栗と骨
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/21 19:16



■オープニング本文

 安州の都から少し離れた場所――そこに栗を育てている村があった。村の住民たちが共同で育てているのだ。
「そろそろいいんじゃないか? 栗を拾いに行くかね」
 村長が言い出して、手のあいている者が村の端にある栗畑へと向かう。ここは三方を山に囲まれていて、残る一方だけ村に面していた。ここは柵で囲ってあって簡単には入れないようになっている。
「今年の栗も出来がよさそうだからなぁ。亀之介さんも喜ぶだろう」
 村長は言った。亀之介というのは、ここから半日ほど行ったところにある町で『亀屋』という屋号で商売をやっている男だ。和菓子屋や料理店など三店舗を経営していて、この村で収穫された栗の中でも特に出来がいいものは、彼が一括で買い上げてくれることになっている。
 亀之介は、いい品には惜しみなく支払う男であるからこの村にとっても都合のいい契約だった。

「あれ、柵の向こうに何か転がっているぞ?」
「栗のイガにしてはやけに大きいんじゃないか?」
 ぞろぞろと歩いている村人たちのうち先頭に立っていた二人の男が首をかしげる。二人の目には、栗のイガに似た丸い物体がいくつも畑の中に転がっているのが見えていた。ただし、栗のイガにしてはやたらに大きい。中型の犬くらいの大きさはあるのではないだろうか。
 首をかしげながらも二人は柵に近づいていった。もう少し、近づいてみる。
「うわーーーー!!!」
 先に倒れたのはどちらの男だったか。柵の向こうからひゅんひゅんと矢が飛んできて、彼らの胸に突き刺さった。
「アヤカシだ!」
 誰が声をあげたのかもわからない。柵の向こう側から矢を射かけてきたのは、人骨の形をしたアヤカシだった。どこかで拾ってきたのか、ぼろぼろの鎧を身につけ、中には刀を腰にさげているアヤカシもいる。

 悲鳴をあげて村人たちは逃げ出した。柵を越えることができないのか、アヤカシたちはそれ以上追いかけてこない。村の住人たちは一人残らず隣村へと避難した。
 そこから開拓者ギルドへと足の速い者が走らされる。
 だから彼らは知らなかった。柵の向こう側にいるのは、人骨のアヤカシだけではないことを。
 巨大な栗のイガのように見えた物体――それが村人たちが避難している間にもぞもぞと動きだし、体当たりして柵を倒そうとし始めたことを。
 十分な情報を得ることができないままに、開拓者ギルドは開拓者たちをその村へと送り出したのだった。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
水月(ia2566
10歳・女・吟
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
羽紫 アラタ(ib7297
17歳・男・陰
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
ゼクティ・クロウ(ib7958
18歳・女・魔


■リプレイ本文

●アヤカシのあらわれた村
 天河 ふしぎ(ia1037)は、村人が栗を納めているという商人の名前に聞き覚えがあった。もし、同一人物なのだとしたら、今回もおいしい物が食べられるかもしれない。思わず喉がごくりと鳴る。
 その時開拓者たちは村の手前に到着していた。村人全員が脱出した後の村はしんと静まりかえっていて人の気配はまるでない。アヤカシには十分に注意する必要があるだろうが。
「今回は被害をいかに最小限に抑えられるか‥‥ここがポイントかしら?」
 ゼクティ・クロウ(ib7958)は、考え込んだ。相手の数が多いという情報は開拓者ギルドの方から伝えられている。
 それほど素早い相手ではなさそうだという話だったが、やっかいなことに弓矢を使って攻撃してきたらしい。盾になりそうなものを準備できればいい――ゼクティは瞳をこらして、村の中を見回そうとする。

