大きい事はいいことだ?
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/20 19:29



■オープニング本文

 近頃世の中には、『デカ盛り』という言葉が存在するそうな。味もさることながら、とにかく盛る。その分量が人気の秘密である。丼からはみ出すほどご飯を盛り、その上に天ぷらをどどんと盛りつけた天丼、推測五人前。値段も量の割には低価格。胃の容量が大きい人の間でもてはやされているらしい。
  
 そんな人間たちの流行を知っているのかいないのか。理穴に、大きいことはいいことだ、なアヤカシが出現した。 アヤカシは常に飢えているものだが、そのアヤカシは、とにかく量にこだわった。子どもと大人を同時に射程圏内におさめれば、大人を食らう。小柄な女性と大柄な男性なら間違いなく男性にいく。どうやら堅い筋肉も、柔らかな脂肪も好物らしい。
 
「困ったものじゃのう……」
 村の長老はため息をついた。アヤカシは森の中にいて、森に踏み込んできた人間を食らっている。
 理穴とはいえ、大規模作戦が決行されて魔の森が後退した地域である。以前よりはアヤカシの出現頻度も減っていたため、気づくのが遅れた。
 魔の森の脅威が衰退した地域ということもあり、最初の一人の時は迷ったのだと思っていた。
 生まれ育った森の近辺で迷うのはおかしな話だと思いながらも、捜索隊を結成したまではよかったが、捜索隊の中で一番大きな男が食われた。
 アヤカシならば村の住民にできることはない。すぐに開拓者ギルドに依頼が出された。

 さっそくやってきた開拓者たちは、細心の注意を払って森の中へと入っていったのだが、やはり食われた。一番大柄な男性と、その次に大柄な女性と。
「申し訳ない」
 その開拓者は、村長の前で頭をさげる。ともに入った仲間たちを失った彼も憔悴していた。
「とにかくギルドに報告して、今度はもっと人数を増やしてもらいます」
 ゆっくりと立ち上がった彼も、ひどい傷を負っていた。
「‥‥お願いします」
 村長はだまって彼を見送った。

 彼の報告を聞いた開拓者ギルドは、すぐに第二陣の用意に取りかかった。今回は三名送って戻ってきたのは一名。
 村長に結果を報告した開拓者――ヨーイチという――も、意識不明には陥っていないものの、重傷を負っていてもう一度出るのは無理そうだ。
「四人からで大丈夫かな‥‥経験を積んだ開拓者なら大丈夫か。今回は前回と違ってアヤカシについても情報はあるし」
 そんなことをつぶやきながら、開拓者ギルドの受付は掲示板に依頼を張り出したのだった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
夏葵(ia5394
13歳・女・弓
志宝(ib1898
12歳・男・志
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
ミル・エクレール(ib6630
13歳・女・砂
クレア・エルスハイマー(ib6652
21歳・女・魔
シヴェル・マクスウェル(ib6657
27歳・女・ジ


■リプレイ本文

●ギルドにて
 開拓者ギルドの廊下を歩きながら、夏葵(ia5394)は、こっそりため息をついた。今回の敵は睡眠攻撃を使うのだという。あちこちで『眠り姫』などと言われてしまうほどに睡眠欲が強い自分が、今回の敵の攻撃を耐えることができるのか彼女には自信がなかった。
「理穴にまたアヤカシか‥‥」
 夏葵の友人であるベルナデット東條(ib5223)は憂い顔だ。彼女たちは、アヤカシについての情報を詳しく聞くためにヨーイチが預けられているギルド内の部屋に向かっているところだった。
「体小さいほうでよかった」
 と、彼女たちの後ろをついて歩いているのは志宝(ib1898)。大きいお菓子なら自分も飛びついてしまうであろうと考えているあたり、まだ子どもなのかもしれない。状態異常攻撃を二種類も使ってくるというのは、厄介な敵だとは思うが、敵のやり口を事前に確認できれば対応方法が検討できるだけありがたい。
「大きいものを優先して狙うなんて、あつかましいアヤカシですわね」
 クレア・エルスハイマー(ib6652)と嘆息して――豊かな胸を揺らせたのだが、今回はさらなる胸の持ち主が討伐メンバーに加わっていた。
 朱鳳院 龍影(ib3148)である。自慢の胸は巨乳を通り越して爆乳と言った方が適切だろう。
「どこの儀でも、アヤカシに悩まされているのは同じ、か」
 今回初めてこのあたりにやってきたシヴェル・マクスウェル(ib6657)だったが、この世界はどこもアヤカシに悩まされているという点では違いがないようだ。
「状況的に勝敗は五分五分というところでしょうか」
 三笠 三四郎(ia0163)は考え込む。相手は開拓者を含む何人をも犠牲にしてきたアヤカシだ。かなりの強敵と言えるだろう。

