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■オープニング本文 その日、彼女はとても憂鬱だった。何しろ、彼女の体の一部を手入れするための化粧水を作るための材料が入手不可能になってしまったのである。というのも、その入手先は山の上なのだが、その山道にアヤカシが出没するようになってしまったのである。背に腹は変えられない。彼女は開拓者を雇うことにした。 彼女が開拓者ギルドの扉を叩いたのは、その日の夕刻になろうかという頃だった。つかつかと受付まで進むと、 「開拓者を雇いたいんだけど?」 と、女性の受付に言う。 「どのようなご用件でしょう?」 応対した受付の女性の目が丸くなった。目の前に並んでいるのはすいかが二つ‥‥ではなく立派な胸。そこから視線を上に上げれば、真っ白なきめ細かい肌が続き、その上にはそこそこ整った顔が乗っている。色白は七難隠すって本当ね、などと受付嬢は失礼なことを思った。 「山の途中にいるアヤカシを退治して欲しいのよ。その山道を通らないとどうしても頂上までたどりつけなくてね‥‥あ、あたしの名前はゆら。ここに名前書けばいいのかしら?」 受付に置いてある紙に必要事項を記入しながらゆらは続けた。 「その山の上には、いい水をもとめて移り住んだ豆腐屋がいるのよ。まあ、あたしの目当ては豆腐じゃなくて豆乳なんだけどね」 「豆乳?」 受付の女性は首をかしげた。 「そう、豆乳を使って化粧水を作るととってもお肌にいいのよ。豆乳の化粧水で手入れしてるから、あたしも色白でけっこう美肌でしょ? 大原屋さんって言うんだけど、大豆も水も超こだわって豆腐作っているから、豆乳もよそとは違うのよねぇ」 「そんなに違うんですか?」 受付の女性の目が丸くなる。ゆらはいたずらっぽい微笑を浮かべると、立派な胸を揺さぶって見せた。 「ほら、大原屋さんの豆乳飲むようになったらこんなに立派になってしまってねぇ。そう言ったら、ちょっと興味出たりするかしら?」 ‥‥ちょっとどころじゃないです。興味、思いっきりそそられました。そう目で訴える受付の彼女の胸はまっ平ら。ついでに物陰でこっそりゆらの胸を見せてもらったりなどしてみたら目の色が変わってしまった。さすが化粧水で手入れしているだけのことはあって、同性の彼女も思わず手をのばし‥‥いやいや、それは自重ということで。 ゆらの説明によれば山道の途中にいるアヤカシは、頭が二つある蛇そっくりだったとのこと。大原屋自身は、山の反対側にある町まで降りて豆腐を売ったり食料を買い込んだりしているらしいので、今のところ生活には困っていないらしい。 困っているのはゆらなのだ。山のふもとをぐるりと回って、反対側の町まで大原屋の豆乳を買いに行っていてはそれだけで何時間もかかってしまう。農作業もあるし家事もある。豆乳のためだけに毎日反対側の町まで行くわけにはいかないのだ。 「あたしの美肌と美乳がかかっているのよ! アヤカシ退治お願いします!」 ゆらは何度も頭を下げるのだった。 ほどなくして、集まってきた開拓者たちに受付の女性は力説するのだった。 「やっぱり女の子ならある程度欲しいじゃないですか! その豆乳を飲むと大きな胸は張りが出て形よく! 小さな胸はそれなりに大きく! なるそうですよ! さらにゆらさんお手製の化粧水で手入れした肌といったらそりゃもう‥‥」 ついでなので、私の分も化粧水もらってきてください〜と、受付の彼女は開拓者たちにおねだりするのだった。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
ブローディア・F・H(ib0334)
26歳・女・魔
シルフィリア・オーク(ib0350)
32歳・女・騎
千亞(ib3238)
