アヤカシと人の見わけ方
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/22 21:01



■オープニング本文

 ここは理穴の小さな村。以前は、魔の森と境界を接していた地域である。人は森で狩をし、小さな畑を耕して生活していた。大規模作戦の成果によって魔の森が後退してからは、いっそう穏やかな日を過ごせるようになったのである。

 この村である若者が死亡した。彼の名は三太。早くに親を亡くした独り者で、村長がそろそろ所帯を持ってはどうかと勧めていたところだった。彼の方もそれを拒まず、
「適当な相手が見つかったらぜひお願いします」
 と頭をさげて一週間もたたないうちに帰らぬ人となった。雨漏りのする屋根を修理しようと屋根にのぼり、足を滑らせたのである。打ち所が悪かったのか、近所の住民が落ちた三太に駆け寄った時にはもう息をしていなかった。

 ところが葬式の準備をしている最中に、彼は息を吹き返した。この村は土葬が基本である。埋めてしまう前に息が戻ってよかったよかった――と、皆安堵した。朴訥な人柄の彼は目立つ存在ではなかったが、村中の人間から愛されていたのである。

 ――ところが、だ。
 息を吹き返した後の三太の様子がおかしいと村長の妻が言い始めた。以前から口数の少ない男だったが、近頃の彼は無口などというものではない。
「おはよう」
 と朝声をかけても、会釈一つ返さず行ってしまう。昼間は畑を耕し、日が暮れれば家に戻る。その生活自体は以前とは変わっていないのだが、何かが違う。あえて言うならば、身にまとう空気が。
 むろんそれだけで怪しいと決めつけるわけにはいかないのだけれど、人がアヤカシに乗っ取られたり、死体にアヤカシが取り憑いたりする例は枚挙にいとまがない。例えば、三太は生き返ったのではなく、アヤカシがとり憑いた死体だったとしたら? でなければ、生き返った後にアヤカシに憑依されたのだとしたら?

 今はまだ村人に犠牲は出ていないが、アヤカシが空腹を我慢できなくなれば手当たり次第に村人たちを食い始めるのは目に見えている。
 しかし、村人たちに三太のことで心配をかけるわけにはいかない。もし、事故がきっかけで性格に変化があっただけなのだとすれば、三太の今後の生活にも関わってくる。村長は別件を装って、開拓者ギルドを訪れた。
 表向きの理由は、村の南にある森でアヤカシが目撃されたらしいので退治して欲しいという依頼。
 裏の依頼は、三太(もしくはその遺体)にアヤカシがとり憑いているのかどうか確認してほしいということ。そしてもう一つ。アヤカシにとり憑かれているのだとすれば彼を退治してほしいということ。
 村人たちには全てが終わってから話すのだという。村で待っているという村長を見送って、開拓者ギルドの受付は、開拓者たちを集めるべく掲示板に依頼を張り出したのだった。


■参加者一覧
和奏(ia8807
17歳・男・志
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ


■リプレイ本文

●見わけるためには?
 依頼を受けた開拓者たちは、開拓者ギルド内の一室にいた。ここで作戦会議を開いているのである。
 それぞれの挨拶を終えると、コルリス・フェネストラ(ia9657)が真っ先に口を開く。
「まずは三太さんがアヤカシに憑依されているかどうかを確認し、その後森のアヤカシ退治に向かうという手順でどうでしょう? 森の中に私が罠を設置して、そこに追い込むようにすればこの人数でも対応できると思うのです」
 コルリスの提案は、好意的に受け入れられた。三太がアヤカシに憑かれているというのであれば、森に誘い出してから始末をつければよい。
 メグレズ・ファウンテン(ia9696)は顎に手をあてる。
「アヤカシをおびき出すには、私の『咆哮』が使えるでしょう。手順はそれでいいとしても、確認のための場所が必要ですね」
 村長は、村人の前で戦闘にならないようにとわざわざ念を押していったのだ。アヤカシに憑依されているか否かを村人の目の前で確認すれば、何かあったとすぐに悟られてしまうだろう。
 以前は魔の森と境界を接していた理穴の村であるのだからなおさらだ。それは村へ着いてから、村長と相談することになりそうだ。

