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■オープニング本文 朱藩の首都、安州。 海岸線に面するこの街には飛空船の駐屯基地がある。 開国と同時期に飛空船駐屯地が建設された事により、国外との往来が爆発的に増えた。それはまだ留まる事を知らず、日々多くの旅人が安州を訪れる。 そんな安州に一階が飯処、二階が宿屋になっている『満腹屋』はあった。 昼下がりの安州。 給仕の智塚光奈嬢は常連客の広域商人・旅泰の呂の卓へお好み焼きを運ぶ。 「この間、面白い島を見つけたアルよ」 「ほー、どんなところなのですか?」 すでに書き入れ時は終わっていたので店には余裕があった。光奈は呂との世間話に花を咲かせる。 「泰国海域の無人島に温泉が湧いているアル。元々暖かい気候なので暑い熱いのダブル状態アルが、そのおかげでたくさん自生している果物があるアルよ」 「なんなのです? もしかして西瓜とか?」 「似てるようで違うアル。『めろぉん』が自生しているアル。この六月の時期でも完熟の実がついているアルよ〜」 「『めろぉん』ですか〜。数えるほどしか食べたことないですけど、甘くて美味しいのです☆」 二人の会話は弾んだ。そして光奈も呂の飛空船に乗って現地調査とサンプル採取の為に無人島へと出かける事となる。 「一度降りた時には大丈夫だったアルが、危険な動物やアヤカシがいるかも知れないアルよ。でも開拓者を雇ったから大丈夫アル」 呂は万全を期して無人島に向かうつもりであった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
春陽(ib4353)
24歳・男・巫
久藤 暮花(ib6612)
32歳・女・砂
アルバルク(ib6635)
38歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●無人島 青い空に漂う白い雲。 旅泰の呂が所有する商用型飛空船は泰国南方の上空にあった。 「めろぉんか、どんなのかとても楽しみだよね、プレシア」 「他のもめろぉんも、もっきゅもっきゅするの〜☆」 二人で窓を覗き込む天河 ふしぎ(ia1037)とプレシア・ベルティーニ(ib3541)は眼下の広がる海上に島を見つけて喜びの声をあげる。 そこは目的地の島。断崖絶壁に囲まれた無人島である。 「今のうちに描きましょうか」 「急がないといけませんね」 春陽(ib4353)と礼野 真夢紀(ia1144)は島の上空をゆっくり飛ぶようあらかじめ呂に頼んでいた。島の輪郭を把握して白地図を作製する為である。 「俺もやるぞ。西側でいいよな」 羽喰 琥珀(ib3263)も春陽と礼野の白地図作りを手伝った。 無人島は大まかにいって楕円の形をしていて一番長い範囲で四キロメートル程度。 しばらくして殆どが森に占められた無人島へと呂の中型飛空船が着陸する。 「なんだか気分爽快なのです〜♪」 島の大地に降り立った光奈は深呼吸をする。軽やかな甘い香りが漂っているような、そんな気がした。 光奈は呂が雇っている船員達に協力して拠点設営を頑張った。 礼野と春陽は船室で白地図の複製に集中した。船員の分もあるのでかなりの重労働である。終わったら二人は拠点設営を手伝うことになるだろう。 朝比奈 空(ia0086)、天河、羽喰琥珀、プレシア、久藤 暮花(ib6612)の五名は白地図を受け取ると危険な存在が島に巣くっていないかの調査に出かけた。 「めろぉん‥ね。島中の至る所でみかけられるようではないようですね」 森に足を踏み入れた朝比奈空は鬱蒼とした様子に目を凝らす。 「安全がはっきりしたら呂と光奈の二人と一緒に行動だな」 大木を登りきった羽喰琥珀は左掌で目の上に庇を作って辺りを見回した。 (「植物学者としてこの無人島はとても興味深いです!」) 島で一番高そうな丘を目指したのが久藤暮花だ。たどり着くとバダドサイトで視力をあげてじっくりと周囲を観察する。船中でずっと欠伸をしていたのが嘘のような元気のよさだ。 