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■オープニング本文 泰国は飛空船による物流が盛んである。 その中心となっているのが旅泰と呼ばれる広域商人の存在。 必要としている者に珍しい品や食料を運んで利益を得ている人々だ。時に天儀本島の土地にも根ざし、旅泰の町を作る事もあった。 当然の事ながら泰国の首都『朱春』周辺にもたくさんの旅泰が住んでいた。昇徳商会の若き女社長の李鳳もその中の一人である。 「そんなに人気なの?」 「そうなんですよ〜。噂には聞いていたのですけど、本当にそうだったんですー」 泰国の帝都、朱春近郊の飛空船基地。ボロ格納庫横の問屋倉庫で若き女社長『李鳳』と社員の猫族獣人娘『響鈴』は立ち話をしていた。問屋倉庫は職人達の手によって内装工事の真っ最中である。 「天儀の人達は『松茸』を『土瓶蒸し』にするのです。『ドビン』って響きがステキに感じる今日この頃なのです〜♪」 「その土瓶蒸しってのがどんなものなのかわかりにくいけど、とにかく天儀では香り高いキノコとして松茸が珍重されているってわけなのね‥‥」 ところ変われば趣向にも違いが生じる。泰国の料理にはあまり松茸は使われていない。逆に天儀では一族の間ですら奪い合うほどの人気があるという。ちなみに去年の晩秋、響鈴が怪しげなレシピから松茸御飯を作ったのだが、使ったキノコがシイタケだと気づいたのは大分後のことだった。 「松茸? もしかしたら採れる山、知っているよ」 その日の夕食時にも松茸の話題がのぼった。操縦士兼整備士の青年『王輝風』が意外な言葉を口にする。昔に遭難した山にたくさんの松が生えており、そこで茸を見かけたというのだ。 「発見したときには食料が尽きてお腹が減っていたんだけど、香りが強すぎて毒キノコとかも知れないと悩んだんだ。結局、地元の村に辿り着けて食べないで済んだんだけど。松茸かもね。あの山にあったキノコ」 王輝風はその山の位置を今も覚えていた。 李鳳は商売の種と遊興として昇徳商会一同での松茸狩りを決める。松茸にはあまり詳しくないので護衛を兼ねて開拓者を雇うのだった。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
倉城 紬(ia5229)
20歳・女・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465)
22歳・女・弓
マリー・ル・レーヴ(ia9229)
20歳・女・志
ニクス・ソル(ib0444)
21歳・男・騎
春陽(ib4353)
24歳・男・巫
沖田 嵐(ib5196)
17歳・女・サ
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●到着 昇徳商会所属の『翔速号』がゆっくりと山の中腹へ着陸する。 泰国中部に位置するこの山は王輝風が過去に遭難しかかった土地。そして多くの赤松が自生している土地でもある。 「これで万全のはずです」 礼野 真夢紀(ia1144)は船倉で調理道具を今一度点検していた。 船内の炊事場で調理するのには限界があった。そこで仲間達と相談して野外で行えるよう様々な調理道具を用意してきたのだ。 食材の事前準備も怠っていない礼野である。朱春で購入してきたものや下ごしらえの素材は氷霊結を活用して保存されている。 それはさておき、まずは松茸狩りということで礼野は仲間達と一緒に下船した。 「北はあの崖から先には行かないようにしてくださいね。