家出少年を追え!
マスター名:雨宮れん
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/22 19:59



■オープニング本文

「馬鹿なことを言うんじゃないよ! どこに可愛い子どもを売り渡す親がいるっていうんだい!」
 女の罵声が響き渡ったのは、理穴の中でも東の方、魔の森に近い地域だった。以前行われた大々的な作戦で、魔の森を後退させることには成功したものの、その恩恵を受けることのできなかった地域もまだ残っている。
 彼女が住んでいるのも、そんな地域にある小さな村だった。
「そんなことを言ってもさ、この村にいたって将来は狩人になるくらいしか生きていく道はないんだろう? 俺たちにまかせてくれれば奏生で読み書きそろばん仕込んで、一人前の商人にしてやるって。あそこは今、貿易都市として栄えているんだぜ?」
「坊主が一人前の商人になれば、あんたの将来も安泰ってわけだ。これは、坊主の代金じゃなくて都へ出ても恥ずかしくない格好をするための支度金というわけなんだよ」
 二人連れの男は、女を説得しようとした。
「あんたたちがね、平吉のどこを見込んだのかは知らないけど、あの子にそんな頭はないよ。母親が言うことに間違いはないんだから、とっとと帰っておくれ!」
 塩をまきかねない勢いで、女は男たちを追い払いにかかる。男たちは、
「気が変わったら、次はこの村に泊まるつもりだから‥‥」
 と、これから先、どこでも追いつけるように旅程を書いた紙を差し出したのだが、勢いよく払い落とされたのだった。

「待って‥‥、ちょっと待ってください!」
 村を出ようとした男たちを追いかけてきたのは年のころ十歳になろうかという少年だった。利発そうな瞳が輝いている。
「ボクを奏生に連れて行ってくれるって本当ですか?」
 彼が平吉だった。男たちと彼が知り合いになったのは、平吉が森の中で見かけた男たちをこの村に案内したのがきっかけである。
「ああ、でもお母さんに断られてしまったよ」
「坊主は賢いから商人にむくと思ったんだがなぁ」
「母さんがいいよって言ったら連れて行ってくれますか?」
 男たちは顔を見合わせる。やがて、片方が
「お母さんがいいよ、と言ってくれたらの話だよ」
 と、先ほど払い落とされた、これから先の宿泊予定を書いた紙を差し出した。
「わかりました! ボク、母を説得してみます」
 そう言うと、平吉は身を翻して走り始めた。

 平吉の姿が消えたのはその次の日のことだった。
「平吉は人さらいにさらわれたんですよ! 助けてください!」
 開拓者ギルドに駆け込んできた母親は、必死の形相で訴える。
「話を聞く限り、家出のような気もしますけれどねぇ‥‥」
 そう言いながらも、開拓者ギルドの受付は、『受理』の判を書類に押したのだった。


■参加者一覧
ラフィーク(ia0944
31歳・男・泰
氷(ia1083
29歳・男・陰
慧(ia6088
20歳・男・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
鉄龍(ib3794
27歳・男・騎
藤吉 湊(ib4741
16歳・女・弓


■リプレイ本文

●聞き込み調査
 ラフィーク(ia0944)とモハメド・アルハムディ(ib1210)と氷(ia1083)の三人は、村に入るのと同時に、ギルドで場所を聞いておいた平吉の家に向かった。
「人攫いというよりは家出かと思わないでもないが、どちらにせよあまり良い状況とは言えないのは確かだな」
「まあ行き先は大体予想はつくけど、万が一ってこともあるし」
 ラフィークに氷はあくびをしながら返す。目的の家が目の前、というところで子どもたちが遊んでいるのに出くわした。
「俺はあの子たちに話を聞いてこよう。効率よく聞き込みした方がいいしな」
 ラフィークは二人と別れて、子どもたちの方へと歩いて行く。モハメドは、目的の家の扉を叩いた。
 出てきた母親は、息子がいなくなって憔悴しきってはいたが、
「絶対、あの二人が平吉をさらっていったんですよ!」
 と、怒りに身体を震わせていた。彼女を落ち着けるためにモハメドは、心の旋律を奏でて彼女の心を落ち着かせようとする。
「平吉君は商人になりたいとか言ってたのかね?」
 遠慮のない口調で氷はたずねた。
「そんなこと、一度も言ったことはありませんよ! あいつらが余計なことをふきこまなければ‥‥」
 彼女は唇をかみしめた。この村の男は成人すれば狩人として森に入っていく者が大半であるが、平吉は身体能力が発達しているとは言い難く、将来狩人でやっていけるのか心配だともらしたことはあるらしい。実際、今も弓矢を持って森に入ってはいるのだが、獲物を持って戻ってくることはほとんどないのだとか。

