花火は安全に 〜鳳〜
マスター名:天田洋介
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/29 02:37



■オープニング本文

 泰国は飛空船による物流が盛んである。
 その中心となっているのが旅泰と呼ばれる広域商人の存在。
 必要としている者に珍しい品や食料を運んで利益を得ている人々だ。時に天儀本島の土地にも根ざし、旅泰の町を作る事もあった。
 当然のことながら泰国の首都『朱春』周辺にもたくさんの旅泰が住んでいた。昇徳商会もその中の一集団である。
 昇徳商会は女社長の『李鳳』と技師兼操縦士の『王輝風』の若い二人が中型飛空船『翔速号』を修理して始めた輸送会社だ。順調に業績を伸ばし今ではたくさんの雇い人がいる。
 猫族娘『響鈴』は見習いから社員へと昇格になって今では中型商用飛空船『浮雲』の船長を任されている。
 現在見習い中の美緒はまだ十二歳の女の子。但し志体持ちなので昇徳商会の誰よりも力持ちである。響鈴の部下だ。
 ボロ格納庫横の倉庫を改装した問屋では三名が働いていた。
 事務担当の女性は『小紅』。
 倉庫管理係は青年『昭堂』と青年『公略』の二人。
 そして人ではないが黒子猫のハッピー。猫又だと判明した今も昇徳商会のマスコット的存在である。


「さあ、張り切って離陸なのですー」
 頭にキャプテンハットを頂く猫族娘『響鈴』は昇徳商会所属・中型商用飛空船『浮雲』の船長である。
「了解しました!」
 見習いの美緒は響鈴の部下になる。まだ十二歳だが昇徳商会唯一の志体持ちなので誰よりも力持ちだ。
 二人の威勢とは裏腹に浮雲は非常にゆっくりと飛んでいた。改修前の船名『ドンガメ』が示す通り、元々速くは無理なのだが今回は別にも理由がある。
「打ち上げ花火、これ爆発したら大変ですね」
「火が点いたら浮雲はきっと真っ二つなのですー」
 美緒と響鈴は積み荷の中身を話題にする。火気もそうなのだが打ち上げ花火用の尺玉には衝撃をなるべく与えないよう配慮が求められていた。
 この度の仕事は夏の早めに祭りを行う地方へ花火を届けるものだ。
 数日後、浮雲は納品を終えて帰路に就く。そして半月が経ってもう一度同じ依頼主から仕事が舞い込んだ。届け先は別だが運ぶ荷は前回同様の花火である。
「に、二尺玉、は、九つをいっぺんになのですか!」
 響鈴は運ぶ花火の大きさと数に驚愕した。
 二尺玉といえば直径五十から六十センチメートルの火薬の塊。夜空に広がる輪の大きさは五百メートルを超えるという。
 顧客からの信頼はよいのだが二人だけでは安全管理が心許ない。李鳳と王輝風は翔速号の仕事で忙しいのでこちらまで手が回らなかった。そこで開拓者を雇うこととなる。
「この間のが、もしも爆発して船体が真っ二つなら‥‥」
「二尺玉八つだと木っ端微塵に違いないです‥‥」
 怖々と仕事を引き受ける美緒と響鈴であった。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
からす(ia6525
13歳・女・弓
十野間 月与(ib0343
22歳・女・サ
ミーファ(ib0355
20歳・女・吟


■リプレイ本文

●離陸
 昇徳商会所属・中型飛空船『浮雲』は泰国を離れて天儀本島にあった。翔速号だけではこなせない泰儀から天儀への大口輸送の仕事をこなさなくてはならなかったからだ。
 遠路遙々来たのにとんぼ返りするだけではもったいないと考え、そこで現地にて仕事を引き受けていた次第である。花火輸送もそのような状況下で舞い込んできた仕事だった。
 神楽の都から精霊門を通じて武天の都、此隅を訪れた開拓者四名は待機していた『浮雲』へと乗船。まずは二尺玉の花火を受け取るために空路で花火師の仕事場を目指す。
「引き受けてもらって助かったのですー」
「私たちだけでは不安だったんです。大きくて危険な上に高価な二尺玉の花火なので」
