狂骨に囲まれた村
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/06 22:42



■オープニング本文

 理穴の首都奏生から離れた東、魔の森に飲み込まれそうになっている地域。そんな魔の森と接した地域にその村はあった。
 森に入って狩りを行い、森の恵に感謝してその日を生きる。村人たちのそんな素朴な生活は、狩りに出かけた若者たちのうち一人が、重傷を負いながらもなんとか村までもたらした知らせによって一変させられた。
 その朝、狩りに出かけた若者は五名。いつものように森に入っていったところ、五体ほどの骸骨に似たアヤカシ――狂骨――の群れに出会ったのだという。
 開拓者でもなければ、アヤカシには対抗できない。彼らは十分にそれを承知していた。
 ありとあらゆる手段を使って、アヤカシを牽制しながら退却の構えに入る。なんとかして、村にアヤカシの出現を知らせなければ。
 狩りに出かけた中で、一番足の速い若者が村に知らせを告げる使者に選ばれた。彼の役目は、何としてでも村にたどり着くこと。
「行け!」
 仲間たちの援護に背を押されて、彼は走り出した。後ろから響く、仲間たちの断末魔の叫びには耳を塞いで。 踏みにじられた枯れ枝が折れる。倒木を勢いをつけて飛び越える。斬りつけられた背中の傷の痛みに気づかないまま、彼は必死に村を目指した。
「アヤカシが……、生き残ったのは……俺だけ……」
 何とかそれだけを言い残して、若者は意識を失った。
「ついにこの村も、魔の森に飲まれてしまうのか……」
 村長は朝、若者たちが向かって行った方角に向かって目を閉じた。いや、そんなことはさせない。彼らは森とともに生きる存在なのだから。
 村長はすぐに決断した。足の遅い子どもや老人もいる。全員を安全な場所まで退避させるのは不可能だ。
 村で一番大きく頑丈にできていて、村人全員を収容できる村長の家に全員を避難させる。そして、開拓者ギルドに助けをもとめることにした。

 開拓者ギルドの受付は、集まった開拓者たちを見回した。
「というわけなんですよ。今村人たちは、村長の家に立てこもって助けが来るのを待っています」
 ついで彼は、青年が命がけで届けた情報を開拓者たちに伝えた。
「アヤカシは五体までは確認できたそうですが、それが全てではないかもしれません。また、特に統制が取れた動きをしていたわけではないようです。森の中に入って行っての戦闘となりますから、いつも以上に注意してください。何人かは、村人の護衛に回っていただくようお願いします」
 気をつけてくださいね、と頭を下げて、彼は開拓者たちを見送ったのだった。
 


■参加者一覧
葛葉・アキラ(ia0255
18歳・女・陰
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
九重 除夜(ia0756
21歳・女・サ
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
赤鈴 大左衛門(ia9854
18歳・男・志
風和 律(ib0749
21歳・女・騎
白梟(ib1664
17歳・男・志
ヤマメ(ib2340
22歳・女・弓


■リプレイ本文

●狂骨に対抗するために
 赤鈴 大左衛門(ia9854)は、感心したように村長の家を見つめた。
「魔の森近くン村の衆ァ胆が据わっとるだスなァ。てェしたモンだス」
 彼がそう言うのももっともで、村人たちが立てこもっている村長の家は見るからに頑丈そうな作りだった。いざという時を常に想定しているのが、家の作りからもうかがえる。
 家の外から声をかけると、村長が出てきた。後からぞろぞろと村人たちも続いて出てくる。開拓者たちの到着に心の底からほっとしたようだ。
 葛葉・アキラ(ia0255)は、ただ一人生き残った若者の元へと案内をもとめた。
「しっかりしぃ! 頑張るンや」
 治癒符で若者の治療を行う。ややあって、若者が意識を取り戻した。
「さっそくだが、狩りに行ったのはどの方角だ?」
 アキラとともに、若者の枕元に膝をついていたキース・グレイン(ia1248)はぶっきらぼうな口調でたずねた。若者がとぎれとぎれに答える。キースはその方向を、村長から受け取った地図に書き込む。
「しっかり休むんやで」
 そうアキラが言って、二人は家を出た。

