真実半分、嘘半分
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/23 20:54



■オープニング本文

 今日も武天の都の此隅の大通りは、たくさんの人が行き来していた。
「――というわけなんだ。誰か行ってくれる開拓者を見つけだすことはできないかね?」
 開拓者ギルドの受付に寄りかかるようにして立っている男は、この都で瓦版を発行しているライゾウという男である。
「そりゃ、誰か見つかるだろうけどさ――この依頼はちょっと人を選ぶかもしれないなぁ」
 受付も興味津々で、ライゾウの差し出した地図に見入っていた。
 ライゾウの話はこうだ。
 曰く、此隅から少し離れた村近辺で人工的に作られた洞窟が見つかった。この地には、昔『太郎丸』と名乗った盗賊がいたらしい。
 太郎丸は自然の洞窟を、手下たちを使って広げ、自らの拠点としたと言われている。そこには奪った財宝が山のように隠されている、とも伝えられていた。ところが、太郎丸の死後、その場所を知る者はいなくなった。
 太郎丸の時代から何年も過ぎ、新しい鉱山を探し求めていた鉱山関係者たちが、自然のものとは思えない洞窟を発見したのは今から一週間ほど前のことである。
 入り口を入ってまっすぐに一本の通路が延び、その通路の奥は、広間のように開けた空間になっている。さらにその広間から五本の道が延びていた。
 五本の道は別の方向へ向かっていて、それぞれの道の奥にはさらに部屋があるらしい。
 らしい、というのはその部屋には入ることができなかったからだ。命からがら逃げ出してきた鉱山の男たちの証言によれば、扉は見えたのだが、アヤカシがいて奥には行けなかったのだとか。
「まあ、財宝と言えばロマンだよな。それが見つかったとなればすごい話だが――」
 ギルドの受付は、地図を見ながら首をひねる。
「アヤカシをやっつけて、財宝を持って帰るだけならともかく――」
 ライゾウの依頼とは――その洞窟に入り、アヤカシを退治してほしいというだけではなかった。
 アヤカシを退治した後、ギルドへの報告とは別に依頼人であるライゾウのところにも報告してほしいというのである。つまり、その話を元に瓦版を発行したいというのが彼の依頼だった。
「報告に来た開拓者たちが、作り話をしたらどうなるんだ?」
「話を派手にしたらということか?」
 ギルドの受付の問いにライゾウは何でもないことのように肩をすくめる。
「多少派手になるくらいかまわないさ。うちは、派手な話が売りだからね」
「きっと誰か行ってくれるだろうけどさ――見つけた財宝は全てギルドに提出することと、書いておこう。猫ばばされるのは困るからな」
 こうして、依頼は開示されたのであった。



■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
海月弥生(ia5351
27歳・女・弓
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
冷泉(ib9441
21歳・女・武
香(ib9539
19歳・男・ジ


■リプレイ本文

●いざ、洞窟へ
 開拓者たちは洞窟の前にたどり着いていた。
「世の中お金ですよ、まにぃですよー。さあ、お宝目指していざっ!」
 ペケ(ia5365)は、洞窟の前で高々と右手を突き上げた。
「気持ちはわかるけどな? 今回の依頼はお宝の猫糞はあかんて言われてるだろ? 見るだけで我慢しとき」
 香(ib9539)の言葉にわかりやすくペケの肩が落ちた。どうやら財宝はギルドへ、という話をまったく聞いていなかったらしい。
「でも、盗賊のお宝って素敵な響きだよ? どんな財宝があるのかな……」
 エルレーン(ib7455)は、わくわくしている様子だった。ケイウス=アルカーム(ib7387)は、
「夢の話ではあるな」
 とエルレーンに同意する。
「――気を引き締めて。何があるかわからないのだから」
 冷泉(ib9441)はそう言うと、胸の谷間に金平糖を滑り込ませる。目の保養というべきか、目の毒というべきかいずれにしても視線のやり場に困る光景であった。
「盗賊なら洞窟を引き払う際に、財宝は持って出ているような気もするんだがな……」
 羅喉丸(ia0347)は考え込みながら言う。
「とにかく付近の村などに被害が出る前でよかった。さっさと退治する必要があるからな」
 さらに続けた羅喉丸の言葉を、海月弥生(ia5351)が補足した。
「その退治する様を面白おかしく伝えるのも仕事の内だから。張り切って頑張るわよ」
 弥生もまた気合いの入っている様子であった。
「後ろで実況中継してやるさかい、みんなしっかり覚えておいてなー」
 今回依頼人は同行しない。そのため、戦闘中に何があったのかを覚えておく必要がある――彼らの活躍は瓦版の記事になるのだから。香がそう言うと、それを合図としたかのように一行は洞窟に足を踏み入れた。