西は――」 王輝風が景色を指さして範囲を説明するとさっそく松茸狩りの開始である。 「みんな、よろしくね〜」 翔速号には留守番として李鳳が残るのだった。 ● 「望花さん、ここが松茸山ですよ! 松茸山です松茸山!」 春陽(ib4353)は、抱えていたもふら・望花を頭上に持ち上げて山の様子を眺めさせる。 「もふ‥‥」 この時、望花は春陽が神楽の棲家で『茸と一緒に輪になって踊りましょうね〜』といっていたのを思い出していた。あくまで例えなのだが望花は言葉通りに信じていたのである。 (「松茸マツタケまつたけ――」) 赤松の木を発見した春陽は今一度見本の松茸の形と香りを望花と一緒に確認する。そして手分けして地面に落ちている枯れ葉や草を退けてながら自然に生えている松茸を探す。 春陽は翔速号に天儀米をたくさん持ち込んでいた。天儀での販売を昇徳商会が計画している以上、やはりここは天儀米と合わせた料理を試すのが最上だと考えて。 食すところを想像するだけで垂れそうになる涎を堪えながら懸命に探すものの、なかなか松茸とは出会えなかった。見つけたと飛びついたらただの石ころで、かつ立ち上がるときに太枝へと後頭部をぶつける始末である。 「もふもふ〜〜! もふ?」 ごろごろと斜面を転んでしまった望花だが、止まった先で香りを感じとった。もふ〜っと啼いて呼び寄せると春陽が大喜びする。松茸を発見したのである。 春陽は望花を抱きかかえて軽やかに踊り始めた。 「松茸をよくぞ見つけてくれ‥‥え? 輪になって踊る?」 何故、松茸も一緒に踊らないのかと望花に聞かれた春陽はようやく思い出し、顔を真っ赤にして詳しく説明する。 次の赤松を調べた時、幹の根本をぐるっと囲むようにして松茸六本が生えていた。 「まるで踊っているようですね。私たちも加わりましょうか」 「もふ〜」 春陽と望花は松茸の間に入って喜び合うのであった。 ● 「松茸は赤松の根本に生えているようなので、まずは木を探さないと」 礼野は飛翔する駿龍・鈴麗の背中から山を見下ろしていた。 赤松の位置に見当をつけてから着陸。徒歩でつぶさに探してみる。鈴麗は上空から礼野につかず離れず追いかけた。 赤松を地上で発見してさっそく松茸を探す。 採れた松茸を籠に仕舞って再び鈴麗で上空へ。二本目の赤松までは念入りに松茸の分布を調べた。木の根本から離れて松茸がどこまであるのかを調べたのである。 三本目からは決めた範囲のみ念入りに調べて効率よく松茸を見つける礼野だった。 ● 木漏れ日の下、沖田 嵐(ib5196)、マリー・ル・レーヴ(ia9229)、王輝風の三人は行動を共にしていた。 「松茸は楽しみですね〜。あ、そろそろ教えてもらった辺りですの」 マリーは立ち止まると事前に松茸の位置を描き込んでおいた地図を確認する。情報元は王輝風。だが昔のことなので細部となると曖昧。つまり大まかなものである。どちらかといえば今回正確な地図にするための行いだ。 「それにしても松茸なんて豪勢な話だな」 赤松の根本で腰を屈めた沖田嵐がしばらく物思いにふける。片田舎に住んでいた頃、爺ちゃんが年に一回くらい松茸料理を出してくれたっけと。 「お?」 そんな沖田嵐の頬を追いかけてきた炎龍・赤雷が鼻先でつついて現実に戻す。 「ん? おおっと、護衛だ護衛! しっかりやろうぜ」 立ち上がった沖田嵐は赤雷の頭を撫でてあげる。松茸狩りはマリーと王輝風に任せて周囲の監視に注力する沖田嵐であった。 「試してみましょう」 マリーは『心眼「集」』で松茸の位置を探ってみたが失敗に終わる。生命が溢れている森で小さな存在をより分けるのは非常に難しかった。 