お見合い大会を守れ!
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/06 20:27



■オープニング本文

 武天の都此隅から徒歩で一日ほど――鉱山街として栄えるこの町には一つ深刻な問題があった。人口比率に極端な偏りがあるのである。適齢期の男女は特に極端で、男性が九、女性が一である。
 鉱山で働くものは大半が男性だ。他の都市ならば他にいろいろな産業があり、多少の偏りがあったとしてもここまで極端ではない。
 この町には、鉱山以外の産業がいっさいなかった。周囲の土地はやせていて作物を育てるのには不向きだ。それがこの町の人口バランスの崩れに拍車をかけたともいえる。
 そこでこの町を治めている長の大城(おおしろ)は、周囲の村や町に協力をもとめ、あるイベントを決行することにした。

 つまり、出会いを作っちゃおう集団お見合い大作戦である。

 イベントの概要はこうだ。まず参加希望者は町に一定額の金銭をおさめる。参加者には目印のリボン――男性は青、女性は赤――が配られる。
 イベント当日、参加者たちは町の中を気ままに散策し、互いに気に入った相手がいれば町に協力している茶店や食事どころでのお話タイムとなる。
 そこから先は連絡先を交換するもよし、気が合わなければ別の人を探すもよし。個人にまかせられることになる。

 一定額の金銭を徴収することで町は臨時収入を得ることができ、協力店は参加者たちが支払う代金で潤い、出会いをもとめる男女には機会が与えられ、と大城が考えたイベントはまずまずの成功をおさめるように思われた。

 イベント参加希望者が百人を突破するまでは、の話ではあるが。

 なにしろ出会いの機会を作りたいわけであるから、男女の参加者の比率が大幅に違ってしまっては困る。
 応募開始その日に男性側の参加者数は限界点を突破し、二日後には女性側の参加者も募集人数に達してしまった。
 近隣の村や町に出会いをもとめている女性たちは案外多く住んでいたということだろうか。

「どうするんですか、こんなたくさんの人数。役人だけでは警護の手がたりません!」
「参加者の中には志体を持っている者もいますよ! 万が一この人たちが暴れるようなことになったら大事ですよ!」
 大城の前で役人たちが大騒ぎしている。大城も頭を抱え込んでいた。
 イベントは大成功になりそうだが――。
「念のために開拓者ギルドの方に手を貸してもらえるよう頼んでおくか」
 そう言うと、彼は部下の役人を開拓者ギルドに走らせたのだった。


■参加者一覧
利穏(ia9760
14歳・男・陰
シルフィール(ib1886
20歳・女・サ
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
サガラ・ディヤーナ(ib6644
14歳・女・ジ
リィズ(ib7341
12歳・女・魔
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
熾弦(ib7860
17歳・女・巫


