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■オープニング本文 世の中には、もふら様大好き! な人も存在するわけで。もふら様をかわいがり、思いきりもふもふしたい! と思うのもそんな人としては当然のこと。 家畜としてだけではなく、もふら様は愛玩対象でもあるのだ。 そんなもふら様愛好家な人にとっては非常に危険なアヤカシが出現した。 ところは武天。都からは離れた場所であるこの村は、主な産業は農業だった。畑を耕したり、収穫した野菜を運んだりするする時に、もふらの力は非常に役に立つのである。 「帰ったら、ご飯にしましょうね」 「そうだな。もふら様も毛をとかして綺麗にしてやらないとな」 とある若い夫婦が、そんな会話を交わしながら夕暮れの道を帰っている。二人の前方には、収穫した野菜をいっぱいに積んだ荷車をひいたもふら様。 二人はもふら様大好きであり――今、荷車をひいているもふら様も家に帰れば体を綺麗にしてもらって、かわいい洋服を着せて大事に大事にされるのだ。 「そうそう隣のユーディスさんのところに、子もふら様がやってきたんですって」 「うらやましいなあ。もふもふさせてもらいに行こうか」 「時間がたつと大きくなっちゃうものね。明日にでもさっそく行かないと――」 そんな二人が家の前にたどりついた時だった。 家の前に、小さな小さなもふら様がいる。 「きゃー! かわいい! 家で大切にしましょうよ!」 そう叫びながら、もふら様に突進する妻。負けじと荷車を放り出して妻に続く夫。 そして悲劇は起きた。 「以前からもふら様に姿の酷似したアヤカシの出現は確認されていたのですがね」 開拓者ギルドの受付は悩ましげに目頭を押さえた。 「今回のアヤカシについては――その、ちょっと特殊でして」 頭に疑問符をおもいきり浮かべて、彼の顔を見つめる開拓者たち。 「アヤカシと正面から目が合うと――思いきりもふもふしたくなるというのですよ!」 もふら様を思う存分もふもふ。それはあまりにも魅力的過ぎる。 「まあ……相手はアヤカシなのでもふもふしに行ったとたんがぶりとかじられるわけですが」 当初は一体しかいなかったはずが、いつの間にか数を増やしているのだという。 「やっかいな依頼だとは思いますが、みなさんなら大丈夫ですよね?」 果たして大丈夫なのだろうか。開拓者たちは疑問を抱きつつ、ギルドを後にしたのだった。 |
■参加者一覧
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
リーナ・クライン(ia9109)
22歳・女・魔
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
久藤 暮花(ib6612)
32歳・女・砂
シヴェル・マクスウェル(ib6657)
27歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●もふ欲に対抗するために リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)は腕を組んだ。 「を合わせると襲われるもふりたい欲求‥‥いわばもふ欲‥‥これは互いにフォローし合うことで回避するしかないわね」 リーゼロッテは、解術の法を使えるようにしてあるのだが、これで『もふ欲』を押さえることができるのかどうかは出たとこ勝負である。 誰かがアヤカシと視線を合わせてしまったら、無理やり引き剥がして正気に戻すしかないだろう。 「ふむ、小型のアヤカシが10体ばかりか。まあ、なんとかなるだろう」 シヴェル・マクスウェル(ib6657)は、相手をなめた発言をしている。 レティシア(ib4475)は、 「可愛ければよいのです」 と訳のわからない力説をしていた。今回彼女は思いきりもふもふするつもりでいる。 アヤカシをもふもふできる機会などそうそうあるわけではないし、吟遊詩人としてはぜひ後世に語り継がなければ。たとえ多少囓られたとしても。 「ななっ! 村長さんっ! 村のもふらさまをもふもふしちゃダメなりかっ!? きっと、その約束があれば頑張れるのだっ!」 平野 譲治(ia5226)は、交渉ごとはどちらかと言えば苦手なのだが、避難している村長を相手に戦闘終了後のもふらさまとの触れ合いを頼んでいた。 もふらさまに嫌がられない程度に思う存分もふもふをやっていい、との返答に譲治は手を叩いて喜ぶ。 「花さんももふりたいのですがぁ、できれば本場のもふもふを堪能‥‥すぴー」 久藤 暮花(ib6612)は、眠そうな目をこすりながら言った。譲治が交渉してくれたから、戦闘後のお楽しみができたというものだ。 そして譲治はさいころを一つ振って運試しをしてみた。ころん、と転がって出た値は三。 「‥‥思いきり半端なりよ‥‥」 これが吉と出るか凶と出るか。譲治にはまだわからない。 