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■オープニング本文 世の中にはもふらさまそっくりのアヤカシが存在するというのは知られていないわけではない。 最近、その亜種――目を合わせるとアヤカシに飛びかかって思う存分もふもふしたくなる――というアヤカシが確認された。このアヤカシは何回か出現したが、そのたびに開拓者たちによって退治されてきたのである。 が、アヤカシの進歩も日進月歩。あっという間にその亜種を超えるアヤカシが出現したのである。 場所は、海水浴客でにぎわうとある海辺。青い海! 白い砂! そこにもふらさまそっくりのアヤカシがあらわれた。もふらさまそっくりのアヤカシは、 「可愛い!」 と抱きつき、もふもふしようとした女性をまず喰らった。あっという間にあたりには悲鳴がこだました。 再び瘴気が集まってもう一体のアヤカシと化し、逃げようとしていた若い男性が次に捕まった。さらに彼を助けようと果敢に立ち向かおうとしたその仲間も。 蜘蛛の子を散らすように逃げようとしていた人たちめがけ、アヤカシは 「くーん、くーん」 と可愛らしい鳴き声をあげた。本物のもふらさまの鳴き声とは違うが、それはアヤカシだからだろう。 その声を耳にしたとたん、何人かが砂浜に向かって駆け戻り始めた。制止の声など耳に入っていないというように。 そして、彼らもまたアヤカシにもふもふすべく突撃し――頭から齧られたのであった。 ただちにその海水浴場は出入り禁止にされた。暑苦しい毛玉たちはどんどんと数を増やし、あっという間に砂浜を占領している。 「この暑い時期に大変申し訳ないのですがねぇ‥‥」 と、開拓者ギルドの受付は、開拓者たちを見回した。 「なんだか奴らはどんどんパワーアップしているみたいです。今回は耳栓持っていった方がよさそうですよ‥‥仲間内の会話もできなくなっちゃいますけどね‥‥」 大切なのはアヤカシと目を合わせないこと。そして鳴き声を聞かないこと。アヤカシの数は十数体いるらしい、という注意事項をのべると彼は開拓者たちをそっと送り出したのだった。 |
■参加者一覧
巴 渓(ia1334)
25歳・女・泰
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
ナプテラ(ib6613)
19歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●暑苦しい毛玉たち 開拓者ギルドの職員たちの手によって封鎖された海岸。 そこに奴らはいた。もふもふふわふわとした毛玉たち。場所が涼しげな浜辺とはいえ、見た目に暑苦しいことこの上ない。 「また出たなりねっ! 此度も全力で倒すなりよっ!」 平野 譲治(ia5226)は、海岸をにらんで右の拳をつきあげた。以前、譲治は目が合うともふもふしたくなるという特性を備えたアヤカシを退治したことがある。前回は完全な勝利だった。今回も全力で倒してやる、と譲治は決めている。 ジークリンデ(ib0258)は、そのもふもふとした毛玉たちを両腕を組んで眺めていた。 「それにしてももふもふを使って人を喰いものにするなど許しがたい所業ですね」 彼女の表情は厳しい。アヤカシたちの毛は水をはじくことが確認されている。取り逃がさないためにも漁師たちから舟を借りておく必要がある。 今回この作戦に参加した開拓者のうち何名かは、陰殻西瓜を持参していた。これは普通の西瓜よりも甘みが強く、美味しいとされ陰殻の貴重な輸出品でもある。 これを漁師たちへのお礼に提供しようということになった。 「では、西瓜は海に入れて冷やしておきましょう」 とKyrie(ib5916)は言った。岩清水も持参している。氷霊結を使えるKyrieならば、戦いが終わった後、皆に冷たい水も振舞うことができるだろう。 「食べていいなりかっ!?」 と、西瓜に目のくらんだ譲治は食い意地のはったところを見せた。 「舟を貸してくれる漁師さんたちへのお礼だってば」 ナプテラ(ib6613)はそんな譲治をたしなめる。 「だってさあ、西瓜なりよっ」 譲治はよだれのたれそうな表情になり――ナプテラにぴんとおでこを弾かれて、 「なぷてらぁぁぁ」 と、表情を情けない物へと変化させたのだった。 砂浜でアヤカシたちを攻撃する者と、海から攻撃する者と二つのグループに別れて行動することにする。 「では私は海へ逃げるアヤカシ達の逃亡阻止と退治に尽力します」 宿奈 芳純(ia9695)はそう申し出た。芳純は、アヤカシの逃亡を阻止するための壁を作ることができる。海側から攻撃する者としては適任と言えるだろう。 