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■オープニング本文 神楽の都から歩いて一日の場所にある武天の町『安神』。安神の郊外にはいくつかの花火作りの小屋があった。 青年花火師『徳郎』は倉庫の中に仕舞われたたくさんの花火玉を眺めていた。以前に開拓者達に手伝ってもらったおかげで、安神の商人達からの受けた注文のすべてを作り上げられたのである。 「あとはこいつを打ちあげるだけだが‥‥」 徳郎は花火を打ちあげるのにも万全を期したいと考えていた。祭りとなれば友人知人、他の花火職人達も手伝ってくれるが、人数には余裕があった方がいい。 (「今度も開拓者に頼もうか‥‥」) 徳郎は開拓者に花火の打ちあげを手伝ってもらう事にする。さっそく神楽の都へと出向き、開拓者ギルドで手伝いの募集をかけた。 「花火は綺麗だせ。もしよかったら姉ちゃんも観に来てくんな。屋台も普段よりたくさん出てらぁな」 「お祭り、いいですよね♪」 ご機嫌な様子の徳郎が受付嬢の前で膝を叩く。 花火師・徳郎にとって、一年で一番大切な日がもうすぐ訪れようとしていた。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
斎賀・東雲(ia0101)
18歳・男・陰
紅(ia0165)
20歳・女・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
雲母坂 優羽華(ia0792)
19歳・女・巫
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
百目鬼 浄眼(ia3615)
25歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●花火の搬送 「夏の花火ってのを特別だと思っているのは俺だけじゃねぇはずさ。みんな楽しみにしているはずなんだよ。安神の人達の期待に応えたいからよ。どうかよろしく頼むぜ」 武天の町『安神』の郊外。花火師・徳郎の作業小屋前には参加した開拓者達が集まっていた。簡単にいえば花火を打ちあげ終わるまで徳郎を助ける事が依頼の骨子である。 「まずは搬送についてだが――」 あらかじめ徳郎からいくつかの要点が伝えられる。花火とは火薬の塊であり、取り扱いには充分な注意が必要であったからだ。 開拓者達も最初から了解していた。故に依頼書の文面から作業を想像し、この地に来るまでに仕事の割り振りも終わっている。 まずは全員で作業小屋近くにある倉庫から花火玉を運びだす作業に手を付けた。全員での力仕事となる。 (「ほんまは力仕事はあんま得意ちゃうねんけど、他の面子女の子だけやし、ちょいとばかし気張るとしますか!」) 団扇を扇いで暑がっていた斎賀・東雲(ia0101)が吠えて気合いを入れ直し、腕まくりをすると真っ先に倉庫の中に足を踏み入れた。 斎賀東雲はゆっくりと薄暗い倉庫内を見渡す。 積まれていたのは木箱。徳郎によるとおが屑などの緩衝材と一緒に花火玉が詰められていという。 「この巨大な木箱もそうなんか?」 「ああ、こいつには二尺玉だ。びっくりするほどでっけぇ花火の玉よ!!」 斎賀東雲に訊ねられた徳郎は腕を組んで笑う。 直径約60センチの巨大な花火玉が収められている木箱は倉庫の中で一番目立っていた。 その他にも多くの花火玉が入った木箱があったが、まずは二尺玉のものから運びだす。一度台車に載せて外へ運びだし、落とさないように注意しながらもふらさまに繋がる荷車へと積んだ。 「みなさんが戻ってくるまでに載せやすいように仕分けをしておきます‥‥」 「私はみなさんが戻ってきたときに休憩できるような用意をします。安心して行って来て下さい」 水津(ia2177)と柊沢 霞澄(ia0067)は作業小屋周辺に見張りとして残った。 留守中に万が一があってはいけないし、荷運びをする仲間が少しでも楽になるようにいろいろとしておくつもりの二人だ。 見張りの二人を除いて一同は出発した。 「もふら様、がんばって下さいね」 柚乃(ia0638)は荷車を引っ張るもふらさまと並んで歩を進める。かなり遅い速度であったが、安全を計る為に徳郎がわざとそうしていた。 「よお。徳郎さんとこか。運んでいるのは花火だな」 通りすがりに声をかけてくる人も多い。安神周辺の人々も花火を楽しみにしているのがよくわかる。 