踊らせる人形
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/18 17:54



■オープニング本文

 そこは理穴の端、大規模な作戦が終わった後も、魔の森と接している小さな村だった。
 子どもたちが廃屋の中をのぞきこんでいる。アヤカシをおそれ、その家の住人は逃げてしまった後だった。
 逃げる時に持っていけなかった家財のうち金目の品はすべて持ち去られ、住む人のいない家は荒れ始めている。
 窓からのぞき込んでいる子どもたちの視線の先には、高価そうな人形が転がっていた。子どもが抱えて遊ぶのにちょうどいい大きさだ。

「あれ‥‥ほしいな」
 一人の女の子がぽつりと言った。このあたりは貧しく、人形など持っている子どもはほとんどいない。
「いいんじゃない? もう誰も住んでいないしもらっちゃいなよ」
 別の子が彼女をけしかける。
「一人で行くの怖いな‥‥」
 彼女の言葉に、子どもたちは縁側からこっそりと家の中に侵入した。履き物を履いたまま、畳を敷いてある部屋にあがりこむ。
「あれ? もう一個あるよ?」
 窓からのぞいた時には気がつかなかったが、部屋の隅にもう一つ人形が転がっていた。
 どちらも華やかな振り袖――片方は赤、もう片方は青――をまとったおかっぱ頭の少女を模している人形だ。
「あたしも持って帰ろうかな‥‥」
 最初に欲しいと言い出したのとは、別の少女が人形に手をのばしたその時。

 触れてもいないのに、人形の首が動いた。それからゆっくりと畳に手をついて立ち上がる。もう一体の人形も同じように立ち上がった。それから人形たちは子どもたちと正面から対峙した。
「ひ‥‥!」
 子どもたちは、あわてて窓から家の外へと飛び出そうとする。一人が転んだ。
「うわあああああんっ」
 仲間たちから見捨てられて泣き出す子どもに、じりじりと人形は迫り始める。
「助けてー!!」
 子どもの悲鳴が響きわたった。

 開拓者たちを前にしたギルドの職員は少し困ったような表情を見せた。
「ええとですね‥‥今回の依頼なんですが‥‥ちょっとやっかいなんですよ」
 職員が言うには子どもたちの目には高価な人形に見えていたのだが、人形ではなくアヤカシだったというわけだ。
「アヤカシの術にかかると一緒に踊ることになってしまうようです。残された子どもはずっと踊り続けているようですね」
 体力が尽きるまで踊らせ、動けなくなったところを喰らうつもりなのだろう。
「依頼のあった時間からして、子どもの体力が尽きるまで残された時間は多いとは思えません」
 急いでください、と職員は彼らを送り出したのだった。



■参加者一覧
志野宮 鳴瀬(ia0009
20歳・女・巫
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
ルーティア(ia8760
16歳・女・陰
和奏(ia8807
17歳・男・志
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔


■リプレイ本文

●廃屋の前で
 家の周囲をぐるりと一周回って様子を探ってきた和奏(ia8807)が口を開いた。
「全員で踏み込むにはちょっと狭いかもしれませんね。縁側からも玄関からも突入はできそうですが」
 ギルドで聞いた話では六畳が三部屋ということだったのだが、八人がいっせいに踏み込むには少々狭い。
 青嵐(ia0508)は、伸ばした前髪の下で目を細めた。青嵐の視線の先には問題の廃屋がある。子どもの想いを踏みにじるアヤカシは、絶対に許すわけにはいかない。
 ルーティア(ia8760)は、そんな青嵐に興味深げな視線を送る。彼の人形術は、ルーティア自身とは方向性が違いそうだが勉強になりそうだ。戦いの最中でも、学ぶ努力はしておくべきだろう。

