ダイエットしましょ!
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/20 18:41



■オープニング本文

 新しい年の始まりは、いつだって気分が浮き立つものだ。
 今年は何か習い事でもしてみよう、とか。今年こそ恋人を作るぞ、とか。それぞれに目標をたてたりして、それに向けての努力をはじめるのもまた一興。三日坊主に終わることも多々あったとしても、とにかく新年は新しいことを始めるのにはうってつけのきっかけではあるのだ。
 晴れ着を着た人たちが行き交い、街もいつもと違う賑わいを見せている中。

 自室で鏡を前に一人首をかしげている少女がいた。彼女の名前は優花。神楽の都で衣服を商っている店の一人娘である。店はそこそこ繁盛していて、たまにはジルベリア渡りの衣服が入ることもある。
 優花が手にしているのも、ジルベリア経由で入ってきた華やかなドレスだった。店に出すはずだったのだが一目で気に入ってしまい、親に泣きついて定価の七割引という身内特権価格で購入した品である。
「あれ‥‥」
 おかしい。ドレスに体が入らない。
 年末は確かに入った。これを着て一日接客したのだから間違いない。
 それなのに。背中のあたりでどうしてもボタンがとまらない。
「うそぉ‥‥」
 心当たりはある。山ほどある。
 年末年始は両親も店を完全に閉めてのんびりと過ごしていた。地方に住む親戚が神楽の都見物に訪れたりして、毎日がご馳走三昧だった。欲望のおもむくままに暴飲暴食した結果――認めたくはないが太ったようだ。
「こうなったらダイエットするしか‥‥」
 優花は決意した。開拓者ギルドに行こう。

 実は優花は開拓者としての能力を持っている。一応跡取り娘ということで今まで開拓者として働いたことはなかったが、いよいよデビューする時が来たようだ。
 (アヤカシ相手に思いっきり暴れれば、体も心もすっきりするだろうしっ。このドレスが着られないなんて、もったいないわっ)
 優花は開拓者ギルドに駆け込んだ。
 思いきり安直な考えであるが、優花は真剣だ。さて、どの依頼に参加しようか。
 優花は張り出された依頼一覧を見つめる。
 アヤカシの形――蟻に似ている。数――三十匹以上。アヤカシの大きさ――犬程度。出現場所――草原。
 わかりやすい依頼だ。
 それほど強い相手でもなさそうだし、この依頼なんていいんじゃなかろうか。数をこなした方がダイエットにはいいような気がする。
「すみません、この依頼を受けたいと思うのですけど‥‥」
 優花は、開拓者ギルドの受付に声をかけた。


■参加者一覧
柚乃(ia0638
17歳・女・巫
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
クラウス・サヴィオラ(ib0261
21歳・男・騎
小宮 弦方(ib3323
22歳・男・弓
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫
蒼井 御子(ib4444
11歳・女・吟
郭 雪華(ib5506
20歳・女・砲
丈 平次郎(ib5866
48歳・男・サ


■リプレイ本文

●ダイエット? 必要ですとも
 丈 平次郎(ib5866)は、半分あきれたように首をふった。
「アヤカシ退治で減量か‥‥その発想は無かったな」
 たしかに戦闘に赴いたならば相当の運動量になるだろうが、最近の志体持ちの娘というのは皆こうなのだろうか。あまりにも発想がぶっとんでいるような気がしなくもない。
 郭 雪華(ib5506)は、平次郎に同意するかのように肩をすくめた。
「ダイエットを兼ねて開拓者としてデビュー‥‥? 変わった動機‥‥うん、でも悪くはないね‥‥」
 雪華自身はダイエットの必要性などまったく感じてはいないが、せっかくの開拓者デビュー。優花には頑張ってほしいところではある。