 家の外では、開拓者たちが村長の家を強化する作業に取りかかっていた。
「これを設置させていただいてもよろしいですか?」
 羅喉丸(ia0347)が示したのは、手分けしてかついできた鳴子だった。その他大工道具や守りの弱そうな箇所を補強するための板なども持参している。
 九重 除夜(ia0756)は、遠巻きに彼女を眺めている村人たちに声をかけた。
「すまないが、少々手伝いを願いたいのだが」
 声をかけられた男たちは、家を内側から強化する作業に取りかかった。壁の弱くなっているところがないか調べ、板で補強する。
 アヤカシを退治するまでこの家を人が出入りすることはない。戸の内側も、味噌の壷やら水瓶やらその他重量のある家具が押しつけられ容易には破ることができないようにされた。
 家の外の作業は開拓者たちが行っていた。いつアヤカシが襲いかかってくるかわからないからだ。
 羅喉丸は、鳴子に使われている板を削って形を変えた。こうやって板の形を変えておけば、どの方向から敵がやってきたのかがわかりやすい。
 彼が板を削っている間、除夜と大左衛門は周囲の警戒にあたっている。村長の家の周囲に鳴子が設置され、外側からも補強を行い、防衛体制はひとまず整った。

「私の『鏡弦』は気休めにしかならない。十分に注意して進んで」
 ヤマメ(ib2340)は、森に入っていくメンバーに注意をうながした。
「全力で走ってきたようだし、森の中に痕跡が残っているはずだ。それを逆にたどるという手もあるな」
 風和 律(ib0749)は、ヤマメの言葉にうなずきながら自分にできることを思案する。
 白梟(ib1664)は胸に手をあてた。狂骨との戦闘は初めてだ。皆の足を引っ張らないように気をつけなければならない。
 ヤマメはもう一度森に視線を向けた。彼女の故郷は魔の森に飲み込まれてしまったが、この村はまだ何とかなるかもしれない。この村が狂骨に壊滅させられるのは、何としてでも止めなければ。

●いざ森の中へ
 一行は、キースを先頭に森の中へ入って行った。森の中は足場が悪い。白梟は足元に注意を払いながら、キースに続く。アキラは人魂で小鳥を作りだした。上空からアヤカシを探す。
 律は若者が走ってきた跡に目をとめた。払いのけられ、折れた枝。踏みにじられた草。彼がどれほど必死に足を動かしたか、ありありと残されている。
 ヤマメも鏡弦で周囲の警戒を怠らない。精神を統一し、何度も弦をかき鳴らす。
 アキラは、横笛を取り出した。やがてこんな状況下ではふさわしくないのではないかと思われるほど軽やかな音が、あたりに響き始めた。
「おーい!」
 キースは笛の音に重ねるように声を出した。笛の音だけではなく、声でもアヤカシを呼び寄せようと言う魂胆だ。
「おーい!」
 白梟もキースにならう。
 ヤマメが眉をひそめた。彼女の精神に触れるアヤカシの気配。もう一度、意識を集中し方角を探ろうとする。
「近くにいるみたいだ‥‥右手前方」
 ヤマメの言葉を聞いて、アキラの小鳥が宙をぐるりと旋回した。指示された方向へと向かう。
「‥‥いた! アヤカシやわ!」
 小鳥から送られてくるアヤカシの居場所。自分たちの前方にいる。
「先制攻撃をしかける?」
 白梟がたずねた。
「そうしよう」
 律が大剣を引き抜いた。白梟も刀を抜いて、戦闘の構えを取る。
「村を背にするように展開した方がいい!」
 不動を使って防御力をあげたキースが前へと出る。ヤマメはあたりを見回した。この場所では、地上で矢を放てば、仲間にあたりかねない。身軽な動作で手近な木に登る。弓に矢をつがえ、アヤカシが現れるである方向に鋭い視線を向けた。

