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■オープニング本文 泰国は飛空船による物流が盛んである。 その中心となっているのが旅泰と呼ばれる広域商人の存在。 必要としている者に珍しい品や食料を運んで利益を得ている人々だ。時に天儀本島の土地にも根ざし、旅泰の町を作る事もあった。 当然の事ながら泰国の首都『朱春』周辺にもたくさんの旅泰が住んでいた。昇徳商会の若き女社長の李鳳もその中の一人である。 「本当ですか!」 五月中旬のある朝。昇徳商会のボロ格納庫へと出社した猫族獣人娘『響鈴』は若き女社長『李鳳』の言葉に歓喜の声をあげた。ついに見習いから正式な昇徳商会の社員へと格上げになったのである。 子猫のハッピーにも何となくわかったようで棚の上で鳴いて喜んでくれた。 「それと翔速号とは別にもう一隻飛空船を運用する事にしたの。中古だけどね。人員が足りないから用途に合わせて使い分けるつもり」 李鳳の説明に響鈴は目を輝かせる。 「それはすごいです〜。船名は決まっているのですか?」 「前の船主は『鈍亀号』と呼んでいたみたい。このままでもいいかなぁ〜とは思っているんだけど、どうしようか?」 李鳳から鈍亀号と聞いて肩を少し落とした響鈴であったがすぐに持ち直す。新しい名前を考えると宣言してから掃除を頑張った響鈴である。 それから半日後、突然に難題が持ち上がった。 「あたしは用事があったので、最初から輝風と響鈴に任せるつもりだったのだけど――」 李鳳が困った様子で格納庫内を歩き回った。仕事の一つが繰り上がって鈍亀号の引き渡し時期と被ってしまったのだ。李鳳は旅泰関連の話し合いで朱春に残らなければならなかった。 飛空船を動かすのに一人では荷が重すぎる。元々開拓者に応援を頼むつもりであったが急遽募集は二つに増やされた。 壱の依頼募集は王輝風が動かす中型飛空船『翔速号』で危険地域に人を送り届ける仕事。 弐の依頼募集は響鈴と一緒に中型商用飛空船『鈍亀号』を引き取りに行く内容だ。 響鈴が受け持った弐の募集は陸路で現地に辿り着かねばならない。そして鈍亀号を引き取って朱春近郊の飛空船基地まで帰る予定である。 「せ、責任重大です‥‥」 普段お気楽な響鈴だが、さすがに緊張した表情を浮かべるのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
周藤・雫(ia0685)
17歳・女・志
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
一心(ia8409)
20歳・男・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
フィーネ・オレアリス(ib0409)
20歳・女・騎
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●行きの道中 初夏の雰囲気を漂わせるそよ風と熱気を帯びた日差し。 昇徳商会の社員・響鈴は依頼に参加してくれた開拓者八名と道中にあった。 「そうなんです〜。でも船名は鈍亀号っていうらしいんです‥‥」 響鈴は揺れる馬車上で御者の手綱を握りながら開拓者達とのお喋りに興じていた。 「実際に見てみないとわからないが、力強い船なら『もふり号』ってどうだろ? 整備不良って所も気ままなもふら様らしいし」 滝月 玲(ia1409)はこれから引き取りに向かう中古商用中型飛空船の名前を考える。すると同行のみんなからも様々な名前があがった。 「もしふわふわ浮いて、風に流されるように移動する船なら、『うきぐも』なんていうのは如何でしょうね」 炎龍・シルベルヴィントで低空を飛んでいたクレア・エルスハイマー(ib6652)が右掌で漂う浮き雲を表現しながら案を出す。 