16歳・女・シ
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●美容に興味ある? ない? 「近隣の住民の話によれば、アヤカシは山の中腹くらいにいるそうですよ」 鳳珠(ib3369)は事前に聞き込んできた内容を披露した。もっとも、毎日のように大原屋まで通っているのはゆらくらいのもので、あとの村人たちは大原屋の豆腐にそこまで執着しているというわけではないようだ。 「地図上だとこのあたりになりそうですね」 千亞(ib3238)が地図を広げた。 「私もいつか、皆様みたいな綺麗でセクシィなお姉さん兎に‥‥!」 と、今回の仲間たちを見て夢を膨らませているのは今回集まったのが全員女性開拓者だからだ。 「うーん、豊胸効果ね。これ以上大きくなるのは微妙だけど、すこし興味はあるかな」 と、無意識のうちに胸をそらせるようにしているのはブローディア・F・H(ib0334)だ。巨大な胸元を多めに露出した衣装は、目のやり場にこまりかねないほど大胆なものだ。まあ、今回集まったのは女性ばかりなので誰も目のやり場に困ったりはしていないのだが。 「モチモチで極め細やかな肌になる化粧水は、これからの時期助かるね。豆乳飲んで、胸の張りがよくなるなら肩こりも楽になるかな?」 と、シルフィリア・オーク(ib0350)。こちらもブローディアほどではないとはいえ、見事な肢体を強調する格好をしている。 「美肌に美乳‥‥うーん、今まで知らなかったとは、不覚ね‥‥」 煌夜(ia9065)はうなった。 「私はあんまり興味ないんだよね。やっぱりありのままの自分であるのが一番だとは思うんだよね」 と、ギルド職員が聞いたら嫉妬しそうな台詞をはいた浅井 灰音(ia7439)に同意したのは梢・飛鈴(ia0034)だ。 「これ以上乳増量させても動きずらくなって困るアルし、美肌ちゅーてもしょっちゅう傷を負うからナァ」 傷を負うのは開拓者にとって日常茶飯事だ。常にアヤカシと向き合っているのだから。 「僕は、豆乳も化粧水も欲しいな。変装した後って、いろいろ手入れが大変だし」 叢雲・暁(ia5363)の得意技は変装術。十代前半から妙齢まで変装してみせるが、その際肌にかかる負担はかなりのものなのである。ちなみに胸の方はそれなりに順調に成長しているので不満はないが、垂れる前にできるだけの対策はとっておきたいところだ。 鳳珠の瘴索結界にかかってくるアヤカシの気配は今のところない。一行は慎重に歩みを進める。 「一応、蛇の毒を洗い流せるように、ヴォトカと石清水は持ってきているよ」 とシルフィリア。アヤカシの気配はないと鳳珠は言っているが、念のために注意は怠らない。 「私も解毒の準備はしてきています。もしもの時は言ってくださいね」 鳳珠の方は解毒のスキルを身につけている。傷の具合によって、うまく使い分けていきたいところだ。 「話によりゃ、相当デカブツらしいし、不意打ちも何もねーっぽいしナ」 先頭に立っていた飛鈴がふり返った。 「化粧水も豆乳も気になりますが、一番気になるのはお豆腐、ですっ。アヤカシを倒したらおいしいお豆腐をいただくのです!」 綺麗なお姉さんたちの色気も気になるが、千亞は食い気の方が先に来てしまったようだ。 「ああ、トーフいいね。終わったら一つ食べさせてもらおうかいナ」 飛鈴にとっては、食い気の方が色気よりはるかに先に来るのだった。 ●双頭の蛇を倒せ! 「アヤカシの気配を感じました! 注意してください!」 鳳珠が叫んだ。開拓者たちは、全身の神経を研ぎ澄ませて注意を払う。ざわざわと草を掻き分けるような音がしたかと思うと、姿を現したのは巨大な蛇だった。事前の情報どおり、胴体の半ばあたりから二つにわかれ、それぞれの先端に頭がある。 