 操縦室の響鈴と美緒は開拓者達に事情を説明しながら『浮雲』を飛ばし続けていた。
「花火か、夏の風物詩だな。普通の花火でも注意すべきだが大きいなら余計に危険だ。しっかり守るとしようか」
 風雅 哲心(ia0135)の言葉にうんうんと何度も頷いていたのが天井近くをグルグルと飛び回っていた羽妖精の美水姫だ。
『みずきも花火のみはりやるのです。‥‥ところで花火ってなんですか?』
 膝をわずかにかくっと落とした風雅哲心は羽妖精・美水姫へと打ちあげ花火の説明を試みる。響鈴が地図の裏に丸を描いてその大きさを示してくれた。巨大な玉と聞いて羽妖精・美水姫は合点がいった様子だが、真の意味で理解したかどうかは不明である。
『花火とはどこかで聞いた覚えが。そうそう、鬼火玉が飛んで弾けるアレでっしゃろ?』
「それの元ネタだよ」
 からくり・笑喝のボケに、からす(ia6525)の鋭い突っ込みが入った。からくり・笑喝の発言は果たして天然なのか、計算なのかは機械仕掛けの創造主のみが知るところだ。
「最近のご時世、いろいろあるけど大輪の花火ともなれば心待ちにしている人が沢山居るはずだよ。無粋な輩に襲われて、心待ちにする人達の笑顔を奪われる様な事があっちゃいけないからね」
 十野間 月与(ib0343)が連れてきた朋友の甲龍・大樹は甲板でお休み中である。二尺玉の花火を受け取って人里離れた周辺を飛ぶようになってからが護衛の本番といえた。それまでは英気を養う朋友達だ。
「後に運んだ花火が夜空を彩り、観賞する人達の笑みを、感嘆の声を上げる事でしょう。楽師の楽の音によるものではありませんが、人々の元に笑顔を届けると言う事には違いありませんわ」
 吟遊詩人たるミーファ(ib0355)が『がんばりましょう』と『琵琶「檜皮雅」』の弦を軽く弾きながら呟く。ミーファと目が合った響鈴は大きく頷いた。
「到着予定時刻はお昼ちょっと過ぎです。きっと間に合うはずですー」
「浮雲はノロノロの船ですけど、障害物を飛び越えて真っ直ぐいけるだけあって結構早く到着するものなんです」
 キャプテンハットを被りなおす響鈴。美緒は少し速度をあげる。
 『浮雲』は並木の街道を越えて一直線に飛び続けるのだった。

●輸送
 予定よりも少し遅くなったものの『浮雲』は無事に花火師の作業小屋へと到着する。
「にゅ、これがほんものの花火なのです」
 羽妖精・美水姫は木箱の中を覗き込む。藁などが敷き詰められた中央に二尺玉の花火が鎮座していた。
 すべての木箱の中身を確認したところで蓋が閉められる。美緒が受け取りの書類に署名をもらうと『浮雲』に運び込む作業が始まった。
「これぐらいは一人で簡単」
 からすは軽々と木箱を持ち上げて『浮雲』へ。ちなみにからくり・笑喝はからすの言いつけを守って現在休憩中である。
「少しの間、縄を噛んでいて。引っ張るから」
 月与は甲龍・大樹に手伝ってもらいながら船倉で木箱に固定を施す。難燃性のなめし革を被せた上に縄で動かないようにしていた。
「備えあれば憂いなし。万が一の事にすら対処出来る確証があれば安心だろ?」
「これで万全ですね」
 月与は美緒を前にして固定した木箱を揺すってみせた。ほんのわずかにぶれるだけでしっかりとしていた。甲龍・大樹が自慢げに吠えるのだった。
 積み込みはすぐに終わって『浮雲』は離陸した。
 これからが本番。受け取り先の村がある国境を越えた朱藩領地を目指す。
「俺達は夜に備えてお休みだ」
「おやすみなのです。にゅ‥‥」
 風雅哲心は夜の見張りに備えてベットの中に横たわった。羽妖精・美水姫も睡眠が必要かどうか定かではないものの隣に寝転がって瞳を閉じる。
 ミーファは駿龍・ミューズを傍らに置きながら甲板で監視をしていた。
「いざというときには頑張ってもらいますね」
 駿龍・ミューズの首から背中を撫でながらミーファは耳を澄ます。超越聴覚の鋭さで接近してくる飛行物体を接近前に探知するためだ。
 眼下は平野なので盗賊が身を隠すのはとても難しい。あり得るとすれば空賊の襲撃だろう。