 皆の話を聞きながら、和奏(ia8807)は考え込んだ。和奏には、今回の件がどうしても引っかかってしかたないのだ。だから、和奏はゆっくりと口を開く。
「アヤカシの場合は、人を襲うのは本能ですよね?」
 アヤカシというのは常に飢えているものだ。例外は獲物を喰らった直後だけ。それ以外の時は常に飢えていて獲物を探し求めているのだ。
「かなり上位のアヤカシでなければ、その本能を押さえるのは難しいものだと聞いています」
 和奏の言葉は、開拓者たちの耳には真実味を帯びて聞こえた。
 三太が今のような状態になってからどのくらいの日数が立っているのかまでは情報はないが、村長の妻が異変に気づく程度なのだから一日二日ではすまないだろう。それほど長い間、普通のアヤカシが空腹を押さえていられるかと言えば疑問が残る。
「三太さんのお体に支障が出たから、という事ならまだいいんですが」
 サラファ・トゥール(ib6650)は頭に手をやる。仮に相手が空腹感を抑えることのできる上位のアヤカシであるとなれば厄介だ。今回、依頼を引き受けたのは四人。はたしてこの人数で対応できるものなのだろうか。
「森に出るというアヤカシさんも気になりますね」
 和奏はなおも言葉を続ける。
「三太さんに憑いたアヤカシさんが森のアヤカシさんを操っているのか、狼アヤカシさんが三太さんを操っているのか‥‥両者が無関係という可能性ももちろんありますよね」
 アヤカシはよほど清められた場所以外、どこにでも発生するものなのだ。今回二種類のアヤカシが同時にかつ別々に発生していたとしても驚くほどのことではないだろう。
 慎重にやらなければことを仕損じる可能性もある。開拓者たちは、もう一度手順を確認すると問題の村へと出立していった。

●開拓者たちの苦労
 天儀においては精霊魔法による回復技術が普及している。医師の主な役割は病気の治療や、回復魔法では回復させることのできない後遺症の軽減などの技術を提供することとなる。
 これから開拓者たちが向かう村には医者はいないため、和奏は医師を同行させることを提案したのだが、道中の警護の問題もあり先に三太の様子を確認してからということになった。

「アヤカシ退治を承った開拓者です」
 コルリスとメグレズは自分たちの到着を、村人たちへと告げた。
「村長さんとお話をしてから退治にむかいます。こちらに逃げ込むことはないと思いますが、念のために避難していただけますか?」
 三太がアヤカシだった場合――そしてアヤカシか否かの判定の場所で戦闘になってしまった場合に備えての措置だ。
 コルリスの言葉に、村人たちはやりかけの仕事を中断して、それぞれの家へとむかい始めた。
 コルリスは、避難できていない村人がいないか村中を確認して回る。

「どこかで三太さんの状態を私達で確認できそうな場所はありませんか?」
 メグレズは村長の家を訪れた。アヤカシだった場合、退治しなければならない。人目につかない場所に連れ出しやすい場所が必要だった。
「村の外れに昔備蓄倉庫に使っていた建物があります。建物の傷みが激しくて今は使っていないのですが、あの建物なら壊れてもかまいませんし、村の外へ連れ出すのにも楽ではないかと思います」
 村長の言葉に、そこを借り受けることに決定する。
 
 その頃、サラファは村人たちに聞いて三太のいる畑を訪れていた。
「ジプシーのサラファ・トゥールと申します。少し、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
 困惑と思える表情をうかべた三太は確かに言葉は発しないし、反応は鈍い。
 そこへ他の三人が場所の確保ができたことを告げに来る。サラファはヴィヌ・イシュタルを用いた。これで相手の好意を得やすくなる。
「少し、お話をさせていただきたいのです。できれば人の目につかない場所で」
 そのまま開拓者たちは、村長から借り受けた備蓄倉庫へ三太を連れて行った。

「失礼します」
 コルリスは三太の前で頭をさげると弓を手に取った。精神を集中して、弓の弦をはじく。鏡弦で目の前の相手がアヤカシか否かを判断するためだ。
「‥‥アヤカシではなさそうです」
 反応がない、ということはアヤカシではないということになる。
 サラファは用意の筆記用具を取り出した。
「こちらの言っていることはわかるのですね? 言葉が出ないだけですか?」
 メグレズの質問に三太は首を縦にふった。渡された筆記道具を手に、三太はメグレズの質問に答え始める。
『耳が遠くなったみたいで、よく聞こえない』
『しゃべりたくても声が出ない』
 開拓者たちは顔を見合わせた。治療のために一応符水を持参していたのだが、これは符水で治療できる限界を超えていそうだ。
「お医者様に看ていただくつもりはありませんか?」
 その言葉に三太はうなずいた。村長へと結果を報告し、彼の家に三太を預けることにする。
 医師のいる場所まで三太を護衛していくにしても、その前にやらなければならないことがある。森にいるアヤカシの退治だ。