 繊月 朔(ib3416)は、優花の肩をつついた。
「ええ、お正月は女の敵ですよね、頑張って目的をお互い達成しましょうね」
 朔も、おせちとかお雑煮とかお汁粉とかお餅とか‥‥要は新年につきもののご馳走を食べすぎたような気がする。ほんの少しばかりだけれど。
 二人はがっしりと手を握りあった。ここに同志が!
「とはいえ優花さんは初陣、あまり私から離れないで下さいね。怪我したらすぐ治癒しますので」
 はい! と優花は返事をする。実にいい返事だ。
 柚乃(ia0638)が二人に加わった。
「お気に入りの着物が着れないのはショックだよね‥‥」
 実を言うと、柚乃本人はダイエットなどあまり気にしたことがないのではあるが。正月明けだし、若干増えているかもしれないし、少しは気にした方がいいのだろうか。柚乃は考え込む。
(もしも、もふら様みたいって云われたら‥‥流石に!?)
 もふら様は大好きだが、乙女としては複雑なところではある。

 ダイエットしたい面々を思いきり敵に回しているのは蒼井 御子(ib4444)である。
「だいえっと‥‥?」
 御子は、じろじろと優花を上から下へと見回した。
 そして、しばし沈黙。
 今度は視線を自分の身体に走らせる。
 また、沈黙。
 右手を突き出して、
「くれるなら すぐに下さい そのお肉」
 なぜ、五・七・五調?
「あげられるものならあげたいわよぉぉ!」
 優花は叫ぶ。茶化しているのではない、御子は大真面目だ。もらえるものなら脂肪だろうがなんだろうが、縦でも横でもかまわず分けてもらいたい。この間帰った時など、大柄な相手だったとはいえ八歳下の子に体格で負けたのである。
 実年齢より思いきり幼く見られがちだが、御子の実年齢は十六歳。肉がないならないで苦労は耐えないのである。

「さあ‥‥やるわよ! 絶対やってやるんだから!」
 と、気合いを入れている優花にクラウス・サヴィオラ(ib0261)は笑いかけた。
「あまり気張らず肩の力抜いていこうぜ。これだけ、心強い仲間も集まってるんだしさ」
 クラウスも今回が初の実戦参加になる。腕慣らしにはちょうどいいのではないかと思ったのが、依頼を受けた理由である。

 小宮 弦方(ib3323)は弓を取り上げた。
「今年の初依頼、頑張っていきますか〜」
 弦方も若干運動不足を感じていたりする。今回のアヤカシは強くなさそうだし、運動不足の解消にもストレスの発散にもちょうどよさそうだ。もちろん、人々の生活を脅かすアヤカシの殲滅も大切な目的ではあるのだけれど。
 出立を前にメグレズ・ファウンテン(ia9696)は、改めて皆の注意をうながした。
「優花さんの安全確保が優先事項かと思います」
 今回は優花の他にも経験の浅い開拓者が同行する。優花だけではなくそちらにも気を配らなければ。メグレズ自身はそれなりの経験を積んでいる。経験が浅い者のフォローに回ることができるだろう。

●やるぜ! やるぜ! やるぜ! 
 一行はアヤカシが出現した草原を見晴らせる高台に到着した。向こう側にせわしなく行き来する黒いもの。確かに大きさこそ犬並みだが、蟻によく似ている。虫嫌いの人間が見たら、思いきり不快感を覚える光景だろう。
「結構な数がいるな‥‥」
 クラウスがつぶやく。
「ここから攻撃できそうですね」
 弦方は雪華に声をかけた。弓術師と砲術士の二人ならば、ここからでも攻撃できそうだ。
「今回は、前に出させてください」
 日頃は後衛にいることの多い朔も今回は前衛に回るという。敵もそれほど強くなさそうだし、何しろダイエットが目的だ。思いきりカミナギを振り回したいところである。
「それじゃ、行くわよぉぉぉ!」
 気合い十分の優花に柚乃は警告を与えた。
「ただ闇雲に武器を振り回しても、痩せる前に体力消耗で動けなくなっちゃうと思うの」
 痩せたい部位を使っての同じ動作が効果的なのではと柚乃は続ける。そう言えば、毎日緩い坂を上り下りするだけで痩せたという話を聞いたことがあったような。大切なのは継続することか。
「俺たちが本気を出せば、すぐに片付きそうな依頼だがな」
 平次郎は腕を組む。それでは優花が経験をつむことができないし、なにより減量に結びつかない。なるべく優花に仕留めさせるように仕向けてやるのがいいだろうか。
「わかっているとは思うが油断するな。生半可な気持ちで向かうと痛い目を見るぞ」
 たとえそれほど強いアヤカシに見えなくても、油断すれば命を落とすことにつながりかねない。
「私の咆哮で、敵の意識をこちらに集中させることができるはずです」
 メグレズが壁になることを提案する。彼女は経験をつんだ開拓者だ。彼女に任せておけば安心だろう。