 逆に森の上空などを飛ぶときには眼下へ意識を集中するつもりであった。臨機応変に行うつもりのミーファである。駿龍・ミューズを側に置いているのはいつでも飛び出して対処出来るようにと考えてのことだ。
「それではセンパイ、先に休ませて頂きます」
「ごゆっくりなのですよー」
 『浮雲』の操縦を響鈴と代わって美緒が休憩をとる。夜間の見張りに響鈴と美緒も参加するからだ。
 飛行は順調に進み、やがて空が夕日に赤く染まる。
 夜間飛行にはいろいろと危険が伴うので『浮雲』は着陸して翌朝を待った。
「任せたよ」
『ほほほ、ごゆるりと。本でも読んで過ごす所存』
 からすはこのために日中からくり・笑喝を休ませていた。野生動物避けの焚き火の番をしながら、からくり・笑喝は不寝番である。
 からすは日暮れまでに設置した鳴子の確認をし終えると『浮雲』内にて就寝する。
 風雅哲心はからすとは別の仕掛けを用意していた。
「少し離れていろ。この一帯に間違っても足を踏み入れるなよ」
『主様のわなはこわくてすごいのですー』
 羽妖精・美水姫が風雅哲心の頭の上から飛んで距離を置いた。見守る仲間達に注意喚起をした上で術を唱え始める。
「‥‥迅竜の息吹よ、地に潜む罠となりて破りし者を縛れ――――フロストマイン」
 これで風雅哲心の足下に罠が仕掛けられた。しばらく経つと効果がなくなるので定期的にかけ直すつもりである。計三カ所に術はかけられる。
「もう夜も寒くはないのですよー」
 響鈴は夜食として焚き火でスルメを焼いて口に頬張る。串に刺して遠火でゆっくりと焼いたものだ。もちろん仲間達が食べられる分も用意してある。
 一日目から二日目にかけての夜は何事も起こらなかった。あえていえば響鈴が木の幹におでこをぶつけた程度である。
 朝日が昇る前の空が白んできた頃に『浮雲』は離陸。早めに飛んだのは二日目の間に武天、朱藩の国境を越えておきたいといった思惑が響鈴にあったからだ。
「こういう日は操縦も大変なんだろうね」
 月与は髪を片手で抑えながら飛翔中の甲龍・大樹の背中の上で呟く。
「右に流れ気味なので補正よろしくなのですー」
「了解しました。センパイ」
 二日目の日中はとても風が強く、船体が流されるのを補正しながらの飛行となった。響鈴と美緒の頑張りのおかげで大きく航路を外れることなく、夕方頃野営のために着陸する。
「あ、降ってきました」
 ミーファが胸元まであげた手のひらで雨粒を受け止めた。見上げた瞳に直接雨粒が入り、駿龍・ミューズは小さく啼いた。
 昨日に引き続いて地上での野営となったが天候は崩れてくる。徐々に強まってすぐに豪雨の状況となった。
「雨といえば花火の天敵だな。点火が出来ないだけではなく、湿気で使い物にならなくなるからな」
 風雅哲心の呟きに驚いた羽妖精・美水姫は急いで船倉まで羽根を羽ばたかせる。
『そんなに急いでどうしたんどすえ』
『花火がきえてしまうのですー!』
 待機していたからくり・笑喝に全身を動かして説明する羽妖精・美水姫。追いかけてきた風雅哲心によって外の土砂降りの状況が伝えられた。
「浮雲が着陸しているところは小高いようだし浸水は大丈夫だよね。空を飛ぶとはいえ船には違いないし」
 月与のいう通り多少の雨で『浮雲』はびくともしなかった。改修は完璧に施されてある。
「ただ泥棒が花火と知らないでこっそり持っていったらと思うと‥‥」
 響鈴がゾクゾクと背中を震わす。
 もしもの賊が押し入ってきた場合、乱暴な粗忽者に繊細さは求められないし、第一会話が通じる相手ではない。二尺玉の花火が奪われて雨ざらしになってしまったら、たとえ取り返せたとしても依頼は失敗になってしまう。
「雨の伏兵か。まあ、気を落ち着かせるためにも一杯いかが?」
 からすは薬缶の湯が沸いたところでお茶を淹れて仲間達に振る舞った。こういう時にはまず気を落ち着かせるのが一番。考えるのはその後でもよい。
 完全に暗くなる前に一行は雨の深夜においての対策を立てるのであった。