「それじゃ事前の打ち合わせどおりに行くとしましょ!」 刀を抜きながら煌夜は声をあげた。 「出来れば短期決戦で一気に潰しに行こうか!」 灰音は煌夜が狙いを定めたのと同じ頭に剣を突き立て、素早くそれを引き抜いて飛び退いた。 スキル自分の身を軽くしてから、暁は風魔閃光手裏剣で二人と同じ頭を攻撃する。二人とアヤカシとのの間合いを計りながら颯で手裏剣を投げつけ、刀で斬りつけと一気に仕留める構えだ。 「‥‥行きます!」 ブローディアは、杖に練力を込めた。巨大な胸が揺れるのと同時に、足下にフロストマインを展開する。 木葉隠で回避力を高めた千亞は、もう一方の頭の注意を引きつけるべく、 「こっちですよ!」 と声をあげながら刹手裏剣を投げつけ、相手の周囲を飛び回っている。獄導を目に向かって投げながら蛇の死角に回り込んだ飛鈴は、後頭部に骨法起承拳を叩き込んだ。もがく胴体の上に一度着地してから、大きく跳んで距離をあける。蛇が口をあけた。舌で殴りつけてこようとした蛇の動きを裏一重で飛鈴は交わす。蛇の頭は攻撃対象を変えた。 毒牙に脚をかまれ千亞は悲鳴をあげた。牙がささったところから痺れが回り、頭がくらくらする。 「解毒します! 来て下さい!」 駆け寄ってきた鳳珠とともに一度後方に下がって、千亞は手当てを受けた。解毒してもらい、負傷も恋慈手で回復してもらう。 「頭だけに注意してもらっちゃ困るんだよ!」 片手の剣をきらめかせて、シルフィリアは蛇の胴体部分に斬りかかる。 あちこちから、同時に攻撃されてアヤカシは混乱したようだった。ずるりとのたうつように前進したその時。 「計画通りです、かかりましたね」 ブローディアが仕掛けていたフロストマインが発動した。 「今のうちということね!」 一気に距離をつめた煌夜は、白梅香の刃を動きの止まった頭に突き立てる。 「捉えた‥‥これで沈めっ‥‥!」 煌夜が飛び退くのと入れ替わるように、地を蹴って飛び上がった灰音が流し斬りで挑みかかる。同時にブローディアのホーリーアローが炸裂し、頭は地に落ちた。 「こっちも頼むアル!」 頭一つつぶしてしまえば、その分楽になる。飛鈴は、相手の頭にひたすら蹴りをたたき込む。手当を終えた千亞も戦線に復帰する。 「遊びは終わりですっ」 と叫んだのは、半ば悔しさ紛れか。 「さあ、こっちもさっさと潰しちゃおうか?」 灰音が、残った頭への攻撃に加わった。暁もアヤカシに刀で斬りつけては飛び退きと、俊敏な動作で相手を翻弄する。 「ん、もう! くねくねして狙いにくいんだから!」 そんなことを言いながらも、彼女の刀は的確にアヤカシにダメージを与えていた。 「まったく‥‥巻きつかれたらやっかいだね!」 巻きついてこようとした尾を、間一髪で交わしシルフィリアは尾に刃を突き立てる。頭への攻撃人数は十分と見て取ったブローディアは、胴体にアークブラストを撃ち込んだ。二人の攻撃に、蛇は胴体をくねらせる。 前面に立つシルフィリアがくらったダメージは、鳳珠がタイミングを見計らって回復させていく。 「デカイと当てるのは楽だがナァ!」 ぼやきながら、飛鈴は拳を突き入れた。 「しぶといのが多いから困るアルぜ!」 脳天に蹴りを入れられて、蛇の頭がゆらぐ。 「これで‥‥とどめ!」 蛇の舌を受け流した煌夜は、刀で首を半ば切断する勢いで斬りつけた。ようやく二つ目の頭が地に落ちる。 「全くしぶといね、蛇って」 頭二つ倒されても、まだ胴体は動きを止めようとしない。灰音は半ばため息混じりに胴体に刀を突き刺した。 「いっそ、腹掻っ捌きに行ってみようか!」 暁が刀を構えて走り出した。仲間たちの援護を受けて、一気に蛇の胴体を切り裂く。そしてようやくアヤカシは動きを止めた。 ●乙女としてはやっぱりね 鳳珠が、皆の怪我を手当てして開拓者たちは額の汗をぬぐった。 