流れてきた帯
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/27 21:09



■オープニング本文

 武天の山間にある小さな村。ここから此隅までは徒歩で数日かかる。おときは、生まれた時からずっとこの村に住んでいる。暮らしは楽とはいえないが、そんなものだと思っていた。
 その生活が一度に変化したのはよく晴れた日のことだった。おときは川で洗濯をしていた。そばに絵筆と画帳が置かれているのは、花の絵を描くのが好きだからだ。きれいになった洗濯物をよく絞り、洗濯かごに入れる。そのかごの脇に絵筆と画帳をつっこんだ。
 家に帰って洗濯物を干そう。おときは、洗濯かごを抱え、かがんでいた腰を伸ばす。ちょうどその時、悲鳴と怒号が響きわたった。
「アヤカシだ! 逃げろ!」
 彼女の目に飛び込んできたのは、骨だけのアヤカシに襲われている村人たちの姿だった。何人かは、村の外に逃げ出したようだったが、おときのいる場所からはアヤカシの側を通らないと村の出口に向かうことはできない。
 泳げれば川に飛び込むのだが、あいにくと泳ぐことはできない。慌ただしくあたりを見回すおときの目にうつったのは、不作の年に備えて食べ物を保管している蔵だった。ちょうど収穫した芋を運び込んでいるところだったので、蔵の入り口は開けられている。
 おときは洗濯かごを抱えたまま、蔵に飛び込んだ。扉を閉め、外から入ってこられないようしっかりと閂を差し込む。
 どこにそんな力があったのか、蔵の中にあった米俵も小麦の袋も扉の前に積み上げる。そしておときは息をついた。アヤカシに捕まったのだろう。苦しげな叫びが響いてくる。
 ぎゅっと目を閉じ、おときは耳を塞いだ。

 どのくらいたったのかはわからない。あたりはしんとなった。おときは蔵の窓によじ登り、外の様子をうかがった。食い散らかされた死体が転がり、アヤカシがあたりを徘徊している。
 窓からおり、おときはため息をついた。どうにかして助けをもとめなければ。絵筆と画帳が目にとまる。助けをもとめる文を川に流すことができれば、あるいは。
 しかし、普通の紙に書いても濡れれば読めなくなってしまう。しばらく考えて、おときは帯をほどいた。墨を筆にたっぷりと含ませて

 いずみむら
 ほねみたいなあやかし
 くらにいる
 たすけて

 おとき

 と書いた。そのまま一晩、墨が乾くのを待つ。そして翌朝、おときの帯は窓から川へと投じられた。

 開拓者ギルドの受付は、開拓者たちを見つめた。
 おときの帯は、無事に此隅の開拓者ギルドに届けられたのである。村から逃げ出した者たちも、救出の要請を出していた。
「骨のようなアヤカシということですので、狂骨か骨鎧ではないかと思われます。群れるのが好きなアヤカシですから注意してくださいね。骨鎧だとしたら、指揮官がいる可能性が高いでしょう」
 徒歩で数日かかる距離なので、開拓者たちには馬が貸し出されることになった。こうして、開拓者たちは馬に乗って出立したのである。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
和奏(ia8807
17歳・男・志
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
Lux(ia9998
23歳・男・騎
鬼灯 瑠那(ib3200
17歳・女・シ