■リプレイ本文

●警備体制を整えよ!
 サガラ・ディヤーナ(ib6644)は、うきうきと紺の法被をはおった。
「いろんなお祭りがあるんですねぇ〜‥‥え、違う?」
 ちょっと違うと一緒に警備に当たる仲間につっこまれて、サガラは首をかしげた。大きな道の両端には屋台まで出ていて、祭りと大差ないようにサガラの目には見えている。
 劉 星晶(ib3478)はサガラと一緒にノリノリだった。懐に黒猫の面を忍ばせているのは、イザという時に「謎の黒猫仮面」として出動するためだ。
 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)は、
「出会いというのは素晴らしいものだ」
 と言いながら、朱槍「紅血」の穂先を布で被っていた。ここに「警備役」と書いた布をつけて目印にするつもりである。何かあれば、参加者たちがフランヴェルに声をかけられるように。
 リィズ(ib7341)は、役所に水とそれを入れる袋を用意させていた。その袋の中身に、一つ一つセイドをかけて痺れ薬の効果を付与していく。
「集団お見合い大会とは、なかなか面白いことを考えるね」
 そうつぶやいて最後の一袋に痺れ薬の効果を追加したリィズは、それを仲間たちに配布していく。
 利穏(ia9760)は、役所の人間に男性参加者に配られる青いリボンを求めていた。
「け、決して僕は出会いを求めている訳じゃないですよ!?」
 などと弁解しながら、目立つ位置にそれをつける。本当に出会いを求めているかどうかは本人のみぞ知るところであるわけだが、ひとまず参加者に紛れ込んで警戒するつもりだった。
 シルフィール(ib1886)はやや不機嫌だった。
「なんだって、この私が他人の見合いの手助けしないといけないのかしらね」
 政略結婚で不本意な相手に嫁いだ経験のある彼女にとって、今回の依頼はいろいろと思うところもあるのだが、それはそれ、これはこれである。
 ドレスの上に法被を着るのはアンバランスだと、シルフィールは袖を通さず肩にかけておくことにした。
「かなりの争奪戦になりそうですね‥‥」
 熾弦(ib7860)は、そっと額を押さえる。こういった催しに申し込むという以上、必死な参加者が多いだろうし、場の雰囲気を壊さないように警護する必要があるだろう。難しい依頼になりそうだった。

 準備を整えながら打ち合わせた通り、開拓者たちは大会の会場となっている街へと散っていく。
 フランヴェルは鬼面「悪来」を、顔が見えるように側面に斜めにつけ、戦着流「風流」の上に法被を羽織って「警備役」と書かれた布を穂先につけた槍を高く掲げて大通りへと出た。
「え‥‥、お財布をすられた? 困りましたねぇ」
 開始早々財布をすられたとフランヴェルに話しかけてきた女性は、熾弦が引き取った。武器を見せるように携帯し、開拓者が見回っていると示すことで参加者に紛れ込んでいる犯罪者を牽制したつもりだったのだけれど。
「わかりました。では、ぶつかった人や怪しいそぶりをしていた人の心当たりがあれば‥‥」
 熾弦は女性の話を聞く。とはいえ、状況が状況だ。何人もぶつかったりすれ違ったりしているし、すぐに見つけるのは困難なことになりそうだった。
 超越聴覚を使用している星晶は、傍目からは街の雰囲気を楽しんでいるように見えただろう。星晶の耳には、ありとあらゆる街の喧騒が届いてくる。
「‥‥おやおや」
 星晶の耳に、喧嘩をしている声が聞こえる。星晶は素早く周囲を見回し、手近な家の屋根に飛び乗ると喧嘩の方向へと大きく跳躍して移動を開始する。

●参加者たちを相手に
「‥‥ほら、こんなところで座り込んでいるんじゃないわよ」
 シルフィールは、酔っぱらい、道端に座り込んでいる男の目の前に槍を突きつけてやった。
「はい、まず酔いをさましてくださいね」
 シルフィールと一緒に駆けつけてきたサガラは水を差し出して、酔っ払いの介抱にかかった。
「うるさい! だまれ!」
 介抱されたのに感謝せず暴れ始めた男を、シルフィールは容赦なく叩きのめして、用意の縄で縛り上げた。
「とりあえず役所に連れていきましょう。ここにいても他の人の迷惑になるだけだし」
「ボク、連れていきます」
 シルフィールに代わり、縄の端を取ったサガラは、すみませんー、と周囲を取り囲んでいる人たちに謝りながら役所へと連れて行った。