「見知らぬ果実に温泉かぁ‥‥。べ、別に温泉をメインに探しているわけじゃ、ないんだからなっ!」 シノビの天河は木の葉を散らしながら枝から枝へ次々と飛び移る。いるとは知らなかった木上の猿と目が合ってしまい、焦って思わず話しかけてしまった天河だ。 「ツバメよ〜高〜いそ〜ら〜‥‥むぐむぐ‥‥うぐっっ!」 プレシアは人魂のツバメを飛ばして上空から見下ろしていたが、食べていた大福を喉に詰まらせしまう。通りがかった天河のおかげで事なきを得るのだが。 調査の結果、危険な存在は見つからなかった。注意は必要なものの、ひとまず安心してよさそうである。 日が暮れたので、めろぉんの本格的な分布調査は明朝からとなった。 ●めろぉん 自生しているめろぉんは危険対象調査の間にもいくつか見つかっていた。ただその殆どがまだ熟れていない非常に小振りな実の状態だ。 昨晩のうちに白地図を区分けして担当が決められる。担当の者達は夜明けと共に島中に散らばるのだった。 羽喰琥珀は光奈、呂との三人で森を彷徨う。 「ここにもめろぉん、たくさんあるな!」 「うぁ〜、あっちにもこっちにも実がなっているのですよ〜♪」 羽喰琥珀が指さした先に振り向いた光奈が足踏みをして喜ぶ。数え切れない程の実が木々に絡まる蔓から垂れていた。 「もう少ししたら収穫できるアルよ。有望アル」 呂も満足げに掌で持ち上げるようにしてめろぉんの実の重さを量る。 「いっちょ撃つか!」 羽喰琥珀は呂が用意した狼煙銃を空に向けて撃って上空を旋回中の中型飛空船に位置を知らせる。地上と上空から調べて正確さを期す為だ。 その頃、春陽はもふらの望花と一緒に海岸線を歩いていた。めろぉんの分布を調べると同時に島の地図をより正確にするように。海岸線の細かな変化を観察して地図を修正してゆく。 「こんなに暑いのに海に入れないなんて‥‥」 「もふ〜。高いもふ」 絶壁の上から白波を覗き込む春陽の頭の上には望花が乗っていた。額の汗を手の甲で拭った春陽は調査を再開する。 「めろぉんがあったもふ〜」 春陽が地図の修正をしている間になっているめろぉんを望花が発見する。せっかくなので一個を分けて食べてみた。熟し方が少々足りないもののかなりの甘みだ。それからの望花は非常に協力的にめろぉん探しをしてくれる。 朝比奈空は狼煙銃を撃って植生の位置を飛空船に知らせると、岩に座ってめろぉん一個を試食する。 「もう少し熟れてからが‥‥あれは?」 これまで見つけた中で一番熟れていると感じたからだが、食べてみると甘味が足りなかった。いくら暖かいといっても今は六月。温泉近くでないとまだまだなのだろうと考えていた矢先にある存在に気がつく。 遠くに揺れている草先があった。近寄ってみるとサトウキビの群生だとわかる。新しい芽が伸びたばかりで味見することは叶わなかったが。 「この島は甘味の宝庫ですね」 朝比奈空はついでにサトウキビの群生についても地図に描き込んでおくのだった。 「よいしょ」 礼野はつま先で立ちって背伸びをする。 枝に絡まる蔓から垂れていためろぉんをもぎると今一度姿を確認した。西瓜に似ていたがやはり違う。薄い緑色で表面がひび割れていた。 指先で亀裂をなぞって染み出ていた果汁を舐めてみる。 「これは‥‥食が細いお姉様に食べてもらっていたあのめろぉんと同じ味です」 礼野が瞬きを繰り返す。目の前にあるのは果汁が溢れて表皮が割れてしまう種類のめろぉんだ。果汁はやがて表皮に網目のような模様を作るという。今はその途中の段階のようである。 「光奈さんも今頃食べているでしょうか」 お腹が空いたところでお弁当を頂いた。仲間の分も作って全員に渡してある。 腐りにくいように梅干し入りのおにぎりだ。水筒のお水は氷霊結で一度氷らせたものなので冷たさが持続していた。 拠点に残してきた木箱には、持ち帰っためろぉんを冷やせるように氷がたくさん詰めてきた。早めに帰って氷を足さなくてはと考える礼野であった。 「この草は確か胃もたれによく効くものですねぇ〜。それでこっちは〜――」 久藤暮花は地面にくっつきそうな勢いで頭を低くして植物を観察する。 