「数は十頭‥‥それから増えた形跡はないのですね? ‥‥地図、お借りできますか?」 和奏(ia8807)は、淡々と準備を進めていた。もふらさまは可愛いとは思うが、あえて危険を犯してまでもふもふしたいかと問われれば、和奏は首をかしげるしかない。 露羽(ia5413)は、和奏の持つ地図をのぞき込んだ。 「このあたりとか、奇襲に適していませんか? ここにおびき寄せられたらまとめて退治できると思いますが」 露羽が指したのは、村の中央にある広場だった。ここならば、周囲の建物に及ぶ被害は最小限ですむだろう。建物の影に身を隠すこともできるわけだし。 リーナ・クライン(ia9109)が話に加わった。 「一箇所に集めれば、攻撃魔法をまとめて叩き込むことができるけど?」 「メテオストライクを使えるようにしてあるわよ」 リーゼロッテは、組んでいた腕をほどいて露羽の脇から地図に目を落とす。 「ここなら、思いきりいけそうね」 露羽の指定した場所に、彼女も異存はないらしい。 「まとめて魔法をかけるというのはいい手ですね!」 レティシアの頭の中での最重要事項はもふもふなのだが、アヤカシ退治も忘れてはいない。地図で仲間の選んだ場所を確認する。 「おびき寄せて全体魔法をかけた後、個別に退治していくのですね‥‥?」 和奏は、手順を頭に叩き込んでいく。そして、和奏は譲治と話をしていた村長のところへと向かった。 「俵とか樽とか、材木とか‥‥道を塞ぐのに使えそうな物をお借りできますか?」 そして借りた資材を使って和奏は、広場へ続く道以外には入れないように道を塞いだのだった。 ●恐ろしきもふ欲 「準備できましたか? ではいきます」 レティシアは、広場に立って、怪の遠吠えを使った。みうーと愛らしく吠え、アヤカシにのみ聞こえる音を響かせる。そしてレティシアは、アヤカシから姿を隠すように広場に面した建物の影に身を潜めた。 広場から少し離れた場所にレティシアの奏でた音楽に気がついたアヤカシたちが姿をあらわした。 アヤカシと目を合わせるとアヤカシめがけて突撃し、もふもふしたくなるらしい。 「逃げる‥‥追いかける‥‥逃げた方がよさそうですね」 広場に至る道に立っていた和奏は、目を伏せ、アヤカシと視線を合わせないようにしながら広場へアヤカシたちを誘導するように走り始めた。 「‥‥ひょっとしてとは思うが、あのころころもふもふが相手か?」 シヴェルは気が抜けたようにつぶやいた。 広場めがけて和奏が走ってくる。その後ろから走って‥‥いや転がってくるように見えるころころした愛くるしいあれ。あれが敵なのか。 ころころ、もふもふ。もふらさまそっくりと言うだけあって、非常に愛くるしい外見である。やっつけるのに気がひけ‥‥いやいややっつけなければならないのだ。 和奏は広場に飛び込んだ。和奏が魔法の圏外に離脱するのを確認して、すかさずリーゼロッテとリーナは視線を合わせる。 「消し炭になりなさい」 リーゼロッテはメテオストライクを広場にたたきつけた。それとタイミングを合わせて、 「無邪気なる氷霊の気まぐれ‥‥吹雪け!」 リーナはブリザーストームを放つ。 「‥‥毛がちりちりにはならないのね」 呪文を終えて、リーゼロッテはつぶやいた。メテオストライクは炎の魔法だ。もふもふの毛がちりちりになればもふもふしたい誘惑もなくなるかと思ったのだが。 「一匹だけ確保させてください〜」 レティシアは夜の子守唄を使って、アヤカシを眠りにかからせる。アヤカシのもふもふを後世に伝えるために、ぜひとももふもふを体験しておかなければ。 レティシアはアヤカシの前に膝をついた。喉や柔らかいお腹、耳のとこや尻尾の付け根。ありとあらゆる箇所を思う存分もふり尽くす。ああ、至福の一時。 「もふもふは後で本物のもふらさまにさせて頂きますから。偽者は消えてくださいね?」 露羽は螺旋を使って手裏剣を投擲した。そして、武器を刀である血雨に持ち替えてシヴェルとともに広場に飛び込む。正面から顔を合わせるわけにはいかない。 シヴェルは猫足を使って背後から接近し、アヤカシに一気に斬りかかる。 「‥‥っと、いかんいかん」 シヴェルは頭をふった。そこに顔を埋めて思う存分もふもふしたい! と一瞬自分がアヤカシを相手にしているのを忘れそうになる。目を合わせないように背後から突撃したというのに! 今回は広場に敵をおびき出しての戦闘であり、仲間たちも広範囲に広がるスキルを使用している。 「真正面に行かないように〜‥‥ていっ」 それに巻き込まれない、かつアヤカシと目が合わないように建物の影から暮花は銃をうつ。 譲治はヴォトカを投げつけた。液体に濡れることによってもふもふ感が減ることを期待したのだが‥‥。 「水をはじいているなり!」 仲間を圏内に入れないように注意しながら、譲治は続けて火輪を放つ。 「燃やすなりっ! 気を付けるのだっ!」 追加のダメージを期待したのだけれど、どうもそううまくはいかないようだ。 