 生活の拠点としていたから天井に光を入れるための穴が開いているとは聞いていたが、洞窟の中は開拓者たちが予想していたより明るかった。
「では、ちょっと調べますよ〜」
 ペケは皆よりほんの少しだけ前に出る。洞窟内の罠など仕かけられていないか調べているのだ。戦闘には参加するつもりはないから、アヤカシが出てきたらすぐに下がる必要がある。
 宝を持って帰っていけないと言われて若干気落ちしたものの、ペケは任務に参加できる程度には立ち直っていた。
「ペケさん、前に出過ぎないでくださいねっ」
 弥生は弓の弦を弾いて、『鏡弦』によってアヤカシの位置を探り出そうとしている。弥生は殿近くを勤めているのだが、アヤカシに背後に回りこまれた形跡は今のところないようだ。
 一行はなるべくばらばらにならないように進んでいた。アヤカシはそれほど強くないそうだが、数が多い。取り囲まれたら命取りになりかねない。
 前方に立ったエルレーンと冷泉は交代で『心眼』を使い、アヤカシの気配を察知しようとしていた。
「……これじゃどこから聞こえてくるのかわからないな」
 ケイウスは顔をしかめた。『超越聴覚』で、聴覚を最大限に高めているのだが、あまりにもあちこちから聞こえてくる上に、洞窟の壁に反響してどこから響いているのかもわかりにくい。
「この先のどこかに、アヤカシがいるのは間違いなさそうだ。皆、注意しろよ」
 ケイウスがそう言った時には、一行は入り口を真っ直ぐ入ったところにある広間のような場所に到着していた。

●格好よく戦え!
「……来るっ!」
 アヤカシの存在を察知した冷泉が警告を発した。
「おっと、冷泉の前方からアヤカシ襲撃! ――これは北西の部屋からやってきたのか! はたまた真北の部屋からか!」
 茶化しているわけではないが、香の実況が始まった。香は真面目に実況しているのだ。何しろ、全員に戦況を知らせる必要がある。依頼人は『多少話を盛ってもいいから面白い話を期待している』と言っているのだから。誰がどこまで盛るかは、各自の判断に委ねるつもりではあるが。
 わらわらと蜘蛛の姿のアヤカシたちが姿を現した。床の上を這って――五体ほどだろうか。
「戦闘は、おまかせするのですよ〜」
 ペケはするすると後退していく。両手で腰のあたりを押さえているのは――その理由は深く追求しない方がよさそうだ。
「でかっ!」
 ケイウスは、蜘蛛の迫力に嫌な表情になる。一体一体ならともかく、もぞもぞと床の上を動き回っているのは、美しい光景とは言えない。竪琴を構えたケイウスは、『剣の舞』を奏で始める。激しいリズムの旋律が、洞窟内に響いていった。
「……派手に行くか!」
 それが依頼人の希望でもある――記事に書いた時に映えるような派手な戦いを。羅喉丸は、先頭を切ってアヤカシたちの真ん中へと切り込んだ。『瞬脚』を使って一気に距離をつめ、『八極天陣』で回避を上げる。
 それぞれの手に構えた旋棍「颪」を、縦横無尽に繰り出して、羅喉丸は一番近い位置にいた蜘蛛に攻撃を叩き込んだ。
 勢いよく跳ね飛ばされた蜘蛛が洞窟の壁に叩きつけられる。すかさず羅喉丸は追い討ちをかけた。
「羅喉丸、相手に逃げる隙を与えない恐ろしい攻撃だ!」
 背後から香が叫んだ。最後まで実況を続けるつもりらしい。
「……背後のアヤカシはまかせてください」
 冷泉は、エルレーンの背後を守るような位置についた。冷泉の前にも一体の蜘蛛がいる。冷泉は、蜘蛛とにらみ合うような形になった。
 するすると蜘蛛が接近してくる。冷泉は、『受け流し』を使って蜘蛛の攻撃をかわすと、頭の上から一気に刀を振り下ろした。
「冷泉の鋭い一撃! 蜘蛛は一撃で切り倒されるぅ!」
 香の実況は止まらなかった。どこまで口が回るのかという勢いで、仲間たちの見事な戦いぶりを実況し続ける。
 弥生はきりきりと弓を引き絞った。狙いを定めて、矢を放つ。矢は見事に蜘蛛の胴体に命中した。一歩後退しかけたアヤカシに、エルレーンがすかさず追い討ちをかける。『紅蓮紅葉』によって、紅い燐光をまとった刀をエルレーンは振り上げた。
 矢をくらってのた打ち回るアヤカシを、一刀のもとに切り倒した。横から飛び掛かってきたアヤカシを、エルレーンは蹴り飛ばして、壁に叩きつける。アヤカシが体勢を立て直す前に、刀で切りつけた。
 広間に出てきた蜘蛛の姿のアヤカシたちが姿を消すまでに、それほど長い時間はかからなかった。