白地図の他にメモへとぎっしりと書き込んでいた。知っている植物はもちろん知らないものも含めて。 運べる範囲でサンプルを収集。めろぉんも美味しそうな熟れ具合のものをすでに手に入れていた。 「花さん満足ですぅ〜。いろいろ手に入ったのでこの辺りで一旦戻りましょう〜」 足取り軽く久藤暮花は折り返して戻る。 礼野に頼んで氷で冷やした牛乳を安州から運んである。仲間達が戻るのを待って調理を開始するつもりであった。 「めろぉんは温泉の熱さのおかげで自生しているらしいよね。きっとその周辺に沢山あると思うんだ」 「温泉といえばお風呂〜♪ あっちのめろぉんは‥‥甘いかな〜?」 夕暮れ時、天河とプレシアは未だ森の中を移動していた。目指す先はプレシアが人魂によるツバメの視界で発見した湯気が漂う周辺である。 湯気といえば温泉。温泉の周囲には六月の季節でも十分に熟れためろぉんが収穫出来るという。以前に呂がこの島で発見した時には目印を置いてこなかったので温泉がどこにあるのか不明になっていた。 「あった〜♪」 「え? どこどこ? 温泉とこ?」 にゃぱ☆と笑顔を浮かべたプレシアが駆け出す。その後を天河が追いかけてゆく。やがて森がひらけ、熱気と同時に岩場に広がる温泉が二人の瞳に映った。 「あのぶら下がっているのはめろぉんかな〜? あれ、どうしたの?」 「べっ、別に温泉をメインで探していたわけじゃ、無いんだからなっ!」 プレシアにはお湯へと指先をいれている天河の姿が目に入る。天河は顔を真っ赤にして違うと声を張り上げた。 めろぉんや温泉の状態を確かめたかった二人だが、もうすぐ日が暮れようとしていた。そこで仕方なく狼煙銃で上空の飛空船に位置を知らせて拠点への帰路に就く。手ぶらでは悔しいので温泉付近のめろぉんを二個をぶら下げてはいたが。 「ほ、ほ、ほ〜たる来い♪」 途中で夜の闇に包まれたがプレシアの夜光虫のおかげで足下は明るかった。二人は無事に仲間の待つ拠点へと戻れた。 夕食後、調査の者達が手に入れためろぉんは冷やされた後で人数分に切り分けられる。 そして試食。呂の願いによって十段階数値の味の批評が行われた。大方の順位は熟れ方で決まった。 「これは助かるアルよ〜」 めろぉんの植生分布と熟す頃合いがわかれば商売にとってこれほど心強いものはない。満足げな表情を浮かべる呂の頭の中では算盤が弾かれていたことだろう。 一番美味しかったと評判になったのは天河とプレシアが持ち帰った温泉近くのめろぉんであった。 ●温泉 翌朝、中型飛空船に留守番を残してその他全員は温泉が湧く土地へと向かう。留守番とは後で交代する予定である。 「あ、暑いのです〜」 到着した時の光奈の呟きは全員の思いと一致していた。 暖かい気候と温泉の熱によって、まるで真夏の日光を浴びているかのようである。 拠点出発前にはめろぉんを試食してからとなっていたのだが、先に一風呂浴びることになる。 「任せておけって」 「いくつか岩を動かせばうまくいくでしょう」 羽喰琥珀と春陽が近くを流れていた小川から水を引いて、ちょうどよい湯加減にしてくれた。その際、重い岩を運ぶのにもふらの望花が活躍する。 「温泉に入っている間に冷えますし」 礼野は汲んだ水を凍らせるとかき氷削り器で雪のように細かくして木箱に詰めてゆく。 「切るのは私が」 朝比奈空は仲間達がもいできためろぉんを山姥包丁で半分に切って綿部を取り出す。 「ふっふふ〜ん♪」 氷の入った木箱に切られためろぉんを入れるのは光奈の役目である。 汗びっしょりになったところで全員が温泉へと浸かる。一位二位を争って飛び込んだのは天河とプレシアだ。 「ふぅ、夜になったら星空を見ながらもう一度入ろうかな。その時はめろぉんも一緒に‥‥。そうだこの島の名前『秘湯めろぉん島』とかどうかなぁ?」 頭上に手ぬぐいを乗せた天河が指先で浮かぶ風呂桶を弾いた。 「おっふろ、おっふろ、おっふ〜ろ〜♪ ‥‥!」 プレシアはお湯の中に潜ってゆっくりと近づいてきた湯面の風呂桶を避ける。 わずかな間の後で悲鳴があがる。