にくずおれた。
「茜ヶ原さんもとても美しいですよ?」
 抜群の美女、いや橘 琉璃(ia0472)がへたりこんだままのほとりの前に座って語りかけてきた。無論、彼女ではなく彼である。普段は女顔のために顔を隠していたが、この依頼ではその特徴が役に立つことになった。着付けと化粧は遊女がこなしたが、「こんな美人さんだからおねーさんはりきっちゃったわぁ」と言うだけあって、気迫せまる仕上がりになっている。
「あなたに言われても嬉しくないぃ‥‥!」
 袖を咥えながら悔しそうに涙を流すほとり。ほとりだって藤色の留袖が似合う清楚な美女だ。遊郭より、桜の下で微笑んでもらいたい、そんな美しさだ。だが今回の依頼を請け負った男性は皆範囲外というか、まぁ、平均より外れた輩ばかりだ。だから落ち込まないでもらいたい。
 そしてそんな悲喜劇の隣では。
「よるのちょう、かー。よくわかんないけど格好いい響きだな!」
 煌びやかな衣装を着ておきながらルーティア(ia8760)がきゃっほーとはしゃいでいた。大人しくしていれば人気の遊女に見えそうなものなのに、慣れない衣装や飾りに興奮しきっているらしい。
「‥‥いやはや、どうにも慣れないね‥‥」
 ルーティアと同じく痕離(ia6954)も着飾ることに慣れていない。一緒に小躍りしたりはしないが、帯紐を少し緩めたり襟元を正したり、そわそわと落ち着きがないようだ。
「あら、でもシノビなんだから慣れとかないといろいろ大変よ?」
 氷那(ia5383)はすっかり妖艶な美女になりきっている。見知らぬ人間が彼女を見ても開拓者であると想像したりはしないだろう。
「僕は男として育てられたから‥‥そうだ、客の特徴を聞いておかなきゃ!」
「‥‥誤魔化したわね。まぁでも私もそうしようと思ってたのよね」
「あら、皆さんとてもお奇麗ね? 開拓者じゃなくて遊女として働いてもらおうかしら」
 その時丁度、というべきだろうか。依頼主である沙良が開拓者達に着付けをしている部屋にくすくすと笑いながら入ってきた。
「それだけは勘弁してくれ‥‥そうそう、どんな客が乱暴を働いてくるんだ?」
 沙良が言うには問題の客は四人いるらしい。数は少ないが、この一週間の間のどこかで遊郭にくるだろう、と予想されている。沙良は特徴を告げた後、その客が来た時は必ず出て欲しいとも付け加えた。
「自分より弱き者を脅かし、強くなった気になっているのだとしたら、何だか残念な話ね。こちらの何人かは見習いか新造ってことにして、遊女さんの側につかせるけどいいかしら?」
 氷那が沙良に開拓者側の提案を話してみた。
「ああ、構わないさ。こちらからそうしてもらうつもりだったしね」
「沙良の姉様、厄介そうな客には下剤入れていい? 俺薬学あるし、少しだけにするから大丈夫だよ?」
 いつの間にか隣に来ていた真音がぴょっこりと沙良に提案した。だが沙良はそれを苦笑で断る。
「うーん‥‥酒が入ると腹が緩くなるし、それに‥‥わざと粗相をする客もいるんだよね」
「あぁ、それは‥‥」
 想像してしまったのか、痕離の口元が少し引きつった。
「そ、そろそろ時間じゃないカ?」
 飛鈴が眺める窓の外、夕の帳が降りようとしていた。普通の店なら鎧戸を閉める時間だろう。
「さて、不躾なオイタをする人には、わからせて、あげないと駄目ですね?」
 くすくすと琉璃が笑った。闇よりも暗い微笑みだった。ちらっと横目で見た雪斗はやっぱり見なかったことにした。



「今日はなんや、別嬪さんばかりやなぁ、わしが色男やからかな?」
 がははと能天気に笑う男、まさか相手をしている四人のうち二人が男だなんて思ってもいないようだ。
 本物の遊女が主流の舞を踊り、雪斗がその支え役として舞っていた。もともと舞は出来ていたとはいえ遊郭のそれは魅惑な様をみせるためのものだ。まして雪斗は男だし。昼間のうちに舞を教わっていなければ優雅に舞うことなど出来なかっただろう。
「さぁ、どんどんお酒を飲んでくださいまし!」
 男の持つお猪口に真音が酒を注ぎ足している。その酒の名称、なんと大アヤカシ殺し。本当にアヤカシを殺すわけではないが、殺してしまうのでは思ってしまうほどつよーい酒だ。おまけに度数の割に飲みやすいという特徴まである。
 ほとりはその隣で酒や料理を並べたりしている。曰く「格闘は苦手だわ。真音クンの横でおとなしくしていようっと」ということらしい。
「そうだ、わしがいい舞を教えてやろう」