斜面は滑りやすいのでマリーと王輝風は注意深く慎重に降りる。沖田嵐は見守りながら追いかけた。 「この辺りだったかな‥‥いや‥‥」 王輝風は遭難しかけた当時のことを懸命に思い出そうとしたがあきらめる。森の変化があまりに激しかったからだ。例え数ヶ月であっても無理だったに違いない。 「松茸‥‥‥‥どこだろ?」 王輝風は赤松の根本を回るようにして眺める。未確認の松茸を踏んでしまわぬよう慎重な足取りで。 「香っているような‥‥」 土や草のにおいに紛れて松茸の香りが漂っているような、そんな気がしたマリーだ。 ようやく枯れ草の下に隠れていた松茸を発見する。それからすぐに王輝風も探し当てた。沖田嵐もふと見た足元で松茸を見つけるのだった。 「あんなものがあったのか?」 危険に気がついた沖田嵐は喜んでいるマリーと王輝風に近づいて頭上を指さす。 そこにあったのは巨大な蜂の巣。ミツバチのもののようであったが刺激すれば大騒ぎになること必至である。 静かに周囲の松茸を採り終えると次の赤松へ。この後、沖田嵐、マリー、王輝風の三人は大量の松茸を手に入れるのだった。 ● 泡雪(ib6239)は忍犬・もみじと山森をゆっくりと歩いていた。 「松の樹木の根と共生する。栄養の少ない土地を好む。乾燥を好む。つまり、落ち葉が堆積して腐葉土になっていない場所で、水はけの良い斜面などが探し所のようです」 泡雪はもみじに話しかけながら松茸の香りを嗅がせる。 この松茸は朱春で手に入れたものだ。泡雪は知識ともみじの鼻を手がかりにして松茸を探そうとしていた。 赤松の根本ならば必ずしも松茸があるとは限らなかった。念のために通りすがった赤松の周囲を探ってみたがどれも肩すかしに終わっている。 ある位置を境にしてもみじの動きが活発になる。崖を登ったりと縦横無尽に山中を駆け抜けてようやく足を止めた。 「ここ?」 泡雪はもみじが吠えた辺りを探してみる。すると隠れるように生えていた松茸四本を見つけだす。 「『シロ』を大切にすれば来年も松茸が同じ場所で採れるそうです」 泡雪は松茸だけを丁寧に採取して下に広がるシロを大切に残した。手に入れた松茸四本はもみじに取り付けた小さな籠へと仕舞う。 もみじが小さく吠え、泡雪は再び追いかけるのであった。 ● 倉城 紬(ia5229)と響鈴は道無き山の斜面を転ばぬように降りていた。 ちなみに上空を飛翔する倉城紬の炎龍・赤翁に取り付けた籠には黒子猫のハッピーがおとなしく収まっている。 「『シロ』というのを傷つけない様にしなければいけないですね」 「そうみたいなのです。来年を考えると、とっておかないといけないみたいですー」 倉城紬と響鈴は船内で仲間達と話したことを思い出しながらまずは赤松を探す。そして発見すると松茸がないか地面に目を凝らした。 「赤松の根元に生息している、と伺ったことがありますが中々みつからないものですね〜♪」 「こっちの木は任せてくださいー」 二人はそれぞれに拾った枝を握りしめ、枯れ草を丁寧に退かしてゆく。 「これ? ありました!」 「松茸〜〜♪」 倉城紬と響鈴はほとんど同時に別々の松茸を発見する。根本から取って微かについている泥を払う。 「間違いなく松茸ですよ、響鈴さん」 倉城紬がお墨付きを告げると響鈴が顔を近づけて香りを吸い込んでみた。 「これが松茸の香りなのですかー。去年は椎茸を松茸と間違えちゃったんです。松茸ごはんを作ったつもりが椎茸ごはんになっちゃって‥‥。それはそれで美味しかったんですけど」 「食べてみるのが楽しみですね」 響鈴と倉城紬はしばらくお喋りに花を咲かす。はたと思い出したように他にもないか松茸を探す二人であった。 ● 山森のアーニャ・ベルマン(ia5465)は猫又・ミハイルと共にある。ニクス(ib0444)も一緒に行動していた。 「探すのは俺かよ! 犬じゃねぇんだぞ!!」 プンプンとお怒りの様子のミハイル。 「人間よりも鼻が利くじゃないですか、それに依頼書を見てなんとかなるといっていたのはミハイルさんですし。報酬もらえてマツタケ食べられる最高じゃないか、とかもいっていましたし」 アーニャが話しかけている途中、ミハイルは眼下の斜面に泡雪と忍犬・もみじのコンビを見かける。もみじが松茸を鼻で探り当てたようでぐいぐいと泡雪を先導していた。 「やるぞ。早く見本の松茸をだしてくれ」 「どうしたんです? いえ、やる気になってもらった方がよいのですけど」 突然に競争心が芽生えたミハイルだ。アーニャは袋から取り出した松茸をミハイルに嗅がせる。 (「ま、大丈夫だろう」) ニクスはアーニャとミハイルの様子を眺めながら他のことを考えていた。 昇徳商会の面々を護衛するつもりでいたが、響鈴と王輝風にはそれぞれに仲間が同行している。李鳳は留守番として翔速号に残っているが、志体の能力を全開で移動すれば戻るのに三分とかからないだろう。それに万が一があったときには笛を吹いて危険を報せるといっていた。 龍を連れてきた仲間達が事前に上空から山を探ったところ、アヤカシを含めてこれといった危険は見あたらなかった。そこでニクスは松茸狩りに注力することにしたのである。 「‥‥どうかしたのか?」 ニクスは気がつく。見上げるミハイルが自分に対し、黒眼鏡のブリッジを肉球でクイクイと持ち上げる仕草をしていたのを。 「対抗心を持っているみたい」 「そういうことか」 ニクスの耳元でアーニャが囁いた。ニクスも黒眼鏡をかけているのだが、自分の方が似合っているといったミハイルのパフォーマンスのようだ。 とにもかくにも松茸である。 ミハイルの後をアーニャとニクスは追いかけた。 さすがに猫又、選ぶ経路が人とは違う。木に登って枝から枝へと飛び移ったかと思えば蔓の上を綱渡り。足の裏がすべて乗っからない崖を通ったりと危険だらけ。志体持ちのアーニャとニクスは難なくついていけたが、普通のモノにはまず無理な相談である。 「くんくんくん、ここ掘れ、にゃんにゃん‥‥とでも言うべきか?」 ミハイルが肉球で地面を指す。さっそくアーニャが枯れ葉を退かしてみると松茸が現れた。 「『シロ』の残し方は教えてもらったから‥‥こうやってと」 アーニャが松茸を確保するとミハイルは胸を張ってふんぞり返った。 「天儀で松茸は貴重だからな。たくさん見つかれば商売としてはとても‥‥あった」 他にないかと近くを探っていたニクスも松茸を探し当てる。 この辺りにあった松茸は二十本にものぼる。どれも大きめで美味しそうなものばかりであった。 ●試食は至福の時 松茸狩りに向かった全員が暮れなずむ頃には翔速号へと戻る。 「結構集まったわね」 すべてを集めると松茸は大人が入れるほどの籠で二つ分にもなった。探した範囲は山のごくわずかな範囲なのでまだまだ採れる可能性がある。李鳳は商いの手応えを感じ取る。 少し休憩してから夕食兼試食用の調理に取りかかった。 マリーはアーマー・フロマージュ、ニクスはアーマー・シュナイゼルを駆動させて岩をや石をまとめて一気に運んでくれた。それで釜戸、卓と椅子、風よけを全員で組み上げる。 川まで遠かったので主人を乗せた駿龍・鈴麗、炎龍・赤翁、炎龍・赤雷が空中輸送で水汲みを手伝ってくれた。 薪代わりにする落ち枝などは、もふら・望花、忍犬・もみじ、猫又・ミハイルと手が空いた者達で拾い集める。 