夏だ浴衣だ盗賊だ!
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/04 19:21



■オープニング本文

 その日、開拓者ギルドを訪れていたのは神主の格好をした男だった。彼はギルドのカウンターに両手をつくと、
「開拓者を頼みたい!」
 と大声を出した。身長は2メートル近く。はっきり言って大男である。肩幅も広く神主というよりは、武人の雰囲気を漂わせている。
彼の名は新条竜之介。安州から徒歩で一日ほど行った町にある青柳神社という神社の神主である。この神社では毎年納涼のための祭りとして、浴衣姿の若い女性が舞台上で土地神へ捧げる舞を舞う通称『浴衣祭り』が開催されていた。
最後には舞へ参加者の中からその年の『女王』が選ばれる。自分が美女だと思う相手に投票し、一番得点を集めたものが『女王』となるのだ。ちなみに『女王』への賞品は、米俵五俵である。

 彼の説明によれば、今年の舞手たちの中に小松屋姉妹と呼ばれる二人の娘がいるのだという。化粧小物を扱う店である小松屋の娘である彼女たちは、姉のおゆうが十六歳。妹のおけいが十五歳。そして二人とも小町娘と言われるほどの美少女である。
 どちらが一番になっても血の雨が降る‥‥ではなくて、この二人を狙っている盗賊たちがいるのだという。

 そんな噂が竜之介の耳に入ったのは、町の飲み屋でのことだった。酒の席での話だからあくまでも噂と言えば噂なのかもしれない。
 けれど、その噂に信憑性を持たせたのは彼らが言っていた『人買い』の言葉だった。近頃、美女や美少女を誘拐しては他国へ連れて行き、遊郭に売り飛ばすという手口が流行っているらしい。
「どうやら、女性の参加者の中に盗賊たちを手引きしようとしている者がいるようでしてね。お金をつまれたのか、二人が出なければ自分が『女王』になれると思っているのかもしれません」
「それはそれは‥‥」
 開拓者ギルドの受付職員も思わず絶句する。
「二人には祭りへの参加をやめて、身を隠すようにと言ったのですが聞く耳持たずでして。米俵がほしいわけでもないようなのですが」
 やはり女性にとって『女王』という響きは魅力的なのだろうか。
「祭りまではあと二日。開拓者さんたちには、祭り当日までの二人の護衛と、祭り当日の警護をお願いできませんか。祭りが終了した後安州から出航する船がいくつもあるので、そのどれかに乗せられやしないかというのが心配なのです」

 それから、竜之介は祭り当日についての説明を始めた。
 まず、舞台は背後に滝がある涼しい場所に作られる。舞台のそれ以外の三方向には、階段状の座席が一応用意されるが、一番上の席にあたってしまうとかなり舞台は見えにくいらしい。
 舞台に向かって左手が舞手の待機部屋。音楽が鳴り始めたらそこから舞台へと出て舞を奉納し、再び待機部屋へと戻る。
 舞が終わった後、投票となり、発表は翌日である。
「開拓者さんたちには舞手もしくはお世話係として女性3名までなら、待機部屋に入っていただくことができます」
 必要であれば、舞は竜之介が教えるという。
「あとは会場の警備をお願いしたい。できるだけ穏便にすませたいのですよ。恐らく二人に手を出すとすれば、祭りが始まる前――もしくは奉納の舞が終わって帰宅する時ではないかと思うのです」
 盗賊たちが素早く他国へ出国するのならば、安州から船に乗るのが一番早いだろう。今回、盗賊が見つからなければ改めてギルドに依頼を出すと言い残して、竜之介は神社のある町へと戻っていった。



■参加者一覧
暁 露蝶(ia1020
15歳・女・泰
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
十野間 月与(ib0343
22歳・女・サ
劉 那蝣竪(ib0462
20歳・女・シ
王 娘(ib4017
13歳・女・泰
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
りこった(ib6212
14歳・女・魔
ラティオ(ib6600
15歳・女・ジ


■リプレイ本文

●探索一日目
 フェルル=グライフ(ia4572)は青柳神社に到着すると、まっすぐに竜之介に会いに行った。
「依頼を受けた開拓者です。お祭りの手伝いに来た竜之介さんの遠縁の巫女ということにしてください」
 フェルルの申し出を受け入れた竜之介は、彼女が神社内を自由に行き来できるように祭りの準備に追われている氏子たちに彼女を遠縁の娘として引き合わせた。
 氏子たちは、彼女の格好に首をかしげた。腰に剣を提げているのだから当然と言えば当然だ。
「これは、祭礼の時に使うものなんですよ。舞を奉納する時にも使うし、ちゃんと刃引きしてあるんですよ」
 とちらりと剣を抜いて見せ、それから
「お祭りでお気付きの点やご相談事があれば、お近くの巫女まで♪」
 と、言い残すと彼女は社務所に向かった。町に散った開拓者たちの情報の取りまとめをここで行うのだ。後ほど町も見回りに行ってみるつもりだ。