●財宝を探して
「――この部屋から五本の通路が延びているんだったな。どの通路から調べていく?」
 羅喉丸が問う。皆でしばらく考えて、一番端から調べていくことになった。まずは南西側に伸びる通路である。
「待って……! この先、何かいるみたい……」
 罠がないか調べようとしていたペケに、エルレーンが声をかけた。彼女は『心眼』で、アヤカシの存在を察知していた。
「わー、蜘蛛の巣!」
 エルレーンの声に足を止めたペケが悲鳴を上げる。
「大丈夫か? 引っかかったか!」
 ケイウスが声をかけると、大丈夫と言いながらペケは後ろ向きに歩きながら戻ってきた。目は通路の奥の方を見つめたままだ。そのペケを追うように、もぞもぞと蜘蛛が姿を現す。
「やれやれ……」
 ケイウスは再び竪琴を手にする。
「ペケが通路の先に蜘蛛の巣を発見! 引っかからなかったペケを追ってアヤカシが姿を現すぅ! ペケの運命やいかに!」
 と、実況を続けようとしていた香は顔を引き締めた。
「後ろで実況をしていた自分の前にアヤカシ出現! 大丈夫か!?」
 高い天井を這ってきたのだろう。細い糸で天井からぶら下がった蜘蛛が、香に向かって噛み付こうとする。
「おっと、攻撃をくらうわけにはいかんのや」
 香は、『バイラオーラ』を使ってひらりとよけ、さらに
「お宝は持ってへんか〜? 持っているならいただかせてもらうで?」
 とからかうような言葉を投げかける。その意味が相手に通じているかどうかは不明ではあるが。何か持っていれば『ライール』で掏り取るつもりだったのだが、あいにくと何も持っている気配はない。
「下がって!」
 冷泉が通路を駆け戻ってくる。冷泉とタイミングを合わせるように弥生が矢を放つ。
「一匹たりとも逃がすわけにはいかないのよね!」
 弥生の放った矢が、蜘蛛に突き刺さった。アヤカシの動きが一瞬止まる。
「とどめっ!」
 冷泉の刀が、アヤカシを真っ二つに切り裂いた。

 入った南西の部屋は空だった。財宝が入っていたと思われる箱すら残っておらず空っぽ。残る部屋は四部屋あるわけで、ここになくても他の部屋には残っているかもしれない。
 開拓者たちは肩をすくめて、長い通路を戻り始めた。
「……広間に集まっている気配がする……十、いや二十……?」
 冷泉が眉をひそめた。
「そうね、かなりの数がいるみたい。あたしたちの存在に気がついて、それぞれの部屋から出てきたってところかしら?」
 冷泉の言葉を受けて、『鏡弦』を使った弥生が同意した。どの部屋に行くにしても、一度は広間を通らなければならないし、アヤカシの全滅が依頼であるから避けるわけにはいかない。
 この通路はそれなりの広さがあるが、戦闘の場所はある程度開けていることにこしたことはない。用心しながら、開拓者たちは広間の方へと戻り始めた。
「財宝探しの為にも、ここで退場してもらわないとね」
 ケイウスは、『剣の舞』を奏で始める。
「たからものを守ってるつもりなのかな?…うふふ、甘いよぉ!」
 エルレーンが飛び出した。『紅蓮紅葉』を使い、右に左にと蜘蛛型のアヤカシたちを切り倒していく。
「けっこうな数ね……! でもまだまだよ!」
 弥生は、『強射「朔月」』を用いて、矢の攻撃だけで敵を倒していく。
「負けてはいられないな。記事にもなることだし」
 羅喉丸も、『瞬脚』を使って敵の真ん中に飛び込んだ。冷泉は、側を走りぬけようとした蜘蛛に刀を突き立てる。背中から腹まで貫かれたアヤカシは、地面に倒れこんだ。
 広間では香がひらりひらりと敵の攻撃をかわしていた――あいかわらず実況は続けながら。
 その間ペケはどこにいたのかというと――戦闘からは遠く離れた位置に身を置いていたのである。

