暗闇に潜むもの
マスター名:安藤らしさ 
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/06 00:46



■オープニング本文

 むかしむかしあるところに。とても立派な王様がいました。
 王様は髪がふさふさに生えていましたが、実はもふらの毛でできたカツラでした。
 それを知っているのは王様の髪結い職人だけでしたが、他人に言えば死刑にするぞと脅されていました。
 でも我慢が出来なくなった職人は一つの井戸の底に向かって「王様の髪はもふらの毛!」と叫びました。
 実はその井戸は天儀中の井戸と繋がっていて、天儀の井戸全てから「王様の髪はもふらの毛!」という声が飛び出してきました。そして天儀の人全員が、王様がカツラだということを知ってしまいました。
 王様は恥ずかしさのあまり死んでしまいました。

 ――と、これは子供向けの寓話だ。実際に天儀の井戸が全て繋がっているわけもなく、自分の身かわいさに他人を脅すものではない、という戒めも含まれている。
 そんな話は置いといて。
 街の外れに一つの井戸がある。もちろん天儀の井戸全てに通じているのではない。既に枯れて数十年が経とうとしている。それを利用する人間はいない、はずだった。
「くぅう〜〜! あの野郎いつもいつもこき使いやがって!」
 悪態をつきながらその場所に現れたのは一人の若い男だった。ある貿易商の紋が記された羽織を着込んでいるこの男、その店で働く使用人だ。
 主人からはこき使われ、客からは腹いせも同然の苦情を持ち込まれ、使用人の精神はごりごりと磨耗していた。
 そんな彼の鬱屈解消法は枯れ井戸の中に悪口を叫ぶというものだった。
「あの毛根死滅野郎、人を道具みたいに扱いやがって! 後頭部に少し残ってる白髪もぶち抜くぞ!」
 毛根死滅野郎、とは店の主人のことだ。その他にも「厚化粧ばばぁ」や「脳みそ空っぽ女」など、客の悪口もずらずらと飛び出てくる。
 もしも誰かが聞いていたら、眉をひそめるだけではすまないだろう。
 使用人も誰もいないと信じているので井戸の中に叫んでいる。
 ――しかし。その暗闇に潜むものがいたとは誰が思うだろうか。



 今日もいつものように枯れ井戸に向かった使用人だが、その周囲に人だかりが出来ているのを見つけてしまった。これでは人目をはばかった行動が出来ない。
「何かあったんですか?」
 通りすがりを装い、数人でかたまっていた主婦に話しかけてみた。喋りたがりである彼女は快く何があったのかを語りだした。
「実はね、この井戸の底から声がしていたの。子供が間違って落ちたのかなって思って慌てて人を呼んだのよね。男の人が梯子で降りていったんだけど、そこにいたのはもふらだったの」
「へ、へえー‥‥」
「もふらって精霊力が集まると生まれるんでしょ? もしかしたらこの井戸、また使えるようになるのかもねぇ」
「そ、それはいいことデスネ‥‥」
 ちっともよくない。これで鬱屈晴らしの方法を一つ失ったのだから。
 いや、もっと大事な問題がある。もふらは人語を理解する。おまけに喋る。
「つ、つかぬことをお尋ねしますが、そのもふら‥‥何かおかしなことしゃべってませんでした?」
「あら、よくわかったわね! なんか助けてくれた人に向かって毛根死滅野郎なんて言ったのよ。いくら神様でもひどすぎるわよねぇ。でも本当のことだから仕方ないのかしら!」
 主婦達はどっと笑った。ははは‥‥と使用人も作り笑いを浮かべた。
 井戸の中で叫んだ言葉の中には、聞く人が聞けば該当者がわかる言葉もある。
 更に、仕事上絶対に洩らしてはいけない事も叫んでしまった。
「あ、あの‥‥そのもふらどこにいますかね?」
「知らないわよ? 助けたあとにどこかにいっちゃったみたい」
 俺の人生終わった!
 使用人は頭の中で叫んだのであった。


■参加者一覧
遠藤(ia0536
23歳・男・泰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
金津(ia5115
17歳・男・陰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
獅子王 燥牙(ia5574
18歳・男・サ
由里(ia5688
17歳・女・シ
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
奈良柴 ミレイ(ia9601
17歳・女・サ