 ヨーイチが寝かされているのは、ギルド内の奥まった一室だった。入ってきた一行を見て、布団の上に身を起こそうとする彼を三四郎は制する。
「どうぞそのままで‥‥楽にしてください」
 ヨーイチも開拓者だ。聞かれた質問には誠心誠意答えてくれるだろうが、目の前で仲間を殺されているのだ。なるべく刺激せず、安心して話ができるように三四郎は気遣う。
「襲われた時の状況、教えてもらえるかな?」
 ヨーイチの枕元に座ったミル・エクレール(ib6630)が話を切り出した。
「まず先頭に立っていた仲間が食われたんです」
 ぽつりぽつりとヨーイチは話し出した。用心深く進んでいたはずなのに、相手はいきなり木の上から落ちてきた。最初に一番大きい仲間を喰らい、次に二番目に大きな仲間を喰った。その間ヨーイチは――というと。
「あいつの口から吐き出された何かを吸い込んでしまって‥‥」
 アヤカシが仲間を食べている間、ずっと麻痺したまま動けなかったのだという。
「アヤカシの出現前、何か音がしたとか――そういうことはなかったかな?」
 重ねられたミルの問いにヨーイチは首を横にふった。
「すみません、何も覚えていなくて」
「些細な事でもいい。発見場所、相手の行動など気にかかった事を教えてもらえないだろうか?」
 ベルナデットが促す。
「発見したのは森の奥‥‥このあたりですが、その他には特に」
 ヨーイチの指が、地図の一点を押さえる。
「隙を見せる動き――とか、そんなのは気がつきませんでしたの?」
 クレアの質問に、ヨーイチははっとしたように目を開いた。
「偶然かもしれませんが、俺――が麻痺させられた『あれ』を口から吐き出す前に、一度頭をこう」
 彼は肘から指先にかけてを使ってその動きを表して見せた。尾で立ち上がるようにした蛇の姿を形作ってみせる。
「こんな感じで後ろにそらせてました。何かの参考になりますか?」
 それは非常に有益な情報だ。開拓者たちは、彼の与えてくれた情報を忘れないように頭に刻み込む。
「それで、アヤカシは一匹だけだったのかなぁ? 仲間がいたりとかしなかった?」
 志宝の問いには、ヨーイチが見かけたのは一匹だけだったという返事が返ってきたのだった。

●アヤカシを追って
 ヨーイチの話から、やはりアヤカシは身体の大きな者を先に狙うということが裏付けられた。今回のメンバーの中では、シヴェルと龍影は身長もそこそこある。まず狙われるなら、この二人であろうと思われた。
「ふぅむ。大きい人を狙っていくアヤカシか‥‥私はそれほどでもないはずじゃが‥‥胸以外」
 龍影は胸を突き出すようにした。彼女のナイスな胸回りは、確かに重量感たっぷりで大食いのアヤカシには格好の獲物に見えるだろう。
「まあ、狙われるのは私か朱鳳院だろうね」
 そう言ったシヴェルはまるごとこっこを着込んでいた。立派な赤いトサカのついた雄鶏を模した着ぐるみだ。
「ふむ、これなら大きく見せられるし、どうみても旨そうだろう?」
 トサカをふって見せて、茶目っ気たっぷりにシヴェルはウィンクする。着ぐるみを着込んだことで、一回り大きく見える。彼女の方も立派なアヤカシをおびき出す餌になりそうだ。
 二人を囮にするようにして、一行は森の中へと踏み込んだ。
「ふむ、大きい者ばかり狙うとは、随分食いしん坊なアヤカシだな」
 とシヴェルは思ったのだが、身体が大きい分たくさん食べるのは自分も同じだと思い直して苦笑する。

