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■オープニング本文 風が吹き荒れている。身を切るような冷たい風に身を縮めながら、旅人は街道を歩いていた。 ここは理穴。大規模作戦により魔の森が後退した後も、魔の森と接している地域はまだ残されている。今、旅人が歩いているのも、魔の森の近くを通らなければならない場所だった。 そろそろ夕刻。次の村に宿をもとめようと旅人は足を急がせる。ふと気配を感じたのは、彼が志体を持つ者だからだろう。 前方にいるのは、人ではないものたちだった。彼はそっと『瘴索結界』を展開する。結界に探知されたアヤカシの数は相当なものだった。 アヤカシたちは、旅人が向かおうとしていた村めがけ、群をなして移動している。 「……急いだ方がいい」 旅人はつぶやくと、街道を離れた。アヤカシたちに気づかれないように、村に急を知らせなければ。 彼が見つかったのは、もう少しで村にたどりつくという場所だった。街道を離れ、何体かのアヤカシたちが彼の方へと近づいてくる。『白霊弾』を獣の姿のアヤカシにたたきつけ、怯んだ隙に彼は村をぐるりと囲んでいる塀の中へと駆け込んだ。 「門を閉めろ! アヤカシが来るぞ!」 すぐ近くにいた村の男が、村への出入り口である門を閉じる。 「……どうにかして開拓者ギルドへ連絡を取らないと」 村長が村の男たちを呼び集めた。一番足の速い男が選ばれて、塀を乗り越えて最寄りの開拓者ギルドまで走ることが即座に言い渡される。 里帰りで村に戻っていた弓術士のミコトと、旅をしてきた巫女のノールが協力して塀の上からアヤカシたちを牽制し、そちらに注意を引きつけている間に、連絡係が村から脱出することになった。 「それでは行きましょうか。ノールさん」 ミコトが、ノールに声をかける。 「練力は無駄遣いしないようにしましょう。肝心なのは、村に入れないことですからね」 開拓者たちは顔を見合わせて、息のあった攻撃を放つ。 「頼むぞ!」 村長に言われ、連絡係が村を脱出した。彼を追おうとしたアヤカシに、ノールとミコト二人の攻撃が同時に炸裂する。 「塀を破壊された時のために、子どもと怪我人と病人は、先に倉に避難するんだ。動ける者は弓と矢を持ってこい。我々でも牽制くらいにはなるだろう」 村長がてきぱきと指示を出す。塀に飛びつこうとしたアヤカシめがけ、塀の内側からばらばらと矢が放たれる。 「もっと矢を持ってこい! 日が暮れると見えなくなるな。篝火の用意!」 塀を越えて向こう側を照らし出せる高さに篝火が用意された頃――連絡係の男は無事に開拓者ギルドに到着していた。 「大急ぎで開拓者を派遣してください!アヤカシは……二十から三十ほどはいると思われます」 彼は息を切らせながら、状況を説明した。 白骨化した人の死体に瘴気がついたものと、背中に剣の生えた狼のような姿のアヤカシが同時に攻撃をしかけてきたのだという。 幸い発見が早かったこと、たまたま村に開拓者がいたことからまだ被害は出ていない。 妙に統制の取れた動きをしていることから、アヤカシの中にやや知能が高いものがいて指示を出しているのかもしれない――と、彼は説明するとその場に膝をついたのだった。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
雲母(ia6295)
20歳・女・陰
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
黒木 桜(ib6086)
15歳・女・巫
羽紫 稚空(ib6914)
18歳・男・志
刃兼(ib7876)
18歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●急行 開拓者たちは馬に乗って道を急いでいた。夜明けまで時間がない。一刻も早く村へ到着するためにギルドから馬を借り出したのだ。 「よっしゃ!飛ばしていくぜ!」 そう言った羽紫 稚空(ib6914)は、恋人である黒木 桜(ib6086)と同乗していた。彼らは馬ではなく、稚空のパートナーである霊騎に乗っている。 戦闘は混戦になることが予想されているため、少し離れた安全な場所で皆が乗っている馬たちと一緒に待たせておくことになっていた。 「朝までに決着をつけます!」 稚空の後ろに乗った桜は、やる気満々だ。 「張りきるのもいいが、ほどほどにしておけよ」 稚空は桜のことが心配でならない。桜が心配だからついてきたというのが依頼に参加した大きな理由なのだ。 「村が見えるちょっと手前で降りるから、私が降りた後はまかせた」 雲母(ia6295)は只木 岑(ia6834)の馬に相乗りしていた。二人とも小柄なため、二人乗りしていても他の人たちから後れをとることはない。岑の後ろで、雲母は優雅に煙管をふかしている。 出発前に雲母は同行する開拓者たちに、馬には十分注意するようにと念を押している。馬から下りた後、自由にさせておいて殺されてはたまったものではない、と。 「降りる時は援護しますよ。大丈夫です」 岑は持ち前のスローな口調で返す。 「馬をつないでおくならあのあたりだな……」 九竜・鋼介(ia2192)は、木からおりて馬をつないだ。 「グライダーなら空中から一気に村に入ることもできたんだけど」 そうつぶやいたシーラ・シャトールノー(ib5285)は最後を守ってここまで来た。あいにくと今は夜。空は暗いし、村からの誘導も見込めない。 今回はあきらめて馬で急行したのだ。シーラも馬を下りてつなぐ。風雅 哲心(ia0135)、刃兼(ib7876)も同様にした。 「殿はまかせてちょうだい」 とシーラが言った。 「いいか? ここで待っていろよ」 と、稚空はパートナーに言うと桜とともに村に向かって走り出した。 開拓者たちがたどりついた時には、村はまだ無事だった。村が見え始めるのと同時に、雲母は馬から下りている。 唯一の出入り口である門の前にアヤカシが殺到していた。塀の内側には、高い位置で炎が燃えていて、アヤカシたちを照らしている。それは薄気味の悪い光景だった。 岑は騎乗のまま、矢を放った。 「ギルドから救援に来ました。我々が門前に着いたら門を開けてください」 矢には、こう書かれた文が結びつけられている。 塀ごしに顔をのぞかせた若い男が大きく手を振った。矢文を見たという合図なのだろう。 鋼介は、狙いを定めて焙烙玉を投げた。門の前に群がっていたアヤカシたちがその爆発に巻き込まれる。恐怖を感じた剣狼たちは、門の前から遠ざかった。 そのまま鋼介は、『不動』を使って自分の防御力をあげた後、門前へと突っ込んでいった。刀と小剣の二刀流だ。小剣を防御に用い、かかってくるアヤカシを打ち倒しにかかる。 「少しは相手になると面白いんだけどねぇ」 と、不敵な台詞をはいた雲母は、まだ本気ではない。煙管を加えたままマスケットを構える。とにかく門を開けてもらえるだけのスペースを確保しなければ。 銃声が、闇を切りさくようにして響き渡った。 岑は馬に乗ったまま、開かれた門から村内へと飛び込む。振り向きざまに矢を放って、一体の剣狼を怯ませた。 哲心は、村の中へと駆け込んだ。シーラは、殿を守っている。そして村内に入る仲間が全員駆け込んだのを確認すると、アヘッド・ブレイクを使って自分も飛び込んだ。 ●門前の戦い 「よく持ちこたえてくれた。後は俺たちに任せろ、絶対に門の中へは入れさせやしないぜ」 真っ先に村に入った哲心の言葉に、どっと歓声があがった。骨鎧は恐怖ということを知らないため厄介な相手なのだ。 「これで全員よ! 門を閉めて!」 シーラの声に合わせて、村人たちは力を合わせて門を閉めにかかった。シーラは閉まりかけている門の正面に陣取る。 閉まりかけた門を潜り抜けて、一頭の剣狼が村に侵入してきた。 「あなたたちはさがって!」 シーラの鋭い声に、村人たちは一気に後退していく。塀という遮蔽物から矢を放って牽制するくらいのことはできても、正面からアヤカシと渡り合うのはあまりにも分が悪い。 「ここから先への通行料は手前ぇらの命で払ってもらうぜ。……轟け、迅竜の咆哮。砕き爆ぜろ―――アイシスケイラル!」 