【混夢】傭兵の宇宙海賊
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/30 21:26



■オープニング本文

※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。



 星が輝く空間に伸びる幾筋もの青い光条。粒子をまとったそれは核磁気防御の障壁を破壊して暗闇に浮かぶ中型スペースシップの船体を貫いた。
 多くのスペースシップが重金属粒子砲による遠距離攻撃を繰り返す。
 宇宙の片隅は戦いの最中にあった。
 人類が到達した九番目の太陽系『リューオ』において、惑星開発(テラフォーミング)済みの第三惑星と第四惑星の間で紛争が勃発。やがて戦争へと発展する。
 リューオの第五惑星を一周するアステロイド帯の鉱物資源を奪いあってのものだ。また第五惑星の大気中に含まれるヘリウム3も重要な資源といえる。
 第五惑星に近い地の利がある第四惑星側だが実際には押され気味だった。
 遙か彼方の同じ第一太陽系第三惑星を故郷としていても素体となった国家が違う。当時の先進国と新興国の差は外宇宙に進出して千年を経た今を持ってしても存在する。技術力、工業力の差は埋めきれていなかった。
 不利な戦況下で第四惑星軍部から招かれたのが宇宙海賊『バリオット』。
 宇宙に散らばった人類だが定住せずに太陽系間を流浪する集団も存在した。呼び方は様々だが宇宙海賊もその一つ。
 宇宙の海賊は真の意味での何でも屋。時に傭兵を引き受けることもある。
 宇宙海賊『バリオット』が第四惑星軍から依頼された作戦は第三惑星軍所属の旗艦を破壊すること。直径二キロメートル、全長八キロにも及ぶ円筒型をした超大型空母『エルランス』がそれである。
 敵スペースシップ隊の守りを突破し、放たれる無数の重金属粒子砲をかいくぐって空母『エルランス』に近づかなければならない。
 しかし空母『エルランス』の装甲は特殊複合型。通常の外壁装甲に被さる厚さ百メートルに及ぶゼリー状の膜が大抵の攻撃を吸収してしまう。本来はスペースデブリ(宇宙の塵)の衝突に備えて開発されたものだが、戦闘防御においても特筆すべき性能を有していた。
 空母『エルランス』内部への到達方法は十カ所に用意されたスペースシップ用ハッチのみ。いずれかのハッチから突入し、中央部の核融合炉へと反応剤が含まれたミサイルを撃ち込む。暴走するまでの三十分の間に脱出すれば作戦完了だ。
 戦いの火蓋は切って落とされる。
 空母『エルランス』を墜すべく宇宙海賊『バリオット』は進撃を開始するのだった。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
ムキ(ib6120
20歳・男・砲
エイン・セル(ib6121
28歳・男・砲
フルト・ブランド(ib6122
29歳・男・砲
鴻領(ib6130
28歳・女・砲