「船足は遅いかも知れませんけれど、言い換えれば力強いともいえますし。船体の塗装を変えて『白牛号』とかにしてみてはどうでしょうか?」 フィーネ・オレアリス(ib0409)はアーマーケースを傍らに置きながら馬車の荷台に座っていた。 「確かに名前が可愛くない。よーし、むーーーー‥‥?! 閃きました!! それでは優しく飛んでるって事で、鈍亀号改め『そよかぜ』ってどうかな?」 ルンルン・パムポップン(ib0234)は上空で旋回している警戒中の迅鷹の忍鳥『蓬莱鷹』を眺めながら考えついた船名を響鈴に告げる。 「鈍亀号だと、少し締りがありませんね‥‥。私もあまり名前を付けるのが得意ではないんですが‥‥。社長さんの名前にちなんで『鳳翼号』なんてどうでしょう?」 ルンルンと同じく迅鷹の烈火を飛ばしていた周藤・雫(ia0685)が迷った表情を浮かべながら船名を提案する。 「私は『鈍亀号』という名前、良いと思います‥‥。たとえ歩みは遅くても着実に進んでいける船という意味を込めて‥‥。亀さんは力持ちですし‥‥それに長寿ですから‥‥」 船名はそのままでよいと考えていた柊沢 霞澄(ia0067)は時折宝珠から管狐を召還して周囲を警戒してもらう。ちなみに管狐の名前は知らない。まだ教えてくれないのだった。 「あたしはドンガメなんて、上手いこと言うと思っているけど。見てみないとはっきりとはわかんないけどね。名前変えなくてもいーんじゃないの?」 荷台の後方で寝転がる鴇ノ宮 風葉(ia0799)も管狐を朋友とする開拓者である。名前は『三門屋つねきち』といって、鴇ノ宮曰く面倒くさがり屋で日和見主義らしい。 「それにしても‥‥昇徳商会も遂に二隻目の飛空船ですか‥‥。何だか感慨深いものがあるな」 一心(ia8409)は初めて昇徳商会の中型飛空船『翔速号』に乗った時の事を思い出す。一心の迅鷹・天藍は他の鷹と交代する為に今は馬車の上で休んでいた。 「そういえばハッピーもあの時に‥‥ハッピー、元気にしてますか?」 「ハッピーは元気ですよ〜。ただ今回はきっとかまってあげられないので置いてきたのです。戻ったらお魚をおごってあげる約束をしているのですよ♪」 一心の質問に響鈴は目を細めて笑顔で答える。 一行は日が暮れる前に途中の町で宿を見つけた。そして一晩休んでから再び出発。二日目の夕方、鈍亀号を所有する商人の住む町へと辿り着くのだった。 ●鈍亀号 「俺がいうのも何だがね。本当にいいのかい? こいつでよ」 宵の口。灯籠を持った商人と共に響鈴と開拓者達は大きめの納屋へと踏み入れる。端に置かれてあったが中型商用飛空船『鈍亀号』であった。 「ここまで亀さんに似ているとは!」 見上げる響鈴は何度も瞼をパチクリさせる。 汚れていたものの色の基調は深緑。ずんぐりむっくりした船体は亀の甲羅を思わせた。一応、目的の飛空船かどうかを確認する為に全員で手分けして外壁と内部を点検する。 「これと、えっとこれが足りなかったです。他の場所に置いてあるのでしょうか? それと――」 響鈴は事前に渡されていた書類に記されていない傷んだ箇所や足りない備品を商人に指摘する。 「納屋にある間に誰か家の者が運び出したようですな。探すのも何なので、その言い値で手を打ちましょう」 すでに商人にとって鈍亀号は邪魔な存在になっていたようで最後の値引きはもめずにすぐにまとまった。 この瞬間こそが駆け出し交易商人の響鈴にとって一番肝心な役目であったはずである。もちろん無事に鈍亀号を持ち帰なければ水泡に帰してしまうのだが。 納屋を出て屋敷へと戻ってからが正式な引き渡しだ。響鈴が約束通りの代金を支払い、互いに署名を交わして契約成立である。 「そういえば‥‥三日程前に賊が現れたと聞いたな。街道沿いらしいが気をつけて帰ったほうがいい。