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■オープニング本文 「ひゃ、ひゃくごじゅうっこですか!!」 「はい。百五十個の西瓜を届けて頂けるでしょうか。こちらの畑の大きさからすれば、数は用意できると思いますが」 朱藩のある村。緑広がる西瓜畑の前。 農家の娘、千里は西瓜を買い付けに来た商人の前で瞳を大きく見開いていた。 「あ、あの‥‥、先程の話しからするとまとめて運んでくれって、いわれたような気がするんですけど‥‥」 「ええ、そうですよ。何軒かの浜茶屋さんに頼まれましてね。なのでどうしてもこれだけの数が必要なんです。普通にお客様に出す以外に、砂浜で共同の西瓜割りの催しをするとかで」 「うちには、もふらさま一柱と荷馬車が一両だけなので、まとめては無理です‥‥。それに最近、西の道は盗賊が現れるとかでみんな行きたがらないんです。西の道じゃないと海岸まですごく遠回りになりますし」 「心配ありませんよ。わたしの方で何とかしますので。もふらさまと荷馬車を合わせて六組を追加すればなんとかなるでしょう。護衛として開拓者にもお願いしますから」 商人の言葉に千里は首の付け根を右手で押さえ、安堵のため息をついた。 「わかりました。あまりに豊作で余っていて困っていたんです。買って頂けるなら父ちゃんと母ちゃんも喜びます」 「それでは事前の収穫の方は頼みますよ」 商人は千里に前金を渡して立ち去った。今度来る時は西瓜を運ぶ時だと言い残して。 「西瓜の収穫、がんばらないとね」 千里は指を折り曲げながら、次に商人がやって来る日までを逆算するのだった。 |
■参加者一覧
柄土 仁一郎(ia0058)
21歳・男・志
雪ノ下・悪食丸(ia0074)
16歳・男・サ
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
高倉八十八彦(ia0927)
13歳・男・志
天雲 結月(ia1000)
14歳・女・サ
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
細越(ia2522)
16歳・女・サ
碑 九郎(ia3287)
30歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●到着の夕方 二日目の夕暮れ時、開拓者八名はもふらさま六柱が牽く荷馬車六両を誘導しながら朱藩のある村に到着する。依頼者の商人『吉平』と一緒に。 取り引きする西瓜農家の庭先で停車してまもなく玄関から誰かが飛びだしてきた。 「お疲れさまです〜。明日の朝までに家族の者で西瓜を載せてしまいますので、みなさんはあちらでお休みになって下さいね」 元気いっぱいの西瓜農家の娘、千里である。 千里は吉平と開拓者達を案内した。 まずは水浴びをしてもらい、用意しておいた身軽な着物に着替えてもらった。部屋は男女用にと二つ用意されてある。 吉平と開拓者達は夕食を頂くと早めに就寝するのだった。 ●西瓜運び 「何と言うか‥‥これだけ西瓜が集まると、壮観としか言いようがないな」 一番に目が覚めた柄土仁一郎(ia0058)は庭に出て気がつく。 朝日に照らされたどの荷馬車にも大量の西瓜が積まれていた。それはまるで緑と黒のお祭りであった。 しばらくして仲間達や千里と家族、そして吉平も現れる。 千里の家で飼うもふらさまと荷馬車も合わせて七両の長い編成となる。これを安全に運ぶには、それなりの作戦が必要だった。 開拓者達は道中で決めた配置についた。隊列の進行方向を軸として八方向を固める。 前方の中央は八十神 蔵人(ia1422)、右を焔龍牙(ia0904)、左を雪ノ下・悪食丸(ia0074)。 隊列右側の中頃には高倉八十八彦(ia0927)、左側の中頃には碑九郎(ia3287)。 最後尾の中央は天雲結月(ia1000)、右を柄土、左は細越(ia2522)が受け持った。 「それでは出発します〜。ゆっくりといきますね。もふらさまもよろしくね〜」 千里は先頭のもふらさまを誘導して歩きだした。つまり隊列の動きは千里次第となる。 村から目指す海岸まで日中歩いて一日半。 問題なのは途中で通らなければならない西の道である。そびえる崖が両側から迫る道を通過するには約二時間を要しなければならない。 「崖を通過する際に落石も有り得るが、それで西瓜が割れるのまでは責任もてんぞ。人の命はまた別だがな」 「ええ、承知しております。みなさんにお願いしたいのは運ぶ方々を守る事。