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■オープニング本文 亀屋の亀之介は、朱藩のとある町に店を構えている豪商である。親の代までは和菓子屋だったのだが、彼の代になって他の食材にまで手を出すようになった。今では、和菓子屋だけでなく小料理屋や総菜を扱う店まで経営するようになっている。 そんな亀之介が安州で仕入れてきた噂話。とある地方では、海辺や河原に鍋を持ち出して、芋やその他の野菜や肉を入れた鍋を皆でわいわいやりながら作るというのである。 さわやかな秋晴れの下で、酒を飲みながら騒ぐのは大変楽しいだろう‥‥と、亀之介は思った。実りの秋、食材もおいしい時期である。 そんなに楽しいことならば。ぜひこの亀屋でも企画してみたいものだ、と亀之介は思った。自分がお酒を飲んで騒ぎたいだけだというのは、ここだけの秘密である。山にわけいるのは危険でもあるので、食材の調達には開拓者の協力をあおぐ必要もある。 思い立ったが吉日。亀之介は開拓者たちに声をかけて河原で『芋煮大会』を開催することにしたのだった。 |
■参加者一覧 / 風雅 哲心(ia0135) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 皇 りょう(ia1673) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / マテーリャ・オスキュラ(ib0070) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 明王院 浄炎(ib0347) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / ルー(ib4431) / 幻獣朗(ib5203) |
■リプレイ本文 ●いざ山へ! 皇 りょう(ia1673)は、険しい山道に立って獲物の気配を探った。この時期うまいのは、やはり猪か。冬眠に備えて身体に養分を蓄えている熊もおいしいだろう。ウサギなどの小さい獣の方が持って帰るのは楽だろうが。 風雅 哲心(ia0135)が言った。 「狩った獲物は協力して運びたいな。集まる人数を考えれば大型の獣も一匹は仕留めておきたいところだ」 琥龍 蒼羅(ib0214)も哲心に賛同する。 「小さい獲物を数多く狙うより、大きい獲物に狙いを絞った方がよさそうだ。そうだな‥‥猪あたりなら十分だろう」 「鏡弦で、アヤカシがいないか注意しておきましょう。用心するにこしたことはないですから」 からす(ia6525)が注意を払いながら、先に立って山に入っていく。 「この時期の山は、茸に山菜、木の実と山の恵みに溢れ、食うには困らぬから助かるな」 明王院 浄炎(ib0347)は、からすに続いた。 「鍋ならば、しめじや舞茸等味重視の茸が良かろう。茸も山菜も、山の幸に感謝し、根こそぎ取って絶やす様な無体な事はせず、山の生き物達にも配慮して程良く収穫するんだぞ」 浄炎は、皆に注意した。 琉宇(ib1119)は、茸があるという木の根元あたりを見回しながら、手当たり次第に目についた茸を腰からさげた籠に放り込んでいく。何しろ、毒茸と普通の茸の区別がつかないのだ。あとでよりわけてもらうつもりだ。 ルー(ib4431)は、琉宇が採ろうとした茸を見て忠告した。 「それは食べられないよ」 「見分け、つくんですか?」 「自分で食べながら毒とそうでない茸、覚えたからね」 また、別の茸に手をのばした琉宇をルーはとめた。 「それは食べられるかどうか覚えてないからやめておいて。自分だけならいいけど、他の人も食べるからね。怪しいのはさけておかなきゃ」 「はーい」 琉宇を残して、ルーはより深く山へと分け入っていく。 和奏(ia8807)は、山道を分け入っていく。食用茸と、毒茸を見分けるのは難しいと聞く。ならば下手に手を出さないほうがよさそうだ。ウサギや猪くらいならば、一人でもどうにかできるだろうか。 ふと足元を見れば、栗が落ちている。鍋に直接入れることはできないかもしれないが、焼き栗などもいいかもしれない。和奏は手を刺さないように注意しながら、いがから栗を取り出し、籠に放り込んだ。 からすは大きな木の前で足を止めた。おいしそうな茸が木の幹から姿をあらわしている。『野草図鑑』を取り出すと、からすはその茸と本に載っている本を見比べた。どうやらこれは毒茸のようだ。 からすが図鑑持参なのに気がついた琉宇が、からすを呼ぶ。 「この茸は食べられますか?」 「えっと‥‥これは、大丈夫」 琉宇は、茸をつんで籠に入れた。 「基本的に、変わった模様や色ををしているのが毒物ではある」 と、からすは琉宇に教えてやったのだが、これは間違った知識である。