 キースは両手を組み合わせた。指がぽきりと鳴る。
「‥‥油断するな!」
 そう叫んでキースは飛び出した。目の前に刀を右手に持った狂骨が現れる。キースは一気に間合いをつめる。振り下ろされた刀を左腕で払いのけ、膝を腹部に叩き込む。一歩退いた狂骨に再度キースは挑みかかった。蹴り倒し、膝で押さえ込む。そのまま手刀を狂骨の右肩に叩きつけた。骨の砕ける音がして、アヤカシの右腕が根元から落ちる。腕を奪われた狂骨が、キースを払い落とした。キースは地面を数回地面を転がり、素早く立ち上がる。
 そのとたん背後から背中を殴りつけられ、キースは呻き声をあげた。もう一体の狂骨がキースへ攻撃を仕かけたのだ。手に握っているのは棍棒のような武器だ。
「待ってや! 動きを止めるさかい!」
 アキラが呪縛符で生み出した式が、キースを殴りつけた狂骨の身体に絡みつく。式に束縛された狂骨は、振り払おうと必死にもがく。
白梟は、そのアヤカシに挑みかかった。右手の刀で狂骨を肩から斬り下げる。束縛されたままの狂骨が、反撃の刀を振り上げた。その攻撃を左手の刀で受け止め、払いのける。一歩退いて体勢を整え、白梟はもう一度打ち込んだ。呪縛符で束縛されながらも、ぎりぎりのところでアヤカシは白梟の攻撃をかわした。

 律は唇をかみしめた。今の彼女の装備はこの状況には不向きだ。無理に踏み込むような真似はしない方がいいだろう。背後にアキラを庇うような位置につき、大剣をかまえる。アヤカシが間合いに踏み込んできたらすぐに切り捨てる構えだ。
「相手は骨か‥‥やりにくい‥‥」
 つぶやいて、ヤマメは弓を引き絞る。味方に当たらないように慎重に狙いを定めた。周囲の物音がまったく聞こえなくなるほどに意識を集中する。少ないチャンスを逃さないように。
「‥‥今だ!」
 ヤマメは矢を放った。右腕のない狂骨に見事に命中し、体勢を崩す。キースはその隙を逃さなかった。狂骨に飛びかかると、鋭い蹴りを叩き込む。狂骨は地に倒れ、瘴気へと返っていく。残されたのは白骨化した遺体が一つ。

 ヤマメはもう一度矢をつがえた。機会は逃さない。味方の位置と敵の位置を的確に判断し、チャンスと見てとれば次々に矢を放つ。時には放たれた矢が牽制となることもあった。
「かかってくるか?」
 律の口元を笑みに似たものがよぎった。対するのは、彼女と同じように大剣を両手で構えた狂骨。肉の落ちた顔の中で、歯がかちかちと鳴った。狂骨は、彼女の間合いへと入ると頭の上まで大剣を持ち上げる。そのまま真っ直ぐ降ろされた剣を、律は左へと払いのけた。踏み込み、狂骨を斬り下げる。
 肋骨が折れたにも関わらず、狂骨はもう一度律に挑みかかってきた。剣を横に払うわけにはいかない。撃ちかかってきた狂骨を軽く左にステップしてかわし、もう一度剣を振り下ろした。狂骨は全身の骨がばらばらになって地に崩れ落ちた。

 狂骨と打ち合っていた白梟は、左手の刀で狂骨の刀を受け止めた。そのままぎりぎりと相手と力比べになる。力比べに勝利して、白梟は踏み込んだ。巻き打ちを使って、一気に狂骨を叩きのめす。三体目のアヤカシが瘴気へと返った。皆の足を引っ張ることだけはしたくない。一体しとめて、少しだけほっとする。
「大丈夫か?」
 律は、背後にいるアキラを気遣った。
「大丈夫や! もういっちょいくで!」
 もう一体後から現れた狂骨が残っている。こちらは四名。アキラは一度呪縛符を使って敵の動きを押さえ込む。ヤマメの矢が狂骨を射抜いた。キースの拳が骨を粉砕する。律の大剣がとどめを刺した。

「四体、か。もう一体近くにいるのかもしれないね」
 白梟は刀をおさめた。
「もう一度鏡弦を使ってみよう」
 木から降りてきたヤマメはそう言うと、鏡弦を使う体勢を整えた。