 その頃、シャンテ・ラインハルト(ib0069)は旅装を扱う店にいた。この村にはこういった物を商う店は一軒しかない。平吉が買い物をするならばこの店しかない。
「地図と携帯用の食料、それに雨具を買っていったのですね?」
 彼女の問いに、店主は頷いた。おまけに彼に商人たちの旅程を書いた紙を見せて、地図上のどこにあたるのかも確認していたらしい。
 同行していた和奏(ia8807)は店主から地図を譲り受け、隣村への道のりを確認する。
「なるほど‥‥、最近このあたりでアヤカシが出たという話はありませんか?」
 魔の森に近いというだけあって、アヤカシはしばしば目撃されているらしい。その出現場所と回数を確認した和奏の肩が落ちた。
「これは、急いで保護しなければなりませんね。商人さんたちの方を先に探した方がいいかもしれません」
 大人である分、子どもより足が速いと思われる。彼らに合流して、平吉が見つからなければどこかで横道にそれてしまっている可能性が高いだろう。

 鉄龍(ib3794)は、今から自分が向かおうとしている道をにらみつけて渋い顔になった。
「次の村へ行くにはあの森を通るのか‥‥いかにもアヤカシが出そうな感じだな」
 開拓者もつけずこんなところを通るとは、商人たちも平吉とかいう子どもも無用心もいいところだ。森の中で出るアヤカシならば、獣型の直接攻撃しかできないタイプが多いとは思われるが。いずれにしても、守るべき者は守らねばならない。鉄龍は足早に森の中に入って行った。

 村人数名に隣村への道を確認し、平吉が向かったであろうルートを割り出した慧(ia6088)も先行して森の中に入っていた。万が一にもアヤカシを刺激しないよう、隠密裏に動く。超越聴覚で限界まで聴力を高めている彼の耳には、遠くの物音も届くはずなのだが、まだ足音や話し声と思われるものは入ってこない。慧は急ぎ足になった。
 
 藤吉 湊(ib4741)は、村人たちの間を聞き回っていた。
「うちも商人目指しとるからな〜、人事に思えへんわ」
 とはいえ、家出してまでというのは感心できない。無事に見つけたら、理由を聞いて、場合によっては一緒に頭を下げてやってもいいか。湊は一つ肩をすくめ、仲間たちと合流すべく集合場所へ足を向けた。

●森の戦い
 鉄龍が、商人たちを発見したのは彼らがアヤカシに襲われていたからだった。悲鳴とともに荷を投げ出して、来た道を駆け戻ってきたのである。追いかけてくるのは、狼に似た姿のアヤカシだ。相当飢えているらしく、獲物を見つけ口から涎をだらだらとたらしている。
 舌打ちして鉄龍は商人たちに呼びかけた。
「こっちへ来い!」
 救われた、という表情をして彼らは鉄龍の背後に逃げ込んだ。一度に二頭というのはやっかいだ。さて、どちらからやるべきか。まず、一頭が左側から鉄龍に飛びかかってきた。
「っち、人の死角ってのが分かってるのか、それとも偶然か、まあ何にせよ意味はないがな!」
 龍の左腕で、その牙を受け止め、鉄龍は叫んだ。鉄龍に噛みつこうとしたもう一頭が、悲鳴をあげて後退する。その目に手裏剣が突き刺さっていた。
 商人たちの悲鳴を聞いて駆けつけてきた慧だ。呼子笛を吹き鳴らし、仲間に合図を送る。この状況で、笛の音がどこまで届くかは疑問ではあるが。慧はさらにもう一度手裏剣を放つ。もう一頭のアヤカシの片目もつぶされた。
「ちょうどよかったぜ! さすがに一人で二頭の相手はきついからな!」
 鉄龍は、最初に攻撃をしかけてきたアヤカシに、スマッシュを叩きつけた。最後の手裏剣を放った慧が、武器を刀に持ち変えてアヤカシに斬りかかる。一頭が瘴気となって消えた。
 もう一頭も二人がかりで仕留め、慧は震えている商人たちをふり返った。
「無事であったのは何よりだ‥‥申し訳ないが、一緒に戻ってもらおうか。少年があなた達を追って家出したのだ。今、仲間達が捜索中だが。もし本気で商人にするつもりがあるのならば母御を説得してからが良いだろう」
「そうだな。一度平吉の母のもとへ共に来て欲しい、その代わり次の村まで安全に着けるように護衛を引き受けよう」
 鉄龍の提案に慧も同意する。自分たちの申し出が、少年を家出に駆り立てたことを聞いた商人達は、しゅんとなった。そして、今まで知らなかったアヤカシの恐ろしさを身をもって知ったということもあり、二人の提案を受け入れたのである。