■リプレイ本文

「た、助けてくださひぃ〜! あのもふらが旦那や客のとこに行ったら、俺は、俺はぁッッ!!」
 顔の穴という穴から液体を出しながら使用人は金津(ia5115)に縋りついてきた。
「うわっ汚い! ボクは別にあなたがどうなろうとどうでも良いのですよ!」
「そ、そんな‥‥!」
 使用人が燃え尽きた戦士のように膝をつく。思わず出た金津の本音は痛すぎた。
「おもいっきり鬱屈解消できるからって、誰かが聞いたり見たりしてるかわからないのに〜」
「ストレス発散で悪口言うとロクな事がねぇって事だな。くわばらくわばら」
 由里(ia5688)と獅子王 燥牙(ia5574)の言葉に奈良柴 ミレイ(ia9601)も「うむ、その通りだな」と同意する。もうやめて! とっくに使用人の生命はゼロよ!
「自業自得やが‥‥おっと、いっちょがんばるかね」
 斉藤晃(ia3071)が追撃をしそうになるが、なんとか言い改めた。
「まあまあ、顔を上げてください。まずは誰の悪口を言ったのか特徴を教えてもらえませんか? 出来るならもふらの特徴も教えてもらいたいんですがね」
 遠藤(ia0536)の言葉に救世主を見た! と使用人が顔を上げた。
「ぐすっ、もふらの特徴はわからないけど‥‥」

 そして使用人が語りだして一時間後。

「‥‥それであの糞ババァ、色が気に食わないから金を払わないとか言いだして!」
「あ、あはは、ソーデスカー」
 あれ、おかしいな、なんで俺はこの人の愚痴を聞いているんだろう、と遠藤が思い出そうとするがなぜかわからない。返事もおざなりだ。
「ここが例の井戸だね?どれどれ中はどうなってるかな‥‥」
 とっくに愚痴大会から離れていた朱麓(ia8390)が井戸の中を覗き込む。枯れ井戸であったらしいが、じっとりとした空気が朱麓の頬を撫でていった。
 しかし井戸の中は仄暗く、奥に至ってはどこまで続いているのか見当もつかない。
「やっぱりこのままじゃ無理さね‥‥えいッ!」
 心眼を湛えた朱麓が再度井戸の中を覗き込んだ。
「誰かいたか?」
「‥‥いないッ」
 燥牙の問いに朱麓は短く答え、井戸の中を覗き込んでいた身をがばっと起こす。
「自分で出れない様なところに生まれるのが、なんていうかもふら様らしいわね‥‥」
 しみじみと設楽 万理(ia5443)が呟いた。
「でもやっぱり手分けして探すしかないのかしら?」
「そうですね、分断して探しましょう!」
 万理の言葉に遠藤が力強く同意した。過去を振り返るのはやめたらしい。
「あ、あのまだ情報が足りないんじゃ‥‥」
 話をいきなり中断された使用人がまだだまだ足りぬと目で訴えてきたが。
「いりません」
「まったくもって」
「あんまりしつこいと帰るかんな?」
 ザクザクザクッ!
 万理と由里と燥牙の連撃が使用人の心にかいしんのいちげきを与えた。
「ぐはっ‥‥」
 使用人が密かに「あー俺の涙を拭いてくれる依頼を出そうかなー」なんて考えた。もちろんそんなものを請け負う開拓者は、いない。