 うへへ、と男は舌なめずりと手をわきわき動かし、雪斗ににじり寄ってきた。
「まぁまぁ旦那様! それより私の酒を飲んでくださいよぉ〜!」
 男の道を塞ぐように、真音にっこりと笑いかけた。雪斗がそれとなく遊女に避難を促す。
「そういえばお嬢ちゃんは見習いだったなぁ‥‥よし、わしが手取り足取り腰取って舞を教えてやろう、なぁに、おいちゃんは遊郭に通って二十年なんだぞ。それにわしはこれでも志体持ちなんじゃ」
 遊郭通いは自慢にならないと思うよ、と真音が心の中で呟く。
 男の手が真音の帯を掴もうとした――が。
 スタンッ
「ありゃあ?」
 男の手が空を切った。大げさに避けたとも思わせず、真音は畳の上に着地していた。素面であったなら真音が横踏の技をもって回避したことに気付いただろう。
「わしが舞を教えてやろうっていってるのにその態度はぐへあ!」
 男が拳を振り上げたと同時に口から情けない悲鳴が飛び出した。白目を剥いた男が畳の上にばたりと倒れ伏す。男を見下ろすように、鉄扇を構えた雪斗が「出張りすぎだね‥‥? もう少し場を弁えても良いと思うけど」と苦笑していた。
「暴れてこっちにこなくてよかったわ‥‥」
 ほとりが壷を抱えながらほっと胸を撫で下ろす。ほとりの側には叩けばすぐに壊れる茶器や調度品が揃っていた。密かに引き寄せておいたのだろう。
「さて。この狼藉者さんが目を覚ましたらお家に帰さないといけないわね」
「きゃー茜ヶ原の姉様、こわーい」
 ふふふと、ほとりと真音が顔を見合わせながら怪しく黒く笑った。
「全く‥‥面倒な客も居たものだね。同じ男として呆れるよ」
 溜息をつきながら雪斗は苦笑した。
「一名様おっかえりー!」
 男はぽいと部屋の外へと捨てられた。
 さて、ここで余談ではあるが。
 この男、朝起きたら女房に文を突き出されたとか。浮気を疑われた男はその後遊郭通いを控えるようになったらしい。
 その文には「籠の中の蝶々は、眺めて愛でるが花」と書かれていたそうだ。



「うへへへ、ねーちゃんおっぱいさわらせてよ〜」
 部屋に入ったときの第一声がこれである、さすがの琉璃とルーティアも苦笑いを浮かべるしかなかった。さすが事前に警戒される程の問題客というべきか。沙良曰く「いきなり絞めちゃってもいいのよ?」とのことだ。客は二人組で痩せとデブ、と特徴もわかりやすい。
「ふふ‥‥お楽しみは別の場所の方が良いですよ」
 琉璃がデブに微笑んだが、デブは琉璃の体を舐め回すようにじろじろと眺め、唸った。
「ねーちゃん‥‥顔は美人だけど体は貧相だなぁ」
 しみじみと哀れむように呟かれた。男であるからして貧相であるのは仕方ないのだが。見下す視線に琉璃の笑みが変化した。見ていると大アヤカシに睨まれているような気分になる。
「こっちのねーちゃんのおっぱい触らせてや〜」
 えへへ、おっぱいおくれとデブがルーティアににじり寄って来た。
「そんな‥‥恥ずかしいですぅ‥‥」
 頬を赤らめ瞼を伏せがちに視線を彷徨わせるルーティア。普段の天真爛漫な姿からは想像も出来ない仕草だ。畳の上にくず折れているので、留袖が大きく開き、白く艶かしい太ももがデブを誘うように顕になっていた。
「いいから、いいから、さあ、おいちゃんのところにおいで」
 デブは情欲を隠そうともせず、ルーティアの踝から脹脛、そしてまだ着物で隠れている秘所を一望した。こくんとルーティアは小さく頷き、恐る恐るデブにその体を開こうとした。うん、そろそろ十八禁だって? 安心してくれ。
「も、もうたまらん!」
 デブの脂っこい指先がルーティアの無垢な体に襲い掛かろうとしたとき、そこにルーティアの姿はなかった。
「なん、だと‥‥!?」
「ふっ、かかったな!」
 いつの間にかデブの背後にいたルーティアが男の首に腕を絡めて引き寄せた。ぎりぎりと締め付けられる男の動脈。なくなる酸素。ふっふっふ、と先程の可憐さが嘘のようにルーティアは含み笑った。
「胸を触ろうとしてくる奴には、こうしてやれってママが言ってたぞ!」
「ぎあっくるし! あ、でも背中が気持ちい‥‥ぐぅ」
 じたばたと足掻いていた男だったが、すぐにきゅうと意識を飛ばした。ルーティアが手を離すと、男はそのまま糸の切れた操り人形のようにずるりと倒れた。
「‥‥なんでこいつ、気絶してるのに嬉しそうなんだ。変だな」
 白目を剥いている男の顔を、ルーティアが指でつんつんと突付いた。君にはわかるまい、その胸の肉球がどれだけこの男に幸せを与えたか。
