理由なき蹂躙
マスター名:天音
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/09/10 11:31



■オープニング本文

●蹂躙
(「なんで‥‥どうして」)
 武(たける)は震えながら床下に隠れていた。突然村の入り口が騒がしくなったかと思うと、父ちゃんに床下に押し込まれたのだった。
「またあいつらが来た‥‥!」
「ついこの間、来たばかりなのに‥‥」
 父ちゃんと母ちゃんの悲鳴に似た声が聞こえた。村の入り口に近い方の家からは、すでに怒号と悲鳴が聞こえてきていた。武はぶるっと大きく震えた自身の身体を抱きしめ、暗い床下でじっとしている。
「あなたも隠れなさい! 若い娘がいるってわかったら‥‥」
「なーに俺達からお宝を隠そうとしているんだ?」
「「!?」」
 母ちゃんが姉ちゃんを隠そうとした所に、その低い声が割り込んできた。姉ちゃんは十六。武と同じ床下に隠れるのは少し難しい。だからこの間奴らが来たときは、畳んで積み上げた布団の裏にかろうじて隠れていたのだ。だが今日は間に合わなかった。
「お願いします、娘は、娘には触れないでください! 食料も、少しですがお金も差し上げますから!」
「邪魔だ、どけっ!」
 父ちゃんの懇願する声と、何かが壁にぶつけられる音と。
「良くみりゃこんなでかい子供がいるにしちゃあ随分と別嬪さんだな、奥さん」
 母ちゃんと姉ちゃんの悲鳴と。
 ドスドスと、床を踏みつける男の足音と。
 衣服を切り裂く音と――父ちゃんの、涙のこもった声と。
 人を殴りつける音と怒声と。
 そして――母ちゃんと姉ちゃんの泣き声と、村の中に満ちる悲鳴と――。
 武は、床下の暗闇の中で息を殺してじっと、じっとしていた。
(「どうして、どうして――開拓者は、志士様はアヤカシから僕達を守ってくれるんじゃなかったの?」)
 何故あいつらは村を襲うのだろう。食料を、金品を奪い、女を襲っていくのだろう。
(「『村を守る志士様に、食料と金品を差し出せ』なんていってたけど、あいつらはちっとも守ってなんてくれない。村を苦しめているだけじゃないか‥‥!」)
 なのに、村の誰も逆らえない。逆らわない。逆らえば、もっと酷い仕打ちが待っていることがわかっていたから。最初こそあいつらの言う事を信じていたけれど、もうあいつらがただの強盗と何の変わりもないことは、誰から見ても明らかなのに。
(「どうして大人たちは、あいつらをやっつけようとしないの?」)
 どのくらい時間が経ったのか、怒号は過ぎ去り、後は人々のすすり泣く声だけが村に残った。

 その晩、武の姉は村の裏の木で首を吊った。

 翌朝変わり果てた姉の姿を見た武は、村を走り出た。
 誰もやろうとしないなら、自分が助けを求める、と。


●志士と偽士
 馴染みの開拓者が、子供を拾ってきた。どうやら街の入り口で行き倒れていたのを見つけて介抱しようとしたところ、しきりにギルドへと行きたがったのだという。
 十歳位のその少年は服も身体も汚れていて、遠くから歩き通しだったのか足は素足で傷ついている。
「一体どうしたの、子供が一人、こんな姿でギルドに助けを求めるなんて」
 座らされて壁にもたれかかった少年は、受付係から水を受け取ると一気に飲み干し、そして武と名乗った。
「‥‥教えて。志士は、開拓者はアヤカシから僕達を守ってくれるんじゃないの‥‥?」
「何があったの? 教えて」
 その言葉に受付員はすっと目を細め、そして事情を問う。
 武の村に志士を名乗る十数人の団体が現れたのは約二ヶ月ほど前。最初は村をアヤカシから守る代わりに食料や金品を要求していた。次第にその間隔も狭まっていき、そして女を差し出すように求めるようになった。その上、村を荒らしていく事が増えたという。
「村の女の人は順番に連れて行かれるし、この間は姉ちゃんと母ちゃんが‥‥連れて行かれはしなかったけど‥‥家で‥‥」
「わかったわ」
 受付員は硬く目を閉じて、そして武の頭を撫でる。
「恐らく奴らは志士の名を騙っている偽者よ。偽士(ぎし)と呼ばれているわ。奴らの行動は色々あるけど‥‥武君の村で行っていたのは、本当に強盗や盗賊と変わりないわね‥‥」
「じゃあ、本物の志士様とは関係ないの?」
「中には志体持ちがいることもあるけど‥‥偽士と一緒にされたらそれこそ志士が怒るわよ」
「村を、助けてくれる‥‥?」
 武の縋るような瞳に、受付員は頷いて。
「開拓者を募ってみましょう」
 机に向かうと、紙と筆を手に取った。