 もふらをもふもふと愛でる会
 もふらをとことんまでもふもふと愛でる会の事だ。発足したのはついさっきなんだけど。
 金津と朱麓の二人は開拓者ということを隠し、「口の悪いもふら」をさがす愛好団体のふりをしている。ちなみに一緒にいる斉藤は手伝いということになっている。
 もふら牧場ではもふら達がじゃれまわっていたり、ごろりと昼寝をしていたり、かと思えば餌をもふもふと頬張っていたり‥‥とにかくもふもふ彼らなりに忙しそうだ。
「あっちにもふら、こっちにももふら。もふらがいっぱいでもふふふ‥‥」
 もふもふ、ふふふ‥‥と怪しげな含み笑いをしている朱麓。人間が近寄れば何匹かは餌をねだりに寄って来そうなものだが、今は遠目に様子をうかがっている。
「お、落ち着いてくださいっ! って、あぁっあのもふら、ぶち模様でかわいいっ!?」
 ぶちのもふらが「なにもふ?」と小首を傾げながら金津を見つめてきた。
「ようわからんが‥‥そんなことしてる場合かのう」
 アゴの髭をつまみながらぽつりと呟いた斉藤に。
「もふらの愛らしさがわからないのかいっ!?」
「そうですっもふらの可愛さを理解するべきですっ!」
 朱麓と金津がぐわっと詰め寄った。大の男であるはずの斉藤が後ろ足を踏んでしまう。
「いや、そないに言われても‥‥」
「おじさんいい匂いがするもふ」
 能天気な第三者の声は、いつの間にかそばに来ていたぶちのもふらだ。
「おお、もふらが喜ぶかと思ってもってきとったわ」
 斉藤が懐から掌に納まるくらいの小振りの袋を出した。中にはジルベリア風の焼き菓子があるらしい、それの匂いを嗅いだぶちもふらがきらきらと瞳を輝かせた。周囲にいたもふらも「お菓子もふ?」「ぼくにもよこすもふ!」とわらわら集まってきた。
 何匹いるのだろう。尻尾のもこもこのせいで数えにくい。とにかくもふもふだ。
「は、はうぅ、もふもふがもふもふがいっぱい‥‥もこもこもふもふ〜‥‥」
 一時は立ち直った朱麓が立ちくらみを起こした。後ろから金津が支えているものの、彼自身も「も、もふもふが一匹、もふもふが二匹‥‥」と我を失いかけている。
「今朝一匹のもふらがきたとおもうんやけど、わからんかね?」
 クッキーに群がるもふらたちに斉藤が問いかけてみた。
「今朝もふ? 忘れたもふ。そんな昔のことは覚えてないもふ!」
「それよりもっとくれもふ」
「よこすもふ」
 もふもふと斉藤に詰め寄る一部のもふら達。だがこれ以上何も持ってないことを知ると「何ももってないもふか。へッ!」と砂をかけて去っていった。まるでチンピラだ。
「‥‥あれでも愛らしいかのぅ‥‥」
「うーん‥‥」
「まぁ、もふらですしね‥‥」
 いくらもふらでも許されないムカつきがそこにあった。



「うちの旦那、帰ってきてからずっと部屋に閉じこもっちゃってて‥‥おーいあんた、お客さんだよ。いい加減でておいで」
 ある長屋の一室を燥牙が尋ねると、出てきたのは主人でなく恰幅のいい主婦だった。主人に用があることを言うと、彼女は奥の部屋へと声をかけた。
「‥‥いいんだ、俺は神様にさえバカにされるほどの毛根死滅野郎なのさブツブツブツ‥‥」
「いい加減におし! 今までデコが広いだけなんだって誤魔化していたからそんなこと言われたんだよッ!」
 いい加減頭に来たのか、主婦が男を無理矢理フスマの奥から連れ出した。
「えーと‥‥」
 どう話しかければいいものか。話を聞きにきたはずなのに燥牙はいきなり帰りたくなった。
 奥から出てきた男の毛根は確かに少ない。が、間違いなく店主ではなかった。
「あんたもふらを助けた人? どんなもふらか覚えてる?」
「どんなって‥‥これくらいの大きさで‥‥」
 これくらい、と男は手で大きさを表した。今の季節のカボチャくらいだろうか。
「やっぱ小さいかー。生まれたばっかぽいしな」
「そして俺の事を毛根死滅って‥‥うわぁあああああん!!」
 思い出したのか、涙が溢れてきた男は再びフスマの奥へと閉じこもってしまった。「あんた仕事はどうするんだい!?」「いいんだ! どうせ仕事の仲間も心の中でハゲだ無毛だってバカにしてたんだよぉ!」と玄関にいるはずの燥牙を無視して、夫婦は家庭危機の修羅場を始めてしまった。
「これは‥‥早く見つけないととんでもないことになりそうだ‥‥」
 冷や汗がたらりと燥牙の額を流れていった。