■リプレイ本文

●宇宙海賊
 滞留するイオンによってスペースシップの海賊旗が星空にたなびく。
 大小百隻強に及ぶ宇宙海賊『バリオット』の艦隊は敵空母『エルランス』を撃沈すべく進路をとる。
「もうすぐですね」
 艦長・三笠 三四郎(ia0163)の姿は特装巡洋艦『スチールファルコン』の艦橋にあった。顔には鉄仮面。蒼い海賊服の所々から覗かせる身体は人工物。三笠は全身の殆どをサイボーグ化していた。
 バリオットの各艦船は旗艦『バリオネリア』から発せられる女首領『ビシャマリア』からの通信を待ちわびる。
「まだか‥‥」
 ムキ(ib6120)が船長を務める補給・整備船『ファッティグラトン』は貪食者を意味していた。艦ではなく船として扱っているが元は裏取引で得た小型空母。旗艦に次ぐ巨体を誇る。
 無意識に何かを懐から取りだそうとしたムキだが、空振りに終わって苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。彼は旧式煙草の稀な愛煙家だが、宇宙空間における空気を汚さぬよう特別な場所以外での喫煙は控えていたからだ。
 『ファッティグラトン』と並ぶように航行するのは中型装甲巡洋艦『スチールスピン』。
「マウルスクをうまく使えば敵空母近くまで使えそうだ」
 『スチールスピン』の艦長はエイン・セル(ib6121)である。軍用巡洋艦を海賊仕様に改装したもので特に盾となりうる攪乱幕散布装置『マウルスク』が特長だ。
 彼は今、フルト・ブランド(ib6122)と通信中である。ムキ、フルト、エインの三艦船はチームを組んでいた。
「その辺りについては私から伝えておきましょう」
 フルトの迎撃型中型戦闘艦『ラジャーンヌ』はある惑星軍の退役艦を改修したもので、外装から伸びる触手状の多数アームが目立つ。推進スラスター寄生装置『スティング』と呼ばれるものだ。
 その『ラジャーンヌ』から離れる小型快速輸送艦『バヨネット』は艦隊陣形の後方付近まで退いた。今は商業用部分を外して高速機動仕様へと換装済み。艦長を務める鴻領(ib6130)は作戦開始を待ちわびていた。
「ようやく首領が映りましたね」
 鴻領が注目していた艦橋内中央の空間に浮かぶ立体スクリーンに女首領『ビシャマリア』の全身が浮かび上がる。
『みんな、揃っているね! いろいろと物いりなのも確かだが、『エルランス』が不沈空母と呼ばれているのが仕事を受けた一番の理由さ。ちょいとここらであたいらの怖さってやつを宇宙に轟かせようじゃないか!!』
 女首領『ビシャマリア』の宣言に続いて敵スペースシップ隊との正確な位置関係が示される。暗号化された敵データも各艦船に転送された。すでにこの宙域に射出済みの百を越える隕石型偵察機のおかげである。
 敵スペースシップ隊の防衛ラインまでほんのわずかだった。