火興しは倉城紬の火種のおかげで非常に簡単に済んだ。礼野と春陽は氷霊結を作った氷を調理する仲間達にも提供する。 包丁で食材を刻む軽快な音。ぐつぐつと煮える釜。 各自作りたい料理が重なっていたのでそれぞれに協力し合った。 礼野は『土瓶蒸し』、『天ぷら」、『すき焼き』。使用する海産物は木箱に入れた氷やおが屑のおかげで新鮮なままである。 ニクスは『土瓶蒸し』、『松茸ごはん』、『松茸の網焼き』と多岐に渡る。 アーニャは『松茸の網焼き』。泡雪も『松茸の網焼き』。焼くのは食べる直前なので炭や七輪を用意して仲間を手伝う。 マリーは『松茸ごはん』の他に『松茸のお吸い物』にも挑戦する。 春陽は厳選した天儀米を持ち込んでの『松茸ごはん』だ。 倉城紬は男性を手伝う時は緊張でぎごちなかったものの、どれもそつなくこなす。 沖田嵐は主に山を汚さぬよう掃除やゴミ拾いに気を遣う。 ちなみに王輝風と響鈴は帰りのために翔速号の機関点検。李鳳は卓で算盤を弾きながら御飯が炊けるのを監視。黒子猫のハッピーは李鳳の膝の上で寝転がっていた。 調理は順調に進んで夕暮れ時。野外での夕食兼試食が始まった。 「はい。炊きたてですからね〜」 春陽は松茸ごはんを釜から次々と茶碗へとよそった。たくさん食べられるように大釜二つ分炊いてある。 「こちらも美味しいですの。松茸ごはんと一緒に召し上がれ♪」 マリーは松茸のお吸い物を松茸ごはんの横に並べた。 「おっとっと」 「あぶないわ、輝風。もっと注意してね」 食器を並べるのは李鳳と王輝風の役目である。 「焼いたばかりを食べるのは最高じゃないか」 アーニャは静かに団扇で扇ぎながら岩の卓に置いた七輪の上で松茸を焼いた。丸ごと転がすのと泡雪がいっていたように身を割いて軽く炙る二通りで。 「お酒は心の潤滑油なのですよ♪」 ここは必須と泡雪は用意してきたお酒を卓に並べる。それが終わると松茸を焼くのを手伝った。 「よい案配に揚がりました。お塩も置いてっと」 「すき焼きの鍋はここに置きますー。う〜ん、よい香り〜♪」 揚げたての天ぷらをのせた皿を礼野が運ぶ。響鈴は一緒に作っていた松茸入りのすき焼き鍋を運んでくれた。 「土瓶蒸し、土瓶蒸しっと」 「こ、こちらの側は任せてください」 ニクスと倉城紬は土瓶蒸しの器を運ぶ。倉城紬は緊張しながら土瓶を並べてゆく。 「余分な火は消し終わったぜ」 沖田嵐は不必要な火の元が消えたの確認してから卓の椅子へと座った。 それぞれに祈りを捧げて、徐々に料理へと箸をつける。 「はい、望花さんも特別です」 春陽はもふら・望花にも松茸ごはんを分けてあげてから自分も食べ始めた。立ち上る松茸の香りを楽しみながら噛みしめてゆっくりと食べたが、やはり巨漢。茶碗の中はすぐに無くなってしまった。 「はい〜♪ どうぞー♪ たくさんあるので遠慮なく〜♪」 「ありがとうございます」 笑顔の響鈴が丼によそった松茸ごはんを渡そうとする。春陽は感謝しながら丼を受け取った。 「こんなに松茸があるなんて、開拓者って本当に良いものですね」 「もふ〜♪」 春陽は厚い松茸をパクリと。もふら・望花も松茸をバクッと。それから目を合わせて微笑み合う。 マリーもまずは松茸ごはんを堪能していた。それから松茸のお吸い物を頂く。この組み合わせはとてもよく合った。 「この山の松茸はよいものばかり♪ 天儀のものと遜色ありません。特に香りの高さが素晴らしいのですの」 マリーは他の料理も堪能したいのでごはんとお吸い物はそれぞれ一杯のみで我慢する。次は李鳳、王輝風と一緒にすき焼き鍋を取り囲んだ。 「牛肉と松茸の組み合わせ。