朋友といっしょ!
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/02 18:49



■オープニング本文

 その村は、辺鄙な地にあったが栄えていた。
 なぜならば、その村には効能豊かな温泉が湧いていたからだ。神経痛、筋肉痛、関節痛、疲労回復、美肌、消化不良に便秘に古傷。ここの湯にかかれば、どんな病でも回復するというもっぱらの評判だ。
 長逗留すればなお効果的と村をあげて宣伝したこともあり、最近では一月ほど滞在する金持ちも珍しくはない。
 湯治の客が泊まる宿、家族への土産物を売る店、温泉につかっている時以外の時間をもてあまさないよう楽しめる場所も必要だ。時には、開拓者がアヤカシとの戦闘で受けた傷を癒しに訪れることもある。
 そんなわけで、この村は温泉の恩恵を受けているのである。いや、温泉が枯れてしまえばこの村自体の存続が危ぶまれるほど、温泉に頼り切っている。

「困った‥‥」
 村長は、頭を抱え込んでいた。
 効能豊かな湯を守るため、温泉を使った浴場は、村の外れにある公衆浴場一つのみ。各宿の浴場は、川からひいた普通の水を湧かして使っている。
 ところが、だ。
 その公衆浴場に通じる道にアヤカシが出現したのだ。猫又が二体。それほど強い相手ではないのだが、普通の人間が太刀打ちできる相手ではない。
「やはり開拓者ギルドに依頼するしかないか」
 こうして、開拓者ギルドに使いが走らされた。

「これはこれはいい依頼ですよ」
 開拓者ギルドの受付は、にこにことしながら開拓者達の目の前に依頼の記入された紙を突き出した。
「アヤカシ退治の後は温泉ですから! まあ、湯治場なので普通の温泉より制約はあるんですけどねー。朋友同伴での入浴可の場所はなかなかない気がするんですよー。あははははー。どうなのかなあ、あるのかなあ。というわけで、どうです? 行っちゃいます?」
 妙に気楽な表情で、彼は開拓者達に依頼を受けるか否かをきいたのだった。


■参加者一覧
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
シュヴァリエ(ia9958
30歳・男・騎
アッシュ・クライン(ib0456
26歳・男・騎
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
罔象(ib5429
15歳・女・砲
光河 神之介(ib5549
17歳・男・サ


■リプレイ本文

●まずは一匹
「山の中と聞いていたけど、けっこう栄えているのですね!」
 レティシア(ib4475)は、目をきらきらとさせて露天をのぞきこんだ。興味をそそられる品が並んでいる。祖父から聞いていた温泉街とはこういうものなのか! 素晴らしい!
 レティシアの連れている美しい白銀の鱗を持つ駿龍は、通行人の邪魔にならないよう、かつ建物にぶつからないよう彼女の上空をゆったりと飛んでいた。シュヴァリエ(ia9958)のドミニオンは、のしのしと主の後をついて歩いている。なかなかの甘えん坊らしく時々シュヴァリエの背中を鼻先でつつき、脇の下に頭をもぐりこませて撫でることを要求している。
 罔象(ib5429)は自らの駿龍瓢に乗って空中から地面を見下ろしていた。レティシアの言うとおり、なかなかにぎわっているのが彼女のいる場所からはよく見えた。
 パートナー連れでの入浴が可能な温泉を持つ村とはいえ、三体もの龍が同時にこの村を訪れるのは珍しいことだ。すれ違う人々が驚いたような視線を一行に投げかけ、子どもたちがはしゃいだ声をあげて龍を指さす。
「早くアヤカシやっつけて、のんびり温泉に入りたいよね〜!」
 叢雲・暁(ia5363)は、忍犬のハスキー君の毛皮をもふもふとしながら話しかける。シッポをばたばたとふってハスキー君は、忍犬らしからぬ甘えっぷりで暁の手を舐めた。
「ウィクトーリア」
 アッシュ・クライン(ib0456)は連れのミヅチを呼んだ。
「初陣‥‥緊張しているか?」
 愛らしい瞳で、ウィクトーリアは主を見上げる。緊張の色はまだ見受けられない。
「温泉に入るの楽しみもふっ」
 光河 神之介(ib5549)の連れてきたもふらのもふ助は、のんびりと歩いている神之介の後ろからちょこちょことついてきていた。
「そうだなあ、絆を深めるのはいいかもなっ」
 開拓者ギルドで聞いてきた情報では、それほど厄介な相手でもなさそうだ。さっさとやっつけて温泉を楽しみたいところだ。
 
