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■オープニング本文 ●青い海にあらわれたモノ そろそろ夏も終わろうとしている。そんな中、武天のとある地方都市の海辺では子どもたちがくらげに刺されることなどものともせず、最後の水遊びを楽しんでいた。少し沖の足の着かない深いところでは、これまた暑さに耐えかねた青年たちが波に揺られている。 「あ、あれ何だろう?」 子どものうちの一人が指さした物。青年たちのいる場所よりさらに沖。波間にぷかぷかと浮かぶ丸くて白っぽい、半透明の物体。 「くらげ‥‥にしちゃデカイよなあ?」 みるみるそれは数を増やしていく。子どもたちは何か不気味な物を覚えて、慌てて砂浜へとあがった。沖にいた青年たちも砂浜の方へと泳ぎ始めている。 「うわあああああ!」 一番最後尾にいた青年が声をあげた。謎の物体から伸びた触手のような物に、足を絡め取られたのだ。 「助けてくれええええ!」 そのまま彼は、謎の物体の本体へと引き寄せられていく。その体を本体がくるみこんだ。白っぽいとはいえ、半透明であるから中の様子はうかがうことができる。抜け出そうと必死にもがく青年がだんだん動かなくなっていく様子も、砂浜から知ることができた。 ●開拓者ギルドにて 開拓者ギルドの受付は集まった開拓者たちに目を向けた。 「ちょっと数が多いのでやっかいだとは思うのですが、アヤカシとしては比較的おとなしい部類だと思いますね」 彼が言うには、海辺にあらわれたアヤカシは水からは出ようとしないとのこと。お椀をふせたような形の本体は、大人一人余裕でくるみこむことができるほどの大きさがある。さらにそこから伸びる触手は、かなりの長さまでのびるらしい。今のところ確認されている攻撃方法はいたって単純なもので、触手で対象を捕まえ、本体でくるみこんで食す。以上終了。 「本体に捕まったら、生きたまま溶かされて食べられるみたいですね。真っ白ならいいのになまじっか半透明なものだから、浜辺でその様子を見ていたこどもたちにも何となく見えちゃって、寝込んでいる子もいるみたいですね」 受付の青年は続ける。 「数はおよそ三十。海からは出ようとしないようですし、どうにかして砂浜に引き上げられれば案外簡単に倒せるかもしれませんね。どうします? やります? やめときます?」 そう言って、彼は開拓者たちの前に書類を突き出したのだった。 |
■参加者一覧
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
からす(ia6525)
13歳・女・弓
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●砂浜にて見たアヤカシ 「魔術師の朽葉生と申します。よろしくお願いいたします」 朽葉・生(ib2229)は、集まった開拓者たちを見回した。 「負傷中で申し訳ありません」 と詫びたアルネイス(ia6104)とルエラ・ファールバルト(ia9645)の二人は、怪我をしているためあまり無理はできない。慎重に作戦を立てる必要があると言えた。 「くらげアヤカシ許さないの〜!」 プレシア・ベルティーニ(ib3541)はふさふさした見事なシッポをふくらませ、ついでにほっぺたもぷぅっとふくらませながら砂浜で足をじたばたさせている。 からす(ia6525)は沖を眺めた。報告よりはだいぶ数は少なそうに思えるものの、半透明の御椀のような形態のアヤカシがぷかぷかとういているのがわかる。 「半透明の身体の中で人が人であったものとなりソレが赤く染まる様をまじまじと見せつけられるわけか‥‥」 からすのつぶやく声は、誰の耳のも届かない。それを目の当たりにしてしまったら、大人でもトラウマとなるだろう。まだ幼い子どもならなおさら。 「ケルナーちゃんに近づくアヤカシは許しませんよ‥‥!!」 と、水津(ia2177)は静かに闘志を燃やしている。ちなみにケルナーというのは、アルネイスが夜光虫を使って生み出す式の名前で、橙色の眼鏡をかけたカエルの形をしている。 一人離れたところで、只木 岑(ia6834)は頭を抱え込んでいた。何故、この依頼を受けてしまったのだろう。暑さでぼけていたとか、所持金が底をつきそうだったからとか、理由はいろいろあれど魔がさしたとしか思えない。