やがて安神内の河原近くへと到着する。 「さあ、一気に移し替えてしまおうか」 紅(ia0165)は跳ねるように移動しながら、荷崩れを防ぐために荷車へ張ってあった縄を解いた。 荷車は出来るだけ仮の花火保管小屋に近づかせ、現場にいた徳郎の知り合い達と共に開拓者達も一列に並ぶ。そして手渡しで一気に保管小屋へと花火玉が入った木箱は仕舞われた。 「ここは、うちらに任しといてや」 「火は近くで絶対に使わせないようにしますね」 河原の花火保管小屋には雲母坂 優羽華(ia0792)と柚乃が見張りとして待機する。注目度が高いので、より注意が必要だと思われた。 徳郎の作業小屋に戻る時には、誰もが軽快な足取りである。もふらさまも心なしか笑顔のようだと朝比奈 空(ia0086)は感じていた。 「子供は百目のお化けが攫っちゃうわよォ?」 「うそだぁ〜い!」 花火を載せてまた安神へ向かう途中、百目鬼 浄眼(ia3615)は荷車へ乗ろうと近づく子供達を驚かす。 やんちゃな子供が多かったが、運んでいるものが花火だと知ると、いうことを聞いてくれた。危険なのが子供達なりにわかっているようだ。 花火玉運びは二日間に渡って行われた。一度、小雨が降ってきて大わらわになったものの、無事にやり過ごす。 すべての花火玉が運び終わった後、開拓者達は全員安神に移動して河原の花火玉保管小屋の見張りに徹した。 「明日には花火のお披露目‥‥ですか。そういえば安神の町にはすでに屋台が並んでいました」 「いいねぇ、この雰囲気。ぞくぞくすらぁ」 夕暮れ時、朝比奈空と徳郎は河原に並ぶ花火打ちあげ用の筒をしばし一緒に眺めていた。徳郎の知り合いの花火職人が用意してくれたものだ。 「明日も良い天気でありますように‥ね、もふら様」 柚乃はもふらさまの背中を藁で撫でてあげる。 開拓者達は夜空を見上げ、明日に打ちあげられるであろう華麗な花火を想像するのであった。 ●花火 祭り当日は昼間から快晴だった。屋台などが出て普段より多くの人が安神の町にごった返す。 威勢のいい笛や太鼓の音が鳴る中、やがて日が傾く。 「絵で説明してあれば、子供達にもわかるだろ」 百目鬼は頭上に提灯が並ぶ明るい場所に、出来上がったばかりの立て札を地面へと突き刺す。柚乃が描いてくれた注意を促す絵が貼られてある。 火の粉を被ってヤケドしそうになっていたり、顔が真っ黒になって髪の毛がモジャモジャのバクハツした感じの挿し絵だ。 打ちあげの現場近くには関係者以外が入れないように縄が張られていた。開拓者の何人かが警備にあたる。 夜空にいくつもの星が現れて打ちあげの時が迫る。 木箱の蓋はすべて開けられて、いつでも取り出せるようになっていた。当然、すぐに使う花火玉は打ちあげ用の筒が並ぶ比較的近くにまとめて運ばれてあった。 「この釜の石は全部使えます」 「こちらも大丈夫なので、任せてね」 河原の石で組んだ釜の番をしていた柊沢霞澄と柚乃が、やってきた徳郎へと振り返る。釜内では発火用の焼き石がくべられて真っ赤に熱くなっていた。 「よしゃ。始めるとするか!」 「なんや楽しゅうのうてきましたわぁ」 徳郎と一緒に雲母坂は焼いた石を道具で挟んで次々と筒の中に入れてゆく。 「こちらの段取りは任せて下さい。花火玉も順番に整理しておきました」 「途中で役割を交代してもらうつもりだ。頼んだぜ!」 朝比奈空は徳郎と組んで花火をあげる役目を受け持つ。まずは花火玉を間違えないように徳郎へと渡した。 最初の花火玉が徳郎に手渡され、筒の中へと放り込まれる。 「はい‥‥。予定通りに順番に渡します‥‥。しばらくは三番の筒の担当をお願いします‥‥」 「わかった。細かい事は任せた。あたしは花火玉を打ちあげるのに専念しよう」 水津から渡された花火玉を百目鬼が筒へと放り込む。すぐに激しい音と煙と共に花火玉が天へと打ちあがる。 徳郎があげた花火が夜空に真っ赤な輝きを広げる。それに続いて百目鬼の黄色の花火が夜空で散火した。 「お、始まったようやな。こりゃすごいわ」 人波の流れを整理していた斎賀東雲が夜空に打ちあがった花火を見上げる。周囲にいたほとんどの人々も夜空の花火に視線を動かす。 「おっと、見とれすぎるのも問題だな。適度に周囲にも気を配らないと」 河原の花火保管小屋には紅がいた。 祭りの夜は長く、花火もたくさん保管されている。小屋に部外者を近づけないように紅が警備を任されていた。 たまに夜空を見上げ、華やかな花火を瞳に焼き付けながらも紅は警戒を怠らなかった。 