■参加者一覧
香椎 梓(ia0253
19歳・男・志
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
那木 照日(ia0623
16歳・男・サ
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鳳・月夜(ia0919
16歳・女・志
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
犬神 狛(ia2995
26歳・男・サ
神無月 渚(ia3020
16歳・女・サ


■リプレイ本文


 今回の相手は志士を騙り、無辜の人々から搾取を続けている悪者達だ。その話を聞いた開拓者達の怒りは、最高潮に達している。
「この怒り、言葉で表すことも叶いません」
 そう言ってからきゅっと唇を引き結んだのは志藤久遠(ia0597)。志士として、その名を騙る者への、そして残虐非道の限りを尽くす者達への怒りはいかばかりか。
「志士の名を騙って賊の真似事とは‥‥。もし志体持ちが力を悪用しているとあれば、許しがたいことです」
 同じく志士の香椎梓(ia0253)が優しい表情を若干険しくして、ため息を吐くように告げる。
(「志士として、偽士の所業は許せない」)
 小さく拳を握り締めた鳳・月夜(ia0919)は、顔を上げて前方に見えてきた村影を視界に入れた。
「‥‥クズ共と勘違いされたままでは、今後に関わる。雑魚など斬っても面白くはないが、志士を騙った報いは与えねばなるまい」
 村人達は偽士達の所業によって、武の様に開拓者に不信感を抱いている可能性が高い。柳生右京(ia0970)の言う通り、一緒にされては迷惑な話だ。
「偽士なんて巫山戯た真似をしてる輩にはキツイ仕置が必要ですねぇ」
(「偽士か‥‥久々に容赦無く斬る事が出来る相手のようじゃな」)
 神無月渚(ia3020)の言葉に犬神狛(ia2995)は心中で頷いて。
「落伍者の成れの果てか、ただの騙りかは知らないけど、こんな馬鹿は目障りだから始末しなきゃ」
 葛切カズラ(ia0725)が一歩、踏み出して。
「あたしも昔、夜盗に襲われそうな所を助けてもらった事あるし、こういう連中は全員殲滅しないと」
 力強く告げる霧崎灯華(ia1054)の顔には、笑みが浮かんでいた。
(「強いアヤカシ退治もいいけど、こんな馬鹿な奴らを全力で血祭りにするの楽しそうだわ♪ ‥‥つい笑みが出ちゃう」)
 きゅっと意識して表情を引き締める。
(「善とか悪とか、『俺』にとってはどうでもいい。だが自らの成した責任を負う覚悟も無く、他人の立場に乗っかる阿呆は‥‥」)
 怒りに燃える心を冷静さで抑えている青嵐(ia0508)は、いつもと違って式神人形を介さず自身の口を開く。
「その身を持って、償ってもらおうか」
 それが彼の怒りの表れ。
 それぞれ普段とは違う激しい怒りを帯びた開拓者達は、村人を怯えさせないようにと注意しながら村の中へと入って行った。