●開戦
 第四惑星軍から雇われた宇宙海賊バリオット艦隊の敵は第三惑星軍である。
 まずは第三惑星軍所属の敵スペースシップ隊を突破し、不沈空母『エルランス』に辿り着かねばならなかった。
 光学迷彩によるトラップを除去した上で、第三惑星スペースシップ隊の陣形が有視界で確認される。約二百隻のバリオット艦隊の倍にあたる。
 円錐の陣形はそのまま各艦船搭載の重金属粒子砲による機雷一掃が行う。
 数百に及ぶ青い重金属粒子の束が幾重にもなって宇宙を輝かせた。一呼吸を置いて宇宙機雷が誘爆。無数の火球が星空に浮かび上がる。
 戦いの火蓋が切って落とされた。
 宇宙機雷は熱による液状化を経て細かな粒になり星間を漂う。それらを核磁気防御の障壁で押しのけながらバリオット艦隊は突き進んだ。
 一言で重金属粒子砲と表現しても各個に性能差はあり、当然射程距離も変わる。敵味方接近するにつれて攻撃の重金属粒子の束が増えてゆく。
 核磁気防御によって重金属粒子の軌道は曲げられて、故障でない限り現状の距離で互いに直撃はあり得なかった。直撃があり得る距離まで近づいた時こそが真の戦いが始まったといえる。
 これが重金属粒子砲を主軸とした宇宙空間における艦船間の戦闘だが、常識を打破する秘密兵器が『マウルスク』だ。
 『マウルスク』を装備する『スチールスピン』は周囲の味方艦船に攪乱幕を付与してゆく。
「安心しろ。うまくやれば『マウルスク』は敵空母近くまで使えそうだ」
 艦長エインは味方艦船からの連絡に応えた。耐性時間があるのでいつまでもとはいかないが、まずは敵スペースシップ隊を突破するまでは持ちそうである。肝心の不沈空母『エルランス』への突入の際には再付与も間に合うであろう。
 エインの『スチールスピン』を中央にしてムキの『ファッティグラトン』が右舷、フルトの『ラジャーンヌ』は左舷で航行中。一部の核磁気防御を突き抜けてくる重金属粒子砲が『マウルスク』の攪乱幕によって四散する。
 さすがに敵スペースシップ隊の防御は厚く簡単には突破させてくれない。進攻を止めての射撃戦は激しさを増す。
 重金属粒子砲だけでなく徐々に誘導弾なども使われ始める。開戦から一時間を越えた頃には陣形の変更が行われた。前線で奮闘していた艦船が一時後退する。
「何がいるんだ?」
「触手状ユニットのスティングが底を尽きました。補給をお願いします」
 ムキとフルトは秘匿通信を行う。
 補給・整備船『ファッティグラトン』は防御に優れており、激戦の最中であっても比較的安全である。攪乱幕の付与も優先的に行われていた。
 迎撃型中型戦闘艦『ラジャーンヌ』は『ファッティグラトン』に接舷して物資の補給を受けた。作戦直前に罠を仕掛けたので他の艦船よりも物資の消耗が激しかったからだ。その効果はまもなく発揮される。
 戦闘が繰り広げられているのはアステロイド帯。隕石が付近に漂う宙域専用の作戦として時限セットした巨大岩塊ミサイルが動きをみせる。
「惑星公転面下方へ回避! 急げ!!」
「間に合いません!! もう――」
 加速した隕石が敵スペースシップ隊の指揮艦の左舷に深く食い込んだ。巨大質量は留まることを知らずに装甲、骨格を次々と潰してゆく。やがて内部誘爆にて膨らんで敵指揮艦は辺りに四散する。
 この攻撃だけでなく隕石ミサイルで不意を突かれた敵スペースシップ隊が陣形を崩す。
「この座標を全艦船に送れ。攻撃集中!」
 旗艦『バリオネリア』の首領ビシャマリアが周辺宇宙域を現す立体モニタ内に腕を伸ばして座標を指さす。その位置は即座に全バリオット艦隊の艦船に伝えられた。脆弱した敵陣形部分を集中して叩く行動に出たのである。
 一点に集中された重金属粒子砲の攻撃によって敵スペースシップ隊が右往左往する。隊列を乱して敵艦船同士で接触大破多数。敵陣形に穴が空いた。
 バリオット艦隊は間髪を待たず連動する。陣形の突端を敵スペースシップ隊の脆弱部に食い込ませて切り裂いた。
 突撃指示からわずか十分弱。現存するすべてのバリオット艦隊の艦船が敵スペースシップ隊の陣形を突き抜けた。
 反転した敵スペースシップに背後から攻撃されるかと警戒していたものの杞憂に終わる。指揮系統が完全に失われたようでただの烏合の衆と化していた。
 逆にバリオット艦隊が反転して攻勢をかければ殲滅まで持っていけただろうが、作戦の目的はそれではない。敵空母『エルランス』まで距離あとわずか。速度をあげて十五分後には視認出来る宙域まで到達する。
「ようやく出番ですね」
 これまで堪え忍んできた三笠の『スチールファルコン』は遺失技術による対消滅機関を全力展開。盾にしていた隕石から離れて突入を開始した。
 電磁シールドと厚い正面装甲で敵空母『エルランス』からの重金属粒子砲を防ぎながらの進攻。それは後方に続く仲間達への盾ともなる。『ハヤブサのミカサ』の異名はここから来ていた。
「当たりませんように‥‥」
 鴻領の『バヨネット』も速度をさらにあげて敵空母『エルランス』に迫る。薄い装甲をカバーすべく、姿勢制御バーニアを駆使して重金属粒子砲の束をすり抜けてゆく。
「帰ってきたら酒でも呑もうぜ。年代物があるからな。その時は俺も遠慮なく煙草を吸わせてもらおう」
 『ファッティグラトン』のムキは仲間の艦船を送り出す。
 敵空母『エルランス』の攻撃が届かないぎりぎりの距離まで近づいて緊急脱出の仲間達を回収する準備を始めていた。
「気をつけな。『マウルスク』が付与されてるものには俺達の重金属粒子砲やレーザーも通らない」
 エインの『スチールスピン』は味方艦船に全力をもって攪乱幕を付与していった。効果は小型な艦船ならより長持ちする。敵空母『エルランス』内部へと突入する艦船には特に優先して行われる。
「援護します。順次、推進開始してください」
 フルトの『ラジャーンヌ』は触手状ユニットで隕石や破壊された艦船の破片に推進スラスターを取り付けていた。補給のおかげでスラスターの残存数にはまだ余裕がある。
 多数の隕石ミサイルが敵空母『エルランス』を襲う。覆うゼリー状の特殊保護膜が激しく揺れる。これによって敵空母『エルランス』から発せられる重金属粒子砲の照準に狂いが生じた。
 おかげで突入のバリオット艦隊の約半数が十カ所ある敵空母『エルランス』のスペースシップ用ハッチまで辿り着く。
「アルファ、ラムをパージして敵のハッチにぶつけてもらえますか」
『了解しました。前装ラム、パージします』
 三笠の指示で『スチールファルコン』の制御の一部を任されているホログラムAIのアルファが滞りなく作業を完了させる。敵空母『エルランス』の第三ハッチに大穴が空いた。
 『スチールファルコン』が第三ハッチから内部へ突入した頃、鴻領の『バヨネット』は第十ハッチにレーザーを照射していた。
「あと少しです‥‥」
 ハッチの半分まで焼き切った後は周囲の味方艦船と協力して体当たりを喰らわす。やがて第十ハッチはひしゃげて内部を露わにした。
 内部からの反撃を畏れずにそのまま前進。鴻領の『バヨネット』も突入を果たす。
 エルランス内通路はスペースシップの格納移動だけでなく、物資搬入口も兼ねていたのでかなりの余裕があった。それでも速度をあげての移動は艦船システムの電脳の補助があったとしても難儀なものだ。突入に成功した各艦船すべてが壁面を掠めるようにして奥へと進む。操縦を誤って激突する艦船もあった。
「今回は‥‥不本意ながらに魚雷の配達となりました」
 中央部の核融合炉の空間まで辿り着いた三笠の『スチールファルコン』は破壊準備を始めた。数分後に別ルートから鴻領の『バヨネット』が現れる。
「発射シークエンス、同期OKです。十からカウント開始――」
 反応剤搭載ミサイルが『スチールファルコン』と『バヨネット』から同時発射。『スチールファルコン』は燃料切れのブースターも一緒に核融合炉へと叩き込む。
 即座に反転して脱出開始。
 暴走までの時間制限は約三十分。それまでに脱出しなければならなかった。
 敵の反撃は激しく、『スチールファルコン』と『バヨネット』の装甲が瞬く間に損傷する。ただ空母内部故に強力な武装を使えないのが幸いして深刻なダメージとなる第三装甲まで達する攻撃はされなかった。
 先に空母内部からの脱出を果たした『バヨネット』の鴻領は、救助活動を行う『ファッティグラトン』『スチールスピン』『ラジャーンヌ』を目撃する。自らもわざと速度を落として宇宙服のみで漂う仲間達の救助を行う。
 三笠の『スチールファルコン』の脱出は一番最後となった。重金属粒子砲で狙われながらも機敏な運動で避ける。ようやく射程外まで到達した頃、後方が太陽のように輝く。
 敵空母『エルランス』が宇宙の塵となった瞬間だ。
 第三惑星軍の戦線はこれによって大きく後退。第四惑星政府は和平交渉を有利に進める駒を手にしたのだった。