 こうして広間に集まった敵を倒した後、開拓者たちは順番に部屋を探索していった。北西の部屋、真北の部屋はアヤカシたちがいただけで空だった。
 北東の部屋の前で敵を蹴散らした後、用心深くペケは中を覗き込んだ。
「うわ、すごい! 宝の山なのですよ!」
 その部屋には、天井近くまで財宝が積み上げられていた。開拓者たちだけでは運び出すことのできない分量である。
「ううっ……き、きれいだなぁ……ほしいよぅ」
 エルレーンの呟きに、香がつっこんだ。
「気持ちはわからなくもないが、猫糞はあかんで?」
 わかっている、とエルレーンは返す。
 財宝をゆっくり見物したいところだが、もう一部屋残っている。南東の部屋付近のアヤカシたちもさっくりと片付けたところで、洞窟内の探索は終了となった。

●出来上がった瓦版
 ギルドに財宝をゆだねた後、開拓者たちは依頼人のもとを訪れた。今回は、依頼人への報告をして初めて終わったと言えるのである。
「というわけで、まず通路を進んだ先に広間があってそこで戦闘になったんだ」
 羅喉丸が説明を始めた。
「羅喉丸は格好よかったな。敵の中心に飛び込んでトンファーでアヤカシを蹴散らしたんだ」
 ケイウスが補足する。羅喉丸が照れたように笑うと、エルレーンが身を乗り出した。
「ぷりてぃーかわいいエルレーンちゃんがすっごくかっこよく戦った、って書いてね!」
 ライゾウはふむふむと言いながら、メモを取っていた。部屋にはもう一人いて、こちらは瓦版に載せる開拓者たちの似顔絵を書いている。
「こちらの方はどちら様なのでしょうか?」
 依頼人に報告に来たというのに、ペケはちょっとずれた発言をしている。
「財宝はめっちゃきらきらしとったな〜。ま、思ってたよか少なかったけどな」
 香は皆の戦いぶりだけではなく、財宝についても情報を提供する。こうしてお茶を飲みながら数時間かけての報告が終了した。
「よい記事、期待してますよ!」
 ケイウスがそう言うと、ライゾウはまかせとけと言わんばかりに胸を叩いて見せた。

 そして数日後。無事に瓦版は発行された。
 瓦版の見出しには、「驚愕! 大盗賊『太郎丸』の財宝発見される!」とでかでかと書かれている。
「洞窟の中は、日の光が入るためにある程度の視界は確保できた。しかし! 開拓者たちが洞窟内に足を踏み入れるのと同時にわらわらとアヤカシが湧き出てきたのである」
 洞窟内に入った途端というわけではないから、若干話が膨らんではいるが間違いではない。確かにアヤカシは多数出現した。
 記事は、若干話を大げさにしつつも基本的には開拓者たちの報告どおりに書かれていた。
 羅喉丸が敵の中央に飛び込み、敵を蹴散らしたこと。弥生の矢が鋭く敵を射抜いた。ケイウスの奏でる調べが開拓者たちを高揚させ、エルレーンの刀が敵を切り伏せたこと。冷泉は攻防ともに仲間たちを助けたことも。
 ペケが通路の先の罠の存在を調べたこと、この記事は香が皆の様子を知らしめたことによって作成されたことも記されている。
 財宝の美しさについてかなりの行数を割いた後、さらに記事は続く。開拓者たちがギルドに報告し、ギルドの職員立ち会いの上で全ての財宝がギルドへと運ばれ、羅喉丸の頼みどおりにギルドの厳重な管理下に置かれていることもしっかり明記されていた。

 ふむ、と出来上がった瓦版を読みながら冷泉は金平糖に手を伸ばした。自分の活躍があまり書かれていないような気がしなくもないが――まあ、深くは追求すまい。

 同じ頃。エルレーンもまた自分の家で瓦版を読んでいた。
「ふふ、ちゃんと書いてくれたんだ……」
 エルレーンが頼んだ『かっこよくて強くてやさしい、無職じゃないおとこのひとぼしゅうちゅう』という言葉。しっかり記事の最後に記されている――応募者があらわれるか否かはまた別の話ではあるが。
 財宝はまだ、此隅の開拓者ギルドに積み上げられているが、ひとまず事件は決着と言ってもいいだろう。開拓者ギルドに押し入って財宝を盗もうなどという不届き者はまずいないのだから。
 洞窟近隣の村々では、しばらくの間開拓者たちの冒険と財宝の話で大いに盛り上がったのだという。