哲心の手元から、冷たい刃が放たれる。氷の刃は、狙い過たず剣狼の身体に突き立った。身体を引き裂かれ、剣狼が唸り声をあげる。 シーラが剣狼に切りかかった。シールドで、剣狼の牙を受け止める。そうしておいて、右手の剣が閃いた。アヤカシは一度後退する。 哲心が武器を刀に持ち替えて剣狼に切りかかった。剣狼の注意が彼の方へと向いた隙に、シーラがもう一度攻撃を加える。剣狼は地面に崩れ落ちた。 「そこ! 乗り越えそうですよ!」 岑は馬に乗ったままだ。安息流騎射術を使って、馬に乗ったままでも巧みに弓を引く。塀を乗り越えようとしたアヤカシを目ざとく発見した岑は、矢を放った。どうやってその高さまでよじ登ったのかまでは、村の中からはわからないが、剣狼の目に矢が突き立つ。 大きな悲鳴をあげて、剣狼は村の外へと転がり落ちた。 「村に被害はないんだな?」 素早く哲心は確認する。現時点で、塀は一箇所破壊されてしまったが、そこを破ったアヤカシはすでにノールとミコトの手によって葬られ、内側からの応急修理も完了している。 「ボクたちが到着したのだから、村の人たちには先に倉に避難してもらった方がいいかもしれないですよ。倉の入り口だけを守る方が話が早いですから」 岑の言葉に、ずっと指揮をとっていた村長も頷いた。 「確かに――我々では、門を破られた時には邪魔になるでしょう。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」 村人たちは、口々によろしく頼むと頭を下げて蔵のほうへと避難していく。 「只木さん、行きましょう」 ピストルの装填を確認し、シーラは岑をうながした。 「対処できないような敵があらわれたら笛で合図します」 馬に乗ったままの岑は、シーラとともに村内の確認に向かう。『鏡弦』を使って、門以外の場所から塀を乗り越えようとしているアヤカシを見つけるために。 「あの、稚空……その、肩車……とかしていただけませんか? お願いします!!」 桜の発言に、稚空は目を回しそうになった。桜は塀の上に登るつもりなのだ。おいおいちょっと待てと突っ込みたいのはやまやまだ。ミニスカートの中がちらり、なんてことになったら……とはいえ、塀の上から周囲を見回す方がアヤカシの位置も把握しやすいだろうし、アヤカシの攻撃から桜が遠ざかるのはそれだけで戦いが楽になる。 稚空は、背中にかばった桜に、 「気をつけろよ! おまえは余計なことをしないで皆の回復のことだけ考えていればいい」 と言った。 「はいっ」 と元気よく桜は返事を返す。 『フェイント』で目の前のアヤカシを惑わし、剣で切りかかる。目の前が開けたその隙に、塀に寄りかかるようにして立った。 身軽な動作で、桜は塀の上によじ登る。それを見た稚空は、戦いが終わった後、塀から転がり落ちるのではないかと思いきり心配したのだった。 「数が多い……!」 刃兼は、骨鎧と対峙していた。アヤカシの数はあまりにも多い。 「暗いというのはやっかいなものだな」 両手に構えた太刀を手に、刃兼は切りかかってきた狂骨の胴を横に払った。背骨を砕かれて、狂骨は地面に崩れ落ちる。 マスケットを手にしたまま、雲母も門前に駆け寄っていた。狂骨相手に拳と蹴り攻撃が炸裂する。相手が倒れるのを見て、雲母は鋭い視線を左右に向けた。 「リーダーがいるはずだ!」 両手の武器でアヤカシを切り倒しながら、鋼介が言った。どれが指示を出しているのだろう――指揮官を倒せば、アヤカシたちの動きに乱れが生じるはず。 開拓者たちはそれぞれに、鋭い視線を敵へと向ける。 ●平和な朝 「精なる暖かな光よ……彼の者に纏い、守る力となれ……」 塀の上によじ登った桜は、『神楽舞「衛」』で、門を守っている者たちの防御力を高める。アヤカシの中に弓矢を装備している者はいないようだった。ということは、ここで戦況を見渡すのがいいだろう。 練力を使いきったミコトとノールは退避し、変わって哲心は彼らの立っていた足場へと登る。ここから敵に向かって魔法攻撃をくらわせてやるつもりだ。 