「あとは依頼人に報告して終わり、なんだけど‥‥女としては勿体ないわよね。それに化粧水の作り方を教えてもらいたいし」 煌夜の提案で、依頼人とともに大原屋を目指すことになった。一度ゆらの住む村まで戻り、連れだって山頂を目指す。念のためと言いながら、鳳珠は瘴索結界を駆使してアヤカシの気配を探る。 ゆらの胸もなかなか立派なのだが、ブローディアにはかなわない。無意識のうちにブローディアはゆらの目の前に胸を突き出すようにして見せ付けている。 「これからまた更に肥大化させるつもりかいナ」 飛鈴はつぶやいた。あまり大きすぎてもいいことはないと彼女自身は思うのだが、それはそれ。人それぞれというものなのだろう。 「化粧水、少し分けてください!」 という暁に、ゆらは「いいわよ」と笑顔で返している。 「私も分けていただきたいのですが。これからの時期、役に立ちそうですしね」 と、依頼人には丁寧な口調でシルフィリアは依頼する。できれば作り方も教えてほしいという開拓者たちには、ゆらは口頭で材料と作り方を伝授する。 「あとでギルドの受付さんに作り方を教えましょー!」 千亞はメモを二枚作った。一枚は自分のため、もう一枚はギルドの受付に渡すためだ。 「豆乳を飲んでからそんなに育ったのですかっ!?」 という彼女の問いには、依頼人は 「毎日飲まないとだめだけどねぇ」 と返してきた。大原屋以外の豆乳でも続けて飲めばいいのだそうだ。ただ、大原屋のは大豆も水もこだわりの材料を使っているため効果が大きい(ような気がする)のだという。 興味ない数名をのぞき、美容談義に花を咲かせているうちに無事に山頂に到着した。 「アヤカシは山道から完全に駆逐されました」 と、ここまでアヤカシを確認できなかった鳳珠は笑顔になってさっそく湯飲みに注がれた豆乳に口をつけた。甘くてこくがあって本当においしい。 「トーフくれ、トーフ」 飛鈴は豆腐を買い求めて一足先に山を降りた。どうせ美肌も美乳も興味はないのだ。 「僕にも豆乳くださいな」 暁も豆乳を味見してみた。これなら毎日飲むのも苦痛ではなさそうだが、さすがに毎日ここまで買いに来るわけにも行くまい。住んでいるところの近くでおいしい豆腐屋を探すことにしよう。化粧水も分けてもらえることになったし、しばらく肌の手入れに困ることはなさそうだ。 「私が飲んでも、他の人より効果薄そうだけどね。すでに大きいし」 そう言って一度は遠慮したブローディアも、ゆらに 「でも張りが出れば、垂れるのを防ぐこともできるしね」 と言われて残った豆乳に口をつけた。 「こだわりの品だけあって、素材の味だけで頬が落ちそうだねぇ〜これからの時期、お鍋にすると尚の事美味しく頂けそうだねぇ〜」 店先で豆腐を味見したシルフィリアは笑顔になった。そろそろ鍋もおいしい季節だし、お土産に豆腐を買っていって皆で鍋をつつくのもいいかもしれない。 「湯豆腐に冷ややっこ、豆乳鍋‥‥夢広がりますねぇ」 すっかり食い気に走った千亞はにこにこ顔だ。それから真面目な表情を取り戻して、 「私も皆様のように綺麗になれるよう頑張りますっ」 と、宣言する。こうして、美容の道を邪魔するアヤカシは無事に退治されたのだった。 後日。 報告に訪れた開拓者たちから、化粧水だけではなく作り方も教えてもらった受付嬢はにこにこ顔になった。 「これで私も美容の道を究めたいと思います! 美肌と美乳は女の命ですからね!」 灰音さんも作り方を教わったのですか、とギルド職員に問われ、苦笑混じりに彼女は首をふった。 「私? 必要性をあまり感じていないからね。ありのままの自分が一番だよ」 「綺麗な人にはわかりませんよ」 ぷくぅとふくれた受付嬢に見送られて、彼女はギルドを後にした。灰音にとっては、やっぱりありのままの自分であるのが一番だと思いながら。 |