堀の怪
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/24 19:07



■オープニング本文

 とある町に、奇妙に区切られた一画があった。その一画の周囲はぐるりと深い堀で囲まれているのである。
 その一画に出入りするためには、東と西の二カ所に設けられた架け橋を通るしかない。
 その一画は宿屋や飲み屋が集中している場所なのだ。過去、酔った勢いでの殺人事件が多発した時期があったため、この町では飲み屋はこの一画に集められることになったのだった。
 架け橋は深夜上げられてしまう。そのため、時間を過ぎてしまった場合は中にある宿泊所に宿泊するしかない。
 手持ちのお金の少ない若者は、架け橋が上げられてしまう深夜ぎりぎりに堀で囲まれた一画の外に出る。それはこの町においてはよく見られる光景だった。
「今日はよく飲んだな」
 三人の若者が、酔った足取りでふらふらと架け橋を渡って堀で囲まれた一画から出てきた。堀の周囲を回って、自分の家の方へと帰っていく。
「なあ、何か聞こえないか?」
 一人がふいに足をとめた。
「ん……? そうか?」
 残る二人が彼に続いて足をとめた。そして耳をすます。
「……よこせ……」
 その声は、堀の方から聞こえてきたように思えた。
「カネ……よこせ……」
「……盗賊か!?」
 三人は顔を見合わせると、急いでその場から逃げ出した。
「カネ、よこせぇぇぇぇ!!」
 謎の声が、その背後からいつまでも響いていた。

「カネ、よこせぇ……」
 開拓者ギルドの受付で、開拓者たちが首をかしげていた。
 深夜、堀の周囲を歩いていると「カネ、よこせ!」という声が聞こえてくる。
 その割に実際に被害にあった者がいるわけでもなく、誰かのいたずらなのか、ほかに意図があるのかとこのところ町内で噂になっていた。
 とはいえ、依頼がないのに出ていくのはよほどの物好きというわけで――開拓者たちは、噂話を終えると、掲示板に張り出されている依頼へと注意を向けた。
 そこへ、町の役人が飛び込んできた。
「大変だ! 堀に遺体があがったぞ!」
 役人があわてた様子で口にした情報を精査するとこうなる。

 堀にあがったのは中年の男性の遺体で、鋭い刃物で胸を刺されていた。財布は抜き取られていない。
 さらに、その男性は頭部が行方不明だった。身元を隠そうとしたのだろうと考えられるのだが、財布の中に手紙が入っていて、その手紙から簡単に身元が判明した。
 彼の名は亮介――この町で灯りに使う油を商っている。昨日は、仲間内の飲み会で堀に囲まれた一画へと繰り出し、深夜架け橋があがるぎりぎりに外へと出た。
 財布の中身は空になってはいなかったことから、強盗ではない、と思われる。

 この近辺で、弟子に修行させていた陰陽師がアヤカシの気配を感じたという届け出が昨日あったことも確認されている。すぐに陰陽師は気配を追ったのだが、途中で消えてしまったのだとか。
 アヤカシが関わっているかもしれないとなれば、役人の手にはあまる案件だ。
 その場で役人は、依頼を出すと、役所の方へと戻っていったのだった。


■参加者一覧
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
瞳 蒼華(ib2236
13歳・女・吟
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
春風 たんぽぽ(ib6888
16歳・女・魔
コルン・B・センタレア(ib7032
20歳・男・砲
にとろ(ib7839
20歳・女・泰
華角 牡丹(ib8144
19歳・女・ジ