「あ、すいませ〜ん!」
「あら、なぁに?」
 井戸端で会議でもしていたのか、主婦数人がその声に振り返った。
「あのぅ、ここらへんに雑貨屋ってありますか?」
「雑貨屋なら串松屋さんがあっちにあるけど‥‥」
 主婦達の視線が道を尋ねてきた女性に集中する。女性の腰にはもふらのぬいぐるみが二つ、頭にはもふらの面。どこからどう見てももふら好きのおねーさんだ。
「あなたってもふら好きなのねぇ」
 しみじみと主婦も呟いてしまう。
「分かります? そうなんですよ〜」
 やった、ともふら好きの女性、実は万理であるのだが、彼女は心の中でほくそ笑んだ。しかし。
「そうそう、もふらといえば、豆腐屋さんの白もふ君がねぇ」
 お喋り大好き主婦はその後、白もふ君がどんなにいい子で愛らしいかを語ってくれた。
「わ、私急いでますからッ! 白もふ君の話はまた今度ッ!」
「あらそう、残念ねぇ」
 まだまだ喋り足りなさそうな主婦達が立ち去る万理を見送った。
「こっちには来てないのかしら‥‥」
 仕方ない、と街にいるもふらのところに行くことにした万理だった。



「なあ、あんた達。少し教えてほしいことがあるんだが」
 ミレイが街の片隅で玩具を突付きながら遊んでいる子供達に話しかけた。
「なぁに〜?」
 外野として眺めていた子供が一人ミレイの側へと寄ってきた。
「この街で暗くて狭い場所がどこにあるのか知っているか? 教えてくれたら駄賃をやろう」
「ほんと!? おーい、このおねーちゃんが暗くて狭い場所教えてくれたらお小遣いくれるってー!」
「まじでー!?」
 玩具の戦いにかじりついていた子供達も小遣いという言葉に手を止め、わらわらと集まってきた。
「暗くて狭いっていったら街の堀だよな。板張ってるけど俺たちなら中に入れるぜ」
「串松屋の裏に空家あんじゃん? ごみばっかだから暗くて狭くなってるよ」
「家の押入れ暗くて湿ってるよ‥‥たまには布団干してくれよ母ちゃん‥‥」
 一部関係のない情報も得てしまったが、手に入れられる情報はこんなものだろう。
「ありがとう。これは礼だ。これで新しい玩具でも買うといい」
 ミレイが財布から百文程取り出し、子供達の中の一人に手渡した。
「よーし、コマ買いに行こうぜ!」
「えー! 俺腹減ったから饅頭がいいよ!」
 わぁわぁと騒ぎながら子供達は街へと消えていった。
 微笑ましい光景だが、いつまでも見送っているわけにはいかない。
「さて‥‥」
 教えてもらった場所に行くとするか、とミレイも街へと赴いた。