●森の戦い
 メグレズを先頭に、一行は森の中へと分け入っていった。時々コルリスは弓を弾いて、アヤカシの位置を探り出そうとする。
「‥‥見つけました!」
 コルリスの言葉に、一行の表情は一気に厳しいものへと変化した。
「このあたりに簡単な罠を作ります‥‥敵をおびき寄せる時はこちらへ」
 そのあたりにある草や落ちている枯れ枝と紐などを使ってコルリスは簡単な罠を設置した。罠伏りを使って設置してあるため発見されにくくなる。
 
「では行きますよ。皆さん、準備はよろしいでしょうか?」
 皆の確認を取ってから、メグレズは咆哮を使った。おびき寄せられるように狼に姿の似たアヤカシが森の中からその姿をあらわす。数頭‥‥もう少しいるか。
 飛びかかってきたアヤカシを、メグレズはベイル「翼竜鱗」を使って打ち払った。器用にアヤカシの攻撃を交わしながら、そして時に反撃しながら事前に設置した罠の方へと追い込んでいく。
 メグレズの首に喰らいつこうとしたアヤカシを、彼女は半歩引くことでかわし、地面に着陸したアヤカシに態勢を整える暇を与えず、首を跳ね飛ばした。一瞬にしてアヤカシが瘴気へと返っていく。

 戦布「厳盾」を使って、サラファは自分の防御を重視しながらも、喧嘩殺法でアヤカシたちを翻弄する。サラファの動きは素早かった。不安定な足元でも木の根などに足をとられることなく、その動きはまるでアヤカシたちを嘲笑っているかのようだった。味方の死角から飛びかかられないように、そして的確に罠の法へと追い込むように。サラファは全員の位置を把握しながら、敵を翻弄し続けている。

「アヤカシが相手とならば、遠慮はいりませんね」
 サラファをすり抜け、和奏の方へとアヤカシがむかってくる。秋水を使って和奏は反撃する。刀の刃とアヤカシの牙がぶつかって嫌な音が響き渡った。そのまま和奏は踏み込み、今度は白梅香を使って一気に攻める。一体が倒された。
 コルリスは響鳴弓を使って、アヤカシに矢を射かける。矢が命中し、怯んだアヤカシに和奏が斬りつける。もう一度コルリスは矢を放った。目に矢が突き立ったアヤカシが、悲鳴をあげてのけぞる。
 設置しておいた罠へ追い込まれたアヤカシに、容赦なくメグレズは刀を突き立てる。狼たちとの戦闘は、開拓者たち側にはかすり傷程度の怪我を負わせただけで終了した。
 最後にもう一度コルリスがアヤカシの存在を確認する。どうやら全て片付いたようだ。

 無事にアヤカシを退治し終えた一行は、村へと戻ってもう一度村長と面会した。先ほどは時間がなかったため、全てを説明することはできなかったのだ。三太の変化はおそらく頭を強打したことによる後遺症だ。彼らの医療水準では確かなことはわからないが、一度息をしなくなったことも関係しているのかもしれない。
 医師に診てもらうほうがいいであろうと話をすると、村長は顔を曇らせた。神楽の都まで行けば名医に診察してもらえるかもしれないが、なかなかそんな余裕もない。
 一応、理穴の首都奏生まで行って医師を探すということになった。道中の護衛は、開拓者たちが引き受けたのである。
 
 それからしばらくして、開拓者ギルドを通じて三太から連絡があった。やはり一朝一夕に治るようなものではないらしい。気長に治療していくしかないということだった。
 耳が聞こえにくいということさえわかれば、皆彼に対しては大声で話しかけてくれる。以前のように挨拶を無視してしまうこともなくなった。
 しゃべれないのは不便だが、これは辛抱するしかない。それと完全に余談ではあるが、村長の紹介でお見合いしたお嬢さんと結婚が決まったのだとか。
 その話を聞いた開拓者たちは、それぞれに彼の幸せを祝したのだった。