「てめぇ売女のくせにいい気になってんじゃねぇぞ!!」
 激昂した痩せの男が懐から何かを取り出した。匕首だ。鞘をその場に投げ捨て、側にいた琉璃に向かい突っ込んでくる。その姿を琉璃が絶対零度の視線で貫く。男の背中にぞくりと怯みが起きた。だが、酒の席の幻覚だとすぐに思い直し、足を踏み出した。
 その足元に炎が舞い上がった。
「うわっちぃい!?」
「いい加減にするんだな? 暴力で訴えても何にもならないが‥‥怪我したくないならお帰り下さい」
 最後に妖艶に微笑んだ。琉璃の壮絶な笑みに痩せは怯えたかというとそうでもなかった。
「あっその顔いいです、もっと見下してください!」
「え‥‥」
 別の問題が起きてしまったような気がする。琉璃の顔が若干青ざめた。
 その後半刻程の時の後。
 絶賛放置プレイ中です、と記された看板の下、ぐるぐる巻きに縛られた痩せとデブの男が遊郭の門、寒空の下に捨てられていた。



 その客こそ、沙良に開拓者を雇おうと決意させた男だった。先日の事件では一人であったが、今回は同じように柄の悪い連中を三人程引き連れていた。さすがに前回の事で追い出されるとふんだのかもしれない。
「それならば来なければいいのにナ」
「なんかいったか?」
 飛鈴がぽつりと呟いた言葉に男に一人が耳聡く反応した。アイヤーと心の中で汗を流しながらも、飛鈴はにっこり微笑んだ。
「舞の準備をしなければといったアルよ」
「舞? 舞なんか見ても面白くねぇよ。それより座敷遊びしようぜ。こんだけ人数がいるんだ、鬼ごっことかどうだ?」
 男がにやついた顔で提案してきた。もちろんただの座敷遊びなど提案するわけがない。第一、店に入る前に遊女に触れないことは約束させられているはずだ。
「じゃあ俺達が鬼だな、げへへ‥‥」
 げへへなんてわかりやすい笑い方する人種がまだ残っていたのね、と何故だか氷那は心の中で感心してしまった。
「‥‥お触りは厳禁ですよ、旦那様?」
 鬼ごっこなどするつもりもない男達に痕離が制止の言葉を投げかけてみた。まぁ一応のため。
「ん〜、そうだったかなぁ〜? まぁでも、いやよいやよも好きのうちっていうじゃねぇか」
 ひゃっはーと男が叫んだ。あれが三流チンピラというケモノの鳴き声だ。嘘だが。そのまま手近にいた氷那に飛びつこうとしたが。
 すっと氷那が退いた。片足をその場に残しながら。
「ぐぎゃっ!!」
 男が見事に顔面から畳に突っ伏した。すぐに「鼻ッ鼻ッ!」と叫びながら畳の上を転がった。折れたのかもしれないが、命には別状はないだろう。
「あら、ごめんなさい?」
 くすりと蠱惑な笑みを氷那は浮かべる。だが、男達には遊女が思い通りにならないのが余程悔しいらしい、短気にもすぐに懐に手を伸ばし、刃を構えてきた。
 が。
 飛鈴の鉄扇が、痕離の鉄拳がそれぞれ男の首と顔面に命中した。ばたばたと男達が倒れ伏す。先程転がっていた男もいつのまにか外に捨てられていた。
「女性に刃物を向けるなんて、相応の覚悟は出来てるんだろうね」
 もう演技する必要もない、と痕離が素の言葉で話す。
「てめぇら‥‥開拓者か!」
「バカには気付かれないと思ってたけどナ」
「さて‥‥お友達は寝てしまわれたようですけど‥‥座敷遊びはいかがですか?」
 と、氷那が微笑む。
「鬼ごっこカ? それともおしくら饅頭アルか?」
 飛鈴が両手の指をパキパキと鳴らしながら男に近づいてくる。
「今なら美女三人が相手をしてあげるよ、よかったねぇ」
 痕離も笑いながら、といっても目はちっとも笑っていないが、男にじりりと詰め寄った。
 男の額に脂汗がたらりと垂れ――色街の空に野太い悲鳴が響き渡った。
 そして再び遊郭、門前にて。
「えへへ、お兄さんも追加でこれ、頼んだんですか?」
 痩せの男が顔がぼこぼこになった男に馴れ馴れしく話しかけていた。実は痩せの男、やられたのは昨日なのに頼み込んでこの場にまだ残っていた。
「い、一緒にするな!」
 男の叫び声に答えるものはいない。



 その後、遊郭に新しい目的を求めた客が増えたが――それはそれで新しい商売になったらしい。
 そして――。
「手作りの袋くれた男の子、かわいかったわねぇ」
「あら、『夜の蝶なんですから、華やかに舞って下さい』って最後に言ってくれたお兄さんも迫力ある美人だったわよ」
「じゃあさ‥‥今度、女装だけの依頼を頼んでみない?」
「あはは、やってみよっか」
 などという会話が今宵の色町で繰り広げられていた。