普通の飛空船ならひとっ飛びだが、なんせこいつは地を這うような鈍亀飛空船だからな」 「ご心配、ありがとうございます〜。でも一緒に来たのは開拓者なので大丈夫です♪」 「そうか。あの人達はそうなのかい。きっと仙人骨揃いなんだろうから心配なさそうだな」 「はい♪」 響鈴は貸してもらった部屋に戻るとさっそく賊の事も含めて開拓者達に状況を話す。 「契約完了したのであの船はすでに昇徳商会所属なのです。つまりもしもここで無くなったら大損なので、今夜はあの納屋で眠ります〜♪」 響鈴のいうことはもっともである。彼女につき合って何名かの開拓者も納屋の鈍亀号で眠る事となった。 ●警戒 三日目の朝が訪れる。 快晴の中、一行は引き取った鈍亀号に乗り込んで帰路に就く。行きで使用した馬車一式は船倉内に仕舞われた。 「やっぱりドンガメ、ぴったり」 鴇ノ宮は一角だけ掃除した船尾甲板に寝ころびながら地表との距離を目視で確かめた。高さはせいぜい三メートル程度。そして昨日の馬車とどっこいどっこいの速さである。 「のう、お嬢。わしはもう疲れたけぇ、後は宜しく頼まれてくれんかの」 人魂を使っての監視をしていた管狐の三門屋つねきちが鴇ノ宮のお腹の上に乗ってきた。 「絶対やだ」 鴇ノ宮は両手で持ち上げたつねきちに顔を近づけてニヤリと笑う。 (「鈍亀号もいいけど、あたしの名もいっておくかな。『風葉号』とか」) 鴇ノ宮はシッポをブンブン振ってるつねきちを眺めながら別の事を考えるのだった。 船首付近の甲板で見張っていたのが一心である。迅鷹・天藍を飛ばして高度から監視に当たらせていた。 (「‥‥それにしても‥‥遅いなこれは」) ヒラヒラと舞う蝶が余裕で船体の突起部分に止まるのを見て一心は苦笑いをした。遅さと相まって明るい日差しの中で見る緑色の固まりはまさに巨大な亀といってよい。 「やっぱり‥空を飛ぶのって、良いですよね」 甲板中央で迅鷹・烈火を飛ばしながら見張っていたのは周藤雫である。 たまに早馬が鈍亀号に追いついて抜かしてゆく。現在の鈍亀号は子供でも全力で走れば追いつく程の遅さだ。 響鈴によれば整備が完璧ならもう少しましになるのだという。ゆっくりは変わらないだろうが大空高く飛翔する鈍亀号を想像する周藤雫であった。 もう一人、甲板にいたのがフィーネ。望遠鏡を片手に進行方向を望んでいた。 (「船体を白く塗ったら白牛号も似合いますね」) フィーネはロートリッターが仕舞われているアーマーケースを傍らに置きながら鈍亀号の船名についてを考え続ける。 そしてふと大切なある事実に気がついた。 町中ならともかく危険が伴う荷物運搬の航空路上において飛空船は出来るだけ目立たない方がよい。現在、危惧しているような賊から狙われるかも知れないからだ。 鈍亀号は低空を巡航する飛空船である。だから空賊に狙われた場合、茶色や緑色なら高空から発見されにくい。鈍亀号が緑色なのは単なる冗談や洒落ではなく、とても理にかなったものなのである。 船名はともかく色の変更は慎重にすべきだと思ったフィーネだ。 「出発前に確認しました‥。雨の心配はいらないです‥‥」 「それは助かるのです。おおっと!」 柊沢霞澄は操縦席の響鈴の隣に座って窓から外の仲間達を観察していた。もしもがあればすぐに駆けつけて閃癒や加護結界で補助するつもりである。 「管狐さんも手伝ってくださいね‥‥」 柊沢霞澄は管狐を内包する宝珠に囁いてみた。 「こんなに浮かないものなんですね‥‥。不安定だし。でも、動かし方は常春坊ちゃんの所でしっかり憶えたもの、任せてください!」 時折大きく揺れる鈍亀号。ルンルンは操縦補佐役を任されていた。宝珠の出力を監視したり、時には操縦を代わる事もある。ちなみに常春坊ちゃんとはルンルンの友人の一人だ。常春が所有する大型飛空船でルンルンは操縦の腕を磨いていた。 「こちら宝珠室、定期報告だ。高度を維持させる為に支えの補強をしておくから、もう少しだけ遅く飛んでくれ。