■リプレイ本文

●役所と歓楽街
 竜哉(ia8037)は、瞳 蒼華(ib2236)とともにこの町をたばねている役所を訪れていた。手土産の菓子折りを手に。
 役所には、謎の声に関する情報が集まっているだろう。
「遺体の状況について教えていただけませんか?」
 竜哉は丁寧に切り出した。
「本当に、本人で、まちがいない、です?」
 不謹慎ながら、不思議な事件に好奇心をかきたてられている蒼華が身を乗り出す。
 役所では二人の質問に嫌な顔一つせず、答えを教えてくれた。差し入れた菓子折りも効果を発揮したのかもしれない。
 遺体は、半ば掘りにずり落ちるようにして仰向けに倒れていた。頭(失われているが)が堀の方、下半身が道にかかるようにして。
 傷は刃物によるもの。刀ではないかという話だった。身体に残る子どもの頃の怪我の跡から本人であることは間違いがないらしい。
 なお奪われた首ではあるが、鋭利な刃物で切断されたというわけではないようだ。どちらかと言えば食いちぎられたようなぎざぎざとした切り口だったらしい。
 財布の中身に不審なところはなかった。仲間内の飲み会であることから、家を出る前に被害者亮介の妻が財布にお小遣いを追加してやったという話だ。飲み屋で支払いに使った額をのぞき、財布の中には現金が残っていた。
 所持品は財布、手拭い、懐紙といたって気楽なもので、失われたものはなかった。

 華角 牡丹(ib8144)は、堀の縁に立ちその奥に広がる歓楽街に目をやった。
「それにしてもこの場所……わっちの育った廓に造りがそっくりじゃ」
 牡丹はつぶやく。
「アヤカシか人か。どっちなんだろうねぇ……や、状況とかすると、わからなくもないんだけど」
 蒼井 御子(ib4444)はアヤカシだろうと考えながら、牡丹に同行して堀の周囲を聞き込みに回る。聞き込みを終えてもまだ時間がありそうだった。二人は、堀の内側の歓楽街へと足を踏み入れた。

「こういう調査は俺向きではないのだがな」
 とぼやいた鉄龍(ib3794)は、消えたアヤカシの気配が陰陽師の式神ではないかという推測を立てていた。届出を出した陰陽師は例外として、後ろ暗いところのありそうな陰陽師がこの近辺にいないかと周囲にたずねて回るところから調査を開始する。

 にとろ(ib7839)は、歓楽街の中にいた。というのも、この町ではほとんどの宿屋も堀に囲まれた一角の中にあるのである。夜遅くに町に到着した人のために、堀の外にもないわけではないが、堀での事件について聞き込むならば堀の内側の宿屋に聞くのが一番早い。
 ――一番早いのだけれど。
「戦闘時間までぇお休みなさ〜いにゃんす」
 一応宿屋の主人に、
「カネよこせという声についてぇ、何か知らないでにゃんすかぁ?」
 と、質問はしてみたのだ。
「最近堀の周囲でよく聞こえるらしいね」
 という返答で満足してしまい、そのままにとろは布団にもぐりこんで、眠りの世界に旅立つことにしたのだった。皆、気合が入っている。情報は皆が集めてくれることだろう。

●被害者の店と陰陽師
 一通り聞き込みを終えた竜哉は春風 たんぽぽ(ib6888)と合流して、今度は亮介の店を訪れた。
 竜哉は単刀直入に切り出した。
「時間を割かせて申し訳ありませんが、調査上教えて頂きたい事があります」
 それと同時に、亮介と飲み会をしていた仲間たちに会えないかと頼んでみると、聞き込み時間短縮のためにこの店に集めてくれることになった。仲間たちが店に到着するのを待っている間に、役所で調べてきたことと家族や使用人たちの知っていることの間に違いがないかを確認する。
 家を出る時風呂敷包みを持っていたのだが、遺体が発見された時には失われていたらしい。目的はそれかもしれないと竜哉は思った。
 形式的なものではあるが、店の後継者が誰かもたずねてみた。跡取りは長男、他に二人いる息子は同業者の店に婿入りしていて跡取り争いもなさそうだ。
 風呂敷包みの謎は、仲間の到着により簡単に真実が明らかになった。
「それは私が持っています」
 と、一人が言ったのである。彼はそこそこ高級な宿の主で、もう一軒宿を建てたところだった。店の灯りに使う油は、亮介の店に注文することになる。亮介からそのお礼としてもらった菓子折りなのだそうだ。
「お手紙って、飲む前には既に持っていましたか?」
 と、たんぽぽはたずねた。
「手紙は受け取ったら、普通家に置いておくと思うんですけど……」
「さて、中身は知らないけど……」
 と、集まった男たちのうちの一人が言った。
「内容なんてわかりませんよね?」
 たんぽぽの重ねての問いに、男たちは顔を見合わせてから首を横にふったのだった。