しかし、とどめを刺されて一匹が地面に倒れた。 仲間の攻撃の範囲外から暮花は、サリックを使って素早く装填しては弾を放つ、を繰り返していた。そんな暮花の視線の先。 「あらぁ〜。もふ欲がお強いんですねぇ〜」 暮花は微笑ましく見守っているが、レティシアは齧られていたりする。起きるタイミングに合わせて夜の子守唄を使うつもりが、二度目は抵抗されてしまったのだ。もふもふしている本人は齧られていても幸せそうだが、放置しておくのは危険だ。 リーゼロッテは解術の法を使って解除を試みた。 「術効果じゃないんだ‥‥。じゃあ何なのよアレって?」 リーゼロッテは思わずつぶやいた。 露羽は、リーゼロッテの解除が聞いていないのを見てレティシアに近寄った。アヤカシから彼女を勢いよく引き剥がす。 「しっかりしてください! 相手はアヤカシですよ!」 「でももふもふ‥‥」 がくがく揺さぶられて、レティシアは正気を取り戻した。幸い齧られた怪我はたいしたことはないようだ。 ●思う存分もふもふ シヴェルはもふもふしたいという欲求と全力で戦いながらアヤカシを踏みつけた。 「これは正面から見たら洒落にならないな‥‥!」 じたばたするもふらさまそっくりのアヤカシを踏みつけ、動きを封じておいて刃を突き立てる。知らない人が見たらもふらさま虐待に見られかねない光景だ。 「鍛え上げたシノビの技‥‥かわさせはしません!」 逃げ出そうとするアヤカシに向かって、露羽は手裏剣を放って足止めをする。足止めをしたら逃がさない。素早く接近して、刀を突き立てる。 「偽物はさっさと消えなさい」 リーゼロッテはウィンドカッターを放った。真空の刃がアヤカシを切り刻む。 和奏と正面から顔をあわせようとしたアヤカシの前に譲治は、結界呪符「黒」で壁を生み出した。和奏に突進しようとしていたアヤカシが壁に激突する。素早く和奏は壁の後ろに回りこむと、秋水でとどめをさした。 「だ、ダメ‥‥今の私は魔女‥‥。でも、もふもふも気になる‥‥!」 アヤカシと正面から目を合わせてしまったリーナは葛藤していた。もふもふしたい! あの毛に思う存分埋もれてみたい! しばしの葛藤の末。 「だいじょぶ。うん、何も起きてない、たいじょぶ」 リーナは何事もなかったかのように魔杖「ドラコアーテム」を構える。そしてホーリーアローを勢いよく放った。 「ダメだ、負けるな! もふ欲に負けたら終わりだぞ!」 シヴェルはもふ欲と葛藤している仲間たちを叱咤激励した。 「こんなに疲れる戦闘は初めてだぞ‥‥」 シヴェルは思わず嘆息する。そういうシヴェルもアヤカシをもふもふしたいという欲求と戦いながらの戦闘なのだ。日頃の戦闘とは勝手が違う。 そんな苦労がありながらも、開拓者たちはアヤカシを一匹ずつ片づけていった。いろいろな意味で疲れる戦闘だったけれど。 そして何とか全てのアヤカシを片付けて、開拓者たちは村に一泊させてもらうことになった。 「焼き菓子のお味はいかかですかぁ〜? まだまだありますので遠慮なく召し上がってくださいねぇ〜」 暮花は、皆に手作りの干し果実入りクッキーとハーブティーを持参していた。皆にそれらをふるまいながら、もふらさまとの幸せなもふもふタイムに幸せをプラスしている。 「これが本場もふもふのもふふ‥‥ふしゅぅー‥‥」 暮花は、本物のもふらさまに会うのは初めてだった。もふもふした後、そのまま埋もれながら幸せそうな顔をして爆睡している。 譲治は事前に村長と交渉しておいた通り、本物のもふらさまたちに囲まれてご機嫌だった。 「おおっ! おおおっ! もふふ〜♪」 もふもふ。もふもふ。やっぱり本物はいい。 「福利厚生だ。堪能させてもらおう」 アヤカシ――ではなくもふ欲相手に大苦戦だったシヴェルも、もふもふ組だ。 「せっかくだものね。本物を堪能させてもらうとするわ」 リーゼロッテももふらさまとの触れ合いに参加する。 リーナは、そんなもふらさまとたわむれている皆を見てほっこりしていた。この際なので、 「もふもふも悪くないかも」 こっそりと手近にいたもふらさまの毛をなでなでしてみる。あくまでもこっそりと、だ。 「ああ‥‥このもふもふ具合‥‥。本当に幸せです♪」 露羽ももふらさまと触れ合っていた。アヤカシと違って本物のもふらさまはものすごく可愛い、と露羽は思う。 皆がもふもふしている頃、レティシアは、和奏とともに村の後片付けをしていた。幸い建物に被害はなかったのだが、俵やら樽やら材木やら道を塞ぐのに使ったあれこれを元の位置に戻しているのである。 レティシアは、これが終わったら当然もふもふしている人たちに合流して、本物のもふらさまをもふもふするつもりである。アヤカシと本物の違いをぜひ確認しておかなければ。 和奏の方は‥‥もふもふしたいのかどうか自分でもあまりよくわからない。 とりあえず、アヤカシ退治は終了した。開拓者たちはまた新たな戦いに赴くことになるだろう。思う存分もふもふしたその後で。 |