 アヤカシの出現場所はわかっている。出現個体数も二体ということで、シュヴァリエ、罔象、神之介で一体目にあたり、もう一体は暁、アッシュ、レティシアで対応することが出発前に決められていた。
「アヤカシ発見!」
 暁が叫んだ。
「はりきっていっちゃいますよっ」
 前方に敵の姿を確認したレティシアは、宣言どおりに意欲まんまんで、バイオリンをかまえる。
「騎士の魂‥‥いっきまーす! 」
「こいつらが件のアヤカシか。今後のためにも倒させてもらうぞ」
 アッシュは剣を構えた。
「ウィクトーリア、水柱だ!」
 アッシュの命に従って、ウィクトーリアは体をくねらせる。敵である猫又の足元から激しい水柱が吹き上がった。大量の水に襲われたアヤカシは、平衡感覚を失ってよろめく。
「さっさとやっつけて、温泉行きましょ!」
 暁は、手裏剣を構える。風魔閃光手裏剣を使って投擲されたそれは、眩い光を放ちながら宙を走り、現れた猫又の目をくらませる。
「行っけぇ! ダッシュアタック!」
 暁の声にハスキー君が走り出した。淡く光るオーラがハスキー君の体を包み込む。そのまま猫又に飛びかかり、牙をむいて噛み付いた。
「次は影分身!」
 暁の声はよく通る。ハスキー君が相手を翻弄している間に彼女は、忍刀を構えて走りよる。
 オーラドライブを使ったアッシュは、アヤカシにうちかかった。アヤカシをはさんで反対側から、暁が忍刀をふりかざす。
「曲を変えます!」
 レティシアは演奏する曲を、騎士の魂から奴隷戦士の葛藤へと変更する。防御体制を取れなくなった猫又に、アッシュの攻撃が突き刺さる。かなわないと悟ったのか、猫又は身を翻して逃げ出そうとした。
「フィル‥‥逃がさないで!」
 レティシアに命じられ、空から駿龍が急降下する。退路を断たれた猫又にアッシュが剣をふりおろした。猫又の首が跳ね飛ばされて地面に転がる。
「これが終わったら温泉だからね!」
 同時に暁の忍刀が、アヤカシの胴を貫いていた。猫又は地面に倒れ、瘴気へと返っていく。

●いざ、温泉!
「援護は必要か‥‥?」
 アッシュは、もう一組の方を見やった。もう一組も敵と遭遇し、激しい戦闘を開始しようとしていた。
 
 神之介はもふ助の方をふり返った――共に戦うはずだったのだが――もふ助ははるか遠くまで退避してしまっている。ぷるぷると震えている相棒に、神之介は首をふった。
「仕方ねぇな‥‥、そこで主人の戦いを目に焼き付けてろよ‥‥!」
 一番前に出た神之介は、真っ先に猫又へと飛びかかっていった。
「瓢、右へ移動してください」
 瓢にまたがった罔象は上空にいる。悠然と瓢は命じられた場所まで宙を移動する。罔象はマスケットを構え、シュヴァリエと神之介の動きを冷静に見定めながら、フェイントショットを放つ。そして素早く再装填して、次の機会をうかがう。
 黒く染められた槍斧を構えたシュヴァリエは、神之介と並ぶように立って上段から流し斬りを叩き込んだ。重い攻撃が、猫又の胴をかすめていく。猫又は、悲鳴をあげて飛び退いた。背を丸め、牙を剥いてシュヴァリエを威嚇する。
「おらおら! よそ見している場合じゃないぞ!」
 シュヴァリエに気を取られた猫又に、神之介の太刀が襲いかかる。
「おらおらどうした‥‥! 俺が最初に戦ったアヤカシはもっと強かったぞ‥‥!」
 猫又の爪による攻撃はあっさりとはじき返して神之介は大声で叫んだ。
「瓢、もう少し前方に」
 罔象の指示に従って、瓢は前へと宙を滑るようにして移動する。罔象はマスケットの引き金を引いた。もう一度放たれたフェイントショットに、猫又は足をからませる。
「風呂が待っているんでね、さっさと片づけさせてもらうぞ」
 シュヴァリエの攻撃は、紙一重のところで猫又にかわされた。猫又は後方へ飛びさがり、そのまま逃走を試みる。
「ドミノ、回り込め!」
 シュヴァリエの命令に従って、ドミニオンは素早く相手の退路に立ちふさがった。翼をはためかせて相手を威嚇する。猫又と龍がにらみ合った。一瞬のにらみ合いの後、猫又は向きを変えて別の方向へと走り出そうとする。
「逃がすかよ!」
 ここぞとばかりに、神之介は容赦ない斬撃をあびせかける。
「これで終わりだ!」
 シュヴァリエも負けじと刃を叩きつける。二人の攻撃をまともにくらって、アヤカシは地に沈んだ。
「どうだもふ助‥‥!お前の主人はつえぇだろ‥‥!」
「すごいもふ! 強いもふ!」
 安全地帯から戻ってきたもふ助は、胸を張った神之介に擦りよった。