なぜなら彼はまったく泳げない、そうカナヅチなのだから。 アヤカシの数を考えれば、まっすぐつっこんでいくのは愚の骨頂だ。話し合いの末、二段階で作戦を決行することになった。まず、岸から遠距離攻撃でできるだけアヤカシの数を減らす。その上で、漁師の船を借りて地引網漁の要領で浜辺までアヤカシを引き上げてから改めて戦闘を行うという作戦だ。その後は、アヤカシを全滅させるまで網で引いては砂浜に引き上げる、を繰り返す。 「できることでアヤカシ退治を支援します」 と怪我を負っているルエラは皆のたてた作戦に従う意を表明した。 作戦が決まれば、必要な道具を揃えねばならない。一行は町長のもとを訪れた。 「陸上からの攻撃では退治に限界がありますので、海中のアヤカシ達を誘き出し殲滅する為海に出る必要があります。その際船を使用いたしたく存じますが船を御貸し願えますでしょうか?」 仲間の同席をもとめ、町長を訪れた生は言った。町長はしばらく考え込んでいたが、筆記用具を取り寄せると、二人の名前を紙に書いて差し出した。 「この二人なら船を貸してくれるでしょう」 「網も頼む。できるだけ長いものがいいな」 琥龍 蒼羅(ib0214)が口を挟んだ。 「二人とも漁師ですから、必要なものはご用立てできるかと思います」 よろしくお願いしますという町長の言葉に背を押され、開拓者たちは再び砂浜に立ったのだった。 ●浜辺からの攻撃 開拓者たちは、二艘の船の間に網を渡した。網を沈めた状態で沖へ出て、アヤカシたちより沖合いまで到達したならば、この網にアヤカシを引っかけて戻ってこようというわけだ。 「よぉ〜し、ウミツバメを召〜喚☆ボクにくらげがどこまでいてるか教えてね〜っ♪」 プレシアは人魂で作り出したウミツバメを沖へと送り出した。空の上から、アヤカシの位置を確認する。 「それでは私は『心眼』でお手伝いしましょう」 ルエラは、心眼を用いてプレシアとともにアヤカシの居場所を探り始める。砂浜から見える範囲以外にもアヤカシが存在していることを確認すると、二人はそれを仲間たちに伝えた。 「必要ならば、この壁を利用してください!」 生は、ストーンウォールを使って砂浜に身を守るための壁を構築している。その陰に身を潜め、そこから沖に向かって矢を放っているのは水津とからすの二人だ。 「弓なんて巫女の修行時代以来です‥‥なんというか、使うのが久しぶりすぎて当たる気がしないですよ‥‥」 ぼやきながら水津は、海に向かって矢を放つ。 「呪弓『流逆』‥‥喰われた者達の晴れぬ恨みを聞かせてやれ」 同じように弓を手にしたからすは、狙いを定めて弓を引く。 「よーし! いっくよぉぉ! プレシアぁ、すまっしゃぁぁぁっ!!」 プレシアは景気よく、霊魂砲をぶっ放す。くらったアヤカシがぷくりとひっくり返って消えた。 「海に夜光虫を放ったら光につられてクラゲさん達が集まってきたりしませんかね? 一応試してみましょうか?」 ストーンウォールの陰から、斬撃符をアヤカシに叩きつけていたアルネイスは夜光虫で式を呼び出した。アヤカシ近くまでその式を移動させる。それに反応したのか、人が砂浜にいることを感知したのか。ふわりふわりとアヤカシたちが水面近くまで浮かび上がってくる。 蒼羅は船に乗り込むことが決まっている。錬力を保持するため、彼の放った攻撃は雷鳴剣を三回だけ。あとは船に乗り込んで漕ぎ手を担当するために体力を温存していた。 「いや‥‥ホント、すみませんっ! 船に乗るのは勘弁してください! ボク泳げないんで本当に!」 ストーンウォールにかじりついて、岑は首をふる。彼の人生において水泳とは、まったく必要のない技能だったのだ。 「只木殿」 アルネイスは、腕を組んで岑を見つめた。小柄なアルネイスだが、異様な迫力がある。 「男子がそんな軟弱でどうするんですか!」 アルネイスとルエラが負傷している今、戦闘要員は少ないのだ。岑には沖へ出てもらわなければならない。 「大丈夫! あなたならできます! さぁ行きなさい大きな海へ! 少年よ、海は貴方を待ってます!」 ぴしりと沖をさしてアルネイスは言い放つ。彼女自身は陸に残る気満々なのだが、そこを追求する隙など与えない。 「無理です!」 と岑は訴えたのだが、人数がたりないと他のメンバーにも説得されてしぶしぶ船に乗り込むことになったのだった。 ●網に捕らわれたアヤカシ 「落ちるのだけは‥‥落ちるのだけは‥‥」 狩射で回避力を上昇させて、岑は船の手すりにしがみついている。