 緋神 那蝣竪(ib0462)は、龍之介の紹介状を持って小松屋を訪ねていた。白粉や口紅などが並んで華やかな店の奥へと進み、番頭を呼ぶとすぐに奥へと通される。
 室内ではおゆうとおけいの姉妹が待っていた。双子と言っても通りそうなほどよく似ている。二人とも目のぱっちりしたたいそう可愛らしい娘だった。
「人攫いなんて本当にいるんですか?」
 姉のおゆうが、鮮やかな花の描かれた浴衣を手に問いかける。
「神主さんの依頼もありますし、念のためです。お二人の競争相手になりそうな人とかに心あたりはありませんか?」
 姉妹はそろって首をかしげた。
「千鳥屋のエレナちゃんとか? 美人だし」
 千鳥屋のエレナとは着物を商っている家の娘で、半分ジルベリアの血が流れているらしい。それから那蝣竪は、過去の『女王』たちについても彼女たちに質問を始めた。

 りこった(ib6212)は、竜之介にもらった地図を手に、神社や祭りの実質的な会場になる滝の周囲を見回っていた。
「屋台が出るのがこのあたりっと‥‥」
 もうすでに屋台の準備は始まっていた。りこったは地図に赤い印をつける。おそらく買い物をする客で屋台の近辺は混雑することだろう。
「それから‥‥」
 会場内を見通すことのできそうな場所を探して、りこったはあちこち歩き回る。周辺の人に聞き込みをしてみれば、やはり当日は非常に混み合うらしい。社務所で待機しているフェルルを通じて、情報の共有はしておいた方がよさそうだ。

 その日の夜。王 娘(ib4017)は、竜之介が飲み歩いていたあまり治安のよろしくない地域を歩いていた。目深にフードをかぶり足早に進む。武器はたたんで荷物の中に隠してある。もっとも、ゴロツキ程度に彼女が負けるはずもないのだが。
 あまり柄のよくなさそうな男たちが、酒に酔っては道をうろついている。適度に酔った二人が裏路地へと入り込んでいく。周囲に他の人間の気配がないのを確認してから、王 娘は素早く彼らの背後に忍び寄った。
「おい、最近怪しい集団とか見なかったか?」
「そんな奴ら、いくらでもいるよなぁ」
 酔っ払った男たちはぺらぺらとしゃべる。
「‥‥人攫いとかやりそうな」
 低い声で王 娘はたずねた。男たちは顔を見合わせ、
「いないこともないが、うかつに手を出すんじゃねーぞ」
「殺されるぞ」
 と口々に忠告してくれる。見てくれは悪いが、案外人がいいらしい。
 それでも粘って情報を手に仕入れた王 娘は二人を解放すると、闇の中へと紛れ込んだ。

●探索二日目
 ベルナデット東條(ib5223)は、小松屋近くの茶屋にいた。振袖をまとい、髪に簪を飾って普通の町娘を装っている。
「小松屋さんの姉妹は綺麗ですから、浴衣祭りの女王はどちらかになりそうですよね」
「そうねー、でも、今年は特に美人ぞろいって話だし。千鳥屋のエレナちゃんでしょ、それからうちの隣の茶店で働いてる美弥ちゃんってのもなかなかだし、結果出るまでわからないわよー」
 彼女に茶を運んできてくれた店員は、舞手たちのことをいろいろと教えてくれた。
「あれだけ綺麗だと、変に言い寄ってくる男も多いのではないのですか?」
 ベルナデットの視線の先では、ちょうどおゆうが客を送り出してきたところだった。丁寧に頭をさげて見送っている。
「いないこともないと思うけど、彼女たちはしっかりしてるから」
 あまり不自然にならないよう、そこで話を打ち切ってベルナデットは茶を手に取った。

 ラティオ(ib6600)は、舞手としてもぐりこんでいた。今日、舞手たちが神社の境内に集まって練習しているのだ。
「やっぱり天義とアル=カマルの舞はだいぶ違うわ!」
 昨夜、竜之介に舞を教えてもらった。動きそのものはラティオにとってはそれほど難しくないのだが、美しく見せるのには一工夫してやる必要がありそうだ。
「アル=カマルの舞はどんな感じなの?」
 娘の一人が話に食いついてきた。実際にその動作を見せてやりながら、ラティオは話を舞手の方へと向けていく。
「今年は誰が女王候補なの? やっぱり女王の座は気になるの?」
「そりゃまあねえ、選ばれれば今年一番の美人ってことだもん」
「そう言えば、美弥ちゃんは、去年は二位だったのよね。今年こそって燃えてたけど‥‥」
「今年はどうかな? おゆうちゃんとおけいちゃんがそろって出るなんて思ってなかったもんね」
 聞けば、小松屋はしつけに厳しく、人前に出るのは反対で、去年までは参加を許されていなかったらしい。それから過去の女王たちについても世間話をして、ラティオは社務所へと足をむけた。