 戦闘が終わった後は、お楽しみの温泉だ。それぞれの相棒を連れ、開拓者たちは公衆浴場の暖簾をくぐる。
「ええっ!? 水着を着て温泉に入るのですか!?」
 びっくりしたレティシアは、温泉の受付に座っている若い女性にくってかかった。
 祖父から聞いた話では、温泉というのは裸の付き合いをする場所だという話だったのだが。何度も頭の中で温泉作法を繰り返し復習してから来たというのにいきなり話が違う。
「ええ。ここは湯治場ですからね。皆さんに水着の着用をお願いしています」
「むむむ。いきなり想定外です‥‥でも負けないっ」
 裸にならなくてもいいじゃない。ならば、あんなお楽しみやらこんなお楽しみやら、話に聞いたあれこれを実体験してやろうではないか。
「ここは朋友同伴可と聞いているが、龍も大丈夫なのだろうな?」
 シュヴァリエは受付にたずねた。
「ええ、もちろんです。長期間滞在なさるお客様の中には、開拓者の方もたくさんいらっしゃいますからね。どんな相棒さんを連れてきてくださっても問題ありませんよ!」
 受付はえへんと胸をはる。
「ただし、あまり温泉内ではしゃぎすぎないようにしてくださいね。今日は皆さんの貸切になってますけど、龍などがはしゃぐとお湯が全部なくなってしまうかもしれません」
 真面目な顔で彼女はつけたした。
 
「いいね、いいね、この広さ!」
 暁は、浴場をのぞきこんではしゃいだ声をあげた。開放的な露天風呂。かなり広い。
 女湯の方にはレティシアのフィンブルヴェトルと、罔象の瓢、二頭の龍が来ることになるが、二頭同時にお湯に入っても暁とハスキー君がはしゃぎまわるだけの余裕は十分にありそうだ。
「そうとわかれば‥‥ひゃっほーい!」
 暁はさっさと水着に着替えて、ハスキー君とともに温泉へ突入した。

●男湯と女湯と
「お疲れ様でした、瓢。これからもよろしくお願いしますね」
 罔象は、瓢の体をすみからすみまで綺麗に洗ってやる。その横では
「こういうのって家ではできないもんね!」
 泡だらけになった暁とハスキー君がはしゃぎまわっていた。
「ふむふむ‥‥まずは体を綺麗にするのですね!」
 レティシアは他の二人の動作を見習って、フィンブルヴェトルと自分の体に石けんの泡をつける。龍は大きいので大変なのだが、そこは愛の力で乗りこえるのだ。