「それじゃ‥‥始めようか‥‥。蟻退治を‥‥」
 雪華は銃をかまえた。
「優花ちゃん、加護結界をかけておくね」
 柚乃は、優花に加護結界をかけてやる。それから順に全員に加護結界を付与して敵の攻撃への備えを行う。

 高台の上に陣取った弦方は弓を引き絞った。
「久しぶりなので上手くいくかどうかは‥‥って、そんなこと言ってられませんね‥‥」
 狙いを定め、放たれる矢。頭と胴体の境目を射貫かれたアヤカシは、地面に崩れ落ちたかと思えば瘴気となって消えていく。
「‥‥もう一匹‥‥!」
 放たれた矢が、狙った通りの場所へぴたりと命中するのは気持ちいい。前に出た優花たちがアヤカシに囲まれないように慎重に狙う相手を決めて、弦方は狙いを定めていく。
 御子はハープをかき鳴らした。騎士の魂の旋律があたりに響き渡る。
「恐れず――侮らず――地を踏みしめ、剣に誓え――我等は立ち向かう者也。牙にあらがい、人を守る者也」
 開拓者たちにとって、恐るべきものはない。

 勢いよく、優花が飛び出した。
「私が先に!」
 メグレズは咆哮をあげながら前に出る。襲いかかってきたアヤカシの前足を盾で受け止め、一気に
「今です、アヤカシへ攻撃を」
「はいっ」
 メグレズがアヤカシと力比べをしている隙に、優花はアヤカシへと斬りかかる。
「うおりゃああああああああっ!」
 刀が閃く。アヤカシの頭がぽろりと落ちた。
「このアヤカシの数‥‥楽しくなりそうじゃないか。よし、思いっきやらせてもらうとするか」
 アヤカシへと接近し、優花と並ぶように立ったクラウスは笑みをうかべた。目の前にうじゃうじゃと並んでいる蟻、蟻、蟻。思いきり剣を振り回して、目についた敵を片っ端から斬り伏せていく。
「私のカミナギの切れ味味わって下さい! 巫女だと思って甘く見ないでくださいね!」
 朔も、木刀を構え、アヤカシの群れへと突っ込んでいく。日頃は後方にいるのだが、今日ばかりは前へ前へと進んでいく。彼女のカミナギをくらったアヤカシが消滅する。

「ダイエット! ダイエット! ダイエット! ダイエットーーーーーー!!!!!」
 優花は思いきり刀を振り回し、前へ後ろへと走り回る。彼女をカバーしてくれている先輩開拓者たちの間もくぐり抜けて。
「待て! 飛び出すなと言っている!」
 慌てて平次郎は彼女を追った。追いつき、腕を掴んでひきとめる。
「油断するなと言っているだろうが!」
 その厳しい口調に、優花はしゅんとなった。

●いい汗かきました
 どうやら、前衛に出た者たちは順調にアヤカシを片付けているようだ。
「これが十字組受です!」
メグレズが敵をひきつけ、剣を払って攻撃を防ぐ。
「このくらいなら、一撃でいけるだろう」
 平次郎が体力を削り、優花がとどめをさす。
「優花さん‥‥、私から離れないでください! もう一度敵をひきつけますから!」
 機を見て、メグレズは何度も咆哮を使い、自分の周囲に敵を集めている。壁としての彼女の役割は完璧なものだった。