美味しいですね」 「へぇ〜、変わった感じだよね」 マリーと王輝風は味を評価しながら鍋をつついた。ちなみにすき焼きの鍋の下には冷めないよう焼いた石が置かれていた。 「あ、松茸こはんお代わりする? あたしも欲しいから一緒にとってきてあげる」 李鳳も松茸入りのすき焼きには大満足だ。今日のところは体重を気にせずに楽しむつもりである。 響鈴は土瓶蒸しとにらめっこしていた。 「むむむ〜‥‥」 一刻も早く食べたいのだがどうしたらよいのかわからない。まだ土瓶蒸しを食べている者がいないので困り果てていた。 「それでは頂きましょうか」 響鈴の戸惑いを察知した礼野は率先して土瓶蒸しに手をつけた。まずは土瓶からお猪口に注いで松茸の香り高い鰹節と昆布でとっただし汁を堪能する。 響鈴も真似てお猪口で口にだし汁を含む。まん丸に瞳を開いて猫族の耳をピンと立たせて喜ぶ響鈴だ。 「ちょうどよい頃合いです」 「これが土瓶蒸しなのですね〜♪」 次に礼野は土瓶の蓋を外して中身を箸で摘んで頂いた。響鈴も銀杏や白身魚、海老の身を堪能する。 倉城紬と沖田嵐は天ぷらを楽しんでいた。 「はい、あーん♪」 倉城紬は炎龍・赤翁に松茸の天ぷらを食べさせてあげる。ちょっと熱かったらしくて瞬きをしたが、どうやら気に入ってくれたようである。 「食べてみるか?」 倉城紬と龍の様子を見て沖田嵐も炎龍・赤雷に松茸の松茸の天ぷらをあげてみた。小さく吠えたところからすると喜んでくれたようである。 他にもたくさんの食材が天ぷらとして揚げられていた。海産の海老やイカ、それに食べられる野草も。松茸ごはん、お吸い物と合わせて食べると絶品である。 松茸の網焼きも盛んに行われていた。 「いろいろな味付けを用意してあるから。醤油、塩、コショウ、バター、かぼすとすだちもあるよ」 「お酒は天儀酒、ジルベリアのワインなどたくさん揃えていますからね」 アーニャと泡雪が七輪の炭で松茸を炙りながら食をすすめる。アーニャは老酒と一緒に、泡雪は塩を振った松茸の塩焼きを肴にしてワインを口にする。 「天儀ではものすごい贅沢になるのだろうな」 ニクスも松茸の網焼きと土瓶蒸しを酒の摘みにして楽しんでいた。すでに松茸ごはんは軽く頂いてある。 「マタタビ酒はあるか?」 「あ、はい。ちゃんとありますよ」 泡雪はまるで手品のようにマタタビ酒の瓶を腰から取り出して猫又・ミハイルに手渡す。 「よかったな、ミハイル」 「その焼いた松茸もくれ。手酌で勝手にやるから」 猫又・ミハイルはアーニャから松茸の網焼きも手に入れる。さっそくマタタビ酒と一緒に食べようとするのだが、ふと黒子猫のハッピーが視界に収まった。 「ほら、俺が採ってきたんだぞ、ありがたく食えよ。‥‥お前、尻尾一本か、喋れないのか」 「ニャ〜♪」 猫又・ミハイルはハッピーと一緒に頂くことにする。松茸の網焼きにマタタビ酒を並べて二匹でじゃれていた。 (「楽しそうだな」) ニクスはそっと猫二匹の側に松茸ごはんをよそった皿を置いた。しばらくすると二匹で気持ちよく啼いて歌い始める。途中から泡雪の忍犬・もみじも一緒だったようである。 松茸を堪能した一同は幸福な気分でその日を終えた。 翌日、翌々日と松茸を収穫してから翔速号は朱春への帰路に就く。 その後、開拓者達と別れてから昇徳商会は松茸を朱藩まで売りに行ったのだが、想像していなかった勢いで品切れとなる。昇徳商会としては様子見で高めの値段をつけたつもりが市場よりも安かったらしい。 持ち込んだ量がたくさんだったので大儲けである。長期で返済するつもりだったボロ格納庫横の問屋倉庫の改装代分がわずかな期間で手に入ったのだった。 |