「わらわは庭から入ることになるかのう」
 椿鬼 蜜鈴(ib6311)は妖艶なしぐさで、扇を口元にあてる。忍び込む先は廃屋で、うかつに火を使用すれば火事になりかねない。
「出来る事は少ないがの。わらわに出来る事をさせて頂こうかの」
 炎の術も足止めくらいには使えるだろうし、真っ先に廃屋へ突っ込んでいくよりは後方支援に回ったほうがいいだろう。
 杉野 九寿重(ib3226)は、深々とため息をつく。
 子どもが人形に興味示すのはごく当たり前のことだ。それを逆手に取るアヤカシの行動は、断じて許すわけにはいかない。
「いたぶる様にして体力尽きたところを食らうのが明らかですから‥‥」
「女の子の救出を第一、ですね」
 只木 岑(ia6834)は九寿重の言葉を引き取る。廃屋に向けた彼の顔には沈痛な表情がうかんでいる。早く理穴でも落ち着いて生活ができるようになればいいのに。理穴出身の岑としてはそう願わずにはいられない。

「んじゃあ、俺が先に行って敵の注意をひきつけておこうか」
 荒屋敷(ia3801)が囮役へと名乗りをあげる。彼なら咆哮で敵の注意をひきつけることができるし、防御力を高めることもできる。アヤカシの「相手を踊らせる」という攻撃に対しては、志野宮 鳴瀬(ia0009)の神楽舞「護」で対応できるだろう。
 現状を確認して、すばやく作戦を立てる。荒屋敷を囮とすることで基本方針は一致した。子どもを連れ出すのは、和奏が引き受けることになった。
 アヤカシを退治する方が頭を使わなくてもよさそう――などと和奏は思ったのだが、優先順位くらいはわかっている。連れ出す際に暴れたらどうしようかと、和奏は考え込んだ。

 作戦会議を終えて、鳴瀬は今回共に戦うことになっている開拓者たちを見回した。
「準備はよろしいですか?」
 全員の準備が整っていることを確認すると、鳴瀬は全員に加護結界をかけた。開拓者ギルドの情報によれば、アヤカシの術にかかると踊り続けることになるという。抵抗力をあげておくにこしたことはない。
「では――参りましょうか」
 九寿重は、静かに刀を引き抜いた。

●子ども奪還作戦
「一体を外に弾き出す方がいいでしょうね」
 玄関に回った青嵐が言った。
「やってみます。フェイントと秋水の合わせ技で可能でしょうか‥‥」
 和奏はうなずく。
「まずは見通しをよくしないと‥‥」
 岑はつぶやいた。襖が邪魔をして、相手の居場所を見極められないという事態は一番避けたい。何しろ今回の相手は人間の足元をちょろちょろする大きさで、下手をすれば仲間の足を射ることになりかねない。

 鳴瀬は屋内の襖が閉められていることを懸念していたのだが、子どもたちが逃げ去る時に開けっ放しにしておいたらしく、全ての部屋の様子を確認することができた。
 真ん中の部屋から、子どもの泣き声と踊らされる足音が聞こえてくる。さすがに音楽までは聞こえてはこなかった。
「行くぜ!」
 という荒屋敷の声が響き、真っ先に彼が縁側から飛び込む。
 
 和奏は、その声に合わせるようにしてそろっと玄関の扉をひいた。
「ごめんくださいませ」
 と、思わず挨拶してしまったのは育ちのよさ故か。
 同じく玄関に回った岑が先にするりと入り込んだ。青嵐とルーティアも続いて廃屋へと侵入する。

「よーし、俺もお遊びに混ぜて貰おうじゃないの‥‥うおおおおおお!!!!!!!」
 咆哮を使った荒屋敷に、アヤカシの目が引きつけられた。同時に神楽舞「護」で鳴瀬は、荒屋敷の抵抗力をあげようと、庭から援護する。前に出すぎぬよう、そして荒屋敷が術の範囲外に出てしまわぬように鳴瀬は彼との距離を慎重に保つ。