 ヨーイチは気がつかなかったと言っていたが、アヤカシが木の上を移動すれば何らかの気配があるはずだ。ミルは、いつでも撃てるように銃を手に、上の方へと注意を払いながら、用心深く森の中へと進んでいく。
 ベルナデットは武器で足元の草を刈りながら進んでいた。おそらくアヤカシは死角から襲ってくるのだろう。五感を研ぎ澄まし、攻撃されないよう最大の注意を払う。
「もし眠ってしまったら、起こしてくださいね」
 と、夏葵はクレアに頼んだ。睡眠欲に打ち勝つというのは、夏葵にとってはとてもとても大変なことなのだ。
「マジックキャンセルで無効化できるのなら、起こしてさしあげますわ」
 と、クレアは返す。もっともマジックキャンセルが通用するのは自身の行使した魔法の結果だけなのだけれども。
「やはり、木の上が怪しいでしょうか」
 夏葵は、いつでも矢を放てるように矢をつがえた状態で歩いていた。アヤカシが出現したら、頭に続けざまに矢を射こんでやるつもりだ。
「奇襲前提で警戒すべきでしょうね‥‥」
 気休めにしかならないかもしれないと思いながら、三四郎は布で口元を覆っている。他にも何人か口元を覆い隠している者がいた。これでアヤカシの吐き出す麻痺攻撃に対応できればよいのだが――あとはなるべく風下に立たないようにするしかない。槍で足元の草を刈りつつ、三四郎は歩み進める。
「やっぱり駄目か‥‥」
 志宝はつぶやいた。心眼を使ってみたのだが、森の中ということもあってあまりにもひっかかってくる気配が多すぎる。アヤカシだけを区別できればいいのだが、生命体全てが察知されてしまうため、ここでは役に立たなかった。

「そこの物陰あたりなど、怪しそうじゃな」
 龍影が軽口を叩いた時だった。がさり、という音がする。開拓者たちは即座に反応した。
 ミルは構えた銃を音のした方へと向けた。藪の中から、巨大な蛇が姿をあらわす。尾で立ち上がるようにしたかと思うと、頭を後ろにそらせた。ミルは引き金を引きかけた手を止める。ミルの位置からでは、龍影に当たりかねない。
「麻痺攻撃――!」
 誰が叫んだのかもわからない。とっさに龍影は口元を腕で覆い隠して後方へと大きく飛んだ。
 アヤカシが口元から、霧のような物を吹き出す。
「しま――!」
 シヴェルの言葉が途中で途切れた。口元をベールで覆い隠し、味方の声に応じて回避行動をとったはず、なのに。身体が麻痺する。動けない。
 アヤカシと正面から目が合って、彼女の背中を冷たい物が流れ落ちた。

●戦い終わって、そして
 ベルナデットは飛び出して鉄傘を開いた。アヤカシとシヴェルの間に立ふさがるようにする。シヴェルを退避させられればよいのだが、対格差を考えると難しいととっさに判断したのだ。守盾術を用いて、受防を上昇させてやる。
「おぬしの獲物は我じゃ! この小ざかしい蛇が!」
 龍影は龍王の誇りとともに咆哮をあげる。アヤカシの注意が、龍影へとむいた。
「ついてくるがいい!」
 龍影は戦闘に適したもう少し開けた場所へと、アヤカシを先導するようにする。龍影に注意をそがれたアヤカシは、彼女を追って動き始めた。

「こ、これで大丈夫なのかしら‥‥? 『我は消す悪霊の足跡』っ」
 クレアは自信なさげにシヴェルへとマジックキャンセルを使う。やはり、自分のかけた魔法以外には通用しないのであった。
「行ってくれ!」
 シヴェルは、ベルナデットをうながした。麻痺した身体も、そう時間がかからないうちに元に戻るだろう。それより戦力ダウンは避けたいところだ。ベルナデットはうなずいて、仲間たちを追って走る。クレアも続いた。