夜空には次々と花火が輝く。 金色から紅色へと変化してゆく菊先花火。 赤い輝きが人々をも照らす牡丹花火。 太い尾を引く黄金に輝くやし花火。 夜空が鮮やかな光に包まれる。 見上げる人々の瞳には光の軌跡が映り込む。 開拓者を含めた打ちあげの職人達は呼吸を合わせて次々に筒へと花火玉を放り込んだ。わずかな後に、それらは空へと打ちあげられて夜空を彩ってゆく。 花火玉が夜空で割れ、輝きの光を降らす度に人々から歓声があがる。 それらの中には屋号や職人の名を叫ぶ者もいた。 開拓者達もまた大声で叫んだ。『徳郎!』もしくは『徳郎屋』と。 「よし、こいつの出番だ‥‥」 巨大な花火玉が台車に載せられて運ばれる。二尺玉と呼ばれるとても巨大なものだ。 「頼んだぜ」 徳郎を始めとして朝比奈空、水津、百目鬼が二尺玉を担ぐ。他の職人の手も借りて持ち上げられた。 「逃げろ!」 巨大な玉が筒に入ると大急ぎで全員が筒から離れる。 これまでにない轟音と共に二尺玉が夜空に吸い込まれるように打ち上がった。 それは安神の町を覆ったといっても大げさではない、巨大な花火だ。 輝きは紅色から黄金へなど幾重にも現れては消え、歓声も最高潮に達する。一つの球を光が象るだけでなく、内部にはいくつも内包されていた。 人々の心に思い出を残し、二尺玉の輝かしい光の散りはやがて消え去る。 「あれは」 「もしかして」 二尺玉の後、おまけとして打ちあげられた花火にも小さなどよめきが起こった。特に声をあげていたのは子供達だ。 試しに作ったもふらさまの顔を象った花火が打ちあげられたのである。斜め下に傾いていたのは、初挑戦なのでご愛敬である。 その後、祭りの花火は次の花火職人へと移る。 徳郎は引き続き打ちあげを手伝ったが、開拓者達は休憩をとった。次の花火職人の仲間達が多くいたからである。 しばらくは花火を心おきなく楽しむ時間となる。徳郎の花火でなかったのが少し残念な開拓者達だったが、夜空が賑やかなのは間違いない。 夏の風物詩としては欠かせない花火。川の土手に座って夜空を眺め続ける。 「気が利いとるなぁ、徳郎は。甘いし、よう冷えとるわ」 斎賀東雲は半月状の西瓜にかぶりついて種を地面に飛ばす。よくやってくれたお礼にと流水で冷やした西瓜を開拓者達にプレゼントしてくれたのである。 「音が体の芯まで響きます‥。そは泡沫の夢、儚いからこそ人はこの光に惹かれるのですね‥‥」 柊沢霞澄は釜の番をしていた時に煤けた顔を、徳郎から借りた手ぬぐいで拭いながら天を仰いだ。 「綺麗ですね‥‥思い入れが深いので尚更でしょうか」 「よい花火大会になった。来年も期待するぞ」 朝比奈空と紅は他の仲間達より感慨深いものが心に沸き上がっていた。花火玉を作る段階から手伝った二人だからである。 盛大な二尺玉の輝きを二人は忘れないであろう。 (「もふら様の花火、とてもよかったです。もう一度あがらないかな?」) 柚乃は徳郎特製のもふらさま花火がとても気に入る。残念なのは試作の一発なので一回限りであったことだ。 「ええなぁ。やっぱり夏は花火どすえ」 雲母坂も西瓜を頂きながら夜空を見上げる。激しい音と共に花火が連発されて、夜空が金色に輝く。 「厭ってほど花火が楽しめたわ。全身にある百の目でね」 百目鬼は土手に寝ころびながら花火を観賞して洒落てみる。今夜はお酒が美味しいだろうと心の中で呟きながら。 (「なかなか、うまく出来ないものです‥‥」) 水津は精霊力の火種を使って花火の再現を試みたが、なかなかうまくはいかなかった。ひとまずチャレンジを諦めて花火を眺める。 やはり火はいいと、うっとりと眺めた水津だ。 楽しい祭りもいつかは終わる。 花火の打ちあげが終了すると開拓者達は片づけを手伝うのだった。 ●そして 本格的な片づけは翌朝に行われた。 一日をかけてすべてが終わり、花火の打ちあげに関わる仕事のすべては終わりとなる。 開拓者達はさらに一晩を徳郎がとってくれた安神の宿屋で過ごした。取り寄せられた山海の珍味を頂きながら、酒宴が開かれたのである。 酒が駄目な開拓者にも、さまざまな飲み物が提供された。多種な食事に舌鼓を打たれる。 「すごく助かって、もう感謝しきれねぇーくれぇだ‥‥。特に二尺玉をきっちりと打ちあげられた時にはよぉ‥‥。ありがとうよ、みんな」 翌朝、男泣きをぐっと我慢した徳郎は最後に開拓者全員と両手で握手を交わす。 開拓者達は徳郎に見送られながら、神楽の都への帰路に就いたのであった。 |