一時間ぐらいで元に戻せるからな」 操縦室に響く滝月玲の声。伝声管で宝珠室から送られてきたものである。 「了解しました。補強よろしくお願いします〜。なるべく余裕をもって飛ばします」 「ぶつかりそうになったらルンルンが居るし、止まりそうなら俺も居る。襲われたって頼もしい皆が守ってくれるんだ、散歩のつもりで飛ばせばいいんだよ、響鈴船長」 緊張気味の響鈴に優しい言葉をかけた滝月玲だ。ルンルンにも宝珠の状況を伝えてから報告は終了する。 その頃、クレアは炎龍・シルベルヴィントを駆って遙か上空を飛んでいた。 「シルベルヴィント、あちらに向かってね」 クレアは優しく首筋をなでてあげながらシルベルヴィントに方向転換の指示を出す。賊の隠れていそうな場所が街道沿いにないかを確かめる為に。 鈍亀号は障害物が少なくて高低差もなだらかな街道のすぐ横を航空路として選んでいたのである。 帰路の一日目は無事に過ぎ去る。夕方には鈍亀号を着陸させて町近くで野営を行うのだった。 ●悪党 帰路の二日目、丘陵連なる森の中。ひげ面の人を食ったような目をした者ばかりの集団が屯する。 「お頭、何や見回りがけったいなもんを見つけたらしいんですがどうしやすか? 何でもボロボロの飛空船で地面スレスレを飛んでいるらしいんですわ」 巨大な瓢箪の水筒から酒をがぶ飲みする大男にひょろりとした男が報告をする。緑色をした中型飛行船が近くを通り過ぎようとしていると伝えた。 「金目のもんがありゃ儲けもんってことでいっちょ襲ってみるか。最悪でも飛空船用の宝珠がいくつか手に入るのは確実だからな。いや、待てよ‥‥」 お頭と呼ばれた大男は顎髭を触りながらいやらしい笑いを浮かべる。 「てめぇら! そろそろ俺達も飛空船を手に入れて空賊って洒落込もうじゃねぇか。使うにゃオンボロすぎるようだが操縦の練習ぐらいには使えるはずだ。だからこれから襲う船は壊すんじゃねぇぞ!! そのかわり乗っている奴らにゃ容赦はいらねぇ。ぶっ殺せ!!」 お頭の声に下っ端共が呼応する。さっそく馬に飛び乗って森から飛び出してゆく。その数は十六名である。 異変をいち早く知ったのは上空から偵察していた炎龍・シルベルヴィントに龍騎するクレアだ。そしてクレアが吹いた呼子笛の響きに迅鷹が反応する。 鈍亀号にいるそれぞれの飼い主に迅鷹達は警戒の意を態度で伝える。情報は甲板にいた開拓者達の他に操縦室と宝珠室にも。 甲板のフィーネは即座にアーマーの起動させる。 詳しい情報は帰還したクレアによってもたらされるのだった。 ●襲撃 (「あれですね‥‥。この船は絶対に渡しません!」) 報告によって身構えていた操縦室の響鈴は、前方に現れた土煙を見て操縦桿を強く握りしめた。賊とは接触したくなかったので迂回したのだが、どうやら間に合わなかったようである。 響鈴は操縦補助のルンルン、宝珠管理の滝月玲の二人と相談した通りに鈍亀号の高度をあげた。現状の限界と考えられる約五メートルまで浮き上がる。 甲板に集まった開拓者達は柊沢霞澄の加護結界を受けた上で戦闘態勢に入った。 馬上から放たれる賊の矢が鈍亀号の甲板に降り注ぐ。しかし開拓者達が避けるのは非常に容易だ。敵が狙い定めて射っている印象は感じられなかった。 「我は放つ魔神の伊吹!」 船首甲板に立ったクレアが放ったのがファイヤーボール。炎の固まりが敵先頭の一騎を弾き飛ばす。さらにアムルリープで敵一人を眠らせて落馬させた。 「少しだけ暴れてきます。すぐに戻りますので」 フィーネはロートリッターで飛び降りて着地。そのまま賊の三騎を薙ぎ払いで転がすと鈍亀号に戻る。求められるのは鈍亀号の安全確保。敵を倒すのが目的はないからだ。 これによって鈍亀号は大した損傷もなく賊の集団とすれ違う事に成功する。それでも諦めない賊は反転して鈍亀号を追いかけてきた。 