「失礼‥‥しますね!」
 子どもを救出する役の自分まで踊らされてはたまったものではないと、苦心石灰を自分に使用してから和奏はアヤカシのいる部屋に半ば転がり込むようにして飛び込んだ。
 先ほどの会話のように、フェイントを使って目の前にいたアヤカシをけん制する。続いて放った秋水は、アヤカシに間一髪のところでかわされた。アヤカシの注意が子どもからそがれる。
 和奏の主目的は、子どもの奪還であってアヤカシはその次だ。アヤカシには見向きもせず、踊り続けている子どもを抱えあげようとする。
「うわああああああんっ!」
 開拓者たちを見て、救助が来たとわかった女の子の泣き声が大きくなった。それでも彼女の手足は止まろうとはしない。
「少しの間……我慢してくださいね」
 和奏は旗袍で子どもをくるみこんで抱え上げた。荷物のようになってしまうがしかたない。
 和奏は子どもを抱え、戦闘のメインの場となりそうな庭側ではなく、玄関の方へと後退していく。

 後退する和奏と入れ替わるようにして部屋に入った岑は、全ての部屋を区切っている襖を蹴り倒していた。障子、押入の襖も蹴り倒しアヤカシが身を隠せないようにする。どうせ廃屋だ。気にすることはない。
 青嵐は、床の上をころころと動き回る二体の赤い振袖を着た人形と、青い振袖を着た人形に視線を向けた。青嵐は強い意志をこめて、二体の人形を睨みつける――子どもの思いを踏み躙るアヤカシは絶対に許さない。その念をこめて。
「まずは一体を外へ‥‥!」
 青嵐は人形を構えた。傀儡操術――まずは一体を外へ弾き出そうとする。床の上すれすれを飛ぶようにして移動していった人形が、赤い振袖を着たアヤカシに足払いをかけた。
 
 子どもをかかえた和奏は、玄関まで到達した。
「無事でよかった‥‥もう大丈夫だ。自分達と‥‥こいつらがお前を守ってやる!」
 和奏の抱えている旗袍から顔だけのぞかせている女の子にルーティアは言った。
 両の手に天儀人形と西洋人形を構えてルーティアは宣言する。
「よく見ててろよ! こいつらが格好よく戦うところを!」
 今回の事件で、人形のことが怖くなったりしないようにとルーティアは願う。人形は、子どもを笑顔にさせる存在でなければならないのだから。
「そっちが二匹なら、こっちも二体の人形で相手してやるぜ!」
 ルーティアは戦闘態勢に入った。まず使うのは隷役。そして、 青嵐の人形に転ばされた赤い振袖のアヤカシめがけて 天儀人形を突撃させる。
「食らえ、神速の天儀人形!」
 ふらふらと立ち上がりかけた赤い振袖のアヤカシを下から殴り上げた。
「捉えたぜ! 追撃の西洋人形!」
 続いた西洋人形が飛び蹴りをくらわせる。赤い振袖のアヤカシは縁側まで吹飛ばされた。

●廃屋の戦い
 全ての障害物を蹴り倒した岑は弓を構えた。仲間の足を射貫くことなどないよう、発で命中力をあげておく。
 部屋の中を動き回りながら隙を狙うのだが、アヤカシの方も容易には矢を放つことを許さなかった。着物を壁に縫い止められれば、こちらもやりやすいのだが‥‥。