「いがいが‥‥ねえ。栗のバケモノ、だったりして‥‥」
 エルレーン(ib7455)は、村人の話を思い返す。数は不明だが、茶色くて大きくてとげとげした丸い物が転がっていたというのだ。風雅 哲心(ia0135)はエルレーンの言葉に同意した。
「もしかしたらそのイガもアヤカシかもしれん、用心していこう」
 哲心は同行している面々を呼び集めた。
「まずはこいつをやっておく。‥‥迅竜の息吹よ、我らに疾風の加護を与えよ。――アクセラレート」
 彼のアクセラレートにより、皆の俊敏が上昇する。これで敵の動きをかわしやすくなるはずだ。開拓者たちは静まり返った村の中へと足を踏み入れた。
 エルレーンは事前に準備しておいた丈夫な綱でできた網を手に、注意深く歩みを進めていた。アヤカシがこの村にいるというのはわかっている。心眼を用いて敵の接近を察知できるようにしながら、柵や塀などの破損している箇所がないか探していた。
「念には念をってね、一匹だって逃せば大変だからな」
 滝月 玲(ia1409)は、そんなことを呟きながら、せっせと手を動かしていた。取り残されていた荷車を、隣村方面に向いている出入口方面へと移動させる。こうしておけば多少の時間稼ぎ程度にはなるだろう。
 もう栗の時期なのか――とはたから見ればのんきにも思われそうなことを考えながら、鉄龍(ib3794)は敵をもとめて鋭い視線を走らせる。手にした大槍「ドラグーン」ならば、その重量を生かした攻撃が可能だろう。

 瘴索結界「念」を張っていた水月(ia2566)は眉を寄せた。アヤカシの気配を感じ取ることができる。
「わぁ、あれだけ大きかったら、それは亀之介の所にも‥‥って」
 ふしぎが声を張り上げた。ふしぎの視線の先に転がっているのは――栗のいがのように見えなくもないもの。それがもぞもぞと動き出したのだ。
「アヤカシです!」
 言葉少なに水月は、見えた方向を指した。ふしぎが見た丸いもの、それがアヤカシだった。
 敵と知った開拓者たちは、ぱっと散って戦闘態勢をとる。丸いアヤカシの動きと呼応するかのように、目撃情報のあった人骨のアヤカシたちもわらわらと姿を現す。
 羽紫 アラタ(ib7297)は符を構えた。
「式よ、奴らを引き裂く刃となれ!」
 相手が射程内に入るのと同時に、彼の手元から黒い刃が飛び出す。それほど強くもない相手だった。斬撃符をくらったとたん、ばらばらと崩れて地に返る。それには頓着せず、ぎくしゃくとした動きでアヤカシたちが弓を構えた。
「鈍いと言うのが奴らの難点‥‥か。よし、弓を構えられる前に撃って行こう」
 アラタの言葉に、鉄龍は
「骨の方はそれほど強くなさそうだ。俺は丸い方を一体引き受けよう」
 そう宣言して一歩前に踏み出した。

●いがいがとの戦い
「水月さん、離れて!」
 玲の言葉に、水月は家の陰に飛び込んだ。アヤカシの攻撃に注意しながら、仲間たちへと騎士の魂をかける。
「‥‥こっちにおいで!」
 炎魂縛武で剣に炎をまとわせ、エルレーンは茶色のアヤカシの意識を彼女に向けるべく声を張り上げた。エルレーンの背後には、持ち込んだ丈夫な網で補修された壊れた柵。何カ所か壊れた柵はあったのだが、見かけるたびにこうして網を張っておいた。
 まさか、当初現れたとされるアヤカシとは違うアヤカシと対峙することになるとは思ってもいなかったが。勢いをつけて駆けてきたアヤカシを、エルレーンは横に飛ぶことでかわす。柵に突っ込んだアヤカシは、網に絡め取られてもがいた。
 アヤカシのうなり声があたりに響く。その声を聞きつけたのか、もう一体エルレーンの方へと向かってきていた。