「誰か! 助けて!」
 若い女性の声が聞こえる。予想通りだと苦笑しながら裏路地を中心に見回っていたリィズはそちらへと急行した。路地に無理やり女性が連れ込まれたり、犯罪者がたむろしたりしている可能性を考えて人通りの少ない場所を警戒していたのがよかったようだ。
 利穏もその声に気がついていた。青いリボンをつけたまま、路地へと駆けつけてくる。できる限り穏便にすませるつもりだった。
「真の伊達男でありますならば、無闇にご婦人方を怖がらせるものではありません」
 路地の入り口で若い男女が揉み合っていた。利穏は、最初はおとなしく声をかける。
 この催しではあくまでも合意の上でお話タイムになるはずだったのだが、男の方が少し‥‥いや、かなり強引だったようだ。
「何だと? 俺が先に目をつけたんだ!」
 青いリボンをつけていたのが逆効果だったらしい。利穏を横入りしてきた参加者と誤解した男は利穏にすごんで見せた。
「‥‥警備を請け負っている開拓者だ。おとなしくしてもらおうか」
 リィズは男に声をかけた。紺の法被は警護の者だと事前に通知されている。男は、リィズを開拓者だと見て取ると、
「こいつが邪魔しようとするんだ!」
 と利穏を指さした。
「彼は参加者ではなくて、こっそり会場を警護している開拓者だよ」
 リィズの言葉に、男は分が悪いと見て逃走しようとする。すかさず男の退路に立ちふさがった利穏は、剣気で男を圧倒しようとした。男は、息を呑んで足を止める。
「‥‥これを飲んでもらおうか」
 闘争心の失せた男に念のため、痺れ薬に変化させた水を男に飲ませてリィズ一人でも対応できるようにすると、彼女は利穏を再び会場警備に向かわせて、自分は男を引っ立てて役所へと向かった。

 熾弦は、取っ組み合いを始めようとしている男二人を仲裁にかかった。どちらが先に美人参加者とお茶をするかで揉めてたらしいのだが、当の彼女はとっくにその場を立ち去っている。
「そんな粗暴な態度じゃ、見つかる相手も見つからないわよ」
 熾弦が仲裁に入ったのはいいのだが、二人とも志体持ちのようだ。熾弦一人で彼らをおとなしくさせるのは難しい。
「うるさいっ!」
 熾弦の言葉も、見事にハモった彼らの耳には届いていないらしい。彼らが暴れれば大事になる。
「熱心なのはいいが心に余裕を持ちたまえ」
 朱槍の先に「警備役」と書いた布を穂先に掲げたフランヴェルが駆けつけてきた。屋根の上からひらりと星晶が飛び降りてくる。
 これで三対二。剣気でフランヴェルは相手を圧倒しながら、星晶と目配せをして男たちを家の壁際へと追い立てる。
「今の君らの姿、ご婦人方の目にどう映るかな?」
 フランヴェルの言葉に、男たちは気勢をそがれたようだった。
「これ以上騒ぎを大きくすると、他の人の迷惑になります。役所へご同行いただくことになりますが、どうしますか?」
 熾弦は、男たちを見回した。
「‥‥わかった」
「‥‥俺たちが悪かった。おとなしくしているなら、まだ参加してていいんだろ?」
 全員を役所へ連行しろと言われているわけではない。反省した様子の彼らは、酔っぱらっているわけでもなさそうだ。次に騒ぎを起こしたら問答無用で連行することを約束させて、一度チャンスを与えてやることにする。
 その場を離れる彼らを見送り、星晶は耳をすませた。悲鳴のようのものが耳をつく。