「見目は麗しい様じゃが、如何せん質が悪いのう」
 煙管と扇を手にした蜜鈴は、アヤカシを嘲笑する――相手に通じているかどうかは別として。
 縁側付近へと蹴り転がされた赤い振袖を着たアヤカシが動いた。
「こちらはまかせてください!」
 縁側に飛び乗った九寿重は、刀を振り回すのではなく、付き出すようにしてアヤカシを翻弄しようと試みた。人形のような姿をしているとはいえ、アヤカシだ。人形に瘴気が取り憑いたアヤカシとは違って動きは俊敏だ。素早く九寿重の刀の切っ先をかわし、逆に突撃する。足を攻撃されて、九寿重はよろめいた。
「後ろには行かせません‥‥!」
 九寿重は前に踏み出した。払った刀をアヤカシは飛んで避けた。そして足を滑らせたのか、庭へと転がり落ちる。
「‥‥思ったより‥‥素早いです!」
 九寿重は声をあげ、仲間の注意を喚起する。
「おんし等、逃れられるとでも思うて居ったか?」
 くすり、と笑った蜜鈴は石の礫を生み出す。勢いよく飛んでいった礫が、アヤカシに叩きつけられる。アヤカシはよろめいた。くるりと回って、仲間のいる室内へと戻ろうとする。
「ほれほれ、そう安々と番に戻れると思うな?」
 もう一度、石の礫が叩きつけられた。素早く走りよった九寿重が刀を突き立てる。二度、三度、手足がばらばらと動いたかと思うと、地面に落ち――瘴気の塊となって消えていく。

「なあ!? なんじゃこりゃ!?」
 荒屋敷が奇妙な声をあげた。手足の自由がきかない。手も足もばらばらと奇妙な動き始める。青い振袖を着たアヤカシの術をくらってしまったようだ。
「なんだぁ!?」
 身体の自由を奪われた荒屋敷にアヤカシが体当たりをしかけてきた。予想していたよりひどいダメージをくらって、思わず荒屋敷は声をあげる。

 荒屋敷の方へ注意を向けている青い振袖のアヤカシの近くへと接近して、岑は毛布を取り出した。
「桜の季節です。花とともに散ればいい」
 そうつぶやいて、皆の邪魔にならぬよう周囲とのタイミングを合わせ――アヤカシに上からかぶせてしまう。そのままサクラ形手裏剣で、毛布を畳に固定する。ばたばたと中でアヤカシが動き回った。
「‥‥今のうちです!」
 彼の声に青嵐の人形とルーティアの人形が、毛布の上からアヤカシを攻撃する。
 ルーティアは、天儀人形と西洋人形を交互に繰り出し、アヤカシに逃げ出す隙を与えなかった。毛布越しに攻撃されているアヤカシの動きがだんだんと弱くなっていき――やがて動かなくなり、毛布がくたりと畳に落ちた。
 岑は畳に縫い止めていた毛布をまくってみる。そこには何も残ってはいなかった。

 救出された女の子は、踊らされ、疲れたのかぐったりとしていた。
「おんし、大事ないか?」
 蜜鈴に声をかけられて頷くが、顔に残る涙の後が痛々しい。
「甘いモノを食べれば疲れは取れるそうですよ?」
 そう言った和奏だったが、残念ながら甘い物の持ち合わせはない。
「チョコレート、食べられるかな?」
 岑から受け取ったハート型のチョコレートを口にした女の子は目を丸くして驚いた。こんなおいしい物を食べたことがなかったから。
 まだ泣いた後は残っているものの、笑顔になった女の子を見て岑も笑顔になった。

「気休め程度にしかならないでしょうが」
 そう言った青嵐は、瘴気回収であたりの瘴気を吸収して回る。念のためにこの廃屋には近づかないように、村人たちに言って聞かせておいた方がいいだろう。
 
「とんでもないアヤカシだったぜ」
 そうこぼした荒屋敷と九寿重、そして救出された子どもを並べて、鳴瀬は閃癒を使った。みるみる傷が回復していく。
「ったく、変わったアヤカシもいたもんだぜ。どうせ踊るなら大勢の前で踊らせてくれよ」
 傷を癒してもらった荒屋敷の足がステップを踏み始める。どうやらまだ踊り足りないらしい。
 軽やかにステップを踏む彼を先頭に、開拓者たちはギルドへ報告へ行く者、女の子を送っていく者と別れて歩き始める。
 廃屋はつい先ほどまでアヤカシが暴れ回っていたなどとは信じられないほどの静けさを取り戻していた。