舟に乗ることになった芳純とエラト(ib5623)は舟を借りるために漁師を探しに行くことになった。譲治もその後を着いていく。念のために砂浜にもう一隻置いておくことをKyrieは提案し、その分もまとめて借りてくることになった。 「漁師のにーちゃんっ! お船と網を、貸して欲しいのだっ! もふ欲に打ち勝つために必要なのだっ!」 譲治は元気よく漁師たちに話しかける。ちなみにもふ欲とはイコール、もふもふしたい欲求のことだ。顔を見合わせる漁師たちに、譲治は困った顔になる。どう説明したらいいのだろう。 「アヤカシ退治の為、舟と網を貸して頂けませんか?」 エラトが助け舟を出した。アヤカシ退治のためとあっては、彼らが嫌だというはずもない。快く舟と網を提供してくれた。 残った巴 渓(ia1334)は、砂浜のアヤカシたちに鋭い視線を送っていた。人間を捕食しやすくするための擬態としてあんな愛らしい――渓の目には媚びた姿としてうつっているが――を取っているというのならば、そんなことをしても無駄だと身体に叩き込んでやるだけだ。足場が悪いといえば悪いが、恐れるほどのことではない。 海辺の惨劇を知っているものならばまず近寄らないだろうが、ジークリンデは周囲を警戒していた。この世界で暮らす者ならばアヤカシの恐ろしさは十分承知しているだろうけれど――念のため、というやつだ。 さらには高い場所から、アヤカシたちの位置を確認している。どう追い込んでいくのが一番効率がよいかを確認しておくために。 ●毛玉との戦い 舟を借りることに成功した開拓者たちが戻ってくる。渓はエラトに耳栓を貸してほしいと頼んだのだが、もう予備はないという。 「予備の耳栓はないのか? まあ、いい」 渓は不敵な笑みをうかべた。 「不愉快な鳴き声や視線を食らう前に、奴らの頭部を粉砕すればいいだけのことだ」 今回、前衛に立って戦うのに適しているのは渓とナプテラの二人だけだ。ナプテラは舟に乗り込んで海側から接近すると言っているから、浜辺から攻撃をしかける開拓者たちの防御は渓一人で担うことになる。 「まかせろ、キッチリ一頭ずつ片付けてやる」 渓の握りしめた拳は、確かに仲間たちを守りきる自信にあふれていた。 「では、手順をもう一度確認しましょう。まず天鵞絨の逢引を使いますから、最初は耳栓をしないでくださいね」 エラトの申し出で、戦闘の手順を確認することになる。 砂浜側は、エラトと同時にジークリンデがブリザーストームで奇襲攻撃をしかける。渓はアヤカシたちを叩きのめす。 恐らく逃げ出していくであろうアヤカシたちについては、海側から芳純と譲治が二隻の舟の間に網を張って、アヤカシたちを追い込む。網でカバーできないところは、結界呪符「白」で壁を作ってしまう。船に乗り込んでいる二人については、ナプテラが敵の接近を許さないようにする。 これで攻撃する対象を絞り込めるはずだ。耳栓をしてしまっているから、動作は全てジェスチャーで行うことになる。 Kyrieの神楽舞「心」が無駄がけになってしまわないように、意思の疎通はきっちりとはかっておかなければ。 「それでは、行きましょうか」 芳純が一同をうながす。開拓者たちは浜辺側と海側へと別れて歩き始めた。 砂浜から攻撃をしかけるジーグリンデ、エラト、渓、Kyrieの四人は静かに待っていた。もふもふころころとした毛玉たちは、やはり見るからに暑苦しい。 やがて、岩場の影から回り込むようにして二隻の舟がこちらへとむかってくる。 片方の舟には芳純が、もう片方の舟には譲治とナプテラが乗り込んでいる。二隻の間には漁師たちから借りてきた網がつながれていた。 「行きます!」 上から確認しておいた場所へするすると移動したジーグリンデは、ブリザーストームを放った。吹雪が宙を勢いよく駆け抜け、一番手前にいたアヤカシの一団へと命中する。 ジーグリンデがブリザーストームを放つのと同時にエラトはトランペットを構えていた。あらかじめ定めておいた手順どおり、天鵞絨の逢引の旋律が響き渡る。 Kyrieは、精霊武器を手に舞い始めた。ダンススキルを身につけ、自らのパフォーマンスに取り入れるために巫女に転職したというだけあって、彼の動きにはとてもキレがある――が、あいにくとこの状況では彼のパフォーマンスを堪能するというわけにもいかない。 おまけに決めポーズをとった瞬間など、「ポゥ!」とか「ッアウッ!」と叫んでいるというなかなか斬新なことを行っているのだが、ほぼ全員が耳栓着用なので仲間の耳にも届いていないという残念な状況である。 「抱きつきたくなるという衝動はやっかいだな」 渓はぎりっと奥歯を噛み締めると、瞬脚を使って瞬時に敵へと接近する。