食べられる茸と見分けのつかない毒茸も非常に多いので、やはり茸狩りには細心の注意を払う必要があるのを忘れてはいけない。 モハメド・アルハムディ(ib1210)は、迷っていた。猪は豚類に含まれるのだろうか。彼の生まれたあたりでは、豚類に触れるのは不浄とされている。山に入ったはいいのだが、猪が豚に含まれるのならば触れるわけにはいかないし、鍋そのものも食べることができない。 迷った末に、茸を採って帰ることにする。もっとも薬草や山菜ならばともかく、茸は見分ける自信がない。からすが『野草図鑑』片手に、琉宇と茸を探しているのをみたモハメドは、そちらに合流することにした。 ●調理開始! 肉ゲット! 礼野 真夢紀(ia1144)は、会場を走り回っている亀之介に声をかけた。彼自ら陣頭指揮をとって、座って食べるための敷物の用意やら、上等の酒類を運び込むやらと忙しくしているのである。 「せっかく鍋が一杯あるんですし、一つ位味噌苦手な人の為醤油味にできませんでしょうか?」 真夢紀の提案に、亀之介はうなずいた。 「そうですね。鍋はたくさん用意してありますし、お肉は苦手という人もいるかもしれませんしね。一つくらいお肉をいれない鍋も用意しましょうか」 幻獣朗(ib5203)は、今回参加するにあたり、料亭秘伝のレシピを持参していた。もちろん亀屋がおいしい料理を出すのを知ってはいるのだが、持参のレシピで味付けした料理もぜひ食べてもらいたい。 マテーリャ・オスキュラ(ib0070)も、料理の下準備に参加していた。野菜を丁寧に切って、洗う。マテーリャの手つきに危なっかしいところはない。 「すみません、お鍋をひとつお借りしていいでしょうか?」 「どうぞどうぞ」 亀之介は、鍋を一つマテーリャ用に持ってきてくれた。何故かと聞かれ、マテーリャは答える。 「いえね、折角なので僕も自分で作ってレシピ覚えてみようかと思いまして」 亀屋の味と、幻獣朗の料亭仕込の味を覚えるいい機会だ。マテーリャは、自分用に確保してもらった鍋の中に、洗った野菜を放り込んだ。 「調達できない分、調理頑張りますっ!」 と張り切っている真夢紀は、こんにゃくを手に取った。 「切るより指でちぎる方が味がしみ込みやすくなるんですよね?」 彼女の側においてある砂糖に、幻獣朗は目をとめる。 「おや、この砂糖は?」 「明王院の小父様がどんぐりでお菓子焼いてみようかっておっしゃってましたからそれ用です」 真夢紀と、浄炎は家族ぐるみのつきあいなのだ。浄炎は食後にどんなお菓子を出してくれるのだろう。鍋だけではなく、そちらも楽しみな真夢紀なのであった。 こうして、野菜の下準備が着々と進行している頃。 「そこに熊がいますよ!」 りょうが叫んだ。人の声に驚いた熊は、身を翻して山の奥へと逃げ込もうとする。 「悪く思うな‥‥!」 哲心は矢を放った。これで仕留められればいいのだが、そうはうまくいかない。 「一気に行くしかないですね!」 りょうは、刀を抜いて一気に熊に詰め寄った。熊の大きな手に殴り倒されないように注意しながら、刀で斬りかかる。熊の胸に刀をつきたて、引き抜き、そのまま後ろに跳び下がった。痛みに我を忘れた熊は、大きな声をあげて前足を振り回す。 哲心も武器を持ち替えて、熊に接近した。 「美味い料理を作るためだ、悪く思うなよ。すべてを穿つ天狼の牙、その身に刻め!」 一気に熊の首を跳ね飛ばす。倒れた熊は、二人で運ぶには手にあまる大きさだった。 「猪か‥‥」 蒼羅の目の前で、地に鼻を押しつけているのは立派な猪だった。地面に落ちたどんぐりでも食べているのだろうか。蒼羅は、「心覆」を使用した上で猪の死角に回り込んだ。そのままするすると音も立てずに近づくと、「居合い」で一気に片をつける。 「これはまた立派な猪ですね」 猪の倒れる音で気がついた和奏が、蒼羅のそばに近づいてきた。 「この場で解体してから持って帰ったほうが楽そうだな」 自分の倒した猪を見下ろしながら、蒼羅は言う。解体して、血を抜いてから運べば持って帰ってからの調理も楽だろう。 「あちらの方では、熊も捕らえていたようですよ。量としては十分でしょう」 「熊か‥‥それもすごいな」 四人だけでは、解体したとしても持って帰るのは困難な量の肉だ。一緒に山に入っていた亀屋の従業員や他の開拓者たちの協力も依頼して、肉を持って山をおりることになった。 ●鍋の味はいかが? そろそろ、山に入った開拓者たちが獲物を持って戻ってくるはずだ。下で待っている調理担当者たちは火を起こし始めた。肉が到着したならば、すぐに調理を開始しなければ。 「これは立派な獲物ですねぇ」 戻ってきた開拓者たちを見て、亀之介が感心したような声をあげた。熊や猪だけではない。一緒に山に入った亀屋の従業員が、兎も捕らえていたのだ。アヤカシが現れなかったのは非常に幸運だった。