●襲撃
 夜の帳と共に降り始めた雨足は弱まらず、雨音が叩きつける音で『浮雲』の船内は満ちていた。
「この状況では‥‥」
 美緒が外に出てみれば細かった水の流れが今では小川のようになっている。この様子な酷い天候なら賊でも活動を諦めるだろうと考えたいところだが、ブンブンと頭を振って油断は禁物と心を引き締めた。
 前日よりも注意深く警戒は続けられていた。
 闇夜に関しては『浮雲』搭載の輝く宝珠で周囲を照らしている。目立つ問題よりも危険の察知を優先したのである。
(「澄ませて‥‥」)
 雨音のせいで周囲の状況は聞きづらくなっていたものの、ミーファは仲間達の仕掛けが発するであろう音の発生のみに集中していた。
「ざぁーざぁー雨だけで終わればいいのですけど‥‥」
 何事もなければそれが一番。そう響鈴は考えていたものの、良い予感は外れて悪いものが当たるもの。それがまもなくして現実となった。
 突然、雨音に混じって鳴子が響くと立て続けに猛烈な吹雪の轟音が。ミーファは伝声管にて全船内に何かが接近していることを伝えた。
 真っ先に飛び出したのが甲龍・大樹と共にあった月与だ。
 月与は即座に龍騎して船倉用開閉扉から滝のような雨の中へと飛び出す。危惧していた賊か、それともアヤカシか野生生物か。眼をこらすと宝珠の輝きに照らされる影が飛び込んできた。
「あれは間違いなく!」
 月与が目撃したのは蓑を纏った人間。手には刀や銃などの武器を携えて『浮雲』に近づこうとしていた。
 次々と仲間達も土砂降りの野外へ。
 駿龍・ミューズの手綱を握るミーファ。からくり・笑喝を連れてのからす。風雅哲心の頭にしがみついた羽妖精・美水姫が現れた。
 響鈴と美緒について離陸準備を整えるよう予めお願いしてあったのでこの場にはいない。
「浮雲をお願い!」
 そう甲龍・大樹に告げた月与は背中から飛び降りて三叉の『槍「猛」』を構える。
 一発の敵銃声が鳴り響いたのを合図にして月与は咆哮をあげた。それに釣られて刃をぎらつかせた賊共が襲いかかってくる。
 軸足を中心にして月与は身体を回転させ大きく薙ぎ払う。弾き飛ばされた賊共は転倒して泥にまみれた。
 この時、多くの賊が相手は志体持ちだと認識したようだ。しかしさらに戦いに慣れた開拓者だと見抜いた者はいなかった。この瞬間に撤退すべきだったと後に賊の全員が振り返ることになる。
「今のうちに」
 襲撃の初動を抑えることこそ被害軽減に繋がると考えたミーファは駿龍・ミューズで雨の闇に舞い上がった。
 賊共が散開する前を狙って奏でたのが重力の爆音。激しい琵琶の奏でが賊共を翻弄する。中には泥の地面に倒れ込むほどの衝撃を受けた者もいた。
「うわぁ、何だ!」
 甲龍・大樹はその硬い巨体で賊共の『浮雲』突入を阻止する。時には爪で払い、体当たりを食らわせて弾き飛ばす。
『あらあら、こんな夜更けに女子を襲うとはいやらしい輩どすなぁ』
 からくり・笑喝が放った銃弾は迫る賊二名のどちらにも当たらなかった。
 しめたと下衆な笑いを浮かべた賊二名だったが、次の瞬間、爆発に巻き込まれて大木の幹に叩きつけられる。
『汚い花火どすなぁ』
 即座に転がる賊へと近寄ったからくり・笑喝は急所に一撃を蹴り込んで気絶を誘った。
 爆発の正体は焙烙玉。からすがあらかじめ仕掛けて置いたものだ。油紙に包んでさらに雨水が当たらない枝葉が茂る木々の枝へと挟んであった。
 決して外れたわけではなく、最初からからくり・笑喝が『相棒銃「テンペスト」』で狙ったのが焙烙玉。ちなみに焙烙玉は後で昇徳商会の予算で補充されるはずである。
(「結構な人数だな」)
 甲板付近の展望室。起きたばかりのからすは『弓「蒼月」』の弦を引いた。そして距離をとって戦いだしたからくり・笑喝を援護するように矢を放った。
 賊の接近が一段落すると地上に降りて今度は茂みから狙う。
 響鈴と美緒の準備が整って『浮雲』が離陸を開始する。どこかに逃げるのではなく少しだけ離れた上空で円を描くように留まり続けた。