「まだ数が多いな、ならこいつでまとめて片付ける」 哲心は、門の前を守っている開拓者たちに警告を発した。 「巻き込まれるなよ! ……響け、豪竜の咆哮。穿ち飲み込め―――サンダーヘヴンレイ!」 雷が、狂骨たちを倒していく。 門の前に陣取った刃兼は、『隼人』で素早く打ち掛かって、相手の足を狙う作戦に出た。相手の機動力をそごうというつもりだ。 右から来た相手をかわし、左から来た相手を打つ。もう一体、左から狂骨がかかってきていた。突き出された刀をかわしきることができず、肩に傷を負ってしまう。 「これでもくらえ! 瞬風波っ!」 稚空は、他の剣狼より一回り大きなアヤカシに打ちかかった。剣狼は稚空の攻撃を、身体を捻ってかわし、直撃を防ぐ。その次の瞬間、剣狼は背中に生えた剣で次々に稚空に打ちかかってきた。一回、二回、三回。三回まではかわした。四回目の攻撃と、五回目の攻撃が稚空の腕を切りさく。 「……回復しますっ!」 塀の上から戦況を見ていた桜は『愛束花』で即座に二人の怪我を回復させた。 「あいつがリーダーだ!」 鋼介が見つけ出したのは、他の骨たちよりも少し立派な鎧をまとったアヤカシだった。刀を左右の手に持っている。それの使い方に慣れているかどうかは別として。 鋼介は、両手に構えた小剣と刀で続けざまに『払い抜け』と『一閃』をアヤカシに叩きつける。 「門の前で払い抜け……これが本当の門前払いってねぇ……」 と、余裕の一言を吐くが、アヤカシはまだ立っていた。そこへ雲母が飛び込んでくる。 「あぁ、こいつが親玉? がたいのいい骨じゃない」 『瞬脚』を使っての移動から、『牙狼拳』による連続攻撃。自分の回避が低下するのは、この際無視しておく。雲母の攻撃が終わるのと同時に、鋼介の攻撃が骨鎧を地に倒した。 低い唸り声がする。他のアヤカシたちより一回り大きな剣狼が開拓者たちを睨みつけていた。咆哮をあげるのと同時に、一番手前にいた雲母に飛びかかった。雲母は、『瞬脚』を使って、アヤカシの攻撃をかわす。 哲心が塀の上から『アイシスケイラル』を叩きつける。 「援護するっ!」 稚空が刀で斬りかかった。先ほど、背中に生えた剣の五回連続攻撃をくらっている。同じ過ちは犯さないように慎重に、だ。 「西に三体、骨のアヤカシですっ!」 桜の声を受けて、刃兼はそちらの撃退に向かった。太刀を振り回して、軽々と狂骨を打ち倒していく。 鋼介と稚空の攻撃が同時に炸裂し、剣狼は背中の刃を使う間もなく身体を切りさかれて崩れ落ちた。 リーダーを失ったアヤカシたちの攻撃は、あっというまに統制を失った。こうなれば、開拓者たちの方が圧倒的に有利となる。連携を取った開拓者たちは、次から次にアヤカシを倒していく。戦闘が終わるまで、それから長い時間はかからなかった。 シーラは、アヤカシを発見するのと同時にファイアロックピストルの引き金を引いた。塀を越えようとしていた狂骨に弾丸が命中する。 「裏から回ろうだなんて、少しは知恵を回した奴もいるのね」 シーラは、煙をあげている短銃を下に下ろした。岑が、続けざまに矢を放つ。素早く武器を剣に持ち替えたシーラは、狂骨に挑みかかった。 アヤカシとシーラの剣が交錯する。打ち合ったのは二回。三度目にシーラが肩から下へ切り下ろした刀がとどめとなった。 「もうこちらにアヤカシの気配は感じられませんね。もう一回りして確認を終えたら皆に合流しましょうか。あちらの戦闘も終わったようですし」 岑は弓を弾いてアヤカシの存在を確認する。 全てを片付けた後、桜が負傷者たちの手当てをした。 「包帯まいて治るような怪我なら……やっぱり桜の手で包帯巻いてもらいたいなぁ……なんて……」 戦いを終えてほっとしたのか、稚空はそんな軽口を叩く余裕もあった。 「本当に来てくださってありがとうございました」 弓術士のミコトは、援護に来た開拓者たちに丁寧に頭を下げた。 「間に合って、本当によかった」 刃兼はねぎらいの言葉を皆にかける。誰にとっても故郷は大事なものだ――と、刃兼は自分の故郷に思いをはせた。 馬たちをつないでおいたあたりから、馬のいななきが響いてくる。一晩明けた村は、完全に平和を取り戻していた。 |