声の持ち主は天河だ。お湯の中でプレシアにお尻を触られたのである。 「あのね〜、女の人のおしりをさわさわするのも『めろぉん』って言うんだって〜♪」 「ぼ、僕は男だ〜!」 湯面から顔を出したプレシアに詰め寄る天河であった。 (「眠ってはいけ‥‥」) 久藤暮花はゆったりとした様子で温泉に浸かっていた。 昨晩は試食に注力したのでめろぉんと牛乳を混ぜたジュースを作り損ねている。もうすぐめろぉんじゅーすを飲めるのにと考える久藤暮花の耳元で睡魔が囁き続けていた。眠りに落ちかけた時、流れてきた風呂桶がオデコに軽くコツンと当たって目を覚ます。 「動いてはいけませんよ」 「もふ〜」 春陽はもふらの望花を洗いながら考えていた。 (「大丈夫だろうか?」) 喉が渇いていたので試しに温泉を飲んでみる。少なくとも硫黄のにおいはしない。もしもの時は解毒しよう考えていたが心配は杞憂に終わる。 ちなみに後日、春陽は内臓がすっきりとして食欲が増したようである。 ●試食 温泉で全員がさっぱりしたところで待ちに待った本格的にめろぉんを食す時間が到来する。 「っつーわけで、いっただっきまーす」 羽喰琥珀は朝比奈空が用意してくれたサジで小分けにされためろぉんの果肉を掬う。口に頬張ると甘みと香りが身体を支配した。瞬く間に一つを食べ終わる。隣で食べていた光奈と目が合って互いに何度も頷く。 「文献で見たのと同じように網目のあるものですね‥‥」 朝比奈空は今一度めろぉんの様子を確かめてから食する。島に存在するめろぉんにもいろいろとあるが、温泉近くに植生するめろぉんは網目の種ばかりだ。 文献にもあったようにたっぷりの甘みを含んだ果汁といい、最高のめろぉんであった。 「わぁ、甘くて美味しい。‥‥手が汚れちゃいそうだったから、とっさに保存食のハムで巻いてみたけど‥‥それも美味しくて吃驚だよ」 ほんのりと塩味が効いたハムがよりめろぉんの甘みを引き出したのに天河は瞳をぱちくりさせる。 仲間にも勧めると好評だ。考えにくい組み合わせだが美味しいのは事実である。 まずは素のままで十分に味わうと開拓者達が工夫しためろぉん料理の時間へと突入する。 久藤暮花は待望のめろぉんじゅーすを用意していた。 絞っためろぉん果汁に牛乳を加え、さらにハチミツと珍しい蒸留酒を一滴。仕上げに島で採れたミントの葉を浮かせたものだ。 「やはり美味しいです!」 「どれどれ」 満足げに飲み干した久藤暮花を真似て光奈も口に含む。とても贅沢な味に光奈もすぐに飲んでしまった。 後に熟していないめろぉんと塩昆布、七味唐辛子を使って漬け物を作った久藤暮花だ。 かき氷のタレにめろぉん果汁を利用したのが礼野である。光奈と一緒にめろぉんかき氷を配り終えると自分達の分も用意する。 「はい、光奈さんおまちどおさま」 「それではあらためて頂きます〜♪」 めろぉんの果汁とかき氷の組み合わせは非常に合っていた。独特のよい香りが甘みをいっそう引き立ててくれる。 「一杯いくらで出せるかな?」 「光奈さんは商売人ですの」 食べ終わった後で腕を胸元で組む光奈を見て礼野は微笑んだ。 「これとこれ持ち帰りで」 氷霊結で凍らせた果汁を持ち帰るつもりの礼野だ。西瓜と同じような効能があるかどうか確かめたかった。 春陽が作ったのはゼラチンを利用してめろぉんの果肉と果汁を固めたものだ。柔らかく固まった触感が舌を刺激する。 「どうでしょう?」 春陽は味見をしてから一同にも試してもらう。特に喜んでくれたのがプレシアだ。 「おおお〜〜っ、これも美味しいの〜〜〜〜!!」 『もきゅもきゅ〜〜ん♪』と噛みしめてはお口にめろぉんの氷菓子を運ぶプレシア。身体を左右に振って喜びを表す。 「もふ☆」 「食べ過ぎですよ」 もふらの望花は素のめろぉんに引き続いて氷菓子を頂く。春陽にもう一つもう一つといっておねだりする。 そして翌朝、呂の中型飛空船は無人島を後にした。試しに安州で売ってみようといくらかのめろぉんを積み込んで。 それとは別に開拓者達や光奈もめろぉんのお土産を持ち帰った。但し、完熟しているので日持ちはしないだろう。 |