パートナーの龍を連れてきていれば、船になど乗らずにすんだのに! 狩射の使い方を間違っているような気がしなくもないがそこは追求しない方がいいだろう。 「このアヤカシたちを何とかやりすごさなくては‥‥」 岑と生と同じ船に乗り込んだルエラは漕ぎ手を担当している。手すりをしっかりつかんだ岑は船の左側を。生は右側を警戒していた。ルエラ自身は、心眼でアヤカシの気配を探りつつ、彼女を引きずり込もうとするアヤカシの触手は篭手払で払いのけ、攻撃を回避しながら沖を目指す。 もう一方の船に乗り込んでいるのは水津、からすと蒼羅だった。蒼羅は、絡み付こうとする触手を櫂で払いのけながら船を進める。からすは手にした弓で鏡弦を使い、アヤカシを取りこぼさないよう、なるべく多くを引いてきた網の範囲におさまるように船の位置を調整するようルエラと蒼羅に声をかける。 「ふふふ‥‥、琥龍さんを攻撃しようとしても無駄ですよ‥‥」 琥龍めがけて触手を伸ばしたアヤカシに、水津の白霊弾が炸裂した。 「‥‥このあたりでいいだろうか?」 つぶやいて蒼羅は、もう一艘の船に合図した。ルエラが、了解の意を返してくる。二艘の船は、底を引きずってきた網の位置を調整し、アヤカシを巻き込むようにするとそのまま岸へと戻り始めた。網に収まりきらなかったアヤカシたちは、生がフローズで動きを束縛し、甲板の上に膝をついた体勢から岑が矢を射掛ける。膝をついた体勢なのは、もちろん船の上から落ちないためだ。 網の中で、アヤカシたちが押し合いへしあいしている。網の隙間からのびてきた触手は、船に乗り込んだ開拓者たちが容赦なく切り払い、無事に陸までたどり着いた。 「大漁ですよ〜くらげ以外も取れてますけど‥‥」 水津が言うように、網の中にはアヤカシだけではなくタコや魚、貝までが捕らえられていた。海の底から根こそぎ持ってきたという風情だ。 ここまでくればあとは楽なものだ。武器を太刀『獅子王』に持ち替えた蒼羅が、のびてくる触手をかいくぐってアヤカシ本体に接近する。ふりおろした太刀で一刀両断。アヤカシは瘴気に返って消えた。 陸に戻った岑は、元気を取り戻した。右に左にと飛び回っては、即射で次々と矢を射掛ける。 「うぅ〜、くらげたくさんいるから、練力使いすぎちゃったの〜。ここなら練力回復出来るよね〜」 景気よく術を使いすぎたプレシアは、瘴気回収で自らの練力を回復にかかった。 「なますにされたいか?」 伸びてきた触手を持ち替えた山姥包丁で切り落としながらからすはつぶやく。 「しかし食用でないのが残念だ、うむ」 切り落とされた触手は、瘴気へと返っていく。本物のくらげならこりこりしていて美味なのだがアヤカシならば食するわけにもいくまい。からすの言葉に、くらげは食べられるということを思い出したプレシアの腹の虫がぐぅと鳴いた。 怪我を負っているアルネイスとルエラは後方に退いた。水津に怪我を回復してもらい、生の作り出したストーンウォールの背後からアヤカシたちに攻撃をしかける。 やがて、砂浜に引きずりあげられたアヤカシたちが全て瘴気に返ると、一行は再び船を沖に出した。それを繰り返すこと二度。アヤカシは無事に殲滅されたのだった。 ●戦い終わって 「きゃっほーい! 海だ! 海!」 真っ赤なビキニとパレオに着替えたプレシアは、真っ先に海へとかけていった。波打ち際で思い出したように立ち止まり、亡くなった青年に向けて合掌する。 「海鮮料理はお手の物なのですよ‥‥」 アヤカシと同時に採れてしまった海の幸を思う存分捌いているのは水津だ。水辺で生まれたというだけあって、その手つきは慣れたものだ。 「アルネイスさん‥‥あとでケルナーちゃんと遊ばせてくださいね‥‥」 怪我を気にしながらも、アルネイスも波と戯れている。そのひざの上には彼女の式であるカエルがちょこんと乗っていた。 「船を貸していただいて、本当に助かりました」 生は、借りた船を漁師たちへと返却した。 「いや、こちらこそ本当にありがとう」 そんな会話を交わしていると、 「ご飯ができましたよー!」 一遊びしたアルネイスが皆を呼び集める声がした。 浜辺に用意されていたのは、ありとあらゆる海の幸を詰め込んだ海鮮鍋。皆、小皿を手にそれぞれ箸を伸ばす。 「皆お疲れ。冷茶は如何?」 そんな開拓者たちに、からすはお手製の冷たい茶を差し出すのだった。 |