 コルン・B・センタレア(ib7032)は、竜哉と別れた蒼華を連れて開拓者ギルドに届出を出した陰陽師の家を訪れていた。
「忙しいところ、悪いな。アヤカシの気配はどの方向だった?」
 陰陽師とその弟子は顔を見合わせた。それから筆記用具を取り出して、紙に簡単な地図を書いてくれる。
「私たちがいたのは、ここ――怪しいものを見たのはここ、です」
 堀の近くに夜になると暗いために人が滅多に近づかない開けた場所があり、そこで瘴気回収を練習していたという話だった。
 あまりにも強大な瘴気のため、アヤカシが出現するのに十分な量の瘴気ではないかと感じていたところ、堀の方で怪しいものを見たという話だった。
 その怪しいものを追いかけたのだが、すぐに水の中に逃げ込まれて見失ったらしい。
「首を持っていくアヤカシなんているのか?」
 コルンの問いに、陰陽師は首をかしげる。よほど知能のあるアヤカシならば、何らかの目的を持って行動することはあるだろうが、そこまでのアヤカシというのはごくわずかだ。たいていのアヤカシは飢えを満たすのが本能だ。頭だけ持っていく可能性は低そうだ。
「身元を隠す、目的で、頭を隠した……?」
 蒼華は慣れない手つきでメモを取りながら考え込む。それなら被害者の持っていたもの全てを奪い去るのではないだろうか?
「頭は、誰か必要だから、持っていった、のかな」
 頭だけ持っていって何のために使うのだろう?謎は深まるばかりだ。
「犯人がアヤカシだったとしたら、頭から食べている途中で邪魔が入って逃げ出したのかもしれないな」
 そうコルンは言うと、仲間たちに合流するために蒼華とともに歓楽街の方へと戻っていった。

●聞き込んだ結果は?
 鉄龍は、堀の周囲を探していた。望み薄ではあろうが、失われた頭部を捜しているのである。鋭い眼差しで周囲を見回しながら、鉄龍は考え込む。
 怪しい人物は見つからなかった。届出をしてきた陰陽師とその弟子についても探ってみたのだが、一人前の陰陽師になるために一生懸命な師匠と弟子であり、トラブルを抱えている様子もなかった。
 歓楽街の中を聞き込んでいた牡丹と御子が戻ってくる。中で働いている人たちや、飲み屋の客たちに話を聞いてきたということだった。
「このあたりで声がしたらしいでありんすなぁ」
 牡丹が、鉄龍の正面を指した。
「ねえ、ここ。何かひきずったような後があるよ!」
 御子が堀の一角をさした。その一角だけ草が倒れて土がむき出しになっている。
「そう言えば、ちょっと前に強盗が多発してたって話だったよね? 『金をよこせ、さもないと殺すぞ』って刀持って脅して回ってたって。役所や歓楽街の自警団の人たちも警戒したらしいけど……」
 そのむき出しになっている場所を注意して観察しながら、御子は続ける。
「そいつはどうなったんだ?」
「ある夜、開拓者相手に強盗を働こうとしたそうでありんすよ」
 鉄龍の問いに、牡丹が答える。
「返り討ちにあって――死体は堀に落ちたらしいんだけど、発見されていないって話だったよね」
 御子の言葉に鉄龍は目を細める。その死体が怪しいように、その場に居合わせた皆は感じていた。
 コルンと蒼華も堀の方へと戻ってきて合流する。二人も加わって、再度堀周辺の聞き込みが始まった。