 手早く情報を交換し、平吉が森へ入ったことを開拓者たちは確信した。そこまで準備していたとなれば、よほどの覚悟をした上でのことだろう。となれば急ぐしかあるまい。
 和奏が心眼でアヤカシの気配を探りながら、ラフィークを先頭に一同は森の中へと入っていく。うっそうとした森は、それだけでどこからアヤカシが出てきてもおかしくないような雰囲気を漂わせている。
 商人たちと平吉を保護するまでは極力戦闘は避けたい。和奏がアヤカシの気配を発見するたびに気配を殺し、見つかりにくいようにしながらも彼らは先を急ぐ。
 和奏が眉をよせた。
「また、アヤカシです。本当にアヤカシの多い場所ですね」
 魔の森が近いと他の地域とはこれだけ変わるのか。和奏の心眼にアヤカシの気配がかからないことの方が少ないくらいだ。
 アヤカシがこちらの気配に気づきふりむいた。これでは戦闘は避けようはない。相手は二匹。犬か狼かと行った容貌だ。
 先頭に立っていたラフィークに一頭が飛びかかってくる。
「手早く片づけるぞ!」
 正面からラフィークに挑んだアヤカシは、彼の拳に勢いよく跳ね飛ばされた。
「しょうがねぇなぁ‥‥」
 氷は魂喰を放った。練力を惜しまず連発する。和奏が前に出た。相手の気勢をそぎ、秋水を使用した上で斬りつける。シャンテが龍笛を吹き鳴らし、皆に力を分け与える。まず、一頭が瘴気に戻って消えていった。
 湊が矢を放った。アヤカシの目に矢が突き刺さる。すかさずラフィークが拳を叩き込んだ。しっぽを丸めたアヤカシの背後に、和奏と武器を持ち替えたモハメドが回り込む。二人に斬りつけられ、二頭目も瘴気と化して消えた。

●息子の思い、母の思い
 戦闘を終えても、一息つく間もない。
「そこにも、何かいます」
 和奏が藪の中をしめす。藪をかきわける音がする。開拓者たちは身構えたが、ごそごそと藪の中から出てきたのは年の頃十歳ほどの少年だった。
「お前が平吉か」
 ラフィークの言葉に、平吉はうなずく。聞けば、アヤカシの姿を見かけたので隠れてやり過ごそうとしたのだという。どうやら先行した鉄龍と慧とは別の道を通ったようだ。
「気持ちはわからんでもないが、母親は心配して開拓者ギルドに頼み込んだんだぜ? あんまし無理させてやんな」
 氷は腕を組んだ。
「だって母さんに楽をさせたかったんだよー!」
 そもそも狩りの才能はないし、このままこの村にいては貧しい生活から抜け出せない。それより奏生に出て勉強がしたいのだと平吉が涙声で訴える。
「まあまあ、泣かんとき。うちも一緒に頭さげたるからな」
 湊が、平吉の頭をなでた。同じ志を持つ者、できることなら彼の願いをかなえてやりたい。

「子どもはそちらで保護していたか」
 商人を護衛しながら引き返してきた鉄龍と慧が合流した。二人から商人たちも一緒に村まで戻ると聞いて、
「あんたたちも、一緒に行ってくれるというのか」
 ラフィークは密かに安堵した。平吉だけを戻すようなことをするのなら、そんなところには預けない方がいいのではないかと思っていたからだ。

 商人たちと平吉を連れて、開拓者たちは村に戻った。飛び出してきた母親は、
「まったくあんたって子は‥‥!」
 息子の頭にげんこつを落とす。
「ごめんよぉ」
 平吉はべそをかく。鉄龍は平吉の母親に言った。
「平吉には平吉の未来がある、彼にとってどんな未来が幸せかはまだ分からない、だがその可能性に賭けてみるのもありじゃないかな?」
「人の家庭に踏み込むのはよくないこと、なのかもしれませんが」
 シャンテも鉄龍の言葉に続く。
「けれど、平吉様が家出するぐらいに商人への道に興味を抱いているのであれば、また頭ごなしに押さえつけては繰り返しになるのではないでしょうか? 元服まで、家を手伝って‥‥それだけの時間、なお夢を捨てないなら認める、とか条件をつけてみてはどうでしょう? 」
 彼女の言葉に、平吉の母親は眉をよせた。
「第三者が口を挟んでも良いなら、俺は平吉殿の意思を尊重した方がいいのではないかと思う。子どもの人生、親が用意した道通りに進むのが幸せとも思えん」
 慧の言葉に、彼女はうつむく。
「ヤァニー、まぁ、自分には商才が無いと開拓者になった私が言うのも何ではあるのですが‥‥」
  モハメドは、平吉の母親に耳打ちした。現在の彼は開拓者だが、親兄弟は今も旅商を続けている。もし、今目の前にいる商人たちに不信感を抱いているのであれば、そちらを紹介してもいい、と。
「一晩、この子とよく話し合います」
 開拓者ギルドを訪れた時とは別人のようになって、彼女は開拓者と商人たちに深々と頭をさげたのだった。

 翌朝。開拓者と商人たちが泊まっていた宿屋に平吉が飛び込んできた。
「商人になってもいいって!」
 一晩親子でじっくりと話し合った結果、そろって奏生へ移り住むことにしたというのである。家や畑、全て処分して村を出ることにしたので、今回は商人たちには同行せず、後日改めて奏生へ向かうことに決めたそうだ。
 商人たちともそれで話がついた。奏生は栄えている都市だ。母親も何か仕事を見つけることができるだろう。
「外の世界は広い、平吉の見たことも聞いたことも無い物が溢れているだろうよ」
 鉄龍は平吉の頭に手をのせた。
「どっちが先に自分の店持つか、うちと勝負やな」
 湊の言葉に、満面の笑みで平吉は返す。

 出立していく開拓者と商人たちを平吉親子はならんで見送った。母子が奏生へ移り住むのは、これから少し先のこととなる。