「これで思う存分戦えるな」
「主様のわなにかかったのです」
 風雅哲心の頭から離れた羽妖精・美水姫は叩きつける雨に逆らうように高く舞い上がる。
「いきますよー」
 羽妖精・美水姫が立て続けに使ったのは『誘惑の唇』と『混乱の舞』。どちらも相手を手玉に取るものだ。
 賊が惚けたところを狙って風雅哲心は攻撃を試みた。
「‥‥轟け、迅竜の咆哮。砕き爆ぜろ―――アイシスケイラル!」
 手をかざした風雅哲心が呪文を唱えると高速の氷刃が出現する。
 鎧姿の大男な賊に刃が突き刺さって炸裂。破片を飛び散らせながら大男は断末魔のような悲鳴をあげて倒れ泥水を跳ねあげた。
「さあ、どうするつもりかな? 襲おうとした飛空船は頭の上だけどさ」
「夢を見るなら、強奪した金子の夢でなく、まどろみの中で人に優しい夢を見て下さい」
 月与が咆哮で集めた多数の賊に対し、ミーファの夜の子守唄が眠りを誘う。
 睡魔に蹌踉めく賊に月与の槍が戦闘を不能にさせる。
 まもなくしてどこからか笛の音が鳴り響いた。賊共の動きからして撤退の合図に間違いなかった。
「賊の連中、暴れん坊の盗賊というよりも‥‥気性の荒い村の衆が一致団結してって感じですね」
「近くに村があったはずなのですー。今度この辺りを通る時には気をつけないと。こういうこともあったりするのが、知らない土地の怖さなのですよー」
 操縦している美緒の側で響鈴は広げた地図に印をつけた。
 事態が沈静化すると響鈴は美緒に着陸を指示して開拓者と朋友を乗船させる。疑わしき村のある方角から少し遠ざかったところで再度着陸。翌朝になるのを待った。
 朝方になると小雨になる。
 『浮雲』が輸送を再開してから一時間も経つと雨は完全にあがった。
「少しねむいのです‥‥」
 日中、頭の上から落ちそうになったうとうとの羽妖精・美水姫を風雅哲心が伸ばした手で支える。
 風雅哲心は膝の上で羽妖精・美水姫を眠らせながら展望室から外を眺めた。澄み切った青空が広がっていた。
 月与とミーファはそれぞれの龍で『浮雲』と並んで飛行。二頭ともに気持ちよさそうに滑空する。
 操縦室ではからすがからくり・笑喝に運ばせた茶道具で茶を淹れてくれた。欠伸する響鈴と美緒へと振る舞われる。
 暮れなずむ頃には目的の村へ到着。無事に二尺玉を納品する『浮雲』一行であった。

●夜空の輝き
「何や大変だったのう。そがいなこん、おきたっとや」
 村の長が『浮雲』一行を屋敷に招いてくれた。輸送の途中で賊に襲われたことを知るとより親身になってくれる。
 響鈴はすぐにでも帰路に就くつもりだったが、引き留められてもう一日滞在を延ばすことにした。
 雨の中での戦いは一行が思っていたよりも過酷だったらしく疲労が溜まっていた。ゆっくりと休養したおかげで身体が回復する。
 日が暮れて一行は屋敷の縁側へと呼ばれた。これから花火の打ち上げ訓練を行うとのことで。
「景気づけに届いたら早々に一発打ち上げんよ。むっかしからの習わしでのう」
 村の長が指さした方角に花火は打ちあがるという。
「よく冷えているのですよー。それに開拓者にあげるつもりのめろぉんと互角の美味しさなのですー」
「種は食べてはダメですよ、センパイ」
 響鈴と美緒は口を開けてがぶり。一行は綺麗に切られた西瓜を頂きながら暫し待つ。
 鐘の音が村に鳴り響いて三呼吸後。衝撃音が全員の腹を響かせた。
「‥‥にゅ、花火きれーなのです」
「そうだな」
 縁側に座る羽妖精・美水姫と風雅哲心は同じように夜空を見上げる。闇に輝く星に混じって真っ赤な大輪が浮かび上がった。
「とっても綺麗‥‥。守ったかいがあったね」
 月与は借りた浴衣姿である。手には団扇を持っていた。
『大きな鬼火玉どすなぁ』
「その通り」
 からくり・笑喝のボケを軽く受け流して、からすも徐々に消えてゆく鮮やかな二尺玉の花火を楽しんだ。
「素晴らしい花火でした」
 花火が消え去ると同時にミーファは静かな一曲を琵琶で奏でるのだった。