「あの‥‥私達は、武に話を聞いて来た開拓者ですっ‥‥。この村を襲っている奴らは、偽士といって、志士ではありませんっ‥‥!」
 武が帰ってきたと聞いて姿を現した村人達は何処か怯えた様子だ。那木照日(ia0623)が必死に事情を説明し、偽士の存在も知らせる。それでも不安げな村人達に対し、灯華が口を開く。
「一人残さず倒す為にも、偽士達の人数や人相とかを教えて欲しいの」
「連中の来た方角、その方角にある馬鹿が屯って塒にしそうな場所とかも解ると助かるんだけど」
「攫われた娘達の人数もわかると助かるのう‥‥」
 カズラと狛の言葉を聞いて、村人達は互いに顔を見合わせて。そして一人が代表しておずおずと口を開く。
「‥‥本当に、わしらを奴らの支配から救ってくださると‥‥?」
「その為に私達は参りました。信じていただけませんか?」
 久遠の真摯な瞳と申し出に村人達は、答えを求めるように一箇所に視線を集めた。そこに立っていたのは老人。村長だろうか。ここの村人に共通して言える事だが、疲れ果てた顔をしている。
「‥‥わかりました。あなた達を信じましょう」
 承諾の言葉を受けて久遠は礼を述べ、梓は村長の顔を静かに覗きこんだ。
「辛い思いをされましたね。安心して暮らせる生活を取り戻しますので、もう少しご辛抱を」
 その優しい言葉に、集まった村人達からすすり泣く声が聞こえてきたほどだった。恐らく想像を絶するほどの酷い扱いを受けてきたに違いない。
 改めて偽士共への怒りを募らせつつ、十人の開拓者達はそれぞれ奴らを待ち受ける準備へと入った。



 辺りを闇が覆い始めて村人達が家の中で火を焚き始める頃、奴らは村の西の方角から現れた。民家を借りてそれぞれ潜んだ開拓者達は、隠そうともされていないその気配を感じつつ、時を待った。
「おーら、志士様が来てやったぞ! 食い物と女を差し出せ!」
 どがっ‥‥木製の戸を勢い良く開き、西側の入り口に近い家から順に男達が略奪へと繰り出す。
「きゃっ‥‥お願い、乱暴はよして」
「んー、こないだは見なかった女がいるな。さては村の奴ら、隠してやがったな?」
 人畜無害な怯える女性を演じるカズラが声を上げると、ぼさぼさの頭に着物をだらしなく着崩した偽士達が目の色を変えて食いついてきた。その民家にはカズラの他に灯華と久遠が壁を背に怯えるようにしている。
「おとなしくしてりゃ、悪いようにはしねぇよ」
 にやにやと下卑た笑いを浮かべながら民家に入ってきたのは三人。女一人につき一人の計算なのだろう。
「‥‥数々の暴虐、もう我慢、できません‥‥!」
 そんな中立ち上がったのは久遠。慣れない武器を引っ張り出して抗おうとする女を演じるため、ぎこちなく構えた武器は震えている。予定通り、それを見た偽士は怯えもせずに、むしろ愉しそうに笑って彼女との距離を縮める。
「慣れないもの持ち出すと、怪我するぜ、嬢ちゃん」
「ほら、こっちの嬢ちゃん達みたいに大人しくしていたらどうだい?」
 がばっ‥‥欲望任せてカズラと灯華に襲い掛かる偽士達。きゃー、と叫び声が聞こえたのも一瞬の事。次の瞬間聞こえてきたのは――
「キャー、助けて! ‥‥なんてね。楽しい死舞を始めましょ♪」
 服に縫い付けた陰陽符を素早く取り出した灯華が呼び出した眼突鴉が、彼女に襲い掛かっていた偽士の瞳を至近距離で狙ってつつく。
「馬鹿ね」
 カズラの使った斬撃符が、偽士の下半身を切り裂く。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「何!?」
 突如上がった仲間の叫び声に一瞬気をとられた偽士を、久遠が槍で突き刺す。それは「慣れない武器を手に取った者」の繰り出す一撃ではなく、貫かれた脇腹に触れてゆっくりと、偽士は久遠を振り返った。
「な‥‥に‥‥?」
「動けなくなるまで容赦はしません」
「ちょっ‥‥まっ‥‥」
「降伏は無視、慈悲を請う無意味は知っているでしょう?」
 久遠は狭い家屋の中で槍を突き刺すようにして偽士を追い立てる。カズラが急所を押さえて蹲った偽士の手足を狙って式を繰り出す。その口から漏れる命乞いの言葉に、冷たい瞳を返して。
「命も貞操も奪うのは良くて奪われるのは嫌なの?」
 後で情報を引き出す為に殺さないように注意しつつも、カズラの符は偽士を襲い続ける。
「キャハハハ、面白いこと言うわね。あんた達が襲った人達も同じような事言ってなかった? その時あなた達はどうしたの? つまり、そういうことよ」
 瞳から血を流して床を転がりまわり、命乞いを続ける偽士に、灯華は呼び出した漆黒の鴉をけしかける。
(「やっぱ鮮血が出るのは快感だわ♪」)
 にやり、口元に笑みを浮かべたが、目を潰された偽士には見えまい。