「うーん、見つからないなぁ‥‥」
 口の悪いもふらを探して街を彷徨っているものの、特に重要な手がかりを得られていない由里だった。
 もふら牧場にも足を伸ばしたが、もふら達は由里が話しかけても、もっふもふと気ままに遊んで情報どころではなかった。
「もふら君いるかな〜?」
 荷台の下などを覗き込んでみるが、犬が欠伸をしながら寝そべっているだけだ。
「あ、由里殿。そちらはいかがですか?」
 知った声が由里の名前を呼んできた。
「遠藤さん!」
 同じように街で聞き込みをしていた遠藤だった。その表情はあまりうかんでいない。
「えっともしかして遠藤さんも?」
「ええ、どうやら同じように手がかりゼロのようですね‥‥」
 同時に溜息をつく二人だった。
「でも口の悪いもふらなら噂の一つにもなってると思うんですよー」
「ええ、先程燥牙殿に会って話を聞いたのですが、助けた方は依頼人の主人とは違うようです」
「じゃあ今もどこかで誰かに悪口を言ってる可能性も‥‥」
 そんなことを由里が口に出した時だ。
「ぎ、ぎえぇええ!! 厚くないわよ、普通の化粧よ! 神様だからってなめんじゃないわよぉお――ッッッ!!」
 野太いが確かに女性である怒声が響いた。
 由里と遠藤は顔を見合わせ、そちらの方向へと走り出した。
「お、奥さん落ち着いて! 別にいつもお面みたいだなぁなんて思ってないから!」
「思ってるのね!? いいわ、もうこの店では買い物しないから!」
 白面かと思うほどの化粧をした女性が、勇ましい足でその場からどすどすと立ち去っていた。店の店員が「うぅ、お得意さんだったのに‥‥なんでもふらがあんなこと‥‥」と打ち沈んでいた。
「あのぅ、もしかしてとは思いますが、口の悪いもふら、いたんですか‥‥?」
 店員に恐る恐る話しかけてみる由里。
「そうなんだよ! 小さいもふらがやってきて『あらかわいいわねぇ』て、あの人が抱っこしたんだよ。そしたらあのちびもふら‥‥『厚化粧ばばぁ』って‥‥!」
 そして不況の高波が押し寄せている店員は「お得意様が‥‥お世辞さえ言ってればなんでも買ってくれるお得意様がぁ‥‥!」と地面に泣き伏した。
「そのもふら、どこに行ったかわかりますか?」
 またも愚痴を聞かなければならないのかとうんざりしながら、遠藤は店員に尋ねてみた。
「もふら? ‥‥さっきの客が蹴り飛ばそうとしたから押さえてたんだけど、その間にどっか行ったみたいだよ‥‥」
「どうかしたのか?」
 店員が依頼人のように愚痴をこぼそうとしたが、横から話しかける声があった。話しかけてよかったのかと当惑しているミレイだ。
「もふらはいたのか?」
「それが‥‥」
 店員をすぐに放置した二人は、かくかくしかじかと事の顛末を話した。
「そうか‥‥俺はこの店の裏に空家があると聞いてな。その空家はごみだらけで暗くて狭いんだそうだ」
 ミレイの言葉に由里と遠藤の二人は顔を見交わせた。



 開拓者達は改めて合流し、再度空家の前へと集結した。
 念のために朱麓が心眼を使う。
「いるね、ちっこいのが一匹。何かの上で寝てるんじゃないかな」
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
 細身の体とシノビという職を生かし、由里は転がるタンスや机の上をひょいひょいと進んでいった。
 やがて、一つの棚の中ですやすやと眠る子もふらを発見した。
「起こさないようにっと」
 そっと抱きかかえ、由里が仲間達のところに戻ってきた。丁度その時、子もふらの瞼がぱっちりと開き、覗き込んでいた遠藤と目があった。
「もーこんしめつやろー?」
 純粋な瞳と愛らしい声なのに、その言葉は辛辣極まりない。
「‥‥毛根死滅野郎ですか、そうですか」
「ちがうもふ?」
「一応、断っておきますが、俺の場合は死滅ではなく剃っているんですよ」
 にっこりと遠藤は微笑むが、若干引きつっているような気がしないでもない。
 開拓者達は子もふらを抱え、依頼主の下へと行くことにした。



 さて、子もふらであるが。
 もふら牧場の方で教育されることになった。言葉遣いは直るだろうが――まぁ、もふらであるからして。
 そして依頼人は――。
「くそぉ、あのハゲのばかやろぉッ!!」
「おお、飲め飲め。皆で飲むのは楽しいからなぁ」
 斉藤が依頼人のお猪口に酒を注ぐ。がばっと飲み干し「もう一杯!」と要求していた。
「井戸なんかにいうよりは酒でものんですっきり愚痴った方がえんちゃうか?」
「まったくだ! バカやろー、全世界のバカやろー!」
 わけのわからない酒の席はおいといて。少し遠くの席では。
「私、持っている干飯全部食べられたのに、ろくな情報得られなかったんだけど‥‥」
「あたし達んとこも似たようなものだったさね」
 万理と朱麓がしみじみと杯を交わしていた。
「もふらって‥‥」
 本当に可愛いのだろうか。
 その疑問に答えるものはいない‥‥。