わたしを含めてね」 碑九郎の問いに、日差し避けの三度笠を持ち上げた吉平が笑顔で答えた。 「盗賊が西瓜を狙うとは思えんのう。もし、そないなもんなら余程のアホじゃろうが」 高倉は側を歩くもふらさまのお腹を撫でてみる。もふ〜とタイミングよく啼いた様子にニヤリと笑った。 (「水着、作るの間に合わなかったのです‥‥」) トボトボと最後尾を歩く天雲結月はジルベリアに憧れ持つ少女である。サムライなのに自らを騎士だと称しているのもそれ故であろう。 水着を作ろうとしたのだが出発までとても間に合わず、少々落ち込んでいたのだ。それでも盾を装備し、敵襲には万全の構えを用意していた天雲結月だった。 (「村を出たばかりでも気を引き締めないとな」) 細越は弓を手にしたまま、特に後方を注意深く観察する。 開拓者達は依頼人の吉平から襲撃を受けたとしても倒さずに、捕まえるのを基本にして欲しいと頼まれていた。細越は要望に添うように着物の裾などを矢で狙い、地面などに襲撃者を縫い止めるつもりであった。 昼を過ぎた頃、問題の崖が両側から迫る西の道へと差しかかる。 「道幅にあまり余裕はないようですね」 雪ノ下が少し先を歩いて道の状況を調べてくれた。狭いところで幅は二メートル弱、広いところは四メートル程度だ。 「大き石とか無いか気を配っておこか」 八十神は道の様子のついでに崖上も眺めておいた。目視で約五メートル程だが、奥の部分はもっと高いようだ。 「この辺りでは敵らしき生き物は感じられない」 焔龍牙が心眼を使って危険な状態かを探ってくれる。 早めに西の道を抜けようと西瓜運び一行はこれまでよりも先を急いだ。 (「これは‥‥」) しばらくして焔龍牙が心眼によって崖上に人の存在を感じ取った。移動しながら監視していると思われる者が二人。他にも仲間がいるに違いないと焔龍牙は考える。 「あの、崖の上からこちらを監視しているみたいなんです。二人らしいんですけど――」 千里は開拓者と家族に竹筒の水を分けながら焔龍牙からの情報を伝えるのだった。 「敵襲だ!」 細越が後方上の崖からいくつもの縄が垂らされるのを目視して大声で叫ぶ。 即座に弓を構えて縄を伝って降りようとする盗賊を威嚇した。降り始めた盗賊の着物の裾を矢で狙って崖の途中に縫い止めてゆく。 「気張ってくださいのう!」 高倉は神楽を舞って仲間達の志気をあげていった。 「今のうちだ!」 碑九郎は呪縛符で式を打ち、道へ降り立った盗賊共を次々と動けなくする。弱い相手であっても数で押されると厄介だからだ。 「お前らが、余計な事すっから、もふらさまがへそ曲げたやんか! このクソ暑い中、よくもまあ盗賊なんぞやってられるのう!」 重い身体を奮い起こし、槍を振るったのが八十神である。槍先は使われず、反対側の石突部分で盗賊の鳩尾などの急所が突かれていった。 「こっちに集まってね!」 天雲結月は刀と盾を構え、千里の家族や吉平を守る。もふらさまも一時的に荷馬車から切り離されて集められていた。 「お前達に勝ち目はない! 大人しくしろ、抵抗すると、痛い目をみることになるぞ」 焔龍牙は向かってくる盗賊を峰打ちで気絶させてゆく。 「俺の名は雪ノ下・悪食丸 サムライだっ!!」 名乗りを上げた雪ノ下は鉄甲で固めた拳を振るった。刃こぼれした盗賊の刀を掻い潜って懐に入り、下から腹をえぐるように拳を突き上げる。 「隠れた者はいないようだ」 柄土は淡々と仕事をこなしてゆく。 これまでの敵の察知は焔龍牙に任せていたが、柄土は戦闘中に心眼を活用した。 逃げようとする者や隠れて不意打ちを食らわせようとする盗賊を見つけては峰打ちを決めていった。 戦いが終わり、捕らえられた盗賊は十五人。 それからしばらくの間、怖がって震えているもふらさま一柱の代わりに盗賊の中で軽傷な者達に荷馬車を引っ張らせる。 道中近くの村へと立ち寄り、盗賊共は警備団に引き渡された。焔龍牙が尋問して得た盗賊の隠れ家の場所も伝えられる。 この村も盗賊の被害を被っていたので喜んで引き受けてくれた。 碑九郎は盗賊共を商品にすればよいと吉平に告げていた。しかし雇う程余裕はなく、そして人を斡旋する商売は性に合わないと吉平はいう。 人々の楽しみに繋がる西瓜を運ぶから盗賊の捕縛を望んだのであって、別の場合はその限りではないと吉平は答えたのだった。どうやら優しさからの行動ではないようである。 ちなみに高倉の神風恩寵によって盗賊共の傷は引き渡し寸前に癒される。 西瓜運びの一行は四日目の暮れなずむ頃に海岸へ到着した。 運んできた西瓜はすぐにいくつかの浜茶屋に納品されるのだった。 ●海 白い砂浜。 青く澄んだ海。 輝ける太陽。 青空にはぽっかりと白い雲が浮かぶ。 五日目は自由な時間となり、開拓者達も思い思いに海岸付近でくつろいでいた。ほとんどの者が浜茶屋で借りた水着姿である。 「よかった。どこにも怪我はないようだ」 「あ、あの〜。盗賊は昨日の話なんですけど」 雪ノ下は千里の手を握り、顔を近づける。 「西瓜割りの時間だ。こっちだぞ」 「い、今いいところなの‥‥グァ!!」 焔龍牙に掴まった雪ノ下が砂浜を引きずられてゆく。千里はほっとため息をついた。 西瓜五個に浜茶屋で借りた見事な木棒。そして目を塞ぐ布。 集まった開拓者と千里は砂浜でさっそく西瓜割りを始めた。 「あれ? こっちじゃないのかな?」 「西瓜はこっちだぞ、どっちに向いているんだ!」 棒を掲げたまま天雲結月が砂浜を蛇行して歩く。誘導は焔龍牙の役目だ。 「おっと! さ、酒がぁ〜〜ほっ‥‥、数滴零れただけで済んだか」 間違って八十神の近くを天雲結月が棒で叩いてしまう。ちなみに呑んでいる冷酒は吉平からの差し入れである。 続いて西瓜割りをしたのは高倉だ。褌以外に日焼けしすぎないようにと一枚薄いものを羽織っていた。 「結構、難しいものじゃのお〜。ん? こっちに何か感じるのじゃ」 「もふ〜!」 なぜか途中で高倉がもふらさまを棒で追いかけ回す騒動になる。八十神が身体を張ってもふらさまを助け、高倉は何とか西瓜を割り終えた。 「この西瓜、とても美味いな」 「それはよかったです♪ うちの西瓜は夕顔の根に接ぎ木して作るんですよ」 焔龍牙は千里と並んで西瓜を頂く。 全員がとても冷えた西瓜に満足した後で、別行動となる。 「さて、何か釣れればいいんだが‥っと」 柄土は磯を見つけると、持ってきた道具で釣りを始めた。 後に判明するが釣果は蛸三杯。ちなみに貝もいろいろと拾ってその日の夕食の一部となる。 「色白なんでな! 少し日に焼かないと‥‥」 焔龍牙はひと泳ぎした後で砂浜に寝転がって日光浴をした。途中で寝てしまい、起きたときには頭だけ出して砂に埋められていた焔龍牙だ。 犯人は結局見つからず仕舞いとなる。 「たまには泳ぎもええのぉ〜。あれはなんじゃ?」 高倉は泳いでいる途中で海面を漂う背ヒレを発見した。最初は鮫かと思ったが、よく見れば形が違う。イルカである。 家族だと思われる仲の良いのよいイルカ三頭が沖に泳いでゆくのを高倉は見届けるのだった。 「まさか作ろうと思ってた形の水着があるなんて♪」 天雲結月は浜茶屋で借りた白い水着を身につけ、ご機嫌で泳いでいた。ただ、借りるときに浜茶屋の主人から止められた事だけが気にかかる。 その理由は海からあがろうとした時にわかった。濡れたせいで水着が透けてしまっていたのである。 天雲結月は人の多い砂浜を避けて、誰もいないと思われた磯へと泳いだ。海からあがってしばらく日に当たっていれば乾いて透けなくなると考えたからだ。 「あ、仁一郎さん!」 「どうしたんだ? ここまで」 天雲結月は釣りをしていた柄土と偶然鉢合わせしてしまう。その後、どうなったかは柄土と天雲結月しか知らない。 八十神は千里が飼う助けたもふらさまと一緒に砂浜でくつろいでいた。寝転がる、もふもふした、もふらさまのお腹を枕代わりにして。 「いやあ‥大人の夏はコレやろ、コレ」 浜茶屋で売っていたハマグリ焼きを頂き、そして酒で喉を潤す。 「ほれ、もふらさまにはウナギやろか、ウナギ」 もふらさまにはウナギのカバヤキである。 「ふむ、砂浜は足腰を鍛えるのに適しているな」 炎天下の中、装備をつけたまま砂浜を走っていたのは細越だ。 一汗、二汗をかき、そして西瓜で水分を補給する。それを続けるのがだんだんと楽しくなってきた細越である。 「食い気だ、食い気! お、いろいろとあるな」 様々な理由の末、色気を諦めた碑九郎は浜茶屋をハシゴしていろいろと食べ歩いた。 貝類を焼いたもの、鮮魚の刺身、魚介の風味たっぷりの味噌汁など海の幸をまるごと胃袋に収めてゆく。もちろん西瓜もたくさん頂いた。 『ギュルギュルギュル。ピー』 碑九郎は音が鳴る腹を押さえて内股で走りだした。あまりの暴食にお腹を壊したのだ。 「く、食い過ぎたアッ! 厠ーッ!」 それから日が暮れるまで、碑九郎は厠の住人となる。 夜に出された鯛の刺身や、鍋料理を食べ損なう碑九郎であった。 ●そして 開拓者達は千里の家族を無事村まで送り届ける。最後にお土産として西瓜を一個ずつもらった。 「西瓜は早めに食べて下さいね〜。ありがとうございました〜」 千里は去りゆく開拓者達の姿が見えなくなるまで、手を振り続けるのだった。 |