●村の攻防戦、そして‥‥
 村に残った大左衛門は、村長の家の前に立っていた。村の入り口にあたる方向を見守っている。
「こちらには向かってこないようだスなあ‥‥」
 村人たちが立てこもっている村長の家の中はしんと静まり返っている。例外は時おり子どもの泣き声が聞こえてくるくらいだ。それもすぐにおさまるのは、母親に慰められているのだろうか。
「防衛は得意ではないのだがな‥‥」
 村長の家の裏手についた除夜の視線は、そうひとりごちながらも前を見据えている。仮面の下の表情をうかがうことはできない。
 羅喉丸は、自分が削った鳴子をちらりと見上げた。設置場所によって音を変えた鳴子。これが役に立つようなことが起きなければいいのだが。
「‥‥敵か?」
 仮面の下で除夜は目を細めた。間違いない。アヤカシだ。二体。残りはどこにいるのだろう?除夜は大きく息を吸い込んだ。雄たけびをあげ、アヤカシの注意をひきつける。
「来たか!」
「裏から来るとは思ってなかっただス!」
 別方面を見張っていた羅喉丸と大左衛門が駆けつけてくる。狂骨は、二体とも刀で武装していた。
「油断はしない。全力でしかける!」
 羅喉丸は、左の狂骨に玄亀鉄山靠を仕かけた。狂骨に羅喉丸をかわすことはできなかった。刀を振り上げた姿勢のまま胸元に入り込まれ、体当たりと同時に練力を叩きつけられる。狂骨は吹き飛んで、地面に勢いよく激突した。そのまま羅喉丸は後を除夜にまかせ、もう一体の狂骨と対峙する。
「とどめを刺させてもらう!」
 除夜は抜刀して走った。起き上がろうともがいている狂骨に、立たせる隙を与えず一撃で撃破する。
 大左衛門は紅蓮紅葉を使った。槍を風車のように振り回し、狂骨を力任せに跳ね飛ばす。地面に転がった狂骨はすぐさま起き上がると、大左衛門へと飛び掛ってきた。再度大左衛門は狂骨に槍を叩きつけた。
 逃げる隙など与えない。羅喉丸が拳を叩き込んで、全身の骨を砕いた。
「他にもいないか調べてみるだスよ」
 息をつきながらも、大左衛門は心眼を使った。あたりにアヤカシの気配はない。
 ほっとして、それでも気を抜くことなく、三人はもう一度配置についた。

 森へ討伐に入ったメンバーが戻ってきたのは、日も暮れようかという頃だった。アキラと律は、狩りに出かけた若者たちの遺品を手にしていた。森を調べている間に、若者たちが命を落とした場所までたどりついたのだという。
「村の為に命をかけて戦った、立派な騎士たちだからな。無視できるはずがないだろう」
 誰にともなくそう言った律の眼差しは真剣なものだった。
 アヤカシを無事に退治できたと聞いて、村人たちが村長の家から飛び出してきた。
「ありがとう。本当にありがとう」
 村人に両手を取られ、ヤマメはちょっと困った表情になった。何はともあれ、任務は完了だ。

 一夜あけて、村の復旧が始まった。設置した鳴子は、そのままにしておくことになった。必要経費は、村長が自腹をきった羅喉丸と除夜にきちんと手渡してくれたので持ち出しはない。
 その除夜は、村人たちが若者の墓を作る手伝いへと加わっていく。最初はぎょっとされた彼女の面もに、この村の人たちはすっかり慣れたようだった。
 キースは、村を囲む塀を修理している村人たちへと手を貸している。皆、それぞれ自分の持つ技能を村人へと提供していた。
 白梟は、一人生き残った若者を見舞った。
「アヤカシは全て退治したので安心してくださいね」
 そう言うと、若者の目から涙がこぼれた。それ以上は何も言うまい。白梟は若者を残し、静かに部屋を出て行く。
 やがて、開拓者たちが村を出立する時間になった。
 村を出ると、アキラが横笛を取り出した。昨日森の中で奏でたのとは違う悲しい音色が、一行を包み込む。犠牲となった若者たちへ捧げる鎮魂歌だ。
 一番最後にいたヤマメは、もう一度村を振り返った。この村を無事に守りきることができた。失われた彼女の故郷と同じ、魔の森近くで生きる人々の村を。穏やかな笑みを口元にうかべ、ヤマメは皆に追いつくべく足を速めたのだった。