 玲は水月の位置を横目で確認し、刀を抜く。作物袋を使って土嚢を作り、アヤカシの退路を断つつもりだったのだがそこまでの時間はなかったようだ。
 彼の方へと駆け寄ってくるのは、ハリネズミのアヤカシ。その背中に生えた針が、空気を裂いて飛んできた。玲は刀を左右に振って、それを全てたたき落とした。アヤカシが次の攻撃を放つ前に、玲はアヤカシの手前へと飛び込んだ。気力で攻撃力を上げ骨法起承拳で太刀をバッティングの要領に大きく振りかぶり、叩きつける。
 エルレーンの張った網の近くが一番周囲への被害は少なそうか。玲はアヤカシを網の方へ誘導するかのように移動し始めた。

 鉄龍は、仲間たちとアヤカシの対決を鋭い目で見ていた。彼の前には一体のアヤカシ。互いの隙をうかがい、どちらも一歩も動こうとはしない。
 鉄龍は、挑発を使った。アヤカシがまんまとそれにのってくる。勢いをつけて体当たりしてきたアヤカシを鉄龍は冷静にかわした。
 どうやらまっすぐに突撃することしかできないらしい、と判断すると大槍を突き出す。攻撃の範囲外から刃物を突立てられて、アヤカシが怒りの声をあげる。
 うなり声とともに弾き出された針も、その重さからは想像もできないほど軽々と宙を舞う大槍によって全て叩き落された。
「オマエの相手ばかりしているわけにはいかないんだ」
 そう呟いた鉄龍は向かってくるアヤカシ目がけ、大槍を突き出す――ドラグーンの巨大な穂先がアヤカシの頭部を砕いた。

 玲は、アヤカシとの距離が開けば太刀で一発喰らわせ、相手の注意を自分に向けながら、網の手前に移動させることに成功した。
 ダメージがきいているのか、防御体勢に入ったのか、アヤカシは丸まって攻撃をやりすごそうとする。
「いつまでも丸まってるとくすぐっちゃうぞ」
 刀を持っていないほうの手をわきわきとさせてくすぐる真似をしてみる。くすぐりに弱いのか否か、そこは不明だがアヤカシは丸い体勢を解くと、玲に噛み付こうとするかのように大きく口を開いた。
「ここでなら大丈夫だな‥‥!」
 玲は、遠慮なくアヤカシを叩きのめしてやる。三度目の攻撃がアヤカシにとどめを刺すことになった。

 エルレーンの前にはアヤカシが一体。網に絡まっているのがもう一体。網に絡まっている方のアヤカシは身体をがたがたとゆすり、どうにか絡まる網から脱出しようとしている。
「ハリネズミさんなら、おとなしく丸まっててよね!」
 網に絡まっていないほうのアヤカシが、背中から針を発射した。
 エルレーンは自分へと向かってきたアヤカシの進路をよく見極めて、素早く刀を振り下ろした。とげとげの間から突き出たアヤカシの頭が一撃で飛び、瘴気へ返っていく。
「もう一体か‥‥まかせておけ!」
 ようやく網を引きちぎることに成功したアヤカシの前に立ち塞がったのは鉄龍だった。鋭く突き出された槍が、アヤカシを一撃のもとに沈めたのだった。

●骨を倒したその後は
「式よ、奴らを引き裂く刃となれ!」
 人骨の姿をしたアヤカシと対峙していたアラタは、再び斬撃符を放った。もう一体、アヤカシが地に沈む。
「響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け――アークブラスト!」
 相手の矢が届くか届かないかのところから狙いすまし、哲心はアークブラストを放つ。雷に撃たれたアヤカシはばらばらになった。
「さぁ、かかってらっしゃい! 彼のものを真まで凍らせ、動きを滞らせよ、フリーズ!!」
 村人たちが逃げ出した時に残された荷車の陰に身を潜め、ゼクティはそこからアヤカシを攻撃していた。彼女の手元から冷気が放たれると、それを受けたアヤカシは動きを鈍らせる。
「雷を、彼のものに向って降らせよ! サンダー!」
 ゼクティさらにサンダーをお見舞いして、とどめをさす。矢が飛んでくれば、荷車の陰に身を潜めてやり過ごす。遠慮などせず、続けざまに魔術をくらわせてやった。
「その動きでは僕に矢なんて当てられないんだからなっ!」
 ふしぎが飛び出し、早駆で一気にアヤカシたちの中に飛び込んだ。そして夜で周囲の時をとめた一瞬のこと。
「みんな纏めて瘴気に帰れっ‥‥空賊忍法乱れカマイタチ!」
 血刀を天に掲げたふしぎは、必殺の風神を繰り出した。そして刀を縦横無尽に振り回し、周囲のアヤカシをばたばたと屠っていく。
 ゼクティの手元から発せられた氷が、アヤカシたちの動きを鈍いものへと変化させる。そこへすかさず哲心が電撃を叩きつける。アラタの斬撃符が黒い刃となってアヤカシを切り裂く。ふしぎの周囲では、仲間たちの攻撃魔法がそれぞれの敵を沈めていた。