無事に倒せたとしても、今日の宴会に水をさすことになったのは変わらなかっただろうから。 「それでは、本格的に調理を開始しましょうか」 幻獣朗の指揮で本格的に調理が始められた。山の恵みに感謝しながら肉を切り分け、茸を食べやすい大きさにカットする。用意されたたくさんの鍋に油がひかれ、まず肉の表面に焼き目がつけられた。それから野菜を各鍋に放り込み、十分に油がまわったところで水を足す。 幻獣朗は、各鍋を見回った。山の獣は臭みが強いものが多い。丁寧にアクをとりのぞく。地味ではあるが大切な作業だ。 浄炎は、真夢紀と一緒に自分の採ってきた山の幸を水で洗っていた。この時期は野生の果実も豊富になっている。鍋だけではなく、甘いものもつまんでもらおうという彼の心遣いだ。 どんぐりを割って、中の身を取り出し、あくを抜く。この作業にはしばらく時間がかかるから、その間に鍋を楽しむこともできる。 「山の幸に感謝するならば、こう言ったものも良かろうて」 あくを抜いたら、小麦粉や砂糖と一緒に練って焼いて皆にふるまう予定なのだ。 「‥‥おかしいですねぇ。教わった通りにやったのですが」 マテーリャは首をかしげた。幻獣朗に教わった通りに作ったつもりなのだ。肉は固すぎると言うことはないし、野菜もほどよく煮えている。おかしな材料をいれた覚えもない。 一口、食べてみる。味はおいしい。 ‥‥問題は見た目なのだ。どうしてこんな見た目になってしまったのだろう。ぐつぐつと煮立った鍋の中はたとえるならば地獄の釜。なんとも言えない不気味な色合いをしている。味はおいしく仕上がっているのに。 「最後の仕上げはまかせてくださいね」 幻獣朗は、全ての鍋の味を最終チェックした。どの鍋もそれなりにおいしく仕上がっているのだが、幻獣朗ならばもっとおいしくできる。確かに鍋の中身は野菜と茸と肉。しかしそれぞれの鍋に入っている材料は微妙に違う。熊の肉が入ったもの、猪が入ったもの、あるいは両方入っているものがあれば、ウサギを煮込んでいる鍋もある。亀之介の一言で、野菜だけの鍋だってある。 幻獣朗は絶妙な最後の調整を行う。こっそり秘伝のタレを追加してみたりなどもして。 目指すは「懐かしく優しくて心に染みるオフクロの味」というところだ。 「栗もたくさん拾ってきたんですよ」 和奏が拾ってきた栗は、そのまま網の上に並べられた。少し待てば、おいしい焼き栗の完成だ。 「おいしそう。少し分けてもらってもいいかしら?」 焼き栗の匂いにつられてりょうが近寄ってくる。 「どうぞどうぞ」 舌をやけどしないように注意しながら、二人は栗を口に入れた。はふはふしていると、栗の甘みがほんのりと口いっぱいに広がる。これはまさに秋の恵みだ。 「そろそろ鍋も完成しそうね。まずはどれからいただこうかしら」 今日の主役は、あくまでも鍋! なのである。 「みなさーん! 鍋が完成しましたよ! お疲れ様でした!」 幻獣朗の声に、皆鍋に列を作る。 「おー、この鍋は野菜しか入っていないのですね!」 食べられないものがいろいろあるモハメドも、野菜しか入っていない鍋なら大丈夫だ。椀についでもらい景色のいいところを探して移動する。 「お茶は如何かな?」 からすは、酒の飲めない人のために茶席を設けていた。 「ショクラン、ありがとうございます」 モハメドは、からすの側に腰をおろした。 「こういう機会だから、おいしくたくさんいただかないとね」 琉宇が二人に合流した。琉宇も酒は飲めない口だ。 「僕はそんなに大食らいじゃないけれどもね、あはは」 そう笑った彼だったが、料理の味には大満足だ。味噌味の鍋に並んだのだが、次は醤油風味をためしてみようか。 「いい食材を使った料理は最高に美味いな。気候もいいし、言う事なしだ」 哲心は空を見上げた。秋らしい、高く青い空。気候も暑すぎもせず、寒すぎもせず、まさにちょうどいいといったところ。 「ちょうど紅葉も見頃だしな」 蒼羅が同意する。彼の手元にあるのは、からすからもらった茶だ。酒は強い方だが、茶の方が好みに合っている。 ルーは、皆から距離をおいたところに座っていた。受け取ってきた椀の中身は、最高においしい。自分が傭兵時代に自分で獲物を捕らえて、さばいて、料理していたものとはまったく違う味だ。 「にぎやかだねぇ」 すでに酔っ払い始めた誰かが歌いながら舞い始めたのを見ながら、ルーは苦笑する。 「ここから見ているだけでも、十分楽しいし‥‥ね」 やはり大勢の輪の中にいるのは少し息がつまる。この場から賑やかさを楽しめれば、それで十分だ。 皆が楽しんでいるのを確認した亀之介は、安堵の息をついた。こんな行事があるらしいと噂に聞いただけで実施したので、正しいやり方かはわからないがこれはこれで楽しそうだ。毎年の年中行事にしてもいい。 「それとも‥‥次はおでん大会にしましょうか」 早くも、次のイベントに頭のいっている亀之介なのであった。 |