「よし、めぼしい物は片っぱしから奪え」
「女がいるぜ。どうする?」
「時間を忘れない程度に遊んでおけ」
 偽士が乱暴に戸を開けた家には梓と渚、狛がいた。偽士は渚に目を留め、いやらしい表情で近づく。
「じゃあ、私と遊ぼ? すぐに壊れないでねぇ?」
 ゆらり、近づいた渚が刀を一閃する。相手に驚く間を与えぬように、入り口へと間合いを詰めた梓と狛が二人の偽士を斬り付ける。相手は三人。
「暇ならばわし等が相手になってやろうか‥‥?」
 事態を把握する間もなく膝を突いた偽士を踏みつけ、狛は見下ろす。誰何の声に、つ、と答えて。
「ギルドより派遣された者じゃ、貴様等をこの村より排除する。大人しく消え失せるか、それとも斬り捨てられるか、選ぶが良い‥‥」
 普段は穏やかな性格の狛が淡々と抑揚のない声で告げる。そこには秘められた怒りがあった。
「犠牲になった人と同じ苦しみを味あわせてあげましょう。苦しいのなら自らの手で果てるといいですよ。生まれてきたことを後悔するがいい」
 村人は苦しんで死んでいったのに、あっさりと簡単に殺してしまうのは惜しい――梓は武器に炎を纏わせた上で、偽士の手足を狙う。情け容赦? そんなもの、必要ない。
「ねぇ、あなたはどんな声で謡ってくれるの? 聴かせてよ」
 歪に笑う渚になぶるように斬られ続ける偽士は、反撃を試みて刀を抜く。だがかすった刃は渚の嗜虐心を掻き立てるだけだ。
「嗚呼、この死際の血の匂い、今際の悲鳴、もっと‥‥もっと私に感じさせてよぉ! あはははは!」
 狭い屋内に、血の匂いが満ちていく。


「流れの人形師? 旅人なら金持ってるだろ。まさか無一文じゃあるまい」
「ああ、その芸を頭に見てもらうのもいいんじゃねーか? 退屈してるみてーだし」
「そうだな、頭は俺たちと違って村で楽しめるわけじゃねーしな。よし、来い」
 民家に押し入って来た偽士達に連れられ、青嵐は家を出た。そして大人しくその後をついていく――長く伸ばした前髪の下の瞳は、攻撃する隙を狙っていた。
 相手は四人。だが近くて仲間が様子を覗っているはずだった。
「殺戮の宴‥‥血の雨が降る」
「‥‥迎撃。容赦しない」
 横から現れた右京が右足を踏み込むようにして偽士を斬り付ける。逃げられぬように右後方に回った月夜が、全力で斬りかかる。
「いき、ますよ‥‥!」
 前方から照日が、二刀を持って迫った。事態に気づいた偽士達が、刀を抜いて応戦の構えを取る。
「この際、容赦という言葉は忘れよう‥‥只で帰れると思うな」
 青嵐の手から飛んだ斬撃符が偽士の背中を切り裂く。うめいて膝をついた偽士の頭を、彼はおもむろに掴み上げて。
「さぁ、償いの時間だ。冥府で閻魔に対する申し開きの台詞でも考えておくんだな」
 零距離からの斬撃符が、その頭を切り裂いた。
「‥‥ぬるい」
 いくらかかすりはするものの、偽士達の実力はそう高くなかった。この中には志体持ちがいないのだろうとふんで、右京は目の前の男を斬り捨てる。一人も逃さぬように、月夜が、照日が容赦なく血の雨を降らせる。
 命乞いの声が夜空に響き渡る。民家から漏れ出した灯りが、血の赤を照らし出していた。



 一応生かしておいた偽士からアジトを聞き出した一行は、その場所へと向かった。村に来た偽士だけを倒しても、まだアジトに偽士がいれば同じ事が起こる可能性がある。いや、仲間を殺された仕返しとして村人が今以上に酷い目をみることは想像に難くはない。故にアジトを探し出す事は必須であった。
 見張りに立っていた二人を、連携で素早く仕留めた後、洞穴へと入る。
「何があったん‥‥ぐあっ!?」
 奥から姿を見せた男に、容赦なく久遠の槍と右京の刀が突き刺さる。
「奥からも来た。皆、朱で染めてあげる」
 渚がにやり、笑む。
 地面に落ちた松明の炎は、男達の身体から吹き出した血に揺らぎながら洞穴を照らしていた。
「貴様等も志士を名乗っておったなら‥‥斬られる覚悟ぐらいしておったのじゃろう‥‥?」
 狛の冷たい声が、刀身を照らす炎と共に洞穴に染み渡る――。