「理穴の安寧の為に眠ってください」
 夏葵は、つがえていた矢を放った。頭部を狙って放たれた矢は、アヤカシの左目に突き刺さる。鷲の目と即射の合わせ技で、次々に矢が彼女の手元から飛んでいく。
「――そこっ」
 ミルは、アヤカシの攻撃を喰らわないよう、やや離れた場所から銃を放つ。狙うのは頭。特殊な攻撃を繰り出す頭さえつぶしてしまえば、あとの戦いはずいぶん楽になる。弾を喰らったアヤカシは、うなるような声をあげて、激しく尾で地面を叩いた。ミルは素早く弾を装填してもう一度狙いを定める。

 龍影が戦闘の場に選んだのは、森の中といえどやや開けている場所だった。
「‥‥いい位置ですね、これは!」
 三四郎は、槍を構えた。この場所なら、十分に槍を振り回すことができそうた。アヤカシの特殊攻撃を喰らわないように風上の位置に着く。
「やっぱり口からつぶしたいよね」
 志宝は、両手に刀を構えてアヤカシに接近する。アヤカシが頭を反らせたのを彼は見逃さなかった。口を開こうとした瞬間、相手の懐に飛び込む。炎をまとわせた刀身で下から突き上げると、刀がアヤカシの口を下から上へと貫通した。
 三四郎の真空刃がアヤカシの胴体を切り裂く。サリックで弾を再装填したミルはもう一度弾丸を敵の頭目がけて放った。
 龍影は、もう敵の注意をひきつけることはしなかった。極北と鬼切を使ってアヤカシの命を絶ちにかかる。
「この一閃‥‥受けてみよ!」
 居合を使ったベルナデットの刀が宙に煌めく。
「私の怒りは爆発寸前ですわ! 『これで終わりよ!』」
 危うく出遅れるところだったクレアのファイヤーボールで、火玉を叩きつける。
 立て続けに開拓者たちの攻撃を受けて、アヤカシは身体をのたうち回らせながら地面に倒れこんだ。

 ようやく麻痺が解けて追いついてきたシヴェルはいいとこなしだったと苦笑したが、身を挺して囮になったシヴェルの功績は、開拓者たちは十分にわかっているのだった。負傷者を出さずにすんだのも、彼女と龍影が敵の注意をひきつけたからだ。
「こちらは補食される側だけで、こいつらを食うことは出来ないんだよな」
 麻痺攻撃をくらったシヴェルは、その恨みもこめて口をへの字にした。アヤカシと人間たちの関係は一方的だ――あまりにも。

「理穴はいつになれば落ち着くんだろう‥‥」
 崩れ落ちたアヤカシを見て、ベルナデットはつぶやく。皆が平和に暮らせる世界がくればいいのに。

 夏葵は、アヤカシの出た周囲を捜索していた。被害にあった人たちの遺品を捜し求めて。
「ゆっくり眠れる場所に帰りましょう」
 見つけた遺品に夏葵はそっと手を合わせた。

 クレアは、被害にあった村の村長を訪れていた。
「ご冥福をお祈りいたしますわ」
 ありがとうございました、と手を合わせる村長ににこりとして見せて、彼女は今度は遺族をたずねる。開拓者ギルドに戻ったら、ヨーイチの顔も見に行ってやろう、きっと誰か報告に行っているだろうけれど。

 志宝は、一足先に開拓者ギルドに戻っていた。ヨーイチに、討伐成功の成功を告げる。
「‥‥ありがとうございました」
 不自由な身体を折って、ヨーイチは丁寧に礼をのべる。お互い頑張ろう、と言い残して志宝はその場を後にした。

 開拓者の道は厳しい。きっとこれから先、何人もの死に立ち会うことになるだろう。ヨーイチも志宝も。
 けれど、それが彼らの選んだ道なのだ。アヤカシが存在する限り、開拓者の使命が終わることはない。