「もう少し、少しだけ待ってくれ!」 操縦室に伝声管から滝月玲の叫びが届く。 宝珠室の滝月玲はてんやわんやで各部の調整に尽力していた。放っておけば暴走しかねないのを負荷を分散させて何とか持たせている状況だ。 「宝珠の出力に余裕はないです。更なる上昇は空中分解に繋がるので私が担当します。ぎりぎりをキープしますから信頼してください!」 「お、お願いします!」 ルンルンは響鈴から引き継いで高度調整を行う。響鈴は左右の舵取りと速度調整に専念した。 「乗りこんできた‥? 烈火、私が行くまで時間を稼いで!」 周藤雫は待ち伏せして木の上から飛び移ってきた賊一人を発見する。駆けながら長曽禰虎徹を抜いて立ち向かう。迅鷹・烈火が賊の頭にまとわりついたところを一刀。衝撃の勢いのまま賊は鈍亀号から転がり落ちてゆく。 鴇ノ宮も待ち伏せの賊を警戒していた。 召還した管狐・つねきちに風刃で敵の足や狙うように指示。自らは荒縄で身体を船体に繋ぎながら敵が隠れていないかを探る。その際、ルンルンの迅鷹・忍鳥『蓬莱鷹』が飛んでくる流れ矢を弾いてくれる一幕もあった。 「‥‥あんたバカでしょ」 鴇ノ宮は血だらけ傷だらけで必死に掴まっている賊を船倉右外壁部分で発見する。どうやら飛び移るのに失敗したらしい。ひとまず閃癒で賊に治療を施すと水辺に差し掛かったところで蹴落とした鴇ノ宮だ。 「少し‥‥派手にいきますか」 一心は後部甲板で迫る賊共を弓矢で牽制していた。敵を殺さずに守るというのは非常に難しいのだが、必ずやってのけようと奮闘のまっただ中だ。 馬で追いかけてくる賊の列を考慮に入れて一心がバーストアローを放つ。矢にまとう衝撃波は敵を転ばすには十分な威力を秘めていた。少なくても騎馬三頭が転倒して脱落する。 「痛いでしょうね。すぐに治します‥‥」 傷ついた仲間を閃癒で癒す柊沢霞澄は輝きを纏っていた。それは管狐による金剛の鎧の輝き。柊沢霞澄が流れ矢に射されないよう管狐が守ってくれたのである。 「行きます!」 響鈴は準備が整ったところで鈍亀号の速度をあげる。他の飛空船に比べて遅いことに違いはなかったものの馬よりは断然速い。 十五分が過ぎた頃には賊の姿形も完全に見えなくなるのだった。 ●そして 「ただいま戻りました!」 「響鈴、よくやり遂げてくれたわ。開拓者のみんなもありがとう。へぇ〜、これがうちの新しい船って訳ね。資料では知っていたけど」 朱春近郊の飛空船基地に戻った一行は李鳳に出迎えられる。 「本当にボロね〜。もう一つの依頼から輝風が戻ってきたら頑張ってもらいましょう。もちろん手伝いはするけど」 大地に佇む鈍亀号をぐるりと一周した李鳳は腰に手を当て頷く。 「ところで‥‥船名なんですけど、開拓者のみなさんにも考えてもらったりしたんですけど」 「よい名前だったら採用するわよ」 もじもじと言い出しにくそうな響鈴へと李鳳が振り向く。 「『浮雲』がいいかなっと。クレアさんが考えてくれたのと字は違うのですけど‥‥いいですか?」 「じゃ『浮雲』で決定。それと浮雲を動かす時の主操縦士は響鈴だからね。よろしく」 キョトンとした響鈴。まさか主操縦士に任命されるとまでは考えていなかったようだ。正社員に続いて嬉しい出来事である。 「これ、実は作っておいたんだ。よかったら被ってくれ」 滝月玲が贈ったのはちょうど猫族の獣耳が飛び出すように作られた帽子。船長用の帽子として滝月玲は『キャプテンハット』と呼んでいた。 「ありがとうございます〜♪ うわ〜♪」 響鈴はさっそく被って跳ねながら喜ぶ。 「響鈴殿、嬉しそうでよかったですね」 屈んだ一心が足下にいた子猫のハッピーに話しかける。するとハッピーは一心を見上げて鳴いた後で響鈴の元へと駆け寄っていた。 二日後の昇徳商会のボロ格納庫には二隻の飛空船が並んだ。一隻は中型飛空船『翔速号』、そしてもう一隻は中型商用飛空船『浮雲』であった。 |