向き直ったアヤカシが、愛くるしい瞳で渓を見つめようとする。渓はするりとその視線をかわして、相手の死角へと回り込む。 「残念だったな!」 という叫びとともに、アヤカシの後頭部に拳がめり込んだ。 「俺は見てくれがどうだろうが、敵と判断した相手には容赦せん主義だ」 と、宣言しておいてもう一頭の即頭部にすかさず拳を叩き込む。絶破昇竜脚を使った攻撃に、アヤカシは対抗することができず、砂浜に崩れ落ちた。 術士の技を妨害しない様、常に味方の位置を把握しながら渓は足場の悪い砂浜を縦横無尽に駆け巡る。 エラトの重力の爆音やジークリンデのブリザーストームで動きを鈍らされたアヤカシたちは、夜の子守唄で眠りにつくもの達も出始めた。 それ以外のアヤカシは形勢不利を悟ったのか、海めがけて逃げ出していた。 ●夏はこれだね、西瓜最高! 「来ましたね‥‥!」 つぶやいた芳純は、譲治と顔を見合わせた。二人は舟をあやつって、アヤカシたちを逃がさないように慎重に位置を定めていく。耳栓をつかっているだけに、全ての意思の疎通を視線とジェスチャーだけで行わなければならないのがやっかいな点だ。 「ドカーンと気功波、おみまいしちゃうわよ!」 射程圏内に入るのと同時に、ナプテラは気功波を放った。くらったアヤカシが海面でひっくり返り、足が空中でじたばたとする。 「逃がしませんよ!」 芳純は、別の方向へと泳ぎだそうとしたアヤカシの目の前に結界呪符「白」で壁を作り出す。間髪いれず、再び壁が作り出される。そうして二隻の舟の間に網を張って、アヤカシたちを追い込んでいく。 「くーん、くーん」 と、逃げ惑うアヤカシたちは可愛らしい鳴き声をあげた。 耳栓をしていなかった渓は舌打ちして、アヤカシの術への抵抗を試みる。血の味がするまで唇を噛み締め、抱きつきたいという恐ろしい誘惑に打ち勝った。 「逃げられると思われては困りますよ」 芳純は舟を回り込ませて、氷龍を放つ。それに呼応するかのように譲治は雷閃を使った。アヤカシに同時に攻撃が命中して、瘴気へと返っていく。 「海へ入れば逃げられると思ったら大きな間違いですよ!」 ジークリンデは、使う魔術をきりかえた。アークブラストで一気にけりをつけにかかる。雷をくらって、アヤカシは海の中へと沈んでいった。 壁の前で立ち往生しているアヤカシたちには、エラトが重力の爆音をくらわせた。さらに頃合を見計らっては皆に合図し、耳栓を外してもらってから再び天鵞絨の逢引を使う。 砂浜からKyrieは舞で皆を援護する。 「絶対に逃がさないんだから!」 ナプテラは気功波を使ってアヤカシを攻撃し、また相手によっては気功掌へと攻撃方法を切り替えて、確実に敵を屠っていく。 開拓者たちの連携は完璧だった。激しい戦闘でありながらも、重傷者は出さずに戦いの決着はついた。戦いが終わった後、Kyrieと譲治はそれぞれの術で仲間の手当てをしてやる。 「媚びた姿なら人間を騙せると思ったら大間違いだぜ!!」 敵の姿が見えなくなり、渓は毒づいた。 「一応、回収しておくなりよ」 譲治は、念のために瘴気回収であたりの瘴気を回収しておく。芳純は討ち漏らしがないことを目で確認していた。 瘴気の回収とアヤカシが残っていないことの確認を終えて、舟を返しに行った芳純と譲治は、漁師たちを連れて戻ってきた。 「よろしければお納め下さい」 そう言った芳純は、海で冷やしていた陰殻西瓜を漁師たちに手渡す。歓声があがって、あっという間に誰かの取り出した刃物で西瓜が切り分けられ始める。 「西瓜がほどよく冷えていますねぇ」 Kyrieは、容器を借り受けるとそこに岩清水を注ぎ、氷霊結を使った。みるみる容器内の水が氷へと変化していく。 「さあ、皆さんよく冷えた西瓜とお水をどうぞ」 ナイフで氷を叩き割り、彼は仲間と漁師たちに冷たいものを振舞う。暑い日に冷たい水が喉を滑り落ちていくのは最高の贅沢だ。 「よろしければ、お酒もありますよ」 エラトは、葡萄酒を漁師たちのうち一人に手渡した。 「夕やけを見てると、思わずワーッと、さけびたくなるわよね」 両手を腰にあてて海を眺めていたナプテラはつぶやいた。残念ながら、日が沈むまでにはまだいくらかの時間が残っているのだけれど。 「なぷてらっ! 西瓜うまいなりよっ」 ご機嫌で譲治は漁師たちとともに西瓜にかじりつく。 ジークリンデは、犠牲者たちに手を合わせて冥福を祈ると、ともに戦った仲間たちの方をふり返った。 準備よく水着持参だったKyrieは、冷たいものを振舞ったあとは海へと入って泳いでいる。 ジークリンデの頬を、笑みのようなものがかすめる。一つの戦いを終えた今、夏の砂浜でのんびり過ごすというのもいいかもしれない。 海岸にはようやく平和が戻ろうとしていた。 |