「一応、討ち漏らしがないか確認してきますね」
 水月は、アヤカシを探知する結界を張ったまま村内を一周して敵が残っていないかを確認した。何しろ数が多い。撃ち漏らしている可能性がないとは言いきれないのだ。
無事に全滅させたことを確認して、水月はそっと息をついた。

 アヤカシ退治が終わったことを聞いた村人たちが村へと戻ってくる。
「亀屋さん‥‥、有名なのですか?」
 水月は村人たちに亀屋の話を聞くと、積極的に手伝いを申し出た。
「こんな事になって、村の人も大変だもんね、うん、亀屋に栗を届けるの僕も手伝うよ」
 にっこりとしてふしぎも水月に同意する。開拓者たちは遅れてしまった栗の収穫と、亀之介のところへ届ける作業をついでに請け負うことにした。
 栗を届ければ高い報酬をもらえるか――はたまた秋の味覚をご馳走してくれるのか。
「‥‥できれば、両方だったらうれしいなぁ」
 などと少々図々しいことを考えながら、エルレーンは栗を拾う。村人たちが驚くほどたくさん。
 本来栗を拾うにはイガに生えたトゲに注意しなければならない。注意を払わないですむのは鉄龍だった。竜の鱗に覆われた左手を器用に使い、次から次へと栗を収穫していく。
 玲と哲心も収穫の手伝いに加わり、村人たちも総出で収穫したそれを運んで亀屋に到着したのは、もうすぐ夕食になろうかという時間だった。

「おやおや、開拓者の方が届けてくださったのですか。話は聞いていますよ。村にアヤカシが出たそうですね。あの村の栗がなくては、この時期の商売あがったりですから助かりました」
 亀之介は丁寧に礼をのべると、一行を店の奥へと案内する。座敷を一つ開拓者たちに提供して、彼は従業員に料理の用意を言いつけた。
 やがて運ばれてきた料理に水月は、わあ! と手を叩いて大喜びした。膳には栗だけではなく秋刀魚や茸を使った料理など、秋の味覚が並んでいる。いただきます、と手を合わせると水月は、見た目からは予想もできない勢いで料理を平らげていく。
「わわ、そんなつもりじゃなかったけど、凄く美味しい‥‥ありがとう」
 箸をとったふしぎは満面の笑みだ。
「やはり栗はこの時期が一番美味いな。そして栗飯に限る」
 そう言った哲心の茶碗には、すかわずお代わりの栗ご飯がよそわれた。
「お土産に‥‥本当に? いや、ありがたいな」
 食事の席に着いた玲は、しっかりと弁当箱持参だった。それ一杯に栗をつめてもらって持って帰ることにする。膳に並べられた料理はありがたくいただいた。
「美味いな‥‥あいつも誘ってやれば良かった」
 一人つぶやいて、鉄龍は杯を傾ける。酒も料理も最高だ。
 亀之介のもてなしに十分満足して、開拓者たちは亀屋を後にした。毎回こんな役得がついていればいいのだが――なかなか難しいだろう。
 そして開拓者たちが亀屋を後にした時。鉄龍の荷物の中には、土産の栗を使った和菓子が入っていたのだった。