●蛸のアヤカシ
 広場の方から、悲鳴は響いてきた。
「次は広場へ!」
 星晶の叫びに熾弦とフランヴェルは走り出した。フランヴェルは走りながら呼子笛を取り出した。勢いよく吹き鳴らす。
 星晶は再び屋根の上を飛び移って広場へと先行する。
 星晶の目に、広場の中央を移動している謎の生物が見えた。丸い頭部、八本の足。蛸のように見える。足のうち一本で参加者と思われる若い男の足をつかみ、一本の足を振りあげて周囲の人の方へと伸ばし、残りの足で歩みを進めている。
「どきなさいっ!」
 シルフィールは、人ごみをかき分けて声の方へと向かう。彼女の視線の先、悲鳴が響きわたり、逃げ出してくる人の群れに巻き込まれた。
「開拓者です! 道をあけてください!」
 利穏がシルフィールに合流した。彼もまた呼子笛を吹き鳴らして警護にあたっている開拓者たちに急を知らせる。
「落ち着いてください! 避難はこちらからです! 押さないで!」
 広場にたどりついた熾弦は、逃げ惑う人々を安全な方向へと誘導を始めた。
「皆さん! こちらです!」
 サガラはジャンビーヤを振りかざして、アヤカシを牽制しようとしていた。熾弦と一緒に、参加者たちを安全な道へと避難させる。
「アヤカシは、黒猫仮面が成敗するのです」
 黒猫の面で顔を隠した星晶は、苦無を投擲して広場にいた人を捉えようとした謎の生き物の足を止めた。
「助け‥‥助けてくれっ!」
 アヤカシが移動に使っているのは六本の足。残る一本に掴まれている男が悲鳴をあげる。
 フランヴェルは、槍の穂先を隠していた布を払い落とした。剣気を使ってアヤカシをひるませようとしながら、アヤカシとの距離を一気に詰めた。
 長い朱槍の重量を十分に生かした攻撃を、フランヴェルはアヤカシの足の付け根に叩き込む。
 隼人で俊敏を高めた利穏は、解放された男の前へと飛び込んだ。そして男を後方へと避難させる。鞭のようにしなってたたきつけられたアヤカシの足を、横へ飛び退くことでかわした。
 左右の手に槍を構えたシルフィールは、弐連撃を使ってアヤカシの足を狙って攻撃した。アヤカシが口を動かした。
 シルフィールは、口から吐き出された液体を地に倒れるようにしてかわした。肩から滑り落ちた法被にその液体がかかると、じゅっと音をたてて穴があく。
「‥‥やってくれるわね!」
 続く足による打撃攻撃はひらりとかわして、シルフィールは再度アヤカシに立ち向かう。心がけるのは舞うように美しく戦うこと。
「誘導の人数は足りているようだね‥‥」
 リィズは、サガラと熾弦が誘導しているのを確認すると手にした杖を掲げた。リィズが生み出したウィンドカッターが、アヤカシの足に炸裂した。
 脚絆「瞬風」を十分に活用し、星晶はアヤカシの目の前を縦横無尽に駆け回る。人数で押されてアヤカシは攻撃目標を見失いつつあった。利穏も、アヤカシの足の隙間を巧みにかいくぐってはアヤカシを翻弄している。
 蛸の急所は目と目の間だとフランヴェルは聞いていた。アヤカシの急所が同じかどうかはわからないものの、両断剣を用いてそこを狙う。
 リィズはもう一度杖を掲げる。ホーリーアローで狙うのはアヤカシの頭。シルフィールの槍が右、左、と続けてアヤカシの身体を貫いた。
 続いてフランヴェルが狙い定めた攻撃を繰り出す。アヤカシは崩れ落ちて、少しずつ瘴気へと返っていった。

 アヤカシを退治しても、開拓者たちの仕事は終わったわけではない。熾弦は、怪我をした人たちを集めて手当をした。
 熾弦が手当した中に、警護しながら探していたスリがいたというのは、スリにとっては不幸なめぐり合わせだっただろう。当然すりとった財布を持ち主に返すため、彼も役所へと連行されていった。
「終わりよければ全てよしっ」
 サガラには、お金を払っても大切な誰かを見つけたいという参加者たちの気持ちはよくわからない。けれど、皆が幸せならそれでいいと思う。賑わっている街の様子はわくわくして楽しいし。
 開拓者たちの協力もあり、アヤカシを退治した後は何人かの酔っ払いを保護した程度でお見合い大会は無事に終了した。
 この催しをきっかけに知り合った男女のうち四組が結婚したという噂が開拓者の耳に届いたのは、この依頼から数ヵ月後のことなのであった。