 一通り体を綺麗にしてから、暁とハスキー君はお湯へダイブ! ばしゃばしゃとお湯をはね散らかしながら、隅から隅まで全力で泳ぎまわっている。
「極楽ってこのことですねぇ‥‥」
 温泉の正しい作法にしたがって、頭に手拭いを乗せ、レティシアは空を見上げた。それから、口を閉じて静かになる。男湯の方から話し声が聞こえてくるのに気がついた。
 いいことを思いついた! とレティシアは手を叩いた。泳ぐのをやめて、休憩に入った暁に声をかける。
「暁さん、どうしたらそのように女性らしい体形になれるのでしょう?」
「うーん、そうだねえ‥‥」
 レティシアは、暁に女性らしい体形についての話題をふった。バストアップについて思いきり語り合いながら、彼女の耳は男湯の反応を探るべく大きくなっている。
「瓢、気持ちいいですか?」
 罔象に撫でられながら、瓢はうっとりと目を閉じてお湯につかっている。お湯の温度もちょうどいい。瓢にとっても気持ちいいようだ。
「ああもう素敵過ぎですっ」
 レティシアは心の旋律で、愛の詩を語りかけながら相棒の鱗の一枚一枚まで丁寧に磨き上げてやる。濡れたままにしておくと凍ってしまって大変だ。

 一方こちらは男湯。
「‥‥ちっちゃくなったもふ!」
 鎧を脱いだシュヴァリエを見て、もふ助は目を丸くした。
「外見から中身は必ずしも判別出来るとは限らない、そう言う事だよ」
「‥‥わかったような‥‥わからないような‥‥もふ?」
 首をかしげたもふ助の反応に、小さく笑ってシュヴァリエは
「ドミノ、こっちへ来い」
 と、ドミニオンを呼ぶ。のしのしと歩いてきたドミニオンは脚を折ってしゃがみこんだ。
「湯に入る時は、綺麗に洗ってからだぞ。いいな?」
 鼻先で思いきりつついてくるドミニオンの首を叩いて、シュヴァリエは手拭いを手に取る。
「力いっぱい甘えるんじゃない。転ぶだろうが。ここは滑るぞ」
 そう言いながらも、丁寧にドミニオンの体を洗ってやる。ドミニオンは気持ちよさそうに甘えた声をあげた。
 神之介はもふ助を呼んだ。呼ばれたもふ助は、ちょこんと神之介の前に腰をおろす。
「どうだもふ助‥‥、気持ち良いだろ‥‥?」
「い‥‥痛いもふっ」
 力いっぱいこすられて、もふ助は悲鳴に近い声をあげる。

「よく頑張ったな。あとはゆっくり身体を休めるとしよう」
 アッシュは、ウィクトーリアとともにお湯に体を滑り込ませた。撫でろと言わんばかりに、ウィクトーリアは主に体を寄せてくる。
「俺もお前も、もっと強くならんとな。これからも修練あるのみだ」
 ウィクトーリアの頭を、アッシュは何度もなでる。ほっとする一時だ。
「あ〜‥‥、気持ち良いな〜‥‥。傷口が染みるがな‥‥」
 思う存分もふりながらもふ助を洗ってやった神之介は、お湯につかって空を見上げる。と、そこへきゃっきゃと笑いあっている声が女湯から響いてきた。
「これは覗きには入らねぇよな‥‥?」
 壁に耳をつけて聞き入る神之介。今壁が崩れたら大変なことになるだろう。

「いや〜、風呂上りの一杯はたまらないねっ」
 冷やしておいた酒をくいっとやって、暁は満足そうに声をあげた。
「やっぱりお風呂上りはこれです! これ!」
「ぷはぁー! ‥‥これで金も貰えるんだから最高だな‥‥‥‥!」
 レティシアとフィンブルヴェトル、神之介ともふ助はそれぞれ並んで牛乳を一気にあおる。
 それから、
「ええっとお土産を買わなければならないのですよね‥‥」
 レティシアは、来る時に見てきた土産物屋を思いうかべた。祖父には地酒、祖母には装飾品。ああそうだ。こんなにいい仕事を回してくれたギルドのお兄さんにも何か買っていこう。やはり温泉饅頭がいいだろうか。
「そろそろ帰りましょうか。きっと次の依頼が待ちかまえていますよ」
 そう皆に声をかけて、罔象は、瓢にまたがる。
 楽しい時間はここで終了。明日からはまた、戦いの日々が続くのだ。