「大丈夫、助けに来た」
 洞穴の奥、壁に括りつけられた松明で明るく照らされているそこには数人の女性の姿があった。月夜の言葉にびくっと身体を震わせる女達。誰もが憔悴していて、誰もが怯えていて、衣服も乱れていた。
「あわわっ‥‥!」
 乱れた衣服の部分に目がいってしまい、照日は顔を隠して身体をの向きを変えた。その彼の耳元に梓が囁く。
「聞いていた女性の数と一致しません。少ないですね」
「奥に何人か寝かされているような、影が見えましたから、もしかしたら‥‥」
「――」
 照日の言葉に梓は少し考え込んだ。この状態で眠っているとは考え辛い。もしかしたら何らかの事情ですでに息絶えた女性がいるのかもしれない。
「本当に助けに来たっていうの?」
 中でも一番手前にいる女が、気丈にも言葉を放った。衣服は乱れているが、何処か落ち着き払った様子に見える。
「あんたが馬鹿の親玉? 一人だけいいもの着てるみたいじゃない」
 衣服に着目していたカズラが毒蟲を放った。それはかわされてしまったが、その行動で彼女の指摘が正しいと証明したことになる。
「一人だけ、目が死んでないな。落ち着きすぎだ」
「志体持ちってあんたのことかな?」
 青嵐と灯華が指摘と同時に攻撃を繰り出し。月夜と梓、照日は素早く動いて女偽士と被害者の女性達の間に入る。
 彼らの予想は当たっていた。偽士の仲間に女がいるかもしれない、被害者の女と混ざって逃げおおせるかもしれない――それを想定していたから、後手に回らずに済んだ。
 しかし後方から追いついた右京が、素早く間合いを詰めて一撃必殺を狙う。
「私自身は村の為という訳ではない‥‥が、今後お前達のような連中は何かと邪魔になるのでな」
 刀が閃き、女偽士の口からごぼ、と血の塊が零れる。女性の保護に回った三人は、彼女達にその瞬間を見せないように視界を遮って。
「これで終わりじゃのう‥‥」
 狛の強い一撃が倒れかけた女偽士を吹き飛ばし、壁に激突させた。
 ずるずると壁に背を擦り付けて倒れこんだ女偽士は、もう動かなかった。



「ずいぶんと溜め込んでたみたいだね」
 何か村から奪われた品の代わりになるものはないかと物色していた灯華は、偽士達が溜め込んでいた食料や金品を見つけた。
「少しは、足しになるかもねっ」
 後ろから覗き込んだ渚と共に、それらを村に持っていくことに決める。
「このような事にすら、被害が起きてからしか動けぬとは。全能ならざる身が疎ましい時もあります‥‥」
 被害者の女性達の衣服の乱れを直してあげながら告げる久遠に、女性の一人は首を振った。
「いえ、それでもここから生きて出られることが‥‥僥倖です」
 彼女の言葉に梓と照日がつ、と洞穴の奥に寝かされている女性達を見た。彼女達は暴行を含むここでの生活に耐えられずに命を落とした者達だという。偽士達の話によればこの後、近くの川に捨てられるところだったとか。
「遺体でも、帰して上げたい」
 月夜の短い言葉には未だ偽士達に対する怒りが満ちていて。
 遺体が捨てられてしまう前でよかったのか、もっと早く助けに来れればよかったのか――そんな思いも沸くが、いくら急いでもこれ以上は彼らにはどうにもならなかっただろう。彼女達が亡くなったのは少なくとも三日は前だという話だから。
「帰ろう」
 誰かが、呟いた。
 歩くのが辛い女性達には肩を貸して。自ら動く事の出来ない彼女達は抱いて。
 彼らは村へと帰る――。
 もう、悪夢は降り注がない。
 理由なき蹂躙から、村は解放されたのだ――。