●やはり海賊
 戦いの後、宇宙海賊バリオット艦隊は第四惑星の衛星基地へと寄港した。外宇宙への旅立ちに備えてすべての補修と補給を整えるために。
「俺としてもこれくらいはもらわねえと割が合わないと思ってるが、おおかた政府のお偉方は勲章か罪状の恩赦とやらに動くだろうから、うまく頼むぜ」
 ムキは旗艦『バリオネリア』内の執務室を訪ねる。そして揃えた資料を女首領『ビシャマリア』へと手渡す。
「これらはすべて認めさせるから安心しろ。それとは別に‥‥」
 ビシャマリアは立体スクリーンの周辺宇宙地図を展開する。よく見れば隕石の一つにマーキングが施されていた。
「この巨大隕石は元々あのアステロイド帯にあったものではなく、外宇宙から飛んできたものだ。噂でしか聞いたことがない現在の技術では精製不可能な純度の高い稀少金属の鉱床が含まれる。戦いの最中、フルトが推進スラスターを取り付けようとして気づいて報告してくれたものさ。第四惑星政府の奴ら、報酬交渉の際これを秘密にしていた。どう思う?」
「ついでに石ころの一つをお土産にもらっていこうと。そういうことで?」
 ビシャマリアがニヤリと笑い、ムキが頷いてみせる。
 一ヶ月後、宇宙海賊バリオット艦隊は一つの巨大隕石を回収した上で外宇宙を目指す。第四惑星政府がその行為に気づいたときにはすでに遙か宇宙の彼方であった。