 優花に近づきすぎたアヤカシがいれば、後方からも支援が飛ぶ。
「ああっ、危ない‥‥ここは一つ、精霊砲で!」
 柚乃が精霊砲を放ち、
「この矢‥‥外さないっ」
 弦方は狙い済まして矢を放ち、
「後ろから守るのが‥‥僕の役目‥‥。皆は前に集中して‥‥」
 素早くリロードをした雪華の銃が火をふく。

 後衛がしっかり援護してくれているので、クラウスも朔も思う存分武器を振るうことができる。一撃で敵が消えていくのはなんとも爽快な気分だった。
「この一撃で粉砕する!」
 クラウスのスマッシュが、一瞬にしてアヤカシを叩きのめす。
「ダイエットーーーー!!!! 痩せてやるうううぅぅぅぅぅ!!!!!」
 優花の声が響き渡る。初めての実戦だが、周囲のフォローのおかげでそれほど恐怖は感じていないらしい。
 御子の手はしばらく必要なさそうだ。この隙に、と御子は筆記用具を取り出す。
「うんうん。『はじめてのいらい』だねー。きっちり書き留めさせてもらうよ、開拓者の曲には欠かせないからねっ」 
 ここでの経験が、いずれ歌となって世に広まっていくことになるのだろう。開拓者たちがばったばったとアヤカシを粉砕していく様は、迫力のある歌になりそうだ。
 
 一時間も立たないうちに全てのアヤカシが片付けられた。
「初めてにしてはよく暴れたものだな」
 平次郎は、感心したように腕を組んだ。何故、この依頼に参加する気になったのかというクラウスの問いには、減量のため、と元気のいい返事が返ってくる。
「ダイエットとか必要なさそうに見えるけどなぁ‥‥」
 クラウスは首をかしげた。
「あれだけ動けるのならば、減量なぞせんでも良いと思うのだが」
 平次郎も同意する。
「優花さん、皆さん。少しは運動になりましたでしょうか?」 
 武器をおさめたメグレズは、優花に微笑みかけた。
「やりました! もうばっちり!」
 優花は胸をそらせた。これだけ動けば大丈夫だろう。
「これですこしでも体重が戻れば‥‥って、そんなことは気にしてませんよ」
 朔も額の汗をぬぐう。実にいい汗をかいた。これなら少しくらいは痩せていそうなものだけれど。

 雪華はそんな二人の目の前で、荷物の中から白い粉薬のような物を取り出した。
「これは‥‥郭商会で取り扱っているダイエットに利く薬だよ‥‥。今回はこれを無料で進呈‥‥」
 優花や朔などダイエット目的の開拓者に雪華はそれを手渡そうとする。
「わあ! ありがとうございます! これでダイエット効果倍増ね!」
 大喜びの優花に、雪華はささやいた。
「ダイエットは持続が大事‥‥。今日のだけで満足しちゃ駄目だよ‥‥?」
 朔は、薬の包みに手をのばすべきか否か迷って手をふらふらとさせている。
「痩せる薬‥‥ダメ、自分の力で痩せないと‥‥でも‥‥」
 意思の力で手をおさえこんだ朔は、そのまま立ち去ろうとした。その後姿に、雪華はぼそりと投げかけた。
「郭商会に来てくれれば‥‥いなり寿司の無料サービス‥‥」
 立ち去りかけた朔は、びくりとしてふり返る。そして手を握りしめながら宣言した。
「い、いなり寿司では釣られないんですからねっ! ‥‥ところで、ちなみにですけど‥‥郭商会ってどこに‥‥? あ、一応聞いておくだけですからね。うん、行きませんよ‥‥多分」 
 弦方もその薬を一服もらって、開いてみた。
 ただの白い粉。本当に聞くのか否かとても疑問だ。
 人差し指の先につけて味を見てみる‥‥小麦粉だ。やれやれ、と弦方は肩をすくめる。
 このことについては口外する必要もないだろう。乙女の夢と希望を壊してはいけない。

「暴れたらなんだか腹が減ってきたぜ‥‥帰りに美味いものでも食べに行かないか?」
「行く行くっ」
 クラウスの誘いに優花は真っ先に手をあげた。彼女のダイエットは、長期戦を強いられることになりそうだ。