 暁 露蝶(ia1020)は、店の集まっている通りを歩き回っていた。昨日に引き続いて調べて回っているのである。
「やっぱりお祭りが近いと、町もにぎわうわね!」
 観光客を装って、適当な茶店に入って話をふる。事前に向かい側の茶店の娘が、舞手として参加することを耳にしたからだ。
「あの子も舞手なの? あんなに綺麗なら付きまといとか大変じゃないかしら?」
「ああ、あの子ね‥‥」
 露蝶が見ているのは茶店の美弥だ。
「最近、いい噂を聞かないねぇ‥‥タチの悪い男友達ができたみたいでさ」
 店では会っていないものの、仕事が終わった後、目つきのよろしくない男と一緒にいるところを何回か見かけたと茶店の女店主は教えてくれた。
 露蝶は、その情報をしっかり記憶すると茶店を後にしてまたぷらぷらと歩き始めた。

 十野間 月与(ib0343)も観光客を装って町の中をうろついていた。ジルベリア風の衣服に身を包み、土産物屋の包装紙にくるんだ木刀を肩からさげた鞄に差しているという念の入れようだ。
「丁度お祭りがあって、屋台が出てるって聞いてきてみたんだけど、どんなお祭りなんだい?」
 団子片手にうろつきながら、彼女はあちこち話を聞いて回る。無知な観光客のふりをして、どんどん治安の悪そうな方へと入り込んでいった。
「どうだい、あたいも飛び入りで参加できるのかい?」
 開店準備をしている店主に月与は問いかけた。
「はっはー、残念だな。飛び入りはないはずだよ。今年は特別にアル=カマルの踊り手が参加するらしいがな」
 ラティオの噂はここまで届いているらしい。優勝候補者は誰なのか等噂話に花を咲かせてから、月与は立ち去った。
「ねえさん、気をつけな。最近このあたりじゃ人攫いが横行しているんだ。あんたみたいな美人は危ないぞ」
 という男には、ありがと! とだけ返しておいて。

●祭りにて
 社務所にいるフェルルのもとに集められた情報を分析するとこうなる。
 確かに柄の悪い連中は大変増えた。
 舞手のうち、怪しいのは千鳥屋のエレナと茶店で働く美弥の二人。千鳥屋のエレナは美人で有名だし、今年は女王奪還に燃えている美弥はたちのよくない男とつき合っているのだという。

 着物の下に暗器を隠した那蝣竪は、小松屋の姉妹を神社まで送り届け、そのまま待機室に入り込んだ。堂々と付き添っているのは親戚の者を装っている彼女だけだが、他の仲間たちも姿を隠しながら警護にあたっている。
 超越聴覚で聴力を高めている那蝣竪は、周囲の舞手たちの会話に耳を傾けていた。ここ数日、そうしてきたように。
 特に注意を払うのは、美弥とエレナの二人だ。彼女たちには動機がある。二人はそれぞれ少しはなれた場所で、やはり付き添って来た者たちと会話を交わしていた。「‥‥舞が終わったら」の言葉が、那蝣竪の耳を捕えた。

 ラティオは、最終チェックと称して舞台と待機部屋を結ぶ通路や舞台そのものを確認していた。万が一、神社内で誘拐された場合、逃走経路があるならば事前に確認しておいた方がいい。
「ここは一応通れそうだけど‥‥」
 違う、とラティオは首をふる。ここでは人目につきすぎる。

「着付けが大変でしょう。お手伝いいたしますね」
 フェルルがすっと近づいてきた。薄い水色に何色もの朝顔が映える浴衣を手際よくラティオに着付けていく。帯は髪の色に合わせた赤だ。
「那蝣竪さんが、『舞が終わったら』という言葉を聞いたって‥‥詳細は不明だけど、気をつけて」
 着付けながら、耳元でささやく。ラティオは他の人たちにはわからないように了解の意を示した。
 その後、フェルルは他の人たちにお茶をいれてやったり、着崩れた衣装を直してやったりと忙しく飛び回っている。ラティオは、他の娘たちと世間話をしながら自分の出番を待っていた。