■リプレイ本文

●アヤカシに襲われた村へ
 ギルドから貸与された馬を急がせた開拓者たちは、アヤカシに襲われた村の隣村まで到着した。馬をここに預け、ここからはアヤカシに見つからぬよう徒歩で移動する。高台から様子をうかがえば、村の中をアヤカシたちが徘徊しているのが確認できた。
「そう広くはなさそうだな。アヤカシの数はわからんが、全て切り伏せて終わりにすればいい」
 柳生 右京(ia0970)は、自らの刀に手をかけた。できれば指揮官を相手にするのは、自分がやりたいものだがどうなることか。
「おときさんをはじめ、生き残った村人達の救出が最優先ではないかと思います。アヤカシ掃討は村人達の安全を確保した後で行うというのはいかがでしょうか?」
 メグレズ・ファウンテン(ia9696)は、アヤカシの群れを厳しい視線を向けた。
「そうですね。一刻も早いアヤカシの排除が村人の命を救うことにもつながるでしょうし」
 和奏(ia8807)が、メグレズに同意する。
「俺は戦えりゃなんでもいいけどな」
 ブラッディ・D(ia6200)は、不敵な笑みをうかべてみせた。
「川に面した蔵は、あれ一つですね。おそらく帯を流してきたおときさんは、あの中にいるのではないでしょうか」
 Lux(ia9998)は、川の側に建っている蔵を指差した。
「村人を救出する班とアヤカシをひきつける班に別れてはどうでしょうか? あの蔵が救出した村人たちの避難場所に使えそうならば、ですが」
 鬼灯 瑠那(ib3200)が、Luxの指差した蔵を避難場所に使うことを提案する。それを聞いたLuxとメグレズは、蔵の様子を確認するためにその場を離れた。
 どちらが踏み台になるかで多少もめたが、メグレズが踏み台となり、Luxは窓から中をのぞきこんだ。一つしかない扉の前に、蔵の中にあったあれやこれやが押しつけられ、容易には破られないようになっている。
「おときさんですか?」
 隅にうずくまっていた若い女に、Luxは声をかけた。声をかけられた女ははじかれたように立ち上がり、彼のしがみついている窓の側まで走り寄って来る。帯を流してしまったため、着物は蔵の中に転がっていたであろう縄で適当に留められていた。
「助けに来ました。しかし、まだ村のアヤカシは退治できていません。ここを避難場所にしたいので、我々の合図があり次第、中から扉を開けていただくことはできますか?」
 Luxは、いつも以上に気をつかって丁寧な話し方をした。こくりとおときはうなずくと、さっそく扉に押しつけた物を元の場所へと戻し始める。それを確認して、Luxはメグレズから飛び降りた。
 すぐに皆のいる場所へ戻った二人は、蔵の中にいたおときと話ができたことを告げた。合図がありしだい彼女は内から蔵の戸を開き、村人たちを中に入れる手配が整ったということも。
「それでは私は敵を惹きつける役をしましょう。早々に掃除は終えませんとね」
 サーシャ(ia9980)の笑みは変わらないが、細められた目の奥の光が強さを増したようだ。
「ホネなら蹴り壊すのもそれほど難しくもなかロ。急ぐとするかいナ」
 梢・飛鈴(ia0034)は、指の骨をぽきりと鳴らした。

●蔵の前の攻防戦と村人の救出と
 村に入ったメグレズは、まっさきに蔵を目指した。Luxもそれに続いた。
 メグレズは、刀を抜くと咆哮をあげた。自らの防御力をあげた上で、アヤカシをメグレズ自身に惹きつける。メグレズに気がついた狂骨が、錆付いた刀を構えて近づいてきた。
 アヤカシの振りおろした刀を盾で受け止めたメグレズは、右手の刀で狂骨を左肩から右の腰へと斬りおろす。ぐらりと倒れかかりながらも、アヤカシはメグレズに挑みかかってくる。その胴をメグレズの刀が横に払い、とどめとなった。
 Luxの体が光に包まれる。オーラを発動した彼は、メグレズの背後から襲いかかろうとした狂骨の前に回り込んだ。我流ながら隙のない構えでアヤカシに対峙する。打ち合ったのは一度だった。アヤカシの刀が宙に高くまいあげられ、再度打ち込んだLuxの攻撃で、アヤカシは倒れ消滅していった。
 瑠那は狂骨の脚を狙って攻撃を加えた。骨を砕かれたアヤカシは地面に倒れ、折れた脚はそのままに、なんとか瑠那に攻撃をしかけようとする。瑠那はしなやかな動きで、アヤカシの攻撃を回避した。
 和奏が走りよってきた。正確な動作で、瑠那に脚を砕かれた狂骨の背骨に刀を叩きつける。アヤカシの持っていた刀が地に落ちた。
「これで、このあたりのアヤカシは退治したようですね」
 Luxが額に手をやった。
「俺が蔵の護衛に残ります。村人たちを連れてきてください」
 和奏は心眼であたりの気配を探った。人でもアヤカシでもいい。多く集まっている場所。左手の建物の中かその向こうあたりに気配を感じた。中にいるのかその向こうかまではわからない。
「私が先行して、アヤカシか村人かを確認しておきます」
 瑠那は問題の建物に早駆を使って近づいた。裏手に何もいないのを確認すると、建物の表に戻って扉を叩く。
「誰かいますか? 助けにきました。開けてください!」
 扉が細く開けられる。中にいたのは、父親と母親、それに二人の子どもだった。
「では皆さん、静かについてきてください。何を見ても絶対に声を上げないように」
 瑠那は、子どもを見た。本当に泣かないことができるだろうか? 必要ならば、気絶させるという手も使わなければならないのだが。
「小さい子は目や耳を塞いで抱えてくださるとありがたいです」
 瑠那の言葉に、父親はうなずくと手ぬぐいで子どもに目隠しをした。耳にも綿をつめてふさぐ。姉の方を父親が、妹の方を母親が抱えあげた。口はぴたりと胸にあてるように抱き、声を出せないようにする。
「アヤカシ退治が終わるまで、あの蔵に避難していただきます」
 追いついた和奏が蔵を指さした。和奏を先頭に最後尾をメグレズがかためて、一同は蔵めがけて走りはじめた。蔵までは一直線に走るのではない。和奏が気配をさぐり、何もいないところをたどりながら、建物のかげに隠れながら、蔵へと向かう。
 あと少しで蔵につく、という時だった。右手から一体の鎧骨が姿をあらわし、開拓者たちに気がつくとこちらへと向かって走り始めた。手にした斧を、獲物の恐怖をあおるかのように振り回す。
「さてさて、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ?」
 Luxの口元を、するどい笑みがかすめた。村人たちを蔵側へと押しやり、メグレズはLuxの援護へと向かう。
「扉を開けてください!」
 和奏の声に、蔵の扉が開かれる。瑠那は、家族を蔵の中へと押し込めた。扉を閉めて振り返ると、メグレズとLuxによって鎧骨が倒されたところだった。
「次は、あの家に行きましょう」
 和奏が、別の建物を指す。瑠那は息を整えると走り始めた。

●戦闘担当班の戦い
 飛鈴は、先頭をきって村の中に飛び込んだ。まず目にとまったのは、民家の扉を破ろうとしている骨鎧だった。
「いったろうじゃないカ!」
 アヤカシはこちらに気づいている気配はない。飛鈴はアヤカシに飛びかかった。扉を破るのに使っていた斧を持った方の腕に、飛鈴の蹴りが炸裂する。鈍い音を立てて、斧が落ちた。拾い上げる隙など与えない。鎧の上から骨法をくらわせてやる。肋骨の折れる音がした。もう一度、鎧の上から胴を蹴りつける。
 一歩下がったアヤカシの顎を蹴りあげてやると、アヤカシは消滅した。飛鈴は斧を拾い上げた。もう一体向かってきた相手に、斧を投げつける。それは見事に命中し、続いて飛鈴の跳び蹴りが、アヤカシをよろめかせた。
 サーシャは、いつもの三割り増しで鬨の声をあげた。すぐそばでは、飛鈴が狂骨を叩き伏せたところだった。注意をひかれたアヤカシが、サーシャへと挑みかかってくる。突き出された槍を、手にしたグランドソードで払いのけ、サーシャは力任せに斬り伏せた。よろめいた骨鎧へともう一歩踏み出すと、上から下へと真っ二つにする。
 アヤカシの消滅を確認したサーシャの耳に、子どもの泣き声が聞こえてきた。泣き声の聞こえた家の中には、子どもが二人と母親らしき女がいた。見回してみるが、近くに救護に回っている開拓者の姿はない。
「私が蔵まで護送しましょう!」
 とっさの判断で、サーシャは子どものうち片方を抱えあげた。もう片方は母親が抱き、二人は蔵へ向かって走り出した。
 二人から少し離れたところにブラッディはいた。
「ギャハッ! かかってこいよ、骨っこども! 俺と遊ぼうぜぇ!」
 剣を構えて、ブラッディは大声を出す。聞きつけたアヤカシが、彼女に向かってきた。刀で仕掛けられた攻撃を、地昇転身を使ってかわす。攻撃を避けられた狂骨は、ブラッディに挑みかかってきた。
「その調子! その調子! ま、俺には勝てないけどな!」
 ブラッディは、狂骨に剣で斬りつける。刀を持った方の腕が肩から落ちた。続けて彼女は攻撃を加える。ばらばらになった骨が散らばって、アヤカシは消滅した。
「次はどいつ‥‥、てオイ!」
 ブラッディの視線の先では、蔵の方へ逃げて行く村人たちに向かってアヤカシが襲いかかろうとしていた。
「こっちだ、こっち! オレが相手になってやる!」
 相手を引き受けるべく、ブラッディは駆けだした。
「私の相手になるか‥‥?」
 刀を正眼に構えて、右京は狂骨たちを見据える。ギルドの予想によればいるであろう指揮官を捜し求めていたのだが、それがアヤカシたちには倒しやすい相手にでも見えたのだろうか。示し合わせたかのように、同時に三体が挑みかかってくる。
 右京の動きは流れるようなものだった。まず一体目をかわし、二体目に刀を叩きつける。そのままその場で体をひねると、大きく飛んで三体目の刀に宙を斬らせた。
「一匹ずつの実力はこの程度か‥‥指揮官とやらに期待するしかないな」
 そんなつぶやきが彼の口からこぼれ落ちる。彼の台詞通り残る二体が消滅するまで、それほどの時間はかからなかった。