 調査を終えて、開拓者ギルドの一室に開拓者たちは集合した。
「お手紙の内容はたいしたことはなかったですね」
 たんぽぽは少し残念そうだった。家を出てから受け取った手紙ではないかと推測していたのだが、店で受け取り、たまたま財布にしまって出かけたという流れらしい。
 手紙の内容は、以前飲み会に使った飲み屋の女将からのお礼状だった。次の機会があればよろしくと書いてあるだけのもので、それが身元判明に繋がったのだから運のいい偶然ではある。
「元気ぷりぷりぃにゃんすー」
 宿屋で昼寝を堪能したにとろは元気いっぱいだった。
 聞きこんできた情報を合わせると、やはり堀の声はアヤカシではないかという話になった。被害者本人に問題はない。届け出てきた陰陽師と弟子を含め、周辺に怪しい者はいない。
 過去に殺された盗賊が存在し、死体が発見されていないということは死体にアヤカシが憑いた可能性が一番高い。「カネ、よこせ」という声については――詳細はまだわからないが、アヤカシが死体に憑いたのだとしたら、生前一番口にした言葉を繰り返しているのかもしれない。
 アヤカシの気配を感じたのは夕食後だったという陰陽師の証言をもとに、戦闘できる体勢を整えた開拓者たちは、暗くなってから開拓者ギルドを後にしたのだった。

●堀の声
 それぞれ用意の提灯や松明を手に、開拓者たちは堀の周囲を警戒して回る。ぐるりと堀に囲まれた向こう側からは、陽気に騒ぐ声が聞こえてきた。アヤカシが出没したという連絡はいっているはずなのだが、飲みたい欲求をとめることはできないのだろうか。
「カネ、よこせ……」
 どのくらい見回っただろうか。ぴちゃりぴちゃりと水をはねる音が響いた後、問題の声が聞こえてきた。
 たんぽぽはぶるりと身を震わせる。声の方へと走っていく皆の後に続いて、たんぽぽも走り始めた。堀から黒いものが這い上がってくる。
 元は人だったのだろうと推測されるが、提灯や松明の灯りでも肉片が半ば崩れていることが見てとれて、アヤカシであることは容易に理解できた。それは開拓者たちを認めると、向きを変えて堀の中へと逃げ込もうとした。
「逃げる!? 追って!」
 御子が鋭く叫ぶ。
「逃がしません!」
 たんぽぽは、アイヴィーバインドでアヤカシを絡めとった。御子はそれと同時に提灯を地面に置いて楽器を手に取る。味方を鼓舞する剣の舞の旋律があたりに響き渡った。
「目障りだ!」
 コルンは素早く短銃を構えて引き金を引く。銃声が暗闇を引き裂いた。
「――予想通り刀か」
 竜哉はアヤカシが打ちかかって来た刀を、ジャンビーヤで受け止め、聖堂騎士剣を用いて反撃した。
 蒼華は共鳴の力場で、仲間たちを援護している。
 牡丹は、パルマ・セコでアヤカシの懐に飛び込んだ。殴られたアヤカシの首がぐらぐらと揺れる。
「うにゃ〜、頑張ってくださいにゃり〜」
 一応援護できる準備はしているが、にとろは積極的に前に出て行こうとはしない。
 鉄龍は、オーラドライブを使ってアヤカシに切りかかる。竜哉はもう一度アヤカシの胴体をジャンビーヤで切り裂いた。弱ってきたアヤカシにとどめをさしたのは鉄龍だった。
 アヤカシは地面に転がって動かなくなった。

「……首を切られたか」
 鉄龍は冷静に転がった死体を観察した。どうやら、盗賊に襲われた開拓者は相手の首を切り落とすことで絶命させたらしい。
「犯人、は、アヤカシ……恨み、に、瘴気が憑いた、かな……?」
 蒼華はギルドに報告するために、一生懸命メモを取る。
「このような場所ならば、大枚の金子を持ったお方も出入りするでありんしょう……」
 牡丹は遠い目をして、歓楽街の方を眺めた。強盗を働くのならば、いい場所なのだろう。酔っ払って出てきた相手なら簡単に財布を奪うことはできるだろうから。
「なにはともあれ、事件は解決にゃりよー」
 昼間たっぷり寝たはずなのに、にとろは大きな欠伸をした。

 開拓者ギルドでは、声の持ち主はアヤカシであり、亮介はアヤカシに襲われたものと結論を出した。アヤカシに憑かれた死体を退治するとともに、「カネ、よこせ」という声はぴたりとやんだらしい。
 堀に囲まれた歓楽街は、今日も賑わっているという話だ。