 王 娘は、猫型の飴細工を手に会場内をうろついていた。やっぱり猫さんは可愛い。
 昨日安州まで行ってみたのだが、盗賊団の船の洗い出しまでは成功しなかった。船に連れて行かれる前にどうにかするしかないだろう。
「あら、飴だなんていいじゃない」
 すれ違った露蝶に言われて、王 娘はぼそりと
「‥‥素性を隠す為だ」
 と、返す。
「今見てきたんだけど、あっちの屋台。ちょっと怪しい」
 露蝶は王 娘の飴細工をつつきながら言った。周囲から見れば、飴について話をしているようにしか見えないはず。
 素早く露蝶は語る。綿飴の屋台の裏にやたら大きな箱が置いてあったのだ。それも二つ。綿飴を作る道具を運ぶためのものかもしれないが、怪しいと言えば怪しい。

 りこったは、事前に確認しておいた高い場所から、混雑している会場を観察していた。怪しい人がいればすぐに知らせなければ。りこったが集めて地図につけた印は、フェルルを通じて昨夜のうちに仲間たちに渡っている。りこったは何事も見逃さないよう、目を皿のようにして監視を続けていた。

●美しき開拓者たち
 全ての舞手の舞いが無事に奉納された。ラティオの舞は観客を魅了し、圧倒的な拍手のうちに終わった。
 舞手たちを見送ったフェルルは、小松屋の姉妹の護衛についている仲間たちに合流した。
 遠縁の者となっている那蝣竪は、迎えに来たふりをして堂々と姉妹とともに歩いて行く。まだ祭り会場は混んでいるため、帰宅する舞手たちは神社の裏手から出る者も多い。姉妹もその道を通って外に出ようとした。
「一人多いな」
「小松屋の親戚だそうだ。ついでにこいつも連れて行けばいいじゃないか」
 竜之介の予想通り、姉妹の帰宅時が狙われた。着物の下に隠した暗器に手をやり、那蝣竪は姉妹を背にかばうようにする。
「あなた達が噂の人攫いですか‥‥その行為、見過ごすわけには参りませんっ」
 フェルルが飛び出した。破邪の剣を構え、剣気で盗賊たちを圧倒する。那蝣竪とともに姉妹を守る位置にフェルルはついた。
「ベルちゃん‥‥お願いっ!」
「穏便に済ませられればいいがな!」
 ベルナデットは、刀を鞘ごと構えた。
「かまうな! やっちまえ!」
「獲物は多い方がありがたいってもんだ!」
 男たちが飛びかかってくる。月与は振り下ろされた刀を木刀で受け止めた。男がひるんでいる隙に、容赦なく腹に蹴りをたたき込んで男をはじき飛ばす。すかさず武器を腰に携えていたナイフに持ち変える。
 月与は、剣気で男たちをひるませ、焔陰で手際よく彼らの攻撃力を奪っていく。月与に武器を持った手を叩きのめされて、盗賊はうめき声をあげた。
「人買いか‥‥情けをかける必要はないな」
 王 娘はフードを払い落とした。逃げようとした男に瞬脚で急接近し、空気撃で転ばせる。
「逃がしませんよっ!」
 りこったは、アイヴィーバインドを使って男たちの動きを鈍らせた。
「祭りに水を差すような真似、無粋な人たちね!」
 露蝶は隠し持っていた篭手を素早く装着して、りこったが動きを鈍らせた男を殴り倒した。彼女と交差するようにベルナデットが飛び込んできて、別の男の腹に刀を鞘ごと叩き込む。

 いつの間にか戦いの物音に、祭りの客たちが集まってきた。開拓者たちが柄の悪い男たちを翻弄している様を遠巻きにして、やんややんやと喝采を送っている。酔っている者も多いらしく、余興のように解釈しているようだ。
 決着はあっという間についた。観客たちの拍手の中、手際よく男たちを捕らえて、開拓者たちは社務所へ男たちを連行した。
 彼らの自供によって、次のことが判明した。露蝶の見つけた箱については、やはり姉妹を押し込めておくためのものだったようだ。違う祭りでも女性を攫っては、その箱に押し込めて、祭りの道具を装って船まで運んでいたらしい。
 女王の座に固執していた美弥は、盗賊団に情報を流していたそうだ。彼女の情報によって、祭りの後の拉致が決められたのだとか。彼女も役人から取り調べを受けることになるだろう。

 結局、今年の女王の発表は行わないことになった。こんなことになっては、誰が女王の座を射止めたとしても問題が発生するだろう。
「奉納の舞はともかく、女王を選ぶのはやめた方がいいかもしれないなぁ」
 竜之介はつぶやく。『女王』の座をめぐって犯罪まで起こったのでは本末転倒だ。来年からは祭りのあり方も考えねばならないだろう。
 彼だけは知っている。本来は舞手の名前しか書かれないはずの投票用紙に、盗賊たちを見事な手際で蹴散らした名前も知らない開拓者たちの特徴を書いて投票したものがちらほら混ざっていたことを。