●アヤカシたちの最後
 村を襲ったアヤカシたちがほぼ姿を消した頃、村人の避難も完了した。
「アヤカシ退治を担当してくれている人たちの方へ、加勢に行くわけにはいかないでしょうか? 私はここで蔵の警護にあたろうと思いますが」
 メグレズが言った。変わらず蔵の前を守るというLuxとメグレズを残し、瑠那と和奏はアヤカシ退治へと加わる。
 残ったアヤカシの数はそれほど多くなかった。二人一組で、手際よく倒していく。
「あれが指揮官か・・・少しは愉しめるといいのだが」
 右京は、残った敵の中で一回り大きなアヤカシに目を止めた。骨だけの体とはいえ、なかなか立派な装備を身につけている。
「先に行かせていただます!」
 サーシャが飛び込んだ。まずスタンアタックを放つ。そのまま敵の方へと踏み込んだ。先に放ったスタンアタックは牽制でもある。サーシャの流し斬りを、アヤカシは紙一重の差で回避した。
「ほう、いい動きだ。アヤカシとの戦闘とはやはり、こうでなくてはな」
 サーシャの動きをかわしたのを見た右京が刀を構える。
「俺はそっちの雑魚どもをかたづけるぜ!」
 ブラッディが狂骨に向かって動いた。打ち込まれるアヤカシの刀を交わし、百虎箭疾歩で間髪入れず拳を叩き込み、一気に片づけようとする。
 飛鈴が飛び込んできた。骨法で指揮官に攻撃をくらわせる。
 右京はタイミングを計っていた。飛鈴が離れるのと同時に一気に踏み込む。指揮官を相手にするのならば、遠慮する必要はない。焔陰を使って打ち込んだ後、両断剣で追い討ちをかける。刀が打ち合い火花が散った。
 一度後方にしりぞいた右京は、もう一度踏み込む。今度は手応えがあった。
 飛鈴とサーシャも右京に加勢する。ブラッディの方には、瑠那と和奏が駆けつけた。戦いの場特有の熱気が、あたりの空気を染め上げる。
 決着がついた時には、開拓者たちも無傷というわけにはいかなかった。応急手当を終え、残りのアヤカシがいないか念入りに村の中を調べて回る。

 アヤカシがいなくなったことを確認してから蔵をあけると、村人たちが飛び出してきた。
 解放された村人たちの反応は様々だった。涙ながらに開拓者たちに頭を下げる者、食い散らかされた死体にとりすがって泣きわめく者、破壊された家の前で呆然と立ち尽くす者。サーシャに抱き上げられて、きゃっきゃと笑い声をあげているのは小さな子だ。
「連絡をくださってありがとうございました。無事でよかったです」
 瑠那は、帯を流したおときに話しかけた。蔵の中で助けを待っていた間、彼女は何を考えていたのだろうか。
「とーりあえず片は付いたカ?」
 飛鈴はあたりを見回した。復興するにしても、移住するにしても村人の大半が命を失った今、残された者たちの道も平坦なものではないということは容易に予想できる。
 やがて開拓者たちは、村人たちに見送られて村を後にした。開拓者たちが